問題児達+天帝が異世界から来るそうですよ!?   作:THE・Leaf

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この第壱拾壱話は原作二巻の第2章~第4章までを一気に執筆するつもりです。

何故そうするか・・・・・・原作との被りをなるべく軽減するためですね。

と、言う事で今回は特別長くなりそうですが頑張っていきます!!


今日、問題児たちが(ryの『wiki』を見て初めて知りました「天帝・・・・本当に居たんだ」と。
一応言っておきますが本当知りませんでした。本当ですよ。

ちなみに言うとまだ原作は四巻までしか持ってません。
流石に、見たときは驚きましたね。

なので天帝の設定はオリジナルです。原作の方にあるのかな?wiki見た限りなさそうだったから大丈夫。なはず。
もし、説明されたらどうしよう?まぁ良いか。

とりあえず目の前の伏線を張っていきます。

そしてググって今知った。天帝って仏教では”帝釈天”だということに。
あらかじめ調べるべきだったのかもしれない。が、そんなの知った事じゃない!

軌道修正?原作ブレイク?そんなの知るか!!その時考えれば良いんだ!!!

無計画発言をしたところで、続きを書きますね。


第壱拾壱話 ~魔王襲来予言~

前回、問題児達との追いかけっこで黒ウサギに捕まった優希と耀。

その後も当然の様に追いかけっこが続いた。だが、そこは”問題児”という名の通り、何の問題も無く追いかけっこが終わるわけが無かったのだ。

例によって例のごとく、追いかけっこの途中に(十六夜が)時計台を盛大に破壊。

それを見た”サラマンドラ”が黙っているはずも無く、今に至る。

 

 

「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

 

「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」

 

「胸を張って言わないで下さいこの御馬鹿様!!!」

 

スパァーン!と黒ウサギのハリセンが葬る。その後ジンが痛い頭を抱えていた。

当然の如く二人は連行された後、運営本陣営の謁見に連れてこられていたのだ。

 

「で、自分が何故此処にいるのかを知りたいんだが?」

と優希が小声で白夜叉に尋ねる。

 

「ん?おんしが黒ウサギを空間移動させたじゃろ?そのとき境界壁を使ってこっちに来よった。その時に展望台を黒ウサギが半壊させたじゃろ?それでだ」

 

「あ~なるほど。まぁ半分は自分達のせいだから当然と言えば当然かな?それにしても、耀は一人で大丈夫だったのか?」

 

「ああ。難なく決勝に進んでおったよ。後、おんしと話したい事があると言っておったぞ」

 

「そう、良かった。話は耀に直接聞くよ」

 

 

先程から白夜叉と優希の話している内容、これは優希と耀が黒ウサギに捕まった直後まで時間は遡る。

 

              *

 

「ふふ。なるほどのぅ。おんし達らしい悪戯だ。しかし”脱退”とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

 

「はむぅ・・・んぐぅ。それは確かに言われればそうかもしれないね。だけど、黒ウサギも悪い。耀もそう思ってるんじゃないのかな?どうなんだい、耀?」

 

「う、ううう、う、うん」

 

先程から耀はずっとこの調子である。白夜叉に事情を話している時も、ずっと赤面状態である。なので、優希が美味しい物と甘い物を食べて飲み込んだ後に喋っている。

これを見ている白夜叉は今にも笑い転げそうな顔をしているが、必死に必死に我慢している。その証拠に今も口がピクピクと動いている。恐らく一人でいるときはヒィヒィ言いながら笑っているに違いない。

 

「どこであるかさえ分かれば、何処へでも行けるのに”黙っているのが悪い”と思ったんだよ、ね?」

 

「う、ううう、う、うん。そ、そそ、そうだね」

 

白夜叉はとっくに我慢の限界のはずなのに笑いを堪えている。

この人が死んだときは”笑い死に”かもしれない。

それに二人は気づかない。

耀は沸騰している様な赤面状態。優希はバッチリ、ヒステリア症が発動している。

気づくはずが無い。

 

「ふぅ・・・・美味しかった。御馳走様でした。そういえば、大規模なギフトゲームがあるって言ってただろ?本当なのか?」

 

「本当だとも。特に耀、おんしに出場して欲しいゲームがある」

 

「わ、わわわわ私に?」

 

すると、白夜叉がチラシを二人に見せた。

「何々?・・・・創作系のギフトを所持?」

 

「うむ。人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトの事だ」

 

