ガノタの野望 ~地球独立戦争記~    作:スクナ法師

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15ターン目 それぞれの動き

アメリカの中枢部であるワシントンDC。 その象徴にして頭脳であるホワイトハウスでは、京都の御前会議と時を同じくして政府首脳が集まり、話し合いの場が持たれていた。

 

「ロンデニオン行政府への派遣者は、各省の調整通りにこれで良いだろう。 民間からの候補者選定も私から付け加える事は無い」

 

会議室円卓の一席に座るエデンは、資料を読むために掛けていたメガネを少しずらして円卓の一同を見渡す。

 

「他に付け加える事は?」

 

短く尋ねる大統領に国防長官が手を上げ、エデンは彼を見やると小さく頷き発言を許可する。

 

 

「もう少し此方からもアプローチが必要かと… 帝国の斯衛を中心としたグループに動きがあるとの情報も入っており、諸外国もロンデニオンに注目し始めています。 他の国々や、帝国との差を少しでも広げるために人員をもっと送り込むべきです」

 

「ふむ… しかし、行政府へ送り込む人員には定数が設けられている。 そして企業に関しても段階的に受け入れると言って来ているので一度にそう多くは送り込めないが?」

 

口元に薄っすらと笑みを浮かべ、試す様な目で国防長官を見るエデン。

 

それに応える様に国防長官もまた笑みを浮かべる。

 

「それ以外で送り込めばよろしいかと。 ロンデニオンは半島でMSの試験運用をするとの事… ならば、我が軍からその試験運用に協力すると言って人員を送り込む… これまでのロンデニオンの行動を見ると、MSを始めとした新兵器の運用試験の為に新たに人員派遣要請を出してくる可能性が高いものと思われます。 ならば先に此方から人員の派遣を打電して、帝国よりも多く、そして早く送り込むべきです。 そしてそれとは別に、帝国斯衛の動きに連動して頓挫しているプロジェクトへの協力を仰いで見ては?」

 

「…そうだな。 試してみても損は無いか… ロンデニオンの製造予定の兵器は多岐に渉り、その技術の吸収は早い方が良いだろう。 異論は?」

 

「外務省としましても、その案には賛成です。 軍事的な繋がりが強くなれば、ロンデニオンとの軍事条約を我が国単独で結ぶ切っ掛けになってくれるやもしれませんので…」

 

「CIAも賛成しましょう。 成功すれば、“保険”になってくれるかもしれませんし…」

 

あの准将がアメリカ単独との軍事条約を結ぶのは難しいと思いながらもその点は黙って置き、“保険”については備えとして必要と考えたエデンは、

 

「…よろしい。 では派遣する兵員の選抜を各軍始めたまえ。 それと“JSF計画”の担当者達にも話を通して置くように。 …後はイギリスにも外交官を派遣して現状の説明を」

 

「よろしいのですか、プレジデント?」

 

「このままロンデニオンとの交流が続けば、何時かはばれる。 ならば早めに此方からばらして“女王陛下”に恩を売るとするさ」

 

「フランスではなく、ですか… 阿漕な事をなさいますな」

 

CIA長官は人当たりの良い笑みを浮かべながら、大統領を見詰める。

 

「国連だ、ユーロだと騒いでも、未だに人類は一つには成れん。 悲しい事だな… “そと”から見たらさぞや愚かしく見えるだろう。 だが、これが今の人類の限界さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球から帰還して一週間。

 

長らくロンデニオンを留守にしたツケとして、デスクに山積みになった書類にサインを入れるお仕事が今日も始まる…

 

基本、ロンデニオンコロニーの行政は、コロニー制御の中枢を兼ねるゼファーが宇宙世紀のコロニー運用データを基に処理しているが、人に見せる必要の有る決済や通知には俺のサインが必要になってくる。

 

因みに今までは、コロニーに滞在する人の意見や要望は、日米の軍、民それぞれの代表者が意見を纏めて、コロニー据え付けの端末を介して送る事によりゼファーに届く仕組みとなっている。 ゼファーの事は地球に降り立つ前に、コロニー管理AIとして紹介しておいた。 流石に本体の正体は明かしてないが… これに日本とアメリカ政府からの要望書が大使館経由でやってくるので、紙の山脈が出来上がる。

 

 

サラサラとペンを走らせると、決済済みの箱へ書類を移して次の書類を机に置く。 この辺の知識も刷り込み済みらしく、今の所は何とかやっていけている。

 

只今のコロニー人口は1万人を少し超えたほどだから、定員数の滞在者が来た場合はこの書類の山がどれだけ増えることか…

 

現在、ロンデニオンコロニーは、日本帝国の種子島とアメリカのケネディー宇宙センターに航路を敷き、自動操縦のHLVロケットを中心として一日に1~3便が往復している。 60基あるHLVを増産して便数を増やそうかとも考えているが、生産力に物を言わせて新型輸送艦を造ろうかとも考えている。

 

ロケットの推進力で大気圏往復をするよりも、ミノフスキークラフトを使用した方が搭乗者の負担は遥かに少ないので、ペガサス級をベースとした輸送艦でも作ろうかしら? …贅沢だ。

 

 

あっ。 アメリカさんから、コロニー内にキリスト教の教会を開きたい要望が来てる。

 

神父さんは従軍神父さんから派遣するのか~

 

まあ良いんでない? 住宅地区に空いたスペースが有るから、建設指示を出して置くか。 帝国さんは、お寺とか神社はいいのかな?

 

執務室の端末で居住区画のデータと、教会建物の建築データを呼び出して確認する。

 

コロニーのデータバンク内には、コロニー環境に合った各種建築物の設計データが登録されているので、立地場所と設計データを選べば後はプチモビに乗ったハロを中心に、日米の工兵さんも参加して建設が開始される。

 

データ画面を見ているとシムシティーを思い出す。

 

 

え~と次は歓楽街の設営… ごくりっ…

 

人には息抜きが必要だ。 うん。 許可、許可。

 

…なんとなく、同室している秘書官二名の視線が冷たい…

 

そうそう。 地球から帰還すると、日米から一名づつ秘書官が付けられました。

 

両脇をがっちりと固められたみたいです。

 

秘書官として派遣されたのは、ロンデニオン駐在の日米大使の元補佐官であるケイトさんと節子さん。 ロンデニオンの交渉事は、多かれ少なかれ外務省経由が常なので外交畑の人間が良いだろうという説明を受けている。

 

比較的、大使からのお使いとして来る事が多く、接する時間が長い二人に対して打ち解けて少し鼻の下を伸ばしたのも関係あるかも…

 

いや、如何わしい事はしてないですよ? 手を出すどころか、セクハラしただけでも何を仕掛けられるか分からないですからね~

 

何気ない風を装った仕草に、くらっと来ることは有りますが… 勘が鋭いのも考え物だな。 いっそ何も知らずにお花畑に埋もれたい…

 

執務室での時間はある意味地獄だよ…

 

アムロ大尉のシャイアン時代に思いを馳せつつも書類を捌いて行くと、ゼファーからの報告書を発見。

 

内容は、予てから予定していた“学校”と“教習所”の準備が完了した報告だった。

 

学校とは、そのまま“ロンデニオンスクール”の事で、今までコロニーに受け入れた知識、技術交流目的の人々を本格的に受け入れるための施設だ。

 

現在特許出願中のイヨネスコ型・熱核融合炉も含めた、宇宙世紀技術の根幹とも言うべきミノフスキー物理学や、その他の知識を学べる唯一の場所として、既に日米から多数の入学願いが来ている。

 

学校とは言っても講師役の人間が居ないので、そっち方面に特化して調整されたハロが教鞭を取り、本校のデータベース等を参照して学んで貰う予定だ。

 

そして地球連邦の大学検定を基準に試験を行い、卒業認定を受ければ晴れて学位習得で卒業となる。 卒業後は、ロンデニオンスクールの講師、教授として雇い入れたいが、確保できるだろうか?

