龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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まずは一言。すいませんでした。

何だかんだで一ヶ月以上かかってしまいました。

多忙な仕事によってのスランプと、発売されたMH4に夢中になっての結果です。

大変申し訳ありませんでした。

では、二十五話をどうぞ!


第二十五話

 

――龍一郎サイド――

 

一角さんと鍛錬を始めてから三日目。

 

いつものように影分身の術を使って分身体に才牙を手渡して『遊び場』で鍛錬をしているように命じ、本体の俺は十一番隊から程なく歩いた所にある岩場で、俺と一角さんは刃を合わせていた。

 

最初は戸惑っていた一角さんのトリッキーな攻撃やフェイントも、レベルアップした写輪眼によって見切れるようになり、なんとか対処出来るようになっていた。

 

なにせ本家本元の写輪眼の使い手であるうちはサスケが、勾玉模様が3つになった途端に、初期とはいえ九尾モードのナルトの動きを完全に見切っていた程だ。

 

正直漫画やアニメを見ている時では、そのあまりに飛躍的な成長に出鱈目さすら感じていたのだが、実際に自分の身で体感すると、その出鱈目ぶりに突っ込むよりも有り難いという

感謝の感情の方が先に湧いてしまう。

 

そんな俺の力を少しは認めてくれたのか、今日の一角さんは最初から鬼灯丸を解放してから斬り掛かってきた。

 

「はぁあっ!!」

 

ビュッ!ガチッ!

 

突き出してきた刀身を首を僅かに動かして最小限の動きで躱し、続いて右下から来る石突きのかち上げを、薙刀特有の構えである八相の構えを取って、その一撃をランスの柄で受ける。

 

そして一角さんが石突きを引くのとほぼ同時に、今度は俺が右にかち上げる石突きの一撃を見舞うが、一角さんは素早く後ろに跳び退いて俺の一撃を避け、口角を吊り上げて歯を剥き出しにして笑みを浮かべ、刃の切っ先を下に下げた下段の構えを取った。

 

「やるじゃねぇか」

 

「光栄です」

 

一角さんの賛辞に俺は笑みを浮かべて、左右の手を腰骨よりやや低い位置に保ち、左足を前に出して身体を左半身にし、ランスを腰の高さに構える。

 

相手の動きに反応して上段や下段に転じて効率よく戦う事が出来、重心が安定しているので槍が扱いやすい構え。

 

槍の構えの一つ。霞中段(かすみちゅうだん)の構えだ。

 

「はぁっ!」

 

蹴り足で一気に地を蹴り、裂帛の気合いと共に引き絞った弓から放たれた矢の如く、一直線に行く突きを放つ。

 

そんな突進してくる俺に対し、一角さんは避けようという素振りは見せず、逆に地に足を踏みしめて迎え撃つ体制をとった。

 

そして俺の穂が間合いに入った瞬間、一角さんは下げていた刀身を一気に上げ、ランスの穂に切り上げの一撃を当てて槍先を撥ね上げた。

 

柄の中央部を握っていた左手がその勢いで離れ、槍の穂が宙を舞う。

 

そして一角さんはその隙を逃さずに、後ろに下げていた右足を前に踏み出して間合いを詰め、体を左半身から右半身に入れ替えると同時に、俺のこめかみに石突きの一撃を叩き込んできた。

 

だが、その一撃は空を切る事となった。

 

一角さんが一歩踏み込んで来たのとほぼ同時に一歩下がり、間合いを外した事によって。

 

実は俺はランスを撥ね上げられた瞬間、態と左手を離して派手に宙を舞わせ、その勢いを殺さずに敢えて身を任せて左足を下げて体を入れ替え、一角さんの一撃を躱したのだ。

 

そして避けるだけでなく、宙に舞ったランスを自分を中心に縦に一回転させ、その勢いのままに前に出ている一角さんの右足首を薙ぎ払う。

 

前世で読んだ『剣技・剣術』という本に載っていた槍術の一つ。三ツ玉(みつだま)という技だ。

 

完全に意表を突いているだけでなく、狙った訳ではないが、一角さんの石突きの攻撃とタイミングが噛み合い、カウンターとなっている。避ける事はまず不可能。

 

(とった!!)

