インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
さぁ、後どれくらい撃てる?
砲身も砲弾も見えないって事は、どこかでその分余計にエネルギーを消費しているはずなんだ。
つまり燃費が良いはずが無いんだ。
龍咆の掃射を避わしながら、
するとエネルギーが無くなってきたのか、それとも当てられない事に焦れてきたのか、鈴の顔に焦りが見え始めた。
そろそろか? それとも誘いか?
でも奇妙な確信があった。
今の鈴は本気で焦っている。
なら、行くぞ!!
―――
龍咆の掃射を避わして側面を取った瞬間、背部
溜め込んでいたエネルギーを一気に放出。一瞬でトップスピードに。
「これでっっ!!」
「っっ!!!」
完全にがら空きの体勢の鈴。
決まった。
そう思った瞬間、ハイパーセンサーが高エネルギー反応を感知。更にロックオン警報。
上!?
考えるよりも先に、身体が動いていた。
反射的な回避機動。
1秒前までいた空間を貫く光の奔流。
地面への着弾。起こる大爆発。
吹き荒れる爆炎と爆風が、一回だけ晶が見せてくれたNEXT用グレネードを思い出させた。
「な・・・・・なんなんだ、今の?」
突然の事態に戸惑い、思わず、その場に止まりそうになる。
だけど続けて放たれた第二射が、それは拙いと教えてくれた。
そしてハイパーセンサーが第三射を感知する。が、俺にロックオン警報は無い。
「――――――鈴!!! よけろぉぉぉぉ!!」
気付けば、叫んでいた。叫ぶしか出来なかった。
第三射が撃ち下ろされると同時に、アリーナに侵入してきた2機の見慣れないIS。それが観客席に極太の両腕を向けると、ハイパーセンサーがまた高エネルギー反応を感知。
「さ、させるかぁぁぁ!!」
残りのエネルギーを気にする余裕なんて無かった。
考えてる余裕なんて無かった。
何もかもが無かった。
そんな中で、俺が出した答え。
――― 一撃必殺。
時間が掛けられないなら、掛けなければいい!!
後から思い出せば無茶苦茶だと思ったけど、この時は、これ以上の方法は考えられなかった。
加速する視界の中で、凹凸の無い黒いボディとフルフェイス。極太で長い手足という、見慣れないISの姿があっと言う間に大きくなる。
そして、求めた攻撃は最速。故に刺突。
俺自身が一本の矢になって突き刺さる。
零落白夜が発動した雪片弐型は、振り向いた黒いISのエネルギーシールドも絶対防御も紙切れのように貫通し、狙い違わず胸元に突き刺さる。
だが、まだ敵は動いていた。そしてもう一機いた。止まっている暇は無い。ニノ太刀を振るう時間も引き抜く時間も惜しい。
ならどうする?
駄目だ。コイツはまだ動いてるんだ。下手に隙を見せたら後ろから撃たれて終わりだ。
なら!!
無理でも無茶でも無謀でも、このまま行くしか無いだろう!!!
残っているブーストエネルギーを全て叩き込み再加速。
オーバーロードでブースト関連のステータスが軒並みレッドになるが全て無視。
今、この瞬間に間に合わなきゃいけないんだ!!
頑張ってくれ白式!!
俺の声が届いたのかどうかは分からない。
だけど白式は、黒いISというデッドウェイトがあるにも関わらず、普段と同じ、いや、それ以上の加速力を叩き出してくれた。
結果、ビームを放つ直前で体当たりに成功。
観客席への直撃だけは防げた。
けど、無茶の代償は大きかった。
貫いたけど、何故かまだ動いている黒いIS。そして体勢を崩す事しか出来なかったもう一機。ああ、上に無傷のがもう一機いたな。
対して俺の方は、ブーストエネルギー0。零落白夜のおかげでエネルギーシールドも残り僅か。
こんな状態で囲まれたら、
「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
鈴の叫び声が聞こえる。
振り向けば、装甲は半壊しているけど、無事な鈴の姿と、ピットから飛び出してきた蒼とオレンジ色のIS。
良かった。あの2人が出てきたなら大丈夫だ。
そう思った直後、全身に感じた強い衝撃で、俺の意識はプッツリと途絶えた。
◇
ホテル『テレシア』で航空会社社長と面会している最中、山田先生から携帯を渡された
「すぐに戻ってくれ!! 未確認ISが3機、アリーナに侵入。一夏のお蔭で観客への被害は無いが、無いが!!」
あの、気丈な織斑先生が取り乱している。
それが既に信じられなかった。同時に、事態の深刻さを現していた。
「すぐに戻る。――――――社長。悪いが面会はこれで終わりだ。急な用事が入った」
返事を聞く前に席から立ちあがり、踵を返して屋上に向かう。
途中、織斑先生から聞いた話は、かなり拙いものだった。
観客を護る為に無理をした一夏は、敵のど真ん中でブーストエネルギー使い果たし立ち往生。
更に零落白夜のおかげで、シールドエネルギーが殆ど残っていなかった状態で攻撃をもらい意識不明。
確実に絶対防御を抜けてダメージが入ったんだろう。それもかなり拙いレベルの。
そして鈴の方は敵の初撃、大出力ビーム砲を受けて装甲が半壊。
辛うじて直撃は避けたらしいが、動けるというだけで戦闘能力は絶望的。
唯一の救いは、すぐにシャルロットとセシリアがアリーナに入って、敵を引き付けてくれた事か。
しかし3対2だ。急がないと。
山田先生に携帯を返して別れた後、屋上へと続く階段でNEXTとなった俺は、鍵のかかった扉を蹴り飛ばし外へ。
平行してデータリンク確立。IS学園で起きている現状の詳細情報を受け取る。
こいつは!?