 

ちなみに、後藤さんを始めとした家の整備班とアシガラ、リバティープライムの機関員も、本人たちの強い要望によりスクールに席を置く事になっている。 MSや訓練艦に搭載されている核融合炉の簡易的な整備や調整はハロから指導を受けているが、重要な作業をハロ任せにしているので、本格的に整備できるようになる為に学びたいのだそうだ。

 

 

 

次に教習所なのだが、これは港湾作業やコロニー内の土木、建築作業に従事している人々に、前々から嘆願書が来ていた物が発端だ。

 

彼らは、港湾作業を行っているハロ操縦のボールやプチモビを見て、自分達も使ってみたいと言って来たのだ。

 

元々が工兵や宇宙軍からの出向者、予備役入りした人々が、日米の宇宙艦艇受け入れ等の為に来ているのだが、彼らが使う軍支給の作業用強化服よりも、ボールやプチモビの方が作業可能時間や作業効率が高そうなので使いたいとの事。

 

両軍の補給担当の上層部も乗り気で、ボールやプチモビの操縦を正式にレクチャーして欲しい、レクチャーしてくれるなら機体を購入したいとの打診を受けている。

 

その要請に応えるべく設立を準備したのが、“MS”教習所だった。

 

こちらもハロが教官役を務めており、教習所に設置されたデータベースで学科を、シミュレーターや実機を用いて操作を習得するようになっている。

 

免許にはMS操縦ライセンス一種A、一種Bと二種A、二種Bが用意され。 作業用ボールやプチモビが二種でガンダムやジムなどのMS操縦は一種に区分されている。

 

二種に関しては、基本誰でも習得する資格を有しており、一種に関しては習得できるのは軍関係者か、軍に許可を貰った者のみ習得資格が得られるようになっている。

 

また両種のAB区分については、Bが重力下での使用限定に、AはBに加えて宇宙空間などの無重力下での使用許可となる。

 

こちらの方も既に入校希望が多数寄せられており、既に半年分の教習予約が埋まっている。

 

 

 

そして学校がらみの書類をチェックし終わると、提出者であるゼファーから端末にメールが届く。

 

何かしらと開いてみると…

 

「ぶっ!?」

 

吹いた…

 

リアルに吹いた。

 

なんと、今まで音沙汰が無かった“上”からのメールであった。

 

いきなり噴出した俺に、何事かと秘書官二人が視線を向けるが何でもないと誤魔化して改めてメールを読む。

 

 

 

“今まで連絡しなかった事をすまなく思っている。

 

君の様子は此方でも確認はしていたのだが、君を送り込んだ事による世界境界線の揺らぎでこちらからコンタクトするのは無理だったのだ。

 

君の現状は把握している。 幸いにも境界線の揺らぎが早く収まり、予定していた追加の支援を送ることが出来るので受け取って欲しい。

 

そしてこれが我々からの最後の支援になる事を理解して貰いたい。

 

これ以上の異物の混入は、其方の世界の境界線を崩してしまう可能性があるからだ。

 

君には本当に申し訳ないと思っている。 願わくばこの追加支援が少しでも君の力になる事を…”

 

 

監視されてんのか!? 

 

“大丈夫だ。プライベートは見てない”

 

メールじゃなくてチャットだと!?

 

文面の下に新たに現れた一文に再び驚愕!

 

“追加支援の内容だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

…上からの追加支援の内容に溜息を洩らす。

 

此方の現状は把握しているようで、たしかに助かるモノだ。 大いに助かる。

 

けど、俺の仕事がまた増えたようだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻・アメリカ ヒューストン基地

 

 

「ふぁーーあぁ」

 

薄暗い室内で目の前に光るモニターを見詰めていたアーネスト・ジョーンズアメリカ航空宇宙軍少尉は不意に欠伸を洩らした。

 

勤務時間終了まであと一時間。

 

彼が担当するモニターには、木星方面を警戒する監視衛星からのデータがリアルタイムで送られてくるが、火星や月方面とは違い何かが接近してくる事は殆どない。

 

 

勤務時間が終了したら何をしようか? 同僚のキャシーでも誘って… 

 

ピピッ、ピピッ。

 

少しだらしなく緩んでしまった顔を右手で撫でつけ、甘い夢想を浮かべる彼の耳に小さなアラーム音が届き現実に引き戻した。

 

珍しく隕石でも発生したかとモニターに目をやる少尉。

 

最初はモニターに表示されている情報を理解できなかった。

 

三度、目を瞬いてモニターに写るリアルタイム画像と文字列を再度確認。 漸くその意味を把握した少尉はあたふたと席を立ち、デスクに置かれていた冷めたコーヒーが転げ落ちるのも構わずに自分の上司がいるパーカッションで仕切られたブースへと一目散に駆け出していった。

 

 

何事かと顔を上げる同僚達に見送られて彼が去った後には、広大な宇宙をバックに浮かび上がる小惑星とそれを取り巻く小さな噴射光を映し出したモニターが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

荒れ果てた大地。

 

遠い砲声を耳に捕らえながら、薄汚れた戦闘服姿の兵士達が塹壕の中で身を寄せ合うようにしてひと時の休息を取っていた。

 

 

朝鮮半島 第三次防衛ライン

 

半島での人類側の最前線基地に当たる場所。

 

第一次、第二次防衛ラインが、大東亜連合、国連、日本帝国軍の各戦術機部隊が交代でラインを警戒、形成する為に、常時部隊が展開しているこの場所こそが半島最前線とも呼べる場所になっている。

 

第一次と第二次へと展開する戦術機部隊の兵站基地でもあるこの場所の中心には、ひび割れたコンクリートで固められた地面と、戦術機を始めとする兵器群を格納する即席の格納庫、武器弾薬が収められたコンテナが積み上げられ、前線を指揮する各軍司令部が置かれていた。

 

そして兵士達が潜む塹壕はこの中心部の北の外縁部に位置している。

 

「はぁぁあ…」

 

塹壕に身を預けていた兵士の一人が目を細め、肺に溜め込んでいた煙をゆっくりと吐き出す。

 

吐き出された紫煙は、軍曹の階級章を付けた兵士の目の前でゆっくりと立ち上り消えていく…

 

 

咥えタバコの兵士が視線を廻らすと、塹壕の中では補給物資が入ったケースを囲んで、ある者は包装紙を向いたパウンドケーキにかぶり付き、ある者は彼と同じようにしみじみとタバコを燻らせ、そしてある若い兵士は飴玉を胸のポケットに大事に仕舞いこんでいた。

 

飴玉を仕舞いこんだ若い兵士は、確か北の出だったな…

 

咥えタバコのままに軍曹はそう思い浮かべる。

 

