この小説を読んでくれている読者の皆様。誠に有難う御座います。祝!三十話です!
そして祝!お気に入り数100件です!
新年早々縁起が良いです。
これからもこれを励みに頑張って書いていこうと思っています。
では!どうぞ!
――エルフィサイド――
「成程・・・そういう事か」
心話の特性上、交わしている会話自体を聞く事は出来ないのだが、龍一郎の発する声を聞いて我は大体の事情を理解した。
「エルフリーデ殿。如何されたか?」
漏らした呟きが聞こえたらしく雀部副隊長が厳霊丸を携えたままで問いて来たが、我は前置きを置かずに「瀞霊廷にいる龍一郎と連絡が取れた」と本題を切り出し「そして今瀞霊廷で何が起こっているのか、大方の状況は飲み込めた」と続けた。
「それは真か」
我の言葉に真っ先に反応したのは雀部副隊長ではなく、我を護るかのように前に立つ山本総隊長だった。
そしてその総隊長の前に・・・否。前だけではない。
後ろも右も左にも、我等三人は大量のグラウモンスターとヴァンデル達によって完全に包囲されていた。
先程までは我先にと襲い掛かって来ていたのだが、総隊長の炎と雀部副隊長の雷撃によって先陣を切って襲ってきた奴等をあっさりと撃滅した為に、現在は周りを包囲して此方の隙を窺っている。
ピリピリとした空気ではあるが、襲ってこない今の内に我は総隊長に頷いて知った情報の全てを話す。
「先程総隊長が倒したバウスは、ヴァンデルやモンスターの体から造り上げたファントムと呼ばれる分身体だ。それも倒された瞬間に近くにいる者を強制的に転移させる仕掛けを施した特別製の物だ」
「では、本物のバウスは!」
「今現在、一番隊舎にて龍一郎と交戦中だ」
「・・・っ!」
我の返答に、血相を変えた雀部副隊長は歯噛みして苦い顔をした。
まぁ確かにこの十日間修練で龍の実力はかなり上がっているとはいえ、隊長・副隊長格から見ればまだまだ未熟者と取られても致し方ないだろう。
そう考えると、雀部副隊長が苦い顔をするのも理解できる。
だが今は、龍とバウスの事のみを考えている状況ではなくなっている。
「更に現れたバウスは各門に設置されている天力珠を破壊する為に、四体の強力なヴァンデルをそれぞれの門に送り、瀞霊廷内と現世に大量のモンスターを放ったらしい」
どうやらバウスは出し惜しみなどする気は一切無いらしい。文字通りの総力戦となる。
「吉波龍一郎から、何か指示は?」
「総隊長達の霊圧が突然消えた事で士気に影響が出る可能性を危惧し、我等が無事だという事を伝えて欲しいと頼まれた」
即座に答えた我に、総隊長は一拍間を置いて「儂からも一つ頼む」と返してきた。
「儂等の今を含めた全ての状況を、瀞霊廷・現世を問わず、リンクを繋げた全ての者に報せ、拠点防衛の各隊はそれぞれの持ち場で奴等を迎撃する旨を。そして遊撃隊の各隊から数人を選出し、一番隊舎執務室に向かわせるよう伝えてほしい」
(やはり龍一郎一人に任せるのは不安という訳か)
総隊長の思惑を朧気にだが読み取った我は頷いて応え、リンクを繋げた全ての者達に向けて意識を集中させた。
☆
――三人称サイド――
[護廷十三隊全隊長・副隊長格。そして黒崎一護に報せる]
頭の中に響いた聞き覚えのある声に、現世と瀞霊廷にいる二十五人の実力者達の顔色が変わった。
[この突然の心話の発動を快く思わない者もいる事は察する。だが状況が著しく変化した為、山本元柳斎総隊長からの指示もあり心話を使用した]
其処で一拍間を置き、エルフィは先程一番隊舎で起こった事、現在の総隊長と副隊長の状況。そしてその後の敵の行動と総隊長の指示など全てを伝えた。
そのエルフィの報告が終えた後。皆の反応は様々だった。
