ガノタの野望 ~地球独立戦争記~    作:スクナ法師

2 / 18
1ターン目 ガノタ、コロニーに立つ

サイド1・ロンデニオン

 

宇宙世紀の初期に造られた歴史あるコロニー。

 

外観は他のコロニーと同じく、円筒形に採光用のミラーパネルが三枚付いたオーソドックスな形のコロニーなので、外から見た時には気付かなかった。

 

機動戦士ガンダム 逆襲のシャアーの舞台の一つであるこのコロニーの街並みは、イギリスをモデルにした古い欧州の建築様式の建物が主流で、日本人の俺に異国情緒を感じさせる。

 

劇中では地球連邦政府の宇宙での政治的重要拠点の一つで、主人公アムロ・レイ大尉が所属するロンドベル隊の母港でもある。

 

 

電動自動車のエレカとリンクしたハロに連れてこられたのは、コロニーの中心部に建てられた一際豪奢で大きな建物。

 

確かネオジオン総帥のシャアと連邦政府高官が裏取引をしようとした場所だと思う。

 

その玄関口に降ろされると、蝶ネクタイに髭を描いたハロと、メイドさんのカチューシャを着けたハロが出迎えてくれた。

 

『ハロ、ゴ主人シンジ』

 

「…こっこんにちは」

 

本当にハロしか居ないんだな…

 

ピョンピョンと跳ねながら進む執事ハロに通されたのは、如何にも貴族趣味的な執務室のような場所だった。

 

『座レ、座レゴ主人』

 

「…ありがとう」

 

広い部屋の奥に、窓を背にして置かれた高そうな机… そこに座れと言うのか?

 

恐る恐るこれまた高そうな椅子に腰掛けて、クッションのあまりの柔らかさに驚き腰を浮かしかける。

 

『オ茶ガ入ッタゾ。 飲メ、飲メ!』

 

「どっどうも…」

 

球体からひょろ長い手足を伸ばしたメイドハロが、ティーセットを乗せたカートを押してやって来てお茶を勧めてくれる。

 

手にした白磁に綺麗な模様の描かれたカップの中身は緑茶だった…

 

『美味イカ? 美味イカ?』

 

「…美味しいけど、何で緑茶?」

 

『シンジ緑茶好キ!』

 

…何で俺の好みを知ってるんだ?

 

…深く考えるのは止めよう…

 

 

「うん、そうだね。 有り難う、美味しかったよ。 次からはティーカップじゃなくて湯呑みに淹れてくれると、もっと嬉しいかな」

 

『ワカッタ、ワカッタ! 任セロ!』

 

 

「お願い」と言ってそのままメイドハロには下がってもらった。 後に残るのは俺と執事ハロ。

 

溜め息を一つ吐いて改めて室内を見回す。

 

壁には掛けられたアンティーク時計がチクタクと刻を刻み、重厚な本棚にはハードカバーの本が隙間なく整然と並べられている。 目線を下にやれば真っ赤な絨毯がフカフカと床を敷き詰め、部屋の中央には高級品であろうソファーとテーブルの応接セットが置かれている。

 

 

部屋に自分が釣り合ってないが、此所がコロニーでの仕事場のようなのでパーカーのポケットからPSPを取り出して仕事を始める事にした。

 

先ずは戦力の把握から、現在6隻のマゼラン級戦艦と24隻のサラミス級巡洋艦にコロンブス級補給艦が20隻ある。

 

機動兵器は、艦載機として作業用ポッドに最低限の武装を施したボールに戦闘機のセーバフィッシュとトリアーエズ。

 

コロニーの直援にも同じ機動兵器が搭載されている。

 

 

生産可能な兵器は…

 

 

航空機に艦船、戦車か…

 

「…はっはっはっ。 どう考えても地上では戦術機の方が強そうだ」

 

戦闘機や爆撃機を飛ばしても、BETAの長射程、高精度を誇る光線種の良い的だ。

 

海上艦は…使えない事もないが微妙。

 

後は61式戦車か… 戦力には数えられるかもしれないけど、この世界の主力兵器、戦術機に比べたらね~…

 

 

あっ! ザクⅠとⅡは作れるんだった!

