問題児達+天帝が異世界から来るそうですよ!?   作:THE・Leaf

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止まっていた更新ですが今日から頑張っていきたいと思います!

兎も角、やっと原作5巻に突入です。
なんか、面倒とか言わず進めていきます!

すいません、第弐拾壱話で「ガロロ」の名前を出すの忘れてました。
進行の関係上必要なので、すみません。
前話の物語自体にはなんら影響ないので悪しからず。


第弐拾弐話 ~降臨、蒼海の覇者~

―――”アンダーウッド”東南の高原とアラサノ樹海・境界線。

 

「何でこうなるかなぁ? いや、別に参加するのは良いよ。なんでソロ? しかも、縛りあり。理由はなんとなく分かる。けど、どうせなら耀と飛鳥と一緒が良かったなぁ」

 

今現在、収穫祭で開かれたギフトゲームに参加している。

ペリュドンを始めとした殺人種と呼ばれる幻獣は巨龍の戦いの後も”アンダーウッド”の近隣に居座っていた。

復興の為に支援してくれるコミュニティまで襲い始めた彼等を放置するわけにも行かず、”龍角を持つ鷲獅子”連盟は害獣を駆逐する事を決定。そこで、

 

「「参加者を募ってゲームに(すれば良いよね?)しちまえばいいんじゃね? 収穫祭なんだから、狩猟のゲームを組み込んでも問題(無いと思うけど?)はないだろ?」」

 

―――という完全にはもった十六夜と優希の提案に乗っかり、現在に至る。

参加しているのは優希と耀と飛鳥だが、優希はソロで耀と飛鳥がペア。

コミュニティ内の同盟は可能で、獲物の総重量ポイント(角付きは加点)で勝敗が決定する。

だが、縛られたのだ。優希はギフトの使用禁止。加えて攻撃できるのは一回。プラスでソロ。耀はグリフォンのギフト限定。飛鳥はメルンとの連係に限定されている。

 

「残り物には、と言うが、後30匹超えのペリュドンと10体位の魔獣。一撃か・・・・。試作技使ってみますか」

 

腰に下げておいた真っ白の日本刀を抜刀する。刀身も白い。

大地を踏みしめ、空中へ飛び上がる。

 

「――【桜花】!」

 

集まったところを分断するように一太刀で切り抜ける。

桜色の太刀筋が残る。それが雲散霧消すると同時に、ペリュドンと魔獣を切り裂く。直接斬ったものは当然の如く、切り裂かれたものも絶命。一度の攻撃で全てしとめた。

そして優希は自由落下の途中、見知った人物を発見した

地面に着地すると同時に降ってくるペリュドンと魔獣。地響きが起こり、少しやりすぎたなと思う。

それと同時にさっきの技、何かが違うなとも思う。実際、100%の力を発揮できていなかった筈。イメージと違ったからかな? と思い、納刀。

そして、近くに居る見知った人物に声をかける。

 

「あれ? 居たんだ、フェイス・レス」

 

「ええ。まぁ」

 

「・・・・追求はしないでおくよ」

 

すると、近くにいた馬車からガロロが歓声を上げるのが聞こえる。

 

「うおおお、すげえな! こりゃ収穫祭の優勝は決まったな」

 

「優希! すごい!」

「優希君! すごいわ!」

 

耀と飛鳥の声がはもる。

 

「そう? 二人はどうだった?」

 

と言いながら、ギフトカードに狩った獲物をしまう。

 

「「あれだけ(よ)」」

 

二人は自分達が乗っていた馬車を指差す。

 

「すごいな! 縛られてたのに、こんなにしとめるなんて」

 

「「そんなことない(わ)」」

 

「息ピッタリだ。だからこそ、かな?」

 

「嘘とかお世辞じゃないよね?」

 

耀が尋ねる。

 

「俺は嘘がつけない。いや、正確には嘘を言ってもそれが嘘だとばらしてしまう。お世辞は言える程、器用じゃない。だから、本心だよ」

 

「そ、そう・・・・なんだ」

 

少し照れた様子で答える耀であった。

 

             *

 

―――”アンダーウッド”地下都市・収穫祭の露店通り。

狩猟祭の結果”ノーネーム”が優勝だった。

 

「ありがとう、優希。優希が居なかったらきっと優勝できなかった」

 

「お礼を言われる程でもないよ。あの縛りで本当のソロだったら優勝できてなかったと思うし。こっちがお礼を言う方だ。ありがとう、耀、飛鳥」

 

現在、優希と耀と飛鳥、ガロロと共に露店を回っている。

 

「それにしても、本当に驚いた。一回しか攻撃してはいけないの制約で、あの量を倒したんだからな」

 

優希達に制約を付けたのはガロロである。

優希達が本気を出すと、色んなものがあっさり壊れてしまうからだ。

だが、それだけではない。

 

「どんなゲームにも全力を出すのは三流のすることだ。コミュニティの主力は、そう簡単に底を見せちゃいけねぇ」

 

という事を言われたので、理解もできる(この台詞は終った直後に聞かされたものだが)。

 

「―――それより、縁起も良い事だし食べ歩きしよう」

 

と言った優希の手にはアップルパイが三つあった。

 

「二人とも、どうぞ」

 

「「ありがとう」」

 

「俺はお邪魔みたいだな。閉会式の準備もあることだ。もう行くか」

 

と言い、去っていくガロロだった。

 

「そういえばさ、十六夜のヘッドホンどうしたんだ?」

 

「・・・・まだ渡してない」

 

「まぁ、バタバタしてたしな・・・・?」

 

「優希君、どうしたの? 急に?」

 

「いや、アレ」

 

と優希が指差す方向に、視線を向ける飛鳥へ何かが当たろうとした瞬間、パンッ! と優希が叩き落とす要領でそれを掴む。

 

「危なかったな。飛鳥」

 

と優希が飛鳥に声をかけると再び――パンパンッ!