故国の大地半分ほどを化け物どもに蹂躙され、今現在も蹂躙され続けている。

 

彼の家族は確か、南で避難船の順番を待っていると聞いた覚えが有った。

   

元は農家の出で、父親ともども徴兵されて半島北部初期防衛戦で父親は戦死。 残された母親と幼い妹に仕送りしていると…

 

胸に仕舞いこんだ飴玉は後でその妹にでも送るのだろう。 だから大切そうに仕舞いこんだ…

 

 

このご時勢で、甘味を始めとした嗜好品は貴重だ。 普通の人民が手に入れるのは難しい。 胸のポケットを優しく撫でつけ、少し嬉しそうな顔をしているのは、妹の喜ぶ顔でも思い浮かべているのであろう。

 

 

ユニバースという名前の聞いた事の無い銘柄のタバコを燻らせながら、軍曹は優しく目を細めて若い兵士を見詰めた。

 

 

 

 

戦術機を始めとする兵器群を操る兵士達に比べて彼ら歩兵の待遇は厳しい。

 

大東亜連合に属するアジア各国。 戦術機を始めとする兵器群を各国は独自に調達した上で連合軍に参加させているが、歩兵に関しては手が廻らない現状だった。

 

酷いものでは、各国の磨り減った歩兵部隊を寄せ集め、多国籍混成部隊を形成している始末である。

 

彼らの部隊もその内の一つ。

 

国土を失ったとはいえ、大国である中国は歩兵部隊の体裁を保つ事が出来るが、比して人口の少ない国々の部隊は補充の当ても無く、こうして寄り添いあうことで戦い続けていた。

 

 

対BETA戦力として期待できない歩兵。 混成部隊…

 

混成ゆえにその扱いも難しく、指揮系統は煩雑を極め。 そのツケは補給品にまで付いて廻った。

 

辛うじて弾薬やレーションなどは届いてくるが、嗜好品の補給は途絶えて久しく。 今回のサプライズは彼らにとって嬉しい限りだった。

 

突然の日米からの支援の申し入れを、困惑しながらも背に腹替えられぬと受けた大東亜連合。

 

その先駆けとして送られてきた嗜好品を始めとする補給物資は、困窮する連合を驚かせた。

 

半島全域に展開する部隊すべてに行き渡るほどの物資量。

 

しかもこれが手始め…

 

物資受け取りに立ち会った大東亜連合高官は自身が驚きつつも、受け渡しに来た日米の高官が若干顔を引き攣らせていたのが印象的だったと後に語っている。

 

 

何にしても、久方ぶりに鋭気を養えた前線の兵士達。 

 

彼らの傍では嗜好品と共に贈られた、139mm口径の重誘導弾が陽光に鈍い光を光らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本海上・高度20mを優雅に航行する白亜の艦があった。

 

ペガサス級の姉妹艦・ホワイトベース。

 

奇しくもこの世界でも、周りを刺激しないように補給艦として公表された艦(ふね)。

 

日米共同軍・ロンデニオン部隊所属艦・機動補給艦ホワイトベースと言う長ったらしい名称を与えられた当艦は、ロンデニオン琵琶湖基地建設に先駆けて地上に降ろされていた。

 

 

その任務は二つ。

 

一つは琵琶湖基地建設地に連日降りて来る物資を満載したHLV。 その物資は基地建設の資材だけでなく、大東亜連合への支援物資も含まれており、それを琵琶湖に寄港した日米の輸送艦と共に半島へと運ぶ役割を担っていた。

 

もう一つは日米軍の航海員の育成訓練。 こちらは一つ目に便乗する形で織り込まれたものだ。

日米共にペガサス級一隻の供与は既に決まっており、それとは別に両国はロンデニオンにもう一隻ペガサス級の購入を打診してきた。

 

これに対してロンデニオンは大東亜連合各軍への物資輸送と、“その他”の便宜への見返りに無償供与を決断した。

 

しかしこの決断がちょっとした騒ぎを両国軍部に巻き起こす。

 

既に最初に供与予定のペガサス級は、両国共に航空宇宙軍所属とする事に決まっており、人員育成も航空宇宙軍を中心に進めていた。

 

当然二隻目も宇宙軍所属になるものと思われていたが、ここに待ったを掛けたのが陸軍と海軍。 アメリカに到っては、海兵隊も加わり壮絶な奪い合いが始まった。

 

紛糾する会議。

 

それぞれの軍の長が自論を展開し、自軍にペガサス級を引き込もうとした。

 

航空宇宙軍は、

 

「ペガサス級は航宙艦なのだから、宇宙軍が引き取るのが筋だ」

 

海軍は、

 

「大気圏内での運用も十分可能で、海上艦との連携も取れる。 いい加減、海軍にも新造艦を配備されたい」

 

陸軍は、

 

「陸上での戦術の幅が広がり、戦力の底上げも期待できる当艦を是非に陸軍に!」

 

海兵隊は、

 

「強襲! 強襲! 正式名称が、強襲揚陸艦だと聞いております! なら海兵隊に!」

 

 

ペガサス級が万能艦と呼ばれるだけあって、各軍に引っ張りだこであった。

 

 

混沌とした議会は収集がつかず、とりあえず二隻目のペガサス級の所属は保留となり、その結果、両国の各軍は少しでも自軍のアドバンテージを得るためにそれぞれの高官をロンデニオンに送り込み、ロンデニオン管理官に直接面談させて乗員育成協力を要請した。

 

基本的にロンデニオン管理官は事なかれの平和主義であり、この世界になるべく広く技術を広げたいという考えであるために、全軍の乗員育成を受け入れる結果と相成った。

 

そうしてホワイトベースの人員は、両国の陸海空宙軍とアメリカ海兵隊を孕んだ寄り合い大所帯となってしまった。 この辺までもオリジナルのホワイトベースと似たようになってしまったのは、もしかしたら宇宙世紀の因果が流れ込んでいるのかもしれない…

 

 

そんな混沌とした艦を任されたのは、アメリカ航空宇宙軍からロンデニオンへと出向中のジョン・イーストウッド大佐。

 

新鋭艦リバティープライムの艦長から、ペガサス級二番艦・ホワイトベースの艦長へと配置替えとなったのだ。

 

余談だが、近々准将への昇進も決まっている。

 

図らずも“規模”が大きくなってしまったロンデニオン。 その管理官が准将のままでは対面が少し厳しいという理由から、日米両国は協議して管理官の階級を上げる事に合意。

 

管理官の昇進と同時に、やがては軍の新しい礎とも成るであろうイーストウッド大佐、坂田大佐を始めとしたロンデニオン出向組の一階級昇進もまた決まっていた。

 

 

が、当の管理官が昇進に少しごねているので少し先に成りそうではあるが…

 

 

 

ブリッジ中央に一段高く配置された艦長席で、前面の超硬化プラスチック製の窓から見える景色を不思議な気持ちで眺めながらコーヒーを啜っていた。

 

重力がある地上なので、蓋とストローの付いたプラスチックのカップではなく、陶器のコーヒーカップで香りを思う存分に満喫できるのは良いが、宇宙軍の自分が地上に降りてこの寄り合い所帯を指揮するとは、つい半年ほど前には想像もつかなかったとぼんやりと考えていた。

 

