インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
お楽しみ頂ければ幸いです。
太平洋上を進む巨大兵器。
全長50.7m、全幅180.8m、全高30.5m。米軍の
搭載兵器は大型プラズマ砲×1、近接防護用レーザー砲多数、ミサイルコンテナ多数。航空機というよりは航空要塞とでも言うべき重装備だ。だがこれに加え、亡国機業の開発部門が仕事をした結果、更に3つの装備が追加されていた。
1つはこの巨体をほぼ完全に覆い隠せる光学迷彩。偵察衛星の高密度探査やISのセンサーを誤魔化せるほどではないが、既存兵器の通常索敵程度なら、まずすり抜けられる。
1つはType-D No.5に搭載されていた、シールドシステムの小型軽量化。ある程度耐久限界が下がってしまったが、これにより航空ユニットとしては破格の防御性能を会得している。
1つはBTシステムを応用したビット兵器の搭載。これにより、巨大兵器の弱点でもある死角の多さ・小回りの利かなさをカバーしていた。
そんな巨大兵器の内部に楯無を侵入させるべく、VOB装備の
しかし敵も、黙って見ているはずがない。
エネルギーを大量に消費する光学迷彩を解除。
その姿が顕になると同時に、機体各部のレーザー砲が発射態勢へ移行。更に多数のビットが放出され、巨体ゆえの死角をカバー。最後に機体上部中央の装甲板が展開され、大型プラズマ砲がポップアップ。
『向こうもやる気みたいだな』
『そのようね』
『楯無。VOBをリリースする。ここから先はドッグファイトだ』
『了解。――――――
晶が減速したのに合わせて、楯無はVOBの超加速に耐えるため、変更していた内部パラメーターを再設定。変更終了と同時に、
『―――3、2、1。リリース』
VOBが量子の光となって消えていく。合わせて晶は武装を変更。
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
→SHOULDER UNIT :
※1:LR登場兵器。目標を自動的に追尾・攻撃する小型兵器を射出する兵器。
『じゃぁ、行きましょうか』
『ああ。始めようか』
気軽に散歩にでも行くかのような楯無の言葉に、晶も同じように気軽に答えた。
互いの台詞だけを聞けば、連想されるのは平和な日常。だが今2人の眼前にあるのは、戦う為に、技術の粋を集めて作られた巨大兵器。日常の対極に位置する存在だ。
そして流れてきた雲が太陽を覆い隠した瞬間、戦いの幕が切って落された。
まずは晶が、楯無が突入する道を切り開くために先行。ビットをアサルトライフルで撃ち落しつつ、背部オービット兵器と肩部連動ミサイルを起動。ロックオンと同時にトリガー。放たれたオービットとミサイルが、巨大兵器に襲い掛かる。
しかしこんな単純な攻撃で、巨大兵器の護りを突破出来るはずがない。
多数の近接防護用レーザー砲と、100を超えるビット兵器が、迫る脅威を尽く撃ち落していく。
ここで楯無が動いた。
彼女の動きにビット兵器が釣られ、その位置を変える。
そして晶はこの動きに合わせ、
だが物量を武器とする
ビットを十数枚射線上に重ねる事で、威力を強引に減衰させて本体への直撃を防いだのだ。
そして吹き飛ばされた分のビットは、すぐに本体から射出され、瞬く間に再展開が完了する。
『面倒な。時間を掛けて削っても良いんだが――――――』
『――――――得策じゃないわよね』
巨大兵器相手に時間をかければ、積載量と火力の差が出てくる。
NEXTならばやれない事はないだろうが、
(どうする?)
