インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第86話 空港を護れ-2

 

 セシリアが見たNEXTの戦いは、冷酷な戦闘マシーン、或は無慈悲な死神という言葉が相応しかった。

 戦闘開始から僅か十数秒で、完全戦闘装備のパワードスーツ2個大隊(72機)が狩り尽くされたのだ。

 

(これが、世界最強の単体戦力。束博士の切り札!!)

 

 彼女は、晶が空港上空に飛ばしてくれた小型偵察機(小型グローバルホーク)から、今の戦闘を余さず見ていた。

 そして気付けば、全身が震えていた。この沸き上がる感情が何なのかは本人にも分からない。

 恐怖かもしれないし、純粋な驚きかもしれない。

 だが彼女はその感情に浸るよりも、今の戦闘から“何か”を掴む事を優先した。

 その為に、記憶の中にしか残っていない今の戦いを、言い知れぬ感情と共に振り返るのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

(晶、もうすぐ作戦領域だよ)

 

 束の声が、コアネットワークを通じ晶へと届く。

 そこでNEXT()はFCSのセーフティーを解除。全戦闘システムを立ち上げる。

 

 ――――――WEAPON CHECK

 →R ARM UNIT  :04-MARVE(アサルトライフル)

 →L ARM UNIT  :063ANAR(アサルトライフル)

 →R BACK UNIT  :WB27O-HARPY2(オービット)

 →L BACK UNIT  :HLC02-SIRIUS(ハイレーザーキャノン)

 →OPTION UNIT  :小型偵察機(小型グローバルホーク)

 ――――――WEAPON CHECK

 

 武装のチェックが完了したところで、晶は作戦の最終確認をした。とは言っても、難しい事は何もない。空港設備が被害を受ける前に、可能な限り速やかに敵を排除する。それだけだ。

 その為に今回のミッションでは、WB27O-HARPY2(オービット)のコントロールを束に預ける事になっていた。

 オービットを使う理由は単純だった。

 空港に被害を出さないという制約上、幾つかのNEXT兵器が使えないのだ。

 マルチロックオンで一番殲滅力がありそうなミサイルは、その攻撃力ゆえ施設に被害を出しかねない。同じ理由でグレネードも駄目。プラズマ兵器など使おうものなら、着弾で発生する強力なECMが、空港としての機能そのものを破壊しかねない。

 アサルトライフルやレーザーライフルなら使えるが、スピード勝負のこのミッションで、72機を1体1体撃っていては時間が掛かり過ぎる。

 しかしオービット兵器なら、NEXTから射線の通らない場所や建物の中でも、ビットの誘導さえ出来れば攻撃出来る。

 問題は戦闘機動中の晶に、WB27O-HARPY2(オービット)の全弾精密制御が出来るのかという事だったが、今回は心強いオペレーターがいるのだ。任せた方が確実だろう。

 

(束。オービットのコントロール、頼むな)

(任せて。この私がやるんだ。失敗なんて有りえないよ)

(頼もしい)

 

 こうしたやり取りの間に、晶は小型偵察機(小型グローバルホーク)をコール。

 今回の戦闘を見学するセシリアの視界が、ユジュナ空港上空からのものに切り替わる。

 緊張から、彼女はゴクリと息を呑んだ。

 束がカウントダウンを始める。

 

(5……4……3……2……1……突入!!)

 

 NEXTが作戦領域突入と同時にVOBをリリース。だが機体に残った慣性と速度が、すぐに消える訳ではない。

 結果、人間の反応速度を遥かに越えた高速強襲が実現する。

 苛烈な攻撃は、束の意思そのものだ。

 初めに使われた武装は、突撃戦において比類無き性能を誇る名銃。レイレナード社製04-MARVE(アサルトライフル)。その性能はAC世界最高の物理防御力を誇る有澤製ネクストを、実弾で削り切るほどのもの。

 そしてもう一丁の銃は、BFF社製063ANAR(アサルトライフル)。威力と連射性能こそ04-MARVE(アサルトライフル)に劣るが、アサルトライフルとしては破格の命中精度を持つ傑作兵器。

 この2つ銃口が火を吹く度に、次々とパワードスーツが倒れ――――――否、人の形を失っていく。

 腕に当たれば肩口から消し飛び、胴に当たれば大穴が開き四肢が千切れ飛んでいく。

 パワードスーツの防御力では、NEXT兵器の弾丸一発すら防げない。

 そして滑走路の端に着地したNEXTは、2つの武装を同時に起動。1つは左背部にあるハイレーザーキャノン(HLC02-SIRIUS)。1つは右背部にあるオービット兵器(WB27O-HARPY2)

