ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
「……アカンわ。加減間違えてしもた」
眼帯の男は気を失っている耀とグリフィスを見て『やってしまった』といったふうな困った顔で立っている。
あの二人の喧嘩に割って入るなどと台風に突っ込むに等しい事だというのに目の前の男はそれをさも当然。おまけにグリフィスに気を取られていたとはいえ耀は優れた直感の持ち主だ。それに気づかない程の早さ、この男が只者ではないことを物語っている。
「あー、そこの……髪が逆立った君」
「え? オレ……ですか?」
眼帯の男はツナに目を止めると彼を指名した。
その声に、あっけに取られていたツナも我に返る。
「君、彼女と同じコミュニティやろ? 一緒におったし」
その問いに対しておずおずと頷くツナ。
「せやったらこの子、君に任せてもええか? 加減はしたけど念のため医者にでも見せてやり。ほらお前らもや」
遠巻きに見ていた"ニ翼"の連中にも声をかける。グリフィスの取り巻き達は気絶しているグリフィスや耀が吹き飛ばした者達を担ぎ上げて次々に運んでいく。
「……あなたは一体」
「僕はこの喧嘩の仲裁に来ただけや。これ以上のことはせんから安心し。
「は!?」
ツナは聞き逃せない言葉を聞いた。
この男もジョットを知っている。
「ちょっと待ってください!」
ツナは眼帯の男を呼び止めようとしたが、男はすぐさま目の届かない場所まで行ってしまう。
最近はヒントめいたものを得ることが出来ても確信を得られないことの方が多いことを嘆くツナであった。
この場に留まっていても仕方ない。とりあえず耀を医務室へ運ばなければとツナはリリに協力して貰って耀を負ぶさる。
気を失ってるから肩を貸すだけでは安定せず、かといってお姫様抱っこは恥ずかしくてへタレのツナに出来るわけも無い。消去法で負んぶになった。
「……あえ?」
「ランボちゃん?」
リリがランボの様子がおかしいことに気が付く。ランボの身体が緑色の光始めているのだ。
『ちゃおっす、ツナ。そろそろタイムリミットだぞ。ランボのヤツはそこにいるか?』
ツナのヘッドホンから聴こえるリボーンの声。そういえば白蘭が時間制限があると言ってたのを今になって思い出す。
「うん、いるにはいるけど……」
「あれれれ? ランボさんどうなっちゃうの!?」
突然の事態に混乱するランボ。
緑色の光に包まれたランボは宙に浮かび上がったかと思えば、もの凄いスピードでいつの間にか空にある黒い穴へと消えていった。
あの黒い穴には見覚えがある。
「夜の炎のワープホール……?」
バミューダや新生
『まだ研究中でバミューダのように自在にとはいかねーし、準備に時間がかかるけどな』
(これでオレ帰れるんじゃ……)
そう思ったツナであったが、"ノーネーム"再興や謎の勢力のこともあるのですぐ帰るわけにもいかない。
「あの、今のは一体……? それにランボちゃんは……?」
ランボが消えて困惑するリリにツナは耀を運ぶ道則を歩きながらもランボの無事を伝えた。
◆
検査して貰ったところ、腹部を殴られてはいるものの、内臓に損傷も無く内出血も無し。その内起きるだろうという診断結果が出た。
その言葉に嘘偽りは無く、耀は現在泊まっている貴賓室のベッドの上で目を覚ます。
「んぅ……ここは?」
『気が付いたかお嬢!』
前回の戦いで怪我をした三毛猫はアンダーウッドで療養していたが、耀が倒れたと聞いて腹に包帯を巻いたまま駆けつけてくれた。
「良かった! 気が付いたんだね」
「ツナ……っ!?」
ベッドから起き上がろうとした瞬間に彼女の腹部に鈍痛が奔る。その痛みに一瞬顔を歪めたが、それを堪えて横の机に置いてあった水差しを取った。
「私は……負けたの?」
『いや? 喧嘩やったら眼帯の男がお嬢と相手を伸して納まったみたいやで?』
三毛猫はツナに聞いたことをそのまま耀へと伝えた。
「それで、ツナは?」
『坊主ならお嬢を伸した眼帯の男を捜しに行ったで。安心し、きっと敵を撃ってくれる』
