インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
第3アリーナです。
ふつーーのISパイロット達である彼女らは、どうなってしまうのでしょうか?(邪悪な笑み)
教導1日目の16時。
晶の予想に反して、教導参加メンバーは全員第3アリーナにたどり着いていた。彼の予想では、全員が第3アリーナにたどり着くのは明日だと思っていたのだが、予想以上に危機感を持っている奴がいたようだ。
「まずは皆さん。お疲れ様でした――――――と言っておこうかな」
全員の前に立ち、晶は穏やかな微笑みを浮かべながら話し始めた。だがその言葉を受け取る者達は、随分と疲れている様子だった。起立の姿勢を保ってはいるが、「出来れば休みたい」という思いが見てとれる。
(……ま、ここからが本番なんだけどね)
内心でそんな事を思いつつ、彼は言葉を続ける。
「さて、では早速第3アリーナの説明をしようか。――――――とは言っても、難しい事は何もない。機体をメンテナンスベッドに固定して、ISのパイロットへのフィードバック機能を使って、対巨大兵器戦のシミュレーションを行う」
今の説明を聞いて、参加メンバー達の間に一瞬ホッとした空気が流れた。巨大兵器が相手とはいえシミュレーションなのだ。織斑千冬や
そんな思いからだった。
だが次の言葉で、表情が一転する。
「なお今回は可能な限り現実に即した訓練にする為に、通常のシミュレーションでは低レベルに抑えられている痛覚についても、高レベルでシミュレーションに反映する。つまり被弾時の衝撃や感じる痛みは、現実と同等レベルだ。心してかかれよ。下手に被弾なんてしようものなら、のたうちまわるからな」
ちなみに外では決して言わないが、束宅にある晶専用のシミュレーション環境で、彼は何度となくのたうちまわっていた。ナインボール・セラフVer.NEXTやIBIS、パルヴァライザー、フルスペックアンサラー、
なのでこの設定のシミュレーションがどれほどの苦痛を伴うかは、彼自身が一番良く分かっていた。
皮膚が裂け、骨が折れ、身体が砕ける感覚まで再現されるのだ。覚悟無く挑めばトラウマになり兼ねない。だからこそ、彼は念を押した。
「このシミュレーションは、機体と身体を直接動かす事以外は、ほぼ現実と同じレベルで再現する。つまりシミュレーション中に骨折や四肢欠損が起きれば、その激痛も再現される。むろんISの痛覚遮断機能も働くから、機能が生きている限りは行動できるだろう。だがここにいる面子なら知っているはずだな。今ここにいるパルプルスが死に掛けた事を。最も厳重に保護されている生命維持装置ですら、実戦では機能停止が有り得るんだ。シミュレーションだと思って舐めていると、地獄を見るぞ」
晶は一度全員を見渡して、内心でため息を吐いた。
今の言葉を本当の意味で理解出来たのは、恐らく撃墜経験のあるパルプルスだけだろう。
他の人間は、「シミュレーションでも痛みがある」或いは「ちょっと強めに参加メンバーを脅している」程度の認識かもしれない。
しかしそれも、仕方の無い事かもしれなかった。
絶対防御という他に類を見ない優秀な防御システムに守られたパイロットが、戦闘で大怪我を追う事など普通は無い。
晶だって
一概に危機感が無い、と責めるのは少々酷なのかもしれない。
だが仕方が無いからと言って、訓練で甘やかす理由にはならなかった。
ここで甘やかす事は、彼女達の死に直結する。
(だから、ここで一度へし折らせてもらう。――――――それに一度へし折ってからの方が、パルプルスの経験談も素直に聞くだろう)
内心でそんな事を思いながら、彼は再び口を開いた。
「さて、それじゃあ色々説明する前に、まずは巨大兵器がどんなものか、体験してもらおうかな。一応皆プロだ。軽くでも、巨大兵器の情報収集はしているんだろう?」
全員が肯いたのを見て、晶は話を続けた。
