「うおお!?」
ビームバズーカにより放たれた、太いビームを見て思わず素っ頓狂な声が漏れ出る。すぐさまレバー引き、機体を後退させる。
ビームは地表を荒く抉り、周りの木が吹き飛ばされていく。コックピット内なので体感的には伝わらないが、その光景を見ていて、途轍もなく大規模な爆風が巻き起こっているのがわかる。
「なんつー火力なんだ…!」
恐らくジェムズガンのビームシールドでは防ぎきれない。それは断定できる。ジェムズガンの出力は他のMSと違って低く設定されている。地球連邦軍の軍縮による、コストの削減だ。だからといって、このまま突っ立って奴等の的になるのは御免被る。
このまま接近戦に持ち込むしか…。思考に陥りながら、機体を動かしていた。すると、
「!!」
バイクもどきのキャノンの弾が、俺の機体の周辺着弾した。トムリアットの所為で完全にこいつらの事忘れてたな…
3機のトムリアットはガンダム等に任せるか…別に俺が撃墜しないといけないって訳でも有るまいし。完全にMSの恐ろしさにビビっていた。危うく自分から死ににいく所だった。心の片隅でそんな事を思いながら、ビームライフルを放つ。
「っ…くそ!」
練度が低い俺にとっては、ビームライフルなんて連射して直撃するかしないかだ。そんな事を続ければ弾なんてすぐに無くなる。それだけはなんとかしなくては…
「っ!そうかバルカン…!!」
レバーのボタンを押し、疾走するバイクに向かって弾丸を叩き込む。
ビームライフルよりは威力がないが、命中率が高く、素早いバイクを転倒させ無力化する事ができた。
「これなら…!」
バルカンを続けざまに連射させ、1機、2機を撃墜させた。敵側も残りは4機のみ。流石に深追いを禁物と判断したのか、バイク達は森の中へと散開する。
これなら迂闊に近づけやしないな…
「あっちの方はどうなったんだ…?」
空を見上げる。するとトムリアットの胴体をガンダムと緑色のMSがビームサーベルで貫いていた。
スゲェな…あれがガンダムの力ってヤツか。
『何突っ立ってるんだい!輸送機が離陸するわ、援護をお願い!』
近くでビームライフルを放っているリガ・ミリティアのMSから回線が繋がる。俺を助けてくれたパイロットとはまた違うパイロットのようだ。その言動だと、宇宙引越し会社の輸送機へと偽装していた事がバレてしまったようだ。
というかこの状況で離陸だと?流れ弾に当たって撃墜される危険性があるんだぞ?
「先に殲滅した方がいいだろ!?」
『援軍が来るのよ!急いで!』
援軍が来るだと…?ならこのベチエンは制圧されるのか?兎も角、そのパイロットの指示に従うしかないだろう。あの輸送機にはゴメス大尉だっているんだ。
「了解!」
俺は飛行場へと向かう。輸送機はすでにロケットのブースターを吹かせ、滑走路を走っている。しかしバイクの砲撃が輸送機の離陸を阻む。
「やらせるかってんだ!!」
ビームライフルとバルカンを同時に発射させる。着弾した地面は爆発により隆々となり、バイクの進路を塞ぐ。敵が動けないと知り、勢いをつけて蹴りを放つ。その蹴りは他のバイクをも巻き込み、何機か破壊した。
「よし、これなら…っ!!」
俺は滑走路を見る。すると、その滑走路の近くでトムリアットと緑色のMSが接近戦を繰り広げている。緑色のMSはビームサーベルを胴体に突き刺した。しかし、トムリアットもそれと同時に拳がコックピットに向かって振りかざされようとした。
「うおらぁぁ!!」
機体のバーニアを最大限までに吹かせ、トムリアットに激突した。そしてそのまま俺の機体の下敷きとなり、地面へと叩きつけられた。
「ぐっ…いってぇな…」
リニアシートを搭載しても防ぎきれない衝撃。一瞬頭が真っ白になったが、輸送機のブースター音で直ぐに覚めた。…機体は動くな一応!
