インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
「――――――ところで、さ」
「何だ?」
「晶って、Sだよね」
NEXT VS 一年生専用機チームという大芝居をしてまでドイツを嵌めた日の夜。
束の寝室。そのベッドの中で、いきなりそんな事を言われた。
「いきなり、どうしたんだ?」
「何となく、VTシステムを発動させる時の行動を見ていて思ったの。だって
「そんなにノッてたか?」
「うん。聞いているこっちがゾクッてくるくらいの名演技だった。特に接触回線で一方的に言い放った後の、容赦の無い攻め方は、見ていたこっちがハラハラするくらい。俳優に成れるんじゃないかな?」
「興味無いな。それに俳優になんかなったら、お前と一緒にいられなくなる」
隣で横になる束の髪を撫でながらそんな事を言うと、彼女は微笑みながら、柔らかい四肢を絡みつかせてきた。
互いの身体が密着し、女性特有の柔らかさが感じられる。
「ふふ。ありがとう。――――――ところで、
「データの吸い出しとVTシステムは?」
「完璧。本人が意識を失っている間に、全データを抜かせてもらった。予備パーツも含めてね。VTの方も、完全に消去したから問題無いよ」
「流石だ。なら――――――」
数瞬の思考。
どうしようか?
束の手にかかれば、ドイツが望んで止まないであろうセカンドシフトの為に必要な、戦闘経験の初期化すら可能だろう。
が、そこまでする必要があるだろうか?
既に衛星への最優先アクセスコードという手痛い出費をさせている以上、今回の目標は達成しているんだ。
更に言えばトライアル中の最新鋭機、その詳細な設計データも入手している。
何かあれば、これを仮想敵国に渡してやれば良い。弱点のレポート付きで。
加えて今初期化しても、目に見えるダメージが無い。
つまりインパクトが弱い。
なら初期化という罰は、もっと別の機会の為にとっておくべきだろう。
そう考えた俺は、
「――――――修理も何もしないで、そのままドイツに引き渡してやれば良い」
「あれ、意外だね。てっきり何か考えてると思ったけど」
「考えた結果さ。今回の目標は達成している。これ以上何かしても、インパクトが弱い」
「なるほどね。分かったよ。――――――ところで、もう1ついいかな?」
束は妙に妖艶な笑みを浮かべながら、そんな事を言ってきた。
「何だ?」
「埋め合わせって、何を考えてるのかな?」
「え?」
「だ・か・ら、フランスとイギリス代表候補生に『埋め合わせをする』って言ってたよね? どんな埋め合わせをするのかなぁ~って気になって」
ヤ、ヤバイ。
いや、拙くは無い!! 断じて拙くは無い!!
日頃世話になっているし、少しとは言え、女の子の肌にアザを作ってしまったんだ。
円滑な人間関係の為にも、こういうフォロー欠かせないだろう。
と必死に弁明すると、
「ふぅぅぅ~~~ん。そうか、晶は女の子の肌にアザを作ったら、そういうフォローは必要だって考えるんだ。――――――私にも、いっぱい作ったクセに。ダメって言ったのに、獣みたいに」
そんな事を言いながら、何処か拗ねたような、それでいて受け入れてくれるような、魅惑的な笑みを浮かべる束。
思わず見とれていると、彼女の言葉は更に続いた。
「で、どうするのかな?」
「そ、その・・・・・だな・・・・・」
どう言えば良いだろうか?
数瞬考えてしまったが、結局のところどう言葉を取り繕うと、所謂デートになってしまう。
なので、ストレートに言う事にした。
嘘はつきたくない。
「いや・・・・・デート・・・になるのかな」
「この状態で、他の女とデートだなんて、良く言えたね」
四肢の絡みつきが強くなり、片側の手足ががっちりホールドされてしまう。
感触は天国だが、笑顔が怖い。
しかしここで負けては男が廃る!!
