インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
しかし彼女の過去は、外見的特徴のように恵まれたものではなかった。薙原晶がとあるミッションでドイツの秘密工場を叩かなければ、同じ境遇の仲間達と共に生体パーツにされていたからだ。また彼に引き取られるまでドイツ政府の施設にいたが、“生体パーツにされかけた過去”というのが、普段の生活にも暗い影を落としていた。本人のトラウマ、他人への不信感、冷やかし、腫れ物扱い、実に様々だ。しかも彼女達元生体パーツ候補には―――クロエ・クロニクル以外―――、工場以前の記憶が無かった。生体パーツにする為の前処置で消されてしまっていたのだ。あるのは同じ境遇の仲間達との記憶だけ。日常生活が送れる程度の知識や感情は残っていたが、それも自律型兵器の思考ルーチンが、自律行動する為に参照する参考情報として残されていたに過ぎない。
だからこそ彼女は、全てを与えてくれた薙原晶を慕っていた。他の義妹達も同じだ。人並以上の生活。十分な教育。生活に不便は無いかを気にして、小まめに話を聞いてくれたりもした。1人でも大変だっただろうに、8人全員だ。お陰で同じ境遇の仲間達と笑い合えるようになり、学校にも通えて、友人もできた。暗い過去を幸せな記憶で塗り替えてくれた。どれだけ感謝しても足りなくて、想いは募って、でもクロエお義姉ちゃんが一番先と皆で決めていたから我慢して、お義姉ちゃんが一線を超えた後はあっと言う間だった。
世間一般的には爛れた関係だろう。だが真理は悪いと思うどころか、これで良かったと思っていた。もし同じ境遇の仲間達と
だからこそ思ってしまう。このままじゃいけないと。
真理は居間のソファでクッションを抱き抱え、天井を見上げる。
お義兄様は全てを与えてくれたし、これからも与えてくれるだろう。普通の生活を送って欲しいと言っていたから、安穏と過ごしても変わらず愛してくれるかもしれない。でもそれは、真理自身が嫌だった。これだけの事をしてくれたのだから、何かを返してあげたい。あの人の役に立ちたい。
仲が深まる程にそう思うようになったが、
ソファにコテっと倒れ込む。
無事に高校を卒業して4月から大学生になったので、ある程度の時間は確保できる。何かをする為の準備期間としては丁度良いと思う。でも何を、どうすれば良いのかが分からない。何せ今のお義兄様は、束博士と共に地球文明を牽引していく立場だ。役に立つのなら、最低でも世界に影響力を行使できるレベルが必要だろう。
余りにも規模が大き過ぎて、出来る訳がないと思考停止してしまいそうになる。しかし同時に湧き上がる諦めたくないという思いが、真理を突き動かしていた。
手札を、可能性を、1つずつ検証していく。
まず個人で何か出来るだろうか? お義兄様は学校に通わせてくれた以外にも、幾人かの家庭教師をつけてくれていた。高卒レベルの一般教養。幾つかの言語。弦楽器とピアノ。上流階級のマナー。暴漢程度なら対処できる護身術。他にも幾つかあるが、どれも個人で生活していくのには役立つが、世界に影響力を行使できる何か、ではない。また強化処置を受けているのである程度の能力的な土台はあるのかもしれないが、あくまで土台であって必要な知識やスキルは自分で学んでいかないといけない。
個人以外ではどうだろうか? 可能性があるとしたら、義妹全員で話し合って設立して大株主となっている“アースレポート・コーポレーション”*2だろう。お義兄様や束博士の活動を支援する為の会社で、主な仕事内容は地球の地域ごとの一般常識や文化といったものをデータベース化して、宇宙人が地球の事を理解し易くする、というものになっている。そしてお義兄様と束博士が豊富な立ち上げ資金を出してくれたお陰で、多くの人を雇い人海戦術でデータベース化作業を進める事が出来ていた。結果は会社のホームページで公開されているが、まだ宇宙人さんが使ってくれているという話は聞こえてこない。しかしビジネス界隈で重宝されているという話は聞こえていた。加えて多くの国に人を送り込んでいる関係上、とても多くの取材情報が集まっているので、豊富な情報に裏打ちされた信憑性の高い記事という―――会社の活動的な意味で―――副業は、有料記事であるにも関わらず多くの購読者がいた。