「なるほど、だからか。耀の”生命の目録(ゲノム・ツリー)”に宿る”恩恵”だったら、力試しのゲームも勝ち抜ける可能性があるから」

 

「そ・・・うかな?」

 

「そうさ。なんだったら、俺が耀を支えてあげるよ。いや、できれば支えさせて欲しいな」

 

と、優希に言われると耀は口をパクパクさせている。

それを見た白夜叉はとうとう耐えられずに、

 

「す、すまん!」

 

と、言ってどこかに言ったかと思えばトイレの流水音が聞こえた。

笑っているのだろう。それはもう盛大に。

そして白夜叉が別に何も無かった的な顔をしているが、目元が赤くなっているので、笑いすぎて泣いていた事が丸分かりである。

 

「し、白夜叉」

 

「な、なにかな?」

少し声が裏返ったのは決して気のせいではないだろう。

そして、耀が何度か深呼吸した後に質問した。

 

「その恩恵で・・・・黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

それを聞くと白夜叉は温かく優しい笑みで頷いた。

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるならの」

 

「それなら、出場してみる」

 

            *

 

と、いうような会話をしていたのである。

 

 

「ふん!”ノーネーム”の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!相応の厳罰は覚悟しているか!?」

 

「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」

 

白夜叉がマンドラと呼ばれた男を窘める。

サンドラは豪奢な玉座から立ち上がると、黒ウサギと十六夜に声を掛けた。

 

「”箱庭の貴族”とその盟友の方。此度は”火龍誕生祭”に足を運んでいただきありがとう御座います。貴方達が破壊した建造物の一件ですが、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいました。負傷者は奇跡的に無かったようなので、この件に関して私からは不問とさせて頂きます」

 

「へえ?太っ腹な事だな」

 

「うむ。おんしらは私が直々に協力要請したのだからの。何より怪我人が出なかったことが幸いした。よって路銀と修繕は、報酬の前金とでも思っておくが良い」

 

ほっと胸を撫で下ろす黒ウサギ。十六夜は肩を竦ませた。

 

「・・・・ふむ。いい機会だから、昼の続きを話しておこうかの」

 

白夜叉が連れの者達に目配らせをする。サンドラも同士を下がらせ、側近のマンドラだけが残る。この場に残ったのは彼らを除いて優希・十六夜・黒ウサギ・ジンの四人だけだ。

 

「白夜叉、もう言っても良いんじゃあないのか?」と優希が言う。

 

「・・・・この封書に、おんしらを呼び出した理由が書いてある。・・・・己の目で確かめるが良い」

 

優希が手紙を受け取り、十六夜が軽薄な笑みを浮かべ手紙の内容を優希の横から確認する。

 

「「――――・・・・・・」」

 

内容を確認した二人の表情は真剣なものだった。

それを不思議に思った黒ウサギは二人に尋ねる。

 

「優希さん、十六夜さん・・・・・?何が書かれているのです?」

 

その質問に優希が答える。

 

「『火龍誕生祭にて”魔王襲来”の兆しあり』その一文だけだよ」

 

「「・・・・・なっ、」」

 

黒ウサギは絶句した後、呻き声のような声を漏らす。ジンも同様だ。

優希が深いため息をついた後、白夜叉に尋ねる。

 

「それで何でこんなことが分かるんだ?アレか?未来予知とかそういう類か?」

 

「うむ。その通りだ」

 

「来たよ、超常現象所持者」

 

「なるほど。予言という名の贈り物(ギフト)ってことか。それでこの予言の信憑性は?」

 

「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」

 

「白夜叉、分かるやつにしか分からない説明するなよ。・・・・これは、 ”誰が投げた” も ”どうやって投げた” も ”何故投げた” も解っているんだよ。それなら必然的に ”何処に落ちてくるのか” を推理する事ができる。戦闘では是非使って欲しくない類のギフトってわけ」

 

「はい?」と十六夜は呆れた声を上げる。

黒ウサギ達も周囲の人間もその事実に言葉を失っている。

マンドラに至っては顎が外れるほど愕然していた。だが仕方が無いだろう。

犯人も、犯行も、動機も、全て分かっているのに、未然に防ぐ事が出来ないというのだ。

マンドラは顔を真っ赤にし怒鳴り声を上げた。

 

「ふ、ふざけるな!!それだけ分かっていながら―――」

 

「ふざけてなどいないだろう。―――その人物が誰か分かっていても、”口に出すことが出来ない立場の相手”・・・・違うかな?それに、幼い権力者を良く思わない組織も在るだろうし」

 