 

「なんだ? この精霊? あっ、もう一体いる。群体精霊か?」

 

「はぁ、はぁ、・・・・そ、其処の”ノーネーム”の貴方!」

 

呼びかけてきたのは”サウザンドアイズ”の女性店員だった。

 

「一体どうした?」

 

「どうしたも、こうしたも、赤紫のワンピースを着た・・・・ってそれ! 五人組みなのですが、三人だけですか?」

 

「五人? 一体は知らないが、もう一体は崖を降りて広場の方に行ったが」

 

「貴方、空中を走ってましたよね? すぐ追いかけてください!」

 

「あれ? 走ってるところを見られた覚えはないが?」

 

「そんなことは、どうでも良いです!」

 

「どうでもよくは・・・・はぁ、分かったよ。あんた等のところに貸し一な」

 

ないだろ、と言うつもりだったが、ものすごい剣幕で睨まれたので条件付きで承諾。

 

「分かりました。早く捕まえますよ」

 

貸しが作れたので、面倒だがまぁ良いだろうと思い、捜しに行く優希達(耀と飛鳥も引き込まれた)だった。

 

                  *

 

―――”アンダーウッド”収穫祭・最下層の広場。

 

「――あのさ、本当に五人組なのか?」

 

あちらこちらを捜し回り、疲れた様子の優希が尋ねる。

 

「ええ。間違いありません」

 

「・・・・乱暴な捕まえ方でも構わないか?」

 

「構いません」

 

「なら、良いか。・・・・あの群体精霊の名前は?」

 

「”ラプラスの小悪魔”です」

 

「・・・・なるほど、必死になって捜す訳だ」

 

すると優希は、目を瞑り集中する。

 

「一回は試しておきたかったし、実験台になって貰いますか! 【空間転移召喚】!」

 

次の瞬間、完全に気を失っているラプラスの小悪魔が優希達の目の前に現れた。

 

「まぁ、予想はしていたがやっぱりか。人間ではあまりやらない方がよさそうだ。はい、檻に入れるなりしてちゃんと見張っとけよ?」

 

と言って優希は女性店員にラプラスの小悪魔を渡した。

 

「よし、腹も減った事だし何か食べるか」

 

「ねぇあそこに居るの、リリと十六夜君じゃないかしら?」

 

「あっ、本当だ」

 

「リリにこの辺で何か無いか聞いてみるか」

 

「うん、そうしよう!」

 

すると、十六夜の声が聞こえる。

 

「―――ああ、例の”斬る!” ”焼く!” ”齧る!”の三工程で食べるアレか」

 

「はい。レティシア様曰く、『焼けた肉を食べる為の肉料理』らしいです。一度食べてみたくて」

 

「それ、私も行く!」

 

「そうだな・・・・俺はその近くにあるのでいいや。今、重たい物あんまり食べたくないし」

 

「私も遠慮しておくわ」

 

「それ、私も食べる。何処にある?」

 

「え・・・・え?」

 

「耀、リリが戸惑ってる。・・・・偶々十六夜とリリを見かけて、今さっき来たんだ。それで二人の話を聞いたんだけど、その肉料理が何処にあるのか教えて欲しいんだ」

 

「そうなんですか。それなら、一つ上の断崖だと思います」

 

「ありがとう、リリ。・・・・じゃあ行こうか耀」

 

「うん、行こう! レッツ、立食!」

 

              *

 

―――”六本傷”主催・立食会場。

 

「はむ。・・・・んぐ。耀、あんまり料理人を苛めるなよ~」

 

というのも、耀は三工程すらすっ飛ばして、異常な速さで食べているのだ。

ナイフやフォークを使う作法はきちんとしているし、皿を口元に寄せて食べるようなことは一度もしていない。が――気づけば、”皿から料理が消えているのだ”。

 

「まぁ、予想はできてたけど、あむ。・・・・噛んで飲むのが高速だからって、料理人も意地で全面戦争か」

 

優希はけして食べながら喋っていないが、優希も辺りの露店を制覇する勢いで食べている。

それを見ていた観衆と料理人含め異質な盛り上がりになっている。

だがそんな中、優希の近くで冷めた声が聞こえた。

 

「・・・・フン。何だ、この馬鹿騒ぎは。”ノーネーム”の屑が、いぐがぁ!?」

 

「オイ、テメェ今何て言いやがった? 取り消せよ」

 

優希は『ステラ』になっており、左目には蒼い炎が灯っている。

優希は侮辱した男を蹴り飛ばしたのだ。周りに居た観衆も優希の方へ注目する。

 

「何者だ貴様! 何をした!」

 

と蹴り飛ばされた男の近くに居た男が優希に怒声で尋ねる。

 

「”ノーネーム”所属、白星優希。お前は、あの程度の攻撃を認識できなかったのか?」

 

「ッ! この御方がが誰だか分かっているのか! この方は”二翼”の長にして幻獣・ヒッポグリフのグリフィス様だぞ!!」

 

「そうか、で?」

 

「嘗めているのか! 次期”龍角を持つ鷲獅子”連盟の長になられる御方だぞ!」

 

「? どういう意味だ」

 

すると、グリフィスが立ち上がり、ゆらゆらしながら歩いてくる。

 

「どうやら聞かされていないようだな。あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力をうまく使いこなせなくなった。後は言わずとも分かるだろう? 全く、愚かな女だ」

 

「実力を見込まれて議長に推薦されたが、それを失い退陣。それで次の候補がお前になったのか。世も末だな」

 

すると、耀が無言で席を立ち、優希とグリフィスの方へ近づいていく。

優希の傍で耀は止まり、未だゆらゆらと歩み寄ってくるグリフィスに淡々と謝罪を求める。

 

「・・・・訂正して。サラは”愚かな女”じゃない。彼女が龍角を折ったのは、”アンダーウッド”を守るためで、・・・・私の友達を守るためだ」

 

「ハッ! 嗤わせるな」

 

と、取り巻きの男がそう言った瞬間だった。

気づけば優希は元に戻っていた。が、背中から天使のような羽が二対あった。

そして何時の間にやら、取り巻きの男が居ない。

 

――バァン!

 

降ってきたのは取り巻きの男だった。

どうやら空中へ飛ばされていたらしい。

 

「すまない、耀。ちょっと待っててくれ。すぐにでも訂正させる」

 

『付け上がるなよ、猿がァ!! このグリフィス=グラコイフこそ第三幻想種――”鷲獅子(グリフォン)”と”龍馬(ドラコルホース)”の力を持つ、最高血統の混血だとッ!!!』

 

「それなら、あんまり手加減しなくても良いな」

 

一触即発の状況で、戦闘となるその刹那―――

 

「はい、そこまで」

 

第三者によりグリフィスは敗北。

優希は何食わぬ顔で第三者の攻撃を受け止めていた。

 

「何者だ? あんた?」

 

「只の仲介や」

 

「あっそ。なら、その拳引いてくれないか? あっちはアンタにやられて気絶してるし、これ以上騒ぎを起こす気も無ければアンタに危害を加える気も無い」

 

「なら、ええわ」

 

すると第三者は拳を引き、優希も通常の状態に戻る。

 

「君、何もんや?」

 

「只の”ノーネーム”の一員だ。・・・・どうせこの後、俺達の処分があるんだろ? 仲介のアンタもそこに居合わせるんだろうし、別にいいだろ?」

 

