龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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どうもミステリアです。

まずは・・・本っっっっ当に申し訳ありません!!

速めに投稿すると宣言しておきながらのこの体たらく。

本当にすいません!

書いているうちにどんどんと文字数が増えてきて、最終的には9800文字を超えてしまい、今までの中で一番多くなってしまいました。

とにかくこれでラストバトルは終了し、あと一話を書いてこの第一章を終えようと思っています。

今年中に終えようと頑張りますので、どうか皆様最後までこの物語を温かく見守って下さい。

では、どうぞ!


第四十話

――三人称サイド――

 

ゴオッ!!

 

黒い拳が大気を抉る。

 

ジャッ!!

 

白銀の刃が空を斬り裂く。

 

目線や拳。切っ先を小刻みに動かして牽制し、フェイントをかける。そして放つ互いの一撃を躱し、防ぎ、ぶつけ合い相殺させる。

 

予想・対応・攻略の繰り返し。

 

一体どれほどの間その繰り返しをしていただろう。

数分?数十分?もしかしたら十秒も経っていないのかもしれない。

 

そう思う程に二人は全神経を研ぎ澄ませ、集中力を最大値にまで引き上げていた。

 

天力を増幅させた龍一郎の斬撃と、冥力を纏わせたバウスの拳打。

 

どちらの攻撃もまともに一撃を貰えば、相手の態勢を即座に崩し、必殺の奥義を叩き込める隙を作り出す事が可能となるのを互いが知っているからだ。

 

だから双方は互いの一撃を過剰に警戒し、非常に危うい均衡を保っていた。

 

どちらかの一撃が入れば、一気にあっさりと崩れる均衡を。

 

「はっ・・・はっ・・・」

 

「ふっ・・・ふっ・・・」

 

息を呑む神経戦は恐るべき速度で二人の体力を削り、呼吸を荒くさせる。

 

だがそれでも二人は手を止めること無く、斬撃と拳を振るい。躱す。

 

疲労で思考と動きが鈍り、一撃を受けるのが先か。

 

それとも相手の隙を突き一撃を入れ、奥義を叩き込むのが先か。

 

終わりの見えない我慢比べにどこまで付き合えるのか。

 

先に根を上げた方が敗北となる根比べに打ち勝つのはどちらなのか。

 

二人は負けることなど微塵も考えず、拳と剣を振るい続ける。

 

少しでも負けるといった後ろ向きな考えをしようものなら、相手の気迫に呑み込まれるのが分かっているからだ。

 

だからこそ二人は、自分の最も信頼の置ける武器で勝負に出ている。

 

バウスはその巨躯と体重を最大限に利用した打ち下ろしを。

 

龍一郎はボクシングの体を捻る動きを応用した薙ぎ払いと切り上げを多用していた。

 

だが2人が信頼しているその武器を用いても、危うい場面は幾つかはあるが、結果的に打ち合いの均衡は崩れずにいる。

 

その理由は二つあった。

 

一つは両者共に拳と剣を振るうスピードとパワーに慣れ始めた事。

 

初見ならば対応できないその攻撃を何度も見ている為、対応が容易に出来てしまっている。

 

そして二つ目は信頼している武器で勝負を続けていた為、一定のリズムでの攻防が出来上がってしまっているからだ。

 

たとえ相手の攻撃が見えなくとも、そのリズムが読めれば避けることも可能となる。

 

ましてや最初から同じリズムをずっと繰り返していれば、余程の事がない限りは当たることはない。

 

ならばどうすれば相手に攻撃を当てることが出来るのか?

