我輩はレッドである。   作:黒雛

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第十二話「真・スタイリッシュ無双 というか外道」

 ――4番道路。

 そこは、オツキミ山へと続く山麓だ。険しい山岳地帯に囲まれた一本道を進めば自然とオツキミ山の入り口へと辿り着く。傍にはポケモンセンターが設えられており、オツキミ山へ挑戦する前に腕試しをしようと、人里離れた場所ながら多くのトレーナーたちが利用している。

 

 一人前のポケモントレーナーを目指して旅立った少年少女たちの微笑ましい天然のバトルフィールド。

 それがトキワシティやニビシティの住人たちの、4番道路における印象だった。

 

 しかし、今はどうだろう?

 

 真昼間だというのに、あどけなさを残した少年少女たちの姿は見当たらない。いつもは賑やかな草むらに生息しているポケモンたちも今ばかりは、その姿を潜めていた。

 

 その代わり――というべきか。

 現在の4番道路には黒い衣装に黒の帽子を被った、黒ずくめの集団が我が物顔で居座っていた。その数は十――いや、二十は超えている。連中は一様に悪い笑みを浮かべており、ぐるりと輪を作っていた。

 その中央には――少女が一人。

 年は十代後半くらいだろうか。オレンジ色のミディアムヘアーをサイドに纏めており、端麗な容姿には勝気な瞳が絢爛と輝いている。

 その目が宿すのは、しかし、敵意だった。

 少女は包囲されていたのだ。

 

「アンタたち、どういうつもり……!?」

 

 腹の底から沸き上がる怒りを押し込めながら、少女は震える声音で問いかける。

 すると、群れの一角を割るように歩み出た男が酷薄の笑みを浮かべながら、

 

「何、ただ貴女の力をお借りしたいだけですよ。ハナダシティのジムリーダー――カスミさん」

 

 少女――カスミはキッと男を睨みつける。

 

「私の力を借りたいですって?」

「はい。その若さでジムリーダーにまで登り詰めた貴女の実力を見込んで――私たちロケット団の一員となり、この世界を手中に収めませんか?」

 

 カスミは目を見開いた。

 ロケット団の目的は知っている。

 ――世界征服。

 なんてくだらない、とカスミを思う。

 しかしそんな馬鹿げたことを述べながら、未だ活動しているのは、ロケット団の組織力が如何に巨大かを証明していた。その背景はまったくの不透明。騒ぎを起こし捕まるのは切り捨て要因の下っ端ばかりであり、首魁や幹部の情報は一切不明。逮捕されながらも連中は一様に、眼前の連中と同じような余裕の笑みを浮かべているのだ。まるで、その騒ぎの裏で大きなナニカが蠢いているような……。 

 くだらないと思いながら、侮れない組織であることをカスミはよく知っている。

 

 なぜなら、カントー地方最強のジムリーダーと名高い男、トキワシティのサカキがロケット団の足がかりを掴んだと同時に――行方不明(・・・・)となってしまったのだから。

 今も捜査は難航しており、まさか最強のジムリーダーがロケット団に敗北してしまった――なんて情報を報道するわけにもいかず、この件はポケモン協会とジムリーダーの間に緘口令が敷かれている。

 おかげでトキワジムは一時的な閉鎖状態。現在ポケモン協会がサカキの代任を協議しているが結果は芳しくないのが現状である。

 しかし屈するわけにはいかない。ジムリーダーに就任しているカスミが屈することになれば、彼女に尊敬や憧憬を抱いている者たちに波及する。

 

「冗談じゃないわよ。アンタたちのくだらない夢物語に付き合うつもりはないわ! 寝言は寝てからいいなさい!」

 

 あとブサイク! キモイ! 近寄るな!