 ハイレーザーキャノン(HLC02-SIRIUS)は、AC世界におけるレーザー兵器のリーディングカンパニー、旧メリエス社が高負荷と引き換えにしてまで性能を追求した武装だ。

 折り畳み式の砲身が展開され、その射線上に7機のパワードスーツがいる。とは言っても、長い滑走路の上に7機だ。

 普通なら撃ち抜けるはずも無い。

 敵もそう思っていた。

 しかし晶は躊躇無くトリガー。

 莫大なエネルギーが収束されたレーザーは、1体目の胴体を貫通し、有り余る熱量が上半身を融解させ、殆どエネルギーを減衰させないまま7機目をも貫通。閃光が駆け抜けた滑走路には、人型の下半身のみが残されていた。

 そしてセシリアの視点から見て最も圧巻だったのは、最後に使われたオービット兵器(WB27O-HARPY2)だった。

 ハイレーザーキャノン(HLC02-SIRIUS)発射と同時に全弾発射された小型ビット群は、即座に空港全域へと展開。建物の外に展開していたパワードスーツ(撃震)を次々に攻撃。瞬く間に風穴を空けていった。

 僅か数秒の間に30機が撃破され、続く数秒でその数が50へと増え、建物の中にいた敵機(撃震)も、人質を取る間すらなく撃ち抜かれていく。

 結果ファーストアタックから僅か十数秒で、完全戦闘装備のパワードスーツ2個大隊(72機)が、物言わぬ鉄屑へと成り果てた。

 この光景に、居合わせた人々は何を思っただろうか?

 始めは何が起きたのか分からなかっただろう。

 空港ターミナルでは、少なくない数のパワードスーツ(撃震)が一般人に銃口を向けていたのだ。恐怖に怯えた人々が、周囲の状況を正しく認識出来るはずもない。

 それが滑走路に閃光が走ったと思ったら、いつの間にか現れた小型兵器が、瞬く間にパワードスーツ(撃震)を駆逐していったのだ。

 

「………今のは、いったい?」

 

 恐怖で固まっていた誰かの呟きが漏れる中、別の誰かが叫んだ。

 

「おい、あそこ。あそこ見て見ろよ。アレって、もしかして」

 

 指差された先に、多くの視線が向けられる。

 黒を基調とした全身装甲のISが、滑走路を歩いていた。

 最近ロサンゼルスで救助活動をしていた事もあり、多くの人はすぐに分かった。

 

「NEXTだ」

「まさか」

「でもあの姿、間違いないよ。この前テレビやってた」

 

 1人がカメラを取り出せば、別の人間が動画サイトでニュースを検索。僅か40分程前に、IS学園から緊急展開している事が知れ渡っていく。

 

「本当だ。助かったんだ」

 

 安堵する一般人達。だが状況は、そう楽観出来るものでは無かった。

 報道規制によりまだ知られていないが、交戦中の2機の巨大兵器が北上を続けており、このままだとムリーヤが給油を終える頃に、この空港が交戦圏内に入るだろう。

 

(予定通りというか、想像通りというか………)

(うん。黒幕は何がしたいのかな? 計画の邪魔をするだけにしては、大袈裟過ぎる気がする)

 

 同意する束。

 この時、晶の脳裏にふと過ぎるものがあった。

 

(まさか………)

(どうしたの?)

(いや、確か巨大兵器の侵攻を防ごうとして、防衛部隊が全滅してたな?)

(うん。それがどうかしたの?)

(その後の動きは? 追加でISが出撃したりはしてないか?)

(キルギス軍の状況はモニターしてるけど、出てはいな――――――いや、たった今出撃したみたい)

 

 戦術的に考えれば可笑しな話だった。

 強大な敵に対し戦力の逐次投入など、愚作以外の何ものでもない。

 となれば同時投入出来なかった、ではなくしなかった、と考えるべきだろう。

 何故という疑問と、無数の可能性が脳裏を過ぎる。

 そんな中、晶はある考えに行き着いた。

 キルギス軍内部に企業の手が及んでいるなら、可能な話だ。

 

(………想像通りなら、嫌な話だな)

(何を思いついたんだい?)

