龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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宣言通り!投稿です!

では、どうぞ!


第二十三話

――龍一郎サイド――

 

ソウルソサエティで暮らし始めて2日目。

 

俺は八番隊執務室の前に来ていた。

 

というのも、京楽さんに聞きたいことがあったので隊首室を訪ねたのだが、そこに京楽さんの姿は無く、すぐ近くを通りがかった隊の人に聞いたら此処にいると教えてくれたからだ。

 

ちなみに京楽『さん』と呼び方が変わっているのは、八番隊に来た初日に京楽さん本人から堅苦しいのは苦手だからそう呼んでほしいと言われたからだ。

 

そして執務室に来た俺は扉をノックして「京楽さん。吉波です」と呼び掛けると、扉の奥から「どぉぞぉ~~。入っていぃよぉ~~」と疲れ切った声が返ってきた。

 

その声に戸惑いを感じながらも、俺は許可は得たので扉を開いて中に入ると、其処には周りを書類の山に囲まれ、机に突っ伏している京楽さんと、その京楽さんに目を光らせている伊勢副隊長がいた。

 

「やぁ吉「要件は私が聞きます。隊長は仕事に集中してください」うぅ・・・」

 

挨拶をしようと顔を上げた京楽さんを遮って、伊勢副隊長が俺の前に出る。

 

俺は再び机に突っ伏して呻く京楽さんを流し見て苦笑して「またですか」と呟くと、伊勢副隊長は溜め息混じりに「えぇ。またです」と返した。

 

京楽さんはソウルソサエティ屈指と呼ばれる程に高い実力を持ってはいるのだが、仕事をサボって抜け出すという困った癖を持っていた。

 

そしてそんな京楽さんを探し出し、捕まえ、諌め、そして椅子に縛り付けてでも仕事をさせるのは伊勢副隊長の役目となっている。

 

ここだけの話だが、実は俺が総合救護詰所にいた時に京楽さんが迎えに来ると言っていたのは、俺を迎えに行くという口実を作り、仕事を抜け出そうと考えていたらしい。

 

尤もその考えは伊勢副隊長にすぐに看破され、京楽さんは喩えではなく本当に椅子に縛り付けられる事となったようだ。

 

だから俺を迎えに来たのも、八番隊の隊員達に俺を紹介したのも全て伊勢副隊長がやってくれていた。

 

しかし伊勢副隊長が何度諌めようとも京楽さんはその態度を改めようとはせず、今や伊勢副隊長に捕まった京楽さんが強制的に仕事をさせられるという光景は、瀞霊廷では日常茶飯事となっていた。

 

「所で、どのような用向きで此処に?」

 

疲れが見えた表情をきりりと引き締めて聞く伊勢副隊長に、俺は京楽さんに向けていた視線を彼女に戻して口を開く。

 

「実は護廷十三隊の中で、長柄系の得物を得意とする人に心当たりがあるか聞こうと思って来たんです」

 

「長柄系を?」

 

「駄目だよ~吉波君。七雄ちゃんは真面目だから、ちゃんと事情を話さないと教えてくれないよ」

 

合いの手を入れた京楽さんに「隊長!口を動かすよりも手を動かして下さい!」と一喝して、伊勢副隊長はこほんと咳払いを一つした。

 

「しかし隊長の言う事も尤もです。差し支えなければ、先に事情から話して貰っても宜しいですか?」

 

別に特別隠さなければいけない件ではないので、俺は「別にかまいませんよ」と前置きをして説明を始めた。

 

「実は昨日から全ての才牙を使いこなせるように鍛錬を始めたんですが、その中の一つが・・・なんか今一つなんですよ」

 

「今一つというと?」

 

「なんというか・・・取っ掛かりが掴めないというか、しっくりこないというか・・・」

 

上手く言葉で表せずに曖昧な物言いしか出来ない俺に、再び伊勢副隊長の後ろから声が挙がる。

 

「自分に合わない感じがするんだね」

 

「それです!!」

 

「成程。自己流の方法で色々と模索するよりも、使い手に教えを請う方が早く確実に身に付くと考えたんですね」

 

それだ!とばかりに京楽さんをビシッと指差す俺に、伊勢副隊長が納得した様子で纏めてくれた。

 

先日病室でエルフィと話し合った通り、俺は昨日八番隊での挨拶が済んでからすぐに『遊び場』にて鍛錬を開始したのだが、早々に幾つかの壁にぶつかっていた。

 

エクセリオンブレードとクラウンシールドは普通に戦う分には大丈夫だったのだが、問題はサイクロンガンナー、ボルティックアックス、バーニングランスの3つだった。

 

