龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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大変お待たせいたしました。そして申し訳ありません。

どうにか七月中に投稿しようと頑張っていたのですが、様々な原因が重なって八月になってしまいました。

上司の馬鹿ー!なんで残業と休日出勤を当たり前のように言ってくるんだよー!

自分の馬鹿ー!いくらバトライドウォー2が面白いからってなんでIS×仮面ライダーとか何番煎じか分からないのを書こうとしているんだよー!この話を終わらせるのが先だろー!

すいません。取り乱しました。

えぇと・・・では、第三十七話をどうぞ。


第三十七話

――三人称サイド――

 

斑目一角は目の前で起きている事が理解出来ず、只目を見開いてその場で固まっていた。

 

いや。正確に言えば理解はしている。

 

だが、目の前で起こっている事が信じる事が出来なかった。

 

「ゲヘヘヘ・・・」

 

聞き覚えのある下品な含み笑いを漏らしながら剣を振るい、隊士達を斬りつけている更木剣八に・・・いや。

 

この時点で既に一角は、目の前で凶剣を振っているのが、更木剣八であってそうでないという事に、なんとなくだが気付いていた。

 

おそらくは一角だけではなく、周りの隊士達に隊長から離れるように指示を出している綾瀬川弓親や、塀の上から冷めた目で見下ろしている草鹿やちるも気付いている。

 

さっきまで更木剣八と戦っていたヴァンデル・ハングが、その中に入り込んで操っているという事を。

 

――ギリッ!

 

それに気付いた時に一角の中で、無意識に奥歯を強く噛み締める程の激しい怒りが湧き上がった。

 

「くらえぇっ!」

 

逃げ遅れた隊士に向けて袈裟斬りに振り下ろすその刃を、一角は地を蹴り瞬歩を使って刃の前に立ちはだかり、斬魄刀の刀身と鞘を交差させて振り下ろされる刃を受け止めた。

 

ガキィッ!!

 

「・・・ってんじゃねぇ」

 

「あ?」

 

「隊長の体で、んなド素人の剣を振るってんじゃねえって言ってんだよ!!」

 

剣を受け止めたままで、一角は荒ぶる心のままに吠える。

 

「刃筋も立ってねぇ!太刀筋は大雑把!踏み込みも出鱈目!いくらテメェが操っていても、んな素人臭い剣を隊長が振るっているのが俺は我慢ならねぇ!!」

 

「何訳の分からないことを言ってんだぞ~!」

 

剣八・・・否。ハングは剣を振り上げて再度振り下ろすが、一角は半歩動くだけでその一閃を躱す。

「隊長の剣はこんなもんじゃねぇ・・・」

 

変化を付けて今度は横へと薙ぎ払ってくる一閃を、体を僅かに仰け反らせるだけで避ける。

 

「隊長の強さはこんなもんじゃねぇ・・・」

 

そしてまた振り下ろしてくる刃を、一角は右の逆手に持った鞘で受け止め――

 

「俺が下で戦って死のうと望んだ強さを・・・汚すんじゃねぇ!!」

 

怒りの感情と渾身の力を込めて、左に持った剣を逆袈裟に振り下ろした。

 

だが――

 

ガキィッ!!

 

一角のその一撃は隊長を斬るのを刀が拒絶するかの様に、剣八の皮膚に当たる寸前で止まってしまった。

 

「っちぃ!」

 

一角は何が起こったのか瞬時に理解し、舌打ちして後方に跳んで間合いを取った。

 

「へっ・・・やっぱり操られていても隊長の体には違い無ぇか。無意識に霊圧が出てやがる」

 

そう。一角の斬撃を防いだのは、剣八が無意識の内に出している霊圧だった。

 

元々剣八がその身に内包している霊力は、隊長格の中でも群を抜いている。

 

その為無意識の内に出てしまっている霊圧でも、余程の実力者が霊圧を研ぎ澄ませて攻撃でもない限りは簡単に防いでしまうのだ。

 

だが手が無い訳ではない。

 

確かに剣八にダメージを与える事は難しい。だが逆に言えば、実力者が霊圧を研ぎ澄ませて攻撃すれば、それは可能となる。

 

