我輩はレッドである。   作:黒雛

43 / 46
 前回は外道と言われて傷ついた私にたくさんの感想ありがとうございました。
 『この小説を読んだおかげで不治の病が治りました!』、『宝くじが当たりました!』、『彼女ができました!』、『良いところに就職ができました!』、『ダイエットに成功しました!』、『外道? むしろこの小説こそハーメルン界における道徳の小説よ』、『幼稚園児に読ませたい小説№1!』etc……
 いやー、照れますねー。
 これからも一生懸命頑張ります!


第二十四話「ハナダシティジム戦➁」

 

 その後もジムトレーナーの数人と戦ったレッドは当然の如く勝利を収めた。

 しかし全くの無傷とはいかなかったことから改めてジムトレーナーの技量を再確認する。可能ならばカスミは当たり前ながら彼女たちとも『ジム戦』という制限を背負わない、一人のトレーナーとして全力で戦いたかったのだが、とレッドは残念に思いながら傷ついたポケモンの治療を済ませる。

 そして。

 

「――うん、あんたなら当然勝ち抜けるわよね」

 

 レッドの眼前――フィールドの対面でカスミが笑みを浮かべている。

 

「当たり前だ。本気じゃないアンタたちに負けるようじゃ頂点を取るなんて夢のまた夢だろうからな」

「威勢がいいわね、本当に。あんたもそのお友だちも、真剣なポケモンバトルとなるとまるで別人ね。いつもの悪辣な面はどこに行ったのかしら?」

 

 カスミの脳裏に浮かんだのは、レッドとブルーとグリーンの三人。

 ほんの少しバトルを見ただけで分かる。この三人は方向性は違えどポケモンに関しては人類最高峰の才能を持っている。

 誰もが羨むほどの才を持ち、そして切磋琢磨する好敵手もいる。

 

 ――才能と環境

 

 レッドたちは、人が頂点に立つために最も必要なソレを見事に兼ね備えていた。

 故に驕らず、常に上昇志向に溢れる彼らは、まさに『選ばれた存在』である。

 時代の転換期――その象徴とも言うべきか。

 まるで物語みたいね、とカスミは苦笑したが、その流れが三人に集約しているのは疑うまでもない事実だ。

 つまりこの三人の中の一人が、下すというのか。

 

 ――あの最強の男を。

 本来ならば、そのプライドの高さ故にパーティには一匹しか入れられず、尚且つ礼儀も弁えなければならない『絶対強者』なるドラゴンタイプのポケモンを、息をするが如く何匹も従えるあの男を。

 世界最強のドラゴンマスターを打ち倒すというのだろうか。

 

 カスミは、かぶりを振る。今は未来のことを考えている場合ではない。「俺はいつでも聖人君子だ」と相も変わらず可哀想な頭をしている鬼畜外道の相手をしなければならない。ああ、でもこの戯言に言葉を使う価値もないや。

 

「www」

「せめて喋れや。お前、記号とか顔文字による表現技法はご法度なんだからな」

「存在そのものがご法度な人間に常識を語られてもなー」

「よし、ラティ。俺とあの女が戦っている最中に“テレポート”を使ってあの女を暗殺しろ。俺が許す」

「ほーら、ラティアス。お菓子あるわよー」

 

 ぽいっとカスミはお菓子の入った袋をラティアスに投げた。

 

『おかしっ!』

 

 キャッチしてキラキラと目を輝かせるラティアスに、既にレッドなど眼中になかった。

 

「おかしい。俺の相棒がチョロインすぎる」

「おかしだけに?」

「イラっときたわ」 

 

 くすりとカスミは笑う。

 この少年とブルーは打てば響くようにテンポよく、そして小生意気な返事が返って来るから話していて楽しい。……それ以上に疲れるけれども。

 

「それじゃあ始めましょうか。準備はいい?」

「ああ、問題ない」

 

 両者はすぐに気持ちを切り替えてモンスターボールを握る。

 カスミが審判に目を向けて、審判が首肯する。

 

「それでは、これよりジムリーダー戦を開始します。――始めッ!」

 