 

確認、確認。

 

 

 

…コストが高い。

 

 

あれだろうな。 この能力のベースになったのが、シミュレーションゲーム・ギレンの野望の連地球邦軍データがベースになってるから敵軍のジオン公国軍の兵器は敵国技術なんでコストが掛かるんだろうな…

 

ザクⅡ3機分のコストでボールが9機、戦車なら15両は作れる。

 

それだけのコストに見合う戦力かと言われれば首を捻らざるを得ない。 無重力化下の空間性能には文句はないが、BETAとの戦闘は重力下の地上がメインだろうからザクのスペックだと戦術機の方に分があるように思う。 

 

空間戦闘でも、たまに来るであろう宇宙からの飛来物、BETAの降下ユニットだか航行ユニットだかが仮にコロニーに向かって来ても、マゼランやサラミスに現艦載機で対応出来ると思う。

 

手が足りなければコストの安いセーバーフィッシュを増産すれば、コロニー防衛には充分だろう。

 

資源を使わなくても、生産ラインには限りが有る。 PSPから発せられた生産指示は、コロニー内のファクトリーエリアでオートメイションで作られる。 そして製造ラインには限りが有り、コスト=手間暇が掛かる物ほどにラインを占領してしまう。

 

先程のザク3機でボール9機と言ったのは、一つのラインでザクなら3機を作るのに3日、ボールなら一日で3機出来ると言う意味だ。

 

今現在、コロニーの生産ライン数は10本有る。

 

この十本を効率的に使わなければならない。

 

 

「ボールだとフルにラインを使って一日に30機。セーバーフィッシュと半々で作るか」

 

PSPの決定ボタンを押して生産を開始。

 

次にコロニー内の運営状況を見てみる。

 

ロンデニオンコロニーの総人口は、一人。 各種ライフラインは正常に稼働中。食糧自給率は500万人まで養える生産量を誇り、今のところ一人だけなので余った食材は保存しているとの事。

 

「…食糧と引き換えに、土地貸してくれないかな?」

 

この世界の食糧事情は悪かったはず。 生存圏を狭められ大勢の難民が発生したおかげで、まともに三食食べられるのはお偉いさんと軍人さんが優先させられる。 おまけに、食べられても人工食糧だかなんだかの合成食品が不味いので、皆我慢してるんだよな…

 

コロニー内生産用に品種改良されているとはいえ、殆どが天然物食品だから良いとは思うけど、それで土地を貸してくれるかはこれまた微妙だな。

 

 

そんな事を考えつつも、PSPを操作して現状の把握をしていく俺。

 

日用品は居住区の工場で、兵器の補給品はファクトリー区画の別ラインで在庫状況に合わせて生産される。 追加生産も受け付けるのか…

 

後で視察がてら日用品を買いにいこう。

 

服装も部屋着のパーカーとジーンズから着替えないと、この部屋とミスマッチ過ぎる。

 

 

異常な状況に置かれても服装に気を配る余裕があるのは、元の性格故か適応性の高いニュータイプの能力を付加されたためか…

 

 

 

その後もコロニー内のマップや部隊配置等を確認していると、いつの間にか窓の外は暗闇に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「お忙しい中、緊急の召集に集まって頂き有り難うございます。 皆様の耳にも届いているとも思いますが、先ずは此方を御覧ください」

 

スーツ姿の男性がそう言って合図を送ると議場の明かりが落とされ、演台の後方に設置された巨大プロジェクターに映像が映し出される。

 

漆黒の星の海に月をバックにして浮かぶ三枚羽の円筒形の建造物に、国際連盟議場に居る各国の要人達が静かに息を飲んだ。

 

 

「この映像は12時間前に、月と地球の中間地点、アメリカ宇宙軍と日本帝国宇宙軍の管轄境界線上に表れたものを撮影したものです」

 

遠方からの多角で撮られた映像がプロジェクターに映し流れて行く。

 

