インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
あと今回のお話し、本音ちゃんのファーストミッションとするにはちょいとアレなので、前回のサブタイを中編から後編へと変更しました。
そして今回、内容は完全にタイトル通り。
お楽しみ頂ければ幸いです。
薙原晶は思い出していた。
自身が身に纏う物の歴史を。
―――アーマードコア・ネクスト。
―――たった26機で全国家を解体した力。
―――あの世界の例外たる鳥すらも叩き落した力。
―――その鳥が再び飛び立つ為に手にした力。
―――停滞していた世界を壊し、未来への扉を開いた力。
彼の脳裏に、とある言葉が過る。
既に遠い記憶となった世界において、何十回、何百回と見た映像のワンシーン。
―――In The Myth,God Is Force。
意味は「神話の御世にあって、神とは即ち力のことである」というものだった。
コレと初めて相対した国家の人間は、一体何を思ったのだろうか?
驚き? 恐怖? 絶望?
想像する事しか出来ないが、恐らく全てだろう。
AMS(=Allegory Manipulate System)を用いた、手動では決して成し得ない超反応。コンマ1秒で音速突破を可能とするクイックブースト。人型機動兵器での音速巡行を可能にしたオーバードブースト。実弾兵器に対して圧倒的な防御力を実現し、エネルギー兵器ですら減衰させ、直撃でさえ無ければ核兵器すら凌ぐプライマルアーマー。
そして兵器開発が進んだ後年では、プライマルアーマーを攻性転換した全周囲破壊兵器アサルトアーマーが実装され、アームズフォートの超々長距離攻撃に対抗するべく
(それがこの世界で束と出会い、IS技術と融合し、昇華されたものがNEXT)
ドクンッ。
パイロットの意志に従い、NEXTの出力が上昇していく。
更に上昇を続け
同時に自己診断をプログラムロード。最終チェック。
―――SYSTEM CHECK START
→HEAD:063AN02
→CORE:EKHAZAR-CORE
→ARMS:AM-LANCEL
→LEGS:WHITE-GLINT/LEGS
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
―――STABILIZER
→CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1
→CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1
→LEGS BACK :HILBERT-G7-LBSA
→LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2
→LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2
→LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01
→LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01
―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR
並のISであれば、内装系が焼き切れてしまう程のエネルギーが四肢に満ちていく。
また圧倒的な出力のみが可能とする強固なエネルギーシールドが展開され、極僅かに制御されなかったエネルギーが、一瞬だけ周囲に雷光となって迸る。
ここに来て、晶は手加減する気など一切無かった。
心が逸り焦っているという意味では無い。
ただ、再現するだけのこと。
個体が群体を蹂躙するという理不尽を。
そうして死神の待つ空に、彼らと彼女達は来てしまった。
この世界で生まれた
普通ならこれに単機で挑むなど、正気を疑うところだろう。
何せ向かって来ている巨大兵器のスペックは、航空機というよりも、航空機動要塞とでも言うべきものだ。
正式名称は“RAIJIN”。
全長50.7m、全幅180.8m、全高30.5m。
搭載兵器は大型プラズマ砲×1、近接防護用レーザー砲多数、ミサイルコンテナ多数。BT兵器を応用した多数のビット兵器。これに光学迷彩によるステルス性能とエネルギーシールドを備える。
つまり巨大兵器でありながら、攻撃力、防御力、移動力、ステルス性能を兼ね備えるという反則的な存在だ。
それが3機というだけでも、諦めるに足る現実だろう。なのに遊撃戦力として、5機のISが随伴している。普通なら、勝てないと判断するのが正しい。唯一抗えるとしたら、同等規模の戦力を用意出来た場合のみ。
―――しかし、この世界の者達は知らない。
たった26機で、地球上の全国家を解体してのけた化け物を。
巨大兵器の元となった概念、“
“
知らないが故に、読み違えた。