「そやな」

 

その時、第三者こと蛟劉は優希に、優希は第三者(蛟劉)に、お互い”只者じゃない”と感じていた。

 

                 *

 

―――”アンダーウッド”収穫祭本陣営。

優希とグリフィスの騒動の後、優希、十六夜、耀、飛鳥、黒ウサギ、そしてリーダーのジンは、揃って本陣営へと足を運んでいた。

”二翼”からはコミュニティの責任者であるグリフィスが来ている。優希にやられた(と思われる)取り巻きの男は重傷らしく、今も救護室で寝込んでいるらしい。

非常に険悪な雰囲気の両者。テーブルを挟んで睨み合っているが、一触即発の空気は変わりない。

報告書を読み終えたサラは、深い溜息を吐いて交互に視線を向け、

 

「・・・・話はよく分かった。この一件は両者不問とする。しかし次に問題をおこしたら強制退去だ。――以上」

 

「ふざけるなッ!!!」

 

怒声と共にテーブルを叩いたのはグリフィスだった。

その場に居た全員の視線が彼に集まる。

 

「サラ議長! こいつ等は我等の同士を重傷に追い込んだんだぞ!」

 

「けど、証拠がないだろ?」

 

そこに優希が口を挟む。

 

「まさか、『その場に居た人物が見ていたのが証拠だ』とか言わないよな? 誰もお前の同士がやられるところを見てない」

 

「お前がやったに決まっているだろ!!」

 

「何故そう言い切れる?」

 

するとグリフィスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

そう、誰も取り巻きの男を重傷にさせたのを見ていない、否、”見えていない”のだ。

もちろんやったのは優希だが、誰一人として認識できていない。

強いて言うなれば、耀は優希が見えていたが、耀がそのことを言うはずもない。

 

「・・・・グリフィス。仮に彼がやったとしよう。それでもだ、彼らに対する侮辱は、行き過ぎた名誉毀損だ。決闘を申し込まれたとしても仕方の無い行為と言える。違うか?」

 

サラからの鋭い指摘に、しかしグリフィスは食い下がる。

 

「確かに、決闘という形式ならば重傷を負っても仕方が無い。しかしあの小僧は問答無用で同士に危害を加えたのだぞ! 過剰な暴力行為だろうがッ!」

 

青筋を立てて怒り狂うグリフィス。しかしそれは同士のための怒りではない。公衆の面前で恥をかかされたという、利己的な理由でしかなかった。

それを見抜いているサラだったが、敢えてそれには言及せずに席を立つ。

尚も食い下がろうとするグリフィスだったが、それを止めたのは別の人間だった。

 

「――君、その辺で止めときや。サラちゃんが困っとるやんか」

 

席に座らず、壁際に凭れ掛かっていた男――喧嘩を止めた張本人である隻眼の蛟劉が、片割れしかない細めでグリフィスに笑いかけた。

サラもエセっぽい関西弁で”サラちゃん”などと呼ばれ、脱力したように肩を落とす。

 

「蛟劉殿・・・・その、二百歳にもなってサラちゃんというのは、」

 

「あっはっは! 僕の妹と同じこと言うねえ、サラちゃんは」

 

愉快だとばかりにエセっぽい関西弁でエセっぽく笑う胡散臭い蛟劉は、笑みのままグリフィスへ視線を向ける。

 

「まあ、ぶっちゃけた話するとやな。君の言い分は一理ある。話を聞いた限りやと、”名無し”の子らはちょっと過剰防衛気味やなあ。ただ、本当にあの子がやっとればの話やけどな」

 

「話を少し逸らして良いか? ・・・・只の仲介、蛟劉って言われてたよな? 何者なんだ? 相当強いだろうから、『居合わせるだろう?』って言ってそこでは敢えて訊かなかったが」

 

「すまない、説明不足だったな。この御方は亡きドラコ=グライフの御友人で、連盟の御意見番でもある方なんだ」

 

「・・・・御意見番だと? そんな輩がいるとは初耳だが」

 

怪訝そうに眉を顰めるグリフィス。連盟の一角を担う”二翼”の頭首が御意見番を知らないのはおかしい。

彼の反応で不信感を募らせる一同。

蛟劉は軽薄な笑みのまま困ったように頭を掻き、袖から蒼海の色を持つギフトカードを取り出して見せた。

其処に記されたギフトネームを見て、皆の顔色が変わる。

蒼海のギフトカードには――”覆海大聖(海を覆いし者)”の文字が記されていた。

 

「ふ・・・・”覆海大聖”蛟魔王だと!?」

 

「こ、蛟劉さんが七大妖王の一人だというのですか!?」

 

グリフィスに続き、黒ウサギまでも声を荒げて驚く。

蛟劉はバツが悪そうに頭を掻いてため息を吐いた。

 

「昔はドラコ君をよく世話したったからなあ。その時の恩を今、一時の宿り木として返してもらってるんよ」

 

「くっ・・・・つまるところは穀潰しだろうが。巨龍との戦いにすら参加しなかったものが抜け抜けと御意見番を名乗りやがって。何の権限があって我らの戦いに割って入った」

 

「せやなあ。巨龍の件については申し開きもせえへんけど・・・・今回の件は別や。無理やりにでもあの場を終える必要があったからな」

 

何? とグリフィスが牙を剥いて睨む。

蛟劉は細い瞳を僅かに開き、背筋が凍るような声音で告げた。

 

「あのな、若いの。オマエ何処の誰に喧嘩を売ったと思ってるんや?」

 

「・・・・? 何を今更。私は”ノーネーム”に」

 

「阿保、只の”名無し”やない。喧嘩を僕が止めた時、オマエ気絶しとったよな? あの少年は、平然と顔色一つ変えず僕の不意打ちを見事に防いでくれたわ。途中で柄にも無く本気だしたで? その場から一歩も動かせへんかったけどな」

 

蛟劉の言葉でグリフィスの顔は青ざめていく。

だが、そこへ追い討ちをかけるように続ける。

 

「始めに気づくべきやで。人間じゃないことに。天使の羽、二対生えとったやろ? おまけに三対目も生えようとしとった。少なくともあの少年、”熾天使”やで?」

 

「っ、・・・・!!!」

 

「只の”ノーネーム”の一員の君、どないなギフト持っとるんや?」

 

すると、蛟劉は優希に目を向け尋ねる。

 

「白星優希だ、蛟魔王。あんたに見せたギフトは”天帝の聖騎士”だ」

 

それを聞いた蛟劉が目を見開く。

 

