連邦兵のザンスカール戦争記   作:かまらん

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第11話 無重力の模擬戦

『この集結させた艦隊は、ザンスカール帝国の最高戦力、名をムッターマ・ズガンである!!』

 

 

リーンホースはウッソとマーベットがいる、ハイランドへと合流しに向かっている。ハイランドは地球に電力を贈る、巨大な太陽電池だ。

 

 

「艦隊ねぇ…」

 

 

ブリッジにある大型モニターを見る。そこにはザンスカールの軍服を着ている、中年の男が演説を行っている。どうやら奴が、ムッターマ・ズガンという艦隊の提督のようだ。最高戦力とかいうのを宣伝放送しているという事は、余程自信があるのだろう。ザンスカールの兵士達はムッターマ・ズガンと、腕を振るいながら叫ぶ。士気も中々のものだ。

 

 

「全く、これに映っている奴らも、どうせギロチンで脅してるんだろ」

 

「だけど、殆どはマリア主義という考えに心酔している人間がいるのじゃろう。マリアのヒーリングというのが胡散臭いのは確かだが」

 

 

この放送を見ているゴメス艦長達の話を耳にする。ザンスカール帝国がマリア主義というのを地球へと広めようとしているのは分かるが、ヒーリングというのは聞いた事がない。

 

 

「何ですかヒーリングって」

 

「ん、あぁ…マリアには、負傷した人間を治癒する能力というものがあるらしい。それがヒーリングと言われるものだ。それが本当かは定かではないが、その能力に周りは感化されて今のザンスカールを建国したんだ」

 

「そんなもの、信じねぇがな俺は…」

 

ゴメス艦長が軽口を呟きながら、帽子をはめ直す。

ヒーリング能力ね…。そんな物が本当にあり得るのか?本当だとしたら、そのマリアは神…女神なんだろうな…ザンスカールにとっては。俺にとっては、ただの宗教の教祖様みたいな印象だ。でもギロチンなんか使う奴らなんだ。そのマリアっていう人間がまともという事はないだろう。

 

 

「…と、なんか用があるのか?」

 

 

ゴメス艦長が無精髭を触りながら、こちらへと振り向く、もう少し清潔にすれば、ダンディな雰囲気になるだろうけどな…。そんな事を思いながら、俺は口を開く。

 

 

「艦隊戦に向け、無重力空間に慣れようと…改修したジェムズガンの稼働テストを踏まえて、模擬戦の許可を得る為に来ました」

 

 

これはシュラク隊と話し合いをつけ、決めた事だ。ジュンコ達も宇宙空間は得意ではない。このままではベスパの奴等にやられてしまうからな。

 

 

「周辺には、ベスパの戦艦やMSはいない。こちらとしては是非そうして貰いたい…が、だからといって実弾やビームは使うなよ。艦隊戦へと備えているんだ。ペイント弾で行うように」

 

「了解…では失礼します」

 

ゴメス艦長に一礼し、ブリッジから出て行く。あのブリッジ内は、いつも以上にピリピリしていた。ザンスカール帝国一大規模な艦隊の宣伝放送なんだ、無理もないだろう。

 

 

 

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『早く行かないのかぁ?』

 

「ウルセェ!び、ビビってるんじゃァないぞ!」

 

 

カタパルトデッキへと機体を乗せる…が、発進できない。発進号令の合図のタイミングがよくわからないのだ。単なる、久しぶりに機体を動かす為による緊張なのか、それとも宇宙無重力空間への何かしらの恐怖を抱いているのだろうか。今の自分自身の感情をコントロールに戸惑っている。

 

 

『パイロット名、機体名を言うだけでいいんだぞ』

 

俺に対して、溜息交じりに指摘するオリファー。駄目だ、完全に呆れられている。このままじゃ、軍人の恥になってまう。

 

「わかってるよ!えー…メオ・マルス、ジェムズガン出る!」

 

その瞬間、身体全体が衝撃に襲われる。カタパルト上で機体が移動しているのだろう。久しぶりのカタパルト射出なんだ、とてつもない速度で動いているのは恐怖の何物でもない。そんな事を心の片隅で思いながら、固唾を呑む。

 

 

「このままペダルを…」

 

カタパルトの速度に乗ってバーニアを吹かせ、そのまま宇宙へと飛び立つ。その瞬間にきた浮遊感は、地球と宇宙の違いを再確認させる。重力に引っ張られていないとこんなにも違和感があるのか。コロニー育ちにとっては、これが当たり前のようだが。逆にその人達は地球の重力は違和感を感じるのか。

 

そんな事を考えながら、シュラク隊の下へ向かう。ガンイージ達が集まっているのを見ていると、距離が縮まっているのかよくわからない。距離感を感じられないのだ。もう少し速度を上げようとペダルを踏む。何とか、接近はできているようだ。

 

 

「う、うおお!?」

 

「何をやっているんだいッ!!」

 

ブレーキが思っていたよりも難しい。角度が少しもズレると、1回転をしてしまう。そんな側から見れば、何やっているんだ状態の俺は、そのままジュンコ機へと衝突してしまった。

クルクルと回っている、俺の機体を周りのガンイージが支えてくれる。しかも絶妙な加減で姿勢を保っている。シュラク隊の奴等はもう宇宙に慣れたのか?