まずサイクロンガンナーは、銃に空気を吹き込ませる事が非常に困難だという事だ。

 

原作知識で元々サイクロンガンナーには弾丸という物はなく、生物の様に空気を吸い込む事でそれを弾丸へと変える銃だということも、銃と心を一つにして呼吸を合わせる事で始めて大気を吹き込ませて弾丸を生成出来る事も知ってはいた。

 

しかし言うは易し、やるは難しとは良く言ったもの。知識という点で知ってはいても、実際にやるのはかなり大変だった。

 

今現在では上手く空気を吹き込んでも最大でニ発分位しか弾丸を生成出来ず、最大数(六発)の生成には程遠い。

 

次にボルティックアックスだが・・・・・・・・・重い。とにかく重かった。

 

元々の使い手が巨漢で怪力の持ち主だということも、主人公のビィトが初期の時点でこの才牙の超重量と圧倒的なパワーを制御出来ずに振り回されていたのも知ってはいたが、それはビィトが子供だからだと思っていた。

 

しかし正直ここまでの重量だとは思わなかった。

 

結局ボルティックアックスを振り回そうと躍起になっていた分身体の『俺』は十分程で荒い息を吐いて大の字になって倒れ、辺りにあった隆起はボルティックアックスを振るった際に起こる斬撃の衝撃波によって切り取られて一帯は平らな更地となっていた。

 

そしてバーニングランスなのだが、これが一番の厄介な問題となった。

 

京楽さんや伊勢副隊長に先程言ったように、自分なりに突いたり薙ぎ払ったりと振り回しはしたのだが、今一つ釈然としなかった。

 

というのも、俺は前世でのバトルスタイルは徒手空拳だったので、槍を振るった事など皆無だった。

 

エクセリオンブレードや斬魄刀などの刀剣での戦いは、この世界に来て浦原さんに実戦形式で仕込まれたから、なんとか一応の形となっているにすぎない。

 

そもそも、現代日本で長柄系を振るった経験を持つ人間などそう多くはない。

 

だからこそ、その道の使い手の技を見て、少しでも参考にしようと思い、京楽さんにその道の使い手に心当たりがないか聞きに来たのだが、どうやら京楽さんも伊勢副隊長も心当たりがないらしく、二人共腕を組んだり顎に手を当てたりして考え込んではいるが、一向に答えが返ってこずにどこか気まずい沈黙が辺りを包む。

 

そんな時、コンコンと重い空気に似合わない、扉をノックする乾いた音が部屋に響いた。

京楽さんが「どうぞ」と進めると、「失礼します」と聞き覚えのある声と共に扉が開き、書類を抱えた恋次さんが姿を現した。

 

「・・・あん?吉波?なんで此処にいるんだ?」

 

「そう言う恋次さんこそ、どうしたんですか?」

 

問い返した俺に恋次さんは抱えている書類を上げて見せ、「八番隊に回る筈だった書類が、何でかは知らねぇがうちの隊に来てな。俺以外に手の空いている奴がいないから持ってきたんだよ」と言って「で、お前はどうしたんだよ?」と返した。

 

「俺は京楽さんに聞きたい事があったので来たんです」

 

「聞きたい事?」

 

「実は・・・」

 

眉を顰める恋次さんに、俺は先程の反省をふまえ、先に事情から話して本題を語ると、抱えていた書類の束を伊勢副隊長に渡した恋次さんは何かしらの心当たりがあるらしく「長柄系か・・・」と呟いた。

 

「何か心当たりがあるのかい?」

 

京楽さんは伊勢副隊長が受け取って机の上に置いた書類の束を、敢えて見ないように視線を恋次さんに向けて尋ねた。

 

「いえ・・・完全な長柄系という訳じゃないんですが、似たような斬魄刀を持っている人なら・・・一応」

 

「誰ですかそれは?」

 

珍しくはっきりしない物言いをする恋次さんに問いを投げると、恋次さんは僅かに逡巡する素振りを見せたが、やがて問いに答えてくれた。

 

「一角さんだ」

 

「一角さん?」

 

「成程。斑目三席ですか」

 

「そういえば彼がいたねぇ」

 

答えた恋次さんに、一応原作知識で知ってはいるが顔を合わせた事はないので鸚鵡返しに返す俺と、納得する伊勢副隊長に京楽さんの順に反応する。

 

斑目一角。

 

護廷十三隊十一番隊の三席で、席官の地位にありながらも副隊長に匹敵する程の実力を持つ。ソウルソサエティ屈指の豪傑であり、斬魄刀戦術の奥義である卍解を扱える唯一の席官である。