しかし、モニターにはバーニアがオーバーヒートを起こし、強制冷却機能が付いているためバーニアが使えない。
『だ、大丈夫かい!アンタ!』
「何とかなぁ…しかしバーニアがやられた」
『私が支えるから、しっかりと捕まっておきな!』
「ちょ、ちょっと待て!俺も輸送機には乗せる気か!?」
『当たり前だよ!ベチエンにはもうすぐベスパの援軍がくるんだ!ここもあいつらの占領下になるのさ!グズグズしてないで行くよ!』
リガミリティアのMSが機体を支え、輸送機へと飛行する。ジェムズガンよりもスピードが速い。地面からいきなりバーニアを最大限まで吹かせたからなのか、体にかかるGが凄まじい。
『キツイかもしれないけど耐えて!』
んな無茶苦茶な…その機体を乗りこなしているアンタならまだしも、こちとら旧式の機体しか使ってない身だぞ?キツイにも程があるだろ!そう口から愚痴を零したいが、今は衝撃を耐えるのが精一杯だった。ふと思い、ベチエンの方へ視線を移す。平和に暮らしていたベチエンが煙を上げ、見るに堪えない場所となっている。そこから遠ざかる俺は、まるで戦争へ誘われるかのようだった。
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あれからそのまま機体を輸送機へと載せた。どちらかといえば詰め込まれた感じだ。俺はコックピットから出て、覗き込む。そこにはパイロットスーツを着た美女達がこちらに待ち構えてる。どうやら、あの緑色のMSに乗っていたリガ・ミリティアの部隊のようだ。
「ほー…美人が多いようで…」
ぼそりとつぶやきながら、ワイヤーロープに足をかける。まさか民間組織にこんな美女がいるとは思わなかったよ。
「貴方がジェムズガンのパイロットのようね?」
「ああ…」
真ん中の赤みがかかった紫髪の女性パイロットが声をかけてくる。俺はまだ痛みが残っている頭を少し摩り、ワイヤーロープを滑らかに降下させながら返事をする。
「私はリガ・ミリティア、シュラク隊に所属しているジュンコ・ジェンコだ。よろしく。」
「こちらは地球連邦軍所属、メオ・マルス中尉だ。よろしく。」
ジュンコの差し伸べられた手を握手で応える。しかし…何とまぁ美人だな。って何回俺言ってるんだろう。
「左からケイト・ブッシュ、コニー・フランシス、ペギー・リー、マヘリア・メリル、そして貴方が助けてくれたヘレン・ジャクソンよ」
よろしくと彼女らは口にする。そして俺の右側にいるのが、あのトムリアットと取っ組み合いしていたパイロットか。
「あの時は感謝するわ。もし貴方がいてくれなかったら、私は早死にしてたところさ」
「もう!早死にとか不謹慎な事は言わない!いつかは死ぬみたいな言い方じゃない!」
「冗談だってば…でも、正直生きてるなんて思わなかったよ」
茶髪の女性、マヘリアが頬を膨らませヘレンを睨む。ヘレンはふふふと小さく笑っている。
「いえ、自分も助けられた身ですから…確かジュンコ・ジェンコさんでしたよね?あの時の緑色のMSは」
「ええ、そしてそのMSはガンイージ。リガ・ミリティアが開発したMSよ」
あの性能を民間組織で生み出したのか…すげぇな。それと比べ、何故正規軍の俺は旧式に乗らなきゃいけないんだ…。
一抹の不満を心の中に抑え、俺は周りを見渡す。どうやらあのガンダムは無いようだ。もう1つの輸送機にあるのか?
「?何をキョロキョロしてるんだい?」
「いや…ガンダムを飛行場へと飛んでいるのを目にしたんで、何処にあるのだろうかと思って…」
「あぁ!あれならもう1つに積んであるよ。しかし驚いたね〜まさかウッソがあんなに良い腕をしてるなんて!」
赤髪に褐色の女性、ケイトは明るい口調で答える。彼女も中々の美人だ。ていうかウッソ?何故ガンダムの話であの子供の話が出てくるんだ?
「ウッソ?」
「そう、13歳の凄腕パイロット!いやーあれがスペシャリストっていうのかな?」
「あの子供がガンダムのパイロットという事ですか!?」
「私も信じられないけど、本当の事よ。あの子のトリッキーな戦法には度肝を抜かされたよ」
ケイトはアハハと陽気に笑う。いやいや笑えない冗談だってば。子供なのにあんなエースパイロットの動き…てか、ガンダムを操縦できんのか!?俺は滲み出る脂汗を拭う。いやはや人生の中で1番驚かせられた事実だよ。
「あ、ゴメス大尉が貴方の事を呼んでいたわよ」
「ゴメス大尉が?…わかりました。では自分はここで失礼」
「また後で、お話ししましょう!」
マヘリアが元気に手を振ってくる。俺もそれに応え手を振る。いやー美人達とここまで急接近できるとは。男冥利に尽きるってね。
…とそれよりもガンダムのパイロットがあのウッソとは思わなかった。子供が戦場に出るなんて…そんな事が許せられるのか。といっても何も動こうとしなかった地球連邦軍の俺が言えた義理では無いが。
これから何が起こるかわからない未来に溜息をつき、ゴメス大尉のいるブリッジへと向かった。
シュラク隊ではケイトさんが1番好きです。