ガノタの野望 ~地球独立戦争記~    作:スクナ法師

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10ターン目 紅蓮の武者と白いMS

 

 

「凄い…」

 

 

今、私の目の前で白を基調にした青と赤のトリコロールカラーの派手な機体が、演習場内に設置された的をまた一つ撃ち抜いた。

 

 

ただ撃ち抜いた訳ではない。

 

 

機械とは思えない躍動感で跳ねるように移動して手にした携帯型光学兵器を標的とのすれ違いざまに撃ち放つ。

 

標的として用意された突撃級BETAの死体をピンク色の光弾で貫き、動きをまったく止めることなく次の標的へと向かって行く。

 

 

「どうだい、唯依ちゃん?」

 

不意に隣の席に座る巌谷中佐… おじさまから声を掛けられた。

 

周囲に居る他の観戦者たちの意識は大型モニターに向いている為に、プライベート時の口調になっている。

 

「火力、運動性は既存の戦術機とは比べ物にならない凄まじい機体だと愚考します」

 

「…みんなの視線は釘付けだから、いつも通りでいいよ唯依ちゃん?」

 

 

いつもならこのような事は慎むが、モニターに映し出されるあの白い機体の動きを見ていたら中佐の…おじ様の心遣いは有難かった。

 

「…わかりました。 本当に凄い機体ですね」

 

「だろうね。 私もここまでとは思わなかったよ」

 

白い機体は空中で身を捻りながら標的へと狙いを定めて射撃すると、足の関節を曲げて衝撃を殺しながら着地し、軽く曲げた足を伸ばして再び跳躍する。

 

ブーストを殆ど使わずに人間と同じく関節の屈伸と重心移動だけで、機械とは思えない身軽さで動き回る機体。

 

強力な上に連射でき、戦術機サイズに携帯可能な光学兵器に、しなやかに動く四肢で驚異的な運動性を持つ白いMSと呼ばれる機体。

 

RX78-2 ガンダム

 

それがあの機体の名前…

 

 

「しかしあの准将が乗っているとは思えない動きっぷりだね?」

 

「はい…」

 

 

ガンダムに乗っている衛士は、藤枝 慎治准将。

 

将官が自らテストパイロットを勤めるだけでも珍しいのに、昨日初めて会ったあの人が乗っているとは思えない動きだ。

 

決してあの人を侮っているのではなく、あの機体の凄まじい動きとあの人のイメージが合わないのだ。

 

初めて会った時には見慣れぬ制服姿、タオルを腰にぶら下げて上着を肩に掛けたラフな格好で将官とは思えない姿だった。

 

所々はねている癖のある黒髪が無造作に伸び、緊張感のないそこそこに整った顔で、階級が低い者に対しても礼儀正しいと言うか腰が低いと言うか…

 

軍服を着ているが軍人らしくなく、民間人…良くて軍属の人間と言った所か…

 

今までに私の周りには居なかったタイプだ。

 

 

「唯依ちゃんならどう闘う?」

 

網膜には流れるような動作で背後から取り出した光の剣で標的を切り捨てるガンダムの姿が…

 

「そうですね… 近接戦に持ち込めれば勝機は有るかと」

 

確かに動きは速く滑らかだ。 けれど標的を切り捨てた動作に粗が見える。

 

私が近い将来に搭乗するであろう瑞鶴は、旧式の部類に入るが格闘戦を優先した機体設計のお陰で、近接戦なら第2世代戦術機にも遅れは取らない自信がある。

 

それに格闘戦を重視する斯衛には先人から受け継がれ磨かれてきた格闘モーションプログラムが有り、瑞鶴にはそれがインストールされている。

 

如何に早く、効率的に確実に敵を斬るかを突き詰めたモーションプログラムを生かせばやりようは或るはずだ。

 

 

 

 

 

演習場内でぶつかり合う二つの機影。

 

1つは両手に刃の潰された模擬戦用の長刀を振りかざし白い機体に斬り迫る赤い斯衛軍戦術機・瑞鶴。

 

もう1つは瑞鶴の猛烈な撃剣に追い詰められ、攻めあぐねる白いMS・ガンダム。

 

模擬戦用の装備をした二機は見物人達の当初の予想を覆す戦況を呈し、見るものに息つく暇を与えなかった。

 

 

「はははは! やるではないか!」

 

瑞鶴コックピット内で満面の笑みを浮かべ、巨体の筋肉で強化服を押し上げる益荒男は実に愉快そうな笑い声を上げた。

 