刹那の思考。
今まで見せた事のある装備でも、攻略出来ないことはないだろう。だがそれには、幾つか無視出来ない危険性が潜んでいた。
近接格闘戦ではビットの防御を突破したとしても、斬っている間に背中から撃たれるだろう。パイルバンカーでは強力過ぎて、束がハッキングをする前に墜としてしまう。
多量のミサイルによる飽和攻撃は、
ハイレーザーやプラズマ兵器は強力だが、先のように防がれてしまえば、後は純粋な連射性能と物量の勝負。下手をすればこちらの性能限界を知られてしまう。
速やかに、そして一撃で突破口を開く必要があった。
よって晶は、新しいカードを切る事にした。
他人の前で使うのは初めてだ。
脳裏に浮かぶのは、直撃でさえなければ核兵器すら凌ぐ
―――ASSEMBLE
→L ARM UNIT :
左手に出現するのは不恰好なライフル。巨大なエネルギーを制御する為に取り付けられた多数の整波装置が、その異質さを浮き彫りにしている。加えて晶は取られるデータを最小限にする為、もう1つ武装をコールしていた。
―――ASSEMBLE
→SHOULDER UNIT :
こちらは即座に連続発射。尽くが途中で迎撃されるが問題ない。これは只のフラッシュロケット。発生した閃光で姿を隠せれば良いのだ。そして閃光が煌いている間に次の武装をコール。それをもって、NEXTは光学的・電子的に姿を消す。
―――ASSEMBLE
→SHOULDER UNIT :
発生した妨害電波が敵の
そして膨大なエネルギーがARSENICへ流れ込み、荒れ狂う力が、整波装置により強制的に収束されていく。
だが敵も黙っている訳ではなかった。
晶の狙い通りに細かい状況認識こそ出来ていなかったが、膨大なエネルギー反応だけは感知できており、危機感からNEXTのいる方向を面制圧。多数のレーザーやミサイル、ビット兵器が避ける隙間もなく撃ち出される。加えて大型プラズマ砲のチャージまでもが開始されていた。
(やってくれる!!)
避けられないと判断した晶は、背部武装をコール
―――ASSEMBLE
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
NEXTのシールドに無数の攻撃が突き刺さり、シールドゲージが減っていく。だが強化されたシールドを破るには至らない。
そして巨大兵器のエネルギー反応が急速に高まっていく。
(――――――思った以上にチャージが早い!!)
巨大兵器から検出されるエネルギー反応は、既に並のISなら、絶対防御の上から致命的一撃を叩き込めるレベルだ。喰らえばNEXTとて、無傷では済まないだろう。
そして奇しくも、NEXTと巨大兵器のエネルギーチャージが同時に完了。漏れ出たコンマ数パーセントのエネルギーが、互いの周囲に放電現象を引き起こしている。
同時に引かれるトリガー。
全てを破壊する緑の光と、淡い水色の閃光が空中で激突する。だが二色の拮抗は、一秒と持たなかった。
緑の光は、
緑の光が水色の閃光を駆逐し、突き抜け、敵大型プラズマ砲の砲身に突き刺さる。
この瞬間、ビット兵器の動きが鈍った。
『楯無!!』
『任せて!!』
―――ASSEMBLE
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :ハッキング用中継ユニット
右腕で外壁に穴を開け、そこに中継ユニットをねじ込む。
『束っ!!』
『待ってました!!』
次いで武装に供給されていたエネルギーがシャットダウンされ、近接防護用レーザー砲台やミサイルが使用不能に追い込まれていく。
それと平行して巨大兵器内部では、楯無が打鉄弐式を奪った
内部構造を破壊しながら繰り出される剣戟の応酬は互角。IS学園へ侵入するだけの事はあった。
しかし
これが大空を舞う機動戦闘なら、
結果
「き、きさま…………」
瞬く間に全身の装甲を砕かれた
見下ろす彼女の表情は、どちらが悪役か分からないほど、満面の笑みを浮かべていた。
「残念。私が相手でなければ、勝てたかもしれないわね。――――――返してもらうわよ。打鉄弐式を」
待機状態の弐式を手中に収める楯無。だが、これだけで終わるはずがなかった。
「あとは――――――選びなさい。今ここで殺されてISコアを奪われるか。自分で渡して囚われの身になるか」
どちらも死刑宣告に等しかった。