即座に織斑先生に、以前戦った無人ISのデータを送信。但し無人機なので、バージョンアップされている可能性があると付け加えて。
そうして上昇しながら
周囲に騒音被害を撒き散らしながらIS学園へと進路を取る。
(クソッ!! まさかこんな事になるなんて!!!)
幾ら後悔しても遅いが、思わずにはいられない。
戦いの場に絶対は無いなんて分かりきっていたけど、こうなると、もっと別の手段は無かったのかと考えてしまう。
(いや、何を今更!! 後悔する位なら、仕掛けてきた相手を100倍後悔させてやる方法を考えろ!! 俺に、俺の周囲に手を出す事がどういう事か、骨の髄まで分からせてやるんだ)
そう思い、思考を切り替える。
こと戦うという一点において他の追随を許さない、強化人間の戦闘思考が走り始める。
襲撃の目的は何だ?
今日呼び出されたのは偶然か?
博士に関係があるのか?
状況報告では3機。予備戦力はあるのか?
様々な疑問が脳内でリストアップされ、マルチタスクで推論が構築されていく。
襲撃の目的は?
高確率で情報収集だろう。なら対象は? 俺がいるIS学園を襲撃する位だ。明確な対象がいるだろう。まさか俺? それこそまさかだ。多少バージョンアップされていたとしても、3機程度の無人ISならすぐに片付けられる。以前戦った時以上の情報を、敵が得られるとは思えない。無人機の仕上がりを見る為? 無くは無いだろうが、何も学園でやる必要性は低いだろう。博士に関わる事か?
コアネットワークで博士をコール。
(博士)
(どうしたの? 今大変な事になっているけど)
(学園の事なら知っている。ところで1つ確認したい)
(何?)
(今博士に対して何らかのアクションは発生しているのか?)
(ううん。なぁ~んにも)
(分かった)
接続を切ろうとしたところで、博士が釘を刺してきた。
(薙原。いっくんに何かあったら箒ちゃんが悲しむ。分かってるよね?)
(言われるまでも無い)
博士絡みじゃない?
という事は、やはり対象は俺も含めた専用機持ち組みか? 襲撃時間と場所を考えれば、それ以外の可能性は低いだろう。
何の為に?
そこまで考えた時、脳裏を閃きが走った。
待てよ? 敵から俺を見た場合、単純な力押しで勝てない相手と戦う場合、致命的に抜けている情報があるだろう!!
それは人格や性格といった精神的なもの。
物の好き嫌いに始まり、非常時には何を優先する傾向にあるのか。
純粋に力押しが出来ない場合、この辺りの情報は無視出来ない。
逆にこの辺りの情報を上手く使えば、例え敵側であったとしても、自分達の利益となるように動かせる。
相手の動きをコントロール出来るんだ。
なるほど。そう考えれば、今日呼び出されたのも、アリーナがこのタイミングで襲撃されたのも、全てが繋がる。
目的は、俺が非常時にどう動くかを知る事か。
勿論普通なら、こんな大袈裟な事はしないだろう。
この世界で生まれた人間なら、生い立ちを調べれば大まかな事は分かるはずだから。
でも俺は違う。
博士と行動を共にする以前の情報は、世界中の何処にも無いんだ。
つまり敵にとっては、『強力な力を持っている謎の存在』という事になる。
これらを踏まえて考えれば、IS学園を襲撃したのが3機だけと考えるのはおかしい。
情報を持ち帰る為の偵察機がいるはずだ。
しかし分かったところでどうする?
一夏と鈴の状況を考えれば、悠長に探している時間は無い。
悠長に?
何も“今”探し出す必要は無いじゃないか。
結果として情報を持ち帰られなければ良いんだ。
そしてIS学園には、その手のプロが居たじゃないか!!
