龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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第十六話

――一護サイド――

 

ギィンッ!!

 

「…っ!」

 

思い切り打ち込んだ斬撃を弾かれ、俺は奴の全体を視界内に収めれるように数歩下がって斬月を構えた。

 

「オレンジ色の髪に、身の丈ほどの大刀……成る程な。てめぇが死神代行の黒崎一護だな」

 

「てめぇは何者だ…なんで俺の事を知っている」

 

相対する相手にいきなり名を言われ、俺は動揺で僅かに眉を動かしたが、勤めて冷静に返した。

 

「俺の名はバウス。何でお前の事を知っているのかって?そりゃあ俺は情報を大事にするからな。障害となりそうな敵はあらかた調べておいてあるんだよ」

 

平然と自らを『敵』と断言する相手―バウス―に、俺は斬月を力強く握り締めて睨むが、バウスはまだ話を続けるつもりらしく、軽く後頭部を掻きながらはぁっと溜め息を吐いて「それにしても」と言って俺を見た。

 

「現世にいる筈のお前が此処にいるって事は、ムガインの奴は倒されたって事か。やっぱりあの程度の奴じゃ荷が重かったって事か」

 

「なっ!!やはり貴様は奴の仲間か!?」

 

バウスのその言葉に反応して叫びを上げたのは、俺ではなく総隊長の爺さんの横に居るルキアだった。

 

「仲間……というよりは同属といった方が正しいな」

 

「じゃあやっぱりてめぇも、あいつと同じウ゛ァンデルって訳か」

 

ルキアに答えた奴の言葉を聞いて納得の意と共に出た俺の呟きに、バウスは細く開いた目を開いて意外そうな顔で俺に顔を向けた。

 

「おい。その言葉…何処で知った」

 

「へっ!誰が教えるかよ!」

 

挑発で返す俺にバウスは「そうかい」と一泊間を置いた後に地を蹴って接近し、俺のこめかみを抉る様な左のフックを放ったきた。

 

しかし奴の全体を視界内に収めて警戒していた俺は、その動きに即座に反応して斬月を盾にし、その一撃を防いだ。

 

ガンッ!という鈍い音と斬月の柄を握る手に痺れが走る。

 

俺はそれを強制的に無視して目の前にまで迫ったバウスを睨み付けた。

 

奴は拳を斬月に当てたままで俺にニヤリと邪悪な笑みを浮かべて――

 

「なら、力ずくで聞き出すだけだな」

 

さらりと言い放った。

 

「やれるもんならやってみろ!!」

 

俺は吠えて奴の拳を止めたままで斬月を一気にかちあげて拳を捌き、接近しすぎている奴と一旦距離を置くのと同時に俺にとって最善の間合いとする為に数歩下がって、斬月を袈裟斬りに振り下ろした。

 

だが、斬月の切れ味が最も発揮される間合いで振るった刃も、バウスの冥力壁に弾かれて火花を散らすのみに終わる。

 

(チッ……やっぱり龍一郎の武器じゃねぇと駄目か)

 

俺が内心で舌打ちをするのとほぼ同時にバウスは俺に再び接近し、右のボディアッパーを打ち込んできた。

 

下から迫るその拳を俺は僅かに後方に下がって躱したが、奴の攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 

後方に下がった俺に左のストレート、右のミドルキック、再度接近しての左のアッパー、止めに右の突き回し蹴りと。拳と蹴りのラッシュを次々と放ってきた。

 

それに対し俺は左のストレートは首を傾げる形で避け、右のミドルキックを斬月で受け止め、左のアッパーをスゥエーで躱す。

 

だが奴の攻撃を避けれたのは此処までだった。奴のアッパーを仰け反って躱してしまった事で視線を上に向けてしまった俺は、止めの突き回し蹴りに対する反応が僅かに遅れてしまった。

 

自らの失策に気付いた時には既に奴の蹴りが俺の鳩尾に突き刺さっていた。

 

