我輩はレッドである。   作:黒雛

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 私が一生懸命この小説は『愛と勇気と友情の物語』とか『善性の塊』とか『慈愛の化身』と謳い文句を主張しているのに、感想覧には『外道』の一言。
 皆さんは本当にこの小説を読んでいるのか!?(๑•̀д•́๑)


第二十三話「ハナダシティジム戦➀」

 

 朝、トレーナーズホテルを出発したレッドは燦々と降り注ぐ陽射しに目を細めた。

 

「今日も良い天気だな」

 

 実に爽やかな快晴が広がっている。レッドにとってこの突き抜けるような青空は、まさに自らの清廉潔白な魂の写し絵そのものである。

 善人すぎる自分が怖い、とほざいている赤の隣にはいつも通りの擬人化したラティアスがいた。

 

『ピクニック日和ー』

「残念。今日はジムに挑戦する日なんだよな」

 

 ハナダシティの観光を存分に堪能したレッドは、そろそろ次の街へ行くべきだと判断した。

 目を閉じれば思い出す――平穏な日々。

 カントー地方の水の都。その風景はとても美しく常に涼しげな風が彼方から吹いてくる。

 まるでたくさんの宝石を散りばめたような海を眺めながらポケモンたちと一日中遊んだ。日頃の疲れを癒すための一時は、あのピカチュウですらもリラックスしているように見えた。

 採れたての海の幸はどれも絶品でついつい食べ過ぎてしまう。皆で動けなくなるくらいに食べたのは笑ってしまった。

 街の人たちも、広大な海の如く懐の深い人たちばかりだった。

 

 ――本当に、どれもマサラタウンにいたままでは得難い日常である。

 やっぱり旅は偉大だと若輩ながらにレッドは思った。水上レースとかロケット団の襲撃とか他にも色々あったような気がしたが、きっと悪夢か何かだろう。レッドはとても暴力が嫌いな人間と自負している。青と緑は死んだ。ああ、プリンでも喉に詰まらせて死んだんじゃない?

 

 そして、今から新たな鮮烈を求めるための一歩を踏み出す。

 見上げると、そこにはハナダシティのジムが鎮座していた。ハナダのジムが建設されてもう数十年が経つはずだが、その外観はまるで新しく建て直したかのように綺麗である。

 

「ふーむ、もしや襲撃でも受けて倒壊したのだろうか。全く心当たりがないな

 

 んー、と首を傾げるラティアスの頭を一撫でして、意識を切り替える。

 これより先は真剣勝負。余計な思考は一切不要。一人のトレーナーとして、全霊を以て挑戦させていただく。

 強い決意を抱いて、レッドはジムの中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「――あら、レッドくん。いらっしゃい

 

 

 

 

 

 

間違えました

 

 レッドは即座に踵を返した。どうやら自分が足を踏み入れた場所はジムではなくヘルだったみたいだ。地獄なんて自分には最も相応しくない場所だと正しいジムを目指そうとすると、ガシリと肩を握り潰さんばかりの勢いで掴まれた。

 

嫌だわ、一体どこへ行こうというのかしら。君はジムに挑戦しに来たのでしょう? ここは間違いなくハナダシティのジムであり、私はジムリーダーのカスミちゃんよ

「へ、へえー、そうナンデスか。いや、俺の勘違いだったのかなー。……ところでカスミさん、何か雰囲気違くありません? あ、髪切った?」

 

 ダラダラと冷や汗を流しながらレッドは震えた声で言う。何故だか分からないが、かつてないほどに大変なことになっていると知覚した。ラティアスはレッドの背中に縋りついて震えている。

 

うーん、そうね。どちらかと言うと切れたのは…………堪忍袋の緒かしらね

「ああっ、堪忍袋の緒。それは大変だ! ちょっとストレスを抱えすぎているのかもしれませんね。良かったらロケット団手配しましょうか? 俺がその気になればあんなサンドバッグども一分で配送してやりま――」

「――今、謝ったら許してあげるわ

「すみませんでした」

 

 レッドは大人しく土下座をした。

 流石に今のカスミにかみつくほどレッドは愚かではなかった。たぶん。

 

 

   ◇◆◇

 

 

「――全く、これに懲りたらもうその場のテンションで暴れるのはやめなさいよ」

「あー、はい。わかりましたー……」

 

 げんなりしながらレッドは返す。

 カスミのお小言は当然の如く、ジムを襲撃したロケット団の件についてだ。

 アレは断じて悪夢などではなく、現実でした。

 赤と緑と青はあの後ロケット団を存分にイジメてすっきりした後、ジムの深刻な被害に初めて目が行った。主な原因は(グリーン)(バンギラス)による“はかいこうせん”だが、赤と青も普通にジムの破壊――その一端を担っていたのは間違いない。

