インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
ようやくUPです。
難産でした………。
一夏に連れられ、専用機持ちが集まるキャンピングカーに案内されたナターシャは、不覚にも、その場が持つ不可視の圧力に一瞬たじろいでしまった。
8機の専用機。NEXT、白式・雪羅、紅椿、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、ブルーティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲン、甲龍、打鉄弐式、小国であれば半日たらずで殲滅出来るだけの戦力が、この場には揃っていた。
全員の視線がナターシャに突き刺さる。
そんな中、晶が声をかけた。
「一夏、その人は?」
「
「お礼?」
首を傾げる晶に、一夏が説明を加えた。
「あの時、止めてくれてありがとうだってさ」
「ああ、なるほど」
真実を知る晶にとっては茶番だが、あの事件の真実が表に出る事はない。
突然の来客に適度に驚いたフリをしつつ先を促すと、ナターシャが口を開いた。
「以前の戦いで良く私を止めてくれた。おかげで私とあの子は、一般市民の虐殺という汚名を背負わずに済んだ。本当にありがとう」
撃墜した相手に礼を述べるなど変な感じだが、ナターシャが今後この面子と付き合っていくには必要な通過儀礼でもあった。
そして彼女にとって幸いだったのは、ここに粘着質な人間が居なかった事であろう。
礼はすんなりと受け入れられ、そのまま夕食を一緒に食べていく事になった。
ちなみに外でのバーベキューである。これなら焼くだけなので、一部料理が壊滅的な人間がいても大丈夫だろうという、メンバー間の暗黙の了解であった。
◇
そうして日が暮れ始め、バーベキューが始まってから暫くした頃、ナターシャは極々自然な雰囲気で晶と雑談する事に成功していた。
話題は主にISやパワードスーツ関連という華やかさに欠ける内容だったが、初対面かつ両者ISパイロットなら、ある意味仕方のないところだろう。
そんな中、
「ところで、あの車にはどんな改造がされているのかしら? 世間では、束博士が並々ならぬ愛情を持って改造した事になっているけど」
「まぁ、相当に」
束の言葉を借りるなら、既存技術をちょっと(?)ボトムアップ+最先端技術の半歩先程度を投入しただけで、何ら特別なものではないらしい。だが一般の技術者から見れば、車の形をした何かと言えるほどに改造されつくしていた。
改造内容の極一部を紹介するなら、MAX430Km/h、ターボ使用で+100Km/h、ZERO-MAX2.5秒、アクティブサスペンションで速度と安定性の両立、フロートシステム搭載で水上走行可能、対戦車ロケットランチャーの直撃に1~2発程度なら耐え、ドアを締め切れば毒ガスも防御可能………等々。
公道の走行許可を取る際にこの車を見せた試験官達(実際は自動車メーカーの回し者)は、余りのオーバースペックに言葉を失っていたという。
そしてこの話を聞いたナターシャは、ひとしきり笑った後、お腹を押さえながら口を開いた。
「それはそうでしょうね。だってそれ、
「俺もそう思うけど、それだけ愛されてると思えば嬉しい限りさ。――――――ところで、そっちは何に乗ってるんだ?」
「コルベットよ。多少メーカーのアップグレードが入っているけど、貴方のに比べたら極普通の範囲ね」
「GM社の? 何代目?」
「乗っているのは3、4、6代目ね。その日の気分によって乗り換えてるわ。最新型はデザインが少し気に入らなくて、買ってないの」
「その日の気分で乗り換えるとは、金持ちめ」
「貴方が言う? それならアレは何かしら? 道楽以外の何者でも無いと思うけど」
そうして彼女が指差した先にあったのは、キャンプ用のライトに照らされたガンヘッドだ。
勿論武装など施されてはいないが、タンクモードで駐車している今の姿を、重機と答える人間は極々少数だろう。
「返す言葉もない。だがオプションを上手く使えば、アレ一台で大抵の仕事はこなせるぞ。並大抵の悪路はものともしないし、整地、建築、運搬、取り壊し、なんでもござれだ」
「土木業者でも始める気?」
「束が言えば、何かやるかもしれないな」
「言わなかったら?」
「趣味と浪漫の産物だから悔いはない」
「貴方みたいな人を、
「否定はしない。洗練された最新型も好きだけど、ああいう泥臭いのも好きなんだ」
ここまでの会話で、ナターシャは幾つか分かった事があった。
この男、基本的に噂通りの人間だ。
自分にとって害の無さそうな相手に対しては非常に紳士的。多分に趣味的なところもあるが、嫌悪感を抱くようなものではない。むしろ今まで、束の言う事しか聞かないロボットのような人間を想像していた彼女にとっては、人間的で好感が持てると言えた。
加えて周囲を見回してみると、各国の代表候補生が仲良く話をしていた。