「がはっ!」

 

肺の中にある空気が呻きと共に漏れ、蹴りの衝撃で吹っ飛ばされた事で身体が浮き、奇妙な浮遊感が全身を襲う。

 

しかし俺はなんとか空中で体勢を立て直して地を踏みしめ、素早く斬月を構えて奴を視界内に捉えた。

 

(…こいつ)

 

鳩尾に残る鈍い痛みを感じ、俺はギリッと奥歯を強く噛み締めて自分の迂闊さを悔いた。

 

現世でムガインと戦い、ウ゛ァンデルという存在の力を多少は理解したつもりでいたが、この場でのバウスとの攻防でそれは俺の驕りだということを悟った。

 

ムガインはでかい図体に見合うパワーと重量を使って、斬るというより押し潰す系統の攻撃をしていたが、その高い攻撃力に反比例して動きは鈍重で避けるのはかなり簡単だった。

 

だが目の前に居るウ゛ァンデル。バウスは現世で戦ったムガインとは桁が違っていた。

 

ムガインのように武器を手につけての攻撃などはしてこないが、パワーもスピードも全てにおいてムガインを圧倒的に上回っている。

 

「一護!」

 

「来るなルキア!!」

 

叫んで駆け寄ろうとするルキアに、俺は声を荒げて制止する。

 

「しかし…」

 

「こいつは現世で戦った奴とは別格の強さだ!お前じゃまず太刀打ちできねぇ!お前は爺さんの側に居てくれ!」

 

「賢明だな」

 

俺の説得に肯定の意をみせたのはルキアではなく、目の前に居る相手。バウスだった。

 

「だがムガインの奴を基準に俺を見ないで欲しいもんだな。あんな二ッ星と一緒にされるのはいい気分じゃねぇ」

 

二つ星?一体どういう意味だ?

 

そんな心情が顔に出たのか、バウスは俺の顔を見て眉を顰めて怪訝そうな表情をした。

 

「おいおい。なんだその顔は?まさかウ゛ァンデルの事を知っているのに『星』の事を知らないとか言い出すんじゃねぇよな」

 

図星を指されたが、これ以上表情を読ませないように無言のまま斬月を構えて睨み付けたが、そんな俺を見て何かを悟ったのかバウスは「どうやら…知らねぇみたいだな」と呟いた。どうやらおれのポーカーフェイスは無駄に終わったみたいだ。

 

「ま、その位しか知らないのならまだいいか…」

 

何がいいのかは分からないが、どうやら向こうで勝手に完結して考えを切り替えたらしく、「それにしてもなぁ……」と呟いて軽く後頭部を掻いて俺を見据えた。

 

「山本元柳斎に頼み事をする為に来たってのに、色々と面倒な事になっちまったな」

 

「頼み事…だと…」

 

バウスのふざけた物言いに、ルキアは呆れ果て。俺は怒りのままに怒鳴る。

 

「ふざけんな!!」

 

俺はこれを見ろとばかりに部屋から見渡せる外の景色に向けて腕を振るった。

 

其処には火の手が上がり、黒い煙が立ち上る瀞霊廷がどこまでも広がっている。

 

「これが頼もうとする奴のやる事か!!」

 

俺の叫びに対してバウスは「うるせぇなぁ」と面倒臭そうに返すだけだった。

 

「さっきも言っただろう。俺はお前じゃなくて山本元柳斎に用があるんだよ」

 

勝手な言い草に俺は血液が沸騰するような怒りを感じ、ギリッと音がする程に奥歯を強く噛み締める。

 

「…貴様の用件を聞こう」

 

低く重い声。それは俺の声でもルキアの声でもない。総隊長の爺さんが発したものだった。

 

「なっ!?爺さ…!!」

 

「総隊長殿!?一体…!!」

 

俺とルキアの驚愕の声が重なるが、俺達は爺さんの目を見て口を噤み、喉元まで出掛かっていた言葉を飲み込んだ。

 