それに一角は立場こそ三席だが、隊長となる必須条件である斬魄刀二段回目の解放形態である卍解を体得している指折りの実力者である。

 

霊圧さえ研ぎ澄ませれば、剣八を斬り裂く事も不可能ではない。

 

だが一角は剣八に斬撃を与える事を早々に排除していた。

 

(隊長の体を斬った所で、あのデブ野郎が隊長の体から出てくる保証は無ぇ。それなら・・・)

 

浮かんだ考えは策というより、一か八かの賭に等しい内容。

 

しかし一角はそんな状況にいても歯を剥き出しにして笑みを浮かべ、剣の柄頭と鞘の鯉口を合わせて己の斬魄刀を解放する。

 

「延びろ!鬼灯丸!!」

 

剣と鞘が合わさり槍の姿に変わった鬼灯丸を刃を下に下げた下段の構えを取り、一角は地を蹴って切り上げの斬撃を放つ。

 

ギィンッ!

 

その一閃は横一文字にした剣八の・・・否。ハングの剣に防がれるが、一角は焦らず柄を分割して鬼灯丸の本来の姿である三節根となる。

 

そして一角は大きく一歩踏み込み、三節に分かれた石突きの部分をハングの左頬に横殴りに殴りつけた。

 

ガッ!

 

殴打されたのと反対側にハングの首が回り、僅かに体勢が崩れる。

 

一角はその隙を逃さず、ハングが持っている剣に三節根を絡ませて一気に引っこ抜く。

 

スポッと擬音を感じる程に鮮やかに抜けた剣は宙を舞い、一角の背後にある塀の壁に深々と突き刺さる。

 

「こっのぉ~!小癪な真似おぉ~!」

 

得物を失い怒ったハングは、懐に入り込んでいる一角に拳を振るう。

 

それは御世辞にも鋭いとはいえない、ただ振るっただけの鈍重な一撃。

 

だが一角は避けようと思えば避けられたその拳打を、敢えて顔面で受け止めた。

 

ゴッ!

 

ハングの拳が一角の頬にめり込み、鈍い音が辺りに響く。

 

だがしかし拳打の一撃をまともに受けながらも、一角は一歩でも動く事はおろか、体勢を崩す事も無くその場に立っていた。

 

「んなパンチが・・・」

 

一角は頬に拳をめり込ませたままで口を開き、剣八の右目に装着している眼帯に手をかけ――

 

「俺に効くかぁ!!」

 

一気に毟り取る。

 

刹那。

 

ドンッ!!!

 

天に向けて一直線に霊圧が吹き上がった。

 

技術開発局によって作られ、剣八の右目に付けられていた眼帯によって封じられていた霊圧の全てが解放され、それによって発生する衝撃波が周りにいた十一番隊士やモンスター達を全て吹き飛ばす。

 

当然至近距離にいた一角も周りと同様に・・・いや。周り以上に大きく吹っ飛ばされた。

 

その中で一人。霊圧の中心で立っているハングは――

 

「グヘヘヘヘ・・・」

 

自らの内から湧き上がってくる力に笑いを止められずにいた。

 

「へへへへ・・・まさかこいつにまだこんな力があるとは思わなかっ『おい』・・・あ?」

 

優越感に浸るハングの声を遮って、内側から聞き覚えのある獰猛さを感じさせる低い声が響く。

 

『俺の体で好き勝手してくれたな』

 

「なぁっ!貴様どうやって!?」

 

声の主の正体に思い至ったハングが驚愕の声を上げる。

 

そう、獰猛な低い声の正体。それは体を乗っ取られている筈の更木剣八の声だった。

 

「貴様の意識は完全に封じ込めた筈だぞ~!何で表面に出て来たんだぞぉ~!」

 

『そんな事俺が知るか』

 

動揺して声を荒げるハングの問いを、剣八がたった一言で一蹴する。

 

動揺していたハングは気付かなかったが、実はこれこそが一角の賭に等しい考えの内容だった。

 