だがこれらは“アースレポート・コーポレーション”の活動で、会社を実質的に動かしているのはお義兄様が連れてきた社長なのだ。そしてお義兄様の連れてきた社長が、方針を違えるとは考え辛い。経営で失敗するとも考え辛い。つまり冬祭真理が、何かをしている訳ではないということ。義妹全員で会社の発案をした以外は、特に何もしていない。
大株主として会社の運営方針を監視するという役割はあるかもしれないが、違う。そうじゃない。もっと、直接的に、役に立ちたいのだ。
「………………」
暫し目を閉じて、考えを纏める。
現実的に何かの役に立ちたいなら、多くの情報が集まる“アースレポート・コーポレーション”を使う以外に無いだろう。しかし情報というのは扱いを誤れば、容易く大惨事を招いてしまう。扱いを学ぶ必要があった。
こう考えた真理は他の義妹達とも相談して、後日お義兄様と話す事になったのだった。
◇
数日後、晶がマンションに訪ねてきた。
そしていつもなら皆で手料理を御馳走して義家族水入らずの団欒を楽しむのだが、今日は先に話したい事があると伝えていたので、居間に晶と義妹8人の計9人が揃っていた。
「さて、お前達が話したい事っていうのは何かな?」
ソファに座る晶の問いに、発案者である真理が答えた。
「お義兄様、私達は情報の扱い方や分析、活用方法を学びたいと思っています。その為に、誰か先生となるような人を紹介して欲しいと思っています」
「………まずは、そう考えた理由を聞こうか」
「はい。お義兄様は私達に、全てを与えてくれました。恐らくこのままでも、私達は苦労なく生活していけるでしょう。でも与えられるだけ、貰うだけというのは嫌なんです」
クロエをちらりと見て続ける。
「クロエお義姉ちゃんはISパイロットという道を選んで役に立てるようになりました。でも私を含めて他の7人は、まだ何も選んでいません。そしてみんなで色々考えました。私達は将来どうしたいのか、どうなりたいのか。みんな一緒でした。お義兄様の役に立ちたいんです。じゃあどうやって? もうお義兄様の周囲には、武力もお金も権力もある。今更私達が同じ方面で役に立とうとしても、今いる人達とぶつかってしまう。だから考えたんです。情報という方面でならって。そして幸いな事に、私達には“アースレポート・コーポレーション”という多数の情報が集まる会社があります。でも情報を的確に分析して扱えるようになる為には先生が必要で、お義兄様の立場を考えれば、下手な人には師事できません。だからです」
晶は暫し沈黙した後、口を開いた。
「なるほど、な。お前達も色々と考えていたんだな。じゃあついでに、俺の方も白状しよう。正直な、迷っていたんだ。お前達に普通の生活をして欲しいと思っているのは前に話した通りだが、俺の今の立場を考えれば、もう世間一般の普通の生活なんて無理だろう。でも荒事や人の………悪い面を見続ける事になる裏側の仕事なんてさせたくない。だから7人が大学に行ってくれて、とりあえず問題を先送り出来たなんて思ってしまった。すまないな。こんな風に言わせてしまって」
晶が7人と言ったのは、クロエが既に選択を済ませていたからだ。そして下げられた頭を見て、義妹達は慌ててしまった。真理が口を開く。
「あ、謝らないで下さい。お義兄様が引き取ってくれたから、私達はこうやって選択する機会を得られたんです。だからお義兄様に非なんて、何一つありません」
「そう言って貰えると助かる。そして、そうだな。お前達の考えは分かったから、すぐに手配しよう。ただし、大学の方も疎かにはしないこと。情報を扱うには、基礎教養も大事だからな」
晶は尤もらしく言ったが、これは義妹達が大学を中退しないようにする為であった。尊敬してくれて役に立とうと思ってくれるのは嬉しいが、彼女達の話を聞いていると、役に立とうと思う余り中退してそちらに専念しかねない。なので先に釘を刺しておいたのだ。
「分かりました」
真理が答えると、他の義妹達も肯く。
これを見て、晶が首を傾げながら言った。
「あれ? もしかしてクロエもやる気なのか?」