何故なら爺さんの目は決して今のこの状況に絶望しての諦めを含んだ目ではなく、力強い光を宿した目だったからだ。

 

爺さんには何か考えがある。そう感じ取った俺とルキアは、黙って爺さんとバウスの会話に耳を傾けた。

 

そしてバウスは爺さんの返事に意表を突かれたらしく、ピクリと眉を動かして「ほぅ」と呟いた。

 

「そんな簡単に聞いてくれるとは、正直思ってなかったぜ」

 

「早う申せ」

 

爺さんの一言にバウスは「随分とせっかちだな」と若干呆れた様子を見せたが、「まぁいい」と気を取り直して本題を切り出した。

 

「俺の用件は唯一つだ。鬼道砲を俺にくれ」

 

「「「……!」」」

 

その内容に俺もルキアも。そして爺さんもが驚愕に声を失った。

 

鬼道砲

 

それは俺が卍解を体得して間もなかったときに起こった事件。

 

ソウルソサエティを追放された元重権貴族・龍堂寺家がその復讐の為に、ソウルソサエティと現世の間に輪廻から外れた魂魄の集合体の空間。叫谷(きょうこく)を出現させ、世界の崩壊を企てた。

 

俺は奴等に捕まった輪廻から外れた魂魄の記憶の集合体の思念珠(しねんじゅ)…いや。茜雫(せんな)を仲間の力を借りて助け出し、ソウルソサエティは叫谷を破壊してなんとか事件は解決した。

 

そして後にルキアから聞いた、叫谷を破壊する際に使った兵器。それが他でもない今バウスが言った鬼道砲だ。

 

一つの空間を破壊する事も出来る兵器。そんな物騒な代物を事も無げに『くれ』と言ったバウスに、俺は斬月を握る手に力を込め、ルキアは斬魄刀の柄に手をかけて警戒する。

 

しかし爺さんは薄く目を開けて動揺の気配を見せはしたが、俺やルキアのように大きな反応はせずに再びバウスに問う。

 

「貴様…鬼道砲を手に入れて如何様にする腹積もりじゃ」

 

爺さんのその問いに、バウスは歯を剥き出しにして邪悪な笑みを浮かべた後に即答した。

 

「現世に向けてぶっ放す」

 

その言葉が耳に届き。俺の頭は刹那の間、凍結したように完全にフリーズした。

 

そしてその凍結が解けた後に真っ先に頭に浮かんだのは、現世にいる家族や仲間達の姿だった。

 

遊子、夏梨、啓吾、水色、たつき、井上、チャド、石田。

 

皆のいる現世に鬼道砲を撃つ……だと?

 

そんなこと……

 

「…させるかよ」

 

「あぁ?なんか言ったか?」

 

俺の呟きが聞き取れなかったのか、聞いてくるバウスに俺は吠えた。

 

「そんな事……させるかよ!!」

 

俺が咆哮を放つと同時に感情に呼応して霊圧が嵐の様に吹き荒れ、辺りをビリビリと震わせる。

 

俺は斬月の切っ先を上げてバウスに向け、己の霊圧を更に高め――

 

「卍!!」

 

力を解き放つ!!

 

「解!!」

 

先程まで俺の周りでとぐろを巻くように放出されていた青白い霊圧が、全てを塗潰す様な黒に変わり、瞬間的に俺の姿を隠す。

 

そして黒い霊圧が晴れ、天鎖斬月を携えた俺はバウスに剣先を向けたままで吠えた。

 

「そんなふざけた計画は俺がぶっ潰す!!」

 

しかし卍解して吠える俺を前にしても、バウスは「うるせぇなぁ」と面倒臭そうな顔をして横目で見ているだけだった。

 

「なに…?」

 

「俺はお前に聞いているんじゃねぇ。元柳斎に聞いているんだよ……で?どうなんだ返答は?」

 

奴のふてぶてしいまでの態度に驚きや憤りを通り越して絶句する俺を無視して、バウスは爺さんの方に顔を向けた。

 

そんなバウスに、爺さんは小さく息を吸い込んで一拍置き、薄く開いた目をクワッと見開いて――

 

「否!!!」

 

言い放った。

 

「我等護廷十三隊!世界の崩壊に手を貸すなど断じてせぬ!!

