龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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雨季同家さん。感想有り難う御座います。


第四話

 

 

――龍一郎サイド――

 

俺の目の前にいた浦原さんが消えた。

 

否。消えた様に見えた。

 

(瞬歩か!)

 

それを悟っても、俺は飛燕を構えたままでその場を動かずにいた。

 

別に突然の事にパニックを起こした訳でも、相手を見失って固まってしまった訳でもない。

 

確かに消えた様には見えた。だが、完全に見失ってはいない。

 

いや。先程までの俺ならば、浦原さんの姿を完全に見失って固まっていただろう。だが今の俺は違う。

 

(ここだっ!)

 

俺は即座に右を向き、迷う事無く飛燕を右に薙ぎ払った。

 

ガギィン!!

 

金属同士がぶつかり合う耳障りな音が辺りに響き渡る。

 

そして俺の振るった刃の先には、紅姫で飛燕の刀身を受け止めている浦原さんがいた。

 

まさか動きを見切られているとは思わなかったのか、目を丸くして驚いている。

 

(まだまだっ!)

 

俺は手を休めずに一度刃を引いて、逆袈裟・唐竹と更に飛燕を振るう。

 

しかし浦原さんはその全てを躱(かわ)し、紅姫で受け止める。更にその間に此方に隙ができると鋭く正確な斬撃を繰り出し、非常に冷静な対応をしてくる。

 

俺も浦原さんの斬撃をなんとかいなし、防いで反撃する。

 

キンキンキィンッ!と金属音が絶え間なく鳴り響く。そして――

 

ガギィィィン!!!

 

俺の全体重を込めて振り下ろした唐竹割りと、遠心力を付けて威力を増した浦原さんの右薙ぎがぶつかり合い、その衝撃でお互いの体が後方に弾け飛んだ。

 

だが、俺の攻撃はまだ終わっていない。

 

(いくぜ飛燕!)

 

俺の呼びかけに応え、飛燕の刃が淡く輝く。

 

「はぁっ!!」

 

裂帛の気合と共に飛燕を一閃する。

 

すると刃の軌跡に沿って斬撃の波動が放たれ、一直線に浦原さんに向かって空を裂いて飛翔する。

 

鎌鼬(かまいたち)。

 

飛燕の使える二つの技の一つだ。

 

見た目は黒崎一護の斬魄刀『斬月』の唯一無二の技。月牙天衝によく似ているが、破壊力は数段劣る。だが斬撃のスピードは此方の方が上だ。そして鎌鼬にはもう1つ利点がある。

 

「はぁぁっ!!」

 

俺は一閃で終わらず、二閃三閃と連続で鎌鼬を放つ。鎌鼬のもう1つの利点。それはこの連射性。

 

一撃の攻撃力はさほど高くなくとも、速度と連射に優れている技がこの鎌鼬の特性だ。

 

「くっ!」

 

鎌鼬の速度に驚きながらも、浦原さんはその全てを弾き、避ける。

 

だが息つく間もない俺の攻撃で、浦原さんの体勢が僅かだが崩れる。

 

そしてそれこそが俺の狙い目だった。

 

飛燕の切っ先を右下に下げて下段の構えをとり、瞬歩で一気に浦原さんの懐に入り込む。

 

鎌鼬に気を取られていた事で浦原さんの反応が一瞬遅れ、それが隙となる。

 

俺はその隙を突き、右下に下げていた飛燕を左手一本で持ち、思い切り左に切り上げた。

 

完璧に隙を突いた一撃。しかし浦原さんは、ボクシングのスゥエーバックの様に上半身を仰け反らせて一閃を躱す。

 

だがそれは俺の予想通り。

 

振り切った俺の左手には飛燕は握られておらず、右手に握られている。

 

そして左の切り上げを避けようと仰け反った浦原さんはタイミングをずらされ、完全に無防備な状態となっている。

 

その浦原さんの脇腹に右手に握った飛燕で薙ぐ一撃をあてる。

 

一太刀のうちに軌道と持ち手を変えて、変幻自在の斬撃を放つ攻撃法。時雨蒼燕流・攻式五の型・五月雨。

 

家庭教師ヒットマンREBORNのメインキャラクター。山本武の使う技だ。

 

まさか前世で剣道の授業中に、暇だったから練習していた技をここで使うことになるとは思わなかった。

 

「ぐはっ!」

 

峰が肉を打つ感触が手に伝わり、浦原さんが苦悶の呻きを上げる。

 

そして俺は間を置かずに追撃に―――移ろうとして、俺の手が止まった。

 

別に躊躇した訳ではない。飛燕を持つ右手の手首に何かが引っかかり、動きを止められたのだ。

 

(えぇい!何なんだよ!)