「え? お義兄様。もしかして私だけ仲間外れなのですか?」
「いや、大変だろう。部門の仕事、結構ハードだぞ」
クロエが配属されている異常気象対応部門の仕事は、部門名の通り異常気象に対応する事だ。そして異常気象への対応は、デスクワークではない。現地に行かなければならない。このため1週間の移動距離が4万キロ(地球一周)を超える事も珍しくないのだ。
住環境に配慮された専用輸送機*3が使えるとは言え、常に長距離移動を強いられるので体力的には大変なはずなのだ。が、クロエの返答は違っていた。
「お義兄様。部門の仕事は各国に赴く関係上、現地情勢の把握は必須です。プロフェッショナル程の分析ではないにしても、ある程度は自分で出来た方が、仕事も安全に行えるようになるでしょう。それにあの輸送機の中でしたらデスクワークも出来ますし、ベッドで休む事もできます。入社したばかりの新人ですが、部門の仕事に不備は出しません。なので、ダメでしょうか」
確かにクロエの言う事にも一理ある。他の義妹達と違いISの思考加速があるから、割ける時間が短くても学習そのものは問題無いだろう。だが二足の草鞋のような状態は、本人すら気付かない内に肉体的・精神的に疲労させる可能性がある。こう考えた晶は条件を出した。
「クラスメイトの皆には言っているが、しっかりリフレッシュできる時間は作ること。カラードはホワイトな職場なんだから、有休休暇も消化すること。根を詰めているなんて報告が上がってきたら、上がってきてなくても俺が行った時に厳しそうだったら止めるからな」
「大丈夫です。義妹一同でお義兄様と会う時に、私だけ心配されるような無様は晒したくありません」
「言ったな」
「言いました」
「分かった。簪にも話は通しておく」
「ありがとうございます」
そしてクロエとの話を終えた晶は、義妹全員に言った。
「お前達が俺の役に立ちたいと思ってくれるのは嬉しく思う。ただ、1つだけ約束してくれ。情報の扱い方を学んで、そして多くの情報に触れていけば、使い方によっては容易く他人を破滅させられる情報が沢山ある事に気付くだろう。そして、それも情報の扱い方の1つだ。俺は元々物理的な暴力を扱う人間だが、こういう立場になってからはその手の情報を扱う事も増えた。だが、な。俺はお前達にそういう事をやって欲しくない。俺がお前達を引き取ったのは、誰かを破滅させる為じゃないんだ。だから情報を扱うなら、日々を普通に生きている人が助かるような、或いはフェイク情報に苦しんでいる人が助かるような、そんな扱い方をして欲しい。厳密な意味としては違うが、ホワイトナイトのような感じだな」
正しい意味でのホワイトナイトとは、企業の買収防衛策の事を言う。敵対的買収を仕掛けられた企業が、新たな
晶は義妹達を一度見回してから、言葉を続けた。
「あとは、そうだな。情報を扱っていけば、死んだ方が良いゲス野郎が沢山いる事も分かるだろう。そしてホワイトナイトのような活動をしていれば、障害と認識されてお前達自身がターゲットになる事もあるだろう。物理的な意味でも、情報的な意味でも。いや、だろうじゃないな。確実にあるから、そんな時の対処方法も学んでいかないといけない。それが情報を扱うっていう事だ。そして繰り返しになるが、もう一度言っておく。俺はお前達に、誰かを破滅させるような事を仕事とする人生を送ってほしくない。だからな。ブラックオプス………って言ったら分かり辛いか。非合法作戦を許す気はない。自衛も反撃も、あくまで真っ当な手段でやってくれ」
晶はここまで言って暫し迷い、一番始めだからこそハッキリ言葉にしておくべきと考えて言葉を続けた。
「俺の経験上な、非合法作戦っていうのは実行よりも証拠を残さないで活動する方が遥かに大変なんだ。注目されている人間がやろうとする程に難しくなり、誰かを使えば使った人間そのものが証拠となる。対処を誤ればそれ自体が弱みになり、それをカバーする為に更なる非合法作戦が必要となり、気付けば………そうだな。あえてこう言おう。お前達を生体パーツにしようとした奴らと、同じような事を平然とする人間になっているかもしれない。だからしつこいくらいに言わせて貰うが、情報を扱うようになっても、非合法活動を認める気はない。俺はお前達に、日の光の当たる道を歩いて欲しいと思ってる」