「そうか。そうやったか。・・・・若いの、星霊とか仏様とか神様とか、敵に回すもんやないで? 敵に回したら最後、旗も残らず滅ぼされるだけなんやから。いやはや、アレは想像以上に辛いもんや。本当に・・・・落日なんて若いうちから経験するもんやないよ」

 

皮肉を込めた口調でグリフィスの肩を叩く。

その声音には、修羅神仏を敵に回した者だけが理解できる色を含んでいた。

舌打ちしながら扉に手を掛け、退出しようとするグリフィス。

しかしその背を、納得できない者達の声が引き留めた。

 

「「・・・・おい、待てよ“馬肉”。何を勝手にまとめてやがる」」

 

なっ、とグリフィスは絶句しながら振り返った。

それもそのはず、コミュニティの長である彼を”馬肉”呼ばわりする者など、今まで唯の一人もいなかったに違いない。しかし優希と十六夜は一切悪びれる事無くユラリと立って、不遜さと憤怒を込めた眼光を向けた。

 

「「逃げてんじゃねえよ」」

 

「ゆ、優希さん、十六夜さん・・・・!」

 

流石に黒ウサギも焦った。

彼女も憤りはあるが、無用な血が流れるのは望んでいない。

優希と十六夜の発言を聞いた蛟劉も、半ば呆れたようにその肩を押さえた。

 

「あのなあ、ちょっと落ち着けよ少年。気持ちは分かるが、先に暴力を振ったのは君やろ?」

 

前者の言葉は優希と十六夜に向けた言葉だが、後者は優希に向けた言葉だ。

 

「ふざけるな。じゃあ何だよ? 公衆の面前で、言の刃で切りつけるのは無罪なのか? 言の刃は相手の体に痣も残らない、血も流さない。だがなッ! 代わりに魂を、心を傷つけ涙を流させる」

 

「「・・・・俺達に言わせれば、その方が悪辣で卑劣だ。畜生以下のクソッタレだ!」」

 

「・・・・君達の言いたい事はよう分かった。とはいえ、今は収穫祭の真っただ中。他の参加者も楽しんどるし・・・・どうやろ? 此処は一つ、箱庭らしくギフトゲームで決着を付けるというのは」

 

蛟劉がにこやかに提案する。

落し所として悪くない。優希と十六夜も素早く頷き、再度グリフィスを睨みつけた。

 

「「二日後の”ヒッポカンプの騎手”が、収穫祭で一番大きなゲームだったな。それで決着をつける。敗者は壇上で勝者に土下座だ。――異論は認めない」」

 

「・・・・ふん。今から恥を掻く準備でもしておくのだな」

 

「「俺達の台詞だ。覚えておけ、この馬肉。お前が抜いた刃は鞘の無い諸刃だ」」

 

「お前が虚仮にした俺の仲間は、大切な仲間達だ。後悔させてやるよ、必ずな」

 

優希と十六夜の放つ強烈な怒気に気圧されながらも、グリフィスは舌打ちしながら本陣営を後にした。その背を見守った後、蛟劉は深い溜息を吐いて頭を下げた。

 

「すまんな、少年。君達の言い分は一々尤もや。よう我慢してくれた」

 

「「別にアンタの為じゃない」」

 

と言い、椅子に座る優希と十六夜。

そして十六夜が優希に向かい言う。

 

「オイ優希、お前キレるの早すぎだろ」

 

「逆に聞くが、お前は我慢できたのか? 美味しい物を食べているところを害されたにも拘らず、仲間を屑呼ばわりされたんだぞ?」

 

「無理だな」

 

「ほら、見ろ。誰にも気づかれずにやっただけ、マシな方だろ」

 

「やっぱり、君がやったんか」

 

と呆れ気味に蛟劉が優希に言う。

 

「まあ、耀を除いて誰にも見られなかった筈だ。・・・・それはもう置いておくとして蛟魔王、アンタの話を聞きたい。西遊記でもそうだが、蛟魔王の記述は殆ど無いに等しい。だから、さ?」

 

「それは、俺も気になっていたことだ。是非聞かせてくれよ」

 

「あら、それを言うなら私もよ」

 

「事実関係を検証してみたい」

 

「YES! そういうことなら黒ウサギも!」

 

”ノーネーム”一同、一斉に瞳を輝かせる。

蛟劉は笑顔を引きつらせて後ずさった。

 

「あーいやいや、そんな。年寄りの昔話なんてそんな、」

 

「美味しいご飯はある」

 

「美味い肴もあるぞ」

 

「美味しい前菜もあるわ」

 

「美味しい飲み物もある」

 

よし、準備完了。そんな姿勢を見せる問題児達。

どうやら逃げられそうも無いことを悟り、蛟魔王は笑って席に着くのだった。

 

                *

 

―――”ヒッポカンプの騎手”・参加者待機場。

なんやかんやで当日、快晴だった。朝は雨雲がちらほらと出ており天気が崩れそうな雰囲気であったが、昼間を過ぎれば強い日差しが”アンダーウッド”に差し込んでいた。

大樹の水門に設けられたスタート地点で、意気揚々とレースの開始を待つ参加者達。

しかしそんな活気溢れる中――優希たち他”ノーネーム”のメンバーはコミュニティごとに宛が行われた更衣室のテントの前で、ジンから昨夜の出来事を知らされていた。

 

「―――以上が要請を受けた内容です」

 

優勝者が、次期”階層支配者”を連盟から指名する。

十六夜達は呆れたようにため息を吐いた。

優希は憂鬱そうにため息を吐いた。

 

「・・・・なるほどね。いや、別にそれは良いよ。優勝すればいいだけだから。けどさ、このルールなんだよ!!?」

 

『ギフトゲーム ― ヒッポカンプの騎手 ―

 ・参加者資格

    一、水上を駆けることが出来る幻獣と騎手(飛行は不可)。

    二、騎手・騎馬を川辺からサポートする者を三人まで選出可。

    三、本部で海馬を貸し入れる場合、コミュニティの女性は水着必着。

 ・禁止事項

    一、騎馬へ危害を加える行為は全て禁止。

    二、水中に落ちた者は落馬扱いで失格とする。

 ・勝利条件

    一、”アンダーウッド”から激流を遡り、海樹の果実を収穫。

    二、最速で駆け抜けた者が優勝。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

                      ”龍角を持つ鷲獅子”連盟 印』

 

「個人戦からチーム戦に変わったのは別に良い。参加者資格の三! これ必要無いだろ!?」

 

「いや、白夜叉の発案にしては珍しくまとも」

 

「じゃねえよ!? それに、珍しくもなんともないわ!」

 

