連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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第6話 ジブラルタル防衛

「オデロ!!もうウッソ達のコアファイターは向かったんだ!ガレージを閉めろ!風で物資が飛ばされる!」

 

シュラク隊には、輸送機のバランス調整の為、ガンイージを稼働させて翼を支えている。ウッソ達は輸送機の物資補給をする為、先にアーティ・ジブラルタルへ交渉へと向かっていた。そしてその中で、俺だけが輸送機での仕事に真っ最中だった。

 

「へいへい!閉めますよ閉めますよ!!」

 

「へいへいじゃない!ハイだろ!!」

 

不貞腐れているオデロは、わざとらしく大声で、俺の命令に従う。軍人嫌いなのはわかるが、そこまでして態度をハッキリさせるか?俺は額に手をやり、溜息をつく。

 

「すいません!メオさん、これはどうしますか?」

 

金髪の少年のウォレンが腕いっぱいの、弾薬が積まれている木箱を不安定な足取りで抱えている。

 

「ん?あぁ、ジェムズガンの近くにでも置いといてくれ」

 

「わかりました!」

 

そう言うと、そそくさと木箱を持ち直し、現場へと戻った。あいつはウッソと同じく、礼儀正しい。好青年という印象が持てる。

そういえば、ウォレンとオデロは同じ故郷だったと聞いたな。ウォレンなら、あいつの事を良く知っているかもな…。

 

「バウ!バウ!」

 

「ハロ!トテモヒマ!トテモヒマ!」

 

しかし、何でロボットはともかく犬もいるんだ?輸送庫の中で、走り回るフランダースという名前の犬と、ハロというウッソが作ったロボットを見ながら、そんな疑問が浮かび上がる。

 

「わぁ!あれがジブラルタルなのー!!」

 

輸送庫の中でスージィの声が響く。小さな窓を覗き込み、感嘆しているようだ。

アーティ・ジブラルタルは宇宙と、地球を繋ぐ空港だ。その為、長いマスドライバーが複雑に入り組んでいる。田舎出身のスージィ達にとっては、その光景は珍しいものだろう。

 

「しかし、ウッソ達は既にジブラルタルについている頃でしょ?まだ交渉が終わってないの?」

 

ウォレンがスージィと隣り合わせに、ジブラルタルのマスドライバーを眺めながら呟く。

 

「あそこの会社は、地球連邦軍の協力にも応じず、あくまで中立としての立場を示しているからな…レジスタンスである、リガ・ミリティアに協力してくれるかどうか…」

 

そう考察しておくと、身体に浮遊感が生じる。どうやら、輸送機はジブラルタルの滑走路へと着陸するようだ。

 

「うわっとと!?」

 

「もう直ぐ着陸する!何か棒でも掴んで、自分の身体を支えろ!」

 

バランスを崩して転けるオデロ達を尻目に、俺はブリッジへと向かった。

 

 

-----

 

 

「ゴメス大尉。今現存している、弾薬や部品、そして食糧の量を確認しました。それらの中で、不足しているものを、この表にまとめています。」

 

「あぁ…ご苦労よ」

 

ブリッジのゴメス大尉に、クリップボードを渡す。大尉は、表をペラペラと捲り、ふむぅと顎をさすりながら唸る。

ブリッジのガラスに映る、ジブラルタルのマスドライバー。輸送機は着陸寸前だ。

 

「しかし、よく着陸許可が下りましたね。ウッソ達、どんな交渉したんですか?」

 

俺は、表を眺めているゴメス大尉を横目に、操縦席にある乾パンをこっそりとつまむ。俺だって腹減ってるんだ、少しくらいいいだろう…

 

「いんや、そんな事を何も言われてない。俺たちゃ勝手にやっただけだ」

 

その言葉を聞き、俺は咀嚼していた乾パンを一気に噴き出す。

 

「ゴホッ!!無許可って事ですか!?」

 

「当たり前だろ。公社があっさりと、レジスタンスに手を貸すか…って、テメェ!何食ってるんだ!!」

 

「がっ!?」

 

俺の頭に拳骨が、輸送機の着陸と同時に襲う。…そんなムキにならなくても…

頭を摩っていると、シュラク隊のMSは輸送機の翼から離れて、滑走路に立ち竦む。俺もそろそろMSを移動させないとな…、そんな事を考えていると、同じく滑走路にあのフライパンが目に映る。

 

「何でベスパがここにいるんだ!?」

 

「あいつら、俺たちを待ち伏せにしていたのか…だが、問題はねぇ、ここは中立の場。下手に戦闘はしねぇ筈だ。でも念の為だ、メオ、お前はジェムズガンで、輸送機の護衛にまわってくれ」

 

「了解!」

 

急いで、輸送庫へと戻る。…まさか、こんな所でもMSを動かさないといけないとはな。戦闘にならなきゃいいが…

 

