インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回は(ようやく)セシリアさんの個人イベントの回です。
ちなみに糖分は全然ありません。

※:本話は旧Verの第59話と比べて行動が変化している人がいます。
  感想で突っ込まれてひよったと言われればそれまでなのですが、
  読み直すと確かに酷かったので修正させて頂きました。
  これなら小物臭くないと思うのですが・・・・・・・・。


第59話 セシリアの成長

 

「はぁ・・・・・・・・・・」

 

 晶が代表候補生指導の為、イギリスに訪れてから2日目の夜。訓練施設に併設されている宿舎。

 その与えられた自室のベッドで休むセシリアは、溜息をついていた。

 理由は乙女の悩みとでも言うべきか、晶と訓練以外で全く口を聞けていないところにあった。

 聞きたい事は沢山あった。シャルロットの事などその筆頭だ。

 しかし訓練中に、そんな話が出来るはずも無い。だが訓練が終わった後だと、代表候補生同士のミーティングがあって、会う時間が無い。

 直接電話をかけようとも思ったが、妙に緊張してしまって出来ていない。

 そうして、時間ばかりが過ぎ行く。

 

「はぁ・・・・・・・・・・どうしましょうか」

「何をさっきから溜息ばっかり。どうしたの?」

「うひゃぁぁぁぁぁ、だ、誰ですの!? ――――――って、貴女ですか」

 

 部屋に誰もいないと思って安心していたところに、いきなり声をかけられて驚くセシリア。

 振り返ればいつの間にかベッドサイドに、訓練期間中相部屋になっているサラ・ウェルキンが立っていた。

 女性としては短めの髪とスレンダーな体形が、如何にもスポーツマンという雰囲気を醸し出している。

 同じIS学園に所属する2年生で、専用機は持っていないが操縦技術に長け、昔はセシリアも師事していた優等生だ。

 

「何をそんなに驚いて。さっきから何度もノックしたよ」

「そ、そうでしたの? ごめんなさい。考え事をしていて」

「乙女な顔してたもんね。教官の事?」

 

 体を起こしたセシリアの隣に、サラが座りながら尋ねた。

 

「ち、違いますわ!!」

 

 思っていた事そのままのストレートな指摘に、つい声が大きくなってしまう。

 だが先輩の追撃は緩まなかった。

 

「嘘ばっかり。あんな乙女な顔しておいて、今更それは通らないよ。白状しなさい」

「本当に――――――」

 

 違いますわ。

 という言葉は、いとも簡単にかき消された。

 

「違わないと思うけどな。だって最近、凄く綺麗に見えるよ。歩き方も仕草も、前は只の“お嬢様”だけど、今は“淑女”とでも言えば良いのかな? 知ってる? 帰ってきてから男共の視線はみーんなセシリアに向いてるんだよ」

「まさか。言い過ぎですわ」

「知らぬは本人ばかり。教官も何を考えてるんだか。近くにこんな良い子がいるのに勿体無い。――――――それにしてもフランスの子はどうやって近付いたんだろうね。夏休み前まで、そんな様子は無かったんでしょ?」

「え、ええ。夏休み前までは・・・・・・・・・いえ、手作りの贈り物をしていましたわ」

 

 シャルロットが身に着けていたブレスレットの事が、セシリアの脳裏を過ぎる。

 

「どっちがどっちに?」

「晶さんから、シャルロットさんに」

「なるほど。出遅れちゃった訳だ」

「そんな!! 出遅れただなんて」

 

 余りにストレートな物言いに、思わず声を荒げてしまうセシリア。

 だがサラは黙らなかった。

 

「いーや、出遅れてるね。だってそうじゃなきゃ、フランスの子の今は説明出来ないと思うよ。デュノア社の一件は凄かったもんね」

 

 反論出来ないセシリアに、サラは続けていく。

 

「今まで一度として、何処の誰にもどんな組織にも協力してこなかった束博士が、デュノア社という企業にだけは協力した。博士の人嫌いは有名だから、一番近い人間が口を利いたのは間違いない。そして一番近いのは間違いなく薙原晶(教官)。フランスの子は、彼にそんな口利きをさせる位深い付き合いだっていう事だもんね」

 

 真実は少し違うのだが、訂正する人間がいない以上、この言葉が彼女達にとっての事実だった。

 

「あ、貴女は私を――――――」

 

 侮辱する気ですの!?

