インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
NEXTと巨大兵器。
どちらも絶大な戦闘力で戦場を蹂躙する存在だが、その在り方は兵器として対極に位置していた。
NEXTは質で物量を磨り潰し、巨大兵器は物量で質を圧殺する。
どちらも戦場で相対したなら、敗北を免れない理不尽な存在だ。
そんな存在同士がぶつかり合う戦場は、企業側の万全の下準備の元、世界が注目する一戦となっていた――――――。
◇
(………さて、どうするかな)
晶は巨大兵器と交戦する前の、僅かな時間に考えを巡らせていた。
今回の一件はどう考えても仕組まれたものだ。目的もある程度は予測出来る。
仮にIS神話の終焉を目的とした場合、この戦闘経過や結果も利用されるだろう。
そこまで考え、晶はふと思いついた。
NEXTのフルフェイスの下で、とても意地悪な笑みを浮かべる。
(………ヤッパリ、利用されっぱなしってのは面白くないよなぁ)
(何か思いついたの?)
思わず漏れた言葉に、束がコアネットワークを通じて問い掛けてきた。
(ああ。面白い事を思いついた。これから売り出そうとしている兵器の弱点を、世界中に晒してやる)
(弱点? 確かに構造上の弱点はあるだろうけど、そんなのはタイプによって色々――――――)
晶は束の言葉を遮った。
(違うよ。そういう事じゃない。俺が教えてやるのは、
束の脳裏に、彼の戦歴が蘇る。
ギガベース、ランドクラブ、
彼の考えに、束は笑わずにはいられなかった。
今回の一件が、各方面から注目を浴びているのは間違いない。
そんな場所で、苦労して整えたであろう自分達の製品をアピールする場で、製品の壊し方が広められるのだ。
こんな愉快な事は無い。
(いいね。晶。最高だよ。IS神話になんて興味は無いけど、私達を利用したツケは払ってもらおうか)
晶は束の返事を聞くと、幾つかの武装をコールした。
今回はNEXT兵器の持つ、圧倒的な破壊力だけで破壊するだけでは駄目なのだ。
普通のISでも出来るような、真っ当な壊し方で巨大兵器をスクラップにしてやる必要がある。
その為の武装は――――――。
――――――WEAPON CHECK
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
→SHOULDER UNIT :
――――――WEAPON CHECK
エネルギー兵器のような高い技術力を必要としない実弾兵器群。
莫大なコストをかけた巨大兵器が、安価な兵器に蹂躙される様を見せ付けてやろう。
――――――OVERED BOOST、READY。
巨大兵器まではまだ距離がある。まずは懐に入らなければ。
NEXTの背部装甲板が展開。大型ブースターが露出し、甲高い作動音と共にエネルギーが供給されていく。
――――――GO!!
地上表面で機体が瞬く間に時速2000kmを超え、ソニックウェーブが発生する。だがNEXTの性能を知る者からすれば、随分と遅い。
しかし今回はこれで良い。普通のISでもやれるような倒し方でなければ意味が無いのだ。
尤も、敵とて黙っている訳ではない。
正面にいる
これに対しNEXTは垂直型フレアで直上からのミサイルを無力化。正面から迫る弾幕の如きミサイルはマシンガンで迎撃。爆発したミサイルがブラザーキルを起こし、連鎖的な爆発が轟音と爆炎を撒き散らす。この隙に更に直進――――――と見せかけてサイドブースターを吹かして回避運動。直後、爆炎の向こう側からグレネードが連続して撃ち込まれる。
着弾位置は、回避運動をしていなかった場合の未来位置だ。撒き散らされた爆炎が、装甲表面を撫でていく。
だがNEXTは構わず前進を続ける。
相手の得意とする距離で撃ち合う必要はない。
圧倒的火力と装甲を持つ巨大兵器相手に、遠距離で撃ち合うなど馬鹿げている。
しかしそれは、敵も分かっている事だった。
機動力に勝るISを、懐に入れてやる理由など何一つない。
巨大兵器からの攻撃は激しさを増す。
NEXTが
即座にエネルギーがチャージされ、次々と放たれる閃光。
それをNEXTは
無論正面に戻れば、
ミサイル、グレネード、パルスガン、次々と放たれる攻撃がシールドを傷つけ、損壊させ、形を失っていく。
そして
極太レーザーの脇を駆け抜けながら、両背部のロケット砲をアクティブ。連続発射で
→L ARM UNIT :
ロケット弾の連続攻撃を受け、
しかし敵も黙ってやられている訳ではない。背部ブースターユニットを使い、100m近い巨体にも関わらず跳躍。
だがその行動は、