(下世話な話さ)

 

 行き着いたのは、IS神話終焉のシナリオだった。

 このタイミングでISを出撃させれば、間違いなく巨大兵器対ISという構図になる。

 防衛部隊が壊滅している今、両者の純粋な力比べだ。

 この状況でISを撃破すれば、それは誰が見ても巨大兵器の実力だろう。

 そしてこの地にNEXTを呼び寄せたのは、残しておけば扱いの面倒な、巨大兵器の後始末をさせる為ではないだろうか?

 作った連中からしてみれば、巨大兵器の限界性能も知れて、後始末の手間も省ける。

 随分とコストは掛かっているだろうが、ISに勝ったという事実があれば、買い手など幾らでもいるだろう。

 

(………なるほど、ね。今そこは君が展開しているおかげで、世界中の注目を集めている。宣伝には絶好の機会という訳だ)

 

 束の、不機嫌な声が返ってくる。

 

(ああ)

 

 NEXTが緊急展開した理由を、現在に至る前後の状況を、世界は徹底的に調べるだろう。

 その過程で間違いなく発覚する。

 ISと、巨大兵器が交戦したという事実が。

 そして束も晶も、今から急行したところで間に合うとは思っていなかった。

 キルギス軍に配備されているISは第二世代機。たかが第二世代機だ。それも通常装備のISが、巨大兵器2機を相手に出来るはずもない。

 

(私達を利用するなんて、業腹だね)

(ああ。でもまずは空港の安全確保だ。ムリーヤ到着まで時間がない)

(うん)

 

 ここで晶は左背部の兵装をリリース。新たな武装をコールする。

 

 →L BACK UNIT:061ANR(レーダー)

 

 レーダー範囲を拡大し再度の索敵を行うと共に、センサー系も併用して空港全域をサーチ。不審な反応が無い事を確認する。

 束も上空に飛ばしている小型偵察機を使い、空港とその周辺をサーチ。不審な反応が無い事を確認していた。

 

(取り合えず、空港は大丈夫そうだな)

(うん。そうだね)

 

 こうして空港の安全は確保され、滑走路に残った残骸は、職員の手(更識の人間)によって片付けられた。

 これでムリーヤは無事着陸出来るだろう。後は――――――。

 

(巨大兵器と出撃したISか………正直状況的に、今からどう立ち回っても利用されそうな気がするんだが)

(うん。君がそこにいる時点で、もう利用されるのは避けられないかな。悔しいな。アンサラー計画をダシにして呼び出されたんだ)

(仕方が無いさ。あの状況じゃ、俺が出る以外に輸送機と空港を護る手段は無かった)

(そうだね。でも、分かってても腹が立つよ)

(俺だってそうさ)

(なら、どうするの?)

(予定の変更はしない。あの巨大兵器をスクラップに変えてやる。俺に出来るのはそれだけだし、ここで背を向ければ、今度はその事実が利用される)

(オッケー。なら予定通りに)

(ああ)

 

 こうして晶は巨大兵器の迫る南に向かい、飛び立って行くのだった。

 一方その頃、交渉に入っていた皇女流(おうめる)麗香(れいか)とマリー・インテルは――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『――――――如何ですか、大統領閣下。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?』

 

 画面越しに投げ掛けられた言葉に、ウズベキスタン大統領は暫しの間、返事を返せなかった。

 パワードスーツ2個大隊(72機)の完全制圧まで僅か十数秒。

 同じ数を始末するだけなら、他のISでも可能かもしれない。

 だが空港設備に一切傷をつけず、尚且つ銃口を向けられていた一般人に1人の犠牲者すら出さない結果など、他の誰にも不可能だろう。

 無論、NEXTが常に空港防衛に張り付く訳ではない。

 しかし更識の部隊駐留を認めれば、それは背後にNEXTがいる事を内外に強くアピールできる。

 あの結果を前にして手を出そうという輩など、そうは居ないだろう。

 

『す、素晴らしい結果です。ミス皇女流(おうめる)。かの束博士を護る守護者の実力は聞き及んでいましたが、まさかこれほどとは』

『では先ほどの条件で契約、という事で宜しいでようか?』

『ええ。これであの空港は、世界一安全な空港として生まれ変わるでしょう』

 

 大統領は満面の笑みを浮かべながら、電子書類にサインをした。

 特例的に、空港への部隊駐留を認めたのだ。

 これで皇女流(おうめる)とマリーが当主(楯無)から受けた命令は完了した。だが今回のように初めから成功が見込まれている案件なら、もう少し成果が欲しいところだった。

 対する大統領も現在北上を続けている巨大兵器相手に、“何も出来ませんでした”では権力基盤が揺らいでしまう。よって“私は仕事をしましたよ”と言えるだけの成果を欲していた。