(プライドの高い専用機持ちを、よくぞここまで纏めたものね)
専用機持ちは、総じてプライドが高い。選び抜かれてその地位を手にしているのだから、仕方のない事なのかもしれないが、ここにはソレがない。只の友人のように、仲良くしているのだ。
(指導者としての腕前も、噂通りということね)
ただ厳しく指導するだけでは、こうはならない。自身も厳しい訓練をくぐり抜けて来ただけにそれが分かるナターシャは、晶への認識を再確認していた。
そして1人そんな事を思っていると、フランス代表候補生、シャルロット・デュノアが彼に話し掛けていた。
(………思えば、彼女も要注意人物よね)
親しげに話す2人を見ながらナターシャは思う。
ISパイロットとしての腕があるだけでなく、社交的で人間関係の調整力にも長ける。
これだけなら、それほど脅威ではない。捜せば似たようなタイプの人間はいる。彼女の恐るべきところは、
元々のデュノア社はラファールという名機があるとはいえ、第3世代機の開発が難航し、倒産寸前の斜陽企業だった。
それが旧経営陣を退陣に追い込んだのを皮切りに、束博士から発電衛星を借り受け、
こうして成長する実家の力を、彼女は2人の為に行使していた。
アンサラー計画への全面支援などは良い例だ。
加えてデュノア社復活に際し、篠ノ之束と更識楯無が動いたという情報があった。未確認情報だが、あの束博士が発電衛星を貸し出しているくらいだ。間違いないだろう。そしてこの2人を同時に動かせる人間など、1人しかいない。
こうした背景が、シャルロットに代表候補生以上の発言力と影響力を与えていた。
何せ世界最高の頭脳と武力がバックにつき、実家は欧州最大規模の企業体。彼女の発言は、今や最も注目されているものの1つだ。
世間一般でお姫様と言われているのも肯ける話だろう。
そんな事を思っていると、2人の話にドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒが加わっていった。
どうやらガンヘッドに興味津々のようだ。
薙原晶に性能解説をねだっている。
(確か以前は、“ドイツの冷氷”なんて2つ名で呼ばれていたと思ったけど………)
今の彼女を見る限り、とてもそんな風には見えない。
軍人らしい硬さはあるものの、時折見せる表情は歳相応のものだ。
笑い、拗ねて、冗談を良い、時折デコピンで額を打たれては擦っている。
専用機持ちという肩書きがなければ、本当にただのクラスメイトのようだ。
だが忘れてはいけない。
彼女はドイツ軍IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の元隊長。
IS学園編入の為に軍籍を凍結されてはいるが、実力は折り紙つきだ。
そして情報部が確認したところ、アンサラー計画にはシュヴァルツェ・ハーゼ本隊も関わっているらしく、今は本国に殆どいないようだ。
IS配備の特殊部隊を動かしてまで支援しているということは、ドイツも相当入れ込んでるらしい。
(2人の仲は良好。そういえば、確か共同ミッションで一緒に動いた事があったわね。それ以来の仲かしら?)
この状況だけをみればドイツとの関係は良好極まりなく見えるが、実はかなり痛い出費の上に築かれた関係というのは、周知の事実だった。
国内にあった違法な工場の存在を暴露されたあげく、これまた違法なVTシステムの存在まで暴露され、事態収拾の対価として衛星へのアクセスコードまで要求されたらしい。
IS学園に専用機持ちを送り込んでいる国の中では、一番痛い目を見ているのがドイツだった。
しかしドイツという国、根が真面目なのか諦めが悪いのか、それともラウラの人徳(?)ゆえか、アラビア半島での共同ミッション以降、関係が急速に改善しているというのが情報部の見立てだった。
そしてまた暫くすると、3人のところへイギリス代表候補生、セシリア・オルコットが加わっていった。
(あら? もしやと思っていたのだけど………)
情報部の調べによれば、IS学園入学前の彼女は男嫌いでプライドの塊、他人を見下す傾向が強く協調行動が苦手、実力こそあれど一定以上の上には行けない、そんな人間と分析されていた。
だが入学後、ある時期を境にして急激に変わっていったという。
情報部はその原因が分からず首を傾げていたが、同じ女から見れば一目瞭然だった。
(若いわねぇ………)
そんな事を思いながら、ナターシャは彼女の背景を思い浮かべていく。
幼くに両親を亡くして莫大な資産を相続したイギリス有数の資産家にして、名門貴族の当主。その美貌と地位から欧州社交界では、シャルロットと並ぶ高嶺の花。そんな相手を選びたい放題の彼女だが、数々の成功者からのアタックは全て断っているという。
(あの目を見れば納得だけど、相当な男嫌いと言われていた彼女が、あそこまで変わるなんて………薙原はどんなマジックを使ったのかしら?)