右背部ロケットをリリース。代わりの武装をコールする。
→R BACK UNIT :
NEXTも後を追うように空を飛び、
そして、
下方からの衝撃に、100m近い巨体が空中で不自然なまでに跳ね上がる。更にロケット弾と散弾バズーカで追撃。エネルギーシールドの明滅が消え、本体へと攻撃が届くようになった。
こうなれば、後はどうとでも料理できる。
今度は一気に上昇し、
マシンガンと散弾バズーカで両肩のミサイルコンテナを攻撃。コンテナに納められたミサイルが誘爆を起こし、両肩が爆散。衝撃で両腕が千切れ飛び、姿勢制御に深刻なエラーが発生したところで、地球の重力に引かれて落下を開始する。
勿論、このまま素直に着地させてやる気など無い。
撃ち尽くした
→R BACK UNIT :
NEXTは再び位置を変え、今度は落下していく
重心から最も遠い位置への攻撃に、ついに安定制御が限界を超えた。
空中で機体が180度回転し、頭から地面へと落ちていく。
そして100m近い巨体がそんな落ち方をすればどうなるかは、誰でも分かるだろう。
落下の衝撃は局地的な地震を発生させ、爆発で歪みが生じていたフレームは、バウンドして転がる度に更に歪んでいく。
そうしてやっとバウンドが止まった時、
(本物の
(帰るまで油断は禁物だ)
束の軽口に、あくまで緊張を解かない晶。
そしてその判断は正しかった。
(チッ!!)
思わず舌打ちする晶。と同時に、新たに現れたハイレーザーが砲撃を始める。
しかし
回避運動を取りつつ接近。距離を詰めて攻撃――――――しようとしたところで、再度の回避を余儀なくされた。
(面倒な)
賢い手段ではないが、遠距離攻撃で済ませる方法はある。
だが今回の目的は、普通のISでも可能なジャイアントキリングだ。
NEXT兵器のゴリ押しで勝っても意味が無い。ならば、取れる手段は1つしか無かった。
ハイレーザーと近接防御砲台の弾幕をかい潜り、極至近距離から攻撃を叩き込む。
弾幕を突っ切る覚悟さえあれば、誰でも出来る作戦だ。
――――――OVERED BOOST、READY。
背部装甲板が再び展開。大型ブースターが露出し、甲高い作動音と共にエネルギーが供給されていく。
同時に、幾つかの武装を変更する。
→L ARM UNIT :
→L BACK UNIT :
――――――GO!!
近付けば即座に、
だがNEXTは速度を緩めない。
左手の
そして晶の取った手段は、実に荒々しいものだった。
巨大兵器という鈍重な兵器では、狙いに気づいたところで回避する手段など無い。
速度を落さず離脱したNEXTは、後向きに
結果、
そこでNEXTは大きく手を振り、AMBAC機動で180度ターン。再度接近を開始する。
盾で身を守りながら突っ切っていく。
そうして一度接近してしまえば、
スラッグガンが近接防御用レーザー砲台をまとめて破壊し、打撃・刺突武器としても使える
こうして次々と脚を破壊していった晶は、最後にコアネットワークで束に尋ねた。
(ところでコレ、完全に破壊しちゃって大丈夫かな? 汚染を撒き散らすのは流石に嫌なんだが………)
(大丈夫じゃないかな。以前ハックした時に調べたけど、核みたいな恒常的な汚染は無いと思うよ)
(そうか。なら遠慮無く)
新たな武装をコールする。
→L ARM UNIT :
こんなものを輸送ルートの近くに残しておいても、火種にしかならないだろう。
そうして企業の狙い通りに後始末をしてしまった晶は、撃墜されたISパイロットの救助に向かうのだった――――――。
◇
一方その頃撃墜されたISパイロットは、自身の身に起きている事が信じられないでいた。
今まで無敵を誇っていたISが巨大兵器に成す術も無く撃墜され、無残に地を這っているのだ。
体を覆っていた各部の装甲は砕け散り、平素であれば異性を魅了してやまないだろうボディラインが晒されている。だが今は泥だらけで、流れ出た血が肌を汚していた。
薄れ行く意識の片隅に、ISのダメージリポートが流れていく。
――――――ダメージレベルE
ISの生命維持が無ければ、既に死んでいてもおかしくは無かった。その生命維持装置も先の戦闘によるダメージで、もういつ停止するか分からない。
脳裏に響くエラーメッセージは、既に単独での機能回復が不可能な事を示している。
(もう、無理ね………)
今すぐ緊急搬送されたとしても、助かる可能性は低いだろう。
何よりあんな巨大兵器が闊歩する戦場に、救助など来るはずが無かった。
そんな風に、ISパイロットが諦めた時の事だった。視界の片隅に、飛んでくる何かが映ったのは。
「間に合った!!」
まさか?