剣八の霊力を封じ込めている眼帯を外して解放し、そのショックでハングを追い出すか、せめて剣八の意識だけでも目覚めさせようと考えたのだ。

 

だが失敗すれば、ハングの力を増すのみに終わってしまう。文字通り一か八かの賭というべき考えだった。

 

だが一角はその賭に勝ち、意識のみではあるが剣八を目覚めさせる事に成功したのであった。

 

『それはそうと、俺の体使って随分と好き勝手してくれたじゃねぇか?』

 

ハングはその声と言葉だけでも、剣八が歯を剥き出しにした凶悪な笑みを浮かべている姿が充分に想像できた。

 

だがハングは不敵に笑って返す。

 

「何を偉そうなこと言ってんだぞぉ~!いくらお前が意識を取り戻したって、俺の操作か

ら逃れた訳じゃねぇ。結局お前は何にも出来ない事には変わり無いんだぞぉ~!」

 

ハングの言葉は完全に正論だった。いくら剣八の意識が戻ったとはいえ、ハングが体を操り動かしている以上、どうする事も出来ないのが実情だった。

 

だがハングの強気な表情は――

 

『そうかよ。じゃあ――』

 

さらりと吐いた剣八の言葉によって――

 

『お前の意識を殺せばいいんだな』

 

凍り付いた。

 

「な、何言って・・・」

 

『お前の意識を殺せば、体は自由になるだろ』

 

動揺に声を震わせるハングに、剣八は淡々と告げる。

 

『さっきは水みてぇになって俺の剣を避けていたが、流石に意識の中まで同じ事は出来無ぇだろうしな』

 

剣八の言葉に応えるかの様に、自らの内側から湧き上がってくる霊圧が更に強くなってきているのを感じ取る。

 

自らの体に起こっての事にも関わらず、自らの意思に全く従わない。

 

ハングは始めて恐怖を覚えた。

 

「待!・・・」

 

『じゃあな』

 

ドンッ!!!

 

更に霊圧が解放された事によって起こった衝撃に砂塵が舞い上がり、轟音によってハングの声が掻き消される。

 

そして舞い上がった砂塵が再び地に舞い降り、視界が晴れたその先には、剣八がただ一人立っているだけだった。

 

「剣ちゃ~ん!!」

 

そんな剣八の肩に、先程まで塀の上に乗ってただ見ていた草鹿やちるが死覇装をたなびかせて飛び乗ってきた。

 

「おっかえり~!」

 

剣八は肩の上に乗ったやちるに流し目を送って「おう」と答え、自らの斬魄刀を取る為に歩を進めた。

 

剣八の後方で吹く風が、まるで誰にも最後を見届けられなかったハングの恨み言であるかの様に、砂塵を軽く舞い上げて剣八の隊首羽織を僅かに汚した。

 

 

                ☆

 

ドンッ!!

 

凄まじい轟音と共にストローガの体が一気に吹っ飛ばされ、塀の壁に叩き付けられる。

 

だが叩き付けられた塀には罅は入っても砕ける事は無く、ストローガは塀にめり込むだけに終わった。

 

「どうした?最初の攻撃より随分と威力が落ちているじゃ無ぇか?」

 

壁にめり込んだ体を抜き、挑発しているかの様に言うストローガの足元に、今の一撃を防御した事でボロボロとなっている肩から生えた『腕』がカランカランと軽い音を立てて落ちる。

 

「その威力の落ちている攻撃に対しても全力で防御している貴様に言われたくないな」

 

落ちた『腕』を流し見てふっと鼻で笑って挑発を返す砕蜂に、ストローガは「俺の体内には無数の腕が埋め込まれている。幾ら砕こうと無駄な事だ」と余裕を崩さない。

 

対して砕蜂は内心舌打ちをして歯噛みしていた。

 

(今の一撃は力を『落としすぎた』な。やはり鍛錬不足は否めないといった所か。それとも参式となっても雀蜂雷公鞭には違いないと納得するべきか・・・)

 

砕蜂は手足に着いた装甲となった己の斬魄刀を流し見る。

 

実は砕蜂の卍解。雀蜂雷公鞭の参式には幾つかの面倒な特性が備わっていた。

 