 両者は同時にモンスターボールを投げる。

 レッドの先鋒はルカリオ。カスミはニョロゾを繰り出した。

 絶叫に近い気合の雄叫びは、もはや恒例。されどルカリオは自身に叩き込まれた基本に忠実に動く。

 “でんこうせっか”からの“グロウパンチ”。風の如く肉薄したルカリオの拳がニョロゾを捉え――、

 

 にゅるん、と突き出した拳が受け流された。

 

「――!?」

 

 驚いたルカリオに、すかさずニョロゾは“めざましビンタ”を打ち、次いで“みずでっぽう”を放つ。

 水圧で吹き飛んだルカリオは直ぐに体勢を立て直して一旦距離を取る。それから自分の拳を見ると、その黒い拳はぬめりとした液体が付着していた。

 

「ニョロゾの体液だ。あいつの表面はヌルヌルしているから打撃系の攻撃は受け流されやすい。ニョロゾの動きを先読みして正確に射抜け」

 

 レッドの言葉を受けて謎が解決したルカリオは首肯して、改めてニョロゾを睥睨する。

 あのとぼけた面で、しっかりと打点を逸らした。

 ルカリオは電光掲示板を一瞥する。ルカリオの体力は若干削れているが、ニョロゾは無傷。そしてレベルは全く同じ。ニョロゾはルカリオと同じく意図的にレベルアップをさせず、それでいて厳しい鍛錬を積んだのだろう。レッドはジム戦攻略でピカチュウやラティアスのような制限を受けないために、ニョロゾはジム戦のために。

 ――負けたくない。

 否、負けない! と言わんばかりにルカリオは再び叫びを上げて肉薄する。速度を落とすことなく“かげぶんしん”によって無数の分身が同時に疾駆する。

 

「本当ならバッジ一つの相手にやる技じゃないんだけど……まあ、レッドならいっか。――薙ぎ払いなさい」

 

 やや逡巡しつつ出したカスミの指示にやや驚きながらニョロゾは牽制のために“みずでっぽう”を放つ。しかし、それはただの“みずでっぽう”ではない。可能な限り水圧を強くして凝縮した水の放射――ルカリオが避けると、ニョロゾは薙ぎ払うようにして“みずでっぽう”を操る。その威力たるや水の鞭である。

 一体、二体、三体と水の鞭は縦横無尽に軌道を変えて“かげぶんしん”を両断する。

 最後の一体――つまり実体を持ったルカリオを水の鞭が狙い澄ます。

 しかし、それがルカリオを薙ぐ頃には既にニョロゾの距離に到達している。

 

「“コメットパンチ”!」

 

 ルカリオは“コメットパンチ”で自身の利き手を鋼鉄化させて、水の鞭とニョロゾを勢いのままに殴りつけた。

 吹き飛んだニョロゾへの警戒心を維持しつつ“つるぎのまい”で自らにバフをかける。

 今度は正確に射抜いたが、油断はできない。水の鞭から腕を護るために“コメットパンチ”を使用したのだが、拳技は“グロウパンチ”と“インファイト”を重点的に鍛えているため、他の拳技は練度が低い――とまでは言わないが、それでもレッドとルカリオにとっては及第点に達していない技ばかり。しかもはがねタイプの技は水タイプのポケモンには今一つとなる。事実、電光掲示板のニョロゾのライフは四分の一も削れていない。

 

「ルカリオ。徹底して距離を詰めろ。近接戦はお前が上だ。クロスレンジの間合いから絶対に逃がすな」

 

 あのニョロゾも近接戦はできるほうだが、流石にルカリオには敵わない。ニョロボンへと進化すれば結果は分からないが、少なくともニョロゾのうちは明白だ。

 ルカリオが疾駆する。

 するとニョロゾの“みずでっぽう”が再び行く手を遮った。今度は両手から、二丁の“みずでっぽう”が水の鞭と化してフィールドを踊る。

 構わずルカリオは隙間を縫うようにして駆け抜けるが、敵わず被弾してしまう。

 動きが止まったところに殺到する水の鞭。

 その瞬間こそが好機。

 狙いを定めたのならば、次の軌道は最短距離を駆け抜けるのが道理。

 被弾と同時に足腰を落としていたルカリオは、水の鞭の軌道を先読みしてから加速する。足腰を存分に落として解放した脚力は残像を残したほどだ。

 ――“しんそく”