「では各自機体をメンテナンスベッドに固定してくれ。対戦相手はType-D No.5だ。シミュレーション開始前に武装選択画面が出るから、武装はその時選ぶように」
そうして参加メンバー達が機体をメンテナンスベッドに乗せると、四肢が固定用アームでロックされた。次いでシミュレーション用の有線ケーブルが接続されていくと、ピット壁面にある大型ディスプレイに、次々と「接続OK」の文字が表示されていく。
「全員準備は良いかな? ――――――ならこれより、対巨大兵器戦のシミュレーションを開始する。マップは平原。シチュエーションは1対1で接敵状態からだ。武運を祈る」
晶が手元のコンソールを操作すると、ISを通じて参加メンバー全員の意識が闇に沈み、シミュレーション用の電子空間に再構築されていく。
そして彼女達は理解する。先程、晶が言った意味を。巨大兵器と戦うという事が、どういう事なのかを――――――。
◇
――――――1時間後。
第3アリーナのピットには、憔悴しきった参加メンバー達の姿があった。
ある者は汚れるのも構わず床に横たわり、ある者は息を荒げ、ある者は両腕を抱えて震えている。
巨大兵器との交戦経験があるパルプルスも例外ではない。シミュレーション終了後殆ど移動出来ず、メンテナンスベッドの足元に崩れ落ちるように倒れ込んでいた。
「――――――さて皆、現実を理解したかな? これが、巨大兵器だ」
たった数回のシミュレーションで、彼女達は体力を使い果たしていた。そして誰1人として突破口を見つけられず、不様に蹂躙されていた。
大量の
その全てが現実と遜色ないリアルな感覚としてフィードバックされたのだ。体力の消耗具合は、彼女達自身の想像を遥かに越えたものだった。
晶の言葉は更に続く。
「あと、ひとつ良い事を教えてやろう。今回最もダメージを与えたのはパルプルスの3割だが――――――パルプルス、戦ってみて何か感じなかったか?」
尋ねられた彼女は疲労困憊の身体をゆっくりと起こし、メンテナンスベッドにもたれ掛かりながら答えた。
「あ……あの敵、パラメーターを………弄っているわね? 攻撃密度が……薄い……わ」
「流石経験者。正解だ。実際の戦闘データの、60%程度の性能に抑えてある」
参加メンバーの表情が絶望に染まる。
第1アリーナで戦った織斑千冬は伝説だった。
第2アリーナで戦ったゴスペルは最新鋭機のセカンドシフトマシン。強力で当たり前だった。
だが今回の敗北は、物量が質を凌駕した事に他ならない。しかも手加減された状態で、だ。
彼女達の心の中で、今まで無敵と信じて疑わなかった力の象徴が、音をたてて崩れ落ちていく。
「あ、あんなのにどうやって勝つのよ!!
思わず叫んだ参加メンバーに、晶は冷たく言い返した。
「そう思うなら、今すぐ帰ればいい。誰も止めないし、俺は人数が減った分だけ教えるのが楽になる。お前も辛い思いはしたくないだろう? お互い良い思いが出来るから、帰って良いぞ」
だが、これで本当に帰る者などいない。
叫んだ者は「帰りません!!」と言ってその場に立ち上がった後、晶を睨みつけた。
まだ足が震えているが、精神力だけはあるようだ。
「ほう? 諦めてはいないようだな。他の者はどうだ? 今帰っても、誰も責めないぞ。誰だってあんな怖い思いはしたくないからな。逃げ出しても、周りの人達は優しく慰めてくれるさ。――――――ああ、だけど命がけで戦った人間と比べると、少しばかり見劣りしちゃうかもしれないな」
最後の言葉で、何故
もしもここで逃げ出せば、それは今まで侮蔑の視線を送っていた相手以下だと、自ら認めるのと同じなのだ。
更に言えば、この場にいる人間は程度の差こそあれ、祖国でパルプルスをこき下ろしている。酷い者に至っては、「あんなのは学生以下」とまで言い放っていた。今逃げ出せば吐いた言葉の全てが――――――いや、それ以上のものが返ってくる。
そうなれば、ISパイロットとしては終わりだ。
(………さて、そろそろ皆気付いたかな?)
