龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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第十三話

――三人称サイド――

 

『涅マユリを殺した』

 

この言葉を発した瞬間、元柳斎は小さな、しかし明らかな反応を示したが、それは涅を。そして技術開発局を襲った事を明かした事や、前回の襲撃と今回の強襲が繋がっていた事による動揺によるものではなかった。

 

前回の襲撃の混乱が収まらぬ中で、狙い済ましたかのように間髪いれずに起こった今回の騒ぎ。

 

この二つに関連性がないと一蹴するほど元柳斎は思慮の低い男ではなかった。

 

元柳斎の反応。それはバウスがハッキリと涅マユリを『殺した』と言った点にあった。

 

何故ならば現在涅マユリは死んではおらず、意識不明の重傷で四番隊の集中救護室で治療中の筈だからだ。

 

しかしハッキリと『殺した』と口にしたバウスの顔に嘘や偽りが見えない所から、可能性は二つに絞られる。

 

この場に来る前にマユリのいる救護室に行き、止めを刺したか。

 

先日マユリと戦い勝利した時に、意識不明のマユリを殺したと勘違いをしたのかのどちらかだ。

 

しかし元柳斎はこの二つの可能性を思い浮かべた瞬間に、前者の考えを即座に否定した。

 

理由は簡単。四番隊からも救護詰所からも大きな霊圧の乱れを感じなかったからだ。

 

もしもバウスが救護室に入って涅マユリを殺したのなら、救護詰所にいる死神達の霊圧。最低でもマユリの霊圧だけでも消え失せている筈だが、元柳斎は弱弱しくも確かに存在するマユリの霊圧を感じ取り、迷いなく前者を切り捨てて後者が真実だと確信した。

 

だが元柳斎はその事を口に出しはせず、ただ無言でバウスを睨み付けていた。

 

今この場でマユリが生きている事を口にすれば、間違いなくバウスは救護詰所に向かい、今度こそマユリを殺すに違いないからだ。

 

「先日の技術開発局の襲撃、そして今回の強襲。全て貴様の差し金か」

 

代わりに元柳斎は問いではなく、確信を持った確認を口に出した。

 

「流石に老いてはいるが総隊長だな。そうだ、全て俺がやった事だ」

 

逡巡もせずに己の所行を平然と認めたバウスに、元柳斎はこれ以上の遣り取りは無意味とでもいうように地につけていた杖を掲げる。すると外皮となっていた杖が消え去り斬魄刀が姿を現して戦闘体勢をとる。

 

「いいのか?俺を斬って?世界の均衡を保てなくなるかもしれねぇぜ」

 

「愚かなり」

 

邪悪な笑みを見せるバウスの言葉を元柳斎は一蹴した。

 

「貴様が真に世界の均衡になくてはならぬ存在なら、技術開発局を襲い解析を困難にさせはせぬ」

 

確信を持って断言した瞬間。大気が震え、何者かが霊圧の網を張り巡らせたのを元柳斎は感じ取った。

 

(これは…天廷空羅(てんていくうら)か)

 

元柳斎が感覚の正体に気付いた刹那。脳内に女性の声が届いた。

 

『護廷十三隊各隊隊長及び、副隊長・副隊長代理各位、そして全席官に連絡します。こちらは十三番隊副隊長、朽木ルキアです。

しばしご静聴をお願いします。これから話すことは全て事実です』

 

そう言って間を置き、朽木ルキアは現世に行って見聞きした事の全てを詳細に語った。

 

現世で接触し、戦闘したイレギュラーズという存在。その目的、存在理由。

 

そして現世にて浦原喜助がそのイレギュラーズを解析した結果。霊的な力は一切無く、世界の均衡について全く関係がない存在であること。

 

そのイレギュラーズを倒すべく神によって送られた吉波龍一郎という男が、現在黒崎一護と共にソウルソサエティに入り、己と阿散井の両副隊長と行動を共にしている事など、全てを話した。

 

それを黙して聞いていた元柳斎は、些少(さしょう)の躊躇いも無く隊首羽織を脱ぎ捨てて上半身を露にし、己の斬魄刀を鞘から抜き放った。

 

ゴウッ!!