 

しかし同隊長の更木剣八の下で戦い抜く事を本懐とし、一時期戦い方を教えていた恋次さんと、古い付き合いである同五席の綾瀬川弓親さん以外にそれを教えることなく現在へと至っている。

 

尤も、以前十一番隊に所属しており、親交のあった七番隊副隊長の射場鉄左衛門と、その2人の会話を聞いていた同隊長の狛村左陣の2人には既に知られてしまっているのだが・・・。

 

閑話休題。

 

俺は控えめに手を挙げて恋次さんに聞く。

 

「あの~恋次さん。その一角さんとは一体誰なんですか?」

 

俺の問いに、恋次さんだけでなく納得していた京楽さんと伊勢副隊長も、俺が一角さんと顔を合わせていなかったのを察したらしく「あぁ、そういえばお前はまだ会ってなかったな」と恋次さんがどこか誇らしげに笑う。

 

「斑目一角。護廷十三隊十一番隊の副官補佐で、俺に戦い方を教えてくれた人だ」

 

「彼の実力は僕も保証するよ」

 

「それに一角さんの斬魄刀は、一応だが長柄の系統に含まれている。参考にはなると思うぜ」

 

2人の太鼓判に俺は「へぇ~」と感心の一声を吐き、「お願いします恋次さん!その人を紹介して下さい!」と恋次さんに斑目三席の接見を求めた。

 

「いいぜ。今からでも構わねぇか?」

 

「はい」

 

「それじゃあ行こうか」

 

二つ返事でオーケーを貰い、俺は恋次さんと共に執務室の扉を出て八番隊舎を後に・・・・・・・・・ん?

 

「京楽隊長?」

 

「何やってるんですか?」

 

後にしようとしたが、背後から聞こえた聞き覚えのある声に、俺と恋次さんは胡乱な表情をして振り向き、声の主である京楽さんを見た。

 

「いや~僕も着いて行こうかな~っと思ってね」

 

「『思ってね』じゃないでしょう!書かなきゃいけない書類がまだまだあったじゃないですか!!」

 

「そうっすよ!さっき俺が持って来た書類の提出期限!確か今日だった筈ですよ!」

 

朗らかに笑う京楽さんに、俺と恋次さんのツッコミが入るが、京楽さんは朗らかに笑ったままでのらりくらりとはぐらかし、一向に執務室に戻る気配を見せないでいる。

 

「もぅ、いい加減にしないと、また伊勢副隊長に叱られますよ!」

 

「大丈夫大丈夫。きっと七緒ちゃんも、疲れた僕を慮って許してくれるよ」

 

最後の手段に伊勢副隊長の名前を出すが、やはりはぐらかされてしまった。

 

しかしその瞬間。

 

ガシッ!!

 

京楽さんの肩を鷲掴みにした手から、そんな擬音が聞こえたように俺は感じた。

 

ふと京楽さんの顔を見ると、先程まであった朗らかな笑みは消え去り、頬を引きつらせて冷や汗をダラダラとかいていた。

 

「・・・隊長」

 

普段から聞いている凛としたその声が、今は地の底から聞こえるような低い声色となっていた。

 

ギギギッと軋んだ音が聞こえてきそうな程のぎこちなさで京楽さんが背後を振り返ると、そこにはスゥッと目を細めて黒い怒りのオーラが全身から滲み出ている・・・・・・・ように見える伊勢副隊長がいた。

 

「な、七緒ちゃん。これには深~い訳が「どんな訳ですか?」・・・」

 

冷や汗を垂らして言い訳をしようとする京楽さんだったが、阿修羅と化した伊勢副隊長の迫力に押されて押し黙ってしまう。

 

「部屋に戻ってくれますね」

 

「いや・・・その・・・「戻ってくれますね」・・・はい」

 

往生際悪く言葉を濁す京楽さんに、静かだが有無をいわせぬ迫力を持つその一言に京楽さんもついに折れ、首をうなだれて執務室へと戻っていった。

 

パタンと執務室の扉が閉まる軽い音が、何故か俺の耳には妙に響いて聞こえた。

 

「恋次さん。行きましょうか」

 

「あ、あぁ」

 

俺は未だに衝撃の抜けていない恋次さんに呼び掛け、共に八番隊舎を後にした。

 

そしてその移動する際、俺の。そしておそらく恋次さんの心の中でも一つの誓いが立てられただろう。

 

女性を怒らせないようにしよう。と。

 




ストックがなんとかあと一話分あるので、お盆の終わり(18日位)に再び投稿しようと思っています。

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