絶望的な表情を浮かべる参加メンバーを見て、晶は内心でそんな事を思っていた。
つまりこの教導でパルプルス以上の成績を残せなければ、IS神話を終わらせた戦犯以上の無能という烙印を、押されかねないということに。
そして皆は無意識に目を背けているようだが、彼女は巨大兵器2機と戦い生き延びたのだ。
確かにNEXTの救援が間に合わなければ死んでいただろう。しかしそんなのは些細な事だ。大事なのはあの地獄を生き延び、経験を生かす機会を得たということ。このアドバンテージは大きい。
シミュレーションでは操縦技術が足りずに撃墜されてしまっているが、回避率も与えるダメージ量も、明らかに他の参加メンバーを上回っている。
そして対巨大兵器戦の経験の無い者達が彼女を上回ろうというなら、死に物狂いの努力が必要だろう。
本当に死に掛けた人間を上回る、死に物狂いの努力を、だ。
ここで晶は、最後の一押しをする事にした。
今何とかして希望を探し出そうと、必死に考えを巡らせているだろう彼女達の心を、プライドを一度完全にへし折る。
「今日はもう遅くなってきたし、最後に一戦やって終わりにしようか。全員、シミュレーション準備だ」
「ま、まだやるんですか?」
参加メンバーの1人が、怯えたような顔で口を開いた。
確か教導開始当初は随分自信のありそうな顔をしていた奴だ。
強気な表情が、今は見る影も無い。
「なに、お前達のこれからを考えたら、一度経験させておいた方が良いと思ってな」
「な、なにを、ですか?」
「そこにいるパルプルスが撃墜された状況だ。世間一般では未熟者だの、戦犯だの、色々言われているが、今のお前達なら少しは想像出来るんじゃないのか? 自分が突破されれば大量の一般人が死ぬ。決して撤退の許されない状況で、巨大兵器2機を相手取るのがどれほど絶望的かという事を」
パルプルスを除く参加メンバー全員の表情が、ハッキリと青ざめた。
60%の性能しか発揮していないType-D No.5が相手ですら蹂躙されたのだ。
彼女達の脳裏に、先程行われたシミュレーションの記憶がフラッシュバックしていく。
装甲が砕け、皮膚が裂け、骨が折れ、大空を舞うISが地面に叩き墜とされ、そして成す術なく踏み潰される。
1機でも絶望的なのに、もう1機を同時に相手にする?
「む、無理です!! せめてもう少し練習時間を!!」
「実戦で同じ事を言うつもりかな? 『まだ倒せる実力がないから待って下さい』って。言える訳ないだろう? ――――――分かったら、準備をすると良い。そして理解しろ。お前達の敗北は、お前達の問題だけでは済まないという事を。そして心しておけ、次に巨大兵器が動いた時、前線に立つのはお前達だ。この教導が終わった後、世間はお前達を『巨大兵器の相手が出来るパイロット』として見るだろう。実力が有ろうと無かろうとな。お前達はこの教導に来れた事をとても喜んでいたようだが、分かっていたのかな? この教導に選ばれたという事は、地獄への片道切符を貰っていたという事に。この教導で実力を伸ばせなければ、本当の地獄行きだぞ。多分分かっていなかったんだろう? でなければ第1・第2アリーナでの、あの無様な姿は有り得ない」
晶の言葉を聞いた参加メンバー達の姿は、絞首台に上る死刑囚のようだった。
誰もかれもが青ざめ、隠し切れない恐怖が手足を震えさせる。
そんな中、パルプルスが口を開いた。
「教官。30分だけ、お時間を貰っても良いでしょうか?」
「理由は?」
「お昼に数人には話したのですが、ここで私の経験を全員に話そうと思いまして。その方が多分、彼女達の為になると思います」
彼としては、このシミュレーションが終わった後に話してもらう予定だった。
一度辛酸を舐めてからの方が、より真剣に彼女の話を聞くだろうと思っていたからだ。
だが今の状況を見るに、パイロット同士の絆を育むのを優先しても良いかもしれない。
別に青ざめている奴らが可哀想だから、等という理由では無い。
彼自身が経験して知っているからだ。どれだけ力があろうと、1人で出来る事には限界があることに。困った時に少しでも、1人でもいい。協力してくれる仲間がいるだけで、出来る事は大きく変わるのだ。
尤も参加メンバー全員国が違うので、同じ
「………良いだろう。30分ほどしたら戻る。好きに話すといい」
「ありがとうございます」
こうして晶がピットを離れると、パルプルスは全員を集めて話し出した。
巨大兵器2機と戦った、あの絶望的状況を――――――。
◇
――――――30分後。
晶がピットの入り口から中を覗くと、何やら雰囲気が変わっていた。
パルプルスが参加メンバーの中心にいて、その隣にリリアナが立っている。
雰囲気的に、新米リーダーとそのサポート役というところだろうか?
(何があった?)