「何言ってるんだ。外で上手くやる為に、ある程度のコミュニケーションは必要だろう?」
「私が問題にしてるのは、そのコミュニケーションのレベル。大体――――――んんっ!!」
長くなりそうだったので、つい唇を塞いでしまった。
勿論、俺の唇で。
「んんっ、んっ。こ、こら。今日はそんな事で誤魔化されないからね」
「誤魔化して無いよ。お前が一番なのは変わりない」
もう一度、唇を塞ぐ。
さっきよりも強く、長く、交わるように。
そうして暫くすると、互いの顔が自然と離れた。
すると彼女は小さな声で囁く。
頷いた俺は、部屋の照明をゆっくりと落としていった。
◇
NEXT VS 一年生専用機チームという一大イベントの翌日早朝。
勿論成功という話事態は既に伝えてあるけど、その詳細を
普通なら警戒し過ぎと笑われるかもしれないが、そこで笑う奴は素人だ。
情報なんて、何処から漏れるか分からないんだから。
そんな事を思いながら待っていると、ようやく繋がった。
『あ、晶? 交渉の成果なんだけど――――――』
『何で泥棒猫が、彼を名前で呼んでるのかな?』
良かった機嫌が、底辺まで下がるような声が聞こえてきた。
『・・・・・なんで引きこもり兎が出るのよ』
『彼は今お休み中。仕事の話なんでしょ。私が伝えておくわ』
『いいえ。掛けなおすわ。大事な話だから、間に人を挟みたくないの』
『ふぅん。そう。じゃぁ、そうすると良いわ。私は、もう少し彼と一緒に休んでるから』
あからさまに見せ付けるかのような物言いに、ついカチンと来てしまった。
『不安なのが見え見えよ、兎さん』
『何が?』
『そんなに彼が“私のもの”って自己主張するのは、取られるのが心配だからなんでしょう』
『当たり前じゃない。何を言ってるの?』
少しでも揺らいでくれればそこを突破口にするつもりだったけど、まさか小揺るぎもせずに、正面から肯定されるとは思わなかった。
そして兎の言葉は更に続く。
『彼は私のもの。誰にも渡さない』
『身体で繋ぎとめるなんて、前時代的ね。まるで愛人みたい』
『フフ、アハハハハッッ!! 所詮小娘ね、貴女』
人の神経を逆撫でする勝ち誇ったような声。
『何ですって』
『だってそうでしょう? 肉体関係があるだけで、“繋ぎとめる”だなんて、まるで
どこまでも上から見下ろす物言いに、グツグツと怒りがこみ上げてくる。
言わせておけば!!
『あれ? 怒ってるのかな? まさか、そんなはず無いよね。“愛人みたい”だなんて言う人が、こんな事で怒ったりしないよね? でもそうすると大丈夫かな? 暗部名門に相応しい人で、そんなに身奇麗な人っているのかな? ああ、でも泥棒猫には相応しいかもね。――――――君の好みに合うかどうかは、別として』
感情を爆発させたい衝動に駆られるが、やってしまえば引きこもり兎の思うツボ。
そう思い、辛うじて自制する。
『ふん。男なんて移り気なんだから、せいぜい必死になって繋ぎとめておきなさい。私は、その必死さを見て笑ってあげるわ』
『ハハッ、負け犬。いや、負け猫かな? その時点でもう勘違いしてるよ。繋ぎとめてるんじゃない。私が自分で隣に立ってるんだ。この程度の違いは理解出来るかな? 乙女の生徒会長さん』
『あ、当たり前じゃない!! 馬鹿にしないで!!』
『そう? 潔癖な乙女には難しいと思ったんだけど』
『お、乙女は関係無いでしょ。乙女は。そっちこそ、恋人がいるからって調子に乗らないでよね。私に言い寄る男なんて、掃いて捨てる程いるんだから』
『でも全員凡人でしょ。貴女っていうブランドが欲しくてすり寄ってくる低能ども。大変よね。同情するわ。そんなものを相手にしないといけないなんて。でも仕方無いわよね。更識家の為には、そんな中からでも選ばないといけないんだもんね』
内心で喜んでいるのが見え見えの、言葉だけの薄っぺらい同情。
本当にこの引きこもり兎は、人の神経を逆撫でしてくれる!!!!!!!!
だから決めた。
初めては、絶対アイツにする。
そしてこの引きこもりを、死ぬほど悔しがらせる。
決めた。絶対そうする!!
