ガノタの野望 ~地球独立戦争記~    作:スクナ法師

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9ターン目 ガノタと、いくりぷす?

61式と撃震の模擬戦を見たシンジは明日のMS演習のやる気を削がれていた。

 

宇喜田は宣言どおりに今回の目玉であるMSのお披露目を食らう勢いの活躍を見せた。 

 

それは嬉しい事だとシンジも思う。

 

しかし、自分の順番の前にあんなモノを見せられてはと尻込みもしていた。

 

模擬戦の間に整備兵によって行われたRX78の重力下環境調整のチェックをコックピット内で行いながらウダウダと考え込む。

 

 

既に日は沈み辺りは暗闇に包まれ、見物人達は宿泊先に戻っており昼間の騒がしさが嘘のように静まり返っている。

 

 

地上へ降りた初日の夜と同じく2日目の今日も、演習終了と同時に食事に酒に歓談にと要人に誘われたが明日の演習を理由に断り、彼は狭いコックピットで作業に没頭していた。

 

彼の代理に坂田艦長とクリス副長が要人達のお相手をし、本日の主役たる61式戦車兵達も宴に参加している。

 

ペガサスの責任者二人が居ないのは如何なものかと坂田とクリスはごねたが、自分が居るからとシンジは半ば無理やり二人を送り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しは楽しんでいるかねぇ~?」

 

パネルを弄り、モニターに移る機体のコンディションを確認しながら呟く。 

 

坂田艦長とアンダーソン副長はお偉いさんの対応に追われて無理だろうが、戦車隊の皆は模擬戦後に憑物の落ちたようなスッキリとした顔をしていたから今夜の酒は美味いだろう。

 

 

明日の俺が飲む酒は、美味いか不味いか…

 

 

おう、いかんいかん。 やる前からこれでどうする? え~とサスペンションは…

 

 

「だいたいMSのパイロットが俺一人しか居ないのがキツイよね~ これが終わったら正式にMSパイロットを募集して育成しないと…」

 

「なにぶつくさ言ってんだ准将? さっさと終わらせて俺たちも飯にしようや、若い奴らが腹へってへたばってんぞ?」

 

あ~い、おやっさん。

 

整備兵の皆様、苦労を掛けてすみません。 お披露目が終わったら整備班も増員するから、もうちょっとだけがんばってね?

 

 

「え~とメインバーニアの熱核ジェット切り替え調整よし、脚部のショックアブソーバーの硬さは重力下標準値で設定して… おっけー! 調整確認終了! 皆さんお疲れ様~、明日もよろしく~!」

 

「お疲れさんです~」 「お疲れっす!」 「っかれっしたー!」

 

左舷デッキのそこかしこで整備兵さんが嬉しそうに声を上げている。

 

時刻は夜8時をとっくに過ぎていて、夕食には遅い時間だ。 整備兵の皆は道具を片付けて、周囲を整理整頓すると足早に艦内食堂へと向かっていく。

 

 

 

俺もコックピットから降りて頭に巻いていたタオルを解き軽く手を拭くと、脱いでいた上着を左肩に引っ掛けて食堂に向かおうとしたのだが、開け放たれたハッチから誰かが上がってくる気配を感じて足を止める。

 

 

ペガサスの周囲に配置されている帝国軍の守衛の一人に先導されて、帝国軍制服を着た体格の良い男性と、山吹色の衣装を身に纏った黒髪の少女がこちらへと歩いて来る。

 

二人とも何処かで見た顔なのだが思い出せない…

 

男性の方は顔の左側に大きな傷跡があり、少女の方は短い黒髪の凛々しくも可愛い子だ。

 

ただ二人に共通して言えるのは、オーラというかプレッシャーのような物が感じ取れる。 只者ではない。

 

 

とりあえず彼らがこちらに気づいて向かって来ている事と、少女が身に纏う衣装が悠陽殿下の護衛の月詠さんと色違いの衣装だと気づき、肩に掛けていた上着を着て来るのを待つ。

 

 

「夜分に失礼します閣下。 こちらの中佐殿が閣下への面会を申し込まれましたのでお連れしました」

 

 

「ご苦労様です。 立ち入り許可書の確認は済んでいますね?」

 

「はっ。 確認させて頂きました」

 

「なら問題ありません。 ご苦労様、下がっていいですよ」

 

「はっ。 失礼いたします」

 

未だに閣下と呼ばれると背中がむず痒い。 んっ? なんでお客さん二人は目を丸くしてんの?