思わず首を傾げた彼は、気付かれていないのをいい事に、そのまま様子を伺ってみた。
するとどうやら、面白い事を相談しているようだ。
「私達の実力で、巨大兵器2機を同時に相手するのは無理。でもこのシミュレーションを有意義にする事はできるわ」
「蹂躙されずに?」
「最終的には蹂躙されるでしょう。でも情けない敗北じゃなくて、善戦した敗北くらいには出来ると思うの」
「どうやって? 巨大兵器2機を同時に相手するなら、こっちも複数機で挑むの? 第2アリーナと同じ手段を使うなら、こっちは4~6機が必要になる。現実的にそんな数は動員出来ないよ」
「ええ。だから増やすのは直接戦う前衛じゃなくてサポート要員。つまりオペレーターよ」
「オペレーター!? 戦闘中に役に立つの? IS使用中の私達の反応速度や認識力は――――――」
「分かっているわ。ISを使う私達の反応速度や空間認識力は、常人を遥かに凌ぐ。でも思い出してみて、巨大兵器の攻撃を凌ぐ私達は、それをフルに活用できた? 目の前の攻撃を凌ぐのに精一杯になってなかった?」
パルプルスの言葉に、その場にいる全員がハッとなった。
巨大兵器の圧倒的飽和攻撃はパイロットの行動リソースを瞬く間に食いつぶし、結果防戦一方に追い込んでいると気付いたのだ。
「でもオペレーターが増えたくらいで、そんなに変わるの?」
「私も自信がある訳じゃないの。でもね、知ってる? というか、聞いた事があるはずよ。
「ならオペレーターの役割は?」
「パイロットが見えていない攻撃を教えてあげること。敵の状態の分析して教えてあげること。その他、パイロットが戦闘機動に集中するためのあらゆる情報を伝えること、かしら」
ここまで聞いた晶は、思わず嬉しくなってしまった。
予想以上だ。オペレーターはパイロット側が必要性を認識していなければ邪魔にしかならない。なので単独戦闘に慣れている彼女達にそこまで求めるのは無理だろうと思い、今回はあくまで単独戦闘についてのみ教える気だったのだ。だが彼女達は、自力でオペレーターの必要性にまでたどり着いた。
なら教官としては応えるべきだろう。
「中々良いところに気付いたな。正直、そこまで考えるとは思ってなかったよ」
晶がそう声を掛けながらピットに入っていくと、話に夢中になっていた参加メンバー達が振り返り敬礼で応えた。
「楽にしてくれ。では次のシミュレーションは、そうだな………」
彼は数瞬考えた後、改めて口を開いた。
「巨大兵器2機と戦うのは止めて、さっき戦った60%のType-D No.5にするか。自分達自身が考えた事がどれだけ通用するか、試してみると良い。オペレーターの発案者はパルプルスか?」
「はい。なので初回は私がオペレーターをします」
「分かった。でも出来るのか?」
「ISのオペレートをした事はありませんが、物量に押された時に何が見えなくなるか、というのはこの中で一番分かっていると思います」
「前衛は誰が務める?」
「リリアナにお願いしたいのですが、良いですか?」
「良いわよ。オペレーターがどの程度役に立つのか、自分で体験するのも悪くないわ」
「そうか。なら2人とも、力の限り挑むと良い」
「「はいっ!!」
こうして2人が返事をすると、リリアナはメンテナンスベッドへ、パルプルスはヘッドセットを着けて、オペレーション用コンソールを立ち上げた。
「では始めるぞ。見せて貰おうか。お前達の力を――――――」
◇
こうして始められたシミュレーションは、オペレーターの存在意義に懐疑的だった他の参加メンバーにとって、今までの固定観念を覆すものだった。
シミュレーション用の広大な電子空間――――――蒼い空と広い草原がどこまでも広がる大地に、
対するリリアナは余りにも小さい。まるで人間の周囲を飛び回る小蝿だ。
だがその動きは、先程不様に蹂躙された者の動きではなかった。
決して美しい訳ではない。盾は破壊され、装甲はヒビ割れ、機体の至るところにガタが来ている。自己診断プログラムによれば、機体ステータスは限りなくレッドに近いイエロー。専用機組の方が、まだ幾分かは上手く戦うだろう。
しかし先程のような、一方的な蹂躙ではなかった。
その理由が――――――。
『ミサイル第3波。正面。続いて第4波が左右から』
大量のミサイル飽和攻撃への対処――――――チャフをバラ撒き、マシンガンで迎撃し、それでもなお有り余る物量。その対処に忙殺されるリリアナの耳に届く声が、先のシミュレーションに比べ、一瞬だけ早い状況判断を可能にしていた。本当に一瞬だ。瞬きほどの時間だろう。だがその刹那の差が、物量による圧殺を辛うじて防いでいた。加えて――――――。
『右腕グレネードアクティブ!! 弾幕の向こうからくるわよ!!』
『嘘でしょ!!』
リリアナは悪態をつきながらも、即座にフルブーストでその場からの離脱を試みる。
直後、迎撃していたミサイルの爆炎を5発のグレネードが突っ切ってきた。
しかも回避し辛いように、射線が微妙にズラされている。一瞬早い回避行動が無ければ、この時点で終わっていただろう。
『続いて左腕グレネードが狙ってる!! 両肩ミサイルコンテナもオープン!!』
直撃ではなかった。だが爆風により体勢が崩されてしまったところに、巨大兵器の容赦無い追撃が放たれる。
『こっ、この!!』
態勢を立て直しつつ回避行動を――――――だがこの瞬間に、自己診断プログラムが機体ステータスを更新。
グレネードの衝撃で、右足のブースターがコンディションレッド。出力が急激に下がっていく。
これにより、対処が致命的に遅れてしまった。
(これは、避わせない。なら最後に一発でも!!)
