科学の都市の大天使   作:きるぐまー1号

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プロット(そんな大層なものではないけど)はある。
(書く時間があるとは言ってない)


ep.48 9月30日-2

 

 午後1時。風紀委員(ジャッジメント)第177支部。

 

 第7学区にある、とあるビルの一室。守護神(ゴールキーパー)という異名すら持つスーパーハッカー初春によってカスタムの施されたいくつものゴツイPCが並ぶその部屋に、当該支部に所属する学生たちが集まっていた。千乃勇斗、白井黒子、初春飾利、固法美偉、坂本大地の5人である。

 

 ――――千乃勇斗。学園都市のとある高校に通う大能力者(レベル4)。現在高1。近頃『年下好き(マイルドな表現)』疑惑がまことしやかに囁かれているものの、その演算力と能力の応用性故に『レベル4.5』の俗称を頂戴し、最近では『聖人化』すら会得し始めるという科学魔術問わずのハイブリッドなハイスペックさを誇る少年である。

 

 ――――白井黒子。学園都市の内部では知らぬ者などいない超エリートお嬢様学校、常盤台中学校の1年生。非常に希少な『空間移動(テレポート)』の能力を持つ、勇斗と同じ大能力者(レベル4)。一線を越えている感じな御坂美琴(おねえさま)への愛を除けば、そのハイスペックさは勇斗のそれに匹敵するか、もしくはそれ以上である。

 

 ――――初春飾利。柵川中学1年生で、低能力(レベル1)クラスの能力『定温保存(サーマルハンド)』を持つ。能力強度(レベル)は決して高いわけではなく、学業成績も飛び抜けたものを持っているわけでもない。しかし演算力に関しては極めて優秀なものを持っており、それを活かした情報処理能力は電子使い(エレクトロマスター)の最上位である御坂美琴にも匹敵するほどだ。

 

 ――――固法美偉。第7学区の高校に通う高校2年生。ムサシノ牛乳をこよなく愛する。所持能力は強能力(レベル3)の『透視能力(クレアボイアンス)』。精神的にも肉体的にも大人な女性であり、色々と曲者揃いな第177支部を取りまとめ、前線に出ることの多い勇斗や白井を後方から支えている。

 

 ――――坂本大地。勇斗と同じ高校の先輩。固法と同じ高校2年。ガッチリとした体格に坊主頭と見た目はバリバリの体育会系ではあるが、その実校内では上位の成績を維持する努力家。強能力(レベル3)の『念動能力(テレキネシス)』を持つ。前線に出ることは少なく、主に学校や他の支部、警備員(アンチスキル)との折衝に回っている。彼もまた支部を後方から支える頼れる先輩なのだ。

 

 そんな感じで、色々な面で学園都市内トップクラスの支部になってしまった第177支部の頼れるメンバーたち。しかし彼らは一様に疲れきったような表情を浮かべ、部屋の一角を占有する大テーブルを見つめていた。

 

「…………固法先輩。()()は一体何ですか?」

 

 心の底から苦々しげに、勇斗はそう尋ねる。

 

「……今晩23時59分提出期限だった書類ね」

 

 溜息を1つ吐いて、疲労感の滲む声で固法は返答した。その視線の先にあるのは、大テーブルの上にいくつも積み上げられた紙束の山だ。その紙束の正体は、固法が口にした通り本日締切の書類。そしてそれらは全て未処理。何かしらの事務的な処理を要する書類が山――――もはや山脈と呼んでいい代物かもしれないが――――のように積み上げられているのだ。

 

「…………坂本先輩。一体何がどうなれば今晩期限の書類がこんなに積まれることになるんです?」

 

 もともと前期と後期の境目である9月下旬にかけて、事務処理全般は増えるものだ。しかしそれだって普通はこうも酷くはならない。ここまでの量の書類が山積みになるなんて、あまりにも常軌を逸している。常識的に考えてありえないにも程がある。そんな恨み節を視線に込めて、勇斗はジト目を坂本に向ける。

 

「『今月は色々と事件が盛り沢山だったんだから仕方ないじゃん』という回答を貰ってきたぞ」

 

 いっそ何かを吹っ切ったようなステキなさわやかスマイルで、坂本はその問いに応えた。

 

「黄泉川せんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」

 