「……多分違うと思う」
耀の目が覚めた頃、その一方でツナは三毛猫の言ったとおり眼帯の男を探し回っていた。もし、"ニ翼"とのいざこざで本陣営へと赴いていればすぐに見つかったのだが、ツナはそれを知らない。知らずにアンダー・ウッド中を走り回っていた。
「――というわけでッ! 収穫祭のメインゲーム・"ヒッポカンプの騎手"の水馬貸し出しはッ!!! 全員水着の着用を義務とするッ!!! 当然男女問わずゥゥゥゥゥ!!!!」
「白夜叉さんーーーーーー!!!?」
探し回ってる途中でもの凄いものを発見してしまった。壇上の上で暴走しているのは大人の姿となった白夜叉。先程も思ったことだが、中身が全く変わっていない。そして観客席の人達は既にアルコールが回って出来上がっている。
「女性用水着は幼児用のスクール水着からマイクロビキニまでありとあらゆる水着全数百種類を取り揃えたッ!!!!」
「ヒャッッッホォォォオオオォオウィ!!!」
「そしてぇぇぇぇ!!! なんと専属審判の黒ウサギはァァァァ!!! 審判中は常時セクシー黒ビキニ着用だあああああああああ!!!」
「オールハイール白夜叉ッ!! オールハイール"サウザンドアイズ"ッ!!!」
「フハハハハハハ!!! 諸人よ、我を崇めよ! 我を称えよ! 神仏よ、我を恐れ敬うがいい!! 我こそは沈まぬ太陽の具現にして遥かなる地平の支配者ッ!!! "白き夜の魔王"・白夜王也ィィィィィィ!!!」
ツナはこの惨状に唖然とするばかり。もはやツッコむ気にすらならなかった。
◆
「眼帯をした痩身の男?」
白夜叉の悪ふざけという名のオンステージが終わった後、ツナは白夜叉に接触することに成功。白夜叉なら眼帯の男について詳しく知っているのではないかと、ツナにしては珍しく良いところをついた答えだ。
「心当たりがある……というより私が探してる男やもしれん。会いたいのであれば着いて来い。丁度その男に用があってな」
ツナは白夜叉に言われるがまま、その後ろについていった。日が沈み、空には三日月が淡い光を放ってこのアンダーウッドを照らしている。
二人の足音と夜風の音が聞こえる。
「そういえば、この姿……どうだ? ジョットにも見せたことがない私の白夜王としての姿は」
急な白夜叉の問いかけにツナは戸惑った。見た目は一級品の美女ではあるものの、中身はおっさんという概念が出来上がっていて、素直に彼女が美人だとは思えない。
言うなれば残念美人。
「なんや、随分懐かしい御方の登場やね。それに後ろのは昼間の子?」
「おっと。おんしと会うのは久しいな、蛟劉」
二人が辿り着いたのは大樹の天辺。そこで眼帯の男は杯を煽っている。白夜叉は蛟劉と呼んだ男に無遠慮に近づくと、断りもなく座り込んで虚空から酒瓶を取り出して、自らで酌をしてそれを飲んだ。
「まったく、何処ほっつき歩いてるかと思えば」
「あれ? 僕のこと探してたん?」
蛟劉の白々しい物言いに白夜叉は睨みつける。失せ物の探索にはうってつけである"ラプラスの小悪魔"が無ければ場所の特定すら困難だっただろう。
世間話もそこそこに、蛟劉は白夜叉に"平天大聖"の封蝋がしてある封筒を白夜叉へと手渡した。
「平天大聖?」
ツナは馴染みのない言葉に首を傾げる。
「牛魔王って言えば分かる?」
「牛魔王……っての西遊記に出てくるあの牛魔王!?」
「ちなみにこいつはその牛魔王の義弟だ」
「ええっ!?」
そこまで言われればツナでも馴染みがある。孫悟空と戦って敗れた白牛の妖魔。しかも目の前にいる蛟劉はその弟だというのだから驚きも一入だ。そしてあの"斉天大斉"・孫悟空とも義兄弟なのだが、ツナはそこまで頭が回っていない。
「何の手紙だ?」
「例の"階層支配者"襲撃事件について。北を襲った魔王とその主犯格らしい連中。それと最近妙な力を使う連中がちょいちょい見られることについてや」
白夜叉は顔を強張らせた。彼女が今一番欲しかった情報だ。牛魔王は情報を奪われる可能性を考慮して信頼できる義弟にこの封筒を託したのだろう。