「なんだぁ・・・それならテメェは少しは楽しめるって事じゃねぇか」
「ゲヘヘヘヘ・・・」
獲物を見つけた捕食者の様な獰猛な笑みを浮かべてハングを見る更木剣八。
「松本。隊の指揮を頼む」
「・・・はい」
「はっ、俺の相手はガキかよ」
「・・・(ピクッ)」
ジェラの嘲りを含んだ呟きに、こめかみをひくつかせて確かな怒気を露わにする日番谷冬獅郎。
「大前田、此奴は私がやる。お前は下がっていろ」
「は、はいっ!」
「ふっ、女が1人か」
ストローガを前にし、闘気を露わにする砕蜂。
「パアァァッショオオォォン!!」
「「・・・・・・」」
意味不明の単語を叫ぶアートロンに切っ先を向け、無言で油断無く構える朽木白哉。
そしていきなり出現してハイテンションな叫声を上げる存在に、どう反応したらいいのか分からずフリーズする阿散井恋次。
「朽木!彼の所に向かってくれ!」
「七緒ちゃん。お願いね」
「頼むぞ!鉄左衛門!」
「「「はい(押忍)っ!」」」
心話を聞いて即座に指示を出す遊撃隊の隊長達と、それに応えて駆け出す副隊長達。
同時刻。現世の空倉町上空。
「なんや瀞霊廷はえらい厄介な事になっとるみたいやな」
「だ、大丈夫でしょうか・・・」
呑気とも取れる口調で言う平子真子と、明らかに不安な表情をする雛森桃。
「今更此処で俺達が心配しても仕方が無ぇ!向こうは向こうで何とかしていると思うしか無いだろうが」
隊士達に伝染していく不安を消し去ろうとするかの様に声を荒げる六車拳西に「拳西の言う通りだよ」とローズも同意して、斬魄刀の柄を握ってゆっくりと抜き、刀身を露わにした。
そんなローズの後に続く様に、副隊長を含む隊士達は次々と斬魄刀を抜いて、ある一点に向けて構える。
その隊士達の視線の先には、空を埋め尽くさんばかりの飛行モンスターの大群が此方に向かいつつあった。
そんな隊士達の前に立ち、向かいくるモンスター達を見据えている者達がいた。
「凄い数だね」
「・・・ム」
モンスターの数に僅かに怯みつつも、怯えの無い目で見据えている井上織姫と茶渡泰虎。
「数に任せて攻めてきたか」
スチャッ、と眼鏡を押し上げて石田雨竜は険しい顔で霊弓・銀嶺孤雀を構える。そして――
「関係無ぇさ・・・」
身の丈程の大刀。斬月を抜き――
「この町には・・・」
死神代行。黒崎一護は――
「一匹たりとも入らせねぇ!!」
決意を込めて吠える。
そして各の場で、激闘の幕が上がった。
☆
――一番隊執務室・龍一郎サイド――
俺はエクセリオンブレードの能力によって、通常時よりも更に速度を増した瞬歩を使って上下左右と三次元的に動き、バウスを翻弄する。
今までと同じく直線的に攻めてくると思っていたのか、バウスはチッと軽く舌打ちをして、両腕にある手首から肘間接にまで巻かれた包帯の内に仕込まれた刃を出し、戦闘態勢をとった。
だが俺は臆する事無くバウスの左脇に入り込み、ブレードを一閃!・・・・・・しようとした手を止めて地を蹴って跳躍する。
「なっ!」
俺が突然行動を変えた事により、バウスに動揺が走る。
当然俺はその隙を逃さず、動揺に顔を歪めているバウスの頭部に狙いを定め、エクセリオンブレードを逆袈裟に振り下ろす。
ギィンッ!!
だがその一撃は、一瞬早く正気に戻ったバウスの右腕の刃によって防がれていた。
俺はその事に内心舌打ちをしながらもそれを表に出さず、僅かにでも此方に傾いてきた主導権を完全に握る為に連続で斬りつけようとし――
ゾワッ
「・・・っ!」
全身が粟立つ様な嫌な感覚を感じ、俺は刃と刃を合わせたままの状態でバウスの胸板に思い切り左足での蹴りを入れ、その反動を利用して後方に跳んだその瞬間。
ボッ!