視線を落せば、其処に映るのは着慣れたアメリカ航空宇宙軍の制服ではなく、落ち着いたダークブラウンを基調としたシンプルな制服。

 

余りにも雑多な所属者の仲間意識を統一する為にロンデニオンから支給された地球連邦軍の制服を乗員は着用していた。

 

「ふむ」

 

悪くはないなと、最近伸ばし始めた顎鬚を軽く撫でながら一人ごちると、飲み干したカップを艦長席の傍らに静かに置いた。

 

『ハロ! 下ゲテイイカ、キャプテン?』

 

「ああ。 頼むよ」

 

艦長席の足元に控えていた白い球体ボディーに小さく黄色い十字星が付けられたハロが尋ねると、少し表情を緩めながら大佐は応える。

 

するするとアームを伸ばしたハロがコーヒーカップとソーサを掴むと、低く弾みながらカップを提げていく。 

 

その後ろ姿を見送りながら、頼むから割るなよ?と密かに愛用のコーヒーカップを案じる大佐。

 

その隣では日本帝国航空宇宙軍から出向してきている副長、松村 邦彦大尉が艦内視察から戻って忍び笑いを洩らしていた。

 

「大丈夫ですよ艦長。 あれで結構器用ですから」

 

「分かってはいるんだが…」

 

やはりあの動きには不安を覚えるらしい。

 

「…で、艦内の様子は?」

 

「異常無しです艦長。 最初は少々ぎこちなかったですが、人間関係に問題は今のところ見られません」

 

二つの国の、それも各軍から集まってきた乗員達が乗っているのである。 何かしらの問題が起こっても不思議ではないのだが、教官役を務める先任の両国宇宙軍兵士達が上手く纏めていてくれるらしいとの報告をうけて大佐は少しだけ胸を撫で下ろした。

 

元々が海軍よりも大らかな所がある航空宇宙軍。 空軍と宇宙軍の合併を経験し、常日頃から地球という惑星を宇宙から見守ってきた彼らは、他国の軍への隔たりが他に比べて低いのが幸いしていた。

 

それに“ハロ”の存在もまた大きかった。

 

受け入れ人員の増大に伴い、ロンデニオン管理官が提案したアイディア。

 

新技術を学ぶ人、コロニーでの新生活を始める人達のサポートを行うために、既存のハロをリファインした量産型ハロの生産。

 

既存のハロの下位に当たるOSを搭載しているので情報処理速度が劣り、コロニー中枢機能を始めとする重要区画へのアクセスこそ出来ないものの、その他の機能はほぼ同レベルである量産型ハロは軍だけではなく、民間への提供も考えられており戦艦の各ブロック班、整備班、コロニー内の各施設、果てはコロニー港の案内嬢などの一部へと先行支給されており、好評を得ていた。

 

仕事のサポートから、持ち主の健康チェック。 そしてこの世界では一部にしか普及していない携帯端末としての機能と、愛嬌のある挙動からロンデニオン各部署は言うに及ばず、日米の政府や企業、果てはどこで聞きつけてきたのか、フランスを始めとするEU諸国に支給や提供販売をせっつかれている。

 

無論、ホワイトベースにもハロは居る。

 

ペガサス、ホワイトベース、サラミス級練習艦・アルキメデスとコペルニックス、後藤整備班長の指揮する整備班には特に優先的に配備されていた。

 

ちなみに先ほどの白いハロはイーストウッド大佐専属のハロであり、高級仕官向けとして星付きになっている。

 

ともあれ、ホワイトベースのあちらこちらに転がるハロは、簡単な会話の受け答えや携帯端末機能… (現代人ならこの機能の面白さと中毒性の恐ろしさは分かってもらえると思う)により乗員は暇さえあればハロとコミュニケーションを取り端末を弄くって新機能の発見に精を出し、それらの情報交換などで自然と交流が増えたのが人間関係の円満化に繋がった。

 

ようは新しい玩具に群がって一緒に遊ぶ大きな子供達なのかもしれない…

 

またしても余談ではあるが、某管理官が秘書官に教えた顔文字などがコロニー内に広がっており、コロニー内の各所に端末が設置されているコロニーの住人達は新しい顔文字の発見に勤しんでいるんだとか。

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い室内で、キーボードを目にも留まらぬ速さで打ち込みながらながら数式を入力していく女性…

 

国連軍の制服の上から白衣を纏った彼女はEnterキーを一際強く叩くと、結果を映し出したモニターに親の敵でも見るような苛烈な視線を送る。

 

エラー

 

10秒ほど睨み付け、右手で目を覆いながら顔を上に向け重い溜息が吐き出された。

 

 

帝国軍 白陵基地 

 

オルタネイティブ4。 第四計画の為に用意され、近い内に国連軍横浜基地と呼ばれるであろうこの地に、 帝都大の研究室から引っ越してきた第四計画総責任者・香月夕呼。

 

引越し早々に彼女は行き詰っていた…

 

ロンデニオン管理官から指摘を受けた00ユニットの問題点を洗い出していた彼女は、早々にその壁に行き当たり、立ち往生してしまっていた。

 

00ユニットの肝ともいえる中枢部。 演算機能を司る部分の問題がどうしても解決しない。

 

今のままでは余程の技術的ブレイクスルーか、新理論でも思いつかない限りどうしようもない。

 

少なくとも今の自分には思いつかない。 時間を掛けても完成まで漕ぎ着けるか?

 

時間的余裕がまだ少しあった為に、彼女は冷静に状況を整理していく。

 

 

どうしたら… ピー…!

 

 

思考の海に埋没しそうになった彼女だが、不意に鳴ったインターフォンのブザーが現実に戻す。

 

髪を掻き揚げながら再び溜息をつくと、細い指で通話ボタンを押し彼女は声を掛ける。

 

「何かしら?」 

 

「研究中に申し訳ありません香月博士。 実は…」

 

秘書官であるイリーナ・ビアティフ国連軍中尉から報告を受けた夕呼は、暫しの黙考のあとに三度目の溜息を吐くと言った。

 

「社を呼んでちょうだい。 …ああ、それと“荷物”は私から渡すからこっちに持ってきて。 それとコーヒーを…」

 

応答を終え通話ボタンから指を離すと、椅子の背もたれに寄り掛かり深く体を沈みこませる夕呼。

 

ギシリッと椅子が軋む音だけが室内に響いた。

 

 

 

 

 

10分後

 

部屋の明かりを点けて応接のソファーに身を沈ませた彼女の前には、相対するソファーにちょこんと座る銀髪の少女・社 霞と、二人の間に置かれたテーブルの上の湯気の立つコーヒーに包装された30cm四方の箱が存在していた。

 

箱には封筒とカードが付いており。 封筒には自分の名前が、カードには

 

“社 霞さまへ”

 

と書かれていた。

 

包装のリボンに挟まっていた自分宛の封筒を抜き取り、裏面に返して差出人の名前を確認するとロンデニオン管理官の名前。 箱を持ってきたのは帝国情報局の鎧課長…

 

 

封を破り中身を読む。

 

そして素早く読み終えると彼女は脱力して肩を落し、再び溜息を付いて目の前に置かれた箱を霞へと押し出した。

 

「?」

 

「あんた宛てよ」

 

無表情ながらも不思議そうに、こてんと小首を傾げる霞にどこか疲れたように言う夕呼。

 

