インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
だが、全てが一気に変わった訳ではない。世の中には一般人の方が圧倒的に多いのだ。農業を営む者は畑に出て、店を営む者は店を開け、共働きの夫婦は子を預けて働きに行き、人が動けば物流が動きインフラが動く。そして学生は学び舎に行き、教師は教壇に立つ。
表向きは、いつも通りの日常が繰り返されていく。
―――IS学園。
体育の授業で持久走をしている最中、晶はコアネットワークを使い一夏と内緒話をしていた。
(しっかし毎回思うけど、眼福な光景だなぁ)
(言えてる。前、
彼らは恋人が複数人いるという恵まれた男達だが、目の前でスタイルの良い美少女達が走っているとなれば、色々な部分を注視してしまうのも仕方が無いだろう。しかも女生徒達の体育着はブルマーだ。IS学園らしく最新の素材が使用され下腹部の冷えを防ぐと同時に柔らかな布地で運動性も確保されているが、大殿筋保護部の定期的なポジション調整が必要という問題点は未だ克服されていない。つまり指でクイッと直す仕草が見られるのだ。これを眼福と言わずして、何を眼福と言うのか!!
更に言えばIS学園が採用しているブルマーには、クラシックタイプと呼ばれる従来型の他に、ハードサポートタイプと呼ばれるものもあった。伸縮性の少ない生地で筋肉をサポートすると同時に、露出面積を上げて放熱効率を高める事を目的としたタイプらしい。
(だろうな。こんな光景、他じゃ見られないもんな。その友達に、誰か紹介してくれとか言われなかったのか?)
(お約束のように言われたさ。断ったけど。でもそれだけってのもアレだから、学園祭の招待チケットを渡した)
(あ、そう言えば、もうそんな時期か)
IS学園の学園祭は、知名度・規模・動員数・話題性の全てにおいて、他の学校の学園祭とは一線を画す一大イベントだ。
何せ普段は機密というヴェールに覆われて、一般人の立ち入りが制限されている場所に入れるのだ。加えて中にいるのは、アイドルなど歯牙にもかけない美少女ばかり。世間の野郎共が興味を持つのは、極々自然な成り行きだろう。
(そう。そんな時期。クラスの出し物。何提案しようか?)
(ノーマルな、極々普通な、普通の出店を提案しようと思ってる)
普通をやたらと強調する晶。
これには彼の
(賛成。でもなんかインパクトが無いと、多数決で押し切られちゃうかもしれないな。何か良い案ないかな?)
(ふっふっふっ。心配するな。ちゃんと考えてある)
(お、どんなの?)
(去年は教室でやっただろ。だから今年は、学園入り口付近で出店をやろうって持ち掛けるのさ。イメージ的には海の家みたいに、砕けた感じになるように持って行こうかなって)
(なるほど。その雰囲気なら、メイド&執事喫茶って雰囲気にはならないな。なら、そうだな………その雰囲気なら、俺は屋台で料理するおじさん役でもやろうかな)
(手ぬぐいでねじりハチマキして、法被着てか?)
(そうそう)
(いいなそれ。一緒にやっていいか)
(勿論。2人でヤキソバ焼こうぜ)
(あとお好み焼きも欲しいな)
(ソーセージも外せないよな)
(良いね。らしくなってきた。じゃあ後のメニューはクラスで考えるとして、女子連中の服装はどうしようか?)
(全員でさ、短パンTシャツ法被、ねじりハチマキで合わせたらどうかな?)
(お揃い感あっていいな。どうせなら市販品じゃなくて、クラス全員分合わせて作るか)
(予算足りるのか?)