そしてツナにとっては『妙な力』というのに引っかかった。
「あの、妙な力って」
「それは僕もよく知らん」
蛟劉は背筋を伸ばして肩を回す動作をした。
「やーっと終わった。百年ぶりに会ったと思ったら手紙の遣いやで? ありえへんやろ?」
「仕方あるまい。この封書の中が真実であるなら連中に襲撃される危険もあった。だからこそ、信頼出来るおんしに任せたのだろうよ」
しかし、これが偶然だと白夜叉は思えない。前回の戦いで"階層支配者"を解任された彼女はその後任を欲しがっていた。そこに現れたのが蛟劉。これが唯の偶然で済ませられる筈が無い。
(ジョットがいれば、奴に任せたかもしれんが……)
ジョットはもういない。今いるのは、その子孫のツナ。過小評価しているわけではないが彼ではまだ幼すぎるし、ツナにはジョットと同じく帰る場所があるのだ。
彼女は少し寂しい気持ちになりながら酒を煽り、話を変える事にした。
「今はどこぞでコミュニティの長をしておるのか?」
「はっ、まさか。柄じゃないの知ってるやろ? このチンケな"覆海大聖"の旗下は一人しか入れんよ」
蛟劉は笑っていたが、その目あったのは強い拒絶であった。"ノーネーム"がそうであったように蛟劉もまた戦いで多くの仲間を失った。失って失って、そして戦うことに疲れてしまった。
――そうして彼は"覆海大聖"から"枯れ木の流木"になった。
「……蛟魔王よ。もう1つ話しがある」
白夜叉は腑抜けてしまった彼を今一度奮い立たせようととある提案をした。頼みを聞いてくれたら彼の義姉である斉天大聖――孫悟空に会わせてやっても良いと言うのだ。
「……なんやと?」
蛟劉はその話に喰いついた。彼にとってそれだけ孫悟空の存在は大きいのだ。
白夜叉の出した条件は二つ。
1、サラ=ドルトレイクが"階層支配者"になれるように手を貸すこと。
2、"ヒッポカンプの騎手"で優勝すること。
「……ええんか? 僕が出たらゲームそのものが滅茶苦茶になるで?」
蛟劉も自分が乗せられていることに気が付いていないわけではない。それを知った上であえてその話に乗った。
「さて、それはどうかな? 私はむしろおんしが優勝する確率のほうが低く思えるがの」
「それはそこにいる君のお気に入りのことを言ってるん?」
「さあ、それだけどは限らんぞ?」
蛟劉はその隻眼で白夜叉を睨んだ。
「私の話は終わりだが、綱吉はこの男に聞きたいことがあったのではないか?」
「聞きたいこと?」
ほんの一瞬、蘇った魔王の覇気は瞬く間に霧散し、彼は怪訝な顔をする。
「はい。蛟劉さんがオレのことをジョットの子孫って」
「噂を聞いてただけや。纏ってる空気も似てたしな」
蛟劉は思いに耽るように三日月を見上げた。
「ジョットと最後に話したのは僕や」
◆
『行ってしまうん? 白夜王が悲しむで』
『ああ、オレにも帰らなければならない場所がある。待っている人達がいる』
あの日、白夜王は急な魔王の襲来でその討伐に行っていた。ジョットが箱庭を出るのはホンマに突然のことで知らせる暇すらもなかったらしいで。
『……そこまで言うなら止めんけど。待っててあげてもいいんやない?』
『オレの世界とここでは流れる時間が違う。それに彼も待ってはくれないんだ』
詳しく話してはくれんかったけど、元の世界に帰る最後のチャンスかもしれん言ってたな。
『白夜叉に伝えてくれ。『急にいなくなってすまない』と』
◆
「フン! 何が『急にいなくなってすまない』だ!」
白夜叉は機嫌が悪くなったのか酒瓶を持ち上げると、杯に注ぐのではなくそのままラッパ飲みしだした。
蛟劉はちょいちょいとツナを手招きする。ツナが彼の隣まで来ると蛟劉はツナの耳に口を近づけて
「今でこそ気丈に振るまっとるけど、当時はショックで丸三日寝込んでたらしいで」
「おいそこ! 何をコソコソしておるか!」
様々な想いと企みが交錯する中で夜は更けていく。
ヒッポカンプの騎手開催まで約12時間前のことであった。
ぶっちゃけ黒ウサギよりも白夜王の方が色気があって良いと思う作者は異端なのかもしれない