――龍一郎サイド――
気が付くと、俺はどこの町にでもありそうな人気のない公園の真ん中で立ち尽くしていた。
「…どうやら着いたようだな」
左右を見て人目がないのを確認し、俺は近くにあるベンチに腰掛ける。
「さて、これからどうするか……まずはこの世界がどこなのかを調べないとな」
「それには及ばない」
「!!」
突然背後からふってきた応答に、俺は危うくベンチから滑り落ちてしまいそうになりながらも、なんとか体制を立て直して声のした方に顔を向けた。
「だ、誰だ!!」
「安心しろ我は味方だ。我が主よ」
俺の視線の先には紫色の瞳が印象的な一人の少女が立っていた。
見た目の年齢は大体10歳位の幼さだが整った顔立ちをし、自らの身長ほどの長く青い髪を紫のリボンで束ねている。
美しい容姿ではあるが、どこかガラス細工のような触れれば壊れるような危うさを感じさせた。
ちなみに俺の知った顔だった。
「なんでゼフィリスがここにいるんだ!?」
そう。目の前にいる存在は俺の読んでいたライトノベル『スクラップドプリンセス』に登場するキャラクター。ゼフィリスだった。
「我の名はゼフィリスではない」
「え?」
「確かに我は『スクラップドプリンセス』のゼフィリスを元に汝のパートナーとなるべく神に創られた存在」
(成る程…爺さんは俺のパートナーにゼフィリスを選んだのか)
「しかし我がオリジナルでない以上、我がゼフィリスの名を冠する訳にはいかない」
「お堅いなぁ。別にゼフィリスでもいいだろう?」
「そうはいかない。我が主よ、我に名をつけて欲しい」
呆れ半分感心半分という表情で軽く頬を掻く俺。
「別にいいが、1つ頼めるか?」
「なんだ?」
「俺のことを『我が主』って呼ぶのをやめて欲しいんだ。俺達は対等の立場の相棒であって、主従関係じゃない」
俺の頼みに青い髪の少女は「ふむ…」と短く考え、「分かった…龍一郎」と応えてくれた。
「俺的には『龍』って呼ばれる方が好きだな。『エルフィ』」
「エルフィ?……それが我の名か?」
「あぁ。フルネームはエルフリーデ=クライスト。愛称がエルフィ。どうだ?」
「その名。有り難く頂戴する」
微笑んで感謝の言葉を紡ぐ『相棒』。
「気に入ってくれたのなら、なによりだ」
俺も相棒に笑いかけ、話題を変えるためにパンッと軽く手を叩く。
「さて、話を戻すぞエルフィ。さっきお前は俺がこの世界がどこなのか調べようとした時に『それには及ばない』って言っていたな?」
「あぁ」
「なら分かるのか?この世界が何処なのかを?」
エルフィは無言で首肯した。
「ここは第二百四十八番次元に該当する平行世界だ」
………はい?
「ににゃく?へいこう?」
俺の頭上で?マークが乱舞する。
そんな俺を見てエルフィは「あぁ」と合点したという表情でポンと手を叩いた。
「済まない。番号名で言っても分からないか。分かりやすく言えばこの世界は『BLEACH』という物語を原作に、枝分かれした幾つもあるIFの世界の1つ。つまりパラレルワールドだ」
エルフィの言葉に俺は思わず頭を抱えた。
「死亡ルート満載の世界じゃねぇか……まぁ神から貰った能力もあるし、なんとかなるとは思うが…「すまないが龍。その能力や装備の事で、神から伝言を預かっている」」
自らを慰めるように呟く俺に、エルフィが言い難そうに声を被せる。
「伝言?」
「あぁ。まずは装備の事だが、汝の手に腕輪がはめてあるだろう」
そう言って指差すエルフィの指の先に視線を送ると、確かに俺の左腕の手首に銀色の輝く腕輪があった。
「それが汝が望んだマジックアイテム。『オケアヌスの輪』だ」
「成る程ね。確かにこれなら持ち運びしやすいな……あれ?」
感心しながら腕輪を外そうとしたが、腕輪は吸い付いたように動かなかった。何故?
「『外れろ』と念じて外せばいい」
「ん…分かった」
エルフィの助言通りにしたら、腕輪がするりと外れた。
「更に念じるだけで指輪サイズまで小さくすることも、フラフープサイズまで大きくすることもできる」
「へぇー」
早速やってみると、本当に自在に大きさを変えることができた。面白い。
「それで、どうやって武器とかを出すんだ?」
俺は一通り大きさを変えて遊……試した所でエルフィに聞いた。
「まず取り出したい道具をイメージして輪の中に手を入れる」
(ふむ…それなら)
俺はオケアヌスの輪を元の腕輪サイズに戻し、BLEACHの世界ということで、護廷十三隊に一般的にある斬魄刀『浅打』をイメージして輪の中に手を入れた。
すると俺の手は腕輪に生まれた異空間に入り、見た目には手首より先が喪失したようになっていた。
「なんか切断されたみたいで嫌だな」
思わず口に出る。
「思っていても口に出すな。次にイメージを維持したままで手を握り、一気に引き出せ。そうすれば武器が出せる」
たしなめて説明を続けるエルフィ。
俺は言われたとおりに手を握ると『がしっ』と掌に感触が伝わってきた。
そしてそのまま手を腕輪から引き抜くと、俺の手には鞘に納められた一振りの日本刀が握られていた。
「おぉ~」
やばい。目がキラキラしているのが自分でも分かる。
「あとは能力の事なのだが……」
躊躇するかのようにエルフィが途中で言葉を切り、意を決した様な顔をして口を開いた。
「単刀直入に言うぞ龍。今の汝では神から与えられた能力をほとんど使うことはできない」
ピシッ!
