なのはが魔法の世界、けして夢の世界では無い魔法の世界へ踏み出していくその過程。
物語の幕間に、あったかも知れない会話。
管理局アンチ物への逆アンチのつもりです。
「へぇ〜、デバイスって結構新しい物なんだ。」
栗色の髪の少女の興味に話が脇道にそれていく。
「そうだな。初期のデバイスが出来てからまだ100年と少しだ。」
「というかなのは、時空管理局自体今のデバイスがあったから出来たようなものなんだよ。」
黒髪で年長の少年と緑の瞳にふわふわ毛の少年が解説役をするのはいつものこと。
「えっ、どういうこと?」
「…今のデバイス以前は一つの発動体につき一つの魔法が精々だったって聞いたことがある。」
金髪の少女が長くは無いが上質な教育で得た知識で話に混ざる。
「そう。デバイスに似たものはあったんだ。だからその時代も日常生活で苦労するようなことはなかった。けれど戦闘となれば別だ。」
「デバイス以前の魔道士は発動体の宝石を手首や身体にじゃらじゃらさせているのが普通だったらしい。シューターの数だけ発動体が必要なんだからね。」
「当然、細かい制御を何度も繰り返さないといけない誘導弾や飛行魔法は無理。ああ、封印魔法もデバイスを介さない職人芸の領域だったそうだ。その辺はユーノ、君の方が詳しいんんじゃないか?」
「ははは、そうだね。スクライアじゃ封印魔法をデバイス無しで行使出来なきゃ一人前と認めてもらえなくって…。それはその時代からの名残かな。」
二人の会話はさすが執務官とスクライア族の神童といったところだろうか。
「未熟な魔法技術の中、けれどロストロギアは野放図で今より溢れてる。そんな状況でどうなるか。」
「制御不能のロストロギアと質量兵器を組み合わせたりね…。かなり悲惨な戦争の記録も残ってるよ。」
「へぇ〜…、あれっ?でもでもヴィータちゃん達のデバイスはどうなるの?夜天の魔導書ってずっと昔に作られたものなんだよね?」
少女の疑問はつい先日まで古代ベルカの騎士達と殺し合いをしていた身としては当然だろう。
「うん、だから今のデバイスも厳密には新しい技術じゃないんだ。聖王教会に残っていた資料と、古代ベルカから流れ着いて良質の状態で現存していた数少ないベルカのデバイス、それらを解析・復元したもの。つまりある意味デバイスもロストロギアの一つってことだね。」
「あー、一応言っておくが、それ以降の技術は管理局やミッドチルダが自力で開発したものだからな。アルカンシェルもだ。」
執務官として、ロストロギアの管理を謳いながらロストロギアを積極的に利用しているわけではないという主張。
「…でも管理局がデバイスに支えられてるのも事実だよね。」
「どういうことなの?フェイトちゃん。」
「デバイスはその中核部分について全て管理局に登録・管理されてるんだ。私が事件の後一番最初にしたこともバルディッシュの登録だった。デバイスの技術を学ぶ学校も管理局の下にあるから、作れる人物も基本的に全員把握されてる。」
白い少女はいまいちよく判っていないようで頭の上にハテナを並べている。
「つまりこういうことだよ、なのは。」
それはスクライアの少年が少女を魔導の道に連れ込んでから何度も使ったセリフ。
「未熟な魔法とロストロギアで混沌の中にある世界。そんな中に聖王教会と組んで古代ベルカの技術を復元した組織が現れる。その技術はCランク魔導士をその時代のAランク級に匹敵させるもので、同時に完成されたバリアジャケット技術は質量兵器だってなかなか通さない。けれどそんな戦力差の中、彼らはその技術を提供する用意があると言ってきた。デバイス技術があれば戦闘だけじゃなく日常生活の質も大幅に上がる。さらに聖王教会お得意の封印魔法なんかを使って、苦労していたロストロギアの面倒もみてくれると言っている。飴と鞭。いつしかその組織の下に加わりたいという次元世界は増え、いくつもの次元世界のバランサーまで勤めるようになったその組織は次元管理局と名を変えましたとさ。」
ってこと。と少女を窺う少年に、しかし少女は全てを把握しきれてはいないよう。
「う〜ん…。でも、デバイスがなかったら全然戦えないってのはわかるかも。」
「そうだね。私もバリアジャケットを維持しながらだと飛ぶのだってキツイと思う。」
やはりこの辺りの反応は最初に触れた魔法が戦闘用だったことも大きいのだろうか。
「というか、ユーノ!その言い方だと管理局はデバイス技術とロストロギアを盾にとって次元世界を併合していったみたいじゃないか!」
「でもまあ、そういう一面があるのは事実だし〜」
突然の声に驚く四人。ゆったりとした声はこの艦の頂点たる女性のもの。
「かあっ…リンディ提督どうしてここに?」
「リンディさん!エイミィさんも!どうしたんですか?」
「ふふふ、ちょっと面白い話をしてるみたいだったからつい。」
「それにしても、さすがスクライアって感じだねユーノ君。」