その雄叫びに答えるように瑞鶴は右手に握った長刀を振り下ろしガンダムを追い詰める。

 

瑞鶴の長刀が青い胸部の装甲板を掠めて振り下ろされ、腕が伸びきって動きを止めたのを確認したガンダムが踏み込もうとするが、横一閃に振られる左手からの長刀に気づき踏み込む足を突っ張らせて上半身を仰け反らせる。

 

デュアルアイの目前を通り過ぎる長刀に背筋に冷たいものが走るシンジ。

 

「ふうぉぉーー…」

 

「なんだこのギンガナムは…」

 

息を吐きながら瑞鶴に再び構えを取らせる益荒男、紅蓮。 額に流れる冷や汗を拭いながらぼやくシンジ。

 

 

 

模擬戦開幕前、斯衛にしては珍しくシールドを持たせた紅蓮の瑞鶴を見て嫌な予感がしたシンジは、模擬戦開幕と同時にその意味を知った。

 

 

開始の合図とともに盾を構えながらガンダムへと最高速で突っ込んでくる瑞鶴に意表を突かれ、驚異的な反射神経とガンダムの運動性のお陰で辛うじて避わすも右手に持たせた突撃砲を居合い斬りのような斬撃で使用不能にされて格闘戦に引き摺りこまれてしまったのだ。

 

シンジとしては格下の自分に対してここまで形振り構わず来るとは予想外で、完全に意表を突かれる形となった。

 

それでも何とか持ち直して、ランドセル部に固定していた長刀をガンダムに握らせると反撃に転じようとする。

 

 

戦術機の最大の隙…行動と行動の間に有る空白時間と入力された行動を途中キャンセル出来ない事を逆手に斬りかかるが、こちらの動きを先読みまたは制限を掛けるように行動し、二刀を瑞鶴に握らせる事により攻撃の隙をなくしているので付け入る隙を見出せずにいた。

 

そして生身でも剣の達人である斯衛の動きを基にした斬撃モーションは鋭く、ガンダムの性能を持ってしてもこの間合いでは完全に避わす事は出来ずガンダムを長刀が掠めるたびにシンジは冷や汗を流す。

 

 

しかし、一見すると得意なレンジに引きずり込み、主導権を握って押しているように見えるが紅蓮もまた内心に焦りが見え始めていた。

 

これ以上は無いタイミングとスピードの猛攻を耐え忍ぶガンダム。 しかもここに来て徐々に動きが良くなって行く相手に焦りを抑えながらも、興奮を抑えられずに、瑞鶴に剣を降らせ続ける。

 

紅蓮はこの戦いを心底楽しんでいた。

 

 

 

その剣を避けながらシンジはガンダムの固定武装である頭部バルカンを撃ち放つが、初見で相手のシールドをそれで破壊したのを見られているために牽制にしかならず、危なげなく回避して斬りかかろうとする瑞鶴の姿をモニター越しに見てコックピット内で小さく舌打ちを鳴らした。

 

「はあ、はあ。 バルカンの残弾が少ない…シールドはどっかに飛ばされて、後は長刀が1本のみ…」

 

パイロットスーツの下に大量の汗を流し、息を荒げながら汗で額に張り付く髪を不快に思いながらシンジは現状を打破すべく思考するが、付与されたニュータイプの超反射神経と先読みで長刀を振っても相手の洗練された斬撃モーションは早く、パイロットも超一流。 秀でているのは機体性能ぐらいで良くて相打ち…

 

それでは駄目なのだと歯を食いしばるシンジ。 

 

未だにニュータイプ能力を上手く使いこなせない事に、初めてシンジは悔しいと感じた。

 

「はあ、はあ… 勝ちたい… あの人に俺は勝ちたい…」

 

メインモニターに映る赤い瑞鶴を見据えながらシンジは思った。

 

自分はこの世界を本当は嘗めていたのではないかと…

 

MSの訓練は一応行っていたが、ガンダムの性能を妄信し過ぎていたのではないかと

 

与えられた力に酔って油断した結果がこの体たらく。

 

 

「勝ちたい… 負けられないんだ!!」

 

 

ガンダムのコックピット内で、白いノーマルスーツ姿のシンジはいつもの飄々とした表情をかなぐり捨てて吼えた。

 

 

その瞬間ガンダムのデュアルアイが力強く瞬き、瑞鶴のコックピット内で紅蓮はえも知れぬプレッシャーを感じ取り肌を粟立たせる。

 

「来るか!? 面白い!!」

 

心身を奮い立たせ、目の前の相手に長刀を縦に振り下ろすが…

 