 

確信を持ち、俺はランスを振り払う。・・・・・・が!

 

ガッ!!

 

「なっ!」

 

確信を持っていた俺の顔が驚愕に歪む。

 

俺の視線の先。其処には、ランスの穂を踏みしめている一角さんの右足があった。

 

俺がランスを振り払ったあの一瞬。一角さんはいきなり右足を上げて俺の一閃を避け、ランスの穂が足下を通った瞬間に踏みつけて動きを封じたのだ。

 

「驚いている暇は無ぇぜっ!!」

 

動揺によって固まる俺に一角さんの一声が響く。

 

「っ!」

 

その声に反応して硬直から脱した俺は、反射的にランスを握る手を離して間合いを取ろうとしたが、そこで理性が待ったをかけた。

 

今ランスを持っている右手は、ランスの石突きのすぐ近くの部分を握っている。

 

一方一角さんは踏み込んで石突きを叩き付ける攻撃をした体制のままなので、大体柄の中心部を持っている。

 

この状況で一角さんが俺に攻撃を当てるには、後ろに下げている左足を前に出し、踏み込んで接近するか、もしくは鬼灯丸を一度持ち替えなければならない。

 

踏み込むにしろ持ち替えるにしろ、その行動に移す瞬間にランスの穂を踏み締めている足から僅かに意識を外さなければならなくなる。

 

ならばその意識を外し、踏み締める力が緩む瞬間にランスを引き抜いて、バックステップで後ろに跳べばと考えたのだ。

 

そして俺はランスの握る手と前に出している軸足に力を込めて、いつでも行動に移せるように身構えた。

 

だが一角さんは、そんな俺の考えの更に上をいき、同時に俺は完全に失念していた事に気付いた。

 

一角さんの斬魄刀。鬼灯丸は――

 

「裂けろ!!」

 

三節根だという事に。

 

「鬼灯丸!!」

 

一角さんは石突きでの一撃を振るった体勢のままで石突きの突きに移行し、一点を突く一撃を文字通り『放って』きた。

 

鬼灯丸を分割させてリーチを伸ばす事で、本来なら届かない一撃を俺の額に放り込んだ。

 

ガツッ!

 

鈍い音と痛みが頭に響き、思わず体がぐらつく。

 

それでもランスの柄を握る手だけはなんとか離さなかったのが功を奏し、ぐらついた拍子に一角さんに踏み締められていたランスの穂が抜き出され、ふらつきながらも何とか後退して一角さんの間合いから脱出した。

 

「最初に言っただろう。鬼灯丸は槍じゃねぇ。三節根だってな」

 

「まさか、いきなり使ってくるとは思いませんでしたよ」

 

鬼灯丸を肩に乗せて言う一角さんに、俺は頭部に受けた衝撃を振り払おうとするかのように、頭を振って返した。

 

「馬鹿野郎。虚を突くのは戦いの中で当たり前に起こる事だぜ」

 

完全な正論に俺は「ご尤もです」と頷いて八相の構えをとった。

 

だが別にこの構えで一角さんと戦うつもりは毛頭無い。

 

この構えにした理由は一つ。一角さんに見せつける為だ。

 

俺はこの3日間、鍛錬だけでなく才牙の力や特殊能力を引き出せるように練習もしてきた。

 

そしてバーニングランスに限った話だが、2つの特殊能力をなんとか扱えるようになっていた。

 

これから見せるのはその内の一つ。

 

俺は呼吸を整えてランスに意識を集中し、魂を通わせる。

 

(力を貸してくれ)

 

想うのは懇願ではなく呼び掛け。

 

それに応え、ランスの特徴的な石突きにある『目』がキラリと輝いた。

 

「燃え上がれ・・・双頭の槍」

 

俺の声に応えてランスの石突き自体が光輝き、バーニングランスのもう一つの穂となった。

 