映像が切り替わる度に日本帝国とアメリカ合衆国の国連大使を除く人々がどよめき騒ぐ。

 

そんな中、映像は静かに流れある場面で停止された。

 

それは最大望遠で写し出されたアップの映像。 街並みの様な物が見える円筒形の内部と、それを背後に守るようにして砲口をカメラに向ける戦闘艦と思われる宇宙船。

 

議場に集まった人々は絶句した。

 

 

「…ご静粛に。 この映像に映っている円筒形の巨大な建造物は、専門家が映像を検証して計測したところ全長約35km、直径が6km超の大きさであるとの見解が報告されました」

 

進行役のスーツ姿の男性の言葉に議場は再び騒然となり、皆が口々に「バカな!」 「有り得ない!」と口にする。

 

「建造物と一緒に映っている戦闘艦とおぼしき宇宙船の方は二種類が確認され、緑色の大型艦が全長300m超。 小型艦の方でも200m超だと推測されるそうです。 映像から確認出来た数だけでも20隻を超える数が確認され、また艦船の間を行き交う噴射炎が多数確認されている事から艦載機を搭載している可能性も専門家から示唆されております」

 

 

もはや唖然として言葉を発する事が出来ない各国大使達。 そんな中でアメリカ合衆国と日本帝国の大使だけが腕を身動ぎせずに黙していた。

 

 

騒然とした中でいち早く気を取り直した黒髪に焼けた肌の男が、洒落た仕草で議長に向けて手を軽く上げて発言を求めた。

 

「イタリア大使」

 

「有り難う。 …年が明けたばかりでエイプリルフールにはまだ早いと思うのだが? 仮にこれが事実だとしても、その宙域を担当する偉大なるアメリカと誇り高い日本の優秀な兵士達は何故ここまで近づかれるまで気付かなかったんだい?」

 

名前を挙げられた二国の大使はその言葉に僅かに眉を動かしたが、それだけで今は納めた。

 

進行役の男はそれを目だけを動かして確認すると白い歯を見せるイタリア国連大使に向き直り説明する。

 

「数年前の天体観測記録から調べましたが、あの宙域に向かって進行する物体は何もありませんでした。日本とアメリカの宇宙軍が記録していた映像でも、あれが現れる一時間前には付近には異常はまったくみられません。 あれはあの宙域に突然表れたのです」

 

 

「それであれは何者なのかね? 何かしらの接触は?」

 

白いスーツを着た金髪の男性、フランス国連大使が優雅さを感じさせる口調で話に割り込む。

 

「今現在までに相手からのアクションはありません。 何者なのかも… 人類なのかBETAなのか、それとも…」

 

「あれに関する対処は、我が軍とアメリカ政府が責任を持って対応するので任せてほしい」

 

進行役の言葉を遮ったのは今まで黙って座っていたアメリカ合衆国国連大使だった。

 

 

「ほう… それは何故ですかな?」

 

アメリカ大使の言葉に返したのは、薄い笑みを崩さないフランス大使。

 

「我々の管轄で起きた事だ。 故に我々が対処する。 それだけだ。 …それに今はBETAへの対応で各国に余裕はあるまい? ならば余力のある我が国がやるしかない」

 

「…ほうほう。 貴方の国のお心遣いには痛み入りますな~」

 

「待って下さい。 あれの対応には我が日本帝国も参加させて頂く」

 

 

今度はアメリカと同じく、黙りを決め込んでいた日本帝国国連大使が話に割り込んで来た。

 

 

「…失礼だが、貴国にそれほどの余力が有るとは思えないのだが?」

 

「いえいえ、貴方の国ばかりに苦労を掛けるのは心苦しいのですよアメリカ大使殿」

 

 

睨み合う日本、アメリカの両大使。そこに割り込むのは笑みを絶やさないフランス大使だった。

 

「宜しいのでは? 合衆国のみに任せるのは他の国々も心苦しいでしょうし、ここは我々の代表として日本帝国にアメリカと一緒に動いて貰うと言うことで… 合衆国は単独でも行動出来ますので、日本帝国には我々フランスがEUを代表して後方支援をさせて頂くと言う事で…」

