インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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区切りが良いので投稿してしまいます。
今回の主人公は山田先生!!(ヒロインにあらず)
そして彼女って、実は凄く強いと思うんです。


第75話 学園祭・当日-2

 

 亡国機業の特殊作戦チーム“ファントム”が行動を起こす少し前、生徒会長室にいる楯無は、束から連絡のあった侵入者について考えていた。

 

(学園の警備システムに細工をして、監視カメラにダミー映像を流しているなら――――――)

 

 想定されるパターンは2つ。ダミーを流している中にターゲット(目標)があるか、その全てが囮であるかだ。

 視線を眼前に展開されている空間ウインドウに向けると、引きこもり(束博士)の送ってきた学園マップが表示されている。136ヶ所の赤い光点は、ダミー映像が流されている場所だ。学園全体に分散していて、虱潰しにするには人も時間も足りない。

 現在山田先生がラファールで出撃して索敵しているが、招待客に気付かれないよう秘密裏に行っている為、進捗状況は良くない。

 

(………でも、ね。受け手が常に主導権を握られているとは思わない事ね)

 

 彼女の中に幾つかのプランが浮かび、数瞬の思考の末、その1つを選択。織斑先生に通信を繋ぐ。

 

『先生、楯無です。如何にISとは言え、1人での索敵は大変ではないでしょうか?』

『既に私服の警備チームを向かわせて、目視での確認作業を進めている』

『でもこの数を確認するのは、時間が掛かるでしょう』

『分かっている。だが大々的に人を動かして招待客に気取られてみろ。パニックになるぞ』

 

 そこで楯無はニヤリと笑った。

 

『先生、1年1組を使いませんか?』

『なに?』

『折角専用機持ちが揃っているのですから、役に立って貰いましょう』

『いや、しかしそれは………』

 

 この発案は織斑千冬が教育者である限り、絶対に言い出せない事であった。

 専用機持ちとは言え自分の生徒達を、非常事態解決の為に駆り出すなど、教育者として許されるはずがない。

 戦力としてISが必要なら、警備部門の者が乗れば良い。

 

『使うと言っても、何かして貰う訳ではありません。ただ、『不審者が紛れ込んでいるかもしれないので注意するように』と伝えるだけです。それとも先生は生徒達(専用機持ち)に、危険だからずっと教室に閉じこもっていろと? 一夏君も、他の子達も、学園祭を楽しみたいでしょうに』

『いや、決してそんな事は………』

 

 楯無の言葉はとてもズルかった。

 専用機持ちと言えども学園の生徒。学園祭を満喫する権利がある。だが『不審者が紛れ込んでいるかもしれない』等と伝えれば、あの者達は専用機持ちの矜持に掛けて、必ず他の生徒達を守ろうとするだろう。

 そして束が敵性ISの存在を疑った以上、想定されるレベルは確実に軍用の、それも専用カスタムが施されているレベルだ。

 正直、教師が扱う量産型で相手をするのは厳しいだろう。

 となれば一度事が起きれば、解決は専用機持ち達に委ねられる事になる。

 専用カスタムが施されたISと量産型ISでは、そもそもの性能が桁違いなのだ。

 本来生徒達の安全を守らなければいけない大人が、何も出来ないという悔しさが千冬の胸中を過ぎる。

 

(………いや、出来る事が無い訳ではない)

 

 数瞬の思考。彼女は素早く考えを纏める。

 巻き込まれる事が不可避なら、巻き込まれた時の危険性が最小限になるようにサポートすれば良い。

 

『お前の言う通りだな。その案に乗らせてもらおう。あとついでに、こちらからも提案がある』

『何でしょうか?』

『一夏と箒が一緒に行動出来るように仕向けろ。そしてバックアップにはお前が入れ』

『了解しました。とても合理的な判断です』

 

 楯無は千冬の考えがよく理解できた。

 一夏と箒は、狙われる可能性が最も高い2人だ。

 何せ片や数少ない男のIS操縦者にして、“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”を単機で圧倒した若武者。そして片や篠ノ之束を姉に持ち、自身は世界唯一の第4世代機を駆る上に、他機のエネルギーを回復するという、IS戦の有り様を根底から覆すような単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を発現させている。

 手中に収める事が出来れば、相当なアドバンテージとなるだろう。

 故に千冬はこの2人をワンセットにする事で、守り易くしたのだ。

 そしてこの組み合わせには、もう1つ理由があった。

 囮である。

 侵入者の狙いが何かは分からない。だが2人が狙われる可能性は高い。

 そこで2人を囮とする事で、招待客など他へ被害が出る可能性を減らす。加えて囮におびき寄せられた侵入者を、学園最強クラスの使い手である、楯無によって仕留めさせる。

 感情を優先できない(弟だけを守れない)千冬が考えた、苦肉の策だった。

 

『ふん。お前が言うな。どうせ密かに実行する気だったのだろう?』

『あら、何の事でしょうか?』

 

 とてもワザとらしく、白々しい笑顔で切り返す楯無。

 実はこの時既に、命令された内容と全く同じ事を、コアネットワークでシャルロットに伝えていたのだ。完全に独断専行である。

 そして通信を受けた彼女はクラスの意見を見事に誘導し、一夏と箒の2人を、クラスから送り出していたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 IS学園の面々が動き出していた時、多くの者にとって、唐突にそれは起きた。

 学園祭当日の昼時、電力消費量が最大になった瞬間、学園への電力供給が突如途絶えたのだ。

 そしてこの僅か10秒前、ラファール(IS)を駆り秘密裏に侵入者の索敵を行っていた山田先生は、正体不明のISを発見する事に成功していた。

 

(見つけた!!)