(ブランドもので揃える訳じゃあるまいし足りる足りる)
IS学園の学園祭予算は、他校に比べてかなり潤沢に用意されている。普通の出し物を行う限り、足りなくなるという事はまず無い。
そんな話している間に持久走は終わり、クールダウンの時間となった。
全員徐々にペースダウンし、最後のストレッチは効果的に筋肉をほぐすため、2人1組で行われていく。至って普通の事だが、2年1組にはローカルルールがあった。一夏と晶の相手は毎回必ず変わり、かつ一度組んだ者は他の者を優先しなければならない、というものだ。
何故こんなローカルルールが出来たのかは、男2人がどれほどの優良物件かを考えれば分かるだろう。接触を多く持ちたいのは、クラス外の子達だけではないのだ。
勿論、授業中であり如何わしい事は何もない。
例えば仰向けになった女生徒に片足を上げてもらい、ゆっくりとお腹側に押していくストレッチがある。これによって太もも裏、ふくらはぎ、アキレス腱を伸ばしていく。人体の仕組みに基づいた真っ当な行いだ。大きく足を上げる事によってブルマーが食い込み、ちょっと際どい部分まで見えるかもしれないが、ただの偶然である。
例えば相手の後ろに立って肘を掴み、膝を背中に優しく添えて胸を開いていくストレッチがある。男は斜め上後方から見下ろす形になるので、胸を反る事によって強調される胸部装甲がとても美しく見える。ついでに汗でスポーツブラが透けて見えちゃったりするが、これもただの偶然である。
偶然が多い気もするが、故意ではない以上全て偶然というしかない。体育の授業の度に偶然が起きているかもしれないが、偶然である以上、見えてしまうのも仕方が無いのだ。
なので晶はこれ幸いと、毎回毎回眼福な光景を楽しんでいた。恋人が複数人いるという恵まれた男だが、偶然見えてしまったものは不可抗力だろう(なおクラス内の恋人達はクラスメイトの意図に勿論気づいていたが、既に関係を持っている事もあり「まぁ仕方ないわね」と見逃していた。むしろ、いつお仲間が増えるのかと思っている節すらあった。心の広い恋人達である)。
そんな中、今日の相手である
「ねぇ晶くん」
「ん?」
「私達ってどうなるのかな?」
「道を変える気が無いなら、今は日々を頑張れとしか言えないな」
「変える気は無いけど、でもやっぱり不安だよ」
「それは分かる。色々考えちゃうのも仕方がない」
これは無理からぬ事だった。
今ISパイロットになるという事は、
「今出来る事って、あるかな?」
「そうだな………」
晶は暫し考えた。
恐らく彼女の頭の中には、アレもコレも沢山やらなければ生き残れないという不安が渦巻いているのだろう。だが彼は、あえて新しい目標は提示しなかった。
何故ならIS学園にいるのは選び抜かれた子達だ。必然的にカリキュラムもそれに合わせられている。放課後の訓練に加えて更に何かを増やせば、本人のキャパをオーバーしてしまう可能性の方が高い。なら今行なっている事を更に磨き上げた方が、恐らく本人の為になるだろう。
「俺が思うに今やっている事を磨き上げた方が、恐らくあかりんの為になると思う。応用ってのは基礎があってこそだからな。だって、放課後の訓練であかりんも思った事ないか? 単純に機体制御が上手い。適切なタイミングで援護が飛んでくる。距離に合わせて武器が使い分けられている。どれも基礎的な事だけど、相手にするとキツイだろ」
「うん」
「で、それらを合わせて相手の長所を潰して、こちらの長所を最大限活かせる状況をつくる。
戦いとは極論的に、相手の長所を潰して嫌がる事を徹底的にやってやれば良いのだ。これは人が相手でも、異文明の化け物が相手でも変わらない。
「そっか。晶くん。ありがとう。少し落ち着いた」
「良いってことさ。あと、そういうあざといのはちょっと早いかな」
