異世界転生の特典はメガンテでした 作:連鎖爆撃
「ヒャヒャヒャヒャ!」
ゴーストが飛びかかってくる。こちらが剣を構えているのにもかかわらずだ。
ゴースト。
ゲーム中においてのこいつらは、アンデット系統のモンスターの中でも雑魚がいいところだが、この世界でのゴーストは一味違う。
普段は実体を持たず、物理攻撃を無効にしてくるのだ。
呪文は効くのだがそれを警戒して、距離を詰めて攻撃してくる習性を持っている。
まぁ、向こうからの攻撃も大した威力を持たない上に、日中は出てこないため普段はこいつらを警戒する必要はない。
普段なら、である。
俺が今立っている場所は、《聖水》が意味を成さない《沼地の洞窟》の内部だ。
暗闇こそ奴らが本領を発揮できる場所。その上、障害物なし、聖水なしでは奇襲も難しいと来たもんだ。
「ちっ!」
ゴーストが攻撃を実体化させる瞬間を見切って、鉤爪攻撃をダガーで受け止める。
やつらは大した腕力を持たないため、切り払いで弾こうと大きく腕を振ったが、既にゴーストは実体化を解いていた。
舌打ちと共に、後ろに飛び退る。
厄介すぎる。
まぁ、《聖水》頼りの生活で、危機意識が鈍っていたというのもあるのだが。
……女僧侶さんの言うとおり、あの女の子を連れてきていなくてよかった。
ゴーストが再び、飛びかかってきた。
それを、もう一度ダガーで受け止める。もう何度目になるかわからないくらいに繰り返してきたため、タイミングはバッチリだ。
一回目の大振りは、ゴーストを油断させるための布石。
二回目も、大振りをしてそのままゴーストの背中に右手を回し、地面にダガーを落とした。
今度は後ろには、飛ばない。
俺が後ろに飛び退ると予測していたゴーストが、俺に肉薄し、ギョッとした顔をする。
「《ギラ》!」
「ヒャヒャヒャヒャ!ヒャヒャヒャヒャ!」
自分も巻き込みかねない超近距離で、魔法を当てる。
悲鳴とも、笑い声ともつかない鳴き声を上げながらゴーストは焼きつくされた。
無駄に知能が高いコイツラは、こんな駆け引きでもしないと、魔法を当てることも難しいのだ。
ちょっと焼いてしまう上、何体かのゴーストは最後の抵抗とばかりに引っ掻いてくるので、鎧もボロボロである。
《メガンテ》は使わない。何故なら……
「難儀なことをしとるな?お前もこれを覚えりゃ良かろうに」
―――――《ゾンビ斬り》!
俺の背後でおっさんが剣を振ると、物理攻撃が効かないはずのゴーストが両断される。
兵隊長 Lv.99★ ♂
HP/MP:410/0
現在装備
頭:なし
上半身:黒いシャツ
下半身:アーマー
武器:兵隊長の剣
盾:なし
特技:《真空斬り》《火炎斬り》《疾風突き》《大切断》《ゾンビ斬り》
(※レベル差のため、これ以上は閲覧不可)
スキル:
(※レベル差のため、これ以上は閲覧不可)
《メガンテ》を使わない理由は、ただの見栄だ。
普段はこれ以上にボロボロな戦い方するのだとおっさんに知られるのが、なんか嫌だったのである。
◆ ◆ ◆ ◆
「《トラマナ》を開発した?何を馬鹿なことを言っているんですか!」
数日前、俺は例の女の子を城から連れだそうとして、女僧侶に雷を落とされた。
うん、本当に開発したんだよ?嘘じゃないからね?
「百歩譲って、それが本当だとしてこの子を庇いながら洞窟を抜けられるわけが無いじゃないですか!」
え?でも《聖水》あるし……
「何を言ってるんですか!ダンジョン内で《聖水》が効くわけがないでしょ!」
……え?
………あ。
で、説教と説明。
そうだね、ダンジョン内って暗いからね。常時夜みたいなもんだし。《聖水》の効きも悪くなるよね。
すみません、マジで軽率でした。
で、悩んだ。しまった、どうしようと。
そこで、思いついたことを何も考えずに口走ってしまったわけである。
―――――俺がリムルダールについた後、どこにも寄らずにラダトームまでこの子を迎えに来る。その後、《キメラの翼》を投げる、とか?