 続け様に罵倒すると、

 

「フッ、我々の業界ではご褒美ですぞ」

 

 男(顔面Lv.3)はポッと頬を染める。

 ぞっとカスミの顔から血の気が引いた。この状況でドMの申告とか正気の沙汰じゃない。ドSな状況でドMの告白とかどんなハイブリットだ。無敵じゃないか。

 カスミは奥歯を噛みしめながら己の迂闊さを呪った。

 そもそも、その若さながらもジムリーダーとして立派に働いている彼女にとってこの程度の連中など路傍の石ころもいいところだ。

 しかし、それはベストメンバーを一匹でも手持ちに加えていればの話。

 とある事情によりポケモンジムを飛び出した彼女は、ジム用のポケモンとベストメンバーのポケモンを入れ替えることを怠ってしまった。

 その結果、彼女の手持ちはヒトデマン(Lv.18)とスターミー(Lv.21)の二匹のみ。これはバッジ所有数が一つの挑戦者に使用するメンバーであり、レベルもそうだがバトルのトレーニングもそこそこの完成度に留めている。

 それが災いとなってしまった。

 如何にカスミが優れたトレーナーだろうと、このメンバーでこの物量を押し返すのはさすがに不可能だ。

 

「我々の手を取れないというのなら、仕方ありません。我らの野望の妨げとなる可能性は――排除させていただきます」

 

 そう言って男はモンスターボールを取り出して放り投げる。パカリと口を開け、光のヴェールを振り払い顕現したポケモンを見遣り、カスミは驚愕した。

 

「何よ……そのポケモンは」

 

 いや――ポケモン自体は珍しいわけじゃない。毒タイプのポケモンとして代表的な存在であるアーボックだ。

 カスミが驚いたのは、アーボックの肉体だ。

 一流のトレーナーと二流のトレーナーを隔てる壁はトレーナー自身のバトルに対する技術であり、二流のトレーナーと三流のトレーナーを隔てる壁は、ポケモンに対する理解度だ。

 ポケモンにはレベルという概念があるが、だからと身体を鍛えることを怠っていては勝てるバトルにも勝てなくなる。三流のトレーナーはいつまでもそれに気づくことなく、敗北の要因を己ではなくポケモンにあると決めつけてしまう。

 ロケット団はそういう三流のトレーナーがあまりにも多かった。 

 侮れないことはわかっていた。

 だが、このアーボックの完成度は常軌を逸している。

 こんなのエリートトレーナーですら不可能だ。

 そう、まるでジムリーダーが直々に育成したような完成度(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)で……。

 

「さあ、行きなさい、アーボック。我々に逆らう愚か者に裁きの牙を突き立てるの――げぶぅ!?」

 

 アーボックの尻尾が鞭のようにしなり、男の顔面を打つ。

 やはりというべきか、このアーボックは男をトレーナーとして認めていないようだ。見下しきった瞳で男を一瞥してから、カスミに標的を移す。

 

「――――――!」

 

 その鋭利な牙が鈍く輝いた瞬間、カスミはギュッと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ア シ ス ト パワァアァアアアアーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どごぉおおおおおん! 

 激しい爆撃がロケット団を中心に広がった。

 あちこちから悲鳴が上がり、蜘蛛の子を散らすようにロケット団は隊列を崩した。

 

「な、何が」

 

 爆風に髪を煽られながらカスミは呆然と呟いた。

 目を白黒させながらカスミは夢現な気分で視界を右往左往させる。

 するとニビシティ方面の空中に戦闘機のシルエットが浮いている。

 

 そして、

 

 

「あははははは! あーっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

 

 なんか、邪悪な声が聞こえた。

 

「な、何者だっ!!」

 

 ロケット団の一人が誰何の声を上げる。

 

「何だかんだと聞かれたら、答えてやるのが世の情け! だけどそんなこと知ったこっちゃねえ! ロケット団は爆ぜろっ!」

 

 清々しいほどの快活な声を上げて笑っているのは戦闘機のシルエットの上に仁王立ちをしている赤帽子の少年だった。幼い顔に悪戯小僧のような笑みを浮かべ、つり気味の真紅の双眸を爛々と煌めかせている。