勝負になるなどという、甘い夢を見た。
故にこれから行われる会話は、只の様式美に過ぎない。
晶は、通信を入れた。
『そこの巨大兵器3機、IS5機の所属不明集団に告げる。こちらはカラード所属の薙原晶。君達はサウジアラビアの国境を超えている。所属を明らかにした上で、すぐに引き返されたし。繰り返す――――――』
暫しの沈黙の後、返答があった。
『その要望は受け入れられない。我々はサウジアラビアの救援という命令を受けている。退くのはそちらだ』
『こちらのクライアント、お前達が救援に向かっている国が、要らないと言っている。そんな巨大戦力を持ち込むような輩はお断りだとな。このまま進む気なら、全機撃墜して構わないとも言っている。繰り返す。このまま進む気なら、全機撃墜して構わないとも言っている』
『そうか。しかしそれはそちらの都合であって、我々の都合ではない。このまま進ませてもらおう』
『………最終確認だ。引く気は無いんだな?』
『クドいな。救援を待っている者がいるのに、引く道理は無いだろう』
『ではこちらも道理を通そう。クライアントとの契約に従い、そちらを全機撃墜する』
言い放った瞬間、戦闘の幕は切って落とされた。
敵集団のFCSが
“RAIJIN”から無数のビットが放出されると同時に、ミサイルハッチオープン。正面上下左右に撃ち分けられたミサイルが、壁となって迫る。加えて5機のISが、ミサイルの影から忍び寄っていた。
並みの存在であれば、逃れる術は無い。
例えミサイルの
―――相手が
彼が反撃に選んだ初手は、両背部に装備されている
国家解体戦争において、敵軍を都市区画ごと薙ぎ払った一撃だ。
展開された砲身にエネルギーが満ち、先端から眩い光が漏れ出る。
この間も、ミサイルは迫り続けていた。
しかし、晶は構わずトリガー。
放たれた六条の閃光が、迫るミサイルの壁とビットによる防御を貫き、正面に捉えていた“RAIJIN”を直撃。否、展開されていたエネルギーシールドも、正面装甲も、内部隔壁も、後部装甲すらも貫通して爆散させる。
更に迫るミサイル。
着弾まで、コンマ数秒と無い。
だが逆を言えば、コンマ数秒“も”ある。
―――クイックブースト。
NEXTは完全静止状態から、次の瞬間には音速を突破していた。
そして流れるような動作で背部装甲板を展開。露出する大型ブースター。響き渡る甲高い作動音。
―――オーバードブースト、Ready。
残っている“RAIJIN”の強力な誘導により、避わしたミサイル群が
猟犬の如く迫り来る。だが、遅い。遅過ぎる。
―――GO!!
吐き出される膨大な推力。圧倒的な加速力。
単純にミサイルの速度を上回ったNEXTが、次の獲物を定めた。
ISだ。
恐らくNEXTの事を十分に研究していたのだろう。
不用意に近づかず、一定距離を保ちつつ、仲間と連携を取って削り切る。
そんな作戦が透けて見える位置取り。
晶は思う。
(甘いなぁ。甘過ぎる)
“RAIJIN”3機分の火力と、ビットによる包囲を当てにしていたのだろうか?
だがこちらの初手で、既に1機沈んでいる。お陰で、包囲網はまだ完成していない。
そして相手の嫌がる事をやるのが、戦闘の鉄則だ。
空いた穴を更に大きくしてやろう。
こちらの接近を感知して回避行動に入っているが、もう遅い。
ダブルトリガー。
(なっ!?)
狙われた敵の思考は、それが最後だった。
右手の
そして左手の
この時点で機体は大破。パイロットも意識を失っていた。
試合なら、これで終わりだろう。
だが今は違う。
殺れる相手は、殺れる時に殺る。
晶は接近を続け、すれ違う直前、一瞬だけオーバードブーストをカット。同時にクイックブーストを併用した超高速旋回。遠心力がタップリと乗った蹴りで、敵ISを後方から迫っていたミサイル群に叩き込む。
乱れ咲く爆光。消失するコア反応。
―――オーバードブースト再起動。
天翔ける黒き流星と化したNEXTが、次の獲物に狙いを定める。
次もISだ。
味方が瞬殺され、動きの鈍ったマヌケ。
ダブルトリガーで装甲を砕きつつ接近し、
吹き飛ばされ、“RAIJIN”のエネルギーシールドに叩き付けられる敵IS。
勿論、これで終わりではない。
―――両背部
再び放たれる六条の閃光。
エネルギーシールドに叩き付けられた敵ISは、コアごと蒸発。閃光は全く威力を減衰させずに、“RAIJIN”の側面装甲を貫通する。機体に大穴が開けられた巨大兵器は、あえなく爆散の運命を辿った。
だが敵も、殺られてばかりではない。
爆散に紛れ、“RAIJIN”のビットがNEXTを包囲。反撃の一斉射を開始する。
並のISであれば、一瞬でエネルギーシールドがダウンする程の攻撃だ。
が、直撃でさえなければ核兵器すら凌ぐNEXTに対して、ビット兵器は余りにも非力だった。
数百、数千と当てればダメージも通るだろう。その為の物量だ。
しかし瞬きする間に音速を超える相手に、どうやって当てる? 当て続ける?