 

その答えは既に出ていた。

 

変えればいいのだ。リズムを。

 

リズムが出来上がっている今の時点で、いきなり違うパターンの攻撃をすれば、急激なリズムの変化に対応できずにその攻撃を受ける可能性が非常に高くなる。

 

そしてそのリズムを変える攻撃手段を、両者共に持ち合わせていた。

 

だがそれを一向に打とうとはしない。

 

否。打てないのだ。

 

その理由はリズムを変える両者の攻撃法そのものにあった。

 

龍一郎は時雨蒼燕流攻式五の型・五月雨。

 

バウスはミドルキック。

 

共に先程の戦いで相手の意表を突き、隙を作り出していた武器であり、二人も信頼を置いている攻撃法でもある。

 

だが、五月雨は一太刀の内持ち手を変えるが故に、片手で放つ斬撃となってしまう。

 

両手で放つ斬撃に比べてパワーが欠けている為、バウスの態勢を完全に崩せる確証が得られない。

 

その為、龍一郎は五月雨を打つことが出来ずにいた。

 

そしてそれは、バウスの蹴撃にも同じ事が言えた。

 

もしも龍一郎が蹴りの一撃に耐え即座に反撃をしてきたら、片足のみで立っている状態のため、両足で立っている時よりも体勢が崩れやすくなっている。

 

そうなれば龍一郎は一気に奥義を叩き込んでくる事は容易に予想できた。

 

双方共に攻撃をする事によって生まれるリスクが非常に高い為に、リズムを変える一手を打てずに一種の膠着状態へと陥っていた。

 

だが――

 

「はあっ・・・はあっ・・・」

 

「ふっ・・・ふっ・・・」

 

その膠着が崩れる兆しが徐々に現れだしていた。

 

両者の決定的な違いが表に出てきたのだ。

 

それは体格の差――いや。種族の差と言い換えた方がいい。

 

体格とは即ち、蓄積出来る体力の大きさ。エネルギーを貯蔵できるタンクの総量という事だ。

 

人間同士の戦いでも、体格の差はそのままパワーと体力の差となる。

 

人間とヴァンデルとではそれがより顕著となり、互いに体力が減っていけばエネルギーの蓄積量が大きいヴァンデルに軍配が上がるのは当然の結果といえた。

 

そして龍一郎には、その差を更に広げるもう一つのマイナス要素が存在していた。

 

それはこの戦いの前に受け、身体の奧に蓄積されたダメージだ。

 

執務室での戦いで受けた傷は花太郎によって治療されたが、花太郎が言ってはいたがそれはあくまで応急処置。

 

外傷は塞ぐ事は出来ても、杭のように内部にまで打ち込まれたダメージを完全に回復させる事は出来ない。

 

そして先程の二戦目で、龍一郎は本来なら動くことが出来ない程の大ダメージをその身に受けていた。

 

天力珠の力によって戦える程度に回復はしたものの、完全に回復した訳では無くあくまで『程度』でしかない。

 

そんなダメージの残った身体で、更に恐ろしい速度で体力を削られる精神戦によって、身体の内部に澱の様に溜まっていたダメージが一気に噴き出して龍一郎の身に襲いかかっていた。

 

既に残された体力は殆ど尽きているという事を自覚し、いきなり体がいうことを聞かなくなる。

 

もしも今の龍一郎の状態でバウスの魔奥義をまともにくらえば、良くても大怪我。悪ければ即死の可能性すらある。

 

だが――

 

「はぁっ!・・・はぁっ!」

 

己の身体の状態を承知していてもなお、龍一郎は間合いを開けて少しでも体力を回復させようとはせずに、その場に留まり刃を振るう。

 

龍一郎がそうさせる理由は二つあった。

 

それは『不安』と『恐れ』だった。

 

再度この状況に持ち込めるか分からない『不安』。

 

この距離に引きずり込み、龍一郎は僅かではあるが自らにとって有利な状況にした。

 

だが一度距離を開けてしまい、再びこの状態へとする事が出来るのか?

 

その可能性はかなり低かった。

 

バウスは非常に勘の良い相手だ。

 

二度も同じ手が通じるとは到底思えない。

 

よしんば同じ状況に持ち込んだとしても、何らかの対策を考えているだろう。

 

そして一息吐くことでバウスも回復されてしまうという『恐れ』。

 

距離を開けることで体力を回復出来るのは龍一郎だけではない。

 

バウスにも同じ事が言えるのだ。

 

確かに距離を開けて龍一郎は僅かでも体力を回復さる事は出来る。

 

だが、龍一郎よりも体力が減っていないバウスの方が、回復するスピードが遙かに速い。

 