今あかりんと行っているのは、仰向けになって貰っての足上げストレッチだ。ちなみに晶が足をお腹側に押す方である。
その最中に何故かシャツが少しずつ捲れて、可愛いおヘソが見えていた。もう少し捲れたら、ブラの下側のラインも見えてしまう。
「ダメ?」
「ダメ。自分を安売りしないの」
「は~い」
返事はあるが服は直されていない。
むしろストレッチの合間に「う~ん」と両腕を上げて伸びをして、シャツが上にズレるようにしていた。
完全に確信犯である。
「ったく、頼むから
彼女と
そしてハウンドの行動は首輪により、全て晶に筒抜けになっている。だからこそ知っているのだが、あいつらは彼女達が聞きたがっている賞金首狩りの話を、当たり障りの無い範囲で話しつつ、時折女の武器を使ったアレとかソレとかコレな話も一緒に聞かせていた。
特に昔男に貢がせていたユーリアの話は強烈で、将来彼女達が悪女にならないか非常に心配である。ちなみにエリザからはドレスやランジェリーの着こなしテクニックが伝授され、ネージュはついこの間まで処女だったので、相手が誰とは言わないがご奉仕系の話が多かった。
「良いの。私が毒されたいって思ったんだから」
「良い事じゃないと思うぞ」
「じゃあ言葉を変えるね。積極的になった方が良いって思ったの」
「方法が色々あるだろう。もし俺が勘違いな下衆野郎だったらどうする気だったんだ?」
「晶くんは違うって分かってるもん。それにエリザさんも、ユーリアさんも、ネージュさんも、みんな晶くん相手だったら幾らやっても大丈夫って言ってた」
会話は筒抜けだったので知っているが、こうして言われると妙にこそばゆい感じがする。
というかあいつら、なに焚きつけてんだよ!! クラスメイトに上司の理性を削るような真似させんな!! とりあえず、後で鳴かす(誤字にあらず)。脳裏にお仕置きの方法を一通り思う浮かべたところで、晶はふと思った事を尋ねた。
「なぁ。かなりんも同じ話を聞いてるんだよな」
「あ、エッチ。かなりんにもこんな事をして欲しいの?」
「違うって」
「冗談だって。確かに同じ話を聞いてたけど、彼女はしないかな。顔真っ赤にしてたし。臨海学校で同じ布団に入った仲なんだから、恥ずかしがること無いのにね」
友人の予想は後日外れるのだが、それはまた別のお話である。
「あかりんは少し羞恥心を持て。あと、誰にでもしたりするなよ」
「酷い。私達がどんな目にあったかは知ってるでしょ。誰でもなんてしないよ」
「すまん。失言だった。でもこういう事ばかりに熱心にはならないでくれよ」
「分かってる。それに、同じことをユーリアさんにも言われてるの。実力以外で選ばれたパイロットなんて良い的だって」
「実力云々に関しては、あいつも良い事言うんだよなぁ」
「うん。良い言葉だと思う――――――って、そうか。簡単なことだったんだ。悩む必要なんて無かった」
「どうした?」
「ううん。何でもない。結局はさっき晶くんが言った、日々を頑張れって話に繋がるんだなぁって思っただけ」
「分かってくれたか」
「うん。ありがと」
「お喋りしただけで、大した事はしてない」
「でも今話したお陰で気付けたから良いの。ありがとうって言わせて」
「じゃあ、どういたしまして、かな?」
「うん」
こんな話をしている間に、体育の時間は終わったのだった―――。
◇
時間は進み、放課後のトレーニングが終わった後のこと。
晶は一夏だけをアリーナに残していた。
「話って、なんなんだ?」
他の全員が帰ってから、一夏は尋ねた。