「じゃあ、優希。一つ聞くがこの二人を見てなんとも思わないのか?」

 

と十六夜に言われ、優希が耀と飛鳥の方へ顔を向ける。

飛鳥の水着はビキニタイプにパレオを付けた水着だ。発展途上ながらも中々に育ちのいい胸元や白く眩しい太股は、パレオで隠す事で煽情的に見える。普段から厚着の彼女が大胆に露出している水着を着ているのは新鮮だった。

耀は対照的にセパレートタイプの水着だった。年相応の彼女の体は起伏に乏しいが、スレンダーなバランスの良さが際立っている。セパレートを着ることで肢体のラインがはっきりと見える為、ビキニを着るよりも魅力的に見えた。

 

「二人共すごい似合ってる。すごい可愛い」

 

すると二人は頬を赤く染める。

優希のストレートな言葉に嬉しくも恥ずかしい様子だ。

 

「優希、それは普通すぎるだろ。・・・・二人共、中々にエロっぽいぞ」

 

「十六夜、俺はそれを変態発言だと思うわ」

 

「お・・・・お待たせしました」

 

と黒ウサギの声。ウサ耳だけがテントから出てくる。

既に水着に着替えている耀と飛鳥は、じれったそうにウサ耳を掴み、

 

「「てい!」」

 

「フギャァ!?」

 

思いっきり引っ張った。黒ウサギは堪らずテントの外まで引き摺り出される。その引っ張った勢いで、黒ウサギの胸元が艶めしく揺れた。

 

「・・・・お?」

 

十六夜の瞳が、揺れる胸元に釘付けになる。

黒ウサギの衣装は――愛らしいフリルで着飾られた、煽情的なビキニの水着だった。

白雪の様な柔肌を大胆に露出させた水着の衣装。豊満な乳房も発育の良い美脚も、今日は普段以上に露出している。肉付きは胸も脚も良く育っているのに形は一切崩れておらず、均整のとれた美しい肢体は造形美と言っても過言ではない。

童顔とは相反する蠱惑的な肢体に、一同は(優希を除き)息を呑んだ。

 

「・・・・十六夜君。エロっぽいというのは、こういうのを言うのよ」

 

「馬鹿言え。これはエロいって言うんだよ」

 

「うん。エロエロだね」

 

「ほ、他に言う事は無いのですか・・・・?」

 

「はっ! オイ、優希大丈夫か!?」

 

「ああ、問題ない。・・・・似合ってるよ、黒ウサギ」

 

「いや、それだけかよ」

 

「何が?」

 

「この黒ウサギをもっとよく見ろ」

 

「うん。可愛いな」

 

「お前、大丈夫か? 男として」

 

「失礼だな! いや、確かにエロいかもしれないがウサ耳によって全てが相殺されてるんだよ。・・・・ウサ耳に感謝しないとな」

 

「・・・・優希の感覚が分からなくなってきた」

 

「私もよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

「あのー、皆さん?」

 

「黒ウサギ、優希はこう言ってるが自身もっていいぞ。”アンダーウッド”全域を見回しても、黒ウサギが一番可愛い。俺が保障する」

 

「・・・・そ、そう、ですか」

 

「それは、どうだろうか?」

 

「よし。暫く優希はほって置こう。きっと悪いものでも食べたに違いない」

 

「そうね」

 

「優希、食あたりには気をつけてね」

 

と三人は歩き出す。

 

「おい! えっ? ちょっ、・・・・はぁ。そういう意味で言ったんじゃないんだが・・・・」

 

「どういう意味なのですか?」

 

「!? ビックリした、居たのか」

 

「はい。・・・・どういう意味なのか、教えてください」

 

と若干不機嫌気味で黒ウサギが尋ねる。

 

「あ、嗚呼。・・・・黒ウサギ、耀、飛鳥、三人が一番可愛いって意味だよ」

 

「そうですか」

 

「――オイ、何時までそこに突っ立ってんだ。鐘が鳴ってるのが聞こえねえのか」

 

と十六夜が叫んでいる。

 

「あっ、ヤバッ、行くぞ黒ウサギ」

 

「は、はい!」

 

なんだか、若干黒ウサギの機嫌が良くなってる気がした。

 

                 *

 

ゲームの司会進行のため、黒ウサギは舞台裏にいるようだ。

―――そして、登場と共に天地を揺るがす大歓声が起きた。

舞台袖には白夜叉いるが馬鹿な事を言っているようで、黒ウサギから石を投げられ鮮血。

優希は「五月蠅いだろう」と想定し、音をシャットアウトしている。

駄神の言っていることなので『エロいな!』とか言っているのだろう。

すると、黒ウサギが舞台の真ん中まで移動し、ルールの最終確認を行った。

周りが騒音を発しているようなので、読唇術で優希は読み取る。

 

『一、水中の落下は即失格。但し岸辺や陸に上がるのはOK。

 二、進路は大河だけを使用する事。アラサノ樹海からは分岐路がありますので、各参加者が己の直感で進んでください。

 三、折り返し地点の山頂に群生する”海樹”の果実を収穫して帰る事。以上です』

 

黒ウサギが言い終わると、白夜叉は両手を開き準備を整え。

 

『それでは参加者達よ。指定されたものを手に入れ、誰よりも速く駆け抜けよ。此処に”ヒッポカンプの騎手”の開催を宣言する』

 

―――開会宣言後、刹那の出来事だった。

白夜叉が柏手を打つと同時、フェイス・レスが蛇蝎の魔剣を引き抜く瞬間、優希がフェイス・レスの手を止めた。

 

「何しようとしていらっしゃるんですかね? フェイス・レスさん?」

 

嫌みを込めて優希がフェイス・レスに尋ねる。

 

「水着のみを斬ろうとしていた、までです」

 

「ふざけんなよ。そんな恐ろしいことされて堪るか!」

 

注意すべきことはこのやりとりが高速で行われている事だ。

優希は空中を駆け、フェイス・レスはヒッポカンプ(愛馬)で水上を駆けている。

 

「いい加減止めて下さいませんか?」

 

「お断りだ。そんなに後続が邪魔なら俺が失格させる。だから、それだけは止めろ」

 

「良いでしょう。十秒です」

 

「余裕、五秒で十分だ!」

 

すると優希は、空間を操り津波を起こす。

結果、残ったのは飛鳥とフェイス・レスと”二翼”の騎手が二名となった。

飛鳥のみを空間で守り、後は津波で全員失格にするつもりだったが、フェイス・レスは剛槍で跳ね除け、”二翼”の騎手はサポーターが暴風で守ったようだ。

 