興味の尽きないところだが、初対面でそこまで聞くのは流石に失礼だろう。
(でもこうして見ると、欧州と
彼が世に出た当初は、強大な戦闘力こそ恐れられていたものの、あくまで束の護衛戦力でしかなかった。そして戦闘力だけが取り得なら、付け入る隙は幾らでもあった。だがISパイロットを育てるのが上手いとなると話は変わってくる。
言うまでもなく国防上の最重要戦力であるISは、その戦闘能力をパイロットに大きく依存する。そのパイロットの質を引き揚げられる人間というのは、何処の国も組織も、喉から手が出る程欲しいのだ。
加えて薙原晶に近付くという事は、束博士との距離をも縮める事になる。
(こうして考えると、やはり今後は彼との関係がキーね。――――――あの話、受けようかしら)
ナターシャがそんな事を思っていると、彼の影から、小動物のようにジ~っと見つめてくる人影があった。
日本代表候補生、更識簪だ。
(そういえば、彼女もいたわね)
実力はせいぜい中の上程度。ただのパイロットとして見るなら恐れる事はない。しかし彼女の専用機開発には、彼も手を貸しているという。下手をすれば、束博士の技術が入っている可能性もあった。
情報部が掴んだ情報によれば、彼女の機体はISとしては珍しい追加装甲タイプ。既に本体はロールアウトし、NEXTと模擬戦している姿が何度か見られている。トップスピードが遅く旋回性能が高いらしいので、砲撃戦タイプだろうか?
身の丈の三倍を越える、巨大なガトリング砲“らしきもの”を持っていたというが………。
(……まぁ、これについては今考えても仕方が無いわね。お披露目を待ちましょうか)
こうしてナターシャが専用機持ち達の事を考えているのと同様に、晶も彼女の事を考えていた。
(目的は顔見せ。友好関係構築の足掛かりかな)
貴重なセカンドシフト機のパイロットが、護衛も付けずこんなところに現れるなど、何か意図があると考えるのが普通だろう。
何故ならアメリカは晶と一夏に、次代の世界戦略を根幹から突き崩されていたからだ。
まず
だがこの最新鋭機は正式稼動する前に暴走したあげく、
加えて先日、NEXTが第七機動艦隊に配備されていた新型ミサイルの迎撃網を突破してしまった。つまりNEXTが敵にまわった場合、侵攻を阻止出来る手段が無いということ。この事実は第二次世界大戦時の日本海軍による、たった2回の空襲以降、一度として本土空襲を許した事のないアメリカにとって、決して見過ごせないものだった。
だから取り合えず、友好関係を築いて安全を確保しておこう、というところだろう。
(………しかしこうして考えると、
下手に追い込んでいたら、最悪焦りからなりふり構わず、一夏と白式の確保に動かれていたかもしれない。あの国の国力を使ったパワーゲームに持ち込まれては、幾ら束や楯無がいても厳しかっただろう。
こうしてお互いが内心で状況確認を済ませていると、付けっぱなしにしていたラジオからニュースが流れ始めていた。
『――――――続いて次のニュースです。ロサンゼルス近郊グレンドラで発生した山火事は、3000人規模での消火活動も拡大を続け、住宅街に迫る勢いです。当局は住民の安全を優先し避難命令を発令しました。付近の住民は速やかに避難をして下さい。繰り返します。付近の住民は速やかに…………えっ、これって!?』
キャスターの焦る声が流れた。
何事かと、その場にいる全員の視線がラジオに集中する。
『失礼しました。速報です。ロサンゼルス中心部、
重なる災害と事故に、皆がラジオに聞き入り始めた。
ナターシャが手持ちの端末を操作し、ニュース番組を開く。
『――――――こちら事故現場上空です。ご覧下さい。30台近い車の玉突き事故です。中には大型タンクローリーの姿も見られ、燃料への引火が心配されます。あっ!!』
映像には、クラッシュした車から炎が立ち昇る光景が映し出されていた。
まだタンクローリーは無事だが、幾ら安全対策が施されていたとしても、長時間炎に晒され続ければ、いずれ耐熱限界を超えるだろう。
晶はチラリとガンヘッドを見た。
(性能試験には丁度良いかな?)