如何な物量とて、当てられなければ意味が無い。
対してNEXTの攻撃は、強力無比。
『き、聞いてないぞ!! こんなの!!!』
悲痛な声が、オープン回線に流れる。
だが、晶は手を緩めない。
既に最終確認は終わっているのだ。
そして一瞬で包囲網を突破したNEXTが、3機目のISを喰いにかかった。
左手の
→L ARM UNIT:
左腕に宿る緑の輝き。形成されるエネルギーパイル。
距離という盾を一瞬で踏み潰したNEXTが、ボディブローのように打ち込む。
結果は、消滅だった。
超高密度に圧縮されたエネルギーが、エネルギーシールドも、絶対防御すらも貫通し、パイロットとISコアを焼き尽くしたのだ。
―――敵残存戦力、
そしてこの男は、ここまで圧倒的な力を見せつけて、なお油断も慢心もしなかった。
戦闘など、何が切っ掛けでひっくり返るか分からない。
故に、決められる時に決める。
どこまでも冷静で冷徹な思考が、弱者の策謀を許さない。
この空域から敵反応が消滅したのは、これから僅か10秒後の事であった――――――。
◇
時間は、数分だけ巻き戻る。
セシリア・オルコットが戦闘に突入したのは、決して後退の許されない場所だった。
敵が狡猾だった、というべきだろう。何せこの作戦領域を抜けられたら、すぐに人々の生活圏がある。
もしかしたら、敵は迂回する気だったのかもしれない。しかし
そんな場所で行われた、お決まりの撤回勧告。敵が受け入れるはずもない。
両者が明確な戦意を持って激突する。
だがセシリアの方は、初手からプランの変更を余儀無くされていた。
(カタログスペックというのは、本当にアテになりませんわね!!)
原因は自身の命運を託す聖剣。衛星軌道上に浮かぶ、
威力が、予定値に届いていないのだ。
確かにISであれば、撃破に足る十分な威力だった。だがカタログスペック通りの威力なら、巨大兵器のエネルギーシールドを抜き、行動不能に追い込めたはず。
(なのに、半壊!?)
普通に考えれば、十二分な威力だろう。
相手の攻撃が届かない遥かな高空から、たった2発で巨大兵器を撃破出来るのだ。
が、今の彼女にとって、そんな事はどうでも良かった。
―――次弾発射まで、残り3分28秒。
この時間を生き残らなければ、次も何も無いのだ。そして半壊しているとは言え、標的にした
迫るミサイルの雨。グレネードの弾幕。それらを片っ端からロックオンレーザーで迎撃していく。
轟音と衝撃。舞い上がる砂塵。
(せめて、別の地形なら!!)
悪態をついたところで、現実は変わらない。
戦闘フィールドは砂漠。そして快晴の空。射線を遮る物の無いこの場所は、地形戦という弱者の小細工を許さない。
逆に敵にしてみれば、巨大兵器の攻撃力を最大限に生かせる地形だ。
(ですが!!)
戦力差と地形。勝敗を決する重要な要素。それらの不利を理解していて、なおセシリアは諦めていなかった。
(私は、あの人の2番機になると言った。ここで勝てなくて、何が2番機にですか!!)
護られたいのでは無い。隣に立ちたいのだ。頼られたいのだ。
故に彼女は、思考を走らせる。
(私の最も得意なのは遠距離戦。巨大兵器が得意なのも遠距離戦。でも火力のぶつかり合いでは勝てない。加えてISという遊撃戦力が、遠距離戦に集中させてくれな………)
雷光のように走る閃き。
遠距離戦に集中させてくれない?
