インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回のヒロイン(?)はラウラさん。
ようやく過去の清算といったところでしょうか。


第101話 ラウラとの関係

 

 薙原晶とドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒの出会いは、それはもう酷いものだった。

 最低とまでは言わないが、出会っていきなり情報工作を仕掛けたとなれば、普通なら敵対関係まっしぐらだろう。

 実際、仕掛けた彼女も祖国であるドイツも、手痛い報復を喰らっている。

 だがクラスで2人の関係が冷え込んでるかと聞かれれば、実はそうでもなかった。

 晶からしてみれば、確かに出会い方は不幸だった。だがとある一件で、自分の将来を捨ててまで部下を助けようとする姿には、それなりに好感が持てた。無論それが即、信用に繋がる訳ではない。しかし大人しくしている限り、敵視する必要も無かった。

 一方ラウラからしてみれば、彼は怖い人間ではあったが、暴力に対する理性的な態度には信用が置けた。また加えて言うなら、放課後の訓練で彼は一切差別をしなかった。過去の経緯はどうあれ、彼は他のメンバーと同じように彼女を叩きのめし、同じように鍛え上げていた。そして学園生活においても、世間一般のマナーを守っている限り、不当な扱いはしなかった。この公平さが、晶に対するある種の信頼感となっていた。

 

(………こうして思い返すと、私もよく生きていられたな)

 

 寮の自室。

 ベッドで横になっていたラウラは、唐突に昔を思い出して、そんな事を思っていた。

 薙原晶に喧嘩を売る行為は、“天災()”に喧嘩を売るのとほぼ同義だ。こうして普通に学園生活を送れるなど、どれほど奇跡的な確率だろうか?

 思い返すほどに、背筋が寒くなってしまう。

 

(それが何故かコレだ………人生分からないものだな)

 

 寝返りをうちながら、眼前に空間ウインドウを展開する。

 表示されたのは一枚の写真だった。

 学園祭の時、クラスメイトに言われるがままに撮った、執事服の晶とメイド服のラウラというツーショットだ。

 お互い苦笑いしている辺り、考えている事は多分同じだろう。

 ここでふと、ルームメイト(シャルロット)が将来どうするのか気になった。

 

(………恐らく、あの男()についていくのだろうな)

 

 公式なアナウンスがあった訳ではない。だが日頃の様子を見ても、フランスやデュノアの立場で考えても、無理に帰還させる必要は何処にもない。むしろ既に代表候補生というより、パイプ役としての働きを望まれているだろう。

 次いで思ったのは、同じ欧州出身のセシリアだ。彼女はどうだろうか?

 普通に考えればセカンドシフトしている以上、卒業後は本国勤務のはずだ。切り札とも言えるセカンドシフト者を、海外に置いておく理由など無い。だがあの男()の傍に置いておくというのは、それなり以上の意味がある。イギリスとしては難しい判断だろう。ブルーティアーズ・レイストーム(セカンドシフトマシン)は本国に置いておきたいだろうが、セシリア以外はまともに動かせない。だがシャルロットがあの男の傍らにいるなら、恐らくイギリスもセシリアを置こうとするだろう。でなければ、色々な意味で遅れを取りかねない。

 

(幸いあの男は、小さいとは言え自分の会社(PMCカラード)を持っている。外部協力者や派遣という形でなら、ISを派遣するハードルはグッと下がる。むしろフランスやイギリスは、積極的に売り込む気かもしれんな)

 

 ここまで考えて、ラウラは自分の事を思った。

 では今後、どうするべきだろうか?

 

(………困ったな。もしかしてこれは、詰んでいるのではないか?)