艦長と共に現れたアースラにおけるナンバー3の女性の言葉に少年は少し照れたよう。
「いえ…。歴史とは多面的な見方をして初めて見えるものだって、スクライアではいつも聞かされたことですから。」
遺跡発掘とその研究が生業の一族らしい一面。
「でも、僕自身は管理局発足の話は結構好きなんです。次元を越えて襲ってくる誰も扱えない兵器。暴走するロストロギアと併発する魔法災害。そんな世界で『秩序ある闘争』と『ロストロギアの管理』を謳って突如現れた一団。デバイスをバリアジャケットと非殺傷魔法という方法で扱う発想は正しく歴史から学んだ成果と言えますし、派手に動く管理局と細やかなフォローをする聖王教会という関係も理想的でした。スクライアの記録からもあの状況から脱するにはほぼ最適解だっただろうという見解が一般的です。」
「うんうん。私も好きかも!管理局を作った人たちってすごかったんだね!」
素直に感情を表に出せることは美徳だ。…たとえいまいち理解が追いついていなくても。
「…なんというか、僕の怒り損だった気がするよ。」
「ははっ、一本取られちゃったねークロノ君。」
年齢の割に妙になじんだ溜め息を吐く執務官とそれをからかうパートナー。その様子はこのアースラの象徴とも言える景色だ。
「…そういえば、何の話をしてたんだっけ。」
一段落したところでの赤い瞳の少女の言葉に妖精が通った。
「あれれっ?そういえばなにか他に聞きたいことがあった気がするの。」
「うーん…確か、結界があるとは言えあれだけの規模の災害だと現実への影響も多少は避けられない。みたいな話をしてたような…。」
「主に無機物の一部が無くなったり脆くなったりするから、その辺りの処理が全部終わるまではしばらくアースラはこの辺りに滞在するって話だったよね。」
「この魔力の薄い世界でいきなりあれだけの高高魔力が発生したんだ。魔力に当てられた人がいないかも一通り調べた方がいい。」
正義感の強い執務官は管理外世界だろうと手を抜くつもりはないらしい。
「それについては病院を中心にサーチャーを使って見てるけどそれっぽい症状の人は今のところ見つかってないよ。この世界はスポット的に高魔力地帯があって海鳴市もそれに当たるから、たぶんそのおかげだね。」
システム面でアースラを仕切る彼女の仕事は早い。
「つまり、事件の後始末の話をしてたのよね。」
緑髪の艦長がまたも逸れそうになる話を戻す。
「あとしまつあとしまつ…え〜っと………あっ、そうだ。はやてちゃん!」
「…ああ、そうだ、八神はやての後ろ盾となってくれるだろう聖王教会についてじゃなかったか。」
「うん、聖王教会がどんなところで、どうしてそんな影響力を持ってるのかって話だった。」
「でも、もう大体わかったんじゃないかな、なのは。」
ずいぶんと長い、けれど必要な脇道であった。
「えーっと、管理局は聖王教会に大っきな恩があるから、なの?」
「そうだね。共犯関係と言った方が正しいかも知れないけど。」
「聖王教会の発言力は大きいよー。局員である人は少ないんだけどね。いても顧問とかオブザーバー的立ち位置であることが多いし。」
「元々多かった信徒を管理局の拡大と共にさらに広げたからなあそこは。管理局じゃ取りこぼす細かい問題も丁寧に拾ってきたから民衆からの支持も厚い。」
民衆側に寄り添いながら、しかし抜け目ない聖王教会。
「そっか、ならきっと大丈夫だよね、はやてちゃん。」
「ああ。敵に回せば厄介だが、味方に回せばあれほど頼もしい所は無い。問題はないさ。」
「…そのセリフ前にも聞いたことあるかもなの。」
「…そうだったか?」
「うん。たぶんフェイトちゃんの時。」
「ぷはははっ、クロノ君ボキャブラリーが少ないってさ。」
「うるさいなあエイミー、別にいいだろう。」
グリグリと頭を撫でられる年の割には背の低い執務官。なんとか逃れようとするけれど、身長差からなかなか叶わないようで…
…そう、もしかしたら。彼女の物語の幕間にはこんな会話があったかも知れない。
それは彼女が一つの
今はまだ世界の狭間にいる少女。
彼女は望んで行くだろう。不屈の心をその胸に。その流れがどれだけ急であろうとも。
最後までお読みくださった方にはほんに感謝いたします。
ふと時空管理局がどうやって管理世界を増やしていくのが気になりまして。もちろん武力制圧って安易な選択肢はなしの方向で。
そんな事を考えていたらこんなものが出来ていました。
会話調の短編もどきなのは、世界設定考えてたらふいにキャラが喋りだし、いつの間にかキーを叩いてた謎現象が理由です。
この短編(?)の世界設定には現在アルカディアに投稿されている「道行き見えないトリッパー(ガビアル著)」に大きく影響を受けたことを記しておきます。
二次創作上の設定を考えるのは楽しいですね。
限定された条件で都合のいいつじつまを合わせていく作業はまるでパズルのよう。
アンチ物の作者にはその楽しさがわからんのです。