砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。   作:ぽよぽよ太郎

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第6話

 

 

 

         +++

 

 

 倒れこんだ龍蜂(ロンフォン)を見て、藍染は眉を潜めた。東仙はそんな藍染に疑問を感じ、声をかけようとする。

 

 だがその瞬間、何者かの霊圧が近付いてくるのがわかった。

 

 「……!? 何者かが近付いてきます!」

 

 「おそらく、浦原喜助……だろうね」

 

 藍染は霊圧を感じる方向を見つつ、東仙に言った。隠密機動第三分隊に所属する隊士。名前だけでいうなら、龍蜂のほうが有名だろう。よって、同じく未だただの隊士である東仙には、浦原という死神が誰のことだかわからなかった。

 

 「――戻ろうか」

 

 彼はこのままでいいのか?

 

 そう疑問に思った東仙だったが、藍染が鏡花水月を使ったのだ。万が一はありえない。そう考え直し、静かに首肯する。そして、すぐさま瞬歩で離脱した。

 

 後に残ったのは、全身から血を流す隠密機動の隊士が一人。本来ここで死ぬはずだった青年(イレギュラー)

 

 こうして、連日世間を賑わせた(ホロウ)発生事件は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

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 「んん……?」

 

 膝に感じる圧力で俺は目を覚ました。

 

 「……知らない天井だ」

 

 うん、一度言ってみたかったんだよな。事実、本当に知らない天井だったし。見たことがないから、屋敷の自室じゃないことは確かだ。

 

 身体中が痛むが、動けないほどじゃない。

 

 上半身を起こして視線を下げると、そこには見知った顔がいた。愛しき我が妹、砕蜂(ソイフォン)だ。俺の寝るベッドの横にある椅子に腰掛け、上半身をベッドへと倒している。どうやら眠っているようだった。もしかしたら、ずっと看病してくれていたのかもしれない。

 

 彼女の艶やかなおかっぱ頭に、そっと手を添える。

 

 「――んっ……」

 

 砕蜂は小さく声をもらすが、起きてはいないみたいだ。それを確認して、ゆっくりと撫でる。今日も良い手触りだ。

 

 「んふふ、兄様ぁ〜……」

 

 撫でられていることを無意識で感じているのか、砕蜂はものすごくデレっとした笑みを浮かべ、俺の足に頬を擦り付ける。……おい妹よ。よだれが出てるぞ、よだれ。

 

 砕蜂の頭を撫でながら、俺も笑みを浮かべた。

 周囲を見ると、ここは病室のようだった。おそらく、四番隊舎内にある病室だろう。隠密機動が任務中に負傷した場合は二番隊内の救護室を使われるはずなのだが……。回道の使い手である四番隊を頼らねばならないほど、重傷だったということのようだ。

 

 「ともあれ、生き残れた、か……」

 

 そう。とうとう俺は、自分の運命を変えることができたのだ。本来俺が死んでいたはずの、6度目の任務。無事……とは言い難いが、こうして死は回避できたのだ。

 このために何年も準備してきたということもあり、妙に感慨深かった。

 

 だが――

 

 「――藍染が関わっていたのか……」

 

 そう、藍染が出てくるのは予想外だった。実験体だけならまだしも、ああして俺の前に直接現れるとは……。

 確か鏡花水月の能力は、”この世界のあらゆる事象を使用者の意のままに誤認させる”というものだったはずだ。もし俺が鏡花水月の術中にいるのならば、藍染があそこに現れたという認識がそのまま残っているはずがないのだ。あの時あそこには誰もいなかったのだと誤認させたりしないと、藍染が鏡花水月を使う意味がないからな。

 

 よって、俺は鏡花水月にはかかっていないと見て間違いない。なにより、俺は始解を見ていないはずだ。

 

 鳴神の能力の本質は、電気の操作にある。鳴神のあの切れ味も、電気を流して刃を超振動させているからだ。だからこそ、藍染が現れた直前に俺は鳴神を抜いて鏡花水月に備えた。自身に電気を流して視覚を狂わせる。そうすることで、鏡花水月の始解を見なくて済むようにしたのだ。本当言うと、酷く消耗した後だったから視覚に流しただけで失神してしまったんだけどな。目が見えなくなったと同時に、意識も失った感じだ。

 

 これについてはまだ誰にも言ったことはなかった。対外的には鳴神の”良く斬れる”という部分しか広めていない。あえてフェイクの噂を流すことで、本当の能力を悟られないようにしたのだ。おかげで、こうして鏡花水月から逃れることができた。

 

 「それにしても、よく連れ去られなかったよな、俺……」

 

 藍染の前で意識を失うということは博打だった。下手したら連れて行かれて実験動物ルートだってありえたのだ。虚化の研究だってすでに始まっているだろうし。

 

 「――龍蜂(ロンフォン)……?」

 

 俺が思考の渦に身を任せていると、唐突に声が聞こえた。声のしたほうを見ると、この部屋の扉から夜一さんがひょっこりと顔を出していた。その顔には驚いているような、それでいてホッとしているような、ごちゃまぜな表情が浮かんでいる。自惚れじゃなければだけどな。