 

 その時、ジムを留守にしていたカスミが帰還したら、この惨状にブチ切れることは必然。故に、一先ずレッドとブルーは結託して、主な原因であるグリーンの生首を捧げて「鎮まれ! 鎮まりたまえ! さぞかし名のあるジムリーダーと見受けたが、なぜそのように荒ぶるのか!」と事態の鎮静化を図ろうとしたのだが、サンドバッグを叩いている間に何時の間にかグリーンは遁走。ブルーも既にバッジを得ていることもあって翌日にフラウとローザと共に出発。残ったのはレッド一人である。

 

 当然、沸点が一度にも満たないレッドは激怒した。常温の時点でキレているレッドは激怒した。メロス並みに激怒した。マジ許サヌンティウス。

 

 ――しかし、まあキレたところでカスミの怒りとは全く別の問題ということもあって、とりあえずレッドは時間を置くことにした。時間が解決してくれるとポジティブシンキングでハナダシティの観光と修行に打ち込んだ。

 そして月末。この惨状よ。破壊されたジムの後片付けや修繕工事、山積みになった書類整理に追われた結果、もはや発する言葉が常人のソレを逸脱していた。ゴーストやゲンガーすら逃げ出すほどの幽鬼と化していた。

 それでも説教で見逃す辺り、人間ができている。どこぞの三ゲスも切実に見習うべきだろう、切実に。

 

「それじゃあ私は一旦見学させてもらうから、せいぜい頑張りなさい」

 

 不敵に笑ったカスミはレッドを置いてその場を去った。

 レッドは視線をバトルフィールドに移す。そこにはジムトレーナーが既にスタンバイを終えていた。数は二人。彼女たちに勝利して、初めてカスミへの挑戦権が得られる。

 

「――――、」

 

 吐息を一つ。

 改め、意識を切り替える。軽く頬を叩いて顔を上げた、その深紅の双眸が鋭いものに変わる。

 相変わらずジム戦において未だピカチュウとラティアスは出禁を貰っている。水タイプが相手である以上ヒトカゲを出すわけにもいかず――つまりルカリオとギャラドスの二体で攻略することになる。

 

(まあ、なんとかなるか)

 

 カスミはもちろんジムトレーナーだってバッジの取得数に応じて繰り出すポケモンを変えるのだから、むしろ二体縛りは妥当である。

 

「両者、準備はいいかい?」

「はい、お願いします」

「こちらも」

 

 審判に問われて、最初のジムトレーナーが礼儀よく返す。レッドは簡潔に。

 そんな両者に審判は苦笑を滲ませて、

 

「では――始めっ!」

 

 レッドとジムトレーナーの少女は、同時にモンスターボールを投げた。

 まずレッドが繰り出したのは、ルカリオ。そしてジムトレーナーが繰り出したのは、コダックだ。

 

(本来の相性的には勝っているが……)

 

 それはタイプによる相性ではなく、ポケモンバトルという概念における相性だが、そんなことを言い出したら切りがない。そもそも常に頭痛に悩まされて頭を抱えているコダックは、バトル向きのポケモンではないのだから。

 しかしバトルに不向きなポケモンをバトルができるように育成するのもトレーナーの仕事、むしろ遣り甲斐のある仕事に属するだろう。

 見るからに戦いの意欲を削ぐような風貌をしているが、故に意表を突いてバトルの流れを変えたりするには打ってつけの存在だ。そんなコダックを初手に出すということは……まあ、バッジ取得数が少ないからとしか言いようがない。

 

 最初に仕掛けたのは、ルカリオである。

 明らかに熱血系な性格をしているレッドのルカリオは一番槍を任せると絶好調になる。登場するなり暑苦しいほどの裂帛の咆哮を上げたルカリオは拳を握り締めて、“でんこうせっか”で肉薄する。

 目にも止まらぬ速さ。

 しかし、ジムトレーナーという一流のトレーナーに育てられたコダックは的確に“みずでっぽう”を放つ。これには一瞬だけ驚いた様子を見せるルカリオだが、距離を詰めながらもサイドステップを踏んで躱す。続いた二射目も正確な照準だったが、鬱陶しいとばかりにルカリオは“みずでっぽう”を殴りつける。

 そうして遂に零距離になったところで“でんこうせっか”の襲脚がコダックを穿つ。その反動で飛び上がったルカリオは続け様に“グロウパンチ”を落下に合わせて打ち込んだ。

 

「頭上に“しねんのずつき”!」

 