「それって、まさか・・・・他のフロアマスターが、魔王と結託して”火龍誕生祭”を襲撃すると!?」

 

「そこまでは分からないけど、その可能性が無いとも言いきれない。そうでしょ?白夜叉」

 

「その通りだ。北のマスターが非協力だったのは認めねばなるまいよ。その非協力の理由が”魔王襲来”に深く関与しているのであれば・・・・・これは大事件だ」

 

「「それ、そんなに珍しいことなのか(な)?」」

首を傾げながら優希と十六夜が聞いた。

 

「へ!?」

 

「お、おかしなことも何も、最悪ですよ!フロアマスターは魔王から下位のコミュニティを守る、秩序の守護者!魔王という天才に対抗できる、数少ない防波堤なんですよ!?」

 

「「けど所詮は脳味噌のある何某だ(よね)。秩序を預かるものが謀をしないなんて[のは](言うのは)、幻想だ[ろ](よ)?」」

 

「なるほど、一理ある。しかしなればこそ、我々は秩序の守護者として正しくその何某を裁かねばならん」

 

「けど目下の敵は、予言の魔王。ジン達には魔王ゲーム攻略に協力して欲しいんだ」

 

サンドラの言葉に合点が言ったという顔で一同は頷く。

魔王襲来の予言があった以上、これは新生”ノーネーム”の初仕事でもある。

ジンは事の重大さを受け止めるように重々しく承諾した。

 

「分かりました。”魔王襲来”に備え、”ノーネーム”は両コミュニティに協力します」

 

「うむ。すまんな。協力する側のおんしらにすれば、敵の詳細が分からぬまま戦う事は不本意であろう・・・・だが分かってほしい。今回の一件は魔王を退ければよいというだけのものではない。これは箱庭の秩序を守るために必要な一時の秘匿。主犯は何れ相応の制裁を加えると、我らが双女神の紋に誓おう」

 

「”サラマンドラ”も同じく。―――ジン、頑張って。期待してる」

 

「わ、分かったよ」

 

ジンは緊張しながら頷く。白夜叉は硬い表情を一変させ、哄笑を上げた。

 

「そう緊張せんでもよいよい!魔王はこの最強のフロアマスター、白夜叉様が相手をする故な!おんしらはサンドラと露払いしてくれればそれで良い。大船に乗った気でおれ!」

 

双女神の紋が入った扇を広げ、呵々大笑する白夜叉。

しかしジンが快諾する一方で、スッと眼を細めて不満そうな双眸を浮かべる十六夜と、深いため息を吐く優希。

それが気になった白夜叉は、口元を扇で隠しながら苦笑を向けた。

 

「やはり露払いは気に食わんか、小僧共」

 

それに優希が答える。

「いいや?相手の力量も知りたいし、別に露払いで良いよ」

 

十六夜も首を縦に振る。その後、場の空気が一変し優希の口調が変わった。

 

「だがな、俺は自分の仲間が傷ついて黙っていられる訳じゃない。だから”俺達”はこう、言いたい。

 

「「”何処の誰かが偶然に”魔王を倒しても、問題は無いよな?」」

 

挑戦的な笑みを浮かべる十六夜と真剣な優希に呆れた笑いで返す白夜叉。

 

「よかろう。隙あらば魔王の首を狙え。私が許す」

 

こうして交渉が成立。その後、一同は魔王が現れた際の段取りを決めて過ごしたのであった。

 

                *

 

十六夜達が事情を聴いている間に、レティシアは飛鳥の事を捜し回っていた。

と、いうのも事情がある。

追いかけっこで飛鳥と十六夜が逃げている途中に黒ウサギに発見され逃げようとしたところを、やって来たレティシアが飛鳥を捕まえたのだ。

ここまでは普通だ。だが二人が反対側の歩廊を直進している時だった。

たまたま、手のひらサイズの身長しかない、とんがり帽子を被った精霊を見つけたのだ。

そして、その精霊が驚いて逃げ出したのを飛鳥が追いかけて行った。

こういう事である。

 

一方で精霊を追いかけて行った飛鳥はと言うと、時は黄昏時まで遡る。

 

 

~飛鳥・精霊サイド~

 

飛鳥は精霊を捕まえて、仲良く展示会場を見回っていた。会場の中心あたりに来た飛鳥は眼前の展示物に衝撃を隠せなかった。

 

「紅い・・・・紅い鋼の巨人?」

 

「おっき!」

 