「・・・ほぉぅ」

 

バーニングランスの変化に、一角さんは嬉しそうに目を細め、感心したように声を漏らした。

 

「成る程な・・・テメェの槍もただの槍じゃ無ぇって訳か?」

 

俺は一角さんの問いに敢えて答えず、柄の石突き側を握る右手を順手に、中心部を握る左手を逆手にして、両腕を高々と掲げた左半身の構え。大きく槍を振るう為の構えである霞上段の構えを取る。

 

防御ではなく攻撃を重視した構えをとる事で、俺は一角さんに無言の挑発をする。

 

――勝負――と。

 

そんな俺の目から意志を読み取ったらしく、一角さんは一瞬虚を突かれたような顔をしていたが、直ぐに歯を剥き出しにして凶悪な笑みを浮かべて「上等だ!!」と吠えた。

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

一角さんは鬼灯丸を三節を繋げて一本に戻し、俺と同じく頭上に掲げて鬼灯丸を回転させ、遠心力を高めている。

 

だがそれだけではないのは、対峙している俺にも伝わってきていた。

 

一角さんが鬼灯丸の回転速度を上げていくにつれて、己の霊圧を段々と高めているという事に。

 

どうやら一角さんにとって鬼灯丸を回転させるという行動は、己の力を最大限にまで引き出すのに必要な一種のパフォーマンスらしい。

 

対する俺は、ランスを霞上段に構えたままで目を閉じ、全神経をランスの切っ先にまでに意識を集中させて呼吸を繰り返し、己の内にある気を高めていく。

 

そして俺の気が高まってくるのに呼応するように、ランスの刃が炎を宿し赤い輝きを帯びる。

 

「はあぁぁぁっ!!!」

 

「・・・」

 

俺が目を開くのと、一角さんが回転させていた鬼灯丸を薙払うのはほぼ同時だった。

 

解放された黄金色を思わせる霊圧のオーラを纏った一角さんと、ランスの天力によって赤いオーラを纏った俺。

 

2つのオーラがぶつかり合い、大気がビリビリと震える。

 

「・・・来いよ」

 

一角さんの一言に応え、俺は地を蹴って弾かれたように一気に駆け出した。

 

「おおぉぉぉぉっ!!」

 

裂帛の気合いと共に突進の勢いも乗せ、打ち下ろしの突きを放つ・・・・・・が。

 

ガヅッ!!

 

ランスの刃が抉ったのは一角さんの肉体でも鬼灯丸の刃でもなく、大地のみであった。

 

ランスの刃が当たる刹那。一角さんは立っていたその場から突然姿を消した・・・否。消えたように見えた。

 

だが俺は欠片も動揺を表に出さず、迷い無く視線を『そこ』に向けた。

 

何故なら今の俺の眼には、俺の攻撃を跳躍して回避した一角さんの姿が見えていたからだ。

ん?見えていたのならば、どうして追跡しなかったのかって?

 

その答えは至極簡単。

 

今の俺では一角さんの動きを眼で捉える事は出来ても、その動きに付いていく事がまだ出来ないからだ。

 

『如何に優れた眼を持っていても、それに体が伴わなければ何の意味も無い』某体術使いが言っていた言葉だ。

 

俺はそんな自分を充分に承知していたからこそ、一角さんを追跡するのではなく、次に来る一角さんの一手を全力で迎え撃つ事を心に決めた。

 

だから突きの一撃を外した事に動揺せずに、即座に一角さん動いた先。頭上に視線を向けた。

 

「いくぜぇぇっ!!」

 

落下の勢いを味方に付け、矢の如き速度で一直線に俺に向かってくる一角さんに、俺は地に刺さったランスの柄を握る手に力を込めて前に出ている軸足。左足の爪先を一気に捻り込み、脹ら脛・腿・腰・肩と力を伝導させ、ボクシングのアッパーを打つ要領で地に刺さったランスを思い切りかち上げた。

 

土を舞い上げての切り上げた炎刃の一閃と――

 

「うぉぉりゃあぁぁっ!!!」

 

落下のエネルギーと霊圧を乗せた大上段の一撃がぶつかり合い――

 

ガゴオォォォン!!!!

