連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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…もはや語るまい。
というのは嘘です。約2年振りです。


第20話 休息 前編

艦隊戦でリーンホースとウッソ達の乗っていた”魚の骨”と合流を図り、今は戦闘後のMSを整備している所だ。

 

戦闘後、俺はケイトに静止の言葉も聞かずに無謀とも呼べる行動について、謝ろうと思ったがケイトはコックピットに降りた後、すぐに艦内の扉へと向かってしまった。

 

あの感じは完全に怒っていた。無重力でも感じたオーラは、俺を近づかせんとばかりに醸し出していたのだ。

 

他のシュラク隊も事情を分かっていたのか、ケイトに着いて行きながら、こちらへと苦笑いで手を振っていた。

…何とか彼女達にフォローして欲しいが、流石に他力本願では余計に火に油を注いでしまう行動になる。

後でケイトの部屋に行って、ちゃんと謝ろう。

 

 

「シャクティ達は無事だって、カテジナさんはそう言ったんですか!?」

「その…カテジナって彼女が言ったのかはわからんが、内容はそんな感じだ」

 

そして、現在リーンホースのMSデッキで俺とウッソは、今回の艦隊戦で起きていた事を話していた。

ウッソは目を輝かせているが、俺はどうにも腑に落ちない点があった。

 

ウッソが出会っていたというカテジナ。彼女が何故素性を隠してまで、無事の報告をしたという疑問だ。

自身の名を伝えないまま、その事を話したって、

事情を知らない俺からすると混乱するだけだ。

 

「良かった!本当に…良かったー!」

 

ハロを縦横無尽に投げ飛ばし、無重力空間を駆けるウッソ。

やはり彼は幼馴染のシャクティを心配していたのだろう。それでも尚、ウッソは今回の艦隊戦を戦い抜いてきた。

 

「やっぱり凄いよお前」

「え?」

 

味方がやられた時に、俺の精神は萎縮しており、今回もその事に追い詰められて、危機に陥った。

仮にも軍人なのに、情けないの一言だ。

しかしウッソは心残りがあるにも関わらず、目の前の現状を潜り抜けている。13歳にしては達観した奴だ。

 

そんなウッソに一言だけ呟いた後、すぐさま自分のMSへと駆け寄る。

 

カウボーイハットがトレードマークである、クッフがコックピットハッチの側で火花を散らしながら作業をしていた。

 

「どうだ?」

「こりゃあもうだめだ」

 

何となく状態を聞いてみたが、やはりというべきか、予想通りの答えが出てきた。片腕と胴体の一部、バーニアの破損。最早、ジェムズガンの状態はズタボロの一言だ。

 

「そうか…そうなんだな」

 

ジェムズガンのメインカメラを見つめてみる。今見ると、こいつのポンコツな顔は頼りなさげに見えるが、長年共にしてきた相棒だ。何処と無く親しさを感じる。

 

「中尉、まぁあんたも乗り換えの時期って事だ。こいつはスクラップして、俺たちリガミリティアの一部になるのが良いんじゃないか?」

「…確かにそうだ」

 

機械相手に、何らかの感情が湧いてしまうのは、少し変に思われるかもしれないが、それでもこいつが俺にとっての理解者であり、相棒だ。

だからこそ、労いの言葉をかける。

 

 

お疲れ様。

 

 

 

———

 

 

 

リーンホースのブリッジへと訪れてみると、ゴメス大尉が席に座りながら、大きくイビキをかいていた。

ジン・ジャハナムはいない。どうやら一足先に休息を取ったのだろう。良いご身分だ。

しかし、大尉は起きても寝ても、この人はうるさい。まぁ、それがこの人の良さでもある。

今回の戦況について、少し尋ねてみたかったが…流石に大尉も疲れているのだがら、邪魔するのは悪いな。

 

踵を返し、俺はブリッジを出ようとしたが

 

「はい、お疲れ様です」

 

背後から衝撃が伝わる。振り返ってみると、青色のチューブ食が浮いており、その先にはオペレーターのネスが笑顔で手を振っていた。

 

「労いの割には渡し方が雑だな」

「この方がフランクでいいじゃないですか」

 

何故そこでフランクさを求めるのか些か腑に落ちないが、腹は空いていたので、俺はチューブ食を手に取った。

美味いか不味いかは置いといて、エネルギーは摂らなきゃいけないからな。

どっかの国で言ってたあれだ…腹を空かせば戦にならないとか云々。

はっきりいえばどうでもいい事を考えていた俺。しかし、ふとネスがこちらを見つめている事に気付いた。

あまり人に見られるのは好きじゃない俺にとっては、むず痒い感触で一杯だ。

「あまりこっちを見るなよ」

「ん?あぁ、ごめんなさい何かメオ中尉って最初と随分変わったなって」

 

お?もしかしてこの子俺に気があるの?…と思ってしまう俺。あの飛行場で働いていたら、女っ気が無いのも当然。異性に飢えてるのも然りだ。

 

「変わってるってどこが?」

「何か最初はだらしなかったていうか、頼りなさげに見えたんですよ」

 

確かに最初はやる気が無かったけど、そんなに態度出ていたのだろうか。だとしたら、ネス以外にも同じ印象を受けていた奴はいるかもしれない。

 

「いやいやそれは姿がそう見えただけで、俺はちゃんと軍人としての役割をだな…」

「最初貴方のMSのコックピット、軍人としての仕事は本当にしていました?」

「…それって整備士の奴等以外にも見ていたのか」

 

反論をしたつもりだが、あっさりと跳ね返される。あのお菓子袋と雑誌が積み込まれていた惨状を見られてしまったのであれば、最早弁解のしようが無かった。

 