空気が音を立てて固まる音が響き、俺はギギギッと擬音を立てんばかりにゆっくりと首を回し、エルフィに顔を向ける。
「ナ…ナニヲイッテイルノカナ。エルフィサン」
「まずは斬魄刀だが、始解は全てを解放して扱う事は出来る。だが卍解は解放は出来るが、扱うことは出来ない」
「え…?解放は出来ても扱うのは出来ないって、矛盾していないか?」
「正確に言うと、卍解をすると汝の体が卍解の力に耐え切れずに崩壊をはじめ、戦闘不能の状態となる」
(双極の丘で朽木白哉と戦った時の黒崎一護と同じ状態になるって事か)
「今の龍が卍解して戦える時間は大体これ位だ」
そう言ってエルフィは五指を広げた手を俺の目の前に出した。………って5?
「五分?」
「五秒だ」
ビキッ!
再び音を立てて固まる俺。
「卍解でもこれなのだ。虚化など言わずもがなだ。長く保てたとしてもコンマ数秒で仮面が割れる。当然だが、龍が考えたオリジナルの解放形態とやらも今は使うことは出来ない」
orz状態になる俺。
「更に言わせてもらうが、写輪眼などといった魔眼の類は先程のオケアヌスの輪と同じ要領で念じれば発動できる。
しかし写輪眼や白眼はチャクラを必要とするから、先にチャクラを練る訓練を積まなければならない。無論、忍術・幻術も同様だ。
予知眼(ウ゛ィジョンアイ)や支配眼(グラスパーアイ)は使えるが、予知眼はあまり実戦的ではないし、支配眼は鍛錬を積んでいない今の状態で連続で使用すると肉体面での負担が大きすぎる」
orz状態のままで某ボクシング漫画での最後の主人公のように真っ白になる俺。
「獣魔術は精神力を多量に消費するから、今の龍では一日に2、3発が限界だ。
音声魔術とスレイヤーズ世界の魔法は神のサービスで呪文を唱えたり、混沌の言語(カオス・ワーズ)と力ある言葉で発動するようになっている。
しかし今の龍の身体が魔力を使うことに行為に慣れてはいないから、少しづつ使って身体に慣らしていかなければならない。
ボックス兵器にしても、リングに炎を灯せなければ無意味。
神威の拳も呼吸法をマスターしなければ使うことが出来ない」
あぁ……俺が灰になって消えていく。
「今の所まともに使えるのは五つの才牙だな。完全に使いこなすには鍛錬が必要だが、普通に武器として扱う分には何の問題も無い」
「中途半端な希望を有り難う」
なんとかorzから復活して立ち上がる俺。
「それに龍。汝の身体能力は転生前となんら変わっていない。鍛錬さえすれば大なり小なり必ず結果は出てくる。無限成長能力もあるしな」
「とは言っても、斬魄刀や忍術や魔法の鍛錬なんて、そこいらの空き地とかでほいほい出来る様な事じゃないだろう」
騒音公害などで近隣住民に迷惑になるのは確実だ。
「それにこの世界での今現在の情報も、出来るだけ知っておきたいしな」
「問題ないぞ。鍛錬場所と情報収集。二つを一挙に解決できる場所がある」
俺の溜め息混じりの呟きに、エルフィがしれっと答えた。
「はい?」
そんな都合のいい所があるわけが…………………まさか。
「エルフィ……もしかしてその場所って」
「あぁ龍も知っているだろう。浦原商店だ」
やっぱりかぁぁぁぁぁっ!!
頭を抱えて天を仰ぎ、声にならない叫びを上げる。
しかしエルフィは「どうした?」と首を傾げて聞いてきた。
「「どうした?」じゃあねぇよっ!いいのかよ!思いっきり原作に介入しちまう可能性が高くなるじゃねぇか!!」
「問題は無いぞ。とりあえず落ち着け。口調が変わっているぞ」
錯乱気味の俺にドライに突っ込むエルフィ。
「原作介入についてだが心配は要らない。先程も言ったがこの世界は平行世界。原作から枝分かれしたIFの世界だ。我々が介入しても原作にはなんの影響も無い」
「うぐ」
正論を言われて言葉に詰まってしまう。
「更に言えば、これはこの世界に限らずこれから渡る全ての世界にいえることだが、我々が渡る世界は全て『イレギュラーズがいなければ原作通りに物語が進んでいた』というIFの世界だ。つまり…」
「イレギュラーズがいる時点で既に原作はブレイクしているから、今更俺達が気を使おうと手遅れだと?」
「そうだ」
予想をあっさり肯定され、眩暈すらおぼえる俺。
(原作好きが最初から原作ブレイクが確定している世界に行くってどうよ…【精神的に再びorz】)
「どうした?」
怪訝な顔で小首を傾げるエルフィに俺はなんとか気を取り直して「いや…なんでもない」と返す。
「で、エルフィは知っているのか?浦原商店の場所」
「無論だ」
「即答かよ。じゃあ案内してくれ」
「よし、行くぞ」
俺はベンチから腰を上げ、エルフィの後に続いて歩き出した。