「いいから開けてご覧なさい」と勧める夕呼は、自分を慰めるようにコーヒを啜りだす。

 

勧めに従いラッピングされた箱を開けようとするが、箱の上に飾られた赤いリボンの解き方が分からずにリボンの端を摘んでは離すを繰り返していた。

 

見かねた夕呼が何度目とも知れぬ溜息を吐きながらカップをテーブルに置くと、蝶々結びが綺麗に施されたリボンの両端を指で摘み左右に開くジェスチャーをして見せる。

 

自分で解かずに、本人に解かせようとするのは彼女の優しさなのかもしれない。

 

 

夕呼のジェスチャーを真似て、そっとリボンの両端を細く小さな白い指で摘み、すっとリボンを引く霞。

 

瞬間、目の前でふわりとリボンが解かれ、少女は今までに感じたことのない胸の鼓動を感じ取った。

 

少しづつ高鳴る鼓動と微かに震える指先に戸惑いを覚えつつ、丁寧に真っ白な包装紙を剥がして行く。

 

 

包装が解かれ、あらわれた箱の蓋をそっと持ち上げる。

 

 

箱の中には、援衝材代わりに詰め込まれた真っ白い綿とその中心に包まれるライトグリーン色の球体。

 

「香月博士…」

 

思わず箱から顔を上げて夕呼を見やり呟く霞。

 

すると少女の声に反応して箱の中の球体が起動し、円らな瞳を瞬かせる。

 

『ハロハロ!』

 

「えっ…?」

 

突然聞こえた電子音声に思わず視線を向ける霞。

 

そこには羽のように耳をパタパタとさせて瞳をちかちかと輝かせる存在が居た。

 

『ハロ元気! カスミ元気?』

 

「えっ、あっ…」

 

元気の良い謎の球体に、突然名前を呼ばれて戸惑う霞。 それを見て夕呼がクスクスと忍び笑いを洩らす。

 

「そいつの名前はハロ。 ロンデニオンのサポートロボットなんだけど、子供向けの使用も作ったんだって。 それで管理官が顔見知りの子に配ってモニターリングしてもらってるらしいんだけど、そいつは社に送られたの。 つまり、あんたの“ハロ”」

 

「えっ… 私の…?」

 

『カスミ! カスミ! 嬉シイ? ハロ嬉シイ!』

 

「ほらほら、いいかげん煩いから箱から出してやんなさい」

 

夕呼の言葉に従い、おずおずと両手を伸ばし箱からハロを持ち上げる。

 

『ハロ!』

 

小さな両手の中で相変わらず元気に耳をパタパタさせるハロを少女はじっと見詰め、その間に夕呼はテーブルに散らばった箱を丁寧に片付けると、それもカスミへと渡す。

 

「はいはい、静かにしないとバラすわよハロ? 社、さっきも言ったようにコイツはあんたのだから面倒見なさい。 ついでにコイツの感想を管理官に手紙でも送れば向こうも喜ぶでしょう。 さあさあ、行った行った。 私は仕事がまだあるんだから」

 

「で、でも、どうしたらいいのか…」

 

「説明書が箱に入っているし、後はビアティフにでも相談しなさい」

 

そう言って夕呼は右手にハロ、左手に箱を持ちおろおろとする霞の背中を押して部屋の外に出すと、再び静かになった部屋の執務机に体を沈める。

 

 

「…まっ、霞の珍しい顔も見れたし、偶にはこんな座興もいいでしょう」

 

ぼんやりと殺風景な天井を見上げながらそう呟いた彼女は、唐突にある事を思い浮かべる。

 

暫しの間、関連する事象を考察した夕呼は、隣室に控えるビアティフ中尉へと内線を繋ぐ。

 

直ぐに応答に出た秘書官だが、その背後からはハロの電子音声が聞こえてくる。

 

その事にクスリと笑みを零した彼女は、帝国首相と会えるようにアポイメトンを取るように告げると直ぐに通話を切り、早速自分の準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、死ぬぅ…」

 

そう呻きながら机に突っ伏した黒髪の人物は僅かに身動ぎした。 そんな彼の前にコトリと置かれる湯気立つ湯のみ。

 

のっそりと顔を上げ、盆を胸に抱き清楚に微笑む艶やかな黒髪の秘書官に疲れ果てた顔で笑顔を向け礼を言うと、男は体を起こした。

 

熱い湯のみを両手で大切そうに掴み、目じりの端に薄っすらと涙を浮かべながら幸せそうに茶を啜る人物。 この世界で今をときめく人物にはとても見えないだろう。

 

此方の世界に来て10ヶ月が過ぎ、特にこの二ヶ月ほどは激しい激務に追われて疲れ果てたシンジであった。

 

 

気を利かせた“上”からの追加支援。

 

その説明と調整、琵琶湖基地建設に大東亜連合への支援物資などでカツカツに詰め込まれたスケジュール。

 

正直、何度か魂が肉体の束縛から離れそうになった。

 

疲れ果ててヨロヨロの自分に比べ、同じ勤務時間なのに秘書官二人はどうしてこうも美しいままなのだろうか? 湯飲みを手に、惚けたように自分達を見詰める視線に勿論彼女達は気付いている。 視線に応えるように日本人秘書官は淑やかでありながら艶のある笑みを、アメリカ人秘書官は情熱的でありながら妖しい笑みで見返し、シンジは先ほどとは違う意味の涙を目じりに浮かばせた。

 

「お疲れ様出した管理官。 スケジュールも順調に消化しましたので、明日は予定通りに休日がお取りになれます。 本当にお疲れ様でした」

 

帝国から派遣されてきた葉山節子秘書官の言葉に再び嬉し涙を浮かべ、幸せを通り越して昇天しそうな笑みを浮かべるシンジ。

 

休みだ。 休みなんだ…!と、しんちゅうでしみじみと呟く彼にアメリカから派遣された秘書官、ケイト・フィルシャーから声が掛かる。

 

「明日の休日は何かご予定がありますの、管理官?」

 

先ほどまでの艶はなりを潜め、一転して軽やかに自然とした口調で尋ねる彼女に彼は、「寝ます」と即答する。 美人からのお尋ねに、自分でもないなという返答をしつつも体が求める睡眠への欲求に彼は抗えなかった。

 

 

翌日、朝も遅くに自室のベッドで目覚めた彼は前日の宣言に従い目覚めてからもベッドの上でごろごろとしていたが、30分ほどで飽きたらしくバスルームへと姿を消した。

 

シャワーを浴びて、髪をタオルで拭きつつ見上げた先の時計が示す時間は午前10時。 自室のあるロンデニオン政庁の食堂で軽く食事を済ませた後に、彼は街へと繰り出すことにした。

 

 

街へと出ると、人口が一気に7万人を越えたコロニーの商業区は以前よりも賑わいが増していた。 HLV便だけでなく、日米の再突入艇まで動員したロンデニオンへの移住は順調に進んでいて、

今日この日にも移住者を乗せた便がロンデニオンへと到着して港で新しい住人を迎え入れている。

 

街を行き交う人々を何気なく観察しつつも、シンジは行きつけの和菓子屋に向かへと向かう。

 

「いらっしゃいませ。 あっ、藤枝さん。 お久しぶりですね」

 

丁寧で人当たりの良い店主に挨拶を返し、いつも座る畳敷きの席へと腰を下ろしてお茶とお勧めの茶菓子を注文するシンジ。

 