『・・・・・ねぇ、今良からぬこと考えなかった?』
『さぁ? 知らないわ。気のせいじゃない。貴女に恨みを抱いている人間なんて腐るほどいるだろうから、何か噂でもされているんじゃないの』
『私の勘は、良く当たるんだけどね』
『なら、今回はハズレたのね』
『ふぅぅぅ~~~~ん。そう』
『ええ、そうよ。じゃぁ、また後で掛けなおすわ』
内心の感情を押し隠し、何とか平静を装って最後の一言を言い終えた私は、
「あの引きこもり!!!!!」
通話を終えた瞬間、思わず携帯をブン投げてしまった。
壁に当たって壊れるが、そんな事はどうでもいい。
問題はどうやってアイツを――――――そこで、ふと気付く。
今、私は何を考えた?
初めてを、アイツと?
誰が? 私が?
相手は? アイツ?
な、何を考えてるの私は。
そんな事ある訳ないじゃない。
一時の気の迷いよ。
余りにも自然に色々な事を想像してしまい、顔が熱くなっていく。
駄目、と思う程に止められなかった。
そして比べてしまう。
私にすり寄ってくる男共と、アイツを。
・・・・・勝負になんてならなかった。
金のある奴もいる。権力のある奴もいる。頭の良い奴もいる。顔の良い奴もいる。
普通に考えればより取り見取りだ。
でも、全員駄目。
言葉巧みに私を持ち上げるけど、結局のところ欲しているのは、更識家そのもの。
私を思っての事じゃない。
それに比べてアイツはどうだろう?
博士を助ける為に11機のISが待ち構える艦隊の中に、躊躇無く飛び込んでいった。
戦争どころか、一国を焦土に変えられるだけの戦力に正面から喧嘩を売った。
たった1人を助ける為に。
羨ましくないはずが無い。
私もそれほど思われてみたいけど、すり寄ってくる男共に、そんな奴はいない。
だから、
「――――――いいなぁ」
と思わず、誰もいないはずの生徒会長室で呟いてしまった。
誰もいない“はず”の生徒会長室で。
「何が良いんですか。お嬢様」
「・・・・・え?」
気付けば、目の前に
代々更識家に仕えてきた布仏家が、今代輩出した私の側近。
眼鏡に三つ編みという如何にもお堅い外見を裏切らず、仕事は万事手堅くこなしてくれる得がたい人材。
そして生徒会会計を預かる身だから、何かの報告で生徒会長室に来るのは何も不思議では無いけど、私が入室に気付かなかった?
「・・・・・ねぇ、何時の間に入ってきたの?」
「つい先程です。お嬢様。ところで、何が良いんですか?」
「い、いえ。何でもないわ。ところで、手に持っている分厚いファイルは何かしら?」
私はどうにか表情を取り繕って、極々自然に見えるように話題を切り替えた。
「昨日から今日までで、学園に届いた公開要請書です」
「何の、とは聞くまでもないわね」
ずっしりと重いファイルを受け取って、とりあえず開いてみる。
中身は小難しい文章で色々書かれているが、要約してしまえばたった一つ。
昨日の演習内容を公開しろ。それだけだった。
にしても、今時紙で寄越すなんて、何て前時代的。
一切非公開にした事に対する嫌がらせかしら?