 

追撃を止められた事に苛立ちを感じながら右手首を見ると、そこには黒い紐のようなものが巻きついて俺の右手の動きを止めていた。

 

(なんだこれ?)

 

不審に思ってその黒い紐を視線で辿っていくと、その紐は広がって網の様になり、俺を中心にして周りをぐるりと囲っている。

 

そして更にそれを辿っていくと、切っ先を下に下げた浦原さんの斬魄刀。紅姫の剣先へと辿り着いて…………って待て。これはまさか……縛り紅姫!?

 

背中に嫌な汗が伝うのを感じつつ浦原さんを見ると、既に後ろに飛び退いて間合いをとっていた。

 

そして距離が開いてもはっきりと分かるほど、浦原さんの顔には悪戯を成功させた子供の笑顔。俗に言う悪魔の笑みを浮かべて、黒い紐の先端が付いた紅姫の剣先を地に刺した。

 

「火遊紅姫・数珠繋(ひあそびべにひめ・じゅずつなぎ)」

 

ボボボボッ

 

紅姫を刺した所を先頭に、俺の周りを囲んでいる網の繋ぎ目が音を立てて膨らんでいく。

 

(やばい…やばい!やばい!!やばい!!!)

 

俺の脳内で最大レベルの警報が鳴り響く。

 

膨らむ網の繋ぎ目が一つ一つ俺に近づいてくるのが、やけにゆっくりに見える。

 

(仕方ない!こうなったら!)

 

俺は意を決してある力を発動した。

 

 

 

ドドドドドドドォォォォン!!!!

 

 

耳を塞ぎたくなる程の爆音が、連続で空気を震わせる。

 

その爆発と燃え上がる炎を見て、浦原さんは静かに佇んでいた。

 

「いや驚きましたよ……この短時間で、私はあなたに驚かされてばかりっス」

 

そう言って振り返り、浦原さんは視線を向ける。浦原さんの背後に立っている俺に。

 

「あの爆発から逃れられたのは、その眼のおかげという訳ですか」

 

確信を持って此方を見る浦原さんに映る俺の両目は、先程までの赤い瞳に勾玉模様が2つある写輪眼ではなく、綺麗な黄緑色をしていた。

 

「あぁ。これは支配眼(グラスパー・アイ)。これを発動すると数秒の間、目に見える全ての動きを超スローにでき、その間俺自身はいつも通りの感覚で動くことが出来る」

 

あの爆発が起こる一瞬。俺は写輪眼を解除して支配眼を発動。

 

右手に持っていた飛燕を左手に持ち替えて手首に巻きついていた縛り紅姫を断ち切り、瞬歩を使って爆発の範囲外に脱出。浦原さんの後方に立ったという訳だ。

 

「成る程。しかしそれ程の能力。リスクが無い訳ではありませんよね?」

 

「ご名答。よく分かりましたね」

 

「ノーリスクなら、最初に写輪眼を使わずにそちらを使っていた方が、あなたにとって有利は筈ですからね」

 

成る程。確かに。

 

「体に無理な動きを強いる事になりますから、身体面で反動がくるんですよ」

 

現に今、体のあちこちがギシギシいっているのだ。やっぱり支配眼を発動した状態で瞬歩を使って移動するのは無理があったということか。

 

「ところで浦原さん。さっき『何度も驚かされてばかり』と言っていましたが、他にも俺はあなたを驚かせることができたんですか?」

 

体に走る痛みを気取られぬように、俺は敢えて明るい口調で問いかけた。

 

少しでも時間をかけて体を回復したかったし、なにより自分のした行動が目の前の相手に対してどう効果的だったのか、ただ純粋に知りたかったという想いあった。

 

「私が驚いた点は2つ。まず1つ目はあなたが斬魄刀を解放した前と後の違いですね」

 

俺の眉がピクリと動く。

 