今日のトレーニングで、特におかしなところは無かったはず。ラウラと戦ってもかなり良い線まで行っていた。トータルで負け越しているのは悔しいが、それでも勝ち筋が見えるくらいの接戦だったのだ。セシリアやシャルが相手でもそうだ。1年前はいい様にボコられていたが、今なら五分五分の勝負が出来る。第四世代機を使う箒や洒落にならない連撃速度を誇る鈴の相手は苦しいが、こちらはどうにか勝ち越せている。紙一重と言った感じだが勝ちは勝ちだ。あっちも努力してくるだろうが、こちらも努力して上回ればいい。簪との対戦では、どれだけこちらがダメージを負わずに、打鉄弐式の追加装甲(※1)を剥がせるかにかかってる。勝てる時はあっさり勝てるが、手こずる時は本当に手こずる相手となっていた。
そんな事を思っていると、晶が口を開いた。
「なに、お前が心配しているようなことじゃない」
「あれ? 顔に出てた?」
「出てた。何か突っ込まれるんじゃないかって顔してたぞ」
「仕方ないだろ。俺だけ居残りなんだぜ。何を言われるかドキドキしてるよ」
「まぁ、そりゃそうだな」
「だから、さっさと言ってくれ」
「分かった分かった」
ここで晶は男同士の気易い表情から一転、真面目な表情となって続けた。
「これからお前だけ、トレーニングの内容を引き上げる。具体的には放課後のトレーニングが終わった後、お前だけ1時間追加で行う」
「強くなれるならいいけど、俺だけ? 全員じゃないのか?」
「ああ、お前だけだ。理由は、予測される
「戦略? ニュースじゃもっぱら数で押す物量戦って見方が多いけど」
「確かにそれは間違ってない。実際物量戦で地球側は多大な損害を出しているからな。だがちょっと考えてみてくれ。星々の海を渡って侵略をしてくるような相手が、物量だけに頼ると思うか? 物量を覆す敵の存在を想定していないと本当に思うか?」
晶はワープゲートの向こう側で実際に見て来ているのだが、証拠となる情報を出せないため、予測という形でしか伝えられない。だが一夏は、その危険性を正しく認識してくれたようだった。表情が変わる。
「もしかして、こっちで言うISみたいな存在が敵にもいるっていうのか?」
「その可能性は高いと思っている。そしてな、だからお前なんだ。エネルギーであれば例外なく無効化してのける零落白夜なら、相手がどんな分厚いエネルギーシールドを持っていたとしてもブチ抜ける。相手の本体を直接攻撃できる。で、お前が敵の高性能ユニットを抑えられれば味方が楽になる。叩ければもっと楽になる。つまりお前の一撃が、戦局を決める決定打になり得る」
「それを確実に出来るようにする為にやるのか」
「ああ。でもその前に、ちょっとテストをしようか」
晶はニヤリと笑いながらNEXTを起動。全身装甲が、彼の身体を包んでいく。
「―――久しぶりの1対1だ。今のお前の力を見せてくれ」
待機状態にある白式、が一夏に警告を発した。
「もしかして、戦闘出力?」
「怖いか?」
「怖いさ。でもそれ以上に―――」
一夏もISを起動。純白の装甲と翼が展開し、右手に
「―――楽しみって言ったら不謹慎かな」
「気持ちは十分って感じだな。なら、行くぞ」
晶が静かに宣言した瞬間、2人の姿が消えた。
NEXTはクイックブーストで、白式は瞬時加速で、ほぼ瞬時に超音速領域に突入したのだ。
そして、このトレーニングを見ている者が2人いた。
1人は一夏の姉、織斑千冬。
1人は晶の恋人、篠ノ之束。
「………薙原から話を聞いた時はまさかと思ったが、本気だったんだな」
「晶はこの手の事で嘘は言わないよ。いっくんは次に
「随分と高く買ってくれているんだな」
「いっくんは才能の塊だって言ってた。誇って良いと思うよ。私の晶にそこまで言わせるんだから」
「…………」
「どうしたの?」
「姉としては複雑だな。ISパイロットの才能があるという事は、今は戦場に行くのと同じだからな」
「なら、止めさせる? 白式から降ろす?」
「そうしたい気持ちもあるが、やれば学園に来てからのあいつの努力全てを否定する事になる。頑張っていたのは知っている。だから認めてやりたい。だが認めた先にあるのが戦場だと思うと………どうしても、な。そういうお前はどうなんだ。箒について思うところはないのか?」