 

そこまで言うとフランス大使は、イギリス、ドイツ等のEU加盟国の国連大使を見回し、頷きの肯定を得た。

 

この状況にアメリカ大使は歯噛みし、日本大使はなんとも言えない気分になった。

 

今回の国連緊急召集を掛けたのはアメリカ。 彼の国は軍の撮影したとある映像を見て、正体不明の勢力との交渉をあわよくば独占するつもりだった。

 

既にある程度の情報が各国に流れ始めてはいたが、その映像の情報は流れていない今ならば国連認定で交渉役として認めさせるチャンスを得ようとしたのだが、気になるのは日本帝国も同じ映像を軍から得ていないかだった。

 

杞憂は現実となり、捩じ込む日本と後押しするフランス。 彼の国は良く利く鼻で何かを嗅ぎ取り、ちゃっかり便乗してきた。 EU諸国も、イギリス本土防衛強化並びにユーラシア大陸奪還の為の戦力増強にアフリカ防衛で余力があまり無く、今のところはEU加盟国のフランスを潜り込ませておき後に益となるようであればフランスを足掛かりに入り込む腹積もりであった。

 

ソビエト連邦と中華人民共和国は地球上の最初のハイブ、オリジナルハイブの攻略戦において欲を出して失敗し、ハイブの定着と光線種の出現を即す失態を犯した事と、国土を失い余力も無い事で今回の未知なる勢力との交渉は様子見する事にした。

 

あわよくは自分達に被害が出ない形でアメリカが交渉を失敗して、発言力が低下するのを望んではいたが…

 

 

未だに国土の大半を有するオーストラリアも今回は静観して益のある方へ付くつもりで水面下交渉に入ろうとしていた。

 

 

その他の国々には発言する力もなく静観する構えで事態を見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

ロンデニオン・コロニー

 

 

 

「へぶしっ!」

 

くしゃみして目覚めた。

 

何か変な事が起きなきゃいいけど…

 

 

『ハロ! シンジ起キタ?』

 

「…おはようハロ。 朝から元気だね…」

 

低血圧でぼーっとする頭を軽く掻きながら体を起こす。

 

執務室でPSPを弄り、腹が減ったのでコックハロが切り盛りするハロ食堂で軽く夕食を摂ってシャワーを浴び、バスローブ姿で就寝した昨日を思いだし軽くため息を吐く。

 

 

安物の簡易ベッドから降りてスリッパを履き、目を醒ますために部屋の隅に据え付けられた洗面台へとノソノソと歩く。

 

最初に寝る場所としてハロに案内されたのは、天蓋付きの金持ちベッドのある部屋だったが、そこで眠る気になれずに一般職員の仮眠室らしき部屋に腰を落ち着けて眠った。

 

スチール机にテレビにパソコン、洗面台にシャワーとトイレが付いた10畳ほどの部屋の壁に収納出来る簡易ベッドの寝心地は中々のものだった。

 

少なくとも庶民の俺には溺れそうな柔らかさのあのベッドよりは此方のほうが落ち着く。

 

 

蛇口を捻り冷たい水を出して顔を洗う。 水を顔から滴らせてボーっと蛇口を見つめる。

 

(科学の粋を凝らして作られたコロニーなのに、蛇口のデザインが古くさいな… ああそうか。 確か懐古趣味的なデザインが、真空と壁一枚隔てて生活するスペースノイドに落ち着きをもたらす設定だったっけ?)