「ふざけないでください!どれだけ魔物の事をなめているんですか!そんなことができるわけが―――――」
怒り出す女僧侶さん。いや、ガチギレしなくても。そんなこと、言われなくてもわかっているって。
「いいえ、勇者様はわかってません!いつもいつも無茶ばかりで!皆がどれだけ心配してるか―――――」
「おいおい、どうした?痴話喧嘩か?」
おっさんが通りかかって茶茶を入れてくる。
「兵隊長は黙っていてください!真面目な話をしてるんです!」
「おいおい、心外だな。俺はいつだって真面目だぜ?」
気がついたら、話に混ざるおっさん。
「やっぱ、痴話喧嘩じゃねぇか。要はこの子の将来をちゃんと考えてよ!責任取ってよ!ってことだろ?」
「その耳は飾り物なんですか!どう聞いたらそんな話になるんですか!」
「え?その子はおまえさん達の愛の結晶じゃなかったのか?俺はてっきりあの夜に……」
「ち、違いますから!!」
「じゃあ、結局どういう話なわけよ?」
「だから―――――」
気がついたら、軽口を叩きつつ完全に話の主導権を握っているおっさん。
俺は完全な空気である。
「おう、それならいいアイデアがあるぜ!―――――俺がコイツに同行するってのはどうだ?」
「「……え?」」
で、俺を(別の意味で)空気にする提案をするおっさん。
…
……
………え?
おっさん、城の外に出れたのかよ!?
◆ ◆ ◆ ◆
おっさん、鬼神の如き強さである。
大概の敵は「《疾風突き》!」で抵抗することすら許さない。
ゴールドマンは「《大切断》!」で、唐竹割。
死霊の騎士は「《真空斬り》!」
はたまた別の死霊の騎士は「《火炎斬り》!」
制空権をにぎるキメラ相手に「《――返し》!」(聞き取れなかった上に、ぶっちゃけ何をしたかわからなかった)
城の周りのスライムたちが遠目に逃げ出すのも、納得である。
うん、おっさんとか言ってるけどまだ30代前半だもんな。こりゃモテるわ。
城下町にファンクラブがあるって軽口も、マジな話かもしれない。
俺、こんな化け物相手に剣を振ってたのかよ……そりゃレベルも上がるわ……。
「いや、俺とお前じゃ歳もだいぶ違うだろうが。お前も俺くらいの年には此れ位になるさ」
絶対嘘だ。
絶対嘘だ。
大人は信用出来ないからな。
「カカカ!俺が《疾風突き》を覚えたのは25だ!おまえさん、まだ20になったばかりだろうが!」
……まぁな。まさか酒が駄目だとは思いもよらなかったしな。
でも、あれだろ?《疾風突き》が必要ないくらいに元々速かったんだろ?
………黙って目を逸らすな!ほらねほらね!やっぱ大人は信用できねぇ!
おっさんと軽口をかわしながら(俺はいっぱいいっぱいだったのだが)、リムルダールに到着する。だが、アイテム消費は驚くほど少ない。移動距離はかなり伸びたはずなのに、最初にマライに行った時の4分の1程度しか使っていない。
おっさんツエー!これならマジでラダトームまで直帰可能だわ。
むしろ俺がいらないまである。
え?おっさん、マジで何で勇者じゃないんだ?
異世界転生してから10ヶ月。俺は自分の存在意義を疑い始めていた。
………いや、まさかな。
レベルカンストしているおっさんが霞むほどこの世界の竜王が強いとか、そんなオチじゃないよな?
本編で触れられない設定
20.聖水
モンスターを遠ざけるアイテム。
この世界では振りまくのではなく、飲んで使用する。
聖水の成分が体表面から揮発する間が効果時間。激しい運動などで効果時間は短くなる。
暗い場所では効果が弱まる。
21.キメラの翼
帰還アイテム。これを投げることで、パーティ全員を“一番最後の泊まった宿”のある街まで帰還させる。仕様としては、初代のものではなくⅡ以降のものに近いか。
どうやら飛ぶ先は使用者の意識を読み取っているわけではなく、《キメラの翼》そのものが覚えているらしく、そのことを示す実験結果がいくつか存在するが、どのように記憶しているのか、そのメカニズムは全てが明らかになったわけではない。
22.兵隊長
物理面では一応人類最強。兄貴肌であり、おっさんでもある。
主人公はこの人が勇者じゃない理由を、兵隊長は城の精霊か何かであるために、城を離れられないのじゃないかと疑い始めていた。