龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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第十二話

――龍一郎サイド――

 

「うわぁぁっ!!」

 

一斉に襲い掛かってくるモンスターを見て、俺は混乱し叫び声を上げている花太郎さんを護るように立ち、オケアヌスの輪から水の天力を宿す盾の才牙・クラウンシールドを取り出して構え、モンスター達の攻撃を全て受け止めた。

 

ガガガァンッ!!

 

凄まじい衝撃が盾を通して掌に伝わり、足が中に浮き上がりそうになるのを腰を落として踏ん張りなんとか耐える。

 

しかし俺はただ攻撃を受け止めるだけで済ますつもりは毛頭無い。

 

才牙に意識を集中し、魂を同調させる。

 

するとモンスター達の攻撃を全て受け止めていたクラウンシールドが、天力を帯びて青く輝きだした。

 

「お・か・え・し・だぁぁっ!!」

 

俺は咆哮と共に力を込めて盾を一気に押し返し、力を解放する。

 

ガガガァンッ!!

 

俺が攻撃を受け止めたモンスター達が派手な音を立てて弾き飛ばされた。

 

カウンター

 

相手の攻撃をそのまま相手に返すことの出来るクラウンシールド独自の技だ。

 

原作では主人公のビィトが分身体(ファントム)ベルトーゼの魔奥義を跳ね返す際に使ったが、今回俺はモンスター達の打撃を直接相手に返したのだ。

 

「大丈夫ですか?花太郎さん」

 

モンスター達に視線を向けたままで警戒しながら、花太郎さんに声をかける。

 

「あ。はい。お蔭様で」

 

腰が抜けているのかその場から動く気配は無いが、取り敢えず先程と変わらぬ声の張りで無傷であろう事は判別できた。

 

「吉波!花太郎!大丈夫か!?」

 

瞬歩で俺と花太郎さんを庇うように現れ、俺の弾き飛ばしたモンスター達に斬月を構えて気遣いの声をかけてくれる一護さんに、花太郎さんが「大丈夫です。吉波さんに助けてもらいました」と返した。

 

「そうか……吉波。花太郎を頼めるか?」

 

花太郎さんの言葉に安堵の表情を浮かべた後、一護さんは俺に顔を向けて頼んできた。

 

憧れの感情を持つ人に頼られた事に笑みが浮かびそうになるのをなんとか抑え、俺は力強く頷いて答える。

 

「任せてください」

 

「頼むぜ」

 

「はい!」

 

短い言葉の遣り取りを終え、一護さんは再び瞬歩を使って一気に移動し、モンスター達に切りかかって行った。

 

それを見届けた俺はクラウンシールドをオケアヌスの輪の中にしまい込み、先程弾き飛ばされて起き上がってきたモンスター達に向けてエクセリオンブレードを取り出して正眼に構えた。

 

「さぁ来い!」

 

再び向かってくるモンスター達に俺は吠えた。

 

――一護サイド――

 

花太郎を吉波に任せて、俺は瞬歩を使って恋次とルキアの元に向かった。

 

吉波に花太郎を護るよう頼んだ時に、一瞬『任せても大丈夫か?』と不安にも思ったが、さっきのあいつの行動を見て『任せてもいいな』と感じていた。

 

違っていたからだ。あいつの戦い方が。

 

成長していたからだ。あいつ自身の力が。

 

最初に現世で中甲虫とかいう虫もどきと戦っていた時、あいつはただ斬魄刀に頼って力を振り回している様にしか見ることができず、戦い方も雑で非常に危なっかしかった。

 

しかしムガインとかいう奴と戦った時は俺達の力を借りてはいたが、作戦を考えて自分の出来る事をしっかりと把握していた。

 

そして今は瞬間的に自分の出来る事を導き出して行動し、花太郎を助けた。

 

最初に戦っていた頃と比べて、状況を分析して導き出す力の要となる現象を客観的な立場で見極められる力。『観察力』が成長しているのを、俺は今のあいつの行動を見て確かな確信を持った。

 