 

水が蛇口から流れて排水口に吸い込まれるのを眺めながら、今日の朝食の事を考えた。

 

 

 

「しかし何だね? 我々の計画予定宙域にあのような物が現れるとは、どんな神の導きだろうね?」

 

星条旗が掲げられた部屋の執務机で、両手と足を組み白髪を撫で付けた初老の男性が青い目を細めて来訪者に語り掛ける。

 

「はっ、我々の計画にとって追い風になる存在である事を願います。 さもなくば…」

 

制帽を脇に挟み、多数の勲章をぶら下げた軍服の男は姿勢を正し、踵を鳴らして目の前の白髪の男性に答える。

 

「物騒だね君は…? それに“我々の”ではなく、あの計画は人類という種の為の計画だ。 故に“我々の”という言葉は不適切だよ…」

 

目を閉じた憂いを滲ませる顔を俯かせて白髪の男は軍服の男に語る。

 

「はっ! 申し訳ありません大統領閣下」

 

「…大統領。 アメリカ合衆国大統領…。 私は先人達の偉業に泥を塗る最低の大統領として記憶されるのだろうね…? それだけじゃない、私は今現在BETAと戦っている合衆国軍兵士… いや、世界中で人類の勝利の為に献身する人々を、この計画を進める事で裏切り続けている…」

 

「閣下… その様な事はありません。 貴方は歴代のどの大統領にも劣らない人物です。 貴方以外の誰にこの計画の英断が下せたでしょうか? 貴方以外に居りますまい。 貴方は人類と言う種を後世に残すために、苦渋の決断を下した… 貴方はガッツのある方です。後世に嘲られるべきは、事態に勝利の希望を見出だせない軍人たる私です閣下」

 

合衆国大統領と呼ばれた男は、古い友人の言葉に苦笑を洩らして和らいだ目を向ける。

 

「君は今も昔も最高に頼りになる私の大切な友人だよ将軍? 私は君以上に勇敢で有能な軍人を知らない。 私が保証する、だから誇っていい」

 

「はっ!ありがとうございます閣下」

 

「…お互いに年を取ったものだね… 君と一緒にファントムに乗って戦場を駆けずり回り、あのクソッタレBETAと戦っていた頃が懐かしいよ… あの頃も苦難の連続だったが、人類と祖国の勝利を微塵にも疑わなかった…」

 

「…はい」

 

在りし日の光景を細めた瞳で思い返し、懐かしくも悲しい思いに狂おしくなる二人。

 

 

「戦って、戦って…戦い抜いた。 しかし、長い戦いで若さとともに希望を失っていった… それでも諦めきれずに、より大きな力を求めて私達は上を目指した。 地位を得て、より大きな力で戦いを挑んだ。 …持てるものも使えるものも全てを使った。 だが、BETAはその悉くを嘲笑うかの様な物量で押し潰していった…」

 

「閣下…」

 

「神を信じ、国を国民を信じ、人類を信じたが… 光を私は見出だせなかった… 調査機関の計算では、人類に残された時間は最長で10年… 次代の大統領…人類に望を掛けるには余りにも時間が無さ過ぎる。金持ち共が提案した地球脱出計画を各国の人間を平等に受け入れる事を条件に認めたが…」

 

 

「国連に第5予備計画として近々採決するご予定だと…」

 

「そうだ… 第4計画を推し進める国々とは揉めるだろう。 しかし、人類を後世に残す為に打つ手は多い方が良い。 仮に各国が一丸となってBETAと戦い、それで勝って生き残る希望が僅かにでもあるならば私は協力を惜しまないつもりだ。 しかし、第4計画は余りにも不確定要素が多過ぎる… それに人類の種としての命運を全て掛ける事は私には出来ない。私は少しでも可能性が高い方に賭ける」

 

 

大統領の握り締めた拳から血が滲み出し赤い絨毯に落ちて行く。

 

「たとえ新型爆弾を持ってしても地球上の人類の未来は… 永久に汚染された土地でどうやって復興しろと? 汚染されていない土地だけでは地球上の全人類は養えない。 口減らしか? 戦争が起こって自滅するだけだ… 地球上のBETAを倒したとしてもそれで奴等との戦いが終わった訳ではない。 むしろ今まで以上に苦しい戦いになるだろう… 食料を始めとした物資生産の不足、貪欲に犠牲を求める戦争で磨り減る人口…」

 

疲れ果てた老人は椅子に沈み込んで静かに目を閉じた。

 

「我々はダメだったが、新天地で生き残った新世代の人類がBETAを…」

 

老人の小さな呟きは誰の耳にも届かず室内に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。