インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
臨海学校2日目、早朝。
―――SYSTEM CHECK START
→HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・OK
→CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK
→ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK
→LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
→SHOULDER UNIT :
→R HANGER UNIT :-
→L HANGER UNIT :-
―――STABILIZER
→CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→LEGS BACK :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK
→LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
→LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
―――
→
―――VANGUARD OVERED BOOST
→MAIN BOOST-1・・・・OK
→MAIN BOOST-2・・・・OK
→MAIN BOOST-3・・・・OK
→MAIN BOOST-4・・・・OK
→MAIN BOOST-5・・・・OK
→SUB BOOST-1 ・・・・OK
→SUB BOOST-2 ・・・・OK
→SUB BOOST-3 ・・・・OK
→SUB BOOST-4 ・・・・OK
→SUB BOOST-5 ・・・・OK
→SUB BOOST-6 ・・・・OK
→SUB BOOST-7 ・・・・OK
→SUB BOOST-8 ・・・・OK
→CONTAINER-1 ・・・・OK
→CONTAINER-2 ・・・・OK
→CONTAINER-3 ・・・・OK
―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR
『晶、問題無い?』
『全システムオールクリア。問題無しだが・・・・・重いな』
ステータス画面にエラー表示こそ出ていないが、搭載しているコンテナのおかげでウェイトバランスがかなり悪い。
飛行中の挙動に影響が出ないか心配になるレベルだ。
『今回はちょっと仕方ないかな。単純に発電と送電だけだったら、もう少し軽く出来たんだけどね』
『それこそ仕方ないさ。この機材は衛星軌道に置いてくるからな。防衛装置を外す訳にもいかない。――――――ところでさ、真ん丸にした理由って何かあるのか?』
『え? 特に無いけど・・・・・しいて言うなら、飛んでるソルディオス・オービットが可愛かったからかなぁ』
『あ、あれを可愛いと言うか』
『えーーーー可愛いでしょ。可愛くない?』
『アレに蒸発させられそうになった事のある身としては・・・・・ちょっと、な』
『今回は味方だから大丈夫だよ』
『心の底からそう思う』
俺はそんな話をしながら、PIC制御範囲をVOB全体を含めるように再設定。
同様の設定をエネルギーシールドにも行うが、超高速飛行に備え、前方は球形から馬上槍のような円錐形に移行。
そしてVOBを
NEXT本体のブースターとPIC制御のみで、ゆっくりと上昇開始。
眼下に見える白い砂浜と昨日泊まったホテルが、徐々に遠ざかっていく。
『多分露骨な妨害は無いと思うけど、気をつけてね』
『こっちはどうとでもなるさ。問題はそっちだ』
『大丈夫。いざとなれば、
『そんな状態にはなって欲しくないな』
『本当にね』
高度2万メートルに到達。
『じゃぁ、気をつけてね』
『そっちもな』
いつもと変わらない気軽な別れの言葉と共に、俺はVOBにシフトアップをコマンド。
背後から聞こえてくる甲高い機械音。
背中に圧倒的推力を感じさせる力強い圧力がかかり始めると、僅か数秒で時速5000kmを突破。
そこで更にシフトアップ。
そして最後のシフトアップ。
ついに時速8000kmを越え、エネルギーシールドが大気摩擦で赤熱化。
そうして光の尾をひきながら俺は、3万6千km彼方の静止衛星軌道へと、駆け上って行くのだった。
◇
臨海学校2日目、正午。
束の『実験開始』という一言から僅か数秒後、約3万6千km彼方から放たれたスーパーマイクロウェーブが、コンマ1mmとずれる事無く、白い砂浜に設置されていた受信装置に命中。
それによって生み出された電力は、約10万kw。
少なく見えるかもしれないが、商業用原子炉1機あたりの発電量が100万kw前後という事を考えれば、お手製の実験用機材で1/10の発電量を達成した事になる。
この事実に駆けつけたメディア達が気付いた時、彼らは口々に「エネルギー革命の幕開け」と、賞賛の言葉を並べ立てた。
何せお手製の実験用機材でこの発電量だ。
本格的に資本を投入して作れば、どれほどの物が出来るのかは想像に難くない。
故にその後の展望を、開発者本人から聞きたいと会見場にいる誰もが思った時、彼女は現れた。
髪を結い上げ、紫を基調とした鮮やかな着物に身を包み、会場の前に用意された席に、ゆっくりと歩いていく。
「綺麗・・・・・」
同性の若い記者が思わず漏らしてしまった呟きが、会場の中に静かに広がっていく。
雰囲気が、余りにも違い過ぎた。
今までの篠ノ之束は、美人ではあるが子供っぽいというのが、世間一般の共通認識だった。
それがどうだ?