大いに結構ではないか。
逆転の発想だ。
射線に味方機を挟んで射撃を封じる。
訓練で良く使っていた手段が、脳裏を過る。
(本当に、
ロックオンアラート。
ほぼ反射的に
刹那の間に、思い出す。
得意な距離でだけ戦える事など無い。近接対策をしていない遠距離型など、ただのカモ。
散々、あの人に言われた言葉だ。
そして常々、言われている事がある。
―――専用機が出るのは、常に最終局面。
―――つまり、決して負けてはならない戦場。
カチリ。
セシリアの中で、何かが嵌った。
今まで、厳しい訓練を受けてきた。意味も理解していた。否、理解している“つもり”だった。
だがこの絶望的な戦力差で戦って、ようやく本当の意味で理解した。
晶がなぜ専用機持ちの訓練に、あれほど厳しい状況設定を課していたのか。
(始めから、分かっていたのですね)
決して負けてはならない戦場で、「苦手だから出来ません」など通じない。
敵側の思考に立てば、長所を発揮させず、短所を徹底的に攻めるのは当然のこと。
(だから私の訓練に、白式・雪羅との近接格闘戦を………)
しかも近接縛りという鬼畜仕様。
アレが初めて行われた日は、愛しい相手でもビンタしてやろうと思ったくらいだ。
しかし、今なら分かる。
アレが行われた意味を。
白式・雪羅の反則的な踏み込み速度を知っていれば、普通の近接格闘戦など怖くはない。
レーザースナイパーライフルを左手に持ち替え、セシリアは武装をコールした。
ブルーティアーズ・レイストーム唯一の近接武装。
―――インターセプター・レイピア。
元々搭載されていた接近戦用のショートブレード、インターセプターの代わりに搭載された武装。特別な機能は何も無い。
ただ硬く、ブルーティアーズ・レイストームの外見に合わせて、儀礼的な装飾が施されただけのレイピアだ。
(まさか実戦で、コレを本気で使う事になるとは思いませんでしたわ)
ここから先は、ギリギリの綱渡り。
敵ISに張り付いて、
近接戦で負けてもダメ、距離を取られてもダメ、位置取りを間違えてもダメ。
加えてブルーティアーズ・レイストームのパワーアシスト機能は、第2世代ISにすら劣る。
確実に勝っているのは、機動力と必中のレーザー攻撃のみ。
そして普通なら、白式のような特化型でもない限り、多対一の格闘戦など囲まれて終わりだ。
(だから鍵となるは――――――)
12体の
アレらを如何に上手く使って、敵の連携を分断するか。
そこに全てが掛かっている。
よって彼女は、物言わぬ12体の
―――全リミッター解除。
搭載コンピューターのオーバークロックと、駆動系への過負荷と引き換えに、反応速度と瞬発力を限界まで向上させる。
機体の急速な劣化が始まり、弾き出された稼働限界まで残り9分20秒。
これでも、勝率がコンマ数パーセント変わるかどうか、というところだろう。
だが今は、たったコンマ数パーセントが惜しい。
(さぁ、行きますわよ)
レイピアを一振りしたセシリアは、近くにいた敵ISに、
が、セシリアはそれを許さない。
彼女の指揮下にある
ISにしてみれば、致命傷とはなり得ない攻撃だ。しかし着弾による衝撃は、確実に足を鈍らせる。
追い付き、懐に潜り込む。
『チッ』
オープン回線に、敵パイロットの苛立たしい舌打ちが流れた。
これを受けて、残っている敵IS2機が行動を開始。邪魔な
―――ここで、セシリアにとっての幸運が1つあった。
それは敵IS部隊の武装構成が、実弾メインだったということ。
確実性が重視される実戦部隊だったが故に、アサルトライフル、マシンガン、ショットガン、スナイパーキャノン、ミサイル等、確実に動作する武装群が選択されていたのだ。
だからこそ、彼女は対応できた。
しかし
―――快晴の空に、雷光が舞う。
桁外れの索敵能力を支える優れたセンサー系が、接近戦という中にあってなお、味方に迫る脅威を察知したのだ。
そして必中たるロックオンレーザーは、一度放ってしまえば外れる事などない。
ミサイルが残らず叩き落される。
だが敵も実戦部隊だ。この程度で動揺などしない。
ミサイルが駄目なら、別の武装で排除してしまえば良いだけのこと。
音速突破もできない、エネルギーシールドもない
弱い者から叩くという戦場の鉄則に従い、2機のISが再び動き出した。
1機は両手にアサルトライフルを構え接近。1機はスナイパーキャノンを照準。
(させません!!)