そして世界の崩壊を企む貴様を、全霊を賭して叩き潰す!!」

 

「…やれやれ。決裂か」

 

「元より願いを聞くつもりなど毛頭無い。貴様の目的を知るために聞いていたまで」

 

「そうかい…なら」

 

ガリガリと後頭部を掻いて溜め息を吐き、落胆を露にしていたバウスの雰囲気が『なら』の一言と共に明らかに変わった。

 

気温が急激に下がったような錯覚を覚え、背中に冷たい汗が流れる。

 

喉の渇きを感じ、ゴクリと唾液を飲み下す音が酷く大きく聞こえる。

 

バウントとも、破面(アランカル)とも、死神が放つ殺気とも違う。

 

今まで感じた事の無い、全く異質の殺気。

 

(これが……ウ゛ァンデルの殺気か)

 

その殺気を受けて無意識に気圧されそうになる己の身体を叱咤して何とか堪え、天鎖斬月を正眼に構えてバウスを睨みつける。

 

「邪魔なお前達を殺して…ゆっくりと鬼道砲を探させて貰おうか」

 

「やってみろ!!」

 

俺の咆哮に呼応するように後ろにいるルキアは刀を抜いて構え、総隊長の爺さんは己の斬魄刀に炎を宿す。

 

「いいぜ。かかってきな」

 

「おおぉおっ!!」

 

余裕すら感じられるバウスの挑発に応えて雄叫びを上げて切りかかっていったのは、俺でもルキアでも爺さんでもなかった。

 

ギィンッ!!

 

奴の冥力壁に刃が弾かれ、七枚の刃節に分かれた見覚えのある刀身が舞い、執務室の外から恋次が踊り込んできた。

 

「チッ…こいつもムガインの奴みたいな壁を張ってやがるのか」

 

「「恋次!!」」

 

床に着地して蛇尾丸の刃節を戻し、憎らしげに舌打ちを漏らす恋次に、俺とルキアの声が重なる。

 

だが恋次は俺達の呼び掛けに一切答えず、バウスに視線を向けたままで蛇尾丸を構えた。

 

一方バウスは敵意を剥き出しにしている恋次の視線など、全く気にならないといわんばかりに溜め息を吐く。

 

「はぁ~やれやれ。また邪魔な奴が増えたか」

 

「ソウルソサエティからしたら、テメェの方が邪魔者なんだよ!魔牢獄の獄長さんよぉ!!」

 

「!」

 

魔牢獄の獄長。恋次の言った意味不明の単語に、バウスは明らかな反応を見せた。

 

「貴様…何故その事を知っている」

 

「へっ!誰が言うかよ!!」

 

鼻で笑って吠えた後に、恋次は蛇尾丸を床に突き刺した。

 

「くらいやがれ!!狒牙絶咬(ひがぜっこう)!!」

 

恋次の咆哮と同時に、バウスを中心に周りから床に突き刺した蛇尾丸の七つの刃節が一斉に舞い上がり、七つの刃がバウスに襲い掛かった。

 

ドガアァッ!!

 

凄まじい音と衝撃と共に土煙が舞い上がる。

 

「後は…任せたぜ」

 

恋次のその呟きが何を意味するものなのか、俺とルキアが問おうとしたその時――

 

ブワッ!!

 

執務室の外から一体の黒い影が一陣の風となって舞い降りた。

 

その影――翼の大剣を肩に乗せた龍一郎は、執務室の床に足を踏みしめると同時に、土煙の先にいるであろう存在に鋭い視線を向けた。

 

 

 

 


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