今まで積み上げてきたものが文字通り水の泡となってしまう。

 

これ程怖いものは無い。

 

その二つの理由が龍一郎の足を止め、刃を振るわせていた。

 

だがそんな恐怖心を抱いている龍一郎に、バウスは最大級の警戒を向けていた。

 

恐怖心に押し潰されそうな龍一郎の眼の奥にある確かな光。

 

まだ縋るものがある。

 

弱っていても、まだ突き立てる『牙』はまだ残っており、その突き立てる一撃を。その一瞬を狙っている眼だ。

 

光からそれが伝わってくる。

 

その光がバウスの脳に警鐘を鳴らし、虫の息同然の龍一郎相手に強引に攻めようとする身体を抑えつける。

 

だが、それで止まるバウスでは無かった。

 

自らを抑えつける何かを振り払うかの様に、最も自信のある拳打。右の打ち下ろしを放つ。

 

一直線に自らに迫り来る黒い拳に、龍一郎の眼の奥に灯る光が輝きを増した。

 

(ここだ!!)

 

龍一郎の心の声が、バウスにも聞こえたような気がした。

 

龍一郎はエクセリオンブレードの切っ先を左下に下げて構え、バウスの右拳を潜り抜ける様に躱し、更に左足を前に出して大きく踏み込み、バウスに肉薄するほどに接近する。

 

「――!!」

 

懐に入られた事に、バウスの顔が驚愕に染まり、刹那の後にその表情が嘲りと失望を綯い交ぜにしたものに変わる。

 

(こんなものに縋っていたのかよ)

 

表情からバウス心の内が伝わる。

 

自分で自分の首を絞めた愚策を秘策だと思い込んでいた己と、それを敢行した龍一郎に失望したのだ。

 

龍一郎の得物はエクセリオンブレード。つまり大剣だ。

 

大剣はリーチと破壊力がある分、接近され懐に入られると剣を振り切れなくなり、長所である破壊力を存分に生かすことが出来なくなり分が悪くなる。

 

それは自らが相手の懐に入った時も当てはまる。

 

もしこれが執務室での戦いの時のように、鉄甲化したクラウンシールドを身に付けての戦いならば上策だったのだが、得物の選択はエクセリオンブレード一択のこの状況では下策以外の何者でもない。

 

だが踏み込んだ龍一郎の顔には自らの失策を悟った色はなく、希望に向けて踏み出す者の顔をしていた。

 

(後ろに下がるのを恐れて破れかぶれで前に出たか!?結局お前は逃げただけなんだよ!)

 

龍一郎を見下ろすバウスの顔が嘲笑に染まる。

 

(防御は間に合わないから、お前の一撃は間違い無く当たるだろう。

だが、充分に力を生かしていない攻撃じゃあ、俺の動きを止めることも体勢を崩すことも出来はしない。

この一撃を耐えて、縋っていたものが通じずに絶句するその時に、ハウリングドプレッシャーを叩き込む!)

 

待ち構えるバウスに、龍一郎は躊躇い無く踏み込んだ左足を軸に身体を回転させ、腰から肩まで全てを巻き込んで破壊力を増大させた一撃を、右脇腹。人間でいう肝臓の部位に一気に叩き付けた。

 

ドズゥッ!!

 

響いたのは、刃が肉を斬り裂く斬撃音ではなく、打撃音。

 

まるで杭を打ち込まれたような重い衝撃音の後に――

 

「がはぁっ!!」

 

これまで揺らぐことの無かった身体が『く』の字に曲がり、肺の中にある空気を泡混じりに吐き出して悶絶するバウス。

 

そのバウスの右脇腹には龍一郎の叩き込んだエクセリオンブレードの『柄頭』が深々と突き刺さっていた。

 

そう。龍一郎の狙いは初めからこれだったのだ。

 

残り少ない自分の体力とは比べるべくもないが、バウスの体力も多少は消耗している事は息遣いをし始めた時から龍一郎は分かっていた。

 

だから消耗している状態の相手に最も効果的な攻撃を当てたのだ。

 