 よく見ると少年が足を乗せているのは戦闘機ではなく、戦闘機のシルエットをしたポケモンだった。紅白の色合いと、愛嬌のある顔立ちが印象的だ。

 

「くそ! おい、鳥ポケモンを持っているヤツはあいつを引きずり落とせ!」

 

 次々とモンスターボールが投擲され、そこから無数の鳥ポケモンが顔を出すが、

 

「“アシストパワー”!!」

 

 しかし、たった一撃で全滅してしまった。

 そのバカげた威力に誰もが目を見開き、そして恐怖した。

 そんなロケット団の面子を見下ろし、少年はもう楽しくて仕方がないと笑う。

 

「勝てると思った? お生憎ぅ! おバカなチミたちのために説明してあげようか? この“アシストパワー”という技は、単体だと弱っちいが能力が上昇するたびに技そのものの威力も増していく最強のロマン技だ! 能力の上昇ランクは六段階、そして“アシストパワー”の初期の威力を20と仮定したとき、すべての能力を六段階まで上昇させるとその威力は860にまで上昇する! しかもー、“アシストパワー”は特攻に依存するので、特攻が六段階上昇している場合は更にその四倍! つまり3000を軽く凌駕するというわけだ! おバカなチミたちのためにわかりやすく言うなら、“はかいこうせん”のざっと二十倍でーす。

 そしてぇ、哀しいことに、今、私のポケモンは私が能力上昇のアイテムを大量に使用した結果、まさにその“アシストパワー”の数値は“はかいこうせん”の二十倍以上にまで上昇していまーす」

 

 くつくつと笑いながら少年は講釈を垂れる。

 “はかいこうせん”の二十倍以上。

 そんなバカげたことがあってたまるか。

 そう誰もが否定したいだろう。

 しかしその威力は経験済みだった。まるで隕石が落下したような巨大なクレーター。刹那に焼き鳥になった鳥ポケモンたち。

 ロケット団はもう死人のように真っ青な表情になっていた。

 かくいうカスミも少年の口から滔々と語られた説明に言葉を失っていた。

 

「今まで散々と悪事を働いてきたんだ。たまには被害者に回るのも悪くないだろう?」

 

 ヒュッと誰かが息を呑んだ。

 

「というわけで、二年半振りにアシスト無双を開幕することを、ここに宣言致しまーす」

 

 ――――ふへぇ、と少年は暗い喜悦を孕んだ笑みを最後に零して、

 

「“アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! あははははは! “アーシースートーパワー”!!」

 

「「「に、逃げろおおおおおおおおおーーーーっ!!」」」

 

 ロケット団は一目散に逃げ出した。誰もが他を蹴落とし、自分だけは助かろうとしている。

 しかし少年は逃がさない。

 ロケット団は知らないのだ。

 大魔王からは逃げられないということを。

 

「あははははははははっ! “はかいこうせん”? “だいばくはつ”? “ブラストバーン”? “Vジェネレート”? “ガリョウテンセイ”? “りゅうせいぐん”? “あくうせつだん”? 何それ、そよ風の親戚ですかー!? 

 これこそが最強! これこそが至高!

 粉砕・爆砕。大喝采!!

 “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! 

 

 ……………ピーピーエイド

 

 

 “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! 

 

 ……………ピーピーエイド

 

 

 “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”! “アシストパワー”!」

 

 なんだろう。

 なんだろう、あの一切合財容赦のない悪魔は。

 カスミはいつの間にか憎きロケット団に同情していた。

 あぼーん、あぼーんと人がゴミのように吹き飛んでいく光景の中で、大魔王の高笑いが嫌に反響していた。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

  






 サンムーン発売しましたねー。自分はサンを購入。ロコンがサン限定とかあったから……。今からプレイします。とりあえずラティアスをアルファサファイアから持ってきたいなー。

 というか個人的にはポケモンカードにデルタ種とかいう、同じポケモンなのにタイプが違うっていう設定があるんだから、そんな感じで色違いを別タイプのポケモンにしてほしい。

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