 

職務を果たし敬礼して去り行く兵隊さんを軽く手を振りながら見送り、お客さん二人に振り向くと二人とも目を丸く見開いて俺を凝視してんの… なに? そんな目で凝視されると怖いんですけど…?

 

 

「…あの何か?」

 

「…はっ!? いえ、失礼いたしました閣下!」

 

「しっ失礼しました!」

 

声掛けたら二人ともビクッと反応して慌てて敬礼してきた。 何もそんなに驚かんでも… あと閣下は止めて。

 

 

とりあえず敬礼を返して…

 

「あ~楽にして下さい。 え~と…?」

 

「はっ。申し遅れましたが、自分は日本帝国技術廠 第壱開発局副部長を勤めております巌谷 榮二中佐であります。 ロンデニオンとの技術交流に置ける交渉役を拝命いたしました。 彼女は私の友人の娘で、ご迷惑かとも思いましたが見聞を広める為に連れてきたのですが」

 

「初めてお目に掛かります閣下。 自分は帝国斯衛軍、篁 唯依訓練生であります」

 

「構いませんよ、軍艦ですので大したお持て成しは出来ませんがご容赦を。ご存知かとも思いますが、私はロンデニオン管理官をしておりますシンジ・フジエダ准将です。 …出来れば閣下ではなく、准将でお願いしたいのですが?」

 

俺のお願いに今度は、目をパチクリさせる二人… ああっ! 思い出した! この二人って確かサイドストーリーに出てた二人だ。 不知火二型? を作る人だ。

 

ああ。 ああ… 俺、サイドストーリーのエクリプス? …いくりぷす?の事は詳しく知らんが… まあいいか。

 

 

「はっ、承知致しました准将」

 

「了解しました准将」

 

堅いね…

 

 

気を取り直して、

 

「え~、どういった御用件で此方へ?」

 

「はい。 一言ご挨拶にと思ったのですが、宴の方にはお越しになられないと坂田大佐からお聞きしましたのでお忙しい中、御迷惑かとも思いましたがお伺い致した次第です」

 

そりゃまた…

 

「それはご丁寧に有難うございます。 作業の方は先ほど済みましたので大丈夫ですよ。 これから…あっ…」

 

会話の途中で腹が鳴ってしまい思わず苦笑い。

 

 

「…食事を摂ろうかとしたところです。 夕飯は済まされました? まだなら立ち話も何ですし御一緒に…」

 

再び会話の途中で小さく可愛らしいお腹の音が聞こえる。

 

 

見れば篁訓練生が顔を赤くして直立不動で固まっていた。 うん、育ち盛りだから恥ずかしい事じゃないよ。 うん。

 

 

すると今度はその隣からも豪快にお腹の虫が鳴り響く。

 

「…ふふっ、ご一緒に行きましょうか?」

 

「ははっ、面目ございません准将。 宴の会場から何も口にせず、直ぐに此方へ参ったものでして… ご相伴させていただきます。 篁訓練生もいいな?」

 

「…はい。 お供いたします…」

 

ダンディーに笑う巌谷中佐と表情を取り繕ってはいるが未だに顔が赤い篁候補生と連れ立って艦内食堂へと向かう。

 

そういうお年頃だからしょうがないか、この位の時期が一番接しにくいって娘さんの居る会社の上司も言ってたし。

 

 

 

廊下を歩きながら巌谷中佐と軽く会話してみると結構話が合うのが嬉しい。 元の世界では機械好きが転じてそっち系の会社に勤めていたから戦術機開発に携わる話が聞けるのはラッキーだった。

 

 

途中で篁訓練生も話に加わってきて、巌谷中佐は帝国斯衛軍が使用している国産戦術機・瑞鶴の開発にも携わっていた事や、京都での訓練所の事も教えてくれた。

 

 

食堂に辿り着き白身魚のフライがメインの夕食を受け取り、席に着くと先ずは空腹を満たすことにした。

 

 

フライうめぇー

 

 

 

 

腹を満たして食後のお茶を啜りながら巌谷中佐に戦術機関連の事を色々と尋ねていると、やがて会話が本日の模擬戦へと移る。

 

「あの61式戦車の戦いぶりは見事でした。 しかし、1つだけ分からない事があるのです。 最後の撃震が撃破される前の煙幕内で起こった爆発… あれはいったい?」

 