 そう続けようとしたセシリアの言葉を、サラはニ度遮った。

 

「でも、遅れた分は取り戻せば良いだけだよね」

「え?」

「なにを不思議そうな顔してるのさ。恋のレースはゴールするまで分からないんだよ。場合によってはゴールした後も。セシリアは一度リードを許したくらいで諦めちゃうの?」

「そ、そんな事ある訳ないじゃありませんか」

「でしょ。ならアタックあるのみじゃないか」

「あの人が訓練中に、そんな事を許すはずありませんわ」

「誰が訓練中なんて言ったのさ」

「え?」

 

 首を傾げるセシリア。

 ニヤッと悪巧みの笑みを浮かべるサラ。

 

「教官ってさ、ここの仕事が終わった後はドイツに行くんでしょ。ならついて行っちゃえばいいじゃない。そうすれば、きっと出遅れた分も取り戻せるよ」

「な、何を言ってますの!? 専用機持ちである私が、そんな簡単に他国に行ける訳がないじゃないですか。それに、相手が良いと言わなければ―――――――――」

 

 セシリアの反論を、サラは三度遮った。

 

「甘い!! 甘過ぎるよセシリア!! こういうのはやったもの勝ちなの。いい、良く考えてみて。このまま夏休みが終わって学園に戻っても、フランスの子との差は絶対に埋まらないよ。なら何処かで埋めないと」

「だ、だからと言って私がドイツへ行くのは」

「行けるって。上だって束博士や教官とのパイプは作りたいんだ。反対するはずがないよ。それにブルーティアーズの機密だって、分解でもされない限り大丈夫じゃないの? 放課後のトレーニングで、表面的なスペックデータなんてもうバレバレのはずなんだから」

「な、なら私の安全はどうなるのですか? 如何に私自身が万全を期したところで、もし他国で計画的に襲われでもしたら」

「余り心配無いとは思うけど、そこは建前を使えば良いと思うよ。例えばセシリアが教官と一緒に行く理由を、『教官の指導技術を学ぶため』とかにしたら、少なくとも建前上は関係者扱いになる。教官の関係者と知っていて手を出す人間は、そうはいないと思うな。まぁ、その辺りはセシリアの方が詳しいと思うけど、どう?」

 

 思いもよらぬ提案に、しばし思考停止に陥ったセシリアだが、その意味を理解していくと、少しずつ考えが纏まり始めた。

 確かにこのまま夏休みが終わってしまえば、またいつもの学園生活に戻ってしまう。そしてシャルロットは、もう自分の気持ちを隠さないだろう。そうなったら、差をつけられる一方だ。

 だが晶が単独で行動している今なら、まだその差を埋められる。取り返せる。

 専用機持ちが他国へ赴くというのは、大きな問題が伴うが、恐らく上も今回は労力を惜しまないはず。

 身の安全だって、晶の同行者として行けば、大概の事は大丈夫だろう。

 そこまで考えたセシリアは、何かに突き動かされるように行動を始めていた。

 隣に座るサラに礼を言い、ベッド上に放り投げていた携帯を手に取る。

 そうしてコールしたのは、イギリスIS委員会――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、晶がイギリスに訪れてから3日目の昼。

 休憩時間という事で代表候補生達が休んでいる中、イギリスIS委員会を説き伏せたセシリアは、最後の問題をクリアすべく行動を開始していた。

 それは晶本人から同行の許可を貰う事。これが出来なければ、幾ら委員会を説き伏せたところで意味が無い。

 しかし実を言うとセシリアは、この点は余り心配していなかった。

 IS学園での付き合いで、彼の性格は多少なりとも分かっている。基本的に向学心のある人間を、あの男()は無碍には扱わない。だから小細工無しの正攻法で攻めれば良い。そして、そんなセシリアの考えは正しかった。

 昼休み、休憩室で休む晶に、「後学の為にドイツに同行させて欲しい」と訴えたところ、「イギリスとドイツがOKを出しているなら別に良い」と、拍子抜けするほどあっさり快諾してくれたのだ―――――――――が、ここで予期せぬ障害が立ち塞がった。今回、晶をサポート(という名の監視)をするべく、更識から派遣されているマリー・インテルだ。

 

「――――――お待ち下さい」

「ん?」

「イギリス代表候補生、それも専用機持ちを同行させるなど、本気ですか?」

「本気も何も、イギリスとドイツが良いと言ってるなら、俺が関知する問題でも無いと思うが?」

 

