「オデロ!!もうウッソ達のコアファイターは向かったんだ!ガレージを閉めろ!風で物資が飛ばされる!」
シュラク隊には、輸送機のバランス調整の為、ガンイージを稼働させて翼を支えている。ウッソ達は輸送機の物資補給をする為、先にアーティ・ジブラルタルへ交渉へと向かっていた。そしてその中で、俺だけが輸送機での仕事に真っ最中だった。
「へいへい!閉めますよ閉めますよ!!」
「へいへいじゃない!ハイだろ!!」
不貞腐れているオデロは、わざとらしく大声で、俺の命令に従う。軍人嫌いなのはわかるが、そこまでして態度をハッキリさせるか?俺は額に手をやり、溜息をつく。
「すいません!メオさん、これはどうしますか?」
金髪の少年のウォレンが腕いっぱいの、弾薬が積まれている木箱を不安定な足取りで抱えている。
「ん?あぁ、ジェムズガンの近くにでも置いといてくれ」
「わかりました!」
そう言うと、そそくさと木箱を持ち直し、現場へと戻った。あいつはウッソと同じく、礼儀正しい。好青年という印象が持てる。
そういえば、ウォレンとオデロは同じ故郷だったと聞いたな。ウォレンなら、あいつの事を良く知っているかもな…。
「バウ!バウ!」
「ハロ!トテモヒマ!トテモヒマ!」
しかし、何でロボットはともかく犬もいるんだ?輸送庫の中で、走り回るフランダースという名前の犬と、ハロというウッソが作ったロボットを見ながら、そんな疑問が浮かび上がる。
「わぁ!あれがジブラルタルなのー!!」
輸送庫の中でスージィの声が響く。小さな窓を覗き込み、感嘆しているようだ。
アーティ・ジブラルタルは宇宙と、地球を繋ぐ空港だ。その為、長いマスドライバーが複雑に入り組んでいる。田舎出身のスージィ達にとっては、その光景は珍しいものだろう。
「しかし、ウッソ達は既にジブラルタルについている頃でしょ?まだ交渉が終わってないの?」
ウォレンがスージィと隣り合わせに、ジブラルタルのマスドライバーを眺めながら呟く。
「あそこの会社は、地球連邦軍の協力にも応じず、あくまで中立としての立場を示しているからな…レジスタンスである、リガ・ミリティアに協力してくれるかどうか…」
そう考察しておくと、身体に浮遊感が生じる。どうやら、輸送機はジブラルタルの滑走路へと着陸するようだ。
「うわっとと!?」
「もう直ぐ着陸する!何か棒でも掴んで、自分の身体を支えろ!」
バランスを崩して転けるオデロ達を尻目に、俺はブリッジへと向かった。
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「ゴメス大尉。今現存している、弾薬や部品、そして食糧の量を確認しました。それらの中で、不足しているものを、この表にまとめています。」
「あぁ…ご苦労よ」
ブリッジのゴメス大尉に、クリップボードを渡す。大尉は、表をペラペラと捲り、ふむぅと顎をさすりながら唸る。
ブリッジのガラスに映る、ジブラルタルのマスドライバー。輸送機は着陸寸前だ。
「しかし、よく着陸許可が下りましたね。ウッソ達、どんな交渉したんですか?」
俺は、表を眺めているゴメス大尉を横目に、操縦席にある乾パンをこっそりとつまむ。俺だって腹減ってるんだ、少しくらいいいだろう…
「いんや、そんな事を何も言われてない。俺たちゃ勝手にやっただけだ」
その言葉を聞き、俺は咀嚼していた乾パンを一気に噴き出す。
「ゴホッ!!無許可って事ですか!?」
「当たり前だろ。公社があっさりと、レジスタンスに手を貸すか…って、テメェ!何食ってるんだ!!」
「がっ!?」
俺の頭に拳骨が、輸送機の着陸と同時に襲う。…そんなムキにならなくても…
頭を摩っていると、シュラク隊のMSは輸送機の翼から離れて、滑走路に立ち竦む。俺もそろそろMSを移動させないとな…、そんな事を考えていると、同じく滑走路にあのフライパンが目に映る。