「チッ、あいつ等も簡単には落ちないか」

 

現在トップが、フェイス・レス、飛鳥、以下二翼という順番になっている。

そして間もなくアラサノ樹海に出た。

 

「おい、お嬢様! こっちに寄って、なるべく細い河を選べ!」

 

と十六夜が飛鳥に叫んでいる。

辺りを見渡すと、鬱葱と生い茂る木々が陽を遮り、薄暗い森を演出している。

十六夜の判断は正しいだろう。この環境では、いざという時に飛鳥を守れないからだ。

 

「分かったわ!」

 

手綱を操りを操り、十六夜側の岸辺に騎馬を寄せる飛鳥。耀にも同じ事を伝えようと対岸に視線を向けるが、誰もいない。

 

「・・・・春日部? 優希、春日部がいない! 優希は春日部を頼む。お嬢様はこっちに任せろ!」

 

と十六夜が優希に叫ぶ。

 

「了解!」

 

優希は二翼が向かっていった経路へ目を向け、空中を駆けた。

 

              *

 

―――アラスノ樹海・”二翼”経路。

 

「・・・・いたっ!」

 

優希は耀を見つけたが、息が上がっている。

実のところ、耀をかなり心配していた優希だが、その心配は無さそうに見えた。

”二翼”は束になりかかるが、”生命の目録”を使いこなしているようで、耀に攻撃を与えられていない。

すると、耀とグリフィスが何やら話している。次の瞬間、グリフィスが鷲龍となり、耀へ向かって雷鳴を轟かせながら疾走する。

耀はそれに対して、自らの身長の倍はある矛を握る。

 

「麒麟、か。大丈夫だな」

 

優希がそう確信した時、両者が衝突した。その影響で大河と大樹が震える。

突進力は完全に殺している。後は両者の力がぶつかり合うのみ。

鉤爪で大地を蹴ったグリフィスが矛を上空へとかち上げ、空いた懐へ飛び込んだ。

 

「浅はかな奴だ。・・・・終ったな」

 

と言いながら、優希が大地に腰を下ろす。

耀は龍角にかち上げられた反動に逆わらず、大きく弧を描く様に矛を操り、背中に叩きつける。

鷲龍の背中を、鎧ごと叩き割る。刃を殺している様なので死んではいないだろう。

気を失ってからも暫く痙攣していたが、それもやがて収まった。

 

「お疲れ様、耀」

 

耀は一瞬驚いた顔をしたが、直に顔を綻ばす。右手を高く掲げ。

 

「・・・・ヴィクトリー」

 

と勝利宣言するのであった。

 

               *

 

―――海樹の園・海岸沿い。

優希と耀が急いで空中を駆けてきてみれば、蛟劉と十六夜が臨戦態勢いるように見える。そこには当然飛鳥もいるが、フェイス・レスもいる。

 

「蛟魔王は俺と十六夜がなんとかする。耀は飛鳥のサポートを頼む」

 

「分かった」

 

そこで耀とは別れ、蛟魔王の方へと向かう。

 

「なんてことを、やろうとしてんだ」

 

辺りから地鳴りが起こる。

 

「ちょっとは、休ませてくれよ」

 

すると、優希の耳に『滝へ向かって走れ!』と聞こえる。

振り返るとフェイス・レスが滝に向かっている。

耀もいる事だし何とかなるかと思いつつ、自らの意識を集中させる。

大津波が起こった瞬間、優希はそれを空間で塞き止めた。

 

「全く、苦労をかけさせる」

 

「・・・・お前が止めたのか? アレ」

 

「十六夜、俺のギフト知ってるだろ? あの程度なんとも無い」

 

「やってくれたな、少年」

 

「心配するな蛟魔王。アンタは飛鳥が優勝してゲームが終るまで、俺達が足止めする」

 

すると、蛟魔王は騎馬を降りる。

 

「それは、相手をしてもらえる。そうとって良いのか? 蛟魔王」

 

「勿論。最強種を倒したっていう噂が本当なら、僕なんぞ相手にもならんやろうけどな」

 

その言葉を聞いた優希は小さく笑い、十六夜の肩に左手を置いた。

 

「十六夜、・・・・フロントよろしく。俺フォローに回るから」

 

「優希お前が喧嘩売ったんだろ? フォローに回るなんて言語道断だ」

 

「俺はちゃんと『俺達が』って言ったから」

 

蛟魔王が呆れて動こうとした瞬間だった。

 

B★RSに変わった優希が蛟魔王に殴りかかろうとしていた。

 

蛟魔王は瞬時に対応し、優希の攻撃を受け止めようとした、その時だった。

 

攻撃の勢いを殺さず、防御される瞬間にサマーソルトキックを繰り出す。

 

だが蛟魔王は、バックフリップでそれを回避。

優希はそうなることを想定していた。

回避あるいは防御されることを。だからこそ『フォローに回る』と言ったのだ。

 

そう、今この瞬間。空中にいる蛟魔王へ十六夜が殴りかかろうとしている。

 

蛟魔王は殴りかかってくる十六夜の右手を、自らの右手で十六夜の手首を持ち、それを土台にし飛び上がる。

 

飛び上がるとほぼ同時。優希が蛟魔王に向かって踵落としを繰り出す。

 

蛟魔王はそれをすんでの所で両手を十字架の形にしてガード。

蛟魔王は地面に落ち、そこから土煙が舞い上がっている。

 

そこに十六夜が追い討ちを掛ける様に突っ込む。

勢いに乗せ、右手で殴りかかる。

 

だが、蛟魔王は片手一本で受け止めた。

 

「「・・・・なっ、」」

 

十六夜と優希が驚きのあまり声を上げる。

 

「少年。追い討ちとは言っても、格上相手に正面衝突は下策やろ」

 

そこに優希が同じように蛟魔王へ殴りかかる。

蛟魔王は顔色一つ変えず、空いている手で受け止める。

 

受け止められた瞬間、優希は察した。

 

(そういう、ことかッ!)