 

 だが2人の出会いを思い出し、いきなり暗礁に乗り上げてしまった。

 思い出されるのは、束博士が言った言葉だ。

 

「君みたいなのが彼の隣を歩かないで欲しいな。人形は人形らしく、下僕のように従者のように、一歩下がるといい」

 

 あの時の強烈な敵意は、今でも鮮明に思い出せる。

 

(恐らく博士は、私があの男に近付く事を決して許さないだろう。今こうしていられるのは、クラスメイトという枠組みの中にいるから、そして部下達(黒ウサギ隊)が頑張ってくれているからだろうな)

 

 ここでラウラは、今まで先送りにしていた問題と向き合わねばならなくなった。

 これまでは、ただ任務を果たしていればそれで良かった。優秀なISパイロットであり軍人でさえあれば、それで良かった。だが祖国の利益を考えると、最早それだけでは駄目なのだ。

 何故か? それは先のフランスの一件(バイオテロ)で、シャルロットが証明してしまったからだ。あの男()の近くにいる事が、どれだけのメリットかを。

 何せ先の一件は、本当なら国が傾いてもおかしくないほどのダメージだったはずだ。なのにフランスは今、欧州で最も経済活動が活発な地域になっている。束博士によってもたらされた水と食糧の安定供給に加え、世界最先端都市の建造という夢が、絶望を活力に変えさせているのだ。

 これほどの事が出来る人間(束博士)に、直接意見できるのがあの男()だ。そんな人間の近くに自国の息の掛かった人間を置く。どれだけのメリットがあるか分からないだろう。

 

(本国が私に何を求めているのかは分かっている。分かってはいるが………私にどうしろというのだ)

 

 ベッドの中で寝返りをうちながら、悪態をついてしまう。

 求められているのは、言葉にしてしまえば簡単な事だ。仲良くなって信頼を得る。これだけだ。

 だが百歩、いや千歩ほど譲って過去の事は水に流してくれたとしても、ラウラは自分の事を、好かれるような性格だとは思っていない。

 今まではそれでも良かった。だが今後、それでは駄目なのだろう。

 しかし軍人という在り方以外を知らない彼女にとって、それはとてつもなく高いハードルに思えた。

 その後ラウラの思考は空転を始め、結局一睡も出来ないまま、次の日の朝を迎えたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 軍人であるラウラなら、1日程度の徹夜は耐えられる。だがそれが2日、3日となると話は別だった。

 今後の事を考えると気が全く休まらず、眠れないのだ。

 そうすると徐々に注意力が散漫になり始め、ついには授業中(しかも織斑先生の授業でも!!)に上の空になり、一夏との単独戦闘訓練では単純なフェイクに引っ掛かるなど、明らかにいつもの調子では無くなってきていた。

 調子の悪い事は誰にでもあるが、流石に周囲も心配し始める。

 そしてとある平日の昼休み。

 食堂のいつもの席に集合した専用機組の視線は、テーブルに突っ伏しているラウラに集中していた。

 

「ねぇラウラ。大丈夫?」

「だ、大丈夫だぞ。何も問題は無い」

 

 隣に座っていたシャルロットが尋ねると、彼女は身を起こしながら答えた。だが声は、言葉とは裏腹に疲れきっている。

 

「自分が一番大丈夫じゃないって分かっているでしょう。本当、どうしたの?」

「ほんとうに………何でもない。少しばかり、少しばかり気になる事があって眠れないだけだ」

「鏡で自分の顔を見た後に、同じこと言える?」

「やけに絡むな?」

「そんな顔してる人を、大丈夫なんて言わないよ」

 

 今ラウラの目の下には大きな隈ができ、目にも力が無い。

 誰が見ても、疲労困憊という様子だった。

 そして言うまでも無い事かもしれないが、常に軍人として自己を厳しく律している彼女が人前でこんな姿を晒すなど、珍しいどころの話ではない。

 食堂に来るまでの歩く姿も、いつものキリッとした歩き方ではなく、生ける屍のような頼りない歩き方だった。

 正直なところこの場にいる全員、何故彼女が食堂に来たのかが不思議なほどだ。

 そしてこの専用機組、今までの訓練のお陰か、実に仲間思いだった。

 コアネットワークでちょっとしたやり取りが発生する。

 

(このままだと休まないだろうな)(箒)

(じゃあどうする?)(一夏)

(保健室とかで休んでもらうのは?)(シャルロット)

(本人は「眠れない」って言ってたから、横にしても………)(簪)

(じゃ、気絶させる? そしたら強制的に休めるわよ)(鈴)

(それ、ちょっと過激過ぎですわ)(セシリア)

 

 そして皆の視線が晶に向く。

 この時、晶としては立ち入った事をするつもりは無かった。

 理由は2つある。

 1つは、晶は男で、ラウラは女だ。何か悩んでいるのは皆と同じように分かっていたが、悩み事を話すのなら、女同士の方が良いだろうと思っていたのだ。

 だが何故か、全員の視線が向いている。

 

(ちょっと待て。何故俺なんだ?)