元々雀蜂雷公鞭は途轍もない破壊力を持つ砲丸を放つ事が出来るが、その破壊力故に砲身は非常に重く。更に砲丸を放つ際に凄まじい反動が使用者に襲い掛かるというハイリスクハイリターンの卍解だ。

 

それは身体に直接纏う事で弐式に比べて扱いやすく、維持時間も長く攻守のバランスがとれている参式にも反映されていた。

 

面倒な特性。それは『高めた己の霊圧によって打撃の威力を調節出来る』事と『装甲の形を成してはいるが、使用者の身体的な防御機能が備わっていない』事だった。

 

つまり前者の特性によって威力を高めれば高める程に、自らの肉体にダメージを与えてしまう諸刃の剣となってしまうのだ。

 

現に卍解参式をして最初の一撃を打ち込んだ砕蜂の拳は、威力が高すぎた為に手の皮が剥けて出血してしまっていた。

 

何故この様になっているのか。勿論理由はある。

 

それは前者の特性によって、高められた霊圧が全て攻撃のエネルギーに回されているからだ。

 

つまり拳を保護する為に霊圧を高めても、その霊圧は卍解参式の特性によって攻撃の力へと回されてしまうのだ。

 

その為砕蜂は『相手にダメージを与える程に強い打撃となる位に霊圧を高めつつ、自らの肉体が傷付かない程度に霊圧を抑えて戦う』という非常に面倒な戦いをしていた。

 

それでも攻撃する際に鎧の下地に使う鋼鉄の帯。『銀条反』を体に巻いて固定しても吹き飛ばされてしまう程の反動を受けてしまう上に、三日に一回の攻撃が限度の壱式に比べれば、かなり増しだとは思うが。

 

「ヒャアッ!」

 

怪鳥の如き叫びを上げて、右手の甲から伸びる肉厚の両刃の剣を叩き付ける様に振り下ろすストローガの斬撃を、砕蜂は軽く跳躍する事で躱す。

 

だがストローガは砕蜂のその動きを読んでいたのか、宙にいる砕蜂に向けて左手の甲から伸びる剣での突きを放つ。

 

しかし砕蜂はその剣の腹の部分に自らの左足をかけて軸とし、ストローガ顔面に右足の蹴りを叩き込んだ。

先代の隠密機動総司令官。四楓院夜一が考案した技。『吊柿(つりがき)』である。

 

ゴッ!

 

重い音を響かせて顔面にクリーンヒットした砕蜂の蹴りはストローガを塀にまで吹っ飛ばし――

 

バガアァァン!!

 

派手な破砕音をたてて塀を破砕させた。

 

(また威力を落としすぎたか)

 

静かに着地した砕蜂が内心舌打ちをするのとほぼ同時に――

 

ガシャァッ!

 

瓦礫の山から這い出したストローガがすっくと立ち上がり、即座に砕蜂を視野に入れる。

 

「元気があって良いねぇ」

 

言葉だけをみれば陽気な人間が言っている様に見えるが、ストローガの声色には明らかな怒気と殺意が込められていた。

 

そんなストローガを横目で見ながら、砕蜂は思案を巡らせていた。

 

(このままの調子で戦っても持久戦となるだけか・・・くっ。せめて装甲と拳の間に緩衝材の様な物でもあれば、気にせずに思い切った攻撃が出来るのだが・・・・・・)

 

「・・・ふぅ」

 

無いもの強請りだと分かってはいるもののついつい求めてしまう己に、砕蜂は吐息を一つ吐いてストローガを見据えて慎重に霊圧を高め――

 

ドッ!

 

一気に地を蹴って瞬歩で一瞬の内に背後に回り、後頭部にハイキックを見舞う。

 

ガッ!

 

だがその一撃は両肩から伸びる四本の腕によって受け止められる。

 

しかしそれは砕蜂の予想の内。

 

ストローガは気付いただろうか?今まで四本の腕によって防御していても衝撃を受け止めきれずに吹き飛ばされていた卍解参式の攻撃を受け止めて、欠片も吹き飛ばされなかったという事に。

 

砕蜂の目的はあくまでも接近。ハイキックの一撃はそれを気取られない様にする為。

そして接近した砕蜂の狙い。それは――

 

「破道の六十三――」

 

防御が間に合わない程の超至近距離からの詠唱破棄の鬼道による攻撃。

 

「雷吼砲!」

 

ドォン!!!