 ジムトレーナーはコダックがルカリオの姿を見失ってしまったことに気付いて、透かさず指示を出した。

 そしてコダックは迷わず、ルカリオの姿を認めていないにも関わらず思念を額に集めて頭上へと頭突きをかます。トレーナーに絶対の信頼を寄せている証拠だ。

 拳と頭突きの衝突は、相殺という形で幕を閉じる。

 

(やっぱ原作……というかゲームは当てにならないよな)

 

 何度も思ってきたことながらも改めて実感する。

 先程の拳と頭突きの勝負。本来なら――というかゲーム仕様ならばルカリオが打ち勝っていた。タイプ一致から繰り出す“グロウパンチ”が、タイプ不一致であるコダックの“しねんのずつき”と相殺などするはずがない。レベル的にもステータス的にもルカリオがコダックを上回っているのだから。

 だが、あり得ないことが起きた。ならば必然、理由がある。ゲームという法則から外れた事象が。

 タネを明かせば実に簡単なことだ。

 コダックが放った“しねんのずつき”はエスパータイプの技であり、エスパータイプにかくとうタイプの技は半減してしまう。

 ただ、それだけのことだ。

 ゲームならば『使用する技のタイプ』と『防御側のポケモンのタイプ』を覚えるだけで良かったが、こちらでは更に『ぶつかり合う技のタイプ』も頭に入れておく必要がある。

 

 ぶっちゃけた話、技の豊富さという一点を除けば、ゲームにおけるポケモンバトルの知識なんて六割ほどが足枷である。

 

「“みずのはどう”!」

「“はどうだん”!」

 

 物理型だからといって物理技だけでバトルの組み立てをしてしまえば、今のように広範囲の“みずのはどう”に特殊技をぶつけて威力を殺すといった技術も使用できなくなる。

 対戦廃人だからといってポケモンの世界で無双できる――というのは、あまりにも都合が良すぎる話だ。現実はそんなに甘くなく、レッドが幼いながらに破格な育成&バトル技術を持っているのは前世の知識があるから――ではなく、才能と経験。この二つを兼ね備えているからだ。もしも前世の知識という恩恵がチートだったならば、グリーンやブルーを追い越して既に頂点に立っているはずなのだから。

 

 “みずのはどう”によってずぶ濡れになったルカリオは再び距離を詰めていく。クロスレンジによるインファイトこそが彼の真骨頂なのは事実。

 攻撃の初動――ルカリオにとって基点となっている“グロウパンチ”でコダックの腹部を殴る。僅かに浮いたコダックの両腕を掴み、ジャイアントスイングの如くコダックをぶん回して遠心力で遠くに投げつける。

 天高く空を舞うコダックだったが、“ねんりき”で体勢を整えてゆっくりと舞い降りてくる。

 

 ――それが決め手となった。

 

 滞空時間があまりにも長すぎた結果、ルカリオは“つるぎのまい”を完了していた。

 “グロウパンチ”の二段使用と重ねて“つるぎのまい”。これによって“こうげき”は四段階上昇している。

 ならば。

 もはや細かなやり取りは不要。

 “ねんりき”によって降りてくるコダックに“スカイアッパー”が突き刺さり、次に出てきたポケモンもルカリオと抜群の相性を誇る“インファイト”の一撃によって沈んだ。

 

 

 

 




  ☆おまけ☆
〜if もしもギャラドスが人懐っこい性格ではなく、図鑑通りの性格だったら〜


 ギャラドス進化直後
ギャラ「っしゃおらあああ! 今日から俺が最強じゃあああああーーっ!」
赤「おーい、ちょっとうるさいぞ」
ギャラ「ああん……? 誰に口利いとんねん! 喰らっちまうぞ我ええええーーっ!!」
赤「……進化した途端増長かァ。ちと話し合う必要があるな」

 ピカチュウ、キミに決めた!

ピカ「…………」
赤「軽く上下関係を教え込むだけでいいから」
ピカ「(こくり)」
ギャラ「おおん……? がははははっ! そんなマスコットキャラに何ができるっちゅうねん! 腹痛いわー!」
ピカ「…………」

 てしてし(尻尾を地面に叩き付ける)
 ぺしぺし(尻尾を地面に叩き――)
 デシデシ(尻尾を地面に――)
 ゴスゴス(尻尾を地面――)
 ドゴォドゴォ(尻尾を地――)
 ズゴォォン! ズゴォォン!(尻尾を――)

 ドゴォォオオオン!! ドゴォオオオオン!!!(尻尾――)

ギャラ「あ、ああああ、兄貴ッ! 肩揉みますぜ! 手、生えろ!!」

赤「つーか、初代の無口レッドさんの設定、ピカチュウに移ってね?」
ラティ『名ばかり主人公ぉー』
赤「誰がブラッドエッジさんだ」



 週一更新を目指します(尚、後書きにそう書いたまま結局失そ――以下略)


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