 

 するとセシリアから返答が返ってきた。

 

(私達は皆、代表候補生ですわ。立場上、打ち明け辛い事もあるでしょう。ならそういった事の関係無い晶さんが適任と思いますわ)

(いや待て。やはり悩みを聞くのは同性の方が良いと思うんだが?)

 

 晶は援護を期待してシャルを見るが、彼女は助けてくれなかった。

 

(僕もセシリアの言う通りだと思うな)

 

 次に期待して一夏を見てみるが………。

 

(俺も2人の意見に賛成かな)

 

 隣に座る箒に視線を向けても………。

 

(ここはやっぱり晶さんでしょう)

 

 鈴を見ても………。

 

(アタシより、アンタでしょう)

 

 簪を見ても………。

 

(私も、晶さんの方が良いと思います)

 

 悲しい事に、誰も味方してくれなかった。孤立無援である。

 そしてもう1つの理由は、出会いの一件があるからだ。あれがある以上、素直に悩みを打ち明けるとは思えなかった。

 だが出会いを理由に断るなら、ラウラにとって不都合な事実まで話す必要がある。しかしあの一件(出会い)は、既に決着がついている。不必要に蒸し返すつもりは無かった。

 そのまま晶は暫し考える。

 色々と理由をこじつけて、断る事も出来るが………どうせラウラは悩みを打ち明けたりはしないだろう。なら形だけでも話して、さっさと別の奴に話を振ってしまおう、と思いなおすのだった。

 

(分かったよ。ただ、自信は無いぞ)

 

 そうして話を終えた晶は席を立ち、ラウラの肩を叩いた。

 

「ラウラ。大丈夫か?」

「だから………何度も言わせるな。大丈夫だと言ってるだろう。シャルロッ………なんだ。薙原か」

「何時まで寝てるんだ? もう休み時間終わるぞ」

「なに?」

 

 驚くラウラ。

 ちなみに大嘘である。

 しかし目の下に隈ができ、疲労困憊の彼女は驚くほどあっさり信じてしまった。

 覚束ない足でフラフラと立ち、晶に連れられて食堂を出て行く。

 その後ろ姿を見ながら残った者達は、彼女の身に何が起きているのかを心配するのであった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そうして連れ出されたラウラは暫く歩いた所で、ようやくまだ昼休みの中頃という事に気付いた。しかもこの道はクラスへ向かう道ではなく、保健室に向かう道だ。

 

「………薙原。どういうつもりだ?」

「何の事かな?」

 

 隣を歩く男に問い掛けるが、答える気は無さそうだった。

 これが他の人間に案内されていたのなら、ラウラはこの時点で踵を返しただろう。

 だがこの男()が態々1人で案内しているのだ。戻るという選択肢は有り得なかった。

 2人の間に沈黙が流れ、そのままお互い喋る事なく保健室に到着する。IS学園の保健室は一般的な学校と違い、保険医が詰める保健室の隣に、休憩室という個室がある。内装も一般的な学校のような殺風景なものではなく、病院の個室部屋としても使えそうなほど、整えられていた。

 晶が保険医に休憩室を使わせて欲しい旨を話すと、保険医は一瞬ラウラをチラリと見た後、使用許可を出した。

 そうして休憩室に入ると、ラウラが口を開く。

 

「こんなところに連れてきて、どうするつもりだ?」

「とりあえず、寝て、休んだらどうだ? そんな状態じゃ、何をするにも辛いだろう」

「問題ない」

 

 この時ラウラは、強がりだと分かっていてもそれを止められなかった。

 蓄積した疲労が正常な思考を奪い、ありもしない可能性が心を掻き乱すのだ。

 

 ―――体調管理すら出来ない出来損ないと言われるのではないか?