 

ストローガに直撃した雷が爆音を辺りに響かせた。

 

防御も回避も間に合わない距離での六十番台鬼道の直撃。

 

それは隊長格でも怪我は免れない事態である。

 

だが・・・。

 

「やってくれたな」

 

ストローガは直撃を受けた場所から微動だにせぬままで、その場に立っていた。それも無傷で。

 

「なっ!?」

 

想定外の事態に、砕蜂は驚愕の呻きを漏らす。

 

「俺は雷使い。雷を浴びれば浴びる程俺の力は強くなる」

 

ストローガはそう言い、両肩にある四本の腕を出し、左右の肩甲骨から更に一本ずつの腕を出して脇の下を潜らせて、砕蜂の眼前に計六本の腕の先端を合わせ、雷撃のエネルギーを蓄積させて一気に放った。

 

「・・・くっ!」

 

我に返った砕蜂が横に跳ぶのと、四本の腕で放った時よりも更に大きく強力な雷撃が空間を焼き払ったのは、ほぼ同時だった。

 

ガガガァッ!!

 

凄まじい閃光が辺りを覆い、轟音が轟く。

 

そしてそれらが晴れた後には石畳を砕け、塀の壁には雷撃が貫いたことによる大穴が開いていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

間一髪でその一撃から逃れられた事による安堵と、もしも避けられなかったらと思う僅かな恐怖心が砕蜂の息遣いを荒くする。

 

しかし砕蜂は恐怖によって息を乱しながらも、頭の中では一つ腑に落ちないと感じていた。

 

(何故だ・・・何故奴は避けた私を目で追わなかった?)

 

実はストローガは、今まで攻撃を避けた砕蜂の姿を必ず目で追っていたのだ。

 

まあそれも相手の反撃を警戒する事を考えれば当然といえる。

 

だが今の一撃は回避した砕蜂の動きを、ストローガは目で追う事は無かったのだ。

 

(何故だ?確実に仕留めたと思ったのか?いや。それがどれだけ危険な事なのかは奴も充分承知している筈。ならば・・・・・・・まさか)

 

今までの戦闘から得た情報を元にある考えが浮かぶ。

 

(私のこの読みが正しいのならば、奴に一撃当てる事が出来る。だが確証を得ている訳では無い。出来れば試したいが、そうすれば奴に感づかれる恐れが高い。賭は好きではないが仕方が無い)

 

砕蜂は賭けに乗る覚悟を決め、詠唱を開始する。

 

「散在する獣の骨!尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪!」

 

「させるか!」

 

詠唱を始めた隙を逃さず、ストローガが一気に斬り掛かってくる。

 

「動けば風!止まれば空!」

 

砕蜂は振るわれる幾つもの斬撃を避けるが、詠唱に集中力を割いていた為、頬や二の腕が浅く斬り裂かれる。

 

痛みに切れそうになる集中力を無理矢理止めて、砕蜂は詠唱を完成させる。

 

「槍打つ音色が虚城に満ちる!」

 

「ちっ!」

 

詠唱が完成したと見たストローガが舌打ちをして間合いを取る為に後ろに下がるが、砕蜂は構わずに鬼道を放つ。

 

「破道の六十三!雷吼砲!」

 

放たれた鬼道を見て詠唱していた術の正体を知ったストローガは、嘲りの表情を浮かべて放たれた鬼道に避ける素振りも見せずに直撃を受けた。

 

ドォン!!!

 

直撃に轟音が轟くが、ストローガは先程と同様に傷一つ無く立っている。

 

「言った筈だ。俺に雷など無駄だと。例え威力を増してもな」

 

ストローガは嘲笑う様に語り、再び六本の腕を出してその先端を一点に合わせ、雷撃のエネルギーを蓄積させる。

 

そのエネルギーは、先程詠唱破棄の雷吼砲を吸収し放った時よりも更に増していた。

 

対する砕蜂は、それに真っ向から対抗するかの様に自らの霊圧を上げて、手甲の破壊力を引き上げる。

 

そして――

 

「くらぇぇっ!!」

 

ストローガが特大の雷撃を放ったその刹那――

 

ズドォッ!!!