「メオさん!一体どうしたんですか!?」

 

ウォレン達が駆け寄ってくる。まだこいつらは子供だ…この場にいさせては危ない。

 

「ベスパの奴らが来てるんだ!戦闘の可能性も高いから、お前らはジブラルタルの公社ビルに行け!そこなら狙われない筈だ」

 

「わ、わかりました!」

 

子供達が輸送機から降り、滑走路から離れているのを確認し、ジェムズガンへと乗り込む。

 

「流石にここの戦闘だけはやめてくれよ…」

 

マスドライバーを間違って破壊してしまったら、それこそ、リガ・ミリティアに沢山の人達が批評するだろう。そして人望が無くなるかもしれないんだ。

 

輸送機が格納庫に入るまで、俺は周りを警戒する。ビームライフルは腰に付けておく。もし構えてしまったら、奴らが攻撃をする口実を作ってしまう。

しかし、そんな配慮は無意味であった。

 

「うああ!?」

 

ミサイルが周辺を爆破させ、小規模ながらも強烈な爆音が鳴り響く。ミサイルの煙の軌道を辿ってみると、ヘリ状態のトムリアットが福助、編隊を組んで、上空を舞っていた。

ベスパ、此処で戦闘を起こすと、自分たちの首を絞める事になるんだぞ!?しかし、それでも尚、トムリアットの部隊は攻撃を止めない。

 

『メオ!聞いているかい!?』

 

回線が繋がった。この声はジュンコの様だ。

 

「何故あいつら、攻撃をしてきたんだ!?」

 

『そんな事、私が知るわけない!とにかくこの状況ならば、私達も戦うざるをおえない!マスドライバーの破壊は絶対させないように!』

 

そんな事言われても…心の中で呟く。俺達がその気でも、敵側がそんな事考えてくれているかもわからないんだ。無茶といえよう。

輸送機が格納庫に入るのを確認し、俺はトムリアットの部隊へと向かった。

 

「何で来るんだよお前らは!!」

 

ヘリ状態のトムリアットは、ガトリングを搭載しており、空中は弾幕の嵐となっている。シュラク隊のガンイージ達は、それぞれ連携してトムリアットの翼や、ビームローターなどを破壊させる。流石だ。その一言に限る。

 

シュラク隊の戦いに見惚れていると、1機のトムリアットがこちらに向かってくるのがわかった。バルカンで牽制するものの、そんなものはあっさりとかわされ、お詫びとして、ガトリングが放たれた。そして、ヘリ状態からMSへと変形させる。そしてそのトムリアットは、ジブラルタルの端に向かって行った。

 

「こいつ…!どこに行くんだ!!」

 

そのトムリアットを追いかけ、トムリアットの後ろ姿に照準を合わせ、俺はビームライフルを使おうとした…しかし、

 

「何!?」

 

トムリアットは、そのままマスドライバーの近くへと飛行する。これならば、ビームの弾が直撃してしまう。

トムリアットは、マスドライバーを背後にしてビームライフルを放つ。こいつら、盾にしてんのか…!?

 

「クソッ…ベスパ!」

 

これならば、ビームライフルは使い物にならない。俺は苦虫を潰した様な表情で、ライフルを腰に付け戻す。ビームサーベルを取り出し、トムリアットに接近する。

 

「…グッ…!!こいつ…!」

 

相手はライフルやミサイルで、弾幕を張る。こんな有利な状況を逃したくないのだろう。しかし、こちらも意地というものがある。

 

「こ、これぐらいの弾幕でビビんな!!」

 

自分にそう言い聞かせ、俺は機体を前進させる。ミサイルの爆発がヒシヒシと伝わる。シールドを前に翳し、目の前のビームを防ぎ、トムリアットに徐々に近づいていく。

 

「!?いぃ!?」

 

しかしミサイルが、足に直撃する。損傷状況がモニターに映る。…問題はない!前進のみ、一点突破だ!

 

「うおおおお!!」

 

そのまま、トムリアットへ接近、ビームサーベルを振りかざす。ローターで防がれる。しかしこちらのサーベルが、押し負けたのか、サーベルごと腕が弾かれ、ドロップキックが、ジェムズガンの胴体を襲う。

 

「なっ…!?」

 

機体が断崖に叩きつけられる。その振動に叩きつけられ、全身のあらゆる所が、痛い。コックピットの直撃は免れたのが、幸運だったといえる。

 

「ひっ…!!」

 

断崖に叩きつけられ、尻餅をついた、ジェムズガンの前方には、トムリアットがビームライフルの銃口をコックピットへと向けている。死を目前としている俺は、小さく悲鳴を漏らす。だが、恐怖のお陰か、脳がフル稼働し、その中である事に気付いた。

 

「…!」

 