 

刀身が現れると同時に刃が。否、刃のみではなく周りが全て炎に包まれた。

 

「万象一切灰燼と為せ……流刃若火」

 

元柳斎の口から刀の名が紡がれると同時に、周りを渦巻く炎が更に勢いを増す。

 

「あぁ。見事な炎だ」

 

しかし炎熱系最強にして最古の斬魄刀が解放されたにも拘らず、バウスの表情に焦りは無く、むしろ己を焼き尽くそうと周りで渦を巻く炎を見て恍惚とした表情をしていた。

 

「バウスよ…覚悟!!」

 

元柳斎はそんな表情を浮かべているバウスに向けて刃を振るい、流刃若火の炎を放った。

 

爆炎がバウスの黒い体を呑み込み、一番隊舎の執務室から外にまで炎が噴き出した。

 

 

――龍一郎サイド――

 

「どうやら無事に伝えたようですね」

 

「そうみたいだな」

 

ルキアさんが描いた空中に浮く紋が消えるのを見て呟く俺に、一護さんが頷いて同意した。

 

あの後俺の分身体と一護さん達はハウンドソルジャーのみを各個撃破し、その後烏合の衆と化した他のモンスター達も瞬く間に殲滅していった。

 

いくらハウンドソルジャーが高い知能と戦闘力を持っているとはいえ、それは『冒険王ビィト』の世界の基準の話。

 

この世界の死神、それも隊長挌や副隊長格から見れば恐れるに足りない存在だ。

 

一護さん達がてこずっていたのはモンスター達に対する知識がなかっただけで、それさえ教えれば一方的な戦闘となるのは当然だった。

 

そして全てを倒し終わった後に分身体を消して(影分身を出した時もだったが、この時花太郎さんは驚いて腰を抜かしていた)クラウンシールドを回収し、花太郎さんと共に一護さん達と合流した。

 

その際にモンスター達の正体を急いで皆に知らせようと提案したルキアさんに俺を含めた全員が賛成し、ルキアさんが天廷空羅で護廷十三隊の全隊に知らせている間、無防備になるルキアさんを皆で護衛し、今に至っている。

 

そしてルキアさんの両腕と空中に描いた紋が消えて此方に近づいて来ている所を見ると、どうやら無事に報(しら)せ終わったらしい。

 

「待たせたな」

 

「ちゃんと伝えられましたか?」

 

「あぁ。どうやら旅禍達は通信機器を狂わせたりすることは出来ても、霊的な力に干渉することは出来ないらしい。天廷空羅で霊圧の網を張る際に何の阻害も受けなかったからな」

 

俺の確認に首肯して返したルキアさんに、恋次さんが「さて、どうするんだこれから?」と聞いた。

 

確かに花太郎さんからモンスター達について大方の情報を教えてもらったし、イレギュラーズや俺いう存在の事も今の天廷空羅でざっくりとだがルキアさんがほとんど全部話してしまった筈だから、最初の目的は既に果たしてしまっている。

 

とはいえこの状況下で『目的は済んだから現世に帰ります』などと言い出すほど俺は薄情な人間ではない。

 

少なくとも今のこの状況を何とかするまでは、ソウルソサエティに留まろうと思ってはいる。

 

「まずは花太郎を四番隊へと送ろう。あのような奴等がうろついている場に置いていく訳にはいかぬからな」

 

「えぇっ!そんな……わざわざ…」

 

「賛成です」

 

「そうだな」

 

「納得だ」

 

ルキアさんの意見に戸惑ってあわあわしている花太郎さんを見て、俺と一護さん。そして恋次さんは異論無しといった感じで頷いた。

 

まだモンスターが辺りにうろついているかもしれないこの場に、花太郎さんをほったらかしにするのは確かに拙いだろう。

 

「よし。なら四番隊舎へと向かうぞ」

 

未だに右往左往している花太郎さんを無視して話を纏めたルキアさんが先頭を歩こうとした刹那。

 

ドガァッ!!

 

近くの塀が轟音を立てて吹き飛ぶと同時に、傷だらけの死神が吹き飛んだ塀の破片と共に飛び、倒れた後に向かいの塀の壁まで転がった。

 

(何だ?)

 

俺がその言葉を口に出すよりも前に、倒れた死神に近付いてその姿を見たルキアさんと恋次さんの叫びが上がった。

 

「雀部(ささきべ)副隊長!!」

 

「大丈夫ですか!!」

 

(え?雀部って……雀部長次郎副隊長!?)

 

その言葉に驚いて二人の後を追って傷だらけの死神に駆け寄って見ると、確かに一番隊副隊長の雀部長次郎忠息だった。

 

日本人とは少々違った西洋人風の顔立ちに口髭を付け、どこか隊長格が纏う白羽織に似たマントを身につけて、既に始解をしているらしく手にはレイピアが握られていた。

 

「ぐ……朽木……阿散井…」

 

「喋らないで下さい。傷に障ります。花太郎!」

 

掠れた声でルキアさんと恋次さんの名を呼ぶ雀部副隊長を抑え、ルキアさんが花太郎さんを呼ぶ。

 

「は、はい!」

 

ルキアさんの呼び掛けに花太郎さんが駆け足で近づき、顔を引き締めて真剣な顔をして雀部副隊長の傷の具合を見ていく。

 

「どうだ花太郎?」

 

一護さんの問いに花太郎さんは「見た目ほど傷は深くはないようです。命に別状はありません」と答え、俺を含む皆がほっと胸を撫で下ろして安堵の息を吐いたが、花太郎さんは「しかし」と間を置いて続けた。