「その斬魄刀を解放した後、あなたのスピードが明らかに上昇しました。おそらくそれがその斬魄刀・飛燕の能力……違いますか?」

 

「七十点ですね」

 

おれの採点に浦原さんが「ほぅ」と洩らす。

 

「飛燕の能力は速度の向上。それ自体は間違っていません。しかしただ単に速度が上がっただけではなく、上昇したスピードに自らが振り回されない為に、反射神経や動体視力などもスピードに比例して向上しているんですよ」

 

「成る程。それはなかなか厄介な能力ですね。

これは僕の個人的な見解ですが、その飛燕を解放した時の吉波さんのスピードは護廷十三隊の席官クラス……大体5席か6席と遜色が無いほどに上昇しています」

 

「本当ですか!?」

 

思わず声が大きくなる。確かにかなりスピードが上がっているとは思っていたが、まさかそれ程とは。

 

「自信を持っていいと思いますよ。

さて2つ目に驚いたことですが、それは吉波さん。あなたの成長速度です」

 

「は?」

 

全く予想外だった内容に、俺の口から間の抜けた一言が出てしまう。

 

「この短時間の戦闘で、あなたの動きが明らかに変わってきました。始めに比べて体捌きのぎこちなさは少なくなり、打ち込みは力強くなり、反撃に転じる速度は速くなってきています」

 

「ちょっと待て、おかしくないか?俺が神から貰った無限成長能力は、修行や鍛錬をすればするほど強くなる能力だ。戦闘は組み手として鍛錬に入るのかもしれないが、浦原さんが驚くほどの成長なんて…」

 

「はい。ですから今私が言った成長は、あなた自身が成長しているということですよ。吉波さん」

 

「俺自身が…成長?」

 

思わず鸚鵡返しに聞いてしまう。

 

「エルフィさんから聞きましたが、あなたの無限成長能力で強くなるのはパワーやスピードといった、あくまで表面的なもののみらしいんです。

ですから、今戦闘の中で見せた成長は他ならぬ吉波さん。あなた自身が成長し強くなっているという事なんですよ」

 

浦原さんの言葉を聞き、俺は成長した力をこの目で確認するかのように、手を握ったり閉じたりした。

 

「どうやらあなたは一護さんと同じタイプのようですね。戦闘という極限状態の中で凄まじいスピードで様々な事を吸収し、成長していく。正直驚きましたよ。……………しかし」

 

間を置いて発せられた浦原さんの声は、辺りの空気を数度下げる程に冷たいものだった。

 

「この程度ですか?吉波さん。あなたの全力は?」

 

軽く一歩足を前に出す。たったそれだけの動作で、俺は浦原さんの重圧に押されて無意識に後退してしまう。

 

「あなたはこう言った筈です『今出来る全力を込めて正面からガチンコ勝負をしたい』と」

 

「!!」

 

それは俺が浦原さんに言ったそのままの台詞。

 

(そうだ。浦原さんは俺に応えてくれた。相応にだけど力を出してくれた!……けど俺は本当に全力を出してはいない。何より切り札を出さずして、全力だなんて到底いえない!)

 

「もう一度聞きます。その程度ですか?あなたの『全力』は」

 

再度問いかける浦原さんに、俺は今度は重圧に押されること無くその場に踏み止まり―――頭を下げた。

 

「失礼しました浦原さん。あなたはちゃんと俺に応えてくれたのに、俺は本当の意味で全力を出してはいませんでした」

 

そう言って頭を上げ、俺は飛燕を構える。正眼の構えではなく、刀身を自らの前で横一文字にした構え。

 

「十数秒程度しか出来ませんが、今度こそ全力でいきます!」

 

(いくぜ。飛燕)

 

呼吸を整えて自らの気を高め、相棒と心を一つにする。

 

「卍!か「店長!!大変だ!!!」」

 

卍解を中断させて俺と浦原さんの間に割って入って来たのは、店番をしている筈の花刈ジン太だった。

 

「どうしたんスか?ジン太君」

 

浦原さんが怪訝そうな顔をして聞く。ギャラリーの皆も何事かと此方に集まってきた。

 

「大変なんだ!虚とも破面(アランカル)とも違う、今まで全く見たことも無い化け物が整(プラス)を殺していってんだ!」

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

パニック気味にジン太が叫んだ『今まで全く見たことも無い化け物』という表現に、俺の…いや恐らく雨とジン太以外全員の脳裏に、ある可能性が過(よ)ぎった。

 