すると義妹達は互いが互いの顔を見て肯き、発案者である真理が答えた。
「私達はお義兄様に助けられて、生かされて、新しい人生を貰いました。そのお義兄様がここまで言ってくれている事です。必ず守ります」
義妹全員が晶をしっかりと見つめている。数瞬視線が絡み合い、晶は思った。不安が無い訳ではないが、本人達が選んだ道を捻じ曲げるのは違うだろう。もし表の道を外れて仕掛けてくるような輩がいたら、その時はこの世の理不尽を教えてやれば良い。誰の身内に手を出そうとしたのか教えてる。
「分かった。じゃあ、続きは飯でも食いながら話そうか。ちょっと腹が減ってきた」
少々真面目過ぎる雰囲気になってしまったので、晶は敢えて軽い口調で言って、義妹達と一緒に夕食の準備を始めたのだった。
◇
そうして皆で家庭的な夕食―――白いご飯、ハンバーグ、サラダ、果物というほんっとーーに普通のメニューである。―――を囲みながら、晶が口を開いた。
「取り合えずお前達が情報の扱いを学ぶ場として、カラードに広報企画室ってのを作ろうと思う。活動内容は読んで字の如くカラードの広報を企画する部屋で、表向きアルバイトって形でそこに所属させて、雑用をしてもらっている事にしようかな。で、カモフラージュの為に雑用はしてもらうけど、その部屋に俺が情報戦でよく使っている人間*4を向かわせるから、色々教えて貰うと良い」
因みにカラードの事情として、今現在に至るまで広報を専門とする部署というのは存在していなかった。小さい発表であれば各部門が直接行い、大きい発表であれば晶や束が直接行い、社のホームページやそこに掲載する情報は秘書室が管理していたからだ。
会社が小さい時はそれで問題無かったが、カラードが大きくなるにつれて広報にもある程度の手間をかける必要が出てきた。そのある程度の手間が今ではとても大きくなり、各部門本来の仕事を圧迫しているのだ。このため各部門の負担を軽減するため、広報専門の要員を配置しようと考えていたところに、義妹達の話である。
真理が心配そうに尋ねてきた。
「あの、お義兄様。場所を用意してくれるのは嬉しいのですが、カラードで本当に良いのですか? 義妹の私達をアルバイトとは言えカラードで働かせたら、お義兄様が何か言われてしまうのでは?」
権力者が身内を身贔屓するのは、最も叩かれる行動の1つだ。そして今までアルバイトを雇った事のないカラードがアルバイトを雇った。しかも義妹という身内。カラードの躍進を快く思っていない人間は、ここぞとばかりに叩きにくるだろう。
だが晶の考えは違っていた。
「下手に何かを隠そうとしたり、例えば………そうだな。世の為人の為に、なんて正論を前面に押し出したら真理の言う通り、ここぞとばかりに粗探ししてくるだろうな。だから逆に、義兄馬鹿を前面に押し出した突っ込みどころ満載のネタを用意してやろうと思ってる」
「えっと、それは?」
「義妹がアルバイトしたいって言ってるから、働く場所を用意した。以上」
「ちょっ!? お義兄様!! それでは本当に義兄馬鹿じゃないですか!! 世間一般からなんて言われるか」
「俺がお前達を大事にしてるのは周知の事実だし、正論過ぎる正論ってのは逆に反感を買うんだ。だけどこれなら俺の我が儘で済むし、余りにもしつこいようなら、こう言ってやろうと思ってる。俺の義妹達が安全に働ける場所を、何処の、誰が用意出来るんだって」
客観的に考えて、普通の企業には無理だ。
そして一度言葉を切った晶は、話している最中にふと思った事を義妹達に尋ねてみた。
「ところでさ、アルバイト扱いだから私服で仕事をしても良いと思うんだけど、それだと周りはみんな制服だから浮いちゃうと思うんだ。お前達が良いなら制服を用意するけど、どうする? 勿論アルバイトって事が分かるようにネームプレートは着けてもらうが」
「「「「「「え?」」」」」」
クロエを除く義妹達が一斉に、同じ声を上げて晶を見た。
「「「「「「良いんですか!?」」」」」」
ずずいっと義妹達が身を乗り出して迫ってきた。余りの圧に、晶の方が一瞬固まってしまう。
「お。おおぅ。うん。良いぞ」