程なく注文の品が運ばれ、中途半端な時間帯の為か客がシンジだけの為に、店主と茶のみ話を咲かせる。

 

「暫く来れませんでしたけど、お店のほうはどうでしたか?」

 

「おかげさまで、お客様もよく来られるようになりました。そうそう。 最近では、アメリカ人のお客様も随分と来られるようになったんですよ? 中には気に入っていただけて、よく通って下さるお方も居られます。 嬉しいかぎりです」

 

「それは嬉しいですね~」

 

出された茶を啜り、芋羊羹を摘みながら小一時間ほど店主と話していると、新しい客が店へとやってくる。

 

スーツにコート、帽子を被った男は応対した店主に注文を告げるとシンジの居る席の向かい側にテーブルを挟んで腰を降ろした。

 

「今日は休日ですかな“少将”?」

 

「ええまあ。 それと私は准将です」

 

「時間の問題でしょう」と帽子を脱ぎ、店主が持って来た茶を男は啜り始めた。 シンジも茶のお替りを頼み、しばし茶を啜る音だけが店内に響く。

 

楊枝で刺した芋羊羹を一切れほうばった男はやおらに会話を再開する。

 

「少将に便宜を図って頂いたお陰で、此方へ来るのも随分と楽になりました」

 

「准将ですって。 お力に為れたら幸いです」

 

現在男は、ロンデニオン管理官のシンジからの便宜でロンデニオンのHLVに自由に乗れるようになった。 …主に貨物室へ。

 

搭乗する際に一応のチェックをHLV担当のハロから受けるのだが、余程危険な物を持っていない限りは彼を貨物ゲートから素通りさせていた。 コロニー港でも同じで、貨物通路をフリーパスで通れて人目に付かずにコロニーへと出入りできている。

 

「いや~。 実際、本当に助かっていますよ。 天国を通り越して、その“スジ”の者にとっては聖域と化しているこの場所に、楽に入れるのですから」

 

「それはそれは… 手荒な事は無しですよ?」

 

「勿論。 紳士協定は遵守させて頂きます」

 

今や、各国のスパイが鎬を削る場所となったロンデニオンコロニー。 密閉空間のコロニーに諜報員を送り込むだけでも至難の業であるのに、例え潜り込ませたとしても直ぐにハロとゼファーの監視網に引っ掛かり監視される始末。 もし、少しでも不穏な行動を取れば、即座に近場のハロが口の中に仕込んだトリモチもしくはスタンガンで無力化、拘束する仕組みになっている。

 

商業区にダミーの爆弾を仕掛けて、ロンデニオンの目をそちらに向けた隙に重要区画に潜り込もうと計画した諜報員は、爆弾をロンデニオン駐留のアメリカ軍兵士 (これも工作員の一人)に受け取ろうとしたところ、兵士ともどもトリモチ塗れになった。

 

また、アメリカ軍兵士に紛れ込んだフランスのトリプルスパイは、ハロを捕獲して本国に持ち帰ろうとするも、スタンガンの反撃を食らい御用となっている。こちらの方は当初、CIAの関与を当人が仄めかしていたが、ゼファーが集めた情報を目の前に提示すると敢え無く降参した。

 

このようにロンデニオン側で秘密裏に捕獲された行動を起こそうとした諜報員達は、シンジ自身が各諜報機関の長に直通ホットラインを極秘に“無理やり”繋いで交渉した結果、丁重に本国へと送還されている。

 

無論それは今シンジの目の前に居る男、帝国情報省に所属する鎧衣も例外ではなかった。但し彼の場合、ロンデニオンへと入港する際に役職こそ偽っていたが、本名そのままで帝国軍の宇宙艦から堂々と正面きって入ってきたのだ。

 

危険物の隠匿もなかった故に、監視だけで済んだ彼はあの日、シンジとの対面が叶ったのだ。 もしも彼が事を起こす素振りを少しでも見せればその場で御用となっていたが…

 

そういう理由で、スパイホイホイの異名を持ったロンデニオンコロニーは潜り込み身を潜めるだけでも多大な能力を必要とする事から、超一流の諜報員のみが居る場所、“聖地”と相成った。

 

そしてその聖地で身動きが取れなくなった凄腕の諜報員達。引くことも進む事も出来ない彼らにシンジはある取引を持ちかける。

 

ロンデニオンの情報をシンジ自身が彼らに流す代わりに、彼らからも“ある程度”情報を流してもらい、今後荒事を控えて欲しい。

 

現在のロンデニオンの諜報は、ゼファーによるハッキング等が主流だ。 データとして記録されているのであれば、たとえそれがどの場所のどんなに厳重なプロテクトが掛かったものでも痕跡を残さずに入手する事が出来る。 それは正確無比なデータだが、それだけで諜報を成り立たせるのは難しい。 故にそれ以外の別の角度での情報を得る為、そして各所への人的な繋ぎを得る意味でロンデニオンに潜む諜報員達に取引を持ちかけたのだった。

 

このままでは何の成果も得ぬまま飼い殺しの目に遭う事を危惧した諜報員達は、長考の末にこれを了承。 流石に本国の情報はそう流せないが、他国の情報を主に流す事で取引は成立する。

 

以降は、最重要区以外での諜報活動 (破壊活動を除く)をロンデニオンは見逃し、言わば出来レースの結果を本国へと流す見返りにロンデニオンは地上の様々な情報を得る事が出来るようになった。

 

ちなみにこの事をシンジ自身から聞いた、各国諜報機関のトップも黙認している。 彼らとしては、何の成果も得られぬ事で周りから無能呼ばわりはされたくなくないし、寧ろ相手と独自の交流を持つ事に政府内でのイニシアチブを取りたいという考えだった。

 

そして鎧衣は帝国側の諜報員代表のようなものになっていた。

 

「そうそう。 頼まれていました“贈り物”に関しては、確かに届けておきました」

 

「雑用を頼んですみませんでした。 普通に送るよりも鎧衣さんに頼んだ方が早いし、香月博士も安心して受け取ってくれると思いましたので…」

 

「いえいえ、息子の分まで頂いて此方こそ気を使わせてすみません… しかし私が持っていったところで博士が安心するかは…?」

 

「貴方が博士を害するような“モノ”を渡すわけないでしょう? 少なくとも“現状”では… それとお子さんは娘さんでは?」

 

「さてどうですかな? 娘… 息子のような娘? 娘のような息子? はて、どちらだったかな?」

 

恍けた風をわざとらしく装う鎧衣に苦笑を洩らして茶を啜るシンジ。

 

「…時に今のバカンスの流行は宇宙旅行… このロンデニオンが流行りのようですな?」

 

「へえ…」

 

「なんでも、アメリカ財界のご隠居さんが近々お見えになるとの噂を耳にしました」

 

「それはまた…」

 

「しかもそのご隠居は、日米両政府と秘密裏に交渉しようとしているとも聞きました。 …波乱の予感がしませんか?」

 

その問いに答えずシンジは苦笑を浮かべたまま空になった湯飲みの底を見続けていた…

 

 

 

 

 

 

病は気からとは何処の国の言葉であったか…

 

齢(よわい)70を越えたガウン姿の老人は杖を付きながらも背筋をピンと伸ばし、寝室の窓から夜空を見上げていた。

 