「ところでコレ、何で私のところに来たの? こういうのは、職員の方で処理すべきものだと思うけど」
「それがどうやら、職員の間で変な意見が出たようで」
「何かしら?」
「どうやら、『最近、薙原と更識は仲が良いようだから、更識に説得させれば頷くのでは?』という趣旨の発言をした職員がいたみたいで」
「何よそれ。その程度で、あの男が頷くはず無いでしょう」
「という意見も出たようなんですけど、駄目で元々、という事で回されてきたみたいです。恐らくフランスとイギリスの代表候補生のところにも、それとなく話が行くでしょう」
「馬鹿な奴らね。あの男がそんな事で頷くはず無いのに・・・・・放っておいても良いけど、契約の件もあるから、こっちで潰しておきなさい」
「そう言われると思い、既に手は打っておきました」
「流石ね、虚。ところで、他に何か用事はある?」
「いいえ。今はこれだけです」
「なら少し1人にしてくれないかしら、考え事がしたいの」
「分かりました。では午前中の予定は全てキャンセルにしておきます。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
すると虚は一礼して、部屋から出て行った。
壁に当たって壊れた携帯をそのままにして。
いつもの彼女なら、気付かないはずが無い。
つまり初めから気付いていたのに、気付かなかったフリをしてくれたんだろう。
恥ずかしいなぁ、もう。
そんな事を思いながら、私はこれからの事を考え始めた。
アイツの事も含めて。
◇
NEXT VS 一年生専用機チームという一大イベントの翌日、その昼過ぎ。
本当ならもっと早く見舞いに来たかったんだけど、昨日は検査やら何やらで面会出来なかったし、今日は先に千冬姉が来ていた。
だからこんな時間になっちゃったんだが・・・・・何でこんなに機嫌が良いんだ?
あんな事があったんだから、落ち込んでると思ったんだけど。
もしかして千冬姉が立ち直らせたのかな?
そんな事を思いながら、俺はベッド横のパイプイスに腰を下ろした。
「元気そうだな」
「ああ、御蔭様でな」
何時もの厳しい表情が嘘みたいな、穏やかな表情。
こいつ、こんな顔も出来たんだ。
「まいったな。落ち込んでると思って色々考えてきたのに、全部パァだ」
「ふふ、すまないな。あの人の言葉は、相変わらず良く効く。私の悩みなんて、一発で吹き飛ばされてしまった」
「あの人? 千冬姉か」
「ああ」
「納得。あの人に言われちゃ、どうしようも無い。人を立ち直らせるのも世界最強か。敵わないなぁ」
がっくりと肩を落とす俺にラウラは、
「私を励ましに来たお前が落ち込んでどうする」
「凄過ぎる姉を持つと、出来の悪い弟は苦労するって話」
「馬鹿を言うな。演習の時のお前の動きは、見事な・・・・・
「分かってるよ。本職の軍人さんからしたら、まだまだ穴だらけなんだろう。だから、これからよろしく頼むよ」
そう言って手を差し出すと、ラウラはしっかりと握り返してくれた。
細くて綺麗な手。
だけど手の平には、幾つも血豆の痕があった。
「
「周りが凄いからな。慢心してる暇なんて無いんだよ。それに
「容赦が無いとは聞いていたが、本当に容赦が無いんだな。ところで、1つ聞いていいか?」
今までの穏やかな表情から一転。
ラウラは真面目な顔で問いかけてきた。
「俺で答えられるなら」
「私が異変を起した時、どうして私とNEXTとの間に割って入れた? こう言っては何だが、何か確信が無ければ、
何かもっと凄い事を聞かれると思っていた俺にとって、少し拍子抜けする質問だった。
「ああ、そんな事か」
「そんな事?」
「ああ、そんな事。1つ目の理由は、異変を起した時に千冬姉の剣術が使われていた事。あれで千冬姉が汚された気がして、頭に血が上って、自分の手で何とかしたかった。2つ目、晶が俺の言葉に耳を傾けた事」
「1つ目は良く分かるが、2つ目はどういう意味だ?」
「あいつが本当にやる気だったなら、こっちが口を挿む前に終わらせているはずだ。なのにしなかった。それに異変を起す前、随分苛烈に攻め立てていただろ? あれを見ておかしいと思ったんだ」
「何がおかしいんだ? 敵を苛烈に攻めるのは当然だろう」
「当然だけど、アイツは良くも悪くも戦闘で手は抜かない。終わらせる気なら、速やかに終わらせる。そういう奴だ。実際、セシリアもシャルロットも一瞬だっただろう。なのにお前の時は長々とだ。だから絶対何か考えてると思ったんだ」
「お・・・・お前!! あんなプレッシャーを受けている中で、そんな事考えてたのか!? 私ですら殺されると思ったのに!!」
信じられないとばかりに訴えるラウラ。
「そう思わせる気だったんだよ。きっと。じゃないとどう考えたっておかしいぜ。だってさっきも言ったけど、アイツ戦闘じゃ手を抜かないんだ。いや手加減はしてるんだろうけど、こっちを弄ぶような手の抜き方はしない。なのに長々と苛烈に攻めるなんて、普段のアイツなら絶対やらない。つまり何か目的がある。そういう確信があったから割り込めたんだよ」
◇
一夏の話を聞いた
新兵器テスト以外の目的があったとするなら、NEXTの行動にも納得がいく。
ではその目的とは?