今の吉波なら、最悪でも花太郎を連れて逃げ延びる位は出来る。

 

そう思ったからこそ、俺はあいつに花太郎を任せてルキアと恋次達の所に向かうことを心に決めた。

 

「はぁっ!」

 

俺は斬月を握り締め、塀の上にいた蝿人間の腹部を左に薙いで両断し、塀の上に降り立った。

 

すると一体を倒した事で俺の存在にやっと気付いた様に、周りにいる奴等の敵意が一斉に俺に向けられ、先陣を切って赤銅色をした巨人が襲い掛かってきた。

 

振り上げた後に一気に打ち下ろしてくる拳を跳躍して避け、巨人の頭上を取る。

 

ドガァッ!

 

目標を失った拳が派手な音と共に塀を砕き、土埃を立てる。

 

俺は攻撃をしたことで隙が出来た巨人に頭上から唐竹割りにしようと斬月を振り上げたが、狼男の様な奴が空中にいる俺に向かって跳躍し、殴りかかってきた。

 

「ちっ!」

 

舌打ちを一つして巨人に切りつけるのを諦め、俺は霊子を足場にして横に跳んで狼男の拳打を躱(かわ)したが、なんと其処で俺がこの場に来るのを予期していたかのように、さっきの奴とは別の2体の狼男が左右から挟み撃ちをしてきた。

 

(仕方ねぇ!)

 

俺は瞬歩を使ってその場から一瞬で移動し、狼男2体の攻撃を避けて路地に降り立つ。

 

なんとか奴らの攻撃を躱す事は出来たが、俺は内心歯噛みしていた。

 

(こいつら……連携して攻撃してきやがる)

 

一体一体の力は個々によって違いはあるが、現世の虫もどきと同じくあまり大した相手ではない事は今の攻防で分かった。

 

しかし一体がこっちに攻撃をしてできた隙を、別の奴が波状攻撃を仕掛けてきてカバーして埋めている。

 

…厄介だな。

 

「一護!無事か!」

 

「あぁ。なんとかな」

 

瞬歩で俺の隣に現れて声をかけてくるルキアに返すと、恋次も俺の近くに降り立ち「ちぃっ!鬱陶しいぜ!」と毒突いて始解した蛇尾丸を構えた。

 

「一護。吉波と花太郎はどうした?」

 

「花太郎なら吉波に任せて来た」

 

「吉波に?おいおい。大丈夫なのかよ?」

 

胡乱な表情をする恋次に、俺は自信を持って「心配無ぇよ。きっと大丈夫だ」と断言した。

 

「そこまで『俺』を買ってくれるとは、光栄です」

 

自信を持って言った俺の言葉に、隣にから嬉しそうな吉波の声が……………え!?

 

不意に隣から聞こえた聞き覚えのある声に驚き、俺は弾かれる様にその声の方を向くと、そこには青い盾を持った吉波が照れくさそうな顔をして立っていた。

 

「吉波!?お前どうして此処に……花太郎はどうしたんだ!?」

 

「まあまあ落ち着いてください。花太郎さんならまだあそこにいますよ」

 

血相を変えて問い詰める俺に、吉波は落ち着き払ってある方向を指差す。

 

吉波が指差す方向。そこには慌てて逃げ惑う花太郎と、その花太郎を護るように現世で見た翼を思わせる大剣を振るう吉波の姿があった。

 

「え?……な?……」

 

「どういう事だ?何故貴様が2人いるのだ!?」

 

自分の目を疑う事態に目を白黒させて意味の無い言葉の羅列を並べる俺や、金魚のように口をパクパクと開閉する恋次に代わり、ルキアが動揺を見せながらも隣に立つ由波に問い詰めた。

 

「此処にいる『俺』は本体と同等の戦闘力を持った分身体です。そしてあそこで花太郎さんを護っているのが本体の俺です」

 

「分身…だと?」

 

「はい。まぁ、強い衝撃を受けたら消えてしまうという欠点もあるんですけど………ね!」

 

話し込んでいた吉波が突然地を蹴って駆け出した。そして俺とルキアの前に立ち、盾を眼前に構える。

 

ガァン!