白髪に深い皺が刻まれた相貌だが、その立ち姿には老齢を感じさせない生気が宿っている。

 

つい半年ほど前にはベッドで半ば寝たきりになっていたとは思えない威風を醸し出す老人は夜空の先に在るモノを見出そうと目を細めながら己が半生を振り返っていた。

 

アメリカの地方財閥の後継者として生を受けた自分。

 

世界大戦を経験し、財団の主になった頃、人類は宇宙に進出し始めた。

 

宇宙進出、開拓地(フロンティア)へ…

 

あの当時の自分は、地方の財団の主という窮屈な責務を忘れさせるその言葉に初めて情熱を注げる意義を見出せていた。 古くからの慣わしや因果に縛られた自分は、広大な宇宙(フロンティア)へと子供染みた憧れを抱いていたのを覚えている。

 

宇宙開発への事業展開と多額の投資。 それらは人が宇宙から追い落とされた後も財団の繁栄の一端を担い、カーマインをアメリカ有数の財団へと変貌させた。

 

そう。 人類を宇宙から追い落とした存在、“BETA”と戦う為の剣。 “戦術機”の齎す利益だ…

 

しかしその剣を持ってしても人類の劣勢は覆らず、徐々に逼塞(ひっそく)していく世界…

 

窮屈な世界が絶望で更に狭まっていき、やがて老いと共に光を見出せなくなると表舞台から自分は降りた。

 

手を伸ばせば微かに届いた宇宙(そら)は、遥か遠く星明りさえ消えたように錯覚した。

 

窮屈な世界を自ら閉ざし眠りにつこうとした自分の瞼に微かな“光”を感じ、徐々に明るさを増した光に目を開くと…

 

かつてこの地に辿り着いた先人達。 カーマインの故郷であるアナハイムを切り開いた先人達もこの光を見たのだろうか? 今の自分と同じ心情だったのだろうか?

 

貧困に圧政。 様々な苦難に挑み、切り拓いた先人達もこの光を目指したのであろうか?

 

ならばその血を引く私もまた、この光を目指そう。

 

老い先短い身。 最後に思うが侭に道を拓いても罰は当たるまい。

 

 

何時の間にか老人の顔には、全盛期をも越える気概の不敵な笑みが浮かんでいた…

 

 

「どれ、眠りし者に火を灯した守人に挨拶をしにいくか」

 

 

老人は見上げた夜空にオーロラを幻視していた…

 

 

 

 

 

 

 

執務室で榊は疲れの溜まった目頭を軽く揉み、サインを描いていた手を少し休めた。

 

今年もあと二ヶ月ほど残ってはいるが、帝国総理大臣に赴任して以来… いや、政治家として歩みだして一番忙しい時期だと榊はふと振り返る。

 

ロンデニオンの琵琶湖基地設営も正式に承認されてまだ二ヶ月も経っていないのに、既にロンデニオン側の受け持ち作業は完了しようとしていた。

 

連日物資を満載したHLVが琵琶湖へと降り立ち、球体ロボットが作業用ロボットを操って、24時間フルタイムで作業を行った結果、あと二週間ほどで艦船ドッグを含めた生産ラインが整うという所まで来ているとロンデニオンの方から既に報告が来ていた。

 

生産区画は二種類に別れ、一つはロンデニオン単独で生産し、もう一つは現地で採用した人員を使って生産する事になっている。

 

基地の生産部門と施設建設の人員も含めて日本帝国に裁量は全て任されている。 自国の公民問わず優秀な人員を厳選して送り出すのは勿論の事、施設建設の出資者であるアメリカからも人材を引き入れなければならず、その厳選にも神経を随分と磨り減らした。

 

アメリカにも出資者としての旨み、ロンデニオンの技術に触れさせる機会を“琵琶湖”で多く持たせる事が帝国の国防に繋がる事になると認識している。

 

そしてその事をロンデニオンは理解しており、帝国にその為のチャンスを提供してくれているのだと榊は確信していた。

 

実際に現地へと飛んで建設地を視察した彼の眼には、土地さえあれば帝国やアメリカの力を借りる事無くロンデニオンだけで基地の全施設設営が可能に見えた。 寧ろ、帝国とアメリカが設営に関わる事で全施設の完成が長引いているように榊には思えていた。

 

ロンデニオンの意図は完全に掴む事は出来ないが、この与えられたチャンスを最大限に生かすべく再びペンを彼は走らせる。 やる事は山済みで、更には横浜から難題が持ち上がってきてもいる。

 

ふと机の脇に置かれた写真立てへと視線を移す。

 

「…。 悪い父親だな…」

 

瞳を細め、写真に写る娘を見詰める榊。

 

この国の、子供達の、愛する者の未来の為にと願いながらも家庭を顧みる事無く生きてきた… そんな自分に反発するのも当然かと苦笑を浮かべる。しかし、それでもいいと納得している。 娘達へと未来を繋ぐ為にも、今は娘に憎まれ、他者に売国奴と蔑まれようと構わない。

 

重責を刻んだ顔に、僅かな哀愁を滲ませながら榊は再びペンを握るのであった…

 

 

 

 

軍人としての責務を果たし、散っていった先人達の遺影が壁一面を埋める室内。 重苦しい空気に包まれた二人。

 

一人は斜陽が差し込む窓を背に、重厚な黒檀の机に座る黒人男性。 アメリカ陸軍の制服をきっちりと着こなし、襟には大佐の階級章が縫い付けられている。彼の背後には斜陽に照らされた星条旗と、同胞の血と名誉に彩られた隊旗が掲げられ、室内に居るもう一人の人物は正面の人物から焦点をずらすようにそれをなんとはなしに見詰めていた。

 

壁に掛けられた時計の刻む針の音だけが室内に満たされていく…

 

石像の様に揺ぎ無い造詣の顔に掛けられた丸眼鏡を右手で直し、大佐はゆっくりと口を開く。

 

「貴様が問題を起こしたのは、これで何度目だユウヤ・ブリッジス訓練生?」

 

「はっ! 5度目であったと記憶しております大佐」

 

日系人である為に余計に幼く見える容姿をピンと起立させ、はっきりと応える訓練生に愁眉を寄せる大佐。 対してユウヤは何処吹く風とそ知らぬ顔で相対し、大佐の眉を更に寄せさせる。

 

「そうだ。 5度目だ。 釈明は有るか?」

 

「有りません!」

 

大佐はこの年頃の若者が良く見せる態度に軽く睨み付け、内心では目の前の若者のナイーブさを見透かして苦笑を洩らしていた。

 

「結構。 あらましはヘルズ軍曹から聞いている。 カークス訓練生の言葉に激昂し暴力行為に及んだそうだな?」

 

「っ…。 カークスは自分を侮辱しました!」

 

「日本の世間話を食堂で持ちかけた事が、なぜ貴様への侮辱になる?」

 

「自分はアメリカ人です! 日本の事を詳しいなどと思われる事は侮辱意外の何もの…」

 

「たかが世間話で貴様は、将来命を預けあう兄弟を殴るのか!?」

 

激昂してみせる大佐に、思わず身を竦ませて僅かに後ずさるユウヤ。 しかし、追撃は止まらない。

 

「会話の内容は確認している。 カークス訓練生には何の落ち度も無い! 貴様は勝手に相手の言葉に激してカークスを殴った! 戦友を、兄弟を殴ったのだ! この意味が分かるか!?」