これは制服を着ている者と着ていない者の認識の差だった。
まず単純な話として皆、カラードに就職した
そして世間一般的にも、カラードの制服というのは非常に認知度が高い。袖を通したいと思ってしまうのも無理からぬ事であった。
だから義妹達は喜んだのである。
あと、お義兄様は“制服好き”なのだ。夜戦用装備が増える事を喜ばない義妹はいない。
こうしてクロエを除く義妹達は、カラードに新設される広報企画室でアルバイト――――――という名目で情報の取り扱いを学ぶ事になったのだった。
◇
後日。カラードに広報企画室が新設された。
そして晶は会見で義妹達に言っていた通りの事を言い、多くの者は「英雄も人の子」「義兄馬鹿」等と言っていたが、情報通の評価は全く違っていた。何故なら初代室長に任命された者が、明らかに本気の人事なのだ。
室 長:
副室長:マリー・インテル*6
表向き2人の経歴に特筆すべきものはない。精々が普通のエリートウーマンだ。しかし知っている者は知っていた。この2人は束博士や薙原晶の行動を、交渉という側面から支えたネゴシエーションのプロなのだ。当然、情報の扱いには精通している。因みに2人の手法は対照的で、皇女流は徹底的なリサーチと理論武装で相手に要求を呑ませるタイプで、マリーは相手の感情を誘導して要求を呑ませるタイプだ。このため2人がコンビを組んだ時の交渉成功率たるや恐ろしいものがあった。理論的にも感情的にも、いつの間にか納得させられているのだ。
そしてドイツにしてみれば、室長になった皇女流はトラウマ級の相手でもあった。何故ならドイツは過去に、彼女に保有衛星群の最優先アクセスコードを交渉でもぎ取られるという大敗北を喫している。国が、交渉でぐうの音も出ない程、完璧に負けたのだ。あの時関わった者達は、トラウマで震えているだろう。
そんな2人を前に、制服に着替えた義妹達が立っていた。クロエも時間を作ってこちらに来ている。
―――
義妹の1人、
ありがとうございます!!
イラスト
イラスト
イラスト
他にも何枚かありますので「よその子 某二次創作より」でグーグル検索して頂ければと閲覧可能です。
―――
広く清潔感のあるオフィスで、義妹達の前に立った
「貴女達が社長の義妹さん達ね。話は聞いているわ。そして、そうね。私は一から十まで手取り足取り教えてあげる気はないわ。社長の為に何かをしたいというなら、貴女達から何か案を持ってきなさい。それに対する助言や分析という形で教えていってあげる。あと、それはそれとして聞いてはいると思うけど、アルバイトとしてもこき使ってあげるから精々頑張りなさい」
並んだ義妹達の一番右端にいた真理が、早速と動いたのだ。
「それでしたら、早速ですがコレを見て下さい。皆で作った広報の計画です」
「あら、意外ね。箱入り娘のお嬢様のように大切にされていたみたいだから、口を開けて待っているだけかと思っていたのだけど」
「だからこそです。私達が安穏としていては、それだけでお義兄様の名に泥を塗ってしまいますから」
「良い心がけね。じゃあ、早速1つ教えて上げる。―――此処でお義兄様というのは止めなさい。貴女達の思いなど関係無く、社長の身内である事を強調するその言い方は、それだけで人に不快感を与えかねない。プライベートではどう言おうと構わないけど、少なくともその制服を着ている間は止なさい。良いわね」
「はい」
他の義妹達も肯いていく。
「宜しい。今内容を確認するから、少し待っていなさい」
そうしてメモリーステックのウイルスチェックをしてから内容を開いた
「マリー、ちょっと良いかしら」
「どうしたの?」
「これを見て。どう思う?」
マリーが眼前に展開された空間ウインドウに視線を走らせていく。
「へぇ。これで初めてというなら、私達が面倒を見る価値もありそうね。良いんじゃない。手直しして使ってあげましょう。―――あ、でもダメね。私達が手直ししたら教育にならないもの。どうする? ちょっと助言して、自分達で手直しさせてみる?」
「そうね、ちょっとヒントをあげれば面白いものになりそうだわ」