そう。大空洞の中心に飾られていた、紅い鋼で作られた巨人。その全身がとにかくド派手で馬鹿デカイだ。飛鳥と精霊はその巨躯を唖然として見上げた。

紅と金の華美な装飾に加え、目測でも身の丈三十尺はあろう体躯。太陽の光をモチーフにしたと思われる抽象画を装甲にその姿は圧巻である。

 

「す、凄いわね。一体何処のコミュニティが・・・・・?」

 

「あすか!らってんふぇんがー!」

とんがり帽子の精霊は瞳を輝かせ、肩から飛び降りる。

 

『製作・ラッテンフェンガー 作名・ディーン』まさか、貴女のコミュニティが作ったの?」

 

えっへん!と胸を張るとんがり帽子の精霊。どうやらそのようだ。

 

「そう・・・・凄いのね、”ラッテンフェンガー”のコミュニティは」

はしゃぎながら「らってんふぇんがー!」と叫び続けるとんがり帽子の精霊。

呆れながら摘み上げた飛鳥は精霊を肩に載せ他の展示品を見て回ろうと足を運ぶ。

 

―――異変はその直後に起きた。

 

「・・・・きゃ・・・・!?」

 

ヒュゥ、と。大空洞に一陣の風が吹く。

その風は数多の灯火を一吹きで消し去ってしまう。飛鳥は堪らず小さな悲鳴を上げた。飛鳥は咄嗟にあった燭台を握り、備えられたマッチで火をつける。

大空洞の最奥に不気味な光が宿ったのはその瞬間だった。

 

『ミツケタ・・・・ヨウヤクミツケタ・・・・・・!』

 

怨嗟と妄執を交えた怪異的な声が大空洞で反響する。

飛鳥は危機を感じ取りながらも、飛鳥は力を込めて叫んだ。

 

「この卑怯者!’姿を隠さずに出てきなさい’!」

 

飛鳥の支配力のある声が反響するが犯人からの反応は無い。

代わりに五感を刺激する笛の音色と、怪異的な声が響き渡ったのだ。

 

『嗚呼、見ツケタ・・・・!”ラッテンフェンガー”ノ名ヲ騙ル不埒物ッ!!』

 

その大一喝は大空洞を震撼させ、一瞬の静寂を呼ぶ。すると、―――ザワザワと洞穴の細部から何千何万匹という、紅い瞳の、大量のねずみの群れが襲い掛かってきたのだ。

 

「で・・・・出てきなさいとは言ったけど、幾らなんでも出すぎでしょう!?」

 

ひゃー、と悲鳴を上げるとんがり帽子の精霊。

 

「も、もういいわ!’自分達の巣に帰りなさい’!」

 

飛鳥の大一喝。しかしねずみの群れは止まる気配を見せず突進する。

ねずみの群れは飛鳥に向かって跳びかかる。

咄嗟にギフトカードを取り出し、”フォレスガロ”との戦いの後優希に貰った白銀の十字剣を召喚する。

 

「こ、このっ・・・・!」

 

剣を正眼に構えてなぎ払う。

しかし破邪を秘めた銀の剣も、ただのねずみ相手では無意味だ。数匹を切り裂いただけにとどまった。

構わず跳びかかるねずみは、肩の上で震えているとんがり帽子の精霊を襲う。

 

「ひゃ、」

 

「危ない!」

 

堪らず後ろへ跳び下がる飛鳥。支配できなければ後退するしかない。

 

そんな中、レティシアはと言うと必死に飛鳥を捜し回っている。

 

(飛鳥・・・・何処に行った・・・・?)

 

翼を広げて大市場を飛び回り、飛鳥が散策しそうな場所を探る。

 

(飛鳥が向かいそうな場所・・・・・そうだ、何か面白そうな展示物が公開されている場所は!?)

 

展示会場に下りたレティシアは、静かに翼を畳む。

 

「もしかしたら此処に―――!」

 

「―――ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」

 

劈くような悲鳴。レティシアの思考が凍りつく。

突如、展示会場の洞穴からわらわらと参加者達が逃げ出してきたのだ。

レティシアは逃亡者の一人に事情を問い出す。

 

「中で何があった!?答えろ!」

 

「か、影が・・・・!真っ黒い影と紅い光の群れが・・・・・!」

 

「影だと?」

 

「そ、そうだ。その影が長い髪の女の子と小さい精霊を追いかけて―――」

 

そして異変はまもなく起きた。

 

(・・・・・!? なんだ、この音は・・・・・・・!?)