 

その雷撃の轟音を掻き消す程の爆音が響き、ストローガは霞となって大気へと溶け消えていった。

 

「・・・ふぅ」

 

目の前の敵を倒した砕蜂は、先程までストローガが立っていた場所のすぐ横で拳を突き出した体勢のままで、大きくゆっくりと息を吐いた。

 

おそらくストローガは気付かなかっただろう。

 

自分がどうやって倒されたのかを。

 

砕蜂のした行動は至極単純な事だった。

 

雷撃が放たれた一瞬の内に瞬歩でストローガの側面に回り、強烈な一撃を叩き込む。これだけだ。

 

だがそれだけの事をこれまで成功させる事が出来なかったには、一つ理由があった。

それはストローガの動体視力の高さだ。

 

今まで瞬歩でストローガの死角まで移動して攻撃を仕掛けはしたが、その全てが肩から生える腕によって防がれたり迎撃されたりして、クリーンヒットを当てるのは容易ではなかった。

 

それも全て、ストローガの優れた動体視力が瞬歩で移動する砕蜂の姿を朧気にでも捕らえていたからだ。

 

砕蜂が雷撃を避けた際に常に視界内に入れていたのもこれが理由だ。

 

だがその優れた動体視力でも、砕蜂の姿を捕らえる事が出来なかった時がった。それは砕蜂が放った雷吼砲を吸収し、強化した雷撃を放った時。

 

「貴様の敗因。それは強化した雷の力の全てを私にぶつけてきた事だ」

 

石畳の上で少しずつ消えていくストローガの腕に砕蜂は呟いた。

 

そしてそれこそがストローガの動体視力を封じた要因でもあり、砕蜂が今までの戦闘で得た情報を元に浮かんだ考えだった。

 

砕蜂の考え。それは吸収した雷の力を一点に集中しか出来ないのではないかという事だ。

 

つまり攻撃に集中する時は身体の回復等には雷の力は回せず、身体の回復に雷の力を使えば、攻撃の為に力を使って雷撃を強化する事が出来ないという訳だ。

 

砕蜂がそれに気付いたのは、強化した雷撃を放った後でもストローガの頬にハイキックを受けた傷が残ったままだったからだ。

 

そして吸収した雷の力によって強化した雷撃の放電力と閃光によって、ストローガの視界を覆い隠し、目を眩ませる結果となってしまった。

 

砕蜂が強化した雷撃を間一髪で避けた時に、ストローガが砕蜂を視界に捕らえなかったのはその為だ。

 

後は見た通り。

 

砕蜂は雷撃を吸収させる為と挑発の二つの意味を込めて詠唱破棄をせずに雷吼砲を打ち込み、その挑発に乗ったストローガが狙い通りに雷吼砲を吸収。

 

そして強化された雷撃を放ち視界を覆った瞬間を見計らい、砕蜂は瞬歩でストローガの側面に移動し、強烈な一撃を叩き込んだのだ。

 

「・・・やはり強くしすぎたか」

 

ストローガに叩き込んだ拳を流し見て砕蜂はポツリと漏らした。

 

装甲に包まれている為詳しくは分からないが、最後の強烈な一撃は砕蜂に明らかな影響を与えていたと思われる。

 

だが砕蜂はそれを露ほども面に出さずに颯爽と歩を進めた。

 

「まあ良い。他で打撃すればいいだけの事だ」

 

意図せずに紡いだ言葉は、偶然にも砕蜂の崇拝する四楓院夜一が藍染と戦った時に言ったのと全く同じものだった。

 

――???サイド――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・あったかい・・・・・・・・・・・・何だこれは・・・

 

 

 




次回はバウス対一護を書こうと思います。お盆休みもあるので、何とか今月の末までに投稿出来るよう頑張ります。

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