「何でベスパがここにいるんだ!?」
「あいつら、俺たちを待ち伏せにしていたのか…だが、問題はねぇ、ここは中立の場。下手に戦闘はしねぇ筈だ。でも念の為だ、メオ、お前はジェムズガンで、輸送機の護衛にまわってくれ」
「了解!」
急いで、輸送庫へと戻る。…まさか、こんな所でもMSを動かさないといけないとはな。戦闘にならなきゃいいが…
「メオさん!一体どうしたんですか!?」
ウォレン達が駆け寄ってくる。まだこいつらは子供だ…この場にいさせては危ない。
「ベスパの奴らが来てるんだ!戦闘の可能性も高いから、お前らはジブラルタルの公社ビルに行け!そこなら狙われない筈だ」
「わ、わかりました!」
子供達が輸送機から降り、滑走路から離れているのを確認し、ジェムズガンへと乗り込む。
「流石にここの戦闘だけはやめてくれよ…」
マスドライバーを間違って破壊してしまったら、それこそ、リガ・ミリティアに沢山の人達が批評するだろう。そして人望が無くなるかもしれないんだ。
輸送機が格納庫に入るまで、俺は周りを警戒する。ビームライフルは腰に付けておく。もし構えてしまったら、奴らが攻撃をする口実を作ってしまう。
しかし、そんな配慮は無意味であった。
「うああ!?」
ミサイルが周辺を爆破させ、小規模ながらも強烈な爆音が鳴り響く。ミサイルの煙の軌道を辿ってみると、ヘリ状態のトムリアットが福助、編隊を組んで、上空を舞っていた。
ベスパ、此処で戦闘を起こすと、自分たちの首を絞める事になるんだぞ!?しかし、それでも尚、トムリアットの部隊は攻撃を止めない。
『メオ!聞いているかい!?』
回線が繋がった。この声はジュンコの様だ。
「何故あいつら、攻撃をしてきたんだ!?」
『そんな事、私が知るわけない!とにかくこの状況ならば、私達も戦うざるをおえない!マスドライバーの破壊は絶対させないように!』
そんな事言われても…心の中で呟く。俺達がその気でも、敵側がそんな事考えてくれているかもわからないんだ。無茶といえよう。
輸送機が格納庫に入るのを確認し、俺はトムリアットの部隊へと向かった。
「何で来るんだよお前らは!!」
ヘリ状態のトムリアットは、ガトリングを搭載しており、空中は弾幕の嵐となっている。シュラク隊のガンイージ達は、それぞれ連携してトムリアットの翼や、ビームローターなどを破壊させる。流石だ。その一言に限る。
シュラク隊の戦いに見惚れていると、1機のトムリアットがこちらに向かってくるのがわかった。バルカンで牽制するものの、そんなものはあっさりとかわされ、お詫びとして、ガトリングが放たれた。そして、ヘリ状態からMSへと変形させる。そしてそのトムリアットは、ジブラルタルの端に向かって行った。
「こいつ…!どこに行くんだ!!」
そのトムリアットを追いかけ、トムリアットの後ろ姿に照準を合わせ、俺はビームライフルを使おうとした…しかし、
「何!?」
トムリアットは、そのままマスドライバーの近くへと飛行する。これならば、ビームの弾が直撃してしまう。
トムリアットは、マスドライバーを背後にしてビームライフルを放つ。こいつら、盾にしてんのか…!?
「クソッ…ベスパ!」
これならば、ビームライフルは使い物にならない。俺は苦虫を潰した様な表情で、ライフルを腰に付け戻す。ビームサーベルを取り出し、トムリアットに接近する。
「…グッ…!!こいつ…!」
相手はライフルやミサイルで、弾幕を張る。こんな有利な状況を逃したくないのだろう。しかし、こちらも意地というものがある。
「こ、これぐらいの弾幕でビビんな!!」
自分にそう言い聞かせ、俺は機体を前進させる。ミサイルの爆発がヒシヒシと伝わる。シールドを前に翳し、目の前のビームを防ぎ、トムリアットに徐々に近づいていく。
「!?いぃ!?」
しかしミサイルが、足に直撃する。損傷状況がモニターに映る。…問題はない!前進のみ、一点突破だ!