 

優希と十六夜はほぼ同時に後退。間合いを取る。

 

(十六夜も気づいているのか? だがこれは、分かっていても対処が難しい)

 

優希はB★RSから純粋な〖ステラ〗へと姿を変える。

今までの『ステラ』は技や身体能力の向上のみを姿として現していた。

なので、外見は然程変わっていないように見える。

だが、今の〖ステラ〗は”オリジナル”を現している。

外見から明らかにB★RSと違うと取れるのは、腰にブースターのようなものが付いていること。体に付いていた傷が番号になっていること。背が若干高い事、である。

 

(〖ステラ〗と居る時の記憶が僅かだけど、共有できている。これならなんとかなるか)

 

「いくよ? 蛟魔王」

 

”オリジナル”を現したことで、声の高さだけでなく口調も変わってしまっているが、紛れも無い優希だ。

 

優希が再び同じように突っ込む。

 

同じ様に受け止められる。拳を掴まれ、空いている手で掌底を繰り出す。

直撃し、空中へ飛び上がった、様に見えた。優希は蛟魔王の右真横に平然と着陸。

 

蛟魔王の脇腹に右足で蹴りを入れる。

 

それを腕でガード。

 

ガードされたのを基点に空中へ跳び、右拳で殴りかかる。

 

バックステップで避けると、優希に左拳で殴りかかる。

 

それを優希は、蛟劉の左手を持ち、元々の攻撃方向へと流れるように誘導。

その持った腕を基点として、地上で反時計回りに回転し勢いを殺すことなく、蛟劉の背中に右拳で殴る。

 

今度は避けられず、ガードされず、直撃だった。様に見えた。

蛟劉は転がり、勢いで起き上がり優希と向き合う。

 

「どう、なってやがんだ・・・・」

 

偶然にも十六夜の近くだったので説明をする。

 

「お互いにダメージはほぼ零」

 

「ハァ?」

 

「・・・・さっきの見て分からなかったの? 私が攻撃方向に誘導して攻撃を零にしたのと、コウマオウがイザヨイの攻撃を零にしたのはほぼ同じ原理」

 

「! そうか。なるほどな」

 

「気づくの遅すぎ」

 

「淡々と女の声で言われると腹が立つな」

 

優希は十六夜のその言葉をスルー。改めて蛟魔王へと意識を向ける。

 

「とっても、楽しそうね。コウマオウ」

 

「・・・・そうか。君も楽しそうやな」

 

蛟魔王が、何やら考え不快そうな顔をしていると、十六夜が真正面から突撃し、容赦なく殴りつけた。

 

「ゴッ・・・・!」

 

追撃も容赦なく殴りつける。三打目で蛟魔王の肉体が揺らいだ。くの字に折れ曲がった胴体の上から、更に全力の掌打をたたきこむ。

しかしこの打ち下ろしは空を切った。

見事な体捌きで体制を整えた蛟魔王は怒気を交えて叫んだ。

 

「随分と容赦ないなあ、少年!」

 

「当たり前だ! ゲーム中にしけた顔しやがって! 嘗めてんじゃねえぞ!」

 

胴を一回転させ、同時に蹴り合う。体勢的にも十六夜が優位だったため、辛うじて蛟魔王を押し切り十六夜は更に追撃する。そこに優希も加わる。

海の波間を飛び回り、岩礁を砕きながら激しくぶつかり合う。押しつ押されつ、戦いは徐々に殴り合いへと変化する。

 

「しっかし、とんでもない才能やな! これだけの才能があったら、上層から引き抜きが来てもおかしくないやろ!?」

 

「ハッ、身内を捨てていくほど腐っていねえさ! それに魔王が現れたら、真っ先に矢面に立つ契約だからな!」

「フッ、仲間を捨てていくほど腐っていない! それに魔王が現れたら、真っ先に矢面に立って皆を守る契約だから!」

 

十六夜と優希がハモっているが、両者気にせず続ける。

 

「――ああそうさ! だから俺は、俺達はアイツらの前に立ってやらなきゃいけないッ!」

「――ああそう! だから私は、私達は皆の前に立って守らなきゃいけないッ!」

 

殴り合いながらの叫びに、蛟魔王の瞳に遠い日の背中が去来する。

義兄妹を守るため――たった一人で、最後の戦いへと向かった背中が。

 

「・・・・っ、ああクソ! 精悍な本性見せおってからに」

 

恥も気後れもなく、同士の為だと言ってのける姿が、枯れた瞳には余りにも眩しい。

 

「「羨ましいなら真似て見ろよ(見て)!」」

 

「それともアンタはそんな顔で、”聖天大聖”に会いに行くつもりかッ!」

 

「まさか・・・・白夜王から話を、」

 

「馬鹿言うなよ。アンタが覇気を取り戻す理由が他に思いつかなかっただけだ。・・・・つーかマジで会いに行くのかよ。俺も会ってみたいなッ!」

 

「一つ言ってあげる、コウマオウ。もし私のところに腑抜けた弟分が会いに来たら、間違いなく殴り飛ばす。貴方みたいな世捨て人なら半殺しにする」

 

「・・・・・・・・、」

 

「だからその前に、此処で顔を洗っていけよ。目の前の熱に魘されて、脳内思考回路焼き切れそうなぐらい燃えてみろよ。そうでなきゃアンタ・・・・テメェの兄弟分に、どんな土産話が出来るって言うんだ?」

 

「・・・・クッ。本当に面白いな少年」

 

そして、その言い分は何もかもが正しい。

義姉と別れて遥かな時が流れた。その間も”聖天大聖”は世の為に戦い、己の功績を高め、その武功を天下に知らしめ続けている。

蛟劉も、一度は高い志を掲げた事があったのだ。

己の名と共に掲げた一枚の旗――海を覆いし大聖者という、大志を背負って。

だというのに、今の腑抜けた自分が会いに行けば・・・・最悪、三途の川に沈められかねない。・・・・いや、それはそれで面白いかもしれないが。

目の前の強敵二人は、それを良しとはしないだろう。

 

「――とことんやろうぜ、蛟魔王。それにそろそろ、本気出してもいいんだぜ?」

「――とことんやろう、コウマオウ。それにそろそろ、本気出してもいいんだよ?」

 

「阿保言うなや。少年だって、切り札隠したまんまやろ。君に至っては、ギフトすら使ってへん。何で使わんのや?」

 

「・・・・別に隠してるわけでも、使わないわけでもない。ただ、イザヨイのは使うと殺してしまうからだと思う。私は自らの力が何処まで通用するか知りたいだけ。・・・・命のかかっていないゲームで殺しあうのはフェアじゃない」

 

と優希が言うと、十六夜も頷き、殺しはご法度だしなと付け加える。

蛟劉には、その姿だけが妙に初々しくて何やら可笑しかった。

闘争を尊び、同時に命も尊ぶ。そんな魂の形が懐かしい眩しさを彷彿とさせた。しかし今の十六夜の力では・・・・何れ強大な魔王に蹂躙されて果ててしまうだろう。優希も決してそうならない、とも言い切れない。

落日に散って逝った、義兄弟たちと同じように。

蛟魔王は何度も己の意志をかみ砕き、決意したように顔を上げた。

 