 

 ―――本国に使えないガラクタと告げ口されるのではないか?

 

 過去に“不良品”扱いされた事があるだけに、その想像は恐ろしい程の現実感となって彼女を苛んだ。

 

「問題ないって………。誰がどう見ても疲労困憊だろう。一体何があったんだ?」

 

 そんな中で聞こえてくる晶の言葉は、何故か2人の出会いを思い出させ、束博士の言葉を幾度と無く脳裏に蘇らせた。

 加えて悩みの原因()に心配されるという不甲斐なさ。どうしようもない自分への苛立ち。色々なものが積み重なり、ついに大声を出してしまう。

 

「何でもないと、言ってるだろう!!」

 

 心の片隅に残っていた正常な思考が間違いと告げているが、言ってしまった言葉は戻らない。後悔しても、もう遅い。

 だが世の中、何が転機となるか分からない。

 今回は、普段と余りにも違うこの態度が、彼女の転機となった。

 晶が本格的に疑問を持ち始めたのだ。

 

(何故そんなに意地を張っているんだ?)

 

 記憶を掘り起こしてみるが、ここ数日は何事もなく平和だったはずだ。

 ドイツ本国の方も、おかしな動きは見せていない。

 

(なら本人の問題か?)

 

 しかしこちらも、特に思い当たる節が無い。

 原因に心当たりが無い晶は、ストレートに聞いてみる事にした。

 

「心配事があると中々眠れなかったりするが、何か悩みでもあるのか? 話すだけでも楽になる事はあるぞ」

「お前には関係無い!!」

「まぁ確かに、俺が言っても白々しいか。だけど、他の面子は本当に心配していたぞ。ついでに言うなら俺がこうして話を聞いているのは、他の面子がお前の立場を考えた結果だ」

「なに?」

「代表候補生同士だと打ち明け辛い事もある――――――あいつ等はそう言って、あまりそういう事の関係無い俺に、お前の事を頼んだんだよ」

「………ふん。最悪の人選だな」

「俺もそう思う。対外的に俺達の出会いは円満そのものだが、実際は酷いものだったからな」

「なら何故ここにいる?」

「話の流れ的に断るよりも、一度引き受けて適当に話をしてから、改めて別の奴に協力をお願いした方が自然だったからかな」

「そういう事なら、既に目的は達成しているな。さっさと行ったらどうだ」

「が、お前を見ていて考えが変わった」

 

 ここで晶は、ラウラに一歩近付いて尋ねた。

 2人の間に、殆ど距離は無い。

 

「お前、何に悩んでいるんだ? 日頃から心身ともに律しているお前が、他人に心配される程に心を乱している。何かあったと考えるのはおかしなことか?」

「おかしなことだな。お前が私の心配などするはずがない。お前も束博士と同じように、私の事を人形だと、下僕だと思っているのだろう? シャルロットのような気遣いなど出来ないし、セシリアのような立ち振る舞いも出来ない、戦うしか能の無い私は、確かに人形だろうさ!! それ以外の在り方を知らないんだからな!!」

 

 堰を切ったかのように出てきた言葉に、彼女はハッとなり慌てて口を塞いだ。

 だが出てしまった言葉は、もう戻らない。

 そして一度聞かれてしまえば、もう止められなかった。

 悩んで心配して溜め込んで、心の中に溜まった感情が溢れ出てくる。

 

「大体、お前は私の事をどう思っているのだ。敵か? 味方か? それともどうでもいい第三者か? 私は軍人として育てられた。それ以外の事など知らないし出来ない。シャルロットやセシリアのような突出した成果など、期待されたところで応えようがない。私にどうしろというのだ!!」

 

 ここまで聞いて、晶はようやく理解した。

 彼女は今、自分の立ち位置や役割について悩んでいるのだ。

 何故なら今の専用機組は、もう一介の代表候補生とは見られていない。

 晶の直接指導を受け将来のエースとして期待されている以外にも、それぞれの国からはパイプ役としての役割を期待されている。

 そんな中にあってラウラは、過去に晶とトラブルを起こして束からも睨まれ、かつ軍人として育てられたために、セシリアやシャルロットのような華やかさに欠ける部分がある。

 つまり過去のトラブルと、一介の代表候補生であれば必要とされなかった部分が必要とされ始めた事で、どうして良いか分からなくなってしまったのだろう。

 

(………なるほど。だけどこれは、どうにかできるのか? というか、今のラウラを変える必要があるのか?)