「お前の気持ちは十分伝わってくるがまあそう怒るな勇斗。かくいう先生たちだって似たり寄ったりな書類の山に埋もれてたんだ。それに都市全体でどこもこんな様子らしくてな。提出期限も1週間延長になるらしい」

 

 そんなセリフを受けて、勇斗は過去の記憶を掘り返す。細々とした些事を除けば、勇斗の周囲で大きな事件が起こり始めたのは7月だったか。下旬に入った頃、インデックスの来訪、幻想御手(レベルアッパー)騒ぎ、それに続く幻想猛獣(AIMバースト)の出現、そして自動書記(ヨハネのペン)発動時のインデックスが放った竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)による人工衛星『おりひめ1号』の破壊。8月には三沢塾騒ぎに、絶対能力者進化(レベル6シフト)計画及びそれに付随する事件群。9月は新学期初っ端からテロリストが街中に入ってきたし、その後には樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)残骸(レムナント)を巡る戦いが起こった。大覇星祭の時期には魔術側科学側それぞれの大事件も発生した。祭りが終わってからも、一度魔術師が学園都市内部に侵入している。

 

 ――――書類が山積みになるのもむべなるかな。どうしてこうも学園都市全体を巻き込みかねないような大事件が、よりにもよって自分たちの周りでばかり起こるのだろう。大きな溜息ひとつ、勇斗はげんなりした表情でそんなことを考える。

 

「…………まあ、でも、今日は留守番1人以外みんなで見回りに出なきゃいけないですし、本格的に取り掛かれるのは明日以降ですかね」

 

 今日は学園都市全体で午前授業が行われるため、街中にはいつもより多くの学生たちが溢れることになる。故に風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の両組織にはいつも以上に厳戒な見回りをするように通達が出されているのだ。そしてこの第177支部にも「事務仕事係(おるすばん)1人を除いてその他全員で見回りをするように」との指示が風紀委員(ジャッジメント)本部から出されている。恐らくその事務仕事係(おるすばん)は初春になるのだが、各地に出ている同僚からの種々雑多な依頼を捌きつつ大量の書類の処理を同時並行でこなすのはいくら彼女でもきついだろう。

 

 そんなことを念頭に置いての勇斗の言葉だったのだが、

 

「そうは言っても、積んでおくよりは少しでも消化した方がいいでしょう? 千乃君と白井さんがいるから、放っておいたらどんどん始末書で書類の山が増えそうだし。というわけで、今日からみんな残業ね」

 

「「ええー……」」

 

 そのあんまりといえばあんまりなセリフに勇斗と白井は唇を尖らせるが、第177支部の誇る鉄壁委員長系先輩固法美偉はあっさりとそう宣言した。

 

「とりあえず初春さんはオペレーティングしながら並行してできる範囲で処理をお願い。無理せずできる範囲でいいからね」

 

「は、はい」

 

「他は完全下校時刻もしくは指示があるまで見回りをお願いね。夕食は大地が手配してくれたおかげでタダでお弁当が食べられるから、買い食いはしないように。はい、それじゃあ仕事を始めましょうか」

 

 そう言い残して、何だかんだやっぱり疲れたように少し肩を落として、固法は部屋を出ていったのだった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 午後1時半。第7学区・広場。

 

 不思議な光景だった。広場の中央、そこに1組の男女が白昼堂々正座をさせられている。そしてその2人の前に苛立たしげに腕を組んで立っているやはり男女のペア。立っている方の2人のその腕には、風紀委員(ジャッジメント)であることを表す緑の腕章が取り付けられていた。要するに風紀委員(ジャッジメント)の見回り中に大騒ぎをしていた2人組がお説教を受けているのである。

 

 いやまあ、そんなに多いことでないとはいえ、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に白昼堂々お説教をされるケースというのもないわけではない(流石に正座はそうそうないが)。つまりこの「お説教」は、あー見つかっちゃったのねドンマイドンマイ、くらいの視線はもらうにしろ、本来そこまで視線を集めるようなイベントではないのだ。

 

 しかし今回は違った。多くの通行人たちが4人の様子を固唾を飲んで窺っている。怯えたような目を向けるものもあれば、横にいる友人と興奮気に話をしているものまで、その反応は十人十色。しかし全員が並々ならぬ関心を向けていることには変わらない。

 