 確かに契約上は、何も問題は無かった。

 同行者の存在が認められていない訳でもないし、セシリアの分の旅費はイギリス持ち。

 専用機の派遣だって、イギリスとドイツ両国間で合意されているなら、晶が口を出すような問題でもない。

 が、マリーが問題にしたのは其処では無かった。

 

「貴方が誰かを傍に置くというのが問題なのです。そんな2つ返事で了承されては、今後同じような事を考える輩が出ないとも限りません」

「今回受けたのはセシリアだからだ。他の人間なら断ったよ」

「ですが他の人間は、セシリアさんが大丈夫なら、他の人間でも大丈夫と考えるでしょうね。貴方がどう考えていようと、他人には分からないのですから。結果周囲に人が群がり、余計な苦労を背負いますよ」

 

 心情的には反論したい晶だったが、確かにマリーの言う事にも一理あった。

 なので、そのまま先を促す。

 ここまで言うからには、何か対応策があるのだろう。

 

「ですので同行するにあたって、彼女には試験を受けてもらおうと思います」

「試験?」

「はい。貴方の傍らに立つのでしたら、最低限それなりの腕がなければ困ります。いざという時、自分の身すら守れないようでは足手纏いですから」

「具体的には?」

「ドローン設定A-3(モンドグロッソ出場者の平均レベル)のクリア」

 

 この言葉に、今まで黙って話を聞いていたセシリアの表情が、悲痛なものに変わった。

 それを見たマリーが内心でほくそ笑む。

 何故なら尤もらしい理由を付けはしたが、始めから同行させる気など無かったからだ。

 そしてセシリアの訓練データの最高記録はB-1(国の代表レベル)。しかも過去1度だけ、最も調子の良かった時のみ。およそマグレと言って良い。

 そこまで分かった上で、ドローン設定A-3(モンドグロッソ出場者の平均レベル)を吹っ掛けたのだ。

 

(――――――諦めなさい。セシリア・オルコット。貴女に巡ってくるチャンスなど無いのよ)

 

 マリーは当主(楯無)の命令を忠実に遂行し、そして勝ちを確信していた。

 過去のデータを見る限り、セシリアがA-3をクリア出来る可能性はまず無い。

 そしてこの方法なら、昨日色々動いていた委員会も、こちらの面子も潰さずに同行を断れる。

 全ては、提示した条件をクリア出来なかったセシリアの責任なのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 沈黙するセシリア。

 それを諦めと取ったマリーは口を開こうと――――――。

 

「条件は、それで間違いありませんわね?」

 

 闘志を宿した言葉に遮られた。

 

「ええ。間違い無いわ」

 

 様変わりに違和感を覚えながらも肯くマリー。

 

「貴女の魂胆など見え透いていますわ。出来そうもない事を吹っ掛けて、諦めさせようというのでしょう? 小賢しい」

 

 貴族が下々を見下すかのような言葉が吐き捨てられた。

 これがセシリアの本性だろうか、交渉人として鍛えられた思考が、冷静にセシリアを分析していく。

 幼くして両親を無くした、若く美しい名門貴族の一人娘。欲望渦巻く上流階級で、そんな美味しそうな人間が狙われないはずが無い。

 しかし彼女は誰にも汚される事なく己の家を保ち、しかもIS操縦者という地位まで勝ち取ってこの場に立っている。

 であるならば、多少の恫喝にも耐性があると考えるのが自然だろう。

 しかし、所詮それだけだ。

 越える事の出来ない壁はどうやっても越えられない。

 過去のデータがそれを証明している。

 

「幾ら強がったところで、条件をクリア出来なければ意味が無いですよ」

「クリアするのですから問題ありませんわ。それよりも貴女、交渉事が下手なのですね」

 

 安い挑発だった。

 だがマリーはあえて乗った。

 この歳若い貴族が、どんな挑発をするのか興味があったからだ。

 

「言うじゃない。小娘。どのあたりがかしら?」

 

 声の質が変わった。

 だが、その程度で怯むセシリアではない。

 

「あら、だってそうじゃありませんか。私を本当に同行させたくないなら、私が反論すら出来ないような手段を使うべきだったのに、A-3のクリアだなんて条件を出すから、足元を掬われるのですよ」

 

 真っ当過ぎる言葉だった。面白くとも何ともない。

 