セシリアは近接格闘戦の合間、敵の射撃を回避した瞬間にビットを展開。同時に左手のレーザースナイパーライフルを敵機に向ける。トリガー。
スナイパーキャノンが発射される直前、レーザーがヒット。
当てられるとは思っていなかった敵パイロット。照準が数ミリずれ、かすった自動人形の装甲板が弾け飛ぶ。だが動作に支障は無い。
そして
しかし、素直に回避行動など取らせはしない
12体の
算出された幾つかの回避軌道上に、Mk-57中隊支援砲を発射。
コンピューターの精密さによって意図的に散らされた攻撃が、敵の回避難易度を跳ね上げる。
だが本来なら、パワードスーツ如きの携行火器など、ISにとって大した脅威ではない。当たったところで、全てエネルギーシールドで阻めるのだから。
なのに回避する理由は、着弾時の衝撃にあった。
一発一発の衝撃は小さくても、
そうして足を止められたところに、
しかし、時間の流れというのは残酷だ。
―――次弾発射まで、残り2分58秒。
死力を尽くして生き残った30秒。
巨大兵器2機とIS3機を相手にして、30秒生き残っただけでも奇跡的な健闘だ。
だがまだ、3分も残っている。
絶望的に長い時間だが、投げ出す訳にはいかない。
つまり続けるしかないのだ。極限の綱渡りを。
不得意な近接格闘戦で敵ISに張り付き、射線を遮らせる事で巨大兵器の火力を封じ、
何か一つでも間違えば、その瞬間に終わる。
極限の緊張と集中が、彼女の体力を否応無く奪っていく。
そして敵も、愚かではない。すぐに気付いた。
状況的に、セシリアの狙いは2つしかないのだ。
1つは巨大兵器を半壊させた、大出力武装の次弾発射までの時間稼ぎ。即座に次弾が発射されなかったという事実から、時間が必要という推測は簡単に立つ。
1つは自動人形を駆使してターゲットを分散させる事で、攻撃圧力そのものを弱めること。本当なら
故に敵は、
そして意識を払ったからこそ、敵は決断を下した。
―――弱いものから叩く。
強者の道理。戦場の鉄則。
敵は油断も慢心もなく、まずは目障りな
無傷の“Type-D No.5”が、胴体部にある巨大なレーザーキャノンを稼働させ、膨大なエネルギーを収束させていく。
そして半壊している“Type-D No.5”が、残っているミサイルとグレネードを全てアクティブに。と同時に、敵IS全機が
―――セシリアは悟る。
この瞬間が、運命の分かれ道であると。
配下の自動人形に命令を下すと同時に、迎撃を開始。
乱れ咲く爆光。衝撃が砂塵を舞い上げ、戦場を覆っていく。
悪化していく視界。
だが敵も、プロだった。
風が吹き、僅かに出来た砂塵の切れ目。射線がクリアになった一瞬、
その瞬間に放たれるスナイパーキャノン。
(しまっ………!?)