 

衆人の悲鳴に次いで響く、不協和音を刻むリズム。レティシアは不快そうに耳を塞ぐ。洞穴の中で異常事態が発生しているのは間違いない。

レティシアは翼を広げて洞内の回廊を突き抜けて飛ぶ。

程なく、飛鳥と思われる声を聞いた。

 

「服の中に入っていなさい。落ちては駄目よ!」

 

飛鳥は意を決し、ねずみで埋まった地面を全力で走っていた。

 

(出口までもうそんなに距離は無いはず・・・・・!)

 

必死に走る飛鳥。追い縋るねずみの群れ。

しかし次の刹那。影が這いより無尽の刃が迸る。

 

「―――鼠風情が、我が同胞に牙を突き立てるとは何事だ!?」

 

次の瞬間、影の刃が鼠の群れの悉くを肉の塵と化して呑み込んでいく。

瞬きの間もないこの一撃は敵を粉微塵にした。

 

「か、影が・・・・・あの数を一瞬で・・・・・!?」

 

振り向く飛鳥。そこで二度驚く。

 

声でレティシアが駆けつけたのだと思ったが、その姿の変わりように絶句した。

彼女の姿は普段の幼い容姿のメイドではなかった。

愛らしい彼女の顔は、妖艶な香りを纏う女性へと激変し、美麗な金髪は愛用のリボンを解いて煌々とした輝きを放つ。

レティシアは美麗な顔を怒りで歪ませ、吸血鬼の証である牙を獰猛に剥いて叫ぶ。

 

「術者は何処にいるッ!?姿を見せろッ!!このような往来の場で強襲した以上、相応の覚悟があってのものだろう!?コミュニティの名を晒し、姿を見せて口上を述べよ!!!」

 

激昂したレティシアの一喝が響く。しかし返事も無ければ気配も無い。

どうやら術者は逃げ去ったらしい。

一方の飛鳥は息を呑み、言葉を失いながらも、激変した彼女の背に話しかける。

 

「貴女・・・・・レティシアなの?」

 

「ああ。それより飛鳥。何があったんだ?多少数がいたとはいえ、鼠如きに遅れを取るとはらしくないぞ」

 

「・・・・・・。貴女、こんなに凄かったのね」

 

「は?」

 

小首を傾げるレティシア。それが賛辞だと理解すると、やや不機嫌な声を返した。

 

「あ、あのな主殿。褒められるのは嬉しいが、その反応は流石に失礼だぞっ。私はコレでも元・魔王にして吸血鬼の純血! 誇り高き”箱庭の騎士”! 神格を失ったとはいえ、畜生を散らすのは造作も無い事。あの程度なら幾千万相手しても問題ないっ」

 

飛鳥は俯いたまま、複雑そうな声を漏らす。

 

「けど、私は・・・・・・・・・・」

 

「あすかっ!」

 

キュポンッ! と飛鳥の胸元からとんがり帽子の精霊が飛び出る。

半泣きになりながらも、飛鳥の首筋に抱きついて歓喜の声を上げている。

 

「あすかっ! あすかぁっ・・・・・・!!」

 

「ちょ、ちょっと」

 

レティシアはその様子を呆れながら見ていた。

 

「やれやれ。すっかり懐かれたな。日も暮れて危ないし、今日のところは連れて帰ろう」

 

「そ、そうね」

 

飛鳥は躊躇いながらも頷き、二人と一匹の精霊は朱色のランプが照らす街を進み、”サウザンドアイズ”の店舗に戻るのだった。

 

 

そんなこんなで、その飛鳥達が戻ってきている位の時間の事だ。

 

~耀・優希サイド~

 

優希は何をしているわけでもなく、魔王の事を考えていた。

 

(それにしても、魔王・・・・か。来るとは分かっていたが、案外早いものだな。白夜叉は『大船に乗ったつもりでおれ』とか言ってたけど、最悪の場合白夜叉がなんらかの形で出れない可能性だってある。その時は―――)

 

「・・・・き? ・・・・優希?」

 

「あっ、ゴメン。考え事してて」

 

耀に話しかけられていたらしい。気づかなかった。

 

「うんうん、良い。魔王の事だよね?」

 

「そうなんだ。・・・・ん? 待てよ―――明日の戦う相手に魔王がいる可能性が無いとは言えない。・・・・耀、頼みたい事がある。良いかな?」

 

(あれ? 俺、何処でヒスったんだ? まぁ、良い。場の空気を壊したくないからこのままで良いだろう)

 

「な、何?」

 