 

刹那の間を置いて、派手な音が値に響き渡った。

 

前を見ると、俺達に向けて放たれた赤銅色の巨人の拳を、吉波が盾で受け止めていた。

 

「一護さん、ルキアさん。油断大敵です…よっ!!」

 

吉波は力を込めて、拳を受け止めたままで一気に盾を押し返す。同時に盾が青く輝き――

 

ガァン!

 

先程拳を受け止めたのと同じ音を立てて赤銅色の巨体が弾け飛び、ズゥン!と重い音を響かせて仰向けに倒れた。

 

「で?何でお前はわざわざ分身してまでこっちに来たんだ?」

 

巨人が倒れたのを確認して吉波に聞いたのは、呆気に取られて固まっていた恋次だった。いち早くこの状況に慣れたのか、さっきまで顔にあった動揺の色は既に見えなかった。

 

「あ。そうでした。実は皆さんに幾つか伝えておかなければいけない事があるんです」

 

「伝えたい事だと?」

 

一体なんだ?

 

「はい。とは言えこの状況ですから、優先される事のみを手短に伝えます。

 

まず花太郎さんから聞きましたが、瀞霊廷に襲撃してきた旅禍はこいつ等で間違いないそうです」

 

その言葉に奴等を見る俺達の目に殺気が宿るが、吉波は「正確にはもう一種類いるみたいですけど」と付け足して続ける。

 

「あと、ルキアさんと恋次さんがソウルソサエティに行った後で浦原さんから聞いたんですが、現世に出たイレギュラーズを解析した結果、霊的な力は一切検出されず、世界の均衡ともなんの関わりも無い事が分かったそうです」

 

「なっ!それは本当か!」

 

「あぁ本当だ。俺も浦原さんから聞いた」

 

叫びにも似たルキアの問いに俺が答えると、恋次が「成る程…そいつはいい情報だ」と言って笑みを浮かべた。

 

「あぁ。その事を護廷十三隊の各隊に伝えれば、今現在ある混乱を収束させることが出来る」

 

「知らせるにしても、今はこの状況を何とかするのが先ですけど…ね!」

 

再び殴りかかってきた巨人の拳を盾で受け止めながら、吉波が釘を差した。

 

ガツンという音が鈍く響くが、吉波は拳を受け止めたまま盾を横に払って拳の軌道を変えた。

 

巨人の拳が地にぶつかり、土埃が舞う。

 

そして吉波は盾の底部にある突起を片手で掴んで、攻撃を外して隙が出来た巨人に向かって一気に盾を横に振るった。

 

すると掴んでいた突起が盾から外れて持ち手へと変わり、盾と持ち手との間を繋ぐ鎖が延びる。

 

外れた盾は巨人に向かい一直線に飛んでいくが、ここで信じられないことが起きた。

 

盾がまるで外敵に襲われて身を護る団子虫の様に丸くなり、一瞬のうちにさっきまで盾だったものが鉄球へと姿を変えて、巨人の鳩尾にぶち当たった。

 

ドガァァッ!!

 

派手な音を立てて巨人はまるで砕けたガラス細工のように粉々になり、現世で見た虫もどきの最後のように音もなく消滅してしまった。

 

「…な」

 

「貴様…それは…」

 

恋次とルキアも目を見開いて驚いている。

 

そんな2人を見て吉波は「クラウンシールドは護りだけの才牙じゃないんですよ」と悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。

 

「才牙…だと?」

 

あぁ。そういえばルキア達は浦原商店で吉波の話を聞いていなかったな。

 

「まぁその事についても後で話しますよ。それよりも、もう1つだけ皆さんに伝えなければ事があるんです」

 

そう言って吉波は持ち手に力を込めて思い切り引き、鉄球を自らの方に寄せると、盾が鉄球に変わった瞬間を逆再生したかのように鉄球が盾に戻り、ガシャンと金属音を立てて持ち手が結合部に繋がり、再び盾の姿となって吉波の手に戻った。