横合いからの衝撃に、一瞬意識が飛びかける。
だが生への渇望と勝利への執着が、彼女の意識を繋ぎとめた。
直後、
―――配置、完了。
次の行動は、両者同時だった。
巨大レーザーキャノンが戦場を薙ぎ払い、セシリアが
そしてこの時点で敵の脳裏から、
ある意味で、仕方のない事だ。
ISという超兵器の事を知っていれば、巨大兵器がどれほどの存在かも理解できる。
その巨大兵器の飽和攻撃が行われた戦場で、たかがパワードスーツ如き、生き残れるはずも無い。
手足の欠損した残骸が、至る所に転がっていれば尚更だろう。
また仮に生き残っていたとしても、12体揃っていて、ようやく一瞬の時間稼ぎが出来る程度の存在だ。数を減らした今、脅威とは成り得ない。
敵ISパイロット達は、そう思った。
そして間違ってもいない。
―――自動人形が、束博士による特別製でさえなければ。
ハードウェア的に特別という訳ではない。
最先端の軍事企業なら、金さえ掛ければ作れるだろう。
だから特別なのは、ソフトウェアの方だ。群体として制御されながらも、目標完遂のためなら、個体としても行動可能という自律判断能力。
この時、敵はもっと疑いの目を持つべきだった。
しっかりと調べれば、すぐに分かったはずなのだ。
四肢のいずれかが欠損していても、胴体部を破壊されている機体が無い事に。
元々の稼働数と残骸の数が合わない事に。
飽和攻撃によって、消し飛んだ機体と消し飛ばなかった機体があった、という程度にしか考えていなかったのだ。
そんな中で、自動人形達は思考を巡らせていく。
―――
―――支援行動を提案。
―――否決。
―――理由を。
―――実行中の作戦成功率を著しく低下させる。
―――
―――現作戦案を支持。
―――了解。
3対1でのドッグファイトを余儀無くされたセシリアが、徐々に地上へと追い込まれていく。数の不利だけでも厳しいのに、巨大兵器の絶大な火力が、分厚い天井となって空への道を塞いでいるのだ。
徐々に、徐々に追い込まれていく。
そうして最後には、地表スレスレを飛び回ることしか出来なくなっていた。
高低差の使えない2次元機動では、如何に機動力で勝っていようと、優位性を活かせない。
もう3機のISに追い立てられ、逃げ惑っているようにしか見えなくなっていた。
美しかった天使の翼は、既にボロボロだ。
―――敵が、ニヤリと笑う。
もしこのまま撃墜できたら? もし鹵獲できたら? 仮定の話が脳裏を過ぎる。
訓練された実戦部隊とは言え、敵も人間だ。ある意味で、仕方のない面もあるだろう。
だがこの思考が、判断を誤らせた。
勝ちに徹するなら、上空を抑えたまま削れば良かったのだ。
如何に機動力に優れたブルーティアーズ・レイストームとは言え、攻撃を全て回避できる訳ではない。巨大兵器の絶大な火力とIS3機という遊撃戦力を組み合わせれば、遠からずエネルギーシールドをダウンさせて、活動限界にまで追い込めただろう。
しかし敵ISパイロット達は、セシリアと同じ、地上にまで降りてきてしまった。
己の手で撃墜したいという、無意識の考えが出たのかもしれない。
お高い貴族様を地べたに這いずらせたいという、嗜虐心があったのかもしれない。
3機のISは鮮やかなフォーメーションで、セシリアを同心円状に取り囲み、射撃開始。
完璧に連携した3方向からの攻撃が、瞬く間にエネルギーシールドを削っていく。
もがくセシリア。
なけなしのエネルギーを
敵も
―――セシリアは、ニヤリと笑った。
彼女が欲しかった、最後のピースが揃ったのだ。
敵が、加速してくれた。敵は、気付かなかった。
セカンドシフトマシンの
ダメージを負っていたから?
違う。
加減したからだ。第2世代ISの最高速程度にまで。
敵の加速進路上、コンマ1秒後には通り過ぎる地点。
そこに突如として、砂の中から大剣が出現する。
自動人形の全高に迫る、分厚く巨大な大剣だ。
とある物語において、“
『『『!!!!!!!!!!!!』』』
流石はISパイロット達。
障害物の存在には気づいた。
しかし回避行動を行うには、絶望的に時間が足りなかった。
トップスピードのまま、
超兵器の名に相応しい。恐るべき耐久力だった。
尤もそんな事は、
(さぁ、いきますわよ!!)
敵の動きが止まった一瞬。
彼女は、この瞬間に全てを掛けた。
―――レーザースナイパーライフル、全リミッター解除。
―――全ビット展開。
―――ロックオンレーザー、フルロック。
コンマ1秒ですら惜しい。
最速で照準できる相手を最速で狙い、トリガー。
ブルーティアーズ・レイストームのフルバーストが、敵ISのエネルギーシールドをダウンさせ、絶対防御を発動させる。
この時点で、喰らったパイロットは意識を失った。
だが敵ISは、まだ2機残っている。
そしてフルバーストを使ったセシリアの背中はガラ空きだ。
向けられる銃口。しかし弾丸が放たれる直前。
―――ガシッ!!