(少しだけ驚いてるな。まぁ、無理も無いだろう。自分でも驚いてる位だから)

 

「明日のギフトゲーム・・・・いや、できれば明日は一日中俺の傍に居てくれないか?」

 

「えっ、え、えっ、え?」

 

さっそく耀の顔が赤くなって、戸惑っている。

 

「ゴメンちょっと訂正。皆が居るときは別に良い。だけど、少数で移動するときには俺の近くに居て欲しい。例えば闘技場に行く時だな」

 

「う、うう、うん。あ、あのね、じ、実は優希に明日のギフトゲームのパートナーを頼みたかったから・・・・ちょ、丁度良かった」

 

「そう。それなら良かったよ。内心、耀に嫌がられたり嫌われたら”どうしよう”って思っていたから、安心したよ。ありがとう、耀」

 

耀は何かを言おうとしているのか、顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせている。

 

「耀はそうやって、顔が赤いのも可愛いね」

 

と、言うと顔に手を当てて相当戸惑っている。

そこに優希が尋ねる。

 

「褒められるのは、嫌・・・・かな?」

 

耀はハッとした顔になると首を何度も横に振った。

 

「・・・・耀はすごく優しいね。―――好きなんだ。優しい人が」

 

耀は沸点を振り切った様に顔がこれでもかというほど真っ赤になり、ショートする様に倒れこんだ。

 

「危ない! ―――大丈夫か? 耀? 耀!!」

 

「優希さん、どうしたのですか!?」

 

「黒ウサギ、良いところに来てくれたね。突然、耀が倒れたんだ」

 

「か、顔が真っ赤に! 優希さん、とりあえず耀さんをベットに!!」

 

という様な会話が繰り広げられており、飛鳥達が帰ってきたのは間もなくの事だった。

 

「なんだろうな?表が騒がしい」

 

「そうですね。優希さんは耀さんの傍に居てください。黒ウサギが見てきます」

 

「とは言ったものの、たぶん飛鳥達だろうな」

 

「―――うっ・・・・・優希?」

 

「耀、大丈夫かい? いきなり倒れたから驚いたよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「そうだよ。・・・・そういえば、今さっき飛鳥達が帰ってきていたよ。女性店員さんが飛鳥に何か言っていたけど、たぶん『綺麗じゃないからお風呂に入って』とか言われてたんだと思うよ」

 

「・・・・・そ、それなら、私も入りに行こうかな?」

 

「そうだな・・・・俺も入ってくるかな。また倒れたら大変だから途中まで付いて行くよ」

 

「うん!」

 

(なんだろう?途中ムッとしてたような気がするけどいきなり嬉しそうな顔で頷いたな・・・・・やっぱり、女の子の事は良く分からないなぁ)

 

「ゆ、優希、行こう」

 

と耀が言うと優希の袖を少しだけ掴んでいた。

優希がそれを見て優しそうに笑うと、耀の顔が赤くなり、耀は少し俯いた。

 

               *

 

優希と十六夜とジンが用意された来賓質で例の女性店員とともに、歓談?に勤しんでいた。

 

「―――なんだろうね。もうなんだか嫌だ」

 

「またヒスったのか?」

 

「解けた後の虚無感が・・・・夢だと思っても現実だから、ほぼ後悔しか生まれないんだよ。後、十六夜ニヤニヤするな。相当ウザいから」

 

「そういえばこの店はどのように移転したのですか」とジンが質問。

 

「そいつは俺も気になってたぜ? 御チビ」

 

「この店は、移動してきた訳じゃありません。”境界門(アストラルゲート)”と似通ったシステムと言って分かります?」

 

「いや全然」

 

「十六夜、即答かよ。大体なら説明できるぞ?」

 

「頼む」

 

「いくつもの入り口が全ての内装に繋がるようになっているんだよ。・・・・そうだな、ハニカム形を思い浮かべてみれば分かり易いかな」

 

「へえ?つまり本店も支店も全部兼ね備えている、ということか?」

 

「あ~と悪い。そこからは知らないが、境界門は全ての外門と繋がっているんだ」

 

と優希が言った後女性店員が続ける。

 

「それに対して”サウザンドアイズ”の出入り口は各階層に一つずつハニカム形店舗が存在しているの」

 

「ふぅん? つまり”七桁のハニカム形支店”、”六桁のハニカム形支店”ってことか?」

 

「そう。無論、本店の入り口は一つしかありませんが」

 

「なるほどね」

 