恐らく、以前私がやった事への仕返しだろう。
しかも状況的に、VTシステムの事を掴んでいたに違いない。
それを利用して、
何て奴だ。
そこでふと気になった。
NEXTの背後にいるもう1人は、世界最高の専門家。
VTシステムなんてものを放っておくだろうか?
ゾクっとしたものが背筋を走り抜けた私は、大急ぎでシュヴ
システムチェック!!
すると外装系パーツの殆どが消失という、オーバーホール必須の大ダメージ。
いや、それは良い。
問題は、基本OS周りが明らかに軽くなっているという事。
外装パーツが無くて処理が軽くなっているというのもあるだろうが、それにしても、明らかに軽い。
まるで重しが外れたようだ。
そんな風に驚いていると、最後にシステム外のメッセージが出てきた。
『一定時間内に本人がシステムチェックをした場合に限り、流れるコレを見ているって事は気付いたんだね』
まさか? 束博士!?
『長々と喋る気は無いから、端的に言ってあげる。君がやってくれた一件に対しては、コレで終わり』
本当か?
『信じる信じないはそっちの勝手だけど、やるなら、もう容赦しない。今回はちーちゃんに免じて、“君は”これで許してあげたけど、余り手を煩わせるようなら、分かるね?』
私はまた、あの人に救われたのか。
『そして勿論、このメッセージの証拠なんて残らない。前回とは違って、賢明な判断を期待するよ。凡人の相手は疲れるんだ』
そうしてメッセージが終わると、いつの間にか一夏が、私の顔を覗き込んでいた。
「急に黙り込んで、大丈夫か? 何処かまだ痛いところでもあるのか?」
「だ、大丈夫だ。驚かせるな!!」
あまりの近さに驚いて、つい声を荒げてしまう。
しかしこうやって心配されるのは、悪く無い気がした。
「悪い。急に黙り込んだから、どうしたのかと思ってさ」
「少し愛機のシステムチェックをしていただけで、心配されるような事じゃない」
「そうか。でもボロボロだろ」
「問題無い。来る時に、予備パーツ一式も持ち込んである」
「あれ? もしかしてコンテナに入ってたヤツ?」
「そうだが、何故知ってる?」
「アリーナの保管庫にあったヤツだろ。それ昨日、晶の奴が持っていったぞ。『システム汚染の可能性があるから全検査する』って」
「なっ!?」
一瞬、顔が引きつってしまったのは仕方ない事だと思う。
あ、あの男!!!!!
こっちが強く言えないのを良い事に、やりたい放題!!
仮にも軍事技術の塊だぞ!!
「何かまずかったのか? 当然っていう感じで持っていってたから、話はついていると思ったんだけど」
「え、ああ。いや、話はついてるんだ。ただ、仕事が早いと思っただけで」
かなり苦しい言い訳だったので、私は早々に話題を変える事にした。
「――――――と、ところで、この学校の事。クラスの事。色々聞かせてくれないか? 正直、こういう教育機関には余り縁がなくてな」
「いいぜ。と言っても、俺も余り詳しい訳じゃないけどな」
そう言うと一夏は、色々な事を話してくれた。
学校の事やクラスの事に始まり、脱線して織斑教官のプライベートまで。
途中で私が、「そんな事が!?」と驚くと、「いや実はだな」と更なる秘話が。
とても楽しかった。
織斑教官がとても身近に感じられたし、何より上官と部下という固いやりとりではなく、もっと別の何かが感じられた。
これが友人というやつだろうか?
そんな事を思いながら、私は話を聞き続けた。
ちなみに後日、色々喋ったのがバレた織斑一夏は、打鉄装備の織斑千冬+NEXTという、地獄の訓練を受ける事になる。
第38話に続く