蕾が花開いたかのように、醸し出す雰囲気は成熟した女性のそれではないか。
こうして誰もが目を奪われている中、着席した束は口を開いた。
「お集まりの皆様方。本日は御忙しい中、私の公開実験の為に御足労頂き、本当にありがとうございます」
ここで深々と一礼。
本当に何もかもが、今までのイメージからかけ離れていた。
「――――――では、皆様を焦らせるのも酷というもの。早速今回の実験について、色々とお話したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
出席者全員が、無言のままに先を促した。
「そうですか。では、始めさせてもらいますね」
そうして語られ始めた実験内容は、天才の名に相応しく、全員の度肝を抜くものだった。
何せ今回知らされていたのは、宇宙で発電した電力を地上に送るスーパーマイクロウェーブ送電のみだったが、蓋を開けてみれば、その他にもノーベル賞が何個取れるか分からないような新技術のオンパレード。
凡人が理解出来るだけでも、太陽光発電にとって必要不可欠な光を高効率で集められる重力レンズ、ロスを極小まで押さえ込んだエネルギー伝達システムと発電ユニット。
公開されたデータの何れもが、既存の科学技術をあざ笑う桁外れの数値を示していた。
「――――――以上が、今回私が行った実験です。何か質問のある方はいますか?」
ニッコリと微笑んだ束の言葉に、ある記者が挙手。
「A新聞の高田です。今回の公開実験の意図をお聞かせ下さい」
「意図ですか? 大した事はありません。エネルギー問題というのは文明を維持する上で避けては通れませんから、その手助けになればと思ってです」
「B-TVのセリーナです。今回の成功を、一番先に報告したいのは誰ですか?」
「それは勿論パートナーに。尤も、ここに出てくる前にもう話ましたけどね」
「やはり彼ですか?」
「最後まで言わせないで下さい」
淑女のように束が穏やかに微笑むと、シャッターチャンスとばかりに無数のフラッシュがたかれた。
「C-PAPERのボルトマンです。もし良ければ、今後の展望をお聞かせ下さい」
「そうですね・・・・・実験も成功した事ですし、資金を集めて一機本格的な物を作ってみようかと」
ざわめきが、会場の中に広がっていった。
ISという超兵器を独力で開発し、世に送り出した天才が資金を集めてまで作る。
それがどれ程の事なのか想像出来ない愚か者は、この場には居なかった。
だが同時に、どれほどの物になるのか正確に想像出来る者も、また居なかった。
「D放送の林です。どんな物を作るのか構想があれば、ぜひお聞かせ願いたいのですが」
「少なくとも、現在稼動している発電所以上の発電力は確保したいですね」
「E-ケーブルの木田です。どの程度で形になるのか、予想はついていますか?」
「それは何とも。資金が沢山集まれば早いでしょうし、少なければ時間が掛かるでしょう」
「F-ニュースのロントンです。それでは――――――」
こうして平和的な質疑応答が続けられているその頃、海を挟んだハワイ沖では―――――――――。
◇
『空って良いわね。この子も喜んで――――――』
どこまでも青い大空を舞う銀色のIS、“
その搭乗者、ナターシャ・ファイルスからの通信が突然途切れ、その場で立ち止まってしまった。
『“
『・・・・・・・・・・・・・・・』
通信には応えず、“
『ナターシャ? どうしたの? 試験運用中なんだから、悪戯はやめて』
ナターシャのユーモアを知るオペレーターが、また悪戯かと思い嗜めるが返事が無い。
おかしい。
彼女はユーモア溢れる女性だが、時と場所を弁えている人間だ。
そんな人間が――――――そこまで思った時、事態が決定的に、不可逆に動き出した。
『・・・・・ぁぁ・・ぁぁぁぁぁああああああ!!』
悲鳴というよりは絶叫のような声が、オペレーションルームに響き渡る。
『ナターシャ!! どうしたの!! ナターシャ!!』
『ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!』
“
最新鋭の超兵器が、まるで怯える赤子のように震えているのだ。
だがそんな異様な光景の中、叩き上げの軍人であるオペレーターの上官だけが、己の職務に忠実だった。
「何をしている!! 停止プログラムロード!! 待機ISにスクランブル!! 搭乗者のバイタルデータは!!」
上官の言葉に我に返ったオペレーター達が、一斉に動き始める。
「停止プログラムロード。――――――3、2、1、実行。プログラム拒絶!! “
「繰り返せ!! 必要ならクラックしても構わん。基地サーバーの使用を許可する。何としても止めろ」
「了解!!」
「搭乗者バイタル、出まし――――――いえ、ダミーデータ!? 何て悪質な!!」
「待機IS、スクランブルで上がりました。これより押さえ込みます」
「福音、エネルギー反応上昇。戦闘出力!!」
“
「福音IFF及びFCSモード変更!! 友軍機ロックオン!!」
「撃たせるな!!」
しかし上官の願いも虚しく放たれた銀の流星は、友軍機を一瞬で戦闘不能へと追い込む。
ISの装甲は粉々で、搭乗者は絶対防御のおかげで死亡こそしていなかったが、バイタルデータは危険域。
勝負にすらなっていなかった。
ギリッ!!