と口で言うのは簡単だが、実際龍一郎にとって大きな賭であった。

 

まずヴァンデルと人間とでは体の構造的に全く違っている為、人間の身体的には効果的な攻撃でもヴァンデルにも効果的なのかは分からなかったのだ。

 

ボディブローが効果的な攻撃だといわれるのは、体の内にダメージを与えるからだ。人間の呼吸は横隔膜の上下運動によって成り立っている。

 

その横隔膜を取り巻く肝臓・脾臓・胃にダメージを与えることでその上下運動を奪い、呼吸困難にすることが出来る。

 

体力が消耗し呼吸が荒くなる時にこの状態に陥れれば、相手は呼吸をしたくとも出来なくなってしまう。

 

ボディブローが地獄の苦しみといわれる所以は其処にあった。

 

とはいえ龍一郎も、身体の構造が違うヴァンデルにそこまでの効果を期待していた訳ではない。

 

消耗しているのならば、体の内に浸透する攻撃を当ててダメージを表に出す。

 

運が良ければ、呼吸運動を司る器官にダメージを与え、バウスの動きを止める事が出来る。

 

他に手が無かったとはいえ、正に一か八かの大博打であった。

 

そして龍一郎はこの賭けに勝った。

 

全く警戒していなかった一撃に、バウスは今まで見せた事がない程の苦悶の表情を浮かべていた。

 

噛み締めている歯の隙間からは泡が吹き出し、完全に足が止まっている。

 

当然決定的なその隙を、龍一郎は見逃さない。

 

最後の体力をかき集め、龍一郎は右足を左足に交差する様に前に出し、軸足の左足を体ごと回転させて必要最小限の動きで、バウスの背後に回り込む。

 

それと同時に体を回転させる勢いを利用し、エクセリオンブレードを右に切り上げた後に肩に乗せる。

 

そして柄を握っていた左手を放し、親指と人差し指のみを開いて上に向け、バウスに向かって突き出す。

 

龍一郎から見て親指と人差し指の間にバウスの姿がロックオンされたように映る。

 

「ゼノン・・・」

 

龍一郎は突き出していた左手を戻し、再び柄を握りしめる。

 

龍一郎のその時を待っていたかのように、エクセリオンブレードの刀身が飛び立つ寸前の羽根の如くバッと大きく開かれた。

 

だがしかし、龍一郎は此処で一つ致命的なミスを犯していた。

 

技の名を言ってしまった事によって、その声をバウスに今自らがいる場所を把握されてしまったのだ。

 

首を回し、怒りによって血走っている眼を向けられ、龍一郎は自らの迂闊さを呪った。

 

だがしかし。位置を知り、龍一郎が何をしようとしているかをその目で見て知ったにも関わらず、バウスはその場から動こうとはしなかった。

 

否。バウスは足を動かし、その場から逃れようとはしていた。だがその動作は酷く緩慢で、動き事態もまるで足そのものを引き摺るかの様な動きだった。

 

その様子を見て、龍一郎は此処が最大にして最後の好機であると確信し、躊躇い無く地を蹴って力強く跳躍した。

 

何故なら今のバウスの姿は、龍一郎には非常に見覚えのある姿だったからだ。

 

バウスに酷似した姿。それは強烈なボディブローを受けたボクサーのそれだった。

 

強いボディブローをまともに受けると、全身に電気が走ったと錯覚する程に衝撃が体の内部にまでに走り、動作が鈍くなる。

 

足を引き摺る様な動きも、大きなダメージを負って足にきている場合の典型的な動きの一つだ。

 

それを知っていた龍一郎は、バウスにゼノンウィンザードの一撃をかわせないと確信し、最後の勝負に出たのだ。

 

そして龍一郎は落下の勢いと自らの全体重を乗せた大上段の一撃を、渾身の力を込めて振り下ろす。

 

「ウインザァァァド!!!」

 

裂帛の気合いと共に振り下ろした光の刃がバウスに迫る。

 

だがその刃を黙って受ける程、バウスは甘い相手では無かった。

 

龍一郎が跳躍の最高点に到達するまでに龍一郎と向かい合うように体の向きを変え、両の拳を腰だめに構え、冥力を込める。

 

そして全身全霊を持って振り下ろした龍一郎の一撃を、両の拳を一気に突き出して迎え撃った。

 

「ハウリングドプレッシャァァァッ!!!」

 

ガギュイィィィッ!!!