「ふふっ、あの時怒られたメオ中尉の姿は今でも笑ってします」

 

確かに整備士に「コックピットを何だと思ってるんだ」と叱りを受けたのは事実だ。あの時はゴメス大尉も含め、皆が呆れていた状態であった事に俺は痛感させられていた。

 

「まぁ、それからはメオ中尉変わったと思います。ジブラルタルでマヘリアさんと、ケイトさんを助けたのも、中尉のおかげなんですから…ありがとうございます」

 

ネスは表情は笑っていたが、瞳は真剣だ。俺に対して、本当にそう思ってくれているのだろうか。

飛行場で暮らしていた時は、人からの評価なんて犬に食わせてやれと思っていたが、まさかこうして真正面から感謝されるとむず痒い。

 

「…からかうのもアレだが、何か褒められるのもなぁ」

「え?まさか照れてます?」

「照れてないぞ…俺は当たり前のことをしたんだからな」

 

ニヤニヤ笑うネス。彼女は俺よりも年下の筈だが何故か会話の主導権を握られず、こうしていつもからかわれてしまう。

一度大人ってやつを見せてやる。

 

いつか仕返ししてやると、俺がそう思った矢先、途轍もなく低く唸り声が聞こえた。

 

「…おい、世間話なら違うとこでやれ」

 

大尉がこちらを睨んでいた。ネスはゴメス大尉の気迫にさっきとは一変、すこし青ざめた表情をしているが、何回も艦長の喝を受けていた俺に隙はない。

 

「了解です…でも艦長、寝るなら違う所で寝たほうがいいんじゃないですか?」

「う…うるせぇ!」

 

ゴメス大尉は帽子を深く被り、そっぽを向いた。

 

「まぁ、今回は勝ったんですからお疲れ様です大将」

「…ふん、お前もな」

 

大尉は高圧的な親父だが、根は優しい。同じ職場であった俺が言っているんだから、間違いない。

ただ、素直じゃないのが欠点だ。

 

「それで、俺に何か話したかった事があるんだろう?」

「ええ、まあ俺のジェムズガンが遂に壊れまして」

「…とうとう壊れちまったか、アレも」

 

ゴメス大尉も少ししんみりした、柔らかな溜息をつく。大尉にとっても、俺と同じく感慨深いものだったのだろう。

 

「そうだな…乗り換えって事なら、ラビアンローズでの補給だ。あそこならジャベリン十何機か積んでいるから、お前の分もあるだろう」

 

ジャベリン。UC.120年代にロールアウトしたMS。連邦では主力機として扱ってはいるものの、やはり30年前の旧型だ。ベスパの物と比較してみると、劣っている部分は多々ある。

 

しかし宇宙戦を念頭に開発されており、機動性と装備のショットランサーはまだ現在においても有効だ。

何とか俺にも余裕を持てる程の戦闘はできるようだ。これで、また変な旧式を使えと言われたらどうなるかと少し不安だった。

 

「とはいえ…お前も腕前は良いと思うんだがなぁ。シュラク隊用にガンイージもあっちで積むんだがよ…お前にとっては使い勝手が難しいんだろう?」

「その通りですね。俺には合わなかったと思うんです」

 

ガンイージはゾロアットと同様の高性能を誇り、ジャベリンと比べるならばガンイージの方が良いだろう、現にシュラク隊がそのMSで戦果を挙げてきたのが良い例だ。

しかし一回俺はマヘリアのガンイージを試しに乗ってみたのだが、少しコックピットの仕様と感度が俺には合わなかった。

 

ガンイージはリガミリティアが、ジャベリンは連邦のお得意様であるアナハイムが開発したものだ。乗り心地というのが少し違うだけで、加速等がかなり違和感を覚える。

 

その為、今まで乗っていたジェムズガンの後継機であるジャベリンの方が扱いやすいと判断し、俺はゴメス大尉にお願いしている。

 

「まぁ、乗り易い方に越したことは無いな。取り敢えず、こっちでその件を伝えておくぞ」

「よろしく頼みます。…では失礼します。ネスもそれじゃあな」

「はい、改めてお疲れ様でした」

 

ブリッジを出て、背伸びをしてみる。まだ戦闘後の名残で興奮が治まっていないのか、あまり眠くも無く、そこまで疲れを感じてはいなかった。

 

…よし、ケイトの部屋に行くとしよう。まるで花瓶を割った子供が、教師に謝るかのような心境に自身が小心者である事を嫌でも実感しながらも、ゆっくりと身体を前へ前へと進ませた。

 

 

 

「…ん?」

 

ケイトの部屋へは、俺の部屋を通り過ぎるのだが、その俺の部屋の扉の前で蹲って浮いている2つの人影が見えた。

 

「…お前ら何やってんだ?」

 

よーく近づいてみると、それはあの悪ガキ二人である、オデロとウォレンだった。二人とも普段の生意気な面とは違い、何やら浮かない顔をしている。

からかいに来やがったと、二人を見た時に身構えたが、どうやら違うようだ。

…しかし違ったら違ったでメンドくさそうな雰囲気を醸し出している。

 

「…メオさん」

「相談したい事がある…いえあるんです」

 

縮こまっていた二人は、まるで軍人のように起立し、こちらを真剣な眼差しで見ていた。急に畏まって気持ち悪いと思ったが、まぁ敬語を使っているからそこはスルーしてあげよう。

 

「何だ?」

 

すると、2人は直角に腰を曲げ、一気に頭を下げてきた。

 

「お願いします!俺たちに」

「恋愛の極意を教えて下さい!!」

 

俺にとっては困惑するばかりであった。

 

 




もしかしたら、前の話で矛盾している点もあるかと思います。その場合はご指摘バンバンお願いします

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