 

「っ!? 分かりません!」

 

「ファック! いいか!? 貴様は確かに成績は優秀だ。 しかし! 戦場で最後に頼りになるのは隣に立つ戦友だ! 貴様の下らんコンプレックスなど戦場では、クソの役にも立たん! 役に立たんどころか、自分はおろか戦友をも死なせるぞ!」

 

睨み合う二人。 大佐にしても黒人であることから、多かれ少なかれ偏見と差別を経験しているので日系人であるユウヤの心情を少しは理解できる。 しかし、この所の彼のコンプレックスは度を越してしまっている。

 

既に陸軍衛士養成所では孤立を深め、これ以上彼を置いて置けば重大な事態に成りかねないとの報告を担当教官から報告を受けているが、実技、座学とも成績は優秀なユウヤをこのまま辞めさせるには惜しくもある。

 

そこで彼の内情も少なからず分かる大佐は、ここで賭けに出ることにした。

 

「…ユウヤ・ブリッジス訓練生。 貴様には当養成所を出てもらう」

 

「なっ…!?」

 

突然の宣告に言葉が出ないユウヤ。 大佐は厳しい態度を崩さない。

 

「…そして貴様にはロンデニオンコロニーに新設された戦技研究部隊へ転任してもらう」

 

アメリカ軍はロンデニオンの新技術とその運用法を逸早く確立すべく、政府と共にロンデニオンへと働きかけ、ロンデニオン側の受け入れ体制が整った事により各軍から兵士を選抜していた。

 

選抜対象は現役の兵士だけでなく、成績優秀な訓練生も対象としており、大佐が預かる養成所にもその話が来ていた。

 

成績だけならばユウヤは文句の付け所は無い。 後は大佐の決断のみ。

 

この問題児に、新天地での名誉挽回とコンプレックスの荒療治のチャンスを与える事にしたのだ。

 

「納得できません! 自分はこの養成所で誰にも劣らぬ結果を残しています! その自分に養成所を出て、“あんな”所に行けなど…!」

 

「自惚れるな! その“程度”で自分を特別な存在だと思うなよ!? 貴様にはロンデニオン戦技研究部隊に行ってもらう! …拒否するのであれば、軍を辞めるしかないが?」

 

険しい表情で奥歯を砕かんばかりに噛み締めるユウヤ。 自分が嫌悪する奴らが居る場所に行きたくもない、拒否したい。 …しかし、そうなれば軍を辞める事になる。 そうなれば周囲の奴らに自分を認めさせる… 母の心から“アイツ”を追い出す事が出来なくなる。

 

「…了解…しました…!」

 

ユウヤの搾り出すような返答に頷き返す大佐。 そこで彼は暫し思案顔になり、やがて傍らの端末を操作して何事かを確認する。

 

「…二週間後にロンデニオン行きのフネが出る。 転任の手続きの方は一週間ほどで完了するだろう。 手続きが完了したら残りは休暇とする。 …暫く簡単には会えなくなる、御母上に会って来い」

 

「えっ…」

 

「以上だ。 詳しい事は事務官に聞いて怠り無く準備するように。 下がってよろしい」

 

思考が追いつかず立ち尽くすユウヤ。 そんな彼に構わず一旦は端末に向き合うが、立ち尽くしたままのユウヤに再び険しい顔を大佐は向ける。

 

「聞こえなかったのか? 下がっていいと言ったんだが?」

 

「…あっ、しっ、失礼しました!」

 

大抵の者ならば身震いするような大佐の低い声に、慌てて退出していくユウヤ。 閉められたドアに向かって「ふんっ」と鼻を鳴らす音が向けられた。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、夜の帳が降り始めたワシントンDCでは、更に重苦しい空気に包まれる一室が在った。

 

ホワイトハウス大統領執務室。

 

三人の男達が居る室内で、二人の男が一人の男をじっと見詰める状況。

 

合衆国のトップである二人に見詰められて、冷や汗とも脂汗ともつかないモノを額から流しつつ、手にしたハンカチでしきりに拭いながら反対の手に掴んだファイルを読み進める男。

 

奇しくも、シンジと会談した香月夕呼と同じ恐怖や疑念などの入り混じった表情を浮かべつつも、ファイルを捲る震える右手は止まらない。

 

「どうです。 中々に興味深い“モノ”でしょう?」

 

斜め前に位置して穏やかな笑みを顔に張り付かせた男、CIA長官は震える男に声をかける。

 

何気ないようにかけられた声。 その奥に秘められ、普段は絶対に表に出る事がない冷たく凍えるような意思を感じ取り、男は文字通りに凍る。

 

「博士、単刀直入に聞こう。 そこに書いてある事が現実に起こりうる可能性は?」

 

それを容赦なく砕くように、正面の執務机に座して組んだ手で口元を隠した大統領が低い声で問いかける。

 

「あっ…、あっ…。 かっ、可能性は…」

 

言葉を繋ぐ事が出来ない。 研究畑の出身とはいえ、今の地位に就くまでに海千山千の妖怪達とやり取りししてきた彼… オルタネイティブ5の使用するG弾の権威である博士は、どうしようもなく追い詰めれていた。

 

 

ロンデニオンとの繋がりを作るために、敢えてその提案に乗ったCIA。 当初はそれを如何に逆手に取ろうと考えていたが、挨拶代わりに流されたロンデニオンからの情報は、当初から彼らの思惑を“軽く”吹き飛ばした。

 

 

ロンデニオンから渡された情報。 

 

それは、G弾使用時のシミュレーションデータ。 一箇所に集中運用した場合のBETAの対応予測に、世界各所のハイブへと同時使用した場合の、その後の影響について事細く記されていた。

 

メタ情報として、オルタネイティブ5の地球上での結末を知っているシンジは、最悪の結果を避けるための根拠の一つとして、アメリカのオルタネイティブ5のデータを極秘裏にゼファーに調べさせ、自分の知る計画と大差ない事を確認すると、そのデータを基にシミュレーションデータを打ち出した。

 

G弾を開発し、使用しようとしている第五計画派ですら全て把握できなかった未知のファクター。 それをロンデニオンの力である程度解明して、説得力を持たせる事でオルタネイティブ5のG弾推進派に信用できるルートで流す。 G弾使用に派閥内で待ったが掛かるなら良し、最悪でもこのデータは簡単に無視できる物ではないので、計画の遅滞か練り直しが起こる事を期待しての行動であった。

 

もしもこの世界がG弾広域同時使用を行った場合でも、“現在開発中”のコロニーの建設が進めば、全ては難しいが多くの人間の命が失われなくて済む。 最悪の状況を第五推進派の各国が想定すれば、それだけ資金や人員が宇宙へと集まりコロニー建設が加速する。

 

既にコロニー数十基分の“資源”は確保されており、ロンデニオン近海へと移された移民船建設空域の隣では、“230km級小惑星”が採掘作業と平行して二つのコロニー建設を始めていた。

 

第五計画によるG弾使用を止めるのは難しいが、少しでも時間を稼ぎ最悪に備える。 メインではなくフォローで、ベストよりベターを選んだロンデニオンの方針は、何れG弾推進派より派生した一部強硬派を完全に敵対化させる事になる…

 

 

 

 


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