 

耳を塞ぎたくなる程の不協和音がドーム全体に響き渡り――

 

「なにっ!」

 

次いで龍一郎の驚愕の声が響く。

 

龍一郎の視線の先。其処には二つの拳を交差させてゼノンウィンザードの一撃を受け止めたバウスの姿だった。

 

冥力を纏った二つの拳の交差点と、天力を高めた刃がぶつかり合い、先程の不協和音を奏でたのだ。

 

刃と拳の合わさり、天力と冥力という相反する二つの力が拮抗する。

 

「オオォォォッ!!」

 

「ハアアァァァ!!」

 

双方が拳と刃に込められた冥力と天力を更に高め合い、バチバチと放電現象が発生する。

 

正に互角。どちらが押されも押し込みもされていない。完全な拮抗状態となっていた。

 

だが龍一郎にとってこの状況は最悪といってもいいものであった。

 

残された僅かな体力をかき集めて放った奥義を止められ、更に死力を振り絞って天力を高めても拮抗状態にする事しか出来なかったのだ。

 

そして間の悪いことに、先程天力を高めたから、龍一郎に強烈な眠気が襲い掛かっていた。

 

それは『冒険王ビィト』で主人公のビィトが何度も経験していたものだった。

 

才牙は一撃必殺の力を持つが故に天力を大量に消耗する。

 

あまりに戦闘が長引けば、消耗した天力を回復する為に短時間だが強制的な眠りに襲われる。

 

そしてそれは龍一郎にも例外なく当てはまる事だった。

 

冷静に思い返せば、執務室では水破爆撃乱舞を使用し、この場ではエクセリオンブレードを長時間使用していたのだ。

 

限界が訪れるのはある意味当然といえるだろう。

 

むしろ、よく此処まで持ったものだと感心する程だ。

 

だがこれ以上天力を使えば、龍一郎は意識を失い眠りに落ちることは明白であった

 

体力は底をつき、これ以上に天力を高める事も出来ない龍一郎に対し、バウスは腹部に受けたダメージは時間が経つ毎に回復していき、冥力そのものを放出する攻撃を殆ど使っていなかった為に、まだまだ冥力が温存されていると見てもいいだろう。

 

即ちこの拮抗状態が長引くのは、龍一郎にとって百害あって一利無しと言ってもいい。

 

だが、龍一郎が引く素振りを見せれば即座に均衡は崩れ、バウスのハウリングドプレッシャーによる爆撃をその身に受けるであろうことは容易に想像できた。

 

押すことも引くことも出来ない。完全な八方塞がりであった。

 

(どうする・・・どうする・・・)

 

必死に考えを巡らせる龍一郎であるが、時間は無情にも過ぎていき、迷っている間に徐々に均衡が崩れ始める。

 

バウスが更に冥力を高め、エクセリオンブレードが押し戻されてきたのだ。

 

「ぐっ・・・!」

 

龍一郎も渾身の力を込めてなんとか押し戻されるのを止めようとするが、全く止まることなく更に押し込まれていく。

 

(これまで・・・・・・なのかよ)

 

焦りと迷い。そして八方塞がりのこの状況に心が折れかけ、目の前の事実から目を背けたくなる恐怖に、思わず眼を閉じてしまった龍一郎の内に弱音が灯る。

 

だが――

 

がっ!