今出された広報案は、義妹達が大株主となっている“アースレポート・コーポレーション”の取材情報が元となっていた。各国に派遣している記者達が持ち帰った情報である。とは言っても何か凄い機密情報があるという訳ではない。新聞のコラムの片隅に載るような、些細な疑問点や知りたいと思っている人が多そうな事柄を集めてピックアップして、多くの人に周知していくという一見すると非常に地味なものだ。
しかし、目の付け所は悪くない。寧ろ良い。何故ならインパクトのある情報というのは派手で見栄えも良いが、聞いた側にそれを受け入れる土台が無ければ、情報戦として上手く機能しているとは言い難いからだ。素人はその辺りを分かっていなくて、例えばSNSで見栄えのするような情報を扱いたがるが、違うのだ。情報戦において本当に強いのは、そういう奴らが見る情報の出元を握ることだ。ふわっとした情報は、同じようにふわっとした、どうでもよい情報に押し流されてしまう。が、情報の出所を握っていれば違う。簡単に言えば情報の強度が違う。
「そうね。3日後までに手直しして持ってきなさい。それを使って人の動き社会の動き、情報が影響を与える様々な事柄の動きをレクチャーしてあげるわ。で、私としてはそれに集中させてあげたいのだけど、ごめんなさいね。社長の御命令で、貴女達には色々な雑用をさせてあげないといけないの。色々とこき使ってあげるから覚悟しておきなさい」
こうしてクロエ以外の7人の義妹達は、新設された広報企画室でアルバイトとして働き始めたのだった。将来情報を扱うスペシャリストになる為に、自分達で考え、選び、その第一歩を踏み出したのである。因みにクロエは専用機を持つ異常気象対応要員という責任ある立場なため、所属部門に迷惑をかけない程度に、今後はオンラインで参加する方針となっていた。
◇
カラードに広報企画室が新設されて暫しの時が経った頃。
アルバイトに来ている義妹達は短期間の内に馴染んでいた。社長の義妹という事で他の社員達が気を使ってくれたのもあるだろうが、彼女達自身も馴染もうと積極的に雑用を手伝い、仕事を覚えていったからだ。
お陰で今では―――。
「真理さん。これ纏めておいて」
「はい」
「ローズさん。発表原稿ちょっと長いから、少し削って」
「わかりましたー」
「比奈さん。頼んでおいた資料は?」
「ここにあります」
「アスィーリアさん。次の会場は?」
「手配済みです」
「唯乃さん。追加人員はどう?」
「何処も厳しいみたいで、これから次のところに電話します」
「リルナさん。自称専門家さんへの対処は?」
「対抗発表を別の専門家に依………今、OKの返答が来ました」
「アルベさん。撮影の手配は?」
「バッチリです」
等々。凄まじい勢いで振られる雑用を片っ端からやっつけていた。
新設されたばかりで人手が少ないというのもあるが、立派な戦力である。
そうして仕事が一段落した午後3時頃。広報企画室には奇妙な文化(?)が出来始めていた。3時のティータイムである。
女性しかいない職場―――義妹がいるので男の配置を
なのでアルバイトの義妹達が皆にコーヒーや紅茶、あとちょっとした御菓子を出して、小休憩のお喋りタイムに突入していく。
そして女性しかいない職場だけに、男がいる時には決して出てこない一面がチラホラ出て来たりもする。
―――ピラッ。
「おおぉ~。今日は黒。しかもローレグで割と小さめ。真理ちゃんって顔に似合わず結構攻めたの履くよねぇ」
社員の1人が、真理が横を通った時にスカートを捲ったのだ。しかも掴んでしっかりと。お陰で他の人達から丸見えである。
「キャッ、もう。また何するんですか」
手にしていたトレイで前を、空いている片手で後ろを隠すが、スカートは捲られてままなので、むしろもっとエロい見え方になっていた。丸見えよりも微妙に見えている方が、というヤツである。
因みに“また”という言葉通り、彼女は今まで何度も被害にあっていた。初めの内は何とか逃げようとしていたのだが、どう逃げても捲られてしまうので、今では“捲られる事は”諦めている。が、被害者が自分だけというのは不公平だろう。義姉妹は何事も平等に、だ。
「なんでいっつも私ばかり捲るんですか。ローズもミニスカートで捲り易いじゃないですか」