足元、砂の中から突き出た自動人形の手が、敵ISの足を掴んでいた。
『『なっ!?』』
予期せぬ妨害が、行動を鈍らせる。
優先すべきはセシリアの撃破だが、足元を掴まれ、揺さぶられて照準が安定しない。
やむなくターゲットを変更。邪魔な自動人形を破壊するべく銃口を向ける。
時間にして数秒程度。
しかしその数秒が、敵の敗北を決定付けた。
砂に埋もれる事で姿を隠していた自動人形が一斉に起き上がり、足を掴まれたISに向かっていく。
ある機体は、銃を持つ手を押さえに。
ある機体は、機体重量を重石として行動を封じに。
ISのパワーなら、簡単に跳ね除けられる。あと数秒時間があれば。
その間に、四肢のいずれかが欠損し、残骸となって撃破されたフリをしていた自動人形が立ち上がる。
手には巨大な大剣、“
水平に構えられ、腰部跳躍ユニットフルブースト。突撃開始。
自身を弾丸と化した質量攻撃。
足を掴まれ、手を掴まれ、自動人形という重石をつけられた敵ISの初動は、決定的に遅れた。
―――衝撃。
明らかに減少していくエネルギーシールド。
だが撃破には至らない。
自動人形ではパワーが足りない。
後数秒あれば、この拘束を振り払って、大空へと飛び立てる。
―――勿論、それを許すセシリアではなかった。
武装群に過剰供給されるエネルギー。
機体の消耗と引き換えに、即座に次弾の発射が可能となる。
そして
しかし敵の手足は決して離さない。
トリガー。フルバースト。
狙いすました一撃が、敵ISのエネルギーシールドを叩く。
絶対防御が発動。撃破2。
ここで残っていた敵IS1機が、拘束を振り切っての離脱に成功した。
思わず距離を取ろうとする。一端距離を取っての仕切り直し。常識的な選択だ。
トラップに嵌められた、という認識があったのなら尚更だろう。
―――相手が、ブルーティアーズ・レイストームでさえなければ。
焦りさえ無かったなら、これが悪手だと気付けたはずだった。
遠距離戦型のセカンドシフトマシンを相手に、距離を取る事がどれほど拙いか。
周囲を取り囲むビット。フルロックされるロックオンレーザー。最大出力で叩き込まれるレーザースナイパー。
全方位からの攻撃に、減少していくエネルギーシールド。頼みの物理シールドも、最大出力のレーザースナイパーとロックオンレーザーで、瞬く間に残骸となっていく。
結果、セシリアが反撃を開始してから僅か十数秒。
敵IS3機は、全て大地に叩き落された。
ここで、巨大兵器から通信が入る。
『素晴らしい戦闘力だ。だが君は、既に満身創痍。素直に道を開けたまえ。巨大兵器2機を相手にする力は、もう残っていまい』
彼女は答える。
『敵を前にしてのお喋りは、二流のする事ですわ。大体、既に決着はついていますもの』
『こちらの勝利でな』
『いいえ。私の勝利で、ですわ』
『なに?』
セシリアが、スッと右手を上げた。
指差す先は、遥かな天空。自身の命運を託した聖剣。
『たった今、エネルギーチャージが終わりましたわ。では、さようなら。―――“エクスカリバー”、発射』
振り降ろされる右手。
天空より撃ち下ろされた一筋の閃光が、半壊していた
エネルギーシールドの拮抗は一瞬。
次の瞬間には上部装甲板を貫き、内部機能をズタズタにしながら突き進み、最後は下部装甲板を貫通。
『クッ、だがすぐに次弾は放てまい!! ここで、殺してやるぞ!!』
『あなた方の敗因は、私に時間を掛け過ぎた事ですわ。あの人が、たかが巨大兵器3機とIS5機程度に手間取るとでも?』
ここから
そして無傷で残っていた“Type-D No.5”のレーダーが、超高速で接近する機影を捉えた。
『ま、まさか、NEXTが、もう………』
『はい。そして、お待ちしておりましたわ』
『セシリア、良くやった』
『私は、役目を果たせましたか?』
『十分に』
この数秒後、六条の閃光が残っていた最後の敵を射抜くのだった――――――。
※1:全六門最大出力
気になる人は「AC4 破壊天使」で映像検索してGO!!
フロムお得意のムービープレイ!!
第132話に続く
今回晶くんには、フロムお得意のムービープレイ並に暴れてもらいました。
圧倒的な暴力を感じて頂けたのなら、嬉しい限りです。
そしてセシリア。
巨大兵器を撃破したのがエクスカリバーなので、“ジャイアントキリング”のスコアこそつきませんが、IS3機撃破は間違いなく大戦果なのでした。