 

 

「宇宙ではオートバランサーをON!貴方それでも軍人!?」

 

「ぐっ…」

 

 

コニーの声だ。シュラク隊の中では少し静かなイメージだが、そんな事は無かった。中々スパルタだな…こちらの痛い所を突いてくる。俺は声をぐもらせながら、横のパネルを押す。

 

 

「っと…なったか…?」

 

 

機体が回転を止め、各部に搭載されているスラスターが全身のバランスを整えようと、絶妙な加減で稼働している。宇宙仕様へと改装するとは言っていたものの、本当に動けるのかと不安だったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 

『その油断が、戦場では命取りだよ。あんただってそんな事百も承知でしょ?』

 

「わかってる、まだ死にたくねぇしな」

 

 

ユカの説教に、俺はヘルメット越しに耳を傾ける。この訓練で環境に適応しないとな…といっても、そんなのニュータイプじゃないと無理だな。ニュータイプは戦闘のプロって言われている位の腕利きだ。こんなのはお茶の子さいさいだろう。

 

 

「しかし…お前ら、宇宙は不慣れなんじゃなかったのか?」

 

『そうさ、けど何となく感覚は掴めたよ』

 

 

ケイトが快活に笑う。さっき出撃したばかりだろ?もう、この空間に適応できたってのか!?

冗談じゃないと、小さく呟いていると後方から衝撃が伝わる。振り返ると、ヘレン機がマニピュレーターで背中を叩いている。

 

 

『メオ、あんた大丈夫〜?地球での活躍は嘘だったって言うのかい?』

 

「地球での暮らしに慣れてたからな…宇宙なんて俺にとっては未知の領域だよ」

 

『不安だね〜…あ、オリファー隊長よ』

 

 

ヘレン機の向いている方向を見ていたら、オリファーのVヘキサが見える。オリファーも宇宙での戦闘経験があるのか、巧みに機体を動かしている。これって俺だけじゃないか?無重力空間に戸惑っているのは。

 

 

『すまない、待たせてしまった。この場にいない者はいるか?』

 

 

遅れた理由は、俺が出撃に渋っていた所為だろう。本当は謝罪するべきだが、カタパルト出撃にビビってたなんて言ってしまったら、確実にからかわれたり、馬鹿にされるから黙っておく。

 

 

『…よし、揃っているな。では、これから行う訓練の内容をユカ、頼む』

 

『私が戦った、ベスパのMSは量産機としての性能が圧倒的に高い。ゾロアットが装備している、ビームストリングスという電撃兵器を用いた撹乱戦法は、私らバグレ隊を圧倒した』

 

 

量産機に電撃兵器って中々無いんじゃないか?そんな特殊な装備はてっきり、エースパイロットが動かすMSに搭載されていると思ったが…今の時代、それらを簡単に扱えるよう、OSなども改良されているのか。1つのコロニー国家がそんな高性能なMSを開発したのに、それに比べ連邦のMSなんてジャベリンぐらいだぞ?まともに相手できるやつなんて。

ザンスカールの技術力に関心しながら、ユカの経験談に耳を傾ける。

 

 

『ベスパは機体の性能が良い。しかしそれだけではない、パイロットの能力も平均的に高い。ザンスカールが本気で、地球の乗取りを始めようとしているのがわかる』

 

『だったら、私らがそれ以上の力を持てば良い話だろう?ユカさんが1番宇宙での立ち回りを知っている、その為の訓練…でしょ』

 

 

ジュンコに対して、何か違和感を感じてしまう。真っ先に戦いへと向かおうとするバトルジャンキーとはまた違い、死ににいこうという感じだ。…俺の考えすぎか。

 

 

『先ず、宇宙では相手との距離感をしっかりと認識する必要がある。その能力が無ければ、さっきのメオの様に接触事故が起きる…もしくは接近戦での命取りとなる」

 

 

悪い例で俺が出されてしまった…しかし、ユカの言っていることは本当だな。さっき出撃している時にガンイージに接近している感じがしなかった。あの状況がもし戦場ならば、真っ先に俺は御陀仏だっただろう。

 

 

『じゃあ先ず、ペイント弾の装備は確認できているな?これから、戦闘訓練へと入る。艦隊戦での乱戦を想定して、一人一人が敵同士だと思うんだ』

 

敵同士ねぇ…ガンイージの顔などはベスパの猫目とは似ても似つかない。そんな事はあんまり思おうとしても思い切れないが。

 

 

『各機、それぞれ散開してくれ。3分後、戦闘訓練を始める!メインカメラ、またはコックピットへのペイント弾の被弾を撃墜とみなす』

 

 

それぞれが回線で、了解と声を合わせると同時に、散開していった。

 

 

 

 

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「5、4、3、2、1…0!スタートだな」

 

 