「この高台の店は立地が悪く、閉店となった過去の店。今回は白夜叉様が共同祭典に来られるということになり、一時的にこの店へ出入り口を繋げ、私室部と店内の空間を切り分けているの。店内と繋がる正面玄関は、開かない仕組みになっておりますので悪しからず」

 

「あいよ」

 

「了解」

 

話が一区切り付くと、湯殿から飛鳥達が来た。

 

「あっ・・・・・あっ、ああ」

と言いながら優希が口をパクパクさせている。

 

「そんなところで歓談中?」

 

「今の優希の状況に触れてやれよ」

 

「ヒステリア化しているだけでしょう?」

 

「それにしても、コレはなかなかいい眺めだ。そうは思わないか優希、御チビ様?」

 

「話を振るな。後、さりげなく変態発言するな」

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでも分かる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも―――」

 

「健康的な素肌の耀やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちる様は綺麗で幻想的だ」

 

「それは自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあ」

 

――スパァーン!!――

 

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

 

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿様ですッ!!」

 

「オイ、何で俺だけ桶をぶつけられなきゃならねえんだ!?理不尽だろ!!?」

 

「ま、まあ落ち着いて」

 

慌てて宥めるレティシア。

耳まで紅潮した飛鳥と、ウサ耳まで紅潮させた黒ウサギに、盛大に赤面している耀。文句を言い始めている十六夜と、病気のせいで女性陣を褒めまくる優希。

一人、痛そうな頭を両手で抱えているジンの肩に、同情的な手を置く女性店員。

 

「・・・・・君も大変ですね」

 

「・・・・・はい」

 

「納得出来ねえぞ!? コラ!!」

 

「そうだ!! 何故優希だけ許される!?」

 

文句を言う十六夜と白夜叉。それに優希が、

 

「馬鹿だね」と言う。

 

「「馬鹿とはなんだ!! 馬鹿とは!!!」」

 

「もう、末期だね」

 

「「〆るぞ!!!!」」

 

             *

 

その後、なんとか事態を収拾しレティシアと女性店員は来賓客を離れた。今は優希、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、ジン、白夜叉、そしてとんがり帽子の精霊がこの場に残っている。

白夜叉は来賓客の席の中心に陣取り、両肘をテーブルに載せこの上なく真剣な声音で、

 

「それでは皆のものよ。今から第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません」

 

「始めます」

 

「始めませんっ!」

 

「さっさと本題始めろよ。そんなどうでも良い事置いといて」

 

「「どうでも良いとは何だ!! どうでも良いとは!!!」」

 

「本当、末期だな」

 

「「〆たろかっ!!!!」」

 

白夜叉の提案に悪乗りする十六夜。速攻で断じる黒ウサギ。

優希が(彼らにとっては)余計な一言を言った事で、収拾のつきにくい状況になっている。

 

「―――真面目に本題に入らんと進まんからの。実は明日から始まる決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ」

 

「あやや、それはまた唐突でございますね。何か理由でも?」

 

「うむ。おんしらが起こした騒ぎで”月の兎”が来ていると公になってしまっての。明日からのギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているらしい。”箱庭の貴族”が来臨したとの噂が広がってしまえば、出さぬわけにはいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。別途の金銭も用意しよう」

 

なるほど、と納得する一同。

 

「分かりました。明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります」

 

「うむ、感謝するぞ・・・・それで審判衣装だが―――」

 

「その話はもう良いから。白夜叉、明日戦う奴がどんなのか教えて欲しい。どんな奴とまでいかなくてもコミュニティの名前くらいは教えて欲しいんだが」

 

「良いだろう」

 

白夜叉がパチン、と指を鳴らす。

するとゲーム会場で現れた羊皮紙が現れ、そこに書かれているコミュニティを見て、優希が頭を抱えながら深いため息をついた。

 

「”ウィル・オ・ウィスプ”に―――”ラッテンフェンガー”・・・・最悪だな」

 

「どうしたのだ? 小僧。六桁の外門の格上が最悪だと言っているのか?」

 

「その程度だったらまだマシだ。”ラッテンフェンガー”は”ネズミ捕り道化”のコミュニティだ。だから明日の敵はハーメルンの笛吹き道化だよ」

 

え?と飛鳥が声を上げる。

しかしその隣に座る黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声に飛鳥の声はかき消された。

 

「ハ”ハーメルンの笛吹き”ですか!?」

 

「まて、どういうことだ小僧。詳しく話を聞かせろ」

 