義妹の1人であるローズ・ピニラス*7は、豊かなピンク色の髪に蠱惑的な微笑み。ボディラインは男好きするメリハリの利いたものであり、清く正しくというよりは男も女も手玉にとる悪女のような雰囲気がある。義妹というよりは義姉というイメージが先にくるだろう。
だからだろうか、容赦なく身内を売り払おうとするが、目論み通りにはいかなかった。
「え~、だってローズさんにやったら、もっと見ても良いですよって恥じらいも何も無いんだもん。むしろ見せつけてくるし、下着だってイメージ通りだし、面白くない」
「え~~、なら唯乃は?」
同じく義妹の1人である
「あっちは、こう、なんて言うか。汚しちゃいけない的な雰囲気っていうか」
「酷い。私は良いんですか?」
大袈裟に泣き真似をするが、返答は無情だった。
「真理さんって末っ子みたいな雰囲気があるから、ついつい弄りたくなっちゃうんだよね~。それにこう、顔と下着のギャップが良くって。私スカート捲るまで、クマさんパンツ履いてると思ってたもん」
「でも捲って良い事にはなりません」
「ごめんごめん。今度から気をつけるから。あ、お詫びに、私の見ても良いよ」
ピラッと捲られるスカート。中々急角度に切れ上がっているピンク色だった。
男が職場にいないからこそのお下品トークである。が、何事にもトラブル、例外といった事は存在する。そしてこの会社には、何処にでも出現する社長がいるのだ。
「―――
社長がオフィスのドアを開け、すぐにパタンと閉じて去っていった。
何とも言えない微妙な沈黙がオフィス内に流れる。
「え゛、ちょっ、待って、ちょっと待って。今のって、もしかして私社長に変な人って思われた。職場で自分のスカート捲って見せてる変な人って思われたの!?」
思われたというか、事実そのままである。
真理はこれ幸いと反撃を開始した。
「思われたんじゃないですか。だってオフィスの真ん中で、自分でピラッて持ち上げてる瞬間を見られてましたから」
「え、ええ~~。そんなぁ」
先輩社員がガックリと項垂れる。だが彼女は前向きだった。
「ま、まぁ社長はちゃんと仕事で判断してくれる人だから、うん。お仕事頑張れば良いだけだから」
「ついでに品性も磨いた方が良いと思います」
真理のチクッとした口撃に、先輩社員はジト目で言った。
「言うわね」
「勿論です」
「でもお生憎様。これが私なの。だから、これからも捲るね」
「前言撤回まで早過ぎませんか?」
「気をつけると言っただけだから、嘘はついてないわ」
「そういうのを詐欺って――――――」
「えいっ!!」
真理の両手がスカートのガードから外れた瞬間、先輩社員は両手を使ってスカートをバサッッッッと捲り上げた。盛大にスカートの裾が舞い、中身が露わになる。黒いローレグタイプだ。出ている所は出て引っ込むところは引っ込んでいるとても発育の良い真理が履いていると、同性から見ても
これには、温厚な真理の額にも青筋が浮かんだ。
「………先輩。同じ事をしてあげます!!」
先輩のスカートを同じようにバサッッッと捲り返すと、急角度に切れ上がったピンク色がもう一度露わになる。
こうして時折お馬鹿をやりつつも、広報企画室の一日は過ぎていくのだった。
◇
少しだけ未来のお話。
こうして広報企画室で経験を詰み情報の扱い方を学んでいった義妹達は、“アースレポート・コーポレーション”に集まる情報を上手く扱い、情報という側面からカラードの行動を支えていくようになる。またお義兄様に望まれた通り、情報を武器として困っている人達を助けるホワイトナイトのような活動も行っていった結果、義妹として恥ずかしくないだけの地位や影響力を手にしていく事になるのだった。
因みに義妹達の部屋には今でもカラードの制服が残っており、時折袖を通しているという。
イラストを貰って嬉しさの余り番外編を書いてしまいました。
作者的にも義妹ちゃん達の進路というか進み方をどうするか悩んでいたところもあったので、制服のイラストは二重の意味で有り難かったです。
そして今回新設された広報企画室の雰囲気は、室長&副室長はすっごい出来る人達ですが、部下は(仕事はできますが)良い意味でお馬鹿が揃っています。スカート捲りの先輩はその最たるものかと。(笑)
-追記-
後からイラスト一枚追加しました。