俺が隠れているのは、廃したコロニーから出てきたスペースデブリの建物の中だ。ここなら、安心して時間を待つ事ができるからな。

そして3分が経った…シュラク隊達も動くだろう。ここは先手必勝だと、ペイント弾か仕込まれたビームライフルを構える。

 

 

「さぁて…どこからやってくるか…」

 

 

周りを見る…建物の他にも、コロニーでの事業に使っていただろうモビルワーカーや家電製品なども散らばっており、使えるんじゃないか…と淡い期待を抱く。

 

 

「…ここら辺はいないのか?」

 

そう思い、デブリの集団を出ようとスラスターを吹かせていたら、ペイント弾がビルの残骸から放たれた。

 

 

「ってうお!?」

 

 

咄嗟に避けるものの、ペイント弾は機体の太腿に当たる部分に被弾したので、右足の部分が機能しなくなった。この模擬戦はMSにあらかじめ専用のプログラムをインストールしておく事で、ペイント弾が被弾した部分の機能は停止するようになっている。より本格的な戦闘を経験できるのだ。このプログラムはスイッチ一つでON/OFFが切り替えられるので、緊急時にはすぐに復旧できる。汚れは落とせないのでカメラに受けたら一大事なわけだが。

 

 

「くそっ!!」

 

 

4連マシンキャノンを放つ。ペイント弾へと入れ替えているお陰か、後退はしていないものの、反動で狙いが定まらない。しかしマシンキャノンから放たれるペイント弾の弾幕は、相手側にとっては中々厄介なものだろう。ガンイージが近寄れないのが目で見てわかる。

 

 

「くそッ…」

 

 

中々狙いが定まらない事に対して、イライラしながら叫ぶ。するとガンイージはそれに応えてくれたかのように、右肩を被弾させる。その光景を見て、イケると思いビームガン、ビームライフルと同時に放つ。所謂全装備発射というものだ。俺の前方に1つの隙間もない、濃い弾幕を張る。だが、こんな事で相手を破壊できていたのならば、簡単な話だった。

 

 

「よし…ってぐおッ!?」

 

 

弾幕の脇へと潜り抜けるガンイージ。その手には、ビームライフルの銃口がこちらに向けられており、真っ先にこちらへと近づいてきた。こんなパターンならば予測できる範囲だ。接近でのゼロ距離射撃。この装備上、懐へと入って叩くのが妥当だと考えていたのだろう。

こちらとしてもやられるばかりではいけない。俺は直ぐさま、足を前方へと向け、アポジモーターを動かす。この体勢ならば素早い後退も出来る。

 

 

「ははッ俺もやれば出来るんだ…!」

 

脂汗を額に流しながら笑う。しかし、傲慢は綻びを生むという事は本当であった。なぜなら、周辺の状況を確認していなかった事は、とても致命的なミスであったからだ。、

 

 

「な、何だ!?」

 

 

機体の背面に大きな衝撃が襲う。何事かと後ろを振り向くと、そこにはガンイージが隠れていた、デブリであった。後退する道が無くなってしまったジェムズガンへ、ガンイージが銃口をメインカメラに向ける。

 

 

「…完全に周りが見えてなかった」

 

 

前方に集中がいきすぎて、周辺の環境を考えていなかったのが敗因である。詰めの甘さが戦場での生死を分けてしまうんだ。頭を抱えながら、溜息をついた。

 

 

 

 

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「くそ…ガンイージがケイトだったとは…」

 

『あら、わたしで悪かった?』

 

 

桃色の塗料が メインカメラについている事により、コックピットから見るモニターは桃色だ。この明るい色のせいか、目が疲れており、目頭を強く押さえる。俺と戦ったガンイージはケイト機のものであったらしく、俺は驚愕した。ケイトがこんなにも宇宙に慣れているからだ。

 

 

「ケイトは宇宙戦が得意なようだな…あの一連の動きは凄かった」

生憎、メインカメラがペイント弾により見えなくなっており、今はガンイージに引っ張ってもらっている。

 

 

『一応、シュラク隊の中では唯一のコロニー育ちだから…宇宙は私にとっては庭みたいなものよ』

 

 

コロニー出身か…なら、宇宙も慣れているわけだ。ふふんとしたり顔してそうな口調。しかし、ケイトはコロニー出身なのか。それならば距離感をちゃんと掴めているのも納得がいく。

 

「どこのコロニー出身なんだ?」

 

『あ、…いやちょっとね…』

 

 

俺の問いにケイトは言葉を濁す。さっきまでの口調とは違い、少し陰が見える…どうやら聞いてはいけない事だったらしい。俺は深く追求しなかった。

 

 

「しかし、ベスパとの艦隊戦もそろそろだな…」

 

『そうね…この戦いは、今までの中で1番の大規模な戦闘となってしまう。犠牲も少なからず、こちらにも出てくるだろうね…』

 

「でもやるしかない。…ベスパを止められるのは、このリーンホースだけだからな…」

 

 

圧倒的な戦力の差。これをどう埋めるのかが重要だ。作戦にそれなりの工夫を凝らさないと、この戦いは絶望に近い。そんな不安を抱えながら、静かに青い地球を見つめた。

 

 

 




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