囚われの身になれば、持っている情報を洗いざらい吐かされるのは間違いない。加えて貴重なISコアまで失ったとなれば、亡国機業からは処刑人が派遣されるだろう。ISを失った身で、生き残れる可能性はゼロだ。
だからファントム1は――――――。
◇
相手の人間は勿論、命惜しさに寝返った男、艦隊司令だ。
『――――――まずは未確認機の撃破に感謝を。お陰で艦隊に余計な被害を出さずに済んだ』
『第七機動艦隊の実力なら、十分に排除出来ただろう敵だ。そちらのキルスコアを奪ったみたいで心苦しいな』
晶の言葉は意訳すると、「裏切りのアドリブに付き合ってやる」というものだった。
無論、その後の対応は相手の返答次第だが。
『いえいえ。事前のシミュレーションでは艦隊の被害が、軽く見積もって1割を超えていました。貴方が動いてくれなければ、どうなっていたことか』
ちなみに当然の事ながら、事前にシミュレーションなど出来るはずがない。
艦隊司令は亡国機業から、あの
だがそれでも1割という具体的な数値を口にしたのは、聞いている部下達に、“今回の一件は艦隊を考えてのこと”というのを印象付けるためだった。
何せ現代戦では、3割の被害で全滅判定が下される。故に1割という被害は、相当な被害を見込んだ事になる。
更に付け加えるなら、艦隊の1割だ。実際に被害が出れば、再建にどれだけの金が飛ぶか、恐ろしくて考えたくもないだろう。
『謙遜を。第七機動艦隊の打撃力をもってすれば、大した敵ではないでしょう。――――――身をもって体験させてもらいましたからね。間違いない』
『一発も当てられなかったのですから、こちらとしては落ち込むばかりですよ』
この時、フレンドリーな雰囲気ではあったが、あくまでそれは表面上のこと。実際は両者共に、落し所を探っている状態だった。
艦隊司令としては保身の為に、どうしても今回の一件は、「事前に巨大兵器の情報を入手していたが、正面切って戦うのは“余りにも”危険だったので、NEXTに協力を仰いだ」という形にしたかった。
対する晶は、この艦隊司令をどう扱うべきか決めかねていた。第七機動艦隊の司令ともなれば、持っている権限は強大だ。軍が関わる範囲内なら、並大抵の事は出来るだろう。だがこの男は、命惜しさに裏切ったという前科がある。完全に仲間に出来るならとても便利だが、信用出来ないのだ。
(…………どうする?)
しかしふと考え直す。真っ当な人生を歩んだとしても、完全に信用出来る仲間など何人出来るだろうか。恐らく、そう多くはないだろう。ならここで司令官が信用できないとして、何の問題があるだろうか。重要なのは、こちらに被害が出ないことだ。その為には、どうすれば良いかを考えれば良い。
(ふむ…………ここは無難に、巨大兵器の撃破を請け負った、という形で収めるか)
数瞬の思考の末、出した結論がそれだった。
確かに利用しようと思えば、骨の髄まで利用し尽せるだろう。
しかし万が一、「NEXTが第七機動艦隊を私兵のように扱っている」というふうに騒がれでもしたら、色々な意味で拙い事になる。
そうなれば、束にも危険が及んでしまう。
よって晶の対応は、あくまで依頼を受けた、という態度に終始する事となった。
『そう落ち込む必要もないさ。――――――ところで依頼は達成したんだ。報酬の件、忘れるなよ』
受けた依頼など存在していないのだから、本当なら受け取る報酬も存在しない。
だが依頼したという事実を作りたい司令にとって、この言葉は天の救いにも等しかった。
『勿論だ。アメリカが報酬を渋るなどありえんよ』
『期待している』
最後の言葉は意訳すると、「渋ったらどうなるか分かってるんだろうな?」である。
そしてその意味は、正しく伝わっていた。
通信が切れた後、司令は冷や汗をダラダラ流しながら本国に通信を開き、全力で自己保身に走り始めたのだった。
◇
一方その頃、IS委員会は蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。
その原因は、IS学園が襲撃されたからではない。襲撃に使用されたISが鹵獲されたからだ。
言うまでもない事だが、ISコアの総数は決まっている。よって何処の国が、何処の組織が、何個のISコアを持つかは厳密に決められていた。
そんな状況の中、所属不明のISが鹵獲されたらどうなるだろうか?