些か不謹慎な考えだが、彼は正義の味方になる気はなかった。だが正義の味方という衣は、何かと都合が良かった。
そして大規模な山火事に消防隊が取られている今なら、申し出るタイミングとしては悪く無いだろう。
「――――――ナターシャさん」
「何でしょう?」
「もし良ければ、救助活動の手伝いくらいはできますよ」
「!? 良いのですか?」
「ええ。消防隊が山火事に取られている今、恐らく人手不足でしょう。本職には及ばなくても、被害を減らす事くらいはできるかと」
人によっては謙遜に過ぎる言葉と思うかもしれないが、晶は本格的な訓練を積んだプロを侮る気は全く無かった。
専門家の知識や技術というのは、時として使う道具の良し悪しなど、軽く超えてしまうのだ。
「それはありがたい申し出ね。早速上に掛け合うわ」
ナターシャはすぐにアメリカIS委員会へと連絡を入れ、委員会も状況を確認次第、すぐに国内でのIS使用許可を出してきた。
「早いな」
「当然でしょ。こんな時に協力を断る理由なんて無いもの。ましてやあなた方なら、委員会も大歓迎だったんじゃないかしら」
「なら期待に沿えるよう頑張りますか。――――――っと、そうだ。アメリカはISでの活動許可を出したけど、皆の本国の方はどうなんだ? 勝手に使って怒られないか?」
普段IS学園にいると忘れそうになるが、皆の機体はそれぞれの国の技術力の結晶だ。
他国で使えば、機体情報の流出というリスクを伴う。
特に簪の打鉄弐式は、まだ正式なお披露目すらしていない新型だ。
だがそんな心配は、簪自身が一蹴した。
「だ、大丈夫です。戦闘稼動さえしていなければ、外見から取れるデータなんてたかが知れていますから。それに、こういう時に専用機を使わない事こそ、後で大問題になっちゃいます」
「分かった。まぁ今回は人助けだ。戦闘稼動なんて事は無いだろう」
晶はここで一度言葉を区切り、全員を見渡してから再度口を開いた。
「後、1つ伝えておきたい。今回の救助活動にはガンヘッドを投入する」
「ガンヘッド、アレか」
反応したのはラウラだった。そして全員の視線が、無骨なフォルムの車体に集中する。
「ああ。せっかく重機を持って来てるんだ。役に立ってもらうさ」
「投入は構わないが、さっき聞いた話だと、ISの展開速度についていけるほどのスピードは無かったと思うが?」
「そこは大丈夫だ。さっき空港に待機させておいた輸送用ヘリに連絡を入れた。もう暫くしたら来るだろう。――――――そうだ。ヘリが来るまで、自己紹介も兼ねてブリーフィングでもしてもらおうか」
全員の頭の上に「?」が浮かぶ。だが晶は構わずに続けた。
「ガンヘッド、起きろ。仕事の時間だ」
無骨な車体のライトに光が灯り、無機質な機械音声が流れる。
「マスター権限による起動命令を確認。自己診断プログラムスタート」
晶の手持ちの端末に、ガンヘッドの起動ログが流れていく。
―――GUNHED
→HEAD:MBR-5RA2C-HED ………OK
→CORE:MBR-5RA2C-CORE ………OK
→ARMS:MBR-5RA2C-ARMS ………OK
→LEGS:MBR-5RA2C-LEGS ………OK
→FCS :NON
→GENERATOR:MGP-VEXM…………OK
→RADIATOR :RIX-CR5000………OK
→BOOSTER :KBT-T000…………OK
→INSIDE :NON
→EXTENSION:KSS-AA00…………OK(追加装甲)
→O.PARTS
OP-S-SCR ……………………OK(実弾ダメージ軽減)
OP-E/SCR ……………………OK(エネルギーダメージ軽減)
OP-S/STAB……………………OK(安定性上昇)
OP-E/CND ……………………OK(ジェネレーター容量UP)
OP-ECMP………………………OK(ロック解除パルス信号)
OP-L/BRK ……………………OK(ブレーキング性能強化)
OP-L/TRN ……………………OK(旋回性能上昇)
OP-M/AW………………………OK(レーダーミサイル表示機能追加)
OP-R/INIA……………………OK(レーダー範囲拡大)