「・・・・ここまで、やな」

 

「「何?」」

 

「ジャッジマスター! 僕の負けや! ”覆海大聖”は戦いを辞退する!」

 

その声が黒ウサギに届くと、蛟劉の名を記した”契約書類”が音も無く燃え落ちる。

優希は少し拗ねた顔をする。

それに対して、勝ちを譲られた十六夜は唇の端をヒクつかせ、怒りを込めて睨みつけた。

 

「おい、この駄蛇・・・・どういうつもりだ?」

 

「決着はお預け、ってつもりや。僕等の喧嘩はゲームの趣旨から離れすぎとる。勝ったにせよ負けたにせよ、それじゃつまらんやろ? だから別のゲームでまた戦おうってこと」

 

胡散臭い笑みを向け、十六夜と優希に背を向ける。

しかし疑問はそれだけではなかった。

 

「・・・・”聖天大聖”に会う件はいいのかよ」

 

「おいおい、君等が言った事やろ少年。今の腑抜けた僕と会ったら・・・・あの人を失望させてしまうって」

 

尊敬する彼女へ、胸を張って会いに行くために。

蛟劉は己の進むべき道を悟り、滝の河口へ立つ。

 

「じゃあな、少年。次に会うときは・・・・蛟魔王の”主催者権限”でお相手しましょう」

 

にこやかに笑い、滝の上から飛び降りる蛟劉。

その横顔は覇気を取り戻し、晴れやかな色を浮かべていた。

 

「――・・・・はあ、行ったか」

 

気づけば優希は〖ステラ〗ではなく、元の優希に戻っている。

 

「まだゲームは終ってねえぞ?」

 

「大丈夫だろ? あの二人なら。仲間を信じようぜ、十六夜」

 

「ああ、そうだな。・・・・だが、信じるのと万事を尽くすのは違う。だから、さっさと移動しろ」

 

「いやーー、休ませてー! 死ぬ、死んじゃうから!」

 

「つべこべ言うな」

 

「あー、分かったよ! 何があっても知らないからな! 後悔すんじゃねえぞ!」

 

               *

 

「―――よし、着いた。ほら、言っただろ? 大丈夫だって。フェイス・レス抜いたよ!」

 

「――甘いですね」

 

耀がフェイス・レスに光翼馬で乱打していた具足が止まる。フェイス・レスは剛槍を捨て、両手で耀の足に掴みかかったのだ。

 

「う、嘘!」

 

「いい勝負でした。また機会が会ったら競い合いましょう」

 

フェイス・レスは抑揚の無い声で賛辞を送り、そのまま耀を大河の水面に叩きつける。

これで彼女はリタイヤだ。

そしてフェイス・レスが蛇腹剣を手にしようと・・・・したら、そこにあるはずの剣が無かった。

 

「フェイス・レス、お前が探してるのコレか?」

 

と優希の声。見てみれば、フェイス・レスの蛇腹剣が優希の右手に握られている。

 

「心配するな、”終ったら”返すからさ」

 

「くっ・・・・!」

 

馬術の限りを尽くしてフェイス・レスは駆けるが、勝敗は明らかだった。

 

「・・・・ヤバイな、アイツの視線が痛いような気がする。仮面なのにね、気のせいかな?」

 

「優希、それは気のせいじゃねえよ」

 

そんな優希と十六夜の会話の最中、飛鳥はゴールした。

トップで”アンダーウッド”を駆けた彼女に、”アンダーウッド”が揺れる程の喝采が贈られる。

黒ウサギも司会役を投げ出し、飛鳥の胸元に飛び込んだ。

 

「飛鳥さん、優勝おめでとうございます!」

 

「ちょ、ちょっと黒ウサギ!?」

 

きゃあ! と悲鳴を上げながら大河に落ちる飛鳥。

盛大に水しぶきを上げて飛び込む二人を見て、観客たちから笑いが上がった。

一連の騒動を微笑ましく見守っていた白夜叉は、大きく柏手を打って注目を集めた。

 

「”ヒッポカンプの騎手”の勝者を”ノーネーム”出身・久遠飛鳥とその同士たちと宣言する! さあ、勝者を舞台へ担いで運べ! 恩恵の授与と・・・・宴の続きをするぞ!」

 

白夜叉の音頭に、観客達は歓声で答える。

 

「・・・・俺達も行きますか」

 

と優希が十六夜に言う。

 

「待ってください」

 

とフェイス・レスに呼び止められた優希。

 

「ああ、なんだ。分かってるよ、はい」

 

と蛇腹剣を返す。返して貰った彼女は、優希に背中を向け去っていった。

 

「・・・・おーい、飛鳥、黒ウサギ」

 

と優希が大声で呼びかける。

 

「――優希君! あんなことしなくても大丈夫だったのに」

 

「そ、そうだったんだ。でもさ、万事は尽くすものだろ?」

 

「そうね。けど、ありがとう。優希く・・・・!!?」

 

すると、優希が飛鳥の胸元に倒れこんだのだ。

 

「ゆ、ゆゆ、優希君!? 一体どうしたの!??」

 

「多分、気絶してるんだと思う。原因は、恐らくギフトの使用しすぎによる過労」

 

といつの間にか居た耀が言う。

 

「え!? 気絶? だ、大丈夫!?」

 

「お嬢様、とりあえず落ち着け」

 

「・・・・このまま寝かせておいてあげましょう。皆さん、少し手伝って下さい」

 

「ああ、分かった。優希がこうなったのは、若干俺のせいでもあるしな」

 

「うん。手伝う」

 

「え、ええ。分かったわ」

 

黒ウサギに答える問題児達。

優希はそのまま、最終日の収穫祭の夜を過ぎても眠り続けるのであった。

 

 




駄文すぎて泣きたくなってきた・・・・。

終ったー! 原作五巻、やっと終わった。
毎度の如く、次どうするか考えていません。恐らく原作に沿う形になると思いますが。


※うちの主人公優希さんのB★RSと〖ステラ〗の違いですが、前者はそのままググっていただければ分かると思います。「フィギア」と付けて検索すると、より分かりやすいと思います。
後者は、「B★RS2035」でググっていただければ十分お分かりになられると思います。
今まで説明しておらず申し訳ありません。
挿絵に貼れば? と思いの方もいらっしゃるでしょうが、やれ転載するな、やれ許可を取りなさい。と言っているので、直接ググってくれる方が遥かに速いんです。
こんなこと言ってると運営さんに怒られそうな気がするので、今謝っておきます。「申し訳ございません」


兎も角3月7日12時5分頃更新いたしました。

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