 タケシ戦では早々に見せた技だが、“でんこうせっか”を多用することによって切り札としての役割を持たせることも可能だ。

 初手に見せた“でんこうせっか”とは比べ物にならないほどの速度に驚いたニョロゾ。その無防備な身体の中心に拳が突き刺さる。

 苦悶の表情を浮かべるニョロゾだが、目を閉じるような愚行は犯さず、次に迫り来る拳を受け流す。しかしルカリオの怒涛のラッシュに次第に対応が追いつかなくなり、徐々に体力を減らしていく。

 ルカリオのラッシュが不意に――否、露骨なほどに遅くなる。それを好機と勘違いしてしまったニョロゾは反撃をしてしまった。攻撃を受け続けたせいで思考が鈍ってしまったのだろう。

 

 ――ずどんっ!

 

 ルカリオの誘いに乗ってしまったニョロゾに、半歩引いてからの、カウンター気味の“インファイト”が炸裂した。

 ニョロゾの体力がセーフティラインの限界へと達した。白目を剥いたニョロゾは膝から崩れ落ちる。

 

「ニョロゾ、戦闘不能っ!」

 

 審判の判断を待ってからカスミはニョロゾをモンスターボールに戻した。

 

「お疲れ様。良く頑張ったわね」

 

 愛おしげにモンスターボールを撫でたカスミがレッドと向き合った。

 

「お見事」

「嫌味か」

 

 カスミの誉め言葉に、しかしレッドは顔を顰めた。

 

「あら、純粋に褒めたつもりだったのだけど?」

「――“バブルこうせん”」

 

 レッドは一言、それだけを言った。

 

「へえ……」

 

 カスミがニッコリと笑みを浮かべる。

 

「安心していいわよ。次はあんたが危惧していた通りの戦い方で行くから。――行きなさい、スターミー!」

 

 カスミは次のポケモンを繰り出した。

 カスミの意図を読み取っていたスターミーは出現と同時に“バブルこうせん”をばら撒く。ルカリオに攻撃するためではなく、フィールド全体に。

 

「ルカリオ、“はどうだん”!」

 

 レッドが意味深に呟いた“バブルこうせん”に首を傾げたルカリオであるが、こうして目の当たりにすることによってその意味を理解した。

 顔を顰めたルカリオが“はどうだん”を放つが、中空でくるくる回るスターミーは難なく躱した。

 “はどうだん”の弱点。連射が利かず、単発で使おうとすれば簡単に回避されてしまう。

 スターミーは先のニョロゾと同じく、“みずでっぽう”を水の鞭の如く扱ってみせる。しかも、その数は三つ。

 当然、ルカリオは避ける。

 しかし。

 避けた先は“バブルこうせん”によって泡まみれになっている。運動エネルギーが横に向いているルカリオの足は泡によって踏ん張りが利かずに転倒してしまった。

 そこに容赦なく三本の水の鞭が殺到する。

 ルカリオは痛みに耐えながら跳躍して離脱する。“みずでっぽう”によって泡が洗い流されたため、一時的に行動可能となったのだ。

 ――否、離脱ではなく、それは攻めだった。

 ギリギリのところで踏ん張ったルカリオは置き土産として“インファイト”で突貫する。

 そのガッツにカスミは敬意の目を向けた。

 しかし、スターミーはエスパータイプとの複合。例え強力なかくとうタイプの技であろうと損傷は微々たるもので。

 虚空より迸る“みずでっぽう”を無防備な身体に受けて、ルカリオは戦闘不能となった。

 

「ルカリオ、戦闘不能!」

 

 落下するルカリオを、レッドは墜落するより早くモンスターボールに戻した。

 ルカリオを心配そうに見つめるラティアスに、そのモンスターボールを預けて。

 

「弔い合戦だ。行ってこい、ギャラドス」

 

 次のポケモンを繰り出す。

 仲間をやられた怒りをその眼に映して――青龍は顕現した。

 

 

 

 

 





 ☆おまけ☆
 仲間をやられた怒りをその眼に映して――青龍は顕現した。

カスミ「スターミー、〝10万ボルト”」
青龍さん「アーッ」
赤「なんでお前はその見た目でドラゴンタイプを持たねーんだ……!」

 流石にこの展開はNG。





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。