「良いけど、知らない人のためにも初めの方から説明するよ」

 

全員がコクリと頷く。その後優希は話を始めた。

 

「まず、”ハーメルンの笛吹き”は魔王の下部のコミュニティだったものの名前なんだ」

 

「何?」

 

「魔王のコミュニティ名は”幻想魔道書郡(グリムグリモワール)”。全二〇〇篇以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出したんだ。しかも一篇から召喚される悪魔は複数で、その魔書一つ一つに異なった背景の世界が内包されている。魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと強制力を持つという、絶大な魔王だったらしい」

 

「―――へえ?」

 

十六夜に鋭い光が宿る。優希は説明を続ける。

 

「けどその魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北してこの世を去っていったらしい。それで、此処からが”ラッテンフェンガー”が”ハーメルンの笛吹き”だと言う理由について話す事になる。ということで、

 

「「我らが御チビ様にご説明願おうか」」

 

「え?あ、はい」

 

十六夜と優希が顔を見合わせお互い頷き、十六夜がボソボソとジンに耳打ちした。

 

「・・・・早速見せ場が来たな。せっかく優希が振ってくれたんだ。成果を見せてやれ」

 

「は、はい」

 

コホン、と一度咳払いをしゆっくりと語り始めた。

 

「”ラッテンフェンガー”とはドイツという国の言葉で、意味はネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある”ハーメルンの笛吹き”を指す隠語です」

 

ふむ、と頷く一同。ジンはそのまま説明を続ける。

 

「台本のグリム童話には、創作の舞台に歴史的考察が内包されているものが複数存在します。”ハーメルンの笛吹き”もその一つ。ハーメルンとは、舞台になった都市の名前のことです」

 

グリム童話の”ハーメルンの笛吹き”の原型となった碑文にはこうある。

 

――― 一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日

   あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した ―――

 

この碑文にはハーメルンの街で起きた実在する事件を示すものであり、一枚のステンドグラスと共に飾られている。

後にグリム童話の一篇として、”ハーメルンの笛吹き”の名で綴られる物語の原型である。

 

「ふむ。ではその隠語が何故にネズミ捕りの男なのだ?」

 

「グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」

 

「ふーむ。”ネズミ捕り道化(ラッテンフェンガー)”と”ハーメルンの笛吹き”か・・・・・となると、滅んだ魔王の残党が火龍誕生祭に忍んでおる可能性が高くなってきたのう」

 

「Yes。参加者が”主催者権限(ホストマスター)”を持ち込むことが出来ない以上、その路線はとても有力になってきます」

 

「「うん?なんだそれ、初耳だぞ」」

 

「おお、そうだったな。魔王が現れると聞いて最低限の対策を立てておいたのだ。私の”主催者権限”を用いて祭典の参加ルールに条件を加えることでな。詳しくはコレを見よ」

 

「「”参加者以外はゲーム内に入れない”、”参加者は主催者権限を使用できない”か。確かにこれのルールなら魔王が襲ってきても”主催者権限”を使うのは不可能だな」」

 

「うむ。まあ、押さえるところは押さえたつもりだ」

 

そっか、と優希と十六夜も納得したように頷く。

一方の黒ウサギは、ジンに向かって意外そうな声をかけた。

 

「けど驚きました。ジン坊っちゃん、どこで”ハーメルンの笛吹き”を知ったのです?」

 

「べ、別に。優希さんと十六夜さんに地下の書庫を案内している時に、ちょっとだけ目に入って・・・・・」

 

「ふむ、そうか。何にせよ情報としては有益なものだったぞ」

 

「勝ち抜かれたのは問題有りだな。もしも戦うことになったら・・・・・殺るしかないよな?白夜叉」

 

「うむ。決闘場に出た場合優希、おんしに任せる。だが、来襲の場合は皆頼むぞ」

 

”ノーネーム”一同は頷いて返したが、優希が何かに引っかかった様に質門する。

 

「あれ?白夜叉なんで俺が耀のサポート回るって知ってるんだ?」

 

「いや、まああれだ。勘だよ」

 

盗み聞きしたと感づいた優希が、

 

「白夜叉、貸し”1”な」

と耳打ちした。

白夜叉は了承せざるを得ないので、潔く首を縦に振ったのであった。

 

その後、その場は解散となった。

 

 

 




やっと第壱拾壱話が終わりました!!

いやぁ~長かったですね。

次話、やっと魔王が現れますね。
というより、魔王のギアスロールが現れますね。

兎にも角にも更新します。

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