 こうした両者の思惑が一致した結果、話は次の段階に進んでいった。

 

『ところで、私からも宜しいですかな?』

 

 先に切り出したのは大統領だった。

 

『何でしょうか?』

『いえ。そちらなら既にご存知でしょうが、現在我が国に迫っている巨大兵器をどうにかして欲しいのですよ』

『貴国にも、それなりの部隊があったと思いますが?』

隣国(キルギス)のISが既に交戦していますが、アレでは1機が2機になったところで勝てませんよ』

 

 皇女流(おうめる)の映る空間ウインドウに、巨大兵器と交戦中のISが表示される。

 どちらが優勢かは一目瞭然だった。

 既にISは満身創痍。全身の装甲はひび割れ、所々剥離している。

 飛んでいるのがやっとという有様だ。

 対する巨大兵器は傷1つ無い。

 個体(IS)というちっぽけな存在から見れば、絶望的とも言える分厚いシールドと装甲。

 圧倒的な積載量が実現する重武装。

 ミサイルの弾幕が逃げ場を塞ぎ、ハイレーザーキャノンが連射され、ISが無様に逃げ惑う。

 恐らく、もう数分と持たないだろう。

 そんな映像を見ながら、皇女流(おうめる)はふと思った。

 

(この状況なら、マリーに任せるべきかしら?)

 

 更識家交渉人の中でも群を抜いた交渉成功率を誇る皇女流とマリーだが、2人が得意とする手法は異なっていた。

 皇女流は徹底的なリサーチと理論武装で相手に要求を呑ませる正統派だ。

 対するマリーは、相手の感情を誘導する事に長けていた。

 今のところ大統領はポーカーフェイスで平静を装ってはいるが、自国が巨大兵器に蹂躙されるかどうかの瀬戸際だ。内心ではさぞかし焦っているだろう。

 マリーならそこに漬け込んで、今後とも良い関係を結べるような交渉をしてくれるはず。

 そうして考えを纏めた皇女流(おうめる)は、交渉の席をマリーへと譲るのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 NEXT()が巨大兵器へと向かっている最中、見知った人間から通信が入っていた。

 以前イギリスで一緒に行動した更識家交渉人、マリー・インテルだ。

 

『――――――お久しぶりです。NEXT』

『戦闘前だ。要件は手短に頼む』

『勿論です。時間は取らせません』

 

 そうして伝えられた内容は、大統領からNEXTへの依頼だった。

 依頼内容は巨大兵器の排除。ベースの報酬だけでもかなりの額だが、更に報酬加算項目として、居住区やライフラインへの被害を抑えれば、その分も報酬に上乗せ。また空港の一件も報酬の査定対象にするとの事だった。

 

『随分気前が良いじゃないか』

『貴方があの程度の額で使えるなら、安いものでしょう』

『そうかもしれないが、腑に落ちないな。何故更識が俺への依頼を持ってくる?』

 

 今回の一件では束も晶も、楯無に何ら指示を出していない。にも関わらず依頼を持ってきたと言うことは、何かあると考えるのが普通だろう。

 だが返答は、思っていたよりも穏やかなものだった。

 

貴方(NEXT)の使用料、というところでしょうか。今回、貴方(NEXT)というカードをチラつかせる事で、幾つかの要求を呑ませる事が出来ました。なので、その分の代金と思って頂ければ』

『後でどんな要求を呑ませたのか教えてくれ』

 

 一般的な認識では、NEXTは束博士の切り札だ。そしてその戦闘能力は数々のミッションが証明している。

 しかも破壊だけでなく、護衛や救助、奪還といった各種のミッションまでこなしている。

 NEXTを金で雇える傭兵として見た場合、あらゆる局面に投入出来る、非常に使い勝手の良い駒なのだ。

 そしてマリーのような交渉人からしてみれば、実際にNEXTというカードを切れる必要は無い。その存在そのものが、交渉のカードとして成立する鬼札(ジョーカー)だ。

 ウズベキスタン大統領にしてみれば、国が蹂躙されるかどうかの瀬戸際にそんなカードを見せられれば、普段は呑めない条件でも呑んでしまうだろう。

 