 

 「あ〜……ただいま?」

 

 なんとなく照れ臭くなった俺は、そっぽを向きながらそう言った。すると、夜一さんが瞬歩で俺の前まで移動してきた。まさか抱擁か!?と思い身構える。だがその瞬間、頭部にとんでもない衝撃が――

 

 「――痛ぁ……っ!」

 

 「心配させおって! この軟弱者が!」

 

 ……こんなことで瞬歩使うなよ、瞬神。

 

 そんなことを思いつつ、殴られた頭を抑えながら前を向く。そこでは、夜一さんの大きな乳がブルンブルンと揺れていた。張りのあるたわわな果実は、服越しでも相当な破壊力だ。しかも夜一さん、刑戦装束に羽織りを着ているだけだから横乳も見える。うむ、眼福眼福。揉んでみようかなぁとか考えていると、ふと視線を感じた。

 そのままなに食わぬ顔で視線を上げると、顔を真っ赤にして怒っている夜一さんがいる。

 

 「あはははは……」

 

 思わず苦笑い。乳を凝視してるの気がつかれてますね。これ、照れてるわけじゃないよね? 怒ってるだけだよね?

 

 「――っつぅ……。あ、そういやお酒、ちゃんと用意してくれてます?」

 

 もう一度殴られてから、夜一さんに尋ねる。頭が痛い。普段は無頓着なくせに、なんでこういう時だけ……。

 

 「ああ、もちろんじゃ。さっさと治して一緒に飲むぞ!」

 

 俺を殴って気が晴れたのか、夜一さんはいつもの笑顔を浮かべてくれている。うん、こっちのほうが夜一さんらしいな。それから俺は、夜一さんから意識のなかった間のことを教えられた。

 あの夜から、(ホロウ)の多数同時出現はなくなったらしい。なにが目的だったのかは知らないが、しばらくは藍染も大人しくするだろう。それと、倒れた俺を運んだのは喜助のようだ。あとで礼を言っとかないとな。

 

 「――んぅ……兄様……?」

 

 俺と夜一さんの問答で、砕蜂が起きてしまったみたいだ。ベッドから顔を上げて、きょとんと俺を見ていた。

 

 「おはよう、梢綾(シャオリン)

 

 俺を見て、砕蜂はだんだんと涙を浮かべる。

 

 「……兄様ぁっ!」

 

 そして、そのまま俺へと飛び付いてきた。俺はその小柄な身体をがっちりと受け止める。身体から嫌な音がした気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 「兄様! 心配したんですよ! もうお怪我は大丈夫なんですか!?」

 

 たった今怪我が増えた気もするが、砕蜂の慌てようは嬉しくもある。原作では兄妹の仲は良くなかった。というよりも、関係は希薄だったようだ。それが、こうして俺が怪我を負った時に心配してくれるようになったのだ。今までの触れ合いは、無駄じゃなかった。

 

 「ああ、もう痛みはない。動けるようになったら、すぐに屋敷へ戻るよ」

 

 「お、お待ちしてます! 修練も、また一緒にやりましょうね!」

 

 砕蜂は俺に抱きつきつつ笑顔でそう言うと、いそいそとベッドから降りる。そして、そこでやっと夜一さんのことに気が付いたようだった。

 

 「ぐぐぐぐ、軍団長閣下っ!?」

 

 砕蜂もすでに夜一さんのことは知っているようで、すぐさま地面に片膝をついて頭を下げた。そう、これが本来の隠密機動での上司と部下のあり方なのだ。俺と喜助くらいだもんな、夜一さんにタメ語とか使えるの。

 

 「おお、可愛いやつじゃのう。龍蜂の妹か?」

 

 「ああ、自慢の妹だ」

 

 夜一さんの言葉に、間髪入れず答える。そうかそうかと言いつつ夜一さんはしゃがみ込むと、砕蜂の頭を優しく撫で始めた。しゃがむことで乳がいい感じに膝で潰れて、横乳がさらにはみ出てくる。……いやあ良い乳だ。

 砕蜂は砕蜂で夜一に撫でられてうっとりとしているようで、なんとなく動物のようだった。

 

 しばらくそうして満足したのか、夜一さんはうむと頷いてこちらを向いた。

 

 「それじゃあの。怪我が治ったらじっくり酒でも飲もうぞ」

 

 そう言って、病室から出て行く。うん、楽しみにしておこう。

 

 「……はっ! あ、兄様! 軍団長閣下とはどういったご関係なのですか!?」

 

 「あー……上司?」

 

 「それは知っています!」

 

 砕蜂をからかいながら、窓の外に目をやった。

 

 今日も空は青く、明日もきっと青いのだろう。

 

 自身がこの世界で生きていることを実感し、今日という日も過ぎて行く。

 

 

 

 こうして、本当の意味で俺の人生が始まった。

 BLEACHという世界での、第一歩が。

 

 

 

 


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