 

「この場で出来るのは精々応急手当くらいです。早急に救護舎に運びましょう。皆さん手を貸してください」

 

花太郎さんの頼みに皆が頷き、花太郎さんと斬魄刀を納めた恋次さんが雀部副隊長に肩を貸して立ち上がらせ、その場から移動しようと歩を進め始めたその時、雀部副隊長の口から途切れ途切れに掠れた声が漏れた。

 

「……気を付けろ…奴等が………来る」

 

「奴等?」

 

肩を貸していた分はっきりと聞こえていた恋次さんが眉を顰めて鸚鵡返しに問い返す。

 

ゾクッ

 

刹那。背中に走る寒気を感じ、俺は反射的に手に持ったエクセリオンブレードを左に振るった。

 

ギィィン!!

 

金属音と共に掌に衝撃が走り、思わずブレードを落としてしまいそうになるのをなんとか堪えると、俺の視界に常人の背丈ほどもある巨大な突撃槍(ランス)が飛び込んできた。

 

「吉波!」

 

一護さんが斬月を抜いて俺を援護しようと駆け寄ってくるが、それよりも速く砕かれた塀の向こうから二つの影が躍り出て、一方が一護さんに。もう一方は傷を負っている雀部副隊長に向かっていく。

 

キンッ!キィンッ!!

 

二つの場所で甲高い音が響き、俺はその音のした方向に視線を走らせると、そこには俺を襲っているのと同じ形状の突撃槍を斬月で受け止めている一護さんと、解放していない斬魄刀で一護さんと同じように受け止めているルキアさんがいた。

 

「あぁっ!こいつです!侵入してきた五種類の旅禍の最後の一種類は!!」

 

花太郎さんが襲撃者を指差して叫びを上げる。

 

…ということはイレギュラーズか!

 

そうと分かるや俺は力を込めて鍔迫り合いをしている刃を押し返し、相手の重心が後方に下がると同時に軽く後ろに跳んで距離を置いた。

 

そしてこの時になって、ようやく接近し過ぎていた為に突撃槍しか見えなかった襲撃者の姿がはっきりと見えた。

 

それは鎧を身に付けた人間のような出で立ちをしたモンスターだった。

 

一目で強靭だと分かる装甲を纏い、体の殆んどを覆い隠せる程の厚く大きい楕円形の盾と巨大な突撃槍を装備したその姿は、騎士を彷彿とさせた。

 

しかしやはりモンスターであることを示すように、異形な部位も存在していた。

 

人間の頭に当たる部分をそのままポ○モンのオム○イトに変えたような頭部。

 

そして装備を持つ人間の腕にあたる部分からは装甲の穴から触手が伸び、槍と盾に巻きつくことで『持つ』という行為を可能としていた。

 

鉄騎貝(てっきがい)

 

冒険王ビィトに出てくる10種類の属性から分けられるモンスター達。

 

その中の一つ、河川や沼地など水辺に生息する『沼』の属性の中で最強クラスとされるモンスター。それが鉄騎貝だ。

 

巨大な盾と槍を扱い、知能も高く、巨体に似合わない俊敏な動きで移動し、他のモンスターと連携しての波状攻撃を得意としているという特徴を持っている。

 

確かにこいつを一気に三体も相手にしたと考えるのなら、雀部副隊長の体の傷も納得が出来る。

 

「皆さん!こいつは単体でも強いですが、他のモンスターと連携をしての波状攻撃を最も得意としています!一対一の状況に持ち込みましょう!」

 

「あぁ!」

 

「分かった!」

 

「待ってくれ!!」

 

俺の言葉に一護さんとルキアさんが答えるが、そこで何故か雀部副隊長を肩から下ろした恋次さんが待ったをかけた。

 

「一護!お前は一番隊舎に行ってくれ!」

 

「どういうことだ恋次!?」

 

鉄騎貝と鍔迫り合いをしているルキアさんが恋次さんに視線を向ける。

 

「雀部副隊長から聞いたんだが、総隊長のお姿が見えないらしい!こんな時は陣頭指揮をとるために出るのが普通にもかかわらずだ総隊長に何か異変が起こった可能性が高い!」

 

矢継ぎ早の叫びに俺を含む周りの人達の顔色が変わる。

 

「卍解すればこの中で一番速いのは一護!お前だ!そいつの相手は俺がやる!一番隊舎に向かってくれ!」

 

「確かにそうやな」

 

「「「「!!」」」」

 

突然割り込んだ第三者の声に、また新たな襲撃者かと俺は鉄騎貝に向ける警戒を保ったままで声のした方に顔を向け………俺は最初に考えた新たな襲撃者の可能性を捨て去った。

 

歩くたびに耳までかかったおかっぱ頭の髪と、袖のある隊首羽織を揺らして現れたのは、護廷十三隊五番隊現隊長。平子真子だった。

 

 

 

 

 


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