…トムリアットの背後がマスドライバーではない。どうやらさっきの戦闘で、知らず知らずの内に、断崖の麓へと移動していたようだ。

…あの動きからすると、敵のパイロットは気づいてなさそうだ。

 

ならばと思い、ライフルを握り、敵の頭上の断崖にビームを放った。直撃した断崖から大きな岩石のが雨のように、トムリアットに降り注ぐ。機体が、岩石の下敷きとなり、頭だけ露出していた。

 

トムリアットの猫目センサーが開かれるが、ジェムズガンの蹴りにより、頭が砕け散った。

 

「そのまま、下敷きになってろ!!」

 

俺はそう吐き捨て、シュラク隊が戦っている方へと戻る。しかしベスパの野郎、マストドライバーを盾にするなんて卑怯にも程がある。もしかしたら、シュラク隊も、そんな手に苦戦を強いられているかもしれない。

 

 

-----

 

 

「…ん?」

 

すると、断崖の上空で、ガンイージとトムリアットが戦闘を繰り広げている。しかし、ガンイージの動きが妙におかしい。本当にシュラク隊が搭乗しているのか?

 

「!?…危ない…!!」

 

ガンイージは何とかビームサーベルで、応戦するものの、トムリアットに翻弄され、ビームトマホークで腕が斬られる。その光景を見て、死という言葉が脳をよぎる。

ガンイージのメインカメラが、ビームローターの羽で切り裂かれる。それにより、火花がとんでもない量で散らしている。そして、トムリアットはそのまま、コックピットに向かって、蹴りを放とうとしたが、

 

「…!やばい!!」

 

見事、ビームライフルが敵機の足を貫き、バランスを崩したトムリアットに、ショルダータックルをぶちかます。

 

「やらせるかっ!」

 

空中でトムリアットはよろめき、そのままヘリ状態に変形し、撤退して行った。その遠方にもフライパンなどが、ジブラルタルから離れているのがわかる。

 

「ベスパは撤退して行くのか…」

衝撃で、ガンガンと鳴り響く痛みを抑え、断崖へと着陸した、ジェムズガンのマニピュレーターを橋代わりにし、ガンイージの方へと向かった。

 

「おい!シュラク隊の誰だ!?無事か!!」

 

「だ、大丈夫よ…。だけど足が…」

 

声で分かる、マヘリアだ。何とか生きてて、良かった。俺は胸を撫で下ろし、ジェムズガンから、ガンイージへと乗り移る。

コックピットのハッチを開くと、マヘリアが足を抑え、項垂れている。パイロットスーツに血が染み付いている。どうやら戦闘中に、足を負傷したらしい。

 

「少しジッとしてろよ、包帯巻くから…」

 

コックピットの搭乗席から、救急箱を取り出し、マヘリアの足をパイロットスーツから、慎重に脱がせ、包帯を巻く。

 

「まさか、メオに助けられるなんてね…」

 

「おいおい、その言い草だと、俺は期待外れみたいじゃないか」

 

包帯を巻きながら、俺は眉をひそめる。

 

「ふふふ、ごめんよ。そんな意味で言ったわけじゃないわ」

 

そう言って笑うマヘリア。じゃあ、どんな意味で言ってるんだ…?そんな疑問を抱き、包帯を巻き終える。

 

「よし、できた。つっても応急処置だからな…ちゃんと医者に治療してもらわないと行けないからな」

 

「ああ、わかってるよ。ありがとうねメオ」

 

「こっちとしても、シュラク隊がいないと困るんだ。ガンイージの機体ごと運ぶから、しっかりとシートベルトして、足、伸ばしとけよ」

 

ガンイージのコックピットから出ようとした瞬間、待ってとマヘリアに呼び止められた。

 

「メオ、私に近づいて目を瞑って」

 

「は?何でそんな事…」

 

「いいから」

 

俺は、首を傾げ、目を瞑る。…すると、頬に生温かいものが触れる。

これはまるで…

 

「って!キス!?」

 

「あんたが良い男になるだろうと、見込んでのの印だよ。今まで会う男に、ロクな奴はいなかった…けど、メオ!あんたはきっと良い男になるさ」

 

そう、妖しく笑うマヘリア。それに対し、唐突のキスにたじろぐ。あまりこういうのに慣れていないんだぞ。…と思っても、内心、美女にキスされて喜んでいる俺がいる。悲しき男の性だ。

 

「からかうのも程々にしろ!俺は自分のMSに戻るからな」

 

逃げる様に、ガンイージのコックピットに出る。マヘリアは何考えてるのやら…そんな事を思いながら、ジェムズガンへと乗り移る。

上空を見てみると、複数のガンイージがこちらに向かって来てるのがわかる。

 

「ホント心臓に悪いよ全く…」

 

そう愚痴り、キスされた頬を撫でる。撫でた手には、真紅の口紅がついていた。

 

 




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