「晶じゃなくて?」
「聞いたらお惚気話になるから聞かん」
「つまんないのぉ~。色々自慢したかったのに」
「いつもしているだろう。聞かされる身にもなれ」
「なになに。羨ましいの?」
ニヤニヤしてドヤ顔の束。千冬は憎まれ口で返した。
「別に、お盛んだなと思っただけだ」
「そうだよ。一緒にお風呂入って、同じベットで寝て、晶の体温を感じながら寝るの。とっても幸せだよ」
「何回も言ってる気がするが、本当に変わったな。奴と一緒になる前からは考えられん」
「そう? ん~、ちーちゃんも男が出来たら変わるかもね」
「まさかお前から、そんな言葉を聞く日が来るとはな。――――――で、話は戻るが箒の方は良いのか?」
「勿論心配はしてるよ。でもね、箒ちゃんは晶が育ててくれてる。ISも私が作った紅椿がある。与えられる限りのものは与えたんだ。後は本人次第だよ。大体、箒ちゃんを守るのはいっくんの役目でしょ。恋人なんだから」
「そうか。なら何も言わん。後は、そうだな。幾つか確認しておきたい事がある」
「なに?」
「一夏の他に、キーになる者はいるか?」
「セシリア・オルコット。あの広域制圧能力は必ず必要になる。後は見栄えも良いから、士気を上げるっていう意味でもね。ただ本質的には遠距離型だから、能力をフル活用するなら前衛が必要かな」
「私も同じ意見だ。前衛は誰を考えているんだ?」
「晶はシャルロットやラウラと組ませる気みたい。欧州の3人で組ませた方が、何かと都合が良いって言ってた」
あの3人は欧州方面で非常に人気がある。だが人気があり過ぎるというのも考えもので、個別運用すると優劣を口にしだす馬鹿がいないとも限らない。このためチームとして運用した方が余計な摩擦を生み辛い、というのは肯ける話だった。
「だろうな。簪については何か言っていたか?」
「武器の開発、というか仕上げをお願いされたかな」
「仕上げ?」
「うん。打鉄弐式の追加武装なんだけど、火力過剰って事で開発が凍結されていた物があるの。テスト用の実物まで作られていたのにね。で、
簪が晶の女であるからこその話だった。
ただの友人関係なら、束は決して引き受けなかっただろう。
「どんなのを作ったんだ?」
「う~ん。まぁ、ちーちゃんなら良いか。これだよ」
眼前に開かれた空間ウインドウを見て、織斑先生は噴き出しそうになってしまった。
「なんだ、コレは?」
「いや~、キサラギの人も面白いこと考えるね。既存技術の組み合わせでこんなものを作るなんて。最新技術だけが全てじゃないって教えられた気分だよ」
「いや面白いって、確かに既存技術の組み合わせと言われればそれまでだが………」
コレはヤバい。何がヤバいって制圧力がヤバい
「名前は安直だけどガトリンググレネード。グレネードをガトリング砲の連射速度で発射する兵器でね。これなら既存のグレネード弾を使いまわせるから安上りだよ。基礎設計を流用してるから、ちょっと大きくなっちゃって取り回しは悪いけど」
武器データを見れば、全長は打鉄弐式の全高の三倍を超える。確かに取り回しは劣悪だろう。だがグレネードをガトリング砲並みの連射速度で撃てる、という利点は多少の欠点など補って余りある。
そしてこの武装は後に日本機の追加武装として正式配備されるようになり、絶大な火力は多くの味方を救うのだった。
―――閑話休題。
2人がそんな話をしている間に、一夏が上空から大地に向かって叩き落されていた。だが巧みな機体制御で両足から着地。それどころか膝を十分に折り畳み溜めを作り、脚部パワーアシスト機能を全開にして跳躍と同時に瞬時加速。刹那よりも早くトップスピードに乗り、
直後、
(ったく、どういう反応速度だよ。いや、純粋に読まれたか?)