 

「あ~。 あれはリアクティブアーマーですよ」

 

リアクティブアーマーは簡単に言うと、外から加わった圧力に対して内側から爆発して相殺する事により本体を守る追加装甲の事だ。

 

宇喜田さん達が使った61式には追加で車体前部と後部に2枚ずつ貼り付けてある。

 

「リアクティブアーマー? しかしあの時撃震は弾切れで61式に被弾は無かった筈では?」

 

「ええ被弾はしてません。 アーマーをパージして地雷代わりに使用したのです」

 

元は61式の対BETA戦での運用や様々な環境下での対応策を宇喜田さん達と話し合っている時に思いついたものだ。

 

61式は不整地でも時速90kmで走る事ができ、突撃級以外のBETAに速度で勝っていた。

 

この点だけでも戦車兵の皆さんは随分と喜んでいた。 なにせBETAの陸戦主力とも言うべき要撃級や戦車級の最高速度は70~80km。 対して人類側の戦車の速度は良くて70km前後。 つまり、有視界戦闘に入った戦車はBETAから追いかけられると撤退することが難しいのだ。

 

反撃しながら移動しても、物量に物を言わせたBETAが速度に劣る戦車に追いつき撃破される。

 

大陸で戦車部隊が大量に撃破されたのはこれが一番の原因だと宇喜田さんは言った。 地下からの奇襲進行に脆いからと良く言われるが、奇襲なだけあってそれの頻度は少なく奇襲自体に脆いのは他の兵器も一緒だとも言っていた。

 

本来ならその時点で戦車の大々的な改修で問題を解決する筈なのだが、各国の軍上層部は既に配備されていた戦術機の汎用性と未来性に着目し、戦車を第二線に下げる事により対応した。

 

戦術機と戦車、両方に力を注ぐ余裕が無かったのだろう。

 

 

話を戻すが、時速90kmの逃げ足を持っていても大量に迫ってくるBETA小型種の戦車級に齧られない為の近接防御策を考えていたときの事だ。

 

砲塔側面に設置されたマルチディスチャージャーを増設しSマインという空中炸裂式散弾地雷の装填と、此方の世界の近接防御策にも使われていたリアクティブアーマーを装備という事で話が纏まりそうになったのだが、ここで俺はある漫画のシーンを思い出していた。

 

とあるMSが、装備していたリアクティブアーマーをパージして時限信管で爆発させて追いすがる敵にダメージを与えるというシーンを。

 

 

あれ? これ使えね?

 

そう思った俺は皆にこの話をして意見を貰い、幾つかの修正を加えて新しいリアクティブアーマーを自動CADに設計してもらった。

 

アイディアの元になったMSが連邦製だったのが幸いして一日で新リアクティブアーマーの設計は完成した。

 

時限式とセンサー式を選択できる信管を備えたそれは戦車側から任意にパージでき、パージ後は選択された信管方式に従い爆発するシロモノだった。

 

 

出来上がった実物を見た戦車兵さん達は、「追いかけてくるBAKAに“いい”土産が出来た」と物騒な笑みを称えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど。 単純ではありますが、いいアイディアです」

 

巌谷中佐が褒めてくれた。 けど、漫画からのパクリだし… あっ、他のも全部パクリか…orz 篁訓練生、そんなに純粋な瞳で感心したように俺を見ないでくれ…

 

 

「これは明日のMSのお披露目が、ますます楽しみになってきました。 61式戦車でこれほどですから… なっ?」

 

「はい。 明日が楽しみです」

 

ううっ…またプレッシャーが…

 

…んっ? そう言えば明日の対戦相手は誰なんだろう? 聞いてみるか。

 

「明日の模擬戦では帝国斯衛軍側からは… 帝国近衛軍大将の紅蓮閣下がお相手する事になっており」

 

「ぶっ!?」

 

うぉーい!? マヴラブ世界きっての武闘派ですか!?

 

「大将閣下自ら名乗り出られたとかで…」

 

汗をたらりと流して苦笑いの中佐。 てか、止めろよ周囲の人たち!? そんなお偉いさんが自ら出んでも、うちと違って人材一杯居るでしょう!? なんで将官同士で一騎打ちの模擬戦しなきゃならんのだ…

 

「その件に関しては、恐れ多くも殿下より言伝を賜っております。 よしなに…っと」

 

止めてよ悠陽ちゃん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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