 

吉波はその戻った盾を他のモンスター達に向けて構えたが、先程赤銅色の巨人を一撃で粉砕した鉄球の威力に怯んだのか、周りにいる奴等は距離を取って遠巻きに俺達を見て警戒していた。

 

それを確認しても吉波は警戒を怠らず、視線を周りに向けたままで口を開いた。

 

「実は奴等はうまく連携して攻撃してきているように見えますけど、実際は連携なんて全然していないんです」

 

吉波の口から出た内容は、さっきまで奴等の連携攻撃で攻め倦(あぐ)んでいた俺としては、到底納得のいかないものだった。

 

ルキアと恋次も俺と同じ意見らしく、得心のいかないといった顔をしている。

 

吉波はチラリとそんな俺達の顔色を流し見て話を続けた。

 

「まぁ納得が出来ないのも分かりますけど、それが事実なんです。

 

奴等はただ本能に任せてバラバラに攻撃してきているだけなんですよ。

 

ただ一種類…狼男のような外見をしたハウンドソルジャーというモンスターを除いてですが」

 

「…っ!まさか!」

 

吉波の言葉によって何かに気付いたのかルキアが反応し、俺と恋次がそれを聞く前にルキアが確かめるように吉波に聞いた。

 

「本当は奴等全員が連携をしている訳ではなく、ハウンドソルジャーという狼男がフォローしているだけだということか!?」

 

「その通りです。では聞きますが、皆さんが戦っている時に牽制や援護をハウンドソルジャー以外のモンスターがやっているのを見たことがありましたか?」

 

吉波の問いに俺達三人は記憶の糸を手繰り――

 

「…あ」

 

「…そうか」

 

「…確かに」

 

三者三様でそれぞれ声を漏らす。

 

確かに吉波の言う通り、これまでの連携攻撃(だと思っていたもの)の中で援護も牽制も全てやっていたのは狼男みたいな奴だけだった。

 

ということは…

 

「あの狼男さえ倒せば、後は烏合の衆って訳か」

 

俺の考えを声に出して引き継いだ恋次に、吉波は頷いて応えた。

 

「そうと分かれば…」

 

「行くぞっ!」

 

ルキアの一声を合図に俺達は一気に瞬歩で間合いを詰め、皆が狼男に肉薄した。

 

 

 

――三人称サイド――

 

一護達がモンスター達と切り結んでいた時とほぼ同時刻。

 

一番隊舎の執務室にて、2つの影が相対していた。

 

1つは一番隊隊長にして護廷十三隊の全てを統べる総隊長。山本元柳斎重國が細い目を僅かに開いてその存在を見ていた。

 

老人の身から歴戦の死神にしか放てない濃密な殺気を相手に放って威圧するが、相対する存在は微風(そよかぜ)でも受けるかのように平然とした顔で佇んでいた。

 

袖とフードの付いた赤黒いマントを羽織った、筋肉質の重厚な黒い体。

 

幾つもの棘がある皮製のバンドを嵌めた太い手首と首。

 

黒く四角い顔に白い髪が頬と顎の中間ほどまで伸び、その髪を押し上げるように眉間から丁度左右対称に伸びた黒く短い2本の角。

 

全てがその存在の異常さ、邪悪さを表していた。

 

もしもこの場に先日襲撃された技術開発局の局員がいたら、間違いなくこう叫んでいただろう「あの時の『鬼』だ!」と。

 

しかしこの場には山本元柳斎とその『鬼』の2人しかおらず、その叫びを上げる者は皆無だった。

 

「何奴」

 

短く、しかし重く響く一言のみを紡ぎ、元柳斎は『鬼』に向けている殺気を更に強める。

 

しかし『鬼』はそれをむしろ心地よく思うかのように笑みを。それも邪悪な笑みを浮かべた。

 

「俺はバウス。涅マユリを殺した男だ」

 

その言葉に元柳斎は僅かに眉を動かした。

 

 

 

 


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