本当なら全てのISコアは所属が決まっているので、奪われた国に返すのが筋だろう。しかし何処の国からも、ISコアが奪われたという報告は上がっていない。そんな国の恥を晒すような報告を、上げられるはずがない。つまり新たに分配する必要がある。
そしてISの配備数は国防に直結する故、何処の国も喉から手が出るほど欲しい。よって水面下では既に、熾烈な交渉・工作が始まっていた。
そんな中、IS委員会に連絡が入る。薙原晶からだ。
『お忙しいところ失礼します。今回鹵獲されたISについて、1つ提案があったので連絡させて頂きました』
委員達の前に展開された空間ウインドウに、
画面端に見える背景が高速で流れているのは、未だ帰還途中だからだろう。
『これはこれは、今回もお疲れ様でした。生徒や一般人に被害がなくて何よりです。――――――して、提案とは?』
議長と思われる老人がこたえた。
『では単刀直入に。今回鹵獲したISですが、IS学園の所属としてはどうでしょうか?』
『IS学園には既に相当数が配備されている。それを更に増やすというのは、どうかと思うがね』
『搭乗者育成用の機体としてではなく、整備科の実験機としてですよ』
『どういう事かね?』
『単純な話です。もし整備科が自由に扱える機体があったなら、
『ふむ……………』
老人はしばし思考に耽る。
この場で提案を蹴るのは簡単だ。NEXTも提案と言っている以上、蹴れば強くは押してこないだろう。
しかしこの提案にはメリットがあった。
1つは今言われた通り、
そしてもう1つは政治的なメリット。
総数の決まっているISコアの分配は、国同士のエゴがぶつかり合う可能性が高い。時間をかければ、調停出来ないIS委員会への批判にも繋がるだろう。ならここは提案に乗って、IS委員会は健全に機能している事を示すのもアリだろう。加えて言えば、この提案を受け入れ纏めたというのは、自分の功績にもなる。
デメリットはISコアが欲しい国に恨まれる事だが、そんなものは何処の国にコアが渡っても一緒だ。ここは生徒の将来の為に、という建前を最大限に使って押し通せば良いだろう。
考えを纏めた老人は、柔和な笑顔を浮かべた好好爺とした雰囲気で答えた。
『悪く無い話ですな。若い才能の為に環境を整えるのも大人の役目。検討に値するでしょう。――――――ところで、聞いてもいいですかな?』
『何でしょうか』
『今回回収出来たコアは何個ですかな?』
『はて? 4個ではないのですか? 山田先生が1機、私が2機。楯無が1機。私が直接回収したのは1機ですが、狙撃砲で仕留めた奴には、回収班が向かったのでしょう?』
『現場に到着した班からは、兵器の残骸しか発見出来なかった、という報告が上がっている』
『そうですか。敵の動きも素早いですね。まぁ、そちらの調査はお任せします』
悔しそうに言う晶だが、実のところ狙撃砲で仕留めた1機を回収したのは楯無の配下だった。
何処よりも早かったのは当然だ。
動いたのは
『分かった。話はこれで――――――』
終わり、と言おうとしたところで、老人の中にちょっとした好奇心が芽生えた。
今回鹵獲されたISパイロットの扱いについて、彼はどのように考えているのだろうか?
謎の組織に属するISパイロットが3人だ。何処に移送して、どう扱おうが、扱いに困るのは間違いない。
『――――――そうだ。ついでにもう1つ良いですかな?』
『答えられる事でしたら』
『難しい事ではありませんよ。今回捉えた3人のISパイロット。どう扱えば良いと思いますか?』
『十分難しい問題でしょうに』
晶はしばし考えた。
裏社会の人間、しかもISパイロットとなれば末端ではありえない。
しかし有効な情報を吐かれる前に、刺客が送られてくるだろう事は想像に難くなかった。
そして敵の
加えて言えば末端ではないだろうが、中枢に近いという訳でもないだろう。つまり万全の警備体制を敷けたとしても、労力に見合うだけの情報を持っているとも限らない。
はっきり言えば、扱いに困るだけのお荷物でしかなかった。
なので色々面倒になった晶は、つい適当に答えてしまった。
『例えどんなに厳しく尋問しても、出てくる情報なんてたかが知れているでしょう。ならいっその事、通り一辺の調査だけして、放り出してみては? 裏社会に戻るならそれも良し。真っ当に生きるならそれも良し』
『それでは余りに甘過ぎないかね?』
『ISという絶対的暴力を振るっていた人間がISを失って、裏社会で生きられると思いますか? 戻れば食い物にされますよ。まぁ見た目は良いですから、諜報員としては生きられるかもしれませんが、どちらにしろ茨の道でしょう』
老人はしばし考えた。
かなり甘い考えだが、言っている事には一理ある。
そして正直なところ、IS委員会に引き渡されたところで扱いに困るのだ。
なので老人は提案に乗ったフリをして、厄介事を丸々押し付ける事にした。
好好爺とした笑みを浮かべて。
『なるほど。それも良いかもしれませんね。――――――ところで薙原君は、とても
『へ?』
突然の話題転換についていけない晶。
その間にも、老人の話は続いていく。
『加えて君は、依頼があれば世界中に飛んでいく。人手が欲しいと思った事はありませんか?』
嫌な予感がした晶は、全力で首を横に振った。
しかし老人は、まるでそんなモノは見えていないとばかりに話を続けた。
『
『いや、こういう場合は公正な裁きが必要だと思うが』
晶が言えた言葉ではないが、何とかして断らないと大変面倒な事になる。彼も必死だった。
『世の中には、超法規的措置という大変便利な言葉がありまして。――――――どうでしょう皆さん。一時彼に預けて様子を見るというのは。彼なら恐らく、真っ当に更正させてくれるでしょう』
『流石議長。良い考えですね』
『賛成だ』
『興味深いプランです』
画面外から次々と賛成の言葉が聞こえてくる。
彼らの思惑は透けて見えていた。老人と同じく、面倒事を丸々押し付ける気なのだ。
そして晶には面倒事しか残らない。
彼女達が真っ当に更正すれば、恐らく次の人間が送られてくる。問題が起きたら、こちらの失態という扱いになってしまう。
(ふざけるな。そんな面倒な事やってられるか!!)