そんな思考がパイロットの脳裏を過ぎる。
ISパイロットで彼を知らない者などいない。
束博士を護る
だが彼女に、何故という疑問を口にするだけの体力は残っていなかった。
1つだけ分かったのは、意識が途切れる直前に何かを接続され、生命維持装置が息を吹き返したという事だけだった。
そしてこの光景は、偶然近くにいたマスコミにより、一部始終がカメラに収められていた。
撃墜されたISパイロットを助けるNEXT。
壊れた機体や傷ついたパイロットをそのまま映せば反感を買うかもしれないが、こういう形でなら、壊れた機体も傷ついたパイロットも、美談を彩るスパイスでしかない。
付け加えるなら、企業はどこまでも冷静で狡猾だった。
あえて自分達の息のかかった、都合の良い記事をかくマスコミではなく、権力に屈する事を嫌う筋金入りのジャーナリスト達を、別のネタで現地に誘き出しておいたのだ。
そんな人間ならIS至上主義者のあらゆる妨害を撥ね退けて、事実を歪める事なく公表してくれるだろう。
勿論一般にも情報が浸透し易いように、企業は子飼いのマスコミを通じて、美談を最大限に活用させてもらうつもりだった。
結果、世界に激震が走った。
今回の一件は救助の美談と共に、連日繰り返し放送され、一般市民共に否応無く、ISが撃墜された事を理解させていった。
そうして企業の望み通りに、世界は動きだす。
まずはISを持たない国が、巨大兵器購入へと踏み切ったのだ。
次いでその周辺国が購入を始めれば、後は連鎖だ。
特にオイルマネーで潤う中東諸国は、国防の切り札を女性に依存する現状を良しとせず、複数機の購入に踏み切る。
だがIS業界も黙っている訳では無かった。
巨大兵器に負けた原因がISの火力不足にある事は明白だとして、次々と新兵器の開発に踏み切ったのだ。
無論この開発競争は、企業の意図したものである。競争こそが市場原理だ。
しかし2つ、イレギュラーがあった。
当初企業側は、ISを最強の座から叩き落し、巨大兵器が新たな最強となる流れを考えていた。
だが巨大兵器という圧倒的な力を見せ付けられて尚、世界のISパイロット達のモチベーションは高かった。
その原因は、IS学園から世界各国に流れた一冊のレポートにあった。
――――――タイトルは『ジャイアントキリング』
かつて物量による質の圧殺を予期していた男が、質によって物量を磨り潰す事を記したレポートだ。
恐らく彼という存在がなければ、無数の屍の上に築かれたであろう戦闘理論がそこにはあった。
これが1つ目のイレギュラー。
2つ目のイレギュラーは、NEXTが普通のISでも可能なジャイアントキリングを行ったことだ。
NEXTの圧倒的な戦闘力で巨大兵器を叩き伏せていたら、NEXTは別格の存在として、ISパイロット達の心は折れていただろう。
しかし今回彼は、普通のISでも可能な戦い方で巨大兵器を屠った。
そしてその事実は、権力に屈する事を嫌う筋金入りのジャーナリスト達が、事実を歪める事無く公表した。
つまり実力こそ必要とするが、ISでも巨大兵器は屠れるのだと、パイロット達は理解したのだ。
加えて言えば、パイロットというのは得てしてプライドの高い生き物である。
そんな人間が「実力さえあればお前らでも出来るんだよ」というのを見せ付けられ、黙っていられるはずがなかった。
こうして世界の軍備は、拡張路線を突き進み始めたのだった――――――。
第88話に続く
今回のMVP
・筋金入りのジャーナリストさん達。
利用もされましたが、良い仕事しました。