俺の眼前を、突き上げられた黒い何かが尋常ではない風切り音を立てる。
俺はその黒いものの正体が何なのか分からなかったが、後方に跳ぶ事で距離が開き、左の拳を天に突き出したバウスの体勢を見てようやくその正体に気付いた。
バウスは俺が連続で斬りつけようと一息入れた刹那を狙い、左のアッパーを放ってきたのだ。
もしもあの時に自らの感覚に従って動いていなければ、運が悪くて左腕から生える刃によって斬られ、良くても腹部に拳打の一撃が入っていただろう。
内心冷や汗をかきながらも、俺は空中で体勢を整えて着地する。
そして着地するや否や、ブレードを下段に構えて再び瞬歩を使い、先程の蹴りで多少でも体勢が崩れているバウスの懐に今度は真正面から入り込み、再び五月雨を放つ。
だが先程見せてしまった事もあり、虚の初太刀を見破られ、実の弐の太刀も腕の刃で防がれてしまった。
(やっぱり、そう何度も引っ掛かってはくれないか)
俺はそう思いながら、先程の様な反撃を警戒し、止められたブレードを引いて再度後方に跳んで間合いを取り、情報を整理する。
(現時点ではパワーとリーチは向こうが上。スピードは僅かだが此方に分があるが、大差ではない。
となるとやっぱり懐に入り込んで、フェイントを交えつつ攻めるのがオーソドックスか。
そうなると五月雨を使うのが一番なんだが、既に技を知られている。
ただ馬鹿正直に五月雨を打つだけでは簡単に避けられる。
伏線を重ねて、最後の一撃に五月雨を持って行くしかないか)
おおよその方針を固めて、俺はブレードの切っ先を右下に下げた下段構えにしてバウスを睨む。
「成る程な・・・どうやら十日前よりは強さを増したらしい」
ポツリと呟いたにも関わらず、バウスのその声は執務室全体によく響き、俺の耳にも届いた。
「・・・だが」
バウスの重低音の声が、更に一段低くなった様な気がした。
「俺もまだ全力じゃねぇぜ」
そう言った刹那。バウスは地を蹴り一気に駆け、瞬く間に俺を自らの間合いに入れるまで接近し、体重を込めた打ち下ろしの右ストレートを放ってきた。
「・・・っ!」
十日前ならば避けられなかったであろうその一撃を、俺は軽く右にサイドステップをして躱す。
だが――
ズンッ!
「がっ!」
右の脇腹に走った重い衝撃。
まるで俺の避ける先が分かっていたかのように繰り出されたバウスの左膝蹴りが綺麗に脇腹に入り、俺の肺の内にあった空気が無理矢理吐き出され、苦悶の呻きが漏れる。
予想だにしなかった一撃を受けた事によって思考が、肺の中にあった空気が急激に減少した事によって身体が止まる。
当然バウスはその隙を見逃す事無く、更に攻撃を続ける。
ゴッ!
がら空きになった俺の頭部にバウスの頭突きがまともに入り、脳が揺れ、視界に星が瞬き、膝が曲がる。
生まれて間もない小鹿と大差ない様な状態となった俺は、何とか視界だけは取り戻そうと軽く頭を振って、瞬く星を振り払う。
そしてどうにか星を消した俺の目に飛び込んできたのは、体全体を使って巻き込む様に放ってきたバウスの右フックが眼前にまで迫り、黒い拳が視界の全てを埋めていた。
「っ!」
俺は反射的に下に下げていたエクセリオンブレードの刀身を上げ、腕から出ている刃を受けて拳を止めようとする。・・・が。
ギィンッ!
ダメージを受けて碌に踏ん張る事も出来ない上に、反射的に動いた為に体勢も整っていない俺の苦し紛れの抵抗を嘲笑うかのように、刃を受けたエクセリオンブレードはあっさりと俺の手から弾かれて宙を舞った。
そのブレードの行方を俺は、無意識の内に目で追ってしまい――
ドスッ!