「その自信はどこから来るのかしら? 貴女の最高はB-1。しかも過去に1回だけ。強がるのも程々にしておきなさい」

「なるほど。良く調べていますのね。ああ、晶さんのお隣にいるのですから当然ですか。でもそのデータが正しいという確証は、どこから得たのでしょうか? もしかして、IS学園のデータベースからですか?」

「情報ソースを明かす交渉人が何処にいる」

「答えなど初めから期待しておりません。ただ私が言いたいのは、データを記録しないで訓練している可能性を、考慮しなかったのですか? 何も訓練している時間が、皆さんと一緒にいる時だけとは限りませんわよ」

「!?」

 

 マリーの交渉戦術を、前提条件からひっくり返す言葉だった。

 何故なら専用機組を教えている薙原晶は、訓練するにあたり過去のデータをよく使う。

 今が過去の積み重ねである以上、当然の方法だ。

 だから一番近しい人間の1人であるセシリアも、当然その手法に倣っていると思っていたのだが、まさか、という思いが脳裏を過ぎる。

 

「まぁ、見ていて下さい。貴女のその下らない小細工を、正面から粉砕して差し上げますわ」

 

 そう言ってセシリアは休憩室を後にした。

 しかし彼女とて、100%の自信があった訳ではない。

 記録には残していないが、ドローン設定A-3(モンドグロッソ出場者の平均レベル)での勝率は約3割。

 正直、頑張れば何とかなるかもしれないというレベルだった。

 だがそんな事を馬鹿正直に言う必要は無い。

 10回中3回しか勝てないなら、最初の1回に、その勝ちを持ってくれば良いだけなのだ。

 セシリアは、いつか晶が言っていた言葉を思い出す。

 

(――――――『専用機が出るのは、決して負けが許されない最終局面』でしたわね)

 

 今がその時、そう思ったが故にセシリアは強気に出たのだ。

 あの場面で弱気になって、良い事など何一つない。

 こうして昼の休憩時間が終わりを告げ、午後の訓練時間となった時、晶から代表候補生全員に予定の変更が告げられたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 IS訓練施設中央。高度20m。

 そこにブルーティアーズを纏ったセシリアが1人佇んでいた。

 

『ではこれより、ドローン設定A-3での試験を始める。――――――準備は良いか?』

 

 晶の通信に、セシリアは閉じていた目を開いた。

 

『ええ、問題ありませんわ』

『随分落ち着いているな』

『あら、レディの慌てふためいた姿が見たかったのですか?』

『そんなはず無いだろう。ただ幾つか考えていた言葉が、無駄になっただけだ』

『それは残念ですわ。次からは少し、慌ててみるのも良いかもしれませんわね』

『落ち着いている姿の方が似合っている。そのままの方が良い』

『ではそうしましょう』

『じゃぁ、頑張れよ。――――――カウントスタート』

『ええ、それでは』

 

 ―――3

 

  ブルーティアーズ、FCS起動。

  ロードされた戦闘プログラムが、順次武装の立ち上げを開始。

 

 ―――2

 

  スターライトmkⅢへのエネルギー供給ライン確保。

  トリガーロック解除。

 

 ―――1

 

  ブルーティアーズ(ビット)思考制御システム立ち上げ完了。

  本体との接続部ロック解除。展開準備が完了。

 

 ―――0

 

「さぁ、行きますわよ!! コンバット・オープン(戦闘開始)!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その光景は、セシリアがIS学園でどれほど成長したのかを、十分に見せ付けるものだった。

 カウント0と同時に、周囲に一斉に出現したドローンを見事な銃捌きで次々と撃破。

 更に普通では死角となる場所のドローンですら、見えているかの如くビットで墜としていく。

 のみならず――――――。

 

「危ない!!」

 

 ドローンの反撃に、観戦していた代表候補生の1人が叫ぶ。

 だがセシリアは危なげ無い機動で回避。

 反撃とばかりにスターライトmkⅢを叩き込み沈黙させる。

 それだけでは無かった。

 極至近距離に出現したドローンに対しては、サブウェポンであるインターセプター(ショートブレード)を左手に呼び出し一閃。

 IS学園に行く前では考えられなかった対応に、他の代表候補生達が息を呑む。

 

「す、凄い。本当にアレ、セシリアなの?」

 

 空中を鮮やかに舞い踊るセシリアの姿に、他の代表候補生達は目が離せないでいた。

 だが簡単にクリア出来る程、A-3という設定は甘くない。

 徐々に、ドローンの出現速度が撃破速度を上回り始める。

 しかしセシリアは焦らなかった。

 この程度、クラス対抗戦に乱入してきた無人機2機を、同時に相手にしたのと比べれば!!