歯軋りする上官。
だが、本当の悪夢はこれからだった。
“
高度を取ると、西へと進路を取った。
「どこへ向かっている?」
上官の問いにオペレーターが、正面大型モニターに予測進路を表示させる。
すると「まさか・・・・・」という呟きが、何処かからか漏れ出た。
無理も無い。
表示されたのは、およそ考えられる限りの最悪。今世界中で最も注目を集めている場所を通るルート。
福音の予測進路上にあるもの。
それは、束博士の公開実験場だった。
◇
世界中の注目を集める中で自国の、それも最新鋭機の暴走という不祥事を防ぎたい“
国防総省から速やかに下された撃墜命令(※1)に従い、太平洋を活動領域とする第七機動艦隊が戦闘態勢へ移行。
※1:勿論内部で反対意見はあったが、流石世界一の軍事大国、こういう時の判断は早かった。
日本防空圏への侵入阻止が絶望的となる。
そしてこの時、日本は珍しく強かだった。
防空圏に侵入する
しかも「未確認機に接近は危険である」という尤もらしい理由で徹底的にアウトレンジからの遅延戦闘に終始。
それでも結局撃墜されてしまったのだが、日本政府はこの“撃墜された”という事実と「最新鋭機には最新鋭機でなければ対応出来ない」という如何にもそれらしい理由で、IS学園に専用機の派遣を要請。
普通ならばまず拒否されるような要請だったが、断るには今年の1年生はビッグネーム過ぎた。
何せ入学直前まで実戦IS部隊隊長を務めていたラウラ、第四世代ISを駆る箒、コンビネーションに定評のあるシャルロットとセシリア、近~中距離まで幅広くカバーする鈴、そして一撃必殺の零落白夜を振るう一夏。
更に言えば、全員が
IS学園上層部とそれぞれの専用機開発国が、本当の最新鋭機を相手にどれだけ戦えるのか、見てみたいと思ってしまうのも無理からぬ事であった・・・・・のだが、これに織斑千冬が異を唱えた。
「学生に、学生にやらせると言うのですか!? 何の為に我々大人がいると!!」
画面越しに相対するのは、IS学園副校長。
運悪く校長が学園に居なかった為、この一件は副校長である彼女が取り仕切っていた。
「では聞きますが、公開実験場にいるIS警備部隊を全て投入したとして、アレを止められますか? “確実に”止められますか? 今博士に何かあれば世界の損失なのは間違い無いのですよ。万一の失敗すら許されないのに、勝ち目の無い部隊を当てると?」
止められる。
千冬はそう言いたかったが、日本政府から提供された戦闘データが、それを許さなかった。
どう見ても、量産型第二世代程度で戦える相手じゃない。
IS警備部隊の腕は確かだが、機体性能が圧倒的に足りなかった。
まして実戦経験のある者など皆無。
自身の専用機があればまた違ったかもしれないが、無い物ねだりをしても仕方が無い。
「・・・・・・・・・・」
「言えないでしょう。それに対し彼と彼女らはどうですか?
千冬は知らず、拳を握り締めていた。
確かにあいつらの成長速度は目を見張るものがある。
6対1なら、恐らくやれるだろう。
しかしだからと言って、教え子を喜んで戦場になど送れるものか!!
だがそんな心の叫びも、目前の相手には届かなかった。
「諦めなさい。既に派遣は決定事項です。他に対応できる者がいない以上、この決定は覆らない。――――――それとも、IS警備部隊をアレの前に出してみますか? それが無駄な事は、誰よりも貴女が一番良く分かっているでしょう。ブリュンヒルデ」
「・・・・・分かりました。彼らには、私から直接伝えます」
「では、よろしく頼みましたよ」
こうして、最新鋭機暴走の後始末が学生によって行われるという、前代未聞のミッションが始まるのだった。
第48話に続く