呆けた俺の鳩尾にバウスの前蹴りが突き刺さり、呻き一つ上げる事も出来ずに吹っ飛ばされ、受け身をとる事もままならずに背を床に打ち付ける。
「ぐはっ!」
強かに打たれ、その衝撃で先程上げることが出来なかった呻きが、後を追ってきた様に口から漏れる。
それと同時に宙を舞っていたエクセリオンブレードが、倒れた俺の後方に深々と突き刺さり、刃が鏡の如くその身にバウスの姿を映し出す。
「どうした?お前の力はこんな物か?」
僅かな失望の意を込めて見下すバウスに、俺は全身に残る痛みを耐えて立ち上がり、バウスを睨む。
頭突きを受けた頭部はガンガンと痛み、未だに時折目の前に星が瞬いている。
膝蹴りや前蹴りをくらった脇腹や鳩尾には、焼ける様な痛みが澱の様に体の中に重く残る。
だがそれでも、まだ心は折れていないと言わんばかりに、俺はバウスを睨み続ける。
そんな俺を見てバウスは口の端を上げて「・・・いいねぇ」と呟き、重心を下に下げて今にも飛びかかる猛獣の様に筋肉に力を込める。
(焦るな・・・ダメージがある今の俺じゃ、下手に避けたらかえって体勢を崩して余計な隙を生む事になる。
バウスが力を溜めている今のうちに、乱れた呼吸だけでも整えておかないと・・・)
俺は逸る気持ちを抑え、バウスの一挙一投足を見逃さないように司会に納めながら、両腕をダラリと下げて足を肩幅に開き、リラックスした体勢でゆっくりと深呼吸をする。
俺がエクセリオンブレードを取りに行こうと動けば、必ずバウスもそれを止める為に動くだろう。
そうなると悔しいが、今の俺の状態ではバウスの妨害を掻い潜ってブレードを手に取れる可能性は極めて低い。
ならば才牙を変えて、ブレード並みに扱う自信のある『あれ』で戦うしかない。
だけど『あれ』はブレード以上に深く懐に入り込む必要がある。
リスクは高いが、バウスが突っ込んでくる瞬間を狙うより他に方法は無い。
呼吸を整えながら、俺はまだ痛みと衝撃で揺れている頭をフル回転させて方針を練る。
そして力を溜めているバウスと呼吸を整える俺が共に動きを止め、そのまま時は過ぎ――
ダンッ!
刹那とも永遠とも思えた沈黙の時間は、バウスの地を蹴る音によって破られた。
飛燕の如き速度で一気に接近してくるバウスに対し、俺は左足を前に出して軽く膝を曲げて重心を下に下げ、安定感のあるどっしりとしたスタイルをとる。
そんな俺にバウスは躊躇い無く踏み込み、自らの間合いにまで距離を積めて、冥力の特徴である禍々しい紫色の輝きを宿した左の拳を一直線に打ち込んできた。
俺はその一撃を、オケアヌスの輪から素早く取り出した盾の才牙・クラウンシールドで受け止める。
ガァンッ!!
轟音が響くと共に伝わってきた足が宙に浮きそうになる程の強烈な衝撃を全身で感じ、俺は思わず顔を顰めてしまうが、歯を食いしばって踏ん張りなんとか耐える。
「守勢に回って凌げると思うなよ」
自らの優位を確信しているからなのか、バウスは嘲りを思わせる笑みを浮かべて、左の拳を盾に付けたままで冥力を込めた右の拳を振り上げ、左の拳を引くと同時に右拳を打ち下ろしてきた。
(来た!!)
俺はそれを待っていた。奴が守勢に回ったと思い込み、たたみかける為に連撃に入るその瞬間を。
俺は奴が右を振るった刹那、前に出していた左足を更に思い切り前に出して一気に踏み込んだ。
同時に上半身を屈めて、バウスの右を潜るような形で避ける。
そしてクラウンシールドを『変形』させ、下から体ごと突き上げる左のフックを放つ。
ゴッ!
「ぐっ・・・」
拳に伝わる衝撃とバウスの呻きに俺はクリーンヒットを確信する。
そしてすぐに追撃に入ろうとしたが、強烈な一撃を受けてバウスがよろよろと無意識に数歩後退したのと、やはり俺の体にダメージが残っていたのもあり、やむを得ず追撃を断念した。
「貴様・・・それは・・・」
敵意を持って此方を睨みつけてくるバウスの顔には、明らかな動揺の色があった。
それもその筈だ。なにしろ俺が今手にしている武器は盾でも鉄球でもなく・・・『鉄甲』だったのだから。
盾が鉄甲に変形するというネタは、冒険王ビィトのNDSソフトで主人公のガントレット型の才牙が盾に変形していた所から取りました。
そしてこの話の最後の方で龍一郎が打ち込んだパンチは、勘の良い人なら分かると思いますが、某ボクシング漫画の主人公と、その主人公が四度目の防衛戦で戦った相手が使っていたあのパンチです。