OP-CLPU………………………OK(放熱効率上昇)
→R ARM UNIT :NON
→L ARM UNIT :NON
→R BACK UNIT:NON
→L BACK UNIT:NON
―――全システム、チェック終了。
「皆様こんにちは。私は多目的重機MBR-5RA2C、コードネームはガンヘッド。――――――してマスター、仕事とは? 私起きぬけで状況が認識出来ていないのですが」
「ロサンゼルスのハーバーフリーウェイで玉突き事故が発生した。ここにいるIS9機で救助活動に向かう。情報収集と行動立案をしてみろ」
「了解」
束自らが手を加えたAIが自律行動を開始。オンラインに接続し、ニュースから情報を取得。映像分析から危険度、被害者数、予測被害値、様々なデータが瞬時に弾き出される。
「――――――立案完了。立体CGを使いますので、皆様ISの展開をお願いします。ハイパーセンサーの方が見やすいと思いますので」
「そうか。なら皆、頼む」
晶が促すと、全員がISを展開。全9機の専用機が稼動状態に入る。
するとこちらの様子に気づいた撮影スタッフが、遠目にカメラを回し始めた。近づいてくる奴がいないあたり、空気の読める奴が揃っているようだ。
そして再び、機械音声が流れる。
「ありがとうございます。回線接続レベルA。情報送信開始」
全員の視界に、ハーバーフリーウェイ周辺の立体CGが映し出される。加えて、それに重なるように幾つかの小さなウインドウが出現。順次追加情報が表示されていく。
「まず最優先で炎に包まれているタンクローリーの撤去を行います。定期的な整備が行われ標準的な耐熱性能を維持しているとしても、現状ではそう長く持ちません。ここに投入するのは4機。NEXT、白式、紅椿、
表示されている立体CGのタンクローリー周囲に、4つのマーカーが出現する。
「根拠は?」
「1番危険度の高いところに、最も高性能な機体を配備しました」
「パイロットの力量については?」
「考慮済みです。ルーキーが2名いますが、戦績を見るに問題無いと判断しました」
「なら良い。続けてくれ」
「次いでレーゲン、ラファールが重傷者の救助。AICによる停止結界は、要救助者の移動によるダメージを最小限に出来るかと。ラファールはそのサポートを」
ついでラウラとシャルのマーカーが、重傷者がいると予想される場所にマークされた。
「適切な判断だな」
「分かったよ」
2人が肯きながら答える。
「ブルーティアーズ、甲龍、打鉄弐式は軽傷者の救助を」
ここで再び晶が口を挟んだ。
「ガンヘッド、人の怪我は外見だけで判断出来ない場合がある。そこはどうするんだ?」
「ISのセンサー情報をIS学園の校医に転送。その診断結果で判断してもらおうかと。なのでマスター、学園側への連絡はお願いします」
「時差は16時間。まぁ丁度良い時間か。分かった。続けてくれ」
「はい。最後になりますが、私はヘリで現場に移動。救助の終わった事故車両の撤去を行います」
立体CGの玉突き事故を起こした車両の最後尾に、ガンヘッドのマーカーが出現する。
「――――――以上になりますが、皆様何か質問はありますか? 無ければこれで終了になります。如何でしょうかマスター」
「上出来だ。ただ1つ確認しておきたい。俺達の後に出張ってくる警察には、事故の原因究明って仕事がある。それへの対処は?」
「
「
「ここがアメリカで、
「良い判断だ。そして、丁度来たみたいだな」
遠くの空からローターの風切り音が聞こえてきた。
ガンヘッド用の輸送ヘリ、
ツインロータータイプで胴体の左右にコンテナ兼エンジンブロックを持ち、このコンテナに各種オプションパーツを入れる事で、ガンヘッドは現地到着後のオプション換装を可能にしていた。
「では皆、ガンヘッドの牽引が完了次第、救助に向かうぞ」
こうしてIS9機による、救助活動が開始されるのであった――――――。
第83話に続く
今回持ち込んだガンヘッド君は、ほとんどハイエンドノーマル(レイヴン用AC)規格で改造されているので、性能的にはどう見ても重機じゃないです。
多分ちゃんとした武装さえあれば、ガチタン構成のハイエンドノーマルと正面から撃ち合える………。