 

エクセリオンブレードの柄を握る手から妙な手応えが伝わり、それと同時にバウスから押される力が弱くなった様に感じた。

 

不思議に思い恐る恐る目を開けた龍一郎の視界には、エクセリオンブレードの峰の部分に横から延びる黒く細長い見覚えのある刀身が乗っている光景だった。

 

そしてその黒い刀身の元を目で追うと、其処には虚の仮面を付けた黒崎一護がいた。

 

 

 

――龍一郎サイド――

 

「い、一護さん!?」

 

「貴様っ!?」

 

突然の事に俺もバウスも動揺を露わにする。

 

だが俺は、交わした一護さんの視線からその意志を読み取り、目の前の敵。バウスに意識を集中させる。

 

――一気に決めるぜ!――

 

俺には一護さんがそう言ってくれている様に感じたのだ。

 

「オオオォォォォッ!!!」

 

「アアアァァァァッ!!!」

 

俺と一護さん。2人の咆哮に応えるかの様に、天鎖斬月の刀身から黒い霊圧が放出され、エクセリオンブレードの刀身が白銀に輝き出す。

更に高められた2人の力が、バウスの拳を押し戻していく。

 

「なっ!」

 

動揺による一瞬の緩み。それは均衡を破るのに充分なものだった。

 

刹那の後――

 

ザンッ!!!

 

バウスの身体に白と黒。二つの剣閃がクロスを描き――

 

「っがあああぁぁぁっ!!!」

 

バウスの苦痛の叫びがドーム全体に響き渡る。

 

しかしまだバウスが地に足を着けて立っているのを見た俺達は、バウスの背後に降り立った後に、各々の得物に力を込め――

 

「月牙・・・」

 

「これで・・・」

 

刃を振るうと同時に、一気に解き放った。

 

「天衝ぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「最後だぁぁぁぁぁっ!!!」

 

振るった刃に沿って放たれた白と黒の月牙が空を疾駆し、バウスに直撃する。

 

「―――!!!」

 

二つの斬撃の波動がバウスの叫びを呑み込み、光の火柱が黒と白の螺旋を描いて天を突く。

 

「・・・っ」

 

立ち上る光の柱が螺旋を描く事で発する衝撃波が、もはや刃を振るって流れる身体を支えることも出来ずに、うつ伏せに倒れた俺の髪を舞い上げ、天鎖斬月を地に突き刺し、杖代わりにすることで辛うじて立っている一護さんの頬を打つ。

 

そして光の柱の全てが吸い込まれる様に天へと昇ったその場には――

 

体の至る所に傷が付いたバウスが両の足で地を踏みしめて立っていた。

 

「ぁ・・・ぁ・・・」

 

「嘘・・・だろ」

 

目の前にある残酷な現実に俺も一護さんも目を見開き、俺は意味のない呻きにも似た声を

上げ、一護さんは愕然とした様子で呟きを漏らす。

 

「中々やるじゃねぇか。まさかここまでとは思わなかったぜ」

 

ズシャッ・・・ズシャッと足音をたてて近付いて言うバウスの賛辞の言葉も、俺達にとっては何の慰めにも希望にもならなかった。

 

「こんなことになるのなら、もっと速くにお前等を殺しておくべきだったぜ」

 

地に伏している俺の前で歩みを止め、見下ろすバウスが低い声で言葉を紡ぐ。

 

「だがそれも・・・もうどうでもいい」

 

一転してどこか愁いを帯びた様な口調で語るバウスの足元で、ピシッと罅が入る様な小さい音が走った。

 

怪訝に思い、近くにいるバウスに目の焦点を合わせて視線を向けた俺は「あっ!」と声を上げそうになった。

 

俺の視線の先。

 

其処には下半身から徐々に石化していき、砂の城のように今にも崩れ去りそうなバウスの姿だった。

 

一護さんと共に切り裂いたゼノンウィンザードの一撃と、斬撃の波動は確かにバウスに効いていたのだ。

 

その命の炎を掻き消す程に。

 

「不思議だな。こんな状態だっていうのに、恨みも辛みも無ぇ。もしかしたら、こうなる事がどこかで分かっていたのかもしれないな」

 

静かに。そして穏やかに語るバウスの言葉を、俺も一護さんもただ黙して聞いている。

 

「だからこそ・・・こんな手を打っていたんだろうな」

 

・・・ん・・・?