だから彼女は、最後に足掻くことにした。
飛行による回避を諦め、手持ち武装を放り投げながら、地面に向かってブーストダイブ。合わせて
(だけど、間に合った!!)
殆ど墜落同然に着陸し、リリアナが片膝立ちの体勢で、そして両手で構えたのは、全長3mを越える120mmアンチマテリアルキャノン。
ISの性能を以てしても両手を使わなければ反動を抑え切れないという尖り過ぎた性能故に、常に一定以上の愛好家がいる変態武装だ。
(あれだけ大きい的なら外さない!!)
ミサイルによる弾幕とグレネードが迫る中、リリアナはトリガーを引いた。
そして結果を見届ける事なく、彼女の意識は途切れたのだった。
◇
今の戦闘を、壁面にある大型ディスプレイで見ていた教導参加メンバー達は、言葉を失っていた。
この沈黙は、先程一方的に蹂躙された時のものとは違う。
確かに負けはしたし、相手は依然として手加減モードだ。だが無様でボロボロではあるが、戦闘になっていたのだ。
これが初回のシミュレーションでは成す術なく叩き潰された彼女達にとって、どのように思えたかは想像に難くないだろう。
そして晶も――――――。
(これは思いの外いけるか? いやしかし………)
想像以上の出来栄えに喜んでいた。だが彼には、純粋に喜べない理由があった。
オペレーターがいる前提で教導を行ってしまうと、彼女達が祖国に帰った時に、オペレーターがいないせいで上手く戦えないという事態になりかねないのだ。
(………マズイ。そして困った)
オペレーターの重要性を認識した彼女達に、「オペレーター無しでやれ」というのは余りにも酷い話だし、何より最終的な生存率を下げてしまうだろう。
ある程度の練習時間が取れるなら解決出来る問題だが、今回はその時間が無い。
教導は、今日を含めて4日間しかないのだ。
迷い、珍しく長考した晶は、シチュエーションという形で徐々にオペレーターへの依存度を下げていく事にした。
(今日と明日は、このままオペレーターと組ませる形でやろう。そして3日目、4日目は、通信障害などのトラブルで、十分なサポートが受けられない状態………というシチュエーションでオペレーターへの依存度を下げていくか。これなら彼女達の本国の状態に、余り左右されないだろう)
こうして方針を決めなおした晶は、彼女達に声を掛けた。
「この時点でこれだけ出来れば大したものだ。――――――他のメンバーはどうする? 挑んでみるか?」
周囲を見渡しながら言った彼の言葉に、参加メンバー達は近くにいた者同士でパートナーを組み、ある者はメンテナンスベッドに、ある者はオペレーション用コンソールのある席に座り始めた。
「やる気があって何よりだ。だが今日はこの一戦と、オペレーターとパイロットを入れ替えた次で最後だ。だからお前ら、死ぬ気でやれよ。一戦一戦に全力を注げ」
そうして元気の良い返事が返ってくると、晶はシミュレーションを開始させた。
全員敗北という結果は1戦目と変わらない。
だが撃墜されるまでに掛かった時間や与えたダメージ量は、確実に1戦目を上回っていたのだった――――――。
第100話に続く
作者的なぶっちゃけ話。
途中まで完全に「へし折る」気だった作者です。
でも途中で、「ここでパルプルスさんに過去話とか何かアイデア出させたら輝くんじゃね?」などという電波をピピッと受信してこのようなお話になりました。
そんな彼女達がこの後どうなるかは、後編-2をお待ちください。
ただ、同じ苦労をした仲間というのは得難い存在だと思う作者です。