『はい。後ほど報告書を出させて頂きます』

『頼む。――――――そろそろ次の作戦領域だ。交信終了』

『了解。御武運を』

 

 マリーとの通信が切れ、暫くすると遥か前方に、2つの巨大移動物体が見えてきた。

 1機は、以前アラビア半島で戦った人型モドキ(Type-D No.5)。確認されている武装は、今のところは前回と同じ。胴体部レーザーキャノン、フィンガーグレネード、膝部のパルスガン、ミサイルなどだ。ただしサイズが大幅にスケールアップしていて、100m近い全高がある。

 1機は、円盤状の中央パーツに6本の脚(L.L.L)というシンプルなデザイン。こちらは初めてみる新型だ。確認されている武装は、各脚部に1門ずつ内蔵型ロングレンジハイレーザーキャノン。同じく脚部に、無数の近接防御用レーザー砲台。円盤上部には、誘導性能を追求したと思われる、新型ミサイル砲台が複数。武装は3種類と少ないが、100mという全高が実現する圧倒的な積載量は無視出来なかった。それぞれの武装が大口径・大出力を兼ね備えた上で、連射精度と命中精度が両立されているという反則的な性能だ。

 そしてその周囲を飛び回る1機のISは、既にボロボロの状態だった。

 飛行機動は安定していないし、装備は右手のアサルトライフルと左手の物理シールドのみ。

 状況的に武装を温存しているとは考え辛い。恐らく使い切ってしまったのだろう。

 だが対する巨大兵器にダメージは見られない。装甲表面が多少傷ついている程度だ。

 もう決着はついたも同然だろう。

 そしてNEXTの到着を待っていたかのように、巨大兵器の圧倒的物量がキルギス軍のISに降り注いだ。

 ISの機動力を持ってしても回避しきれない、ミサイルによる面制圧攻撃。チャフがばら撒かれ、アサルトライフルで迎撃しようとも、それを上回る物量がISという個体を圧殺していく。更に予測射撃で、回避先に撃ち込まれる大口径ロングレンジハイレーザーキャノン。

 そして止めとばかりに、人型モドキ(Type-D No.5)の胴部大口径レーザーキャノンから極太の光が放たれ、全ての爆風を薙ぎ払う。

 

(………終わったな)

(うん。そうだね)

 

 NEXTのセンサーは、巨大兵器の攻撃に呑まれたISを捉えていた。絶対防御のお陰で死んではいないようだが、重傷なのは間違いない。放置したなら、遠からず死ぬだろう。

 だが束が、赤の他人の生死など気にするはずが無い。返ってきた言葉に、撃墜されたISパイロットの心配は欠片も含まれていなかった。

 故に続けられた言葉は、晶にとって意外なものだった。

 

(ねぇ晶。戦闘終了後、一応あのパイロット拾ってきて)

(それは構わないが、何故?)

(今回の一件ってさ、もうどうやっても利用されるしか無いと思うんだ。撃墜されたISパイロットなんて、格好の利用材料と思わない?)

(なるほど、了解した。戦闘終了後、回収する)

 

 2人は、最後まで気付けなかった。

 この判断こそ、企業がして欲しかった判断なのだと。

 今まで蓄積してきた各種の戦闘データから、巨大兵器が並のISを凌いでいる事は既に分かっていた。

 だがどうやって、女尊男卑の世の中にそれを認めさせるか、それが問題だった。

 仮にISを叩き伏せたとしても、撃墜されたISやパイロットを晒し者にするようなやり方は、世間の反発を招く。

 しかし、誰かに助けられたという美談ならどうだろうか?

 国を守る為に勇敢に戦うも、力及ばず撃墜されてしまったISパイロット。

 それを緊急展開していたNEXTが、巨大兵器を撃破して助ける。

 俗物が好みそうな、ドラマチックな展開だ。

 これなら美談として、繰り返し、繰り返し、報道出来る。

 そして繰り返し報道されれば、世間は嫌でも気づくだろう。

 ISにはISでしか勝てないなど幻想だと。ISは巨大兵器に敗北したのだと。ISは絶対の存在では無いと。

 もしこの場に、策謀に長けた楯無がいれば、違う結果になったかもしれない。

 しかしこの場に彼女の姿は無く、2人は利用されている事まで気付いていながら、敵の最後の一手を読み切れなかったのだった――――――。

 

 

 

 第87話に続く

 

 

 




ついにISが絶対の存在ではなくなってしまいました。
今後どうなる事やら………。(邪悪な笑み)


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