思考しながらも、一夏は動きを止めなかった。
ブースター制御、四肢の動きによるAMBAC制御、全てを駆使して瞬時に態勢を立て直し、左手の雪羅をNEXTに向ける。広域拡散モードで発射。お返しとばかりに面攻撃。だが相手の動きも早い。瞬きするよりも早く眼前から消え、射角の外へと離脱していた。
(デタラメ過ぎだろ!!)
更にモード変更。連続照射モードで予測機動上を薙ぎ払う。これに対しNEXTは右手の
一夏は離脱を試みる。が、間に合わなかった。シールドバッシュで左腕を打ち上げられ、白式の胴体ががら空きになる。そこに
(ヤ、ヤバッ)
ハイパーセンサーで加速された思考が、自身の状態を正確に認識させてくれる。これを凌げば、まだ反撃の手段はある。がむしゃらにブースターを吹かし、どうにかして追撃から逃れようとする。だが相手は、この状態から逃してくれるほど甘くはなかった。
クイックブーストで距離を詰められ、再度のシールドバッシュ。立て直しかけた態勢を崩され、更に
(だけど、翼と右手は無事。まだ!!)
この程度で諦めていては、薙原晶の弟子などやっていられない。だが師匠も甘くはなかった。
「………ふむ。悪くない」
「何処がだよ。ボロボロじゃねぇか」
「雪羅を撃ったタイミングだ。俺が荷電粒子砲の中を突っ込んで来なきゃ、もう少しやれたんじゃないか?」
「ああ。アレは予想外だった」
「ああいう事をしてくる敵がいないとも限らない。特に未知の敵と戦う時は注意した方が良いな」
「オッケー。次からは気をつける。――――――よっと」
一夏が体を起こす。
「で、テストは合格? 不合格?」
「合格だ。これだけ動けてるなら、予定通りにやっても良いかな」
瞬間、一夏は嫌な予感を覚えた。
今の一戦は、一夏の中ではかなり善戦出来た方だ。
だが今、晶は何と言った? 聞き間違いでなければ、「これだけ動けてるなら、予定通りにやっても良いかな」だ。つまり今のレベルが、これからやるトレーニングの最低要求基準なのだろうか………。
「なぁ晶。なんか不安しか感じないんだが」
「はっはっはっ、安心しろ。逃げ道なんて初めっから無いから」
「それ安心材料じゃないよね!?」
「なぁに。死にはしない。――――――ってわけで束、
2人に通信が入った。
『出来てるよ~。後は機体を繋ぐだけだから、格納庫に戻って来てね』
そして今回用意されているのは、将来的に想定される戦場――――――つまり数の暴力に加えて敵に高性能ユニットが混じっているという状況だった。尤も実際に観測した敵高性能ユニットのデータは使えないのでAMIDAで代用しているが、まぁ違和感は無いだろう。
ちなみに晶はフロムのアイドルAMIDAちゃんを使うにあたり、独断と偏見で魔改造データをブチ込んでいた。
ざっくり言ってしまえば耐久力は原作の10倍程度。吐き出す酸の威力も10倍。戦闘兵器“アーマードコア”ですらスリップダメージを受ける中でも活動可能な超高熱耐性を更に上方修正。加えてエネルギーシールド完備で、倒された時の自爆範囲を拡大しているのはお約束だ。
飛行型こそ出していないが、それは後のお楽しみ、というところである。
こうして一夏のトレーニングは、新たな段階に入ったのだった――――――。
※1:打鉄弐式の増加装甲
本作の打鉄弐式は原作と違い、
追加装甲の着脱によって重装甲砲撃戦と高速格闘戦と言う
全く異なる二つの戦闘スタイルを両立させた異色の機体
となっています。
第150話に続く
如何でしたでしょうか?
IS学園にいる男2人の体育シーン。こいつら羨ましいぜ!! と思って頂けたなら嬉しい限りです。
そして後半は一夏の超強化フラグ。というか実際ガチで使えるようになって貰わないと、次回の来襲時にかなりキツイ事に………