 

 ちなみにラウラがどう思っているかはさておき、晶としては質実剛健・堅実さを旨とする彼女の性格は嫌いでは無かった。確かに過去の出会いでは色々あったが、今敵対してもいない人間を積極的に蹴落とす気にはなれなかった。

 

(………でも今そのままで良いと言ったところで、聞く耳持つかな?)

 

 見ればかなり思いつめている様子だ。

 このままでは何を言ったところで聞かないだろう。

 

(ならまずは落ち着かせる………が出来たら苦労はないな。どうするかな)

 

 数瞬思案した晶は、良い事を思いついた。

 下手に体力が残っているから、色々気になって休めないのだろう。

 なら体力を限界まで削り取ってやれば良い。だが流石に今の状態で訓練するのは危険過ぎる。

 だから、別の手段を使う事にした。幸い、今日は金曜日だ。

 

「よし、キャンプに行こう」

「………は?」

 

 何の脈絡も無く話が変わって、ラウラは首を捻った。誰だっていきなりこんな事を言われれば、そうなるだろう。

 だが晶は構わず続けた。こういうのは勢いだ。

 

「だから、キャンプだよ。急に大自然の中でご飯が食べたくなった。ハンゴウで炊いたちょっと焦げたやつ。後は川で釣った魚を焼いて、あ、火は勿論焚き火な。コンロなんて邪道は無しだぞ。ついでにラフティングボードもしたいな」

「ひ、1人で行けばいいだろう」

「何言ってるんだ。目の前にサバイバルのプロがいるんだ。連れて(拉致って)行くに決まってるじゃないか」

「バッ、馬鹿を言うな。私に死ねというのか!? お前と2人きりでキャンプなど束博士が許すはずないだろう」

「お前が俺に媚を売るように近付いてきたらな。俺が拉致る分には問題ない」

「今拉致って言ったな」

「気のせいだ。合意のもと、一緒に行くんだよ」

「私は嫌だと」

「ラウラ。日本にはとても良い言葉がある。良い機会だから教えておこう」

「な、何だ。どうせロクでもない言葉だろう」

「その通り。それはな「嫌よ嫌よも好きのうち」って言葉だ」

「本当にロクでもない言葉だな!?」

「という訳で、合意のもとレッツゴー」

「ま、待て!! キャンプに行くなら準備が必要だろう。サバイバルのプロを連れて行く気なら、プロの助言には従うのが筋だろう」

 

 ラウラ会心の反撃だったが、残念な事に晶の方が上手だった。

 

「大丈夫。NEXTの拡張領域(パススロット)には、万一の時に備えてサバイバルキットも完備してある。昔死にかけた事もあったからな。その辺りは抜かりない」

「ふ、普通のサバイバルキットにはテントも寝袋も入ってないだろう」

「ISの活動領域は広いからな。どんな場所にも行けるように、寝袋もテントも、その他必要そうなものはコンテナに入れてあるから大丈夫だよ」

「クッ!! い、いや待て。今は昼休みだろう。午後の授業はどうするんだ? まさかサボらせる気か?」

「世の中、病欠という便利な言葉があってだな――――――」

「拉致を病欠とは言わん!!」

「分かった分かった。じゃあ今行くのは止めよう。授業が終わってからな。――――――あ、イヤなら逃げても良いぞ。追いかけるから」

 

 とてもイイ笑顔で宣告する晶。

 彼にしてみればラウラの体力を削ることが目的なので、自主的に動いて(逃げ回って)体力をすり減らしてくれるなら、願ったり適ったりなのだ。

 そうしてこの日の放課後、彼は彼女を連れて(拉致って)、人里離れた山奥に向かって飛び立って行ったのだった――――――。

 

 

 

 第102話に続く

 

 

 




主人公に拉致られてしまったラウラさん。
次回はキャンプです。


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