 

耳を塞ぎたくなるような轟音が辺り一帯に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・い

 

誰かの声が聞こえた様な気がした。

 

 

 

・・・い・・・・・・きろ・・・

 

また同じ声が聞こえる。だけど途切れ途切れにしか聞き取る事が出来ず、何を言っているのかよく分からなかった。

 

「起きろって言ってんだろうが!!!」

 

「うわっ!!」

 

鼓膜が破れるのではと錯覚する程の怒号が響き、反射的に跳ね起きた俺の視界に最初に入ってきたのは、呆れ顔で俺を見下ろしている一角さんだった。

 

「やっと起きたか・・・」

 

「一角さん・・・俺は一体・・・?」

 

キーンと頭に響く耳鳴りを強制的に無視して、立ち上がって一角さんに問う。

 

「槍を土の中から無理矢理かち上げなけりゃ、相殺出来たのかもな」

 

「・・・・・・あ」

 

独り言にも似た一角さんの返答に、俺は全てを思い出した。

 

先程の攻撃のぶつかり合いで、俺の一撃が一角さんの一撃に押し負けて吹っ飛ばされた事を。

 

確かに一角さんの言ったように、ランスを土の中からかち上げようとせずに一度引き抜いて切り上げるか、対空迎撃の突きを放っていれば押し負ける事は無かったのかもしれない。

 

だがあの時の俺がそれしか考えつかなかった以上、仕方がなかったと割り切るより他はない。

 

大事なのはこの反省を踏まえて次に生かせるかどうかだ。

 

そう気持ちを切り替えて、俺は吹っ飛ばされても手放さなかったランスを構えて一角さんを見据えた。

 

「もう一本!お願いします!!」

 

だが一角さんはランスを構えた俺を見はしたが、一向に鬼灯丸を構えようとはしなかった。

 

「今日で終わりだ」

 

「・・・え?」

 

唐突に放たれたその言葉を理解できずにいる俺に、一角さんが続ける。

 

「もう教える事は何も無ぇ」

 

「で、でも!「後は一人で何とかしな」」

 

まだあなたから一本も取っていない!

 

そう言う前に一角さんが遮る。

 

「もうテメェには、それが出来る筈だぜ」

 

「・・・・・・」

 

一角さんが下してくれた評価に、俺は喜びで口の端が吊り上がりそうなのをなんとか抑えて、黙したまま構えを解いた。

 

そんな俺を見て、一角さんは「あぁ。それとな」と言って俺に近付き、右手の人差し指を俺の鳩尾に軽く当てた。

 

「戦う相手には名を名乗っておくんだぜ」

 

「・・・え?」

 

突然の事に、俺の口からは間の抜けた声しか上げる事しか出来なかった。

 

「戦いに死ぬと決めた奴なら、自分を殺した奴の名前ぐらい、知って死にたい筈だからな。名前を教えてやるのは礼儀ってもんだろ」

 

「!」

 

その言葉を聞き、俺は思い出した。

 

そうだ。確か戦う相手に名を名乗るのは、一角さんが戦い方を教えた人に必ず教える最後の流儀だった筈だ。

 

そしてその教えを今ここで言ったという事は、一角さんに教わるのは本当にもう終わりな

んだと改めて実感する。

 

「じゃあな。五日後に死ぬんじゃねぇぞ」

 

「・・・はいっ!!有り難う御座いました!!!」

 

鳩尾に当てていた人差し指を離し、踵を返して歩き出す一角さんの背中に、俺はありったけの感謝の想いを込めて頭を下げて声を張り上げた。

 




この話で出てきた『剣技・剣術』という本は実際に存在します。

戦闘描写を書く時に大変参考になっています。

そういえば今思い出したんですが、この話を書き始めてから今日で丁度一年となりました。

一年間書き続けられたのは、読者の皆さんのお蔭だと思っています。

有難う御座います。

これからもどうかこの話を温かく見守ってください。

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