「うおおおお!!」
そのまま、トムリアットへ接近、ビームサーベルを振りかざす。ローターで防がれる。しかしこちらのサーベルが、押し負けたのか、サーベルごと腕が弾かれ、ドロップキックが、ジェムズガンの胴体を襲う。
「なっ…!?」
機体が断崖に叩きつけられる。その振動に叩きつけられ、全身のあらゆる所が、痛い。コックピットの直撃は免れたのが、幸運だったといえる。
「ひっ…!!」
断崖に叩きつけられ、尻餅をついた、ジェムズガンの前方には、トムリアットがビームライフルの銃口をコックピットへと向けている。死を目前としている俺は、小さく悲鳴を漏らす。だが、恐怖のお陰か、脳がフル稼働し、その中である事に気付いた。
「…!」
…トムリアットの背後がマスドライバーではない。どうやらさっきの戦闘で、知らず知らずの内に、断崖の麓へと移動していたようだ。
…あの動きからすると、敵のパイロットは気づいてなさそうだ。
ならばと思い、ライフルを握り、敵の頭上の断崖にビームを放った。直撃した断崖から大きな岩石のが雨のように、トムリアットに降り注ぐ。機体が、岩石の下敷きとなり、頭だけ露出していた。
トムリアットの猫目センサーが開かれるが、ジェムズガンの蹴りにより、頭が砕け散った。
「そのまま、下敷きになってろ!!」
俺はそう吐き捨て、シュラク隊が戦っている方へと戻る。しかしベスパの野郎、マストドライバーを盾にするなんて卑怯にも程がある。もしかしたら、シュラク隊も、そんな手に苦戦を強いられているかもしれない。
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「…ん?」
すると、断崖の上空で、ガンイージとトムリアットが戦闘を繰り広げている。しかし、ガンイージの動きが妙におかしい。本当にシュラク隊が搭乗しているのか?
「!?…危ない…!!」
ガンイージは何とかビームサーベルで、応戦するものの、トムリアットに翻弄され、ビームトマホークで腕が斬られる。その光景を見て、死という言葉が脳をよぎる。
ガンイージのメインカメラが、ビームローターの羽で切り裂かれる。それにより、火花がとんでもない量で散らしている。そして、トムリアットはそのまま、コックピットに向かって、蹴りを放とうとしたが、
「…!やばい!!」
見事、ビームライフルが敵機の足を貫き、バランスを崩したトムリアットに、ショルダータックルをぶちかます。
「やらせるかっ!」
空中でトムリアットはよろめき、そのままヘリ状態に変形し、撤退して行った。その遠方にもフライパンなどが、ジブラルタルから離れているのがわかる。
「ベスパは撤退して行くのか…」
衝撃で、ガンガンと鳴り響く痛みを抑え、断崖へと着陸した、ジェムズガンのマニピュレーターを橋代わりにし、ガンイージの方へと向かった。
「おい!シュラク隊の誰だ!?無事か!!」
「だ、大丈夫よ…。だけど足が…」
声で分かる、マヘリアだ。何とか生きてて、良かった。俺は胸を撫で下ろし、ジェムズガンから、ガンイージへと乗り移る。
コックピットのハッチを開くと、マヘリアが足を抑え、項垂れている。パイロットスーツに血が染み付いている。どうやら戦闘中に、足を負傷したらしい。
「少しジッとしてろよ、包帯巻くから…」
コックピットの搭乗席から、救急箱を取り出し、マヘリアの足をパイロットスーツから、慎重に脱がせ、包帯を巻く。
「まさか、メオに助けられるなんてね…」
「おいおい、その言い草だと、俺は期待外れみたいじゃないか」
包帯を巻きながら、俺は眉をひそめる。
「ふふふ、ごめんよ。そんな意味で言ったわけじゃないわ」
そう言って笑うマヘリア。じゃあ、どんな意味で言ってるんだ…?そんな疑問を抱き、包帯を巻き終える。
「よし、できた。つっても応急処置だからな…ちゃんと医者に治療してもらわないと行けないからな」
「ああ、わかってるよ。ありがとうねメオ」
「こっちとしても、シュラク隊がいないと困るんだ。ガンイージの機体ごと運ぶから、しっかりとシートベルトして、足、伸ばしとけよ」
ガンイージのコックピットから出ようとした瞬間、待ってとマヘリアに呼び止められた。
「メオ、私に近づいて目を瞑って」
「は?何でそんな事…」
「いいから」
俺は、首を傾げ、目を瞑る。…すると、頬に生温かいものが触れる。
これはまるで…
「って!キス!?」
「あんたが良い男になるだろうと、見込んでのの印だよ。今まで会う男に、ロクな奴はいなかった…けど、メオ!あんたはきっと良い男になるさ」
そう、妖しく笑うマヘリア。それに対し、唐突のキスにたじろぐ。あまりこういうのに慣れていないんだぞ。…と思っても、内心、美女にキスされて喜んでいる俺がいる。悲しき男の性だ。
「からかうのも程々にしろ!俺は自分のMSに戻るからな」
逃げる様に、ガンイージのコックピットに出る。マヘリアは何考えてるのやら…そんな事を思いながら、ジェムズガンへと乗り移る。
上空を見てみると、複数のガンイージがこちらに向かって来てるのがわかる。
「ホント心臓に悪いよ全く…」
そう愚痴り、キスされた頬を撫でる。撫でた手には、真紅の口紅がついていた。
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