 

気になるバウスのその一言に、俺はなんとか視線だけでも動かして周りの状況を探る。

 

そしてその一点に気が付いた。

 

それは腰まで石化しているバウスの足元。

 

天から降り注ぐ太陽の光によって出来る影だった。

 

とはいえ、別に形が変わっているという訳ではない。

 

『増えて』いるのだ。影が。

 

バウスの身体を支点に、地に延びる影が左右に分かれていたのだ。

 

そして俺はこの現象に見覚えがあった。

 

「バウス・・・お前まさか・・・」

 

「流石に早いな。もう気付いたか」

 

石化が胸部まで進んだバウスがすっと上を見る。俺は眠気と疲労で動けないが、その視線の先にどんな光景があるのかは想像できた。

 

「太陽が・・・2つ?」

 

そしてその想像は、バウスにつられて上を見た一護さんの漏らした呟きによって間違っていないことが証明された。

 

「破滅の恒星。上空で太陽に擬態して一気に落下。大爆発を起こすモンスターだ。その破壊力は一国を消し飛ばす程だと言われている」

 

「なっ!」

 

口を歪めて語るバウスに、一護さんが驚愕する。

 

「バウス・・・ッ!」

 

俺はせめてもの抵抗とばかりに殺意を込めて睨むが、バウスは平然として受け止めている。

 

ゴゴゴゴゴ!!!

 

破滅の恒星が落下してくる際に発する轟音が、瀞霊廷中に響いているのではないかと錯覚

する程に響く。

 

「最後にテメェ等のそんな顔が見れてよかったぜ・・・あばよ」

 

「ふ・・・ざける・・・なぁっ」

 

首から顎に。そして完全に石化し、最後の言葉を残したバウスに、俺は既に届かないと知りつつも恨み言をぶつける。

 

そうしている間にも破滅の恒星が発する轟音が轟き、この場へと接近しているのが見なくても理解できた。

 

俺の体力が全快ならばもしかしたらなんとか出来るのかもしれないが、体力も天力も底を尽いている今の俺に出来ることは、襲い来る睡魔に抗う事だけだった。

 

そして一護さんも、バウスにダメージ受けた体で無茶をした事によって、その場から動く気配を見せないでいた。

 

「・・・っ!」

 

俺は睡魔が消失する程に内から湧き出てくる悔しさと、自らに対する不甲斐なさ。それらが綯い交ぜとなった怒りに、ギリッと音がする程に奥歯を強く噛み締め――

 

「ちっ・・・くしょおぉぉぉぉっ!!!」

 

天に向かい吠えた。

 

――刹那。

 

パリィィィン!!

 

何かが砕けたような澄んだ音が、俺の頭上からドーム全体に響き渡った。

 

余りにも唐突に響いた場違いなその音に、俺も一護さんも呆けてしまい、状況を把握しようとする事すら出来ずにいた。

 

その時――

 

「龍!」

 

聞き覚えのあるその声と共に視界の中に入ってきた足を見て、俺は迷うことなくその名を呼ぶ。

 

「・・・エルフィ」

 

そう。俺の前に現れたのは、山本総隊長と雀部副隊長と共にバウスによって異空間に飛ばされた相棒のエルフィだった。

 

エルフィは膝を付いて立ち上がれずにうつ伏せに倒れている俺に視線を合わせ「遅れてすまない」と詫びる。

 

律儀な相棒に俺はフッと苦笑して「いいさ。来てくれて助かった」と礼を言う。

 

エルフィは俺の右の鎖骨に左の掌を入れて持ち上げ、左の肩甲骨に右の掌を添えて支え、俺の体勢を優しく入れ替えてくれた。

 

「よくやってくれた。後は私達に任せてくれ」

 

仰向けになったことで上を見ることが出来るようになった俺の視界に、上空から徐々に迫ってくる破滅の恒星と、それを迎え撃つ二つの光が見えた。

 

「総隊長達も・・・無事だったんだな・・・」

 

「あぁ。もう大丈夫だ」

 

優しく諭すように言ってくれる相棒の言葉に、俺は襲い来る睡魔によって意識が途切れ途切れになる。

 

そして俺が意識を失う前に見た最後の光景は、十字を描く赤い剣閃によって四つに断ち切られ、雷を打ち込まれ爆散されていく破滅の恒星だった。

 


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