 

 発見場所はIS学園外縁部にある港。

 積載量だけが取り柄の、世界中で運用されている貨物船の中。

 アイドリング状態の機関反応に隠れるように、もう1つ別の反応がある。

 敵が学園に侵入していると分かっていなければ、見落としてしまうような微弱な反応だ。だが発見に安堵し喜んでいるような時間は、彼女には無かった。

 高性能なセンサーを多数搭載しているISにとって、一方的に敵を発見する、という状況はまず存在しない。

 加えて敵は敵地とも言えるIS学園に少数精鋭で侵入している身。周囲を警戒していないはずが無い。

 つまり山田先生は、既に捕捉されているということ。

 そして少数精鋭で侵入している者が、敵地で捕捉された場合の行動は――――――。

 

(来る!!)

 

 貨物船の甲板をブチ抜く形で敵の先制攻撃。

 山田先生はそれを回避しつつ、拡張領域(パススロット)からアサルトライフルをコール。

 緑の光が手元に集まり、武器が実体化すると同時三点バーストで反撃。

 すると大穴の開けられた貨物船から、1機のISが飛び出してきた。灰色の塗装が施された、正体不明機だ。

 

(………形状特性(シグネチャ)一致率65%!?)

 

 データ的には、アメリカ製第3世代機IS“ファング・クェイク”と言えなくもない。だが65%という数字は、殆ど別物と言って良い程に改造されたカスタム機である事を表していた。

 そしてこの瞬間、亡国機業の作戦が発動する。

 IS学園の外での妨害工作により、主電源がダウン。学園への電力供給がストップする。

 即座に副電源が立ち上がるも、元々の出力が貧弱であるのに加え、今は学園祭の真っ最中。需要に供給が全く追いついていない。

 予備電源も稼動させる事で、辛うじて停電やシステムダウンといった事態は回避されているが、重要施設を守る各種設備―――エネルギーシールドに代表されるハイテク器機など―――を稼動させる事は出来なかった。副電源と予備電源では、そもそも出力が足りないのだ。

 つまり今この瞬間、学園各所の重要施設は、物理隔壁以外の全ての防御手段を失った事になる。

 そしてプロであるファントムチームは、この瞬間を狙い一斉に行動を起こしていた。

 まず山田先生に発見されてしまったファントム3は、作戦通りに、行動目標を変更する。

 1つは派手に動いて注目を集めること。

 1つはハッキングの踏み台にしていた港のコンピューターを破壊し、束のカウンターハックを防ぐこと。

 従って武装も、それに見合ったものが選択された。

 両腕と背部に緑色の光が集まり、武装が実体化する。

 背部に多連装ミサイル。右腕にガトリング砲。左腕にグレネード。

 制圧力を重視した重武装だ。

 そしてこのような兵器を前にすれば、並みのISパイロットなら回避が精一杯だろう――――――が、今回に限って言えば、相手が悪かった。

 いつもの山田先生は、おっとりのほほんとした雰囲気で、荒事とは無縁の人に見えるだろう。

 公私共に、声を荒げるような事はまずない。

 だが、それと戦闘力の有無は決してイコールではない。

 何故なら彼女は現役時代、織斑千冬以外の全てに勝利してきた、腕利きのIS乗りなのだから。

 

(――――――コール(武装呼び出し)!!)

 

 山田先生は右腕に散弾バズーカ(※1)、左腕にグレネードを装備。

 

 ※1:散弾バズーカ

 AC系の幾つかの小型弾頭を撃ち出すものではなく、無数のベアリング弾を撃ち出すタイプ。ショットガンを大型化したようなもの。

 もしくはガンダムUC出演のスターク・ジェガンが装備しているようなもの。

 

(グレネード信管、起爆を発射後コンマ3にセット)

 