俺は織斑先生に通信を繋ぐ。
「先生。大至急呼び出して欲しい人がいる」
「誰だ?」
「IS学園生徒会長、
「分かった。少し待て――――――」
そうして呼び出した彼女に、手短に用件を伝える。
すると、
「噂の薙原君は人使いが荒いんだね。会った事も無い相手に、そんな事を頼むなんて」
「失礼なのは承知している。が、他に頼めそうな相手がいない。それにもしかしたら、何も無い可能性もあるんだ」
「いいや、君の考えは正しいと思うな。多分、私も同じ事を考えると思うよ」
「そう言ってくれると助かる」
「じゃぁ偵察機は任せて。君は1年生の方を。後ついでに、ご褒美も期待しているよ」
「分かった」
交信を終了した俺は、迫ってきたIS学園のアリーナ突入に備え、武装の呼び出しと最終チェックをコマンド。
各部ハードポイントに量子の光に集まっていき、その中で武器が形を成していく。
―――SYSTEM CHECK START
→HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK
→CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK
→ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK
→LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK
→R ARM UNIT :04-MARVE(アサルトライフル)・・・OK
→L ARM UNIT :063ANAR(アサルトライフル)・・・・OK
→R BACK UNIT :EC-O307AB(レーザーキャノン)・・OK
→L BACK UNIT :EC-O307AB(レーザーキャノン)・・OK
→SHOULDER UNIT :-
→R HANGER UNIT :-
→L HANGER UNIT :-
―――STABILIZER
→CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→LEGS BACK :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK
→LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
→LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR
◇
その少し前、アリーナでは――――――。
「鈴さん!! ピット戻って!! 敵は
「い、一夏は・・・・・」
「僕とセシリアで何とかするから!!」
叫びながら、両手に持つアサルトライフルをトリガー。
と同時に、同じようにピットから飛び出してきたセシリアがビットを展開。
一夏を囲む3機に、同時に撃ち込む
(時間は掛けられない。なら!!)
ブーストを全開にして、3機の黒いISに向かい突撃。
まずは一夏を助け出さないと!!
するとビットの軌道が変化。
便宜上付けた識別コード、無傷のα1にビットが集中し、同様に無傷のα2にはスナイパーライフルが撃ち込まれる。
いずれもシールドに阻まれているけど、動きを止められれば十分!!
そして残るは、一夏が傷つけたα3。
トレーニングのおかげか、この辺りの呼吸は、今更確認するまでも無かった。
そうしてショートレンジまで踏み込んだ瞬間、
落ち着いて、それぞれワントリガー。
命中。仰け反って固まるα3の懐に潜り込む――――――ように見せかけて横を通り抜け一夏の元に。抱き抱えて即座に離脱。
「30秒、稼げる?」
「愚問ですわ。さっさと運んで差し上げなさい!!」
「ありがとう!!」
頼もしい言葉に、僕は振り返る事なくピットを目指す。
セシリア、頑張って!!
◇
シャルロットを行かせた直後、織斑先生からの通信。
一体何ですの?
「アレのデータが手に入ったので今転送した。どうやら薙原の奴、アレと交戦経験があったらしい。転送データには推定予想値も含まれているが、無人機だからバージョンアップされている可能性もあると言っていた。――――――後、今こちらに向かっている。もうすぐ到着するはずだ」
「分かりましたわ。でも、到着する前に倒してしまっても良いのでしょう?」
自分でも強がりを言っていると思う。
だけれど、頼り切るのはプライドが許さなかった。
それに、ISに触れてからそれほど経っていない一夏さんが、あそこまで頑張ったんですもの。
代表候補生たる私が、ここで踏ん張れなくては名折れもいい所ですわ。
「そうだな。代表候補生の実力、見せてくれ」
「勿論ですわ。 ――――――さぁ!! 踊りなさい!! ブルーティアーズ!!」
号令の元、一斉にビットが行動を開始。ミサイルビットも展開。
切り札を隠したまま、乗り切れる状況ではありませんわ。
そうして常に思考の一部をビットコントロールに割いたまま、自身も戦闘機動を開始。
スナイパーライフルで敵を狙い撃つ。
だけど敵も、只の人形ではありませんでした。
明確な役割分担を持って対応してきたのです。
α1は直接、私を狙い。α2はビット迎撃に専念し、α3は壁際にポジショニング。アリーナ全体を見渡せる位置から固定砲台となって攻撃してくる。
本当に無人機ですの!?
機械とは思えない柔軟なコンビネーションに驚きを隠せない。
でも、負けるとは思いませんでしたわ。だって今の私は、1人ではありませんもの。
「あちらは、連携戦がお望みのようですわね」
「いいね。受けて立とうじゃないか」
今にも私を攻撃しようとしていたα1が、横合いから撃ち込まれたバズーカで吹き飛ばされる。
と同時に、一瞬フリーとなったこの隙に、α3をスナイパーライフルで照準。トリガー。
エネルギーシールドで弾かれるが、予想通り回避するそぶりすら見せなかった。
やっぱりあれは、一夏さんの攻撃で相当なダメージを負っている。もう戦闘機動を行うだけの余裕も無いんだ。
そうしてシャルロットが、私と背中合わせになるように合流。
と同時に、ビットの斉射でα2を牽制した後、回収してエネルギーチャージを開始。――――――完了
「――――――狙うなら、α3からですわね」
「そうだね。落とせるところから落としていこう」
会話はそれだけでしたけど、これ以上は不要でしたわ。
自然と私はα1を照準。α2へ向けてビット展開。シャルロットがα3へ向けて突撃。
・・・・・後から思えば、私達はもっと注意を払うべきでした。
人の形をしていても、相手は無人機であるという事に。
第23話に続く