なので
『………分かった。そこまで言うなら一時的に預かろう。だが幾つか条件がある。それを全て呑めるなら、だ』
『どんな条件かね?』
『1つ、結果に責任は持たない。1つ、こちらのやり方に口を挟まない。1つ、必要経費は全てそちら持ち。1つ、その他こちらの要望は可能な限り呑むこと』
極めて横暴な条件だった。
言っている内容は、「好き勝手やるけど、口は挟むな金は出せ。そして協力しろ」である。普通なら呑めるはずがない。
だが、この老人の考えは少し違った。
この程度の条件で、後々発生するであろう種々の問題から解放されるなら、何ら問題は無かった。
何せ
その出所を探る為、国同士の熾烈な駆け引きが繰り広げられるのは目に見えていた。その調停を、IS委員会が行わなければならないことも。下手をすれば、IS委員会が機能不全を起こしかねない危険な事案だった。
加えて言えば彼女達がどんな情報を吐いたところで、完全中立の機関が存在しない以上、捏造だと言われてしまえば、後は非難の応酬という果てしなく不毛な泥仕合だ。
しかし彼の元ならば違うだろう。
絶対的な暴力であるNEXTと、“天災”篠ノ之束のコンビに楯突いたが最後、デュノア社の時のような苛烈な報復があるのは間違いない。加えて言えば、彼は人を育てるのが上手い。もしかしたら、本当に更正させるかもしれないという期待感があった。
故に返答は、晶の予想を超えていた。
『よかろう。その条件呑んだ』
『なっ!?』
老人はニヤリと笑う。
『甘いな、若いの。後始末だけならどうとでもなる。一番面倒な部分は任せたぞ』
や、やられたっっっ!!!!!
晶の内心は、その一言に尽きた。
絶対に呑めないような条件を出して、それを呑まれたら、もう引き受けざるを得ない。
鮮やかなカウンターパンチ。晶は見事にKOされたのだ。
そしてこの後、晶にはもう1つ難関が控えていた。
巨大兵器撃破よりも数段難しい難関だ。
ことによっては、アンサラーを下から撃破する方が簡単かもしれない。
――――――その難関の名は、篠ノ之束。
晶が自宅に帰ると、乾いた笑みを浮かべた彼女が一言言ったのだ。
「おかえり。――――――そして、何か言いたい事はある?」
この後晶がどうなったのかは、2人だけの秘密だった。
なお後日の話ではあるが、IS学園の近くに小さな
実働メンバーはたったの3人。バックアップ要員を含めても10人に満たない本当に小さな会社だ。
主力装備のパワードスーツは
この会社、当初の予想ではすぐ潰れるものと思われていたが、大方の予想を裏切り、着実に実績を積み重ねていったという――――――。
第79話に続く
※1:YF-23 ブラックウィドウⅡ
元ネタはマブラヴオルタネイティブ。
作中内最強の一角を担う戦術機F-22“ラプター”と正式採用を争った機体で、
性能的にはF-22を上回っていたにも関わらず、アメリカの戦略的思想と合わ
なかった為に正式採用を逃したという悲運の機体。
ようやく戦闘パート終了です。
次からは、暫くのんびりとした日常パートに行きたいと思います。
何か電波を受信したら、そっちに走るかもしれませんが……………。