 そんな実戦経験が、セシリアに驚異的な粘り強さを与えていた。

 更に早くなるドローンの出現速度にも落ち着いて、動作の1つ1つを丁寧に、そして素早く対応していく。

 ビットコントロールは繊細に、そして大胆に。意識は広く、常に全体を見て。

 観戦していたマリーの表情が、驚きのものへと変わっていく。ここに来て、撃破速度が上がり始めたのだ。

 だが、まだドローン出現の方が早い。

 

「頑張れセシリア!!」

 

 そこへ友人サラ・ウェルキンの応援。更に見入っていた他の代表候補生達も次々と応援を始めた。

 すると、それに後押しされるかのように、撃破速度が更に上がり始める。

 今やドローンの出現と撃破はほぼ同時。いや、既に撃破速度が上回り始めていた。

 

「インターセプター!!」

 

 射撃戦の為に一度拡張領域(パススロット)に格納していた近接武装を、恥も外聞も無く初心者用コールを使い最速で実体化。

 しかしその戦闘機動は、決して初心者ではありえない。

 極至近距離、セシリアを取り囲むように出現したドローンを、左手で逆手に持ったショートブレードでドリフトターンを決めながら一閃。包囲網を脱出しながら撃破。ブレードを振り抜き、ワザと作った隙にドローンが反応。攻撃を誘発し、ビットへのマークが外れたのを確認したところで、上空に展開していたビットの斉射。多くのドローンを撃破。

 しかし自身を囮とした分、ブルーティアーズのシールドも相当削られた。

 が、“まだ”墜ちていない。

 セシリアは冷静に計算していた。

 今回の目標は、パーフェクトクリアじゃない。

 あくまでA-3のクリア。

 なら、例えシールドエネルギーが残り1であろうと構わない!!

 IS学園入学前には無かった勝利への貪欲さが、彼女を一段上のステージへと押し上げていた。

 そしてついに、撃破速度が出現速度を完全に上回った。

 ドローンが次々と撃破され、その数を減らしていく。

 

(――――――こっ、このままでは)

 

 これに焦ったのは、言うまでもなくマリーだ。

 何せ当主(楯無)から今回の依頼中、決して新しい女を近づけるなと厳命されている。

 まして今回の条件は、マリー自身が出したもの。

 もしクリアなどされようものなら、何をどう取り繕ったところで当主(楯無)の逆鱗に触れるのは間違い無い。

 そんな時、彼女の視界にある物が映った。ドローン設定調整用コンソールだ。

 悪魔の誘惑が、脳裏を過ぎる。

 今なら、全員の視線がセシリアに集中している。少しレベルを、A-2とまではいかないまでも、誤差修正の範囲で少し上げてやれば――――――そんな思いに囚われ迷うマリーだったが、結局動く事は無かった。

 ここでの不正は当主の名を穢す事になるばかりか、自身の交渉人としての矜持まで地に墜とす事になる。

 故に、見守る事にした。

 ここで敗北したのなら、それは自身の準備が足りなかっただけの事。

 むしろ命の危険が無いこの場で、敗北出来た幸運こそを喜ぶべきだろう。

 そう思ったのだ。

 そして、そんな様子を生体レーダー(強化人間の機能)で見ていた晶は、少しばかりマリーへの評価を上方修正した。

 しかし何故見ていたのか?

 理由は簡単だった。会ってから数日しか経っていない人間を、100%信用するなどありえない。

 しかもセシリアの訓練データを知っているにも関わらず、ドローン設定A-3(モンドグロッソ出場者の平均レベル)などという無茶を吹っ掛けたのだ。

 同行させたくないと推測するのは難しく無かった。

 だから万一の不正を考え、生体レーダー(強化人間の機能)を使って監視していただけの事。何も難しい事はしていない。

 そしてこの3分後、セシリアは無事A-3をクリアしたのだった。

 

 

 

 第60話に続く

 

 

 




旧Verと比べて行動が変化したのはマリーさんでした。
そして改めて旧Verを読むと感想で突っ込まれた通り違和感沢山。
感想をくれた読者様方、ありがとうございました。

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