 彼女の選択は至極明瞭だった。

 港の施設には、ここで働く沢山の職員がいる。だから回避という選択肢は存在しない。

 護る。その一心が後から武装をコールしたにも関わらず、敵と同タイミングでトリガーを引かせるという離れ業を可能にした。

 回転を始める敵ガトリング砲の砲身。対の腕から放たれるグレネード。

 しかしその弾頭は散弾バズーカの弾幕を突破出来ず、両者の中間で爆発を起こす。

 互いの視界が爆炎で覆われるが、ハイパーセンサーはこの程度で目標を見失ったりはしない。

 敵がランダムな回避機動を取りながら放った多連装ミサイルを、山田先生は信じられないような手段で迎撃する。

 FCSに頼らない完全なマニュアル動作で、予想した射線上に重ねて発射したのだ。

 小気味良く、リズム良く放たれたグレネードは、その先で次々とミサイルを巻き込んで爆発していく。

 だが彼女に喜んでいる時間は無かった。

 十分な回転速度を得たガトリング砲の砲身が、猛烈な勢いで弾を吐き出し始めたのだ。

 そしてここが、山田先生にとっての勝負どころだった。

 避ければ、港への被害は確実。故に両手の武装を躊躇無く投げ捨て、新たな武装をコールする。

 両腕に呼び出されたのは、無骨な実体シールド。頑丈さだけが取り柄の、何の付加機能も無い一品だ。

 

(行きます!!)

 

 ブーストフルパワー。

 盾を二枚重ね、文字通り弾雨の中を突き進んでいく緑のラファール。

 

「正気か!?」

 

 ファントム3()が思わず口に出してしまうほど、無謀な突撃だった。

 圧倒的な制圧力を持つガトリング砲の連射に耐えられる盾など存在しない。

 瞬く間に盾がボロボロになり1枚目が剥ぎ取られる。2枚目も同様だ。

 しかし一切の躊躇なく飛び込んだその判断が、盾が完全に崩壊する前の肉薄を可能にした。

 

(届きました!!)

 

 勢いそのままにシールドバッシュ(盾打撃)

 砲身を殴られ壊れたガトリング砲をファントム3が投げ捨てると、山田先生も盾を投げ捨てた。

 距離は既にクロスレンジ。両者同時に近接武装をコール。

 奇しくも2人が呼び出したのは同じ武装。IS用のロングナイフだ。

 そしてここで、今までの経験が勝敗を分けた。

 ファントム3が弱い訳ではない。ただ山田真耶は、ブレード一本で世界を取った織斑千冬(ブリュンヒルデ)との戦闘経験があった。それだけの話である。

 互いのナイフが打ち合わされる直前、緑のラファール(山田先生)はバックブースト。ほんの一歩分後退する。そしていつの間にか空いていた左手には、ワイヤーガン(※2)が握られていた。

 

 ※2:ワイヤーガン

 対象に特殊鋼製のロープを撃ち込む工作用の銃。

 

「なに!?」

 

 捕縛という単語が脳裏を過ぎり、慌てて距離を取ろうとする。

 しかしそれを許す山田先生ではなかった。

 ファントム3の左脚にワイヤーガンが撃ち込まれると、彼女はラファールのパワーアシストを全開にして、灰色の機体(ファントム3)を振り回し地面に向かって叩きつける。

 発生したソニックウェーブが、陥没した地面が、そしてこれほどの衝撃を受けて尚、パイロットが無事という事実が、ISの優秀性を示していた。だがいくら無事とは言っても、即戦闘行動に復帰出来るほど、ダメージが無い訳でもない。

 ほんの数秒、ファントム3の動きが止まる。

 そしてこの数秒こそ、山田先生が欲した時間だった。

 必勝の意を込めて、次の武装を呼び出す。

 

 それは、ある意味において欠陥品だった。

 それは、ISの機動性という利点をかなぐり捨てた武装だった。

 それは、火力至上主義の根元だった。

 呼び出されたソレの名は――――――。

 

「――――――来なさい!! クアッド・ファランクス!!」

 

 ガトリング砲4門からなるラファール・リヴァイブの追加パッケージ。

 ISの反動制御能力を持ってしても御しきれないため、固定砲台となる事を前提に開発された火力の化け物。

 装着と同時に機体が現在の空間座標に固定され、旋回以外の全ての機動がロックされる。

 

 ――――――キィィィィィン。

 

 ガトリング砲の砲身が、獲物を狙う猟犬の如き唸り声を上げて回転を始める。

 FCSが直下の敵をロックオン。もはや、逃れる術はない。

 

「ひっ……」

 

 短い悲鳴は、クアッド・ファランクス全門斉射の轟音によって掻き消された。

 機体にプールされていたエネルギーが瞬く間に消費しつくされ、エネルギーシールドが決壊。絶対防御が発動する。

 こうなれば、もうファントム3に逆転の手段は残されていなかった。

 何せ地面に叩きつけられた状態で、直上からガトリング砲4門の撃ちおろしだ。機体を動かそうにも被弾時の激烈な反動が、その場からの移動を許さない。

 そして、最後通告が突きつけられた。

 

「まだ、続けますか?」

 

 全身の装甲が砕け散ったファントム3に、降伏以外の選択肢は無かった。

 これにより山田先生は敵パイロットの確保という大金星を上げると共に、当初の目標である、ハッキングの踏み台にされていた港のコンピューターをも守り通したのだった――――――。

 

 

 

 第76話に続く

 

 

 




もう暫くバトル系のお話が続くと思います。
執筆速度が欲しい今日この頃………。

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