「なんと!?」

 

紅蓮は目を剥き出して驚きに叫んだ。

 

体を半身にする事で斬撃を避け、あろう事かそのまま片足で長刀を踏みつけると地面に押し付け折ってしまったのだ。

 

そのままガンダムはバックステップで一旦距離を取ると、手にした長刀を腰だめに居合いの様に構える。

 

 

 

 

「ばかな!!」

 

貴賓席に居た悠陽の護衛である月詠は驚きで思わず叫ぶ。 そして護衛対象である悠陽も…いや、その模擬戦を見ていた斯衛に縁のある者は全員が驚きで目を見開いた。

 

なぜならば、今ガンダムが取った構えは… 斯衛の戦術機にインストールされている構えと寸分違わぬモノだったからだ。

 

 

斯衛の格闘モーションプログラムは彼らにとっての切り札であり、帝国軍にすら公開されていないシロモノだった。

 

勿論、シンジがハッキング等で情報を得てガンダムにインストールした訳ではない。 その証拠に模擬戦当初は動きこそ早かったが、構え等に特筆すべきものは無かった。 

 

 

 

 

それなのに…

 

 

その様子を見ていた巌谷は絶句した。 なぜ? どうして?

 

その回答を模索して思考する彼は、やがて1つの驚愕の回答に行き当る。

 

巌谷は震える手で口元を隠しながら呆然と呟く。

 

「信じられん… あの機体は… 学習したんだ…」

 

「そんな… こんな短時間で…」

 

その呟きを拾った唯依もまた、信じられないと驚愕の表情を浮べる。。 

 

 

 

 

相対する機体の構えは、確かに斯衛のモノ。 しかし自分があれを見せたのは模擬戦開幕にたったの一度だけだ。 それなのにこの短時間で、しかも模擬戦の只中でモノにしたというのか? 確かにそれらしい兆候はあったが…

 

疑問を晴らすべく紅蓮は瑞鶴に残った長刀で、目の前のガンダムと同じ構え…居合いの形を取らせる。

 

鏡合わせに同じ構えを取る両機。 緊迫した空気が演習場内に満ちていく…

 

久しく忘れていた歓喜に再度身を震わせる紅蓮。

 

そんな彼に、シンジが模擬戦が始まって初めての通信を送った。

 

「形振り構わず全力で行きます紅蓮大将」

 

「応!」

 

模擬戦前の顔合わせの時とは違うシンジの声音に少し驚きつつも、その言葉に力強く答える紅蓮。

 

シンジはコックピット内で気休め程度に機体の反応速度を限界まで上げる調整を行うと、メインモニターに映る瑞鶴の…武者の動きを感じ取ろうと神経を集中させる。

 

モニターに映る瑞鶴を透かして紅蓮の姿が見え、その浅く静かな息遣いが聞こえてくるような錯覚を覚えながら操縦桿を握り締めるシンジ。

 

 

 

手の平に滲んだ汗が強化装備と肌の隙間を湿らせるを感じながら、紅蓮もまたガンダムの動きに集中する。 

 

まるで相手に見透かされているような感覚を覚えながらもジリジリと摺り足をさせながら瑞鶴を間合いに進めていき、紅蓮は先を取った!

 

 

「かあぁっー!!」

 

 

 

ガンダムの首を目掛けて左から右へと横一閃される長刀。

 

自身の今までの生涯で最高のタイミングで放たれた一撃!

 

 

 

「うおおおぉーーー!!」

 

 

しかしシンジはその一撃に怯む事無く自ら間合いに一歩踏み込む。

 

ガンダムは彼の思いに応えるように相手の間合いに上半身を屈めながら飛び込み、V字のブレードアンテナの先端を切り飛ばされながらも瑞鶴の一撃を頭上に避わして縮めた体を伸び上がらせて居合いを放つ。

 

 

斜め上に切り上げられたガンダムの一撃は攻撃を避けられ伸びきっていた瑞鶴の右腕をへし折り長刀を弾き飛ばし、ガンダムは返す刀で瑞鶴の首に長刀を突きつける。

 

「…参った」

 

「ありがとうございました。 得るものの大きい一戦でした。 本当にありがとうございました」

 

「なんの。 此方こそ久方ぶり血が滾ったわい」

 

久しく味わっていなかった全力を尽くした後の爽快感を感じつつ紅蓮は潔く負けを認め、シンジは計り知れない大きなものを得させてくれた彼にに心から深く感謝した。

 

 

 

 

 

 


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