 ―――― 一体なぜか。それは、説教を受けている側の人間の女子の方、彼女がかの有名な常盤台中学の制服を身に着けているということに起因している。校則が厳しいお嬢様学校の生徒が風紀委員(ジャッジメント)のお世話になるなんて一体何事だ! というわけだ。

 

 ――――そしてもう1つ。周知の通り、常盤台中学は強能力者(レベル3)に満たない学生の入学は、たとえ一国の王族であったとしても認めていない。そこの所は完全な実力主義を敷いている。つまり、常盤台の制服を着用している段階ですなわち強能力者(レベル3)以上であるということになるのだ。――――そんな、強力無比な能力者とイコールであるはずの常盤台中学の生徒を、()()()()()制圧して見せた風紀委員(ジャッジメント)ペアの強さ。それが最も周囲の関心を惹いている。抵抗のためか放たれた電撃をものともせず、目にも留まらぬ速さであっという間に無力化した男子と、一睨みで抵抗する気力を圧し折った女子。彼らを敵に回すことがいったいどれほど恐ろしいことなのか、周囲の通行人たちはその光景を見るだけで嫌でも一瞬で理解させられたのだった。

 

「…………と、いうわけで。何か言い訳は?」

 

 何か効果音でも聞こえてきそうな威圧感と共に、風紀委員(ジャッジメント)の男子の方――――千乃勇斗が、正座させられている2人組――――上条当麻と御坂美琴に問いかけた。まあどちらかといえば、その言葉の矛先は御坂の方を向いている。見回り中に第177支部に入った通報も『痴話喧嘩で彼女が能力を使って彼氏を追い回している』だったし。ヒートアップしていたからか止めに入った勇斗にまで「邪魔すんなぁぁぁぁぁ!!」と叫ぶ有様だったし。おかげで勇斗も少し本気を出すことになってしまった。流れ弾で飛んできた電撃を収束させたAIM拡散力場でいなし、荒れ狂う砂鉄を翼一閃で吹き飛ばし、瞬動術(クイックムーブ)で背後をとって、そのまま拘束。なんて一幕があったのだった。

 

「こ、コイツが待ち合わせ時間に遅刻してくるのが悪いのよ!」

 

 というのは(くだん)の御坂の言。まあ確かに遅刻は良くないことだ。恐らく、上条の事だしそのことについて丁寧な謝罪はしていないんだろう。――――だが、御坂は失念していた。勇斗()()に対してそんな言い訳をするならともかく、この場でそんな言い訳をしようというのは良策とは決して言えないのだということを。

 

 ――――なぜなら、

 

「ねえ……御坂さん?」

 

 一点の曇りもないような素晴らしく爽やかな笑み(ただし目だけは除く)を浮かべた、固法美偉がそこにいるからだ。

 

「そんな理由でここ一帯の通信網信号網電子機器を御釈迦寸前まで追いやっていいのかしら……?」

 

「い、……いや、それ……は……」

 

 一瞬で御坂の気勢が殺がれた。9月1日の一件で学園都市に出現した石人形(ゴーレム)みたいな、得体のしれない怪物相手にも勇敢に立ち向かうあの御坂がだ。隣でとばっちり気味に正座させられていた上条も恐怖に震えている。

 

「この街で、電気を操る超能力者(レベル5)のあなたが、無差別に大暴れなんてしたら、……どうなるのかくらいはわかってるのよね?」

 

「重々承知しております!」

 

 修羅か何かだろうか。横で立っている勇斗ですらちょっと寒気がする。なまじ表情が笑っているから余計に。クソ忙しい中余計な仕事を増やされて相当苛立っているのだろう。――――勇斗も勇斗で結構苛立ってはいたが、そんなもの一気に吹っ飛んでしまった。そんなレベルだ。

 

「わかってくれればいいのよ。わかってくれれば、ね」

 

 意味深にわずかに間をあけて、固法はそう言って微笑んだ。

 

「(勇斗さん……? もうわたくしまで心が砕け散ってしまいそうなのですが……?)」

 

「(多分次同じことがあったらあの視線がお前にも向くからな。流石に俺もかばいきれねえわ。嫌ならもう遅刻すんなよ。あと一応御坂に謝っとけ)」

 

「(任務了解)」

 

 青い顔で震えながら、上条はそう呟いた。

 


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