 

 

                      ☆

 

 

――エルフィサイド――

 

花刈ジン太からの報告で、浦原喜助と龍のテストを兼ねた戦闘は一時中断となった。

 

今まで虚や破面などと戦ったことのある花刈ジン太が『今まで全く見たことも無い化け物』と表現したことで、我等はその化け物がイレギュラーズである可能性が高いと考え、即時現場に急行する事にした。

 

だが花刈ジン太・紬屋雨の2名は戦うのに装備が必用な為(紬屋雨は素手でもある程度は戦えるが)、浦原喜助と握菱鉄裁が装備を整えるのに時間が掛かるから先に行って欲しいと言ったので、四楓院夜一と龍と我の三人が先行する事となった。

 

ちなみにだが、支配眼と併用して瞬歩を使ったことで身体的な負荷を負っていた龍の体は、我の回復魔法で治療し全快した。

 

無論その後で、今後は気を付けるようにと釘を刺しておくのも忘れはしなかった。

 

そして現在。我は先頭を駆ける夜一を追いかけて、屋根から屋根へと飛び移る龍のすぐ後ろを飛行して追っている。

 

「どうした龍一郎!もっと速く動けんのか!」

 

先を走る夜一が声をかけるが、龍は今の時点で既に最高速の状態だ。当然これ以上速くなど……「舞い上がれ!飛燕!」………その手があったか。

 

斬魄刀・飛燕を解放して速度を上げた龍が、開いていた夜一との間を詰めて後に続き、我も遅れをとらぬように飛行速度を上げて付いて行く。

 

「ところで龍一郎。御主がその斬魄刀を選んだのは、やはりスピードをなるべく上げる為か?」

 

「…はい。その通りです。スピードさえあれば、戦う相手が多少格上でも互角以上に戦うことが出来ますから」

 

肯定した龍は「素人の浅知恵かもしれませんが」と、自嘲的に笑う。

 

「いや。理論的には間違ってはいない」

 

「御主がそうと決めたのなら、儂は何も言わぬ」

 

そんな龍に我はフォローを入れ、夜一はどこか認めるような口調で言った。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

何かに気付いたらしく顔色を変える夜一に我が問う。

 

「どうやら一護達が先に得体の知れぬ奴等と接触したようじゃ」

 

「本当(マジ)ですか!?」

 

龍の声が大きくなる。

 

「あぁ。しかもどういう訳か知らぬが、阿散井恋次(あばらいれんじ)と朽木ルキアも共にいるようじゃ」

 

「…まじかよ」

 

今度は呆れたような顔で溜め息混じりに吐き出す龍。

 

「そろそろ見える位の距離じゃぞ。ほら、あそこじゃ」

 

そう言って夜一の指差す先には、得体の知れない物と戦う六人がいた。

 

身の丈程もある大刀を構えた、オレンジ色の髪をした男。

 

赤色の髪に、いかにもガラの悪そうな目付きをした男。

 

黒髪を肩に触れるか触れないかといった所まで伸ばし、上の二人を怒鳴りつけている女。

 

この三人は死覇装(しはくしょう)を纏っている所を見ると死神なのだろう。

 

そして独特の形をした弓を構え、黒髪に眼鏡をかけた白い衣装を身に纏う男。

 

黒いプロテクターのようなもので右腕全体を覆った、一際背の高く浅黒い肌をした男。

 

胡桃(くるみ)色のロングヘアに六枚の花弁を模したヘアピンをした女。

 

この六人が戦っているのが、一言で表せば『二足歩行になった人間の大人サイズのカブトムシのメス』だった。

 

人間の成人よりも若干大きい体格に、一目で硬そうだと判断できる黒い外甲殻をした存在が、大群で六人に襲い掛かっていた。

 

離れているここから見ても、30~40体位はいるだろう事が分かる。

 

「なっ!あれは!!」

 

虫もどきの姿を見て、龍が驚愕の声を上げる。

 

「龍一郎、あれを知っておるのか」

 

夜一の問いに、龍はしっかりと頷いた。

 

「あれは中甲虫(ちゅうこうちゅう)。冒険王ビィトに出てくる魔物(モンスター)の一種だ」

 

 


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