龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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第十話

 

 

――龍一郎サイド――

 

エルフィの話してくれた歪みやイレギュラーズの真実。それは神から内容を全く聞かされていない俺にとってまさに寝耳に水の話だった。

 

しかし俺は大きな驚愕と同時に『あぁ。やっぱり』という納得の意も湧き上がり、二つの感情が自らの中で渦を巻いている様に感じていた。

 

一応俺も最初に神から話を聞いていた時点で、どこかおかしいなと二つ程違和感を感じていた。

 

一つ目の違和感は、神が禁止されていた転生させる行為を『大事の前の小事』と言った事だ。

 

いくら神でも人一人を殺して転生させる事を『小事』の一言で簡単に済ませられる訳が無い。

 

となると考えられるのは人一人が死ぬ事が『小事』の一言で片付けれる程の『大事』が起こりえるという事だ。

 

そして二つ目の違和感は自分の能力を書いて出した時にあっさりとオーケーを貰えた点だ。

 

自分で言うのもなんだが、かなり滅茶苦茶なチート能力を書いたつもりだったのだが、それをあっさり了承するなんてどう考えても何かあるとしか思えない。

 

そしてエルフィから話を聞いてそれらの違和感と疑問が全て氷解した。

 

世界を滅ぼす程の存在を倒す為なら、人一人が死ぬ事を小事で切り捨てるのも納得がいく(それでも殺されたこっちはたまったものではないが)し、それ程の力を持つ者達と戦うのなら当然それに見合う位の力がなければ駄目だという訳だ。

 

そしてそれを理解した上で俺は言った。『やる事に変わりはありません。イレギュラーズを倒す。それだけです』と。

 

それは俺の決意。改めて口にした誓いと覚悟の言葉だった。

 

しかしその後に言った一護さんの言葉に、俺は仰天のあまり一瞬惚けてしまった。

 

「なら、俺はお前に力を貸すぜ」

 

それを聞いた時、俺は口では拒否の言葉を言おうとしていたが、本当は心の内で感謝の言葉を発していた。

 

別に協力者の浦原さんや夜一さん達が頼りないという訳ではなく、原作の主人公であり、先程隣に立ちたいという憧れを心から抱いた人が力を貸すと言ってくれる。それが堪らなく嬉しく思えた。

 

もっとも、その後すぐに自分の未熟さを真っ向から指摘されてすぐにorzとなってしまったが………。

 

しかし自分が未熟者だという事は充分に分かっていたので、立ち直った時はルキアさん達が俺やイレギュラーズの報告をする為に、一旦ソウルソサエティに戻ると話していた時と、割と早めだった。

 

だけど自分の所為であまり手間をかけさせるのも申し訳ないと思い、ソウルソサエティの同行を申し出たのだが、ルキアさんと恋次さんに続けざまに否定され、やっぱり無理かなと諦めがさした時、エルフィから「心配要らない」と声があがった。

 

正直「本当か?」と思ったが、エルフィは出来ないことを出来ると言う奴じゃないという事を、たった10日間という短い付き合いの中でも充分に理解は出来ていた。

 

「心配要らないって、何か手があるのか?」

 

皆が此方に視線を向ける中で、俺が一番にエルフィに聞く。

 

「あぁ。龍一郎の持つオケアヌスの輪の中に入っている『道標符(どうひょうふ)』と『転移符(てんいふ)』という道具を使えばいい」

 

………へ?

 

「ちょっと待てよ。俺はオケアヌスの輪の中にそんな物を入れてくれなんて頼んだ覚えはないぞ」

 

「何を言っているんだ龍?汝は神にオケアヌスの輪の中に便利道具を入れておくように頼んだ筈だろう?」

 

「……あ」

 

そういえば確かに『その他便利道具』って書いて神に出したな。

 

合点してポンと手を打つ俺にエルフィはジト目で見て「龍。さてはお前忘れていたな」と咎める相棒に、俺は「…御免なさい」と素直に頭を下げた。

 

それを見てエルフィは追及を諦めたのかふぅっと一息吐いて「説明を続けるぞ」と宣言した。

 

「道標符と転移符とはその名の通り、転移先の道標(みちしるべ)となる符と転移の力を持つ符だ。

この二つは通常セットで使い、行きたい場所に道標符を貼り付けておいて、転移符でその場に移動するというのが使用法だ。

皆に判りやすく言うのであれば……乗り物でいうと電車が一番近い。道標符が駅で転移符が電車といった所だな」

 

「成る程のぅ。その道標符を持ってルキアと恋次がソウルソサエティに帰り、近くの建物・もしくは木にでも符を貼り付けて龍一郎に連絡。そして龍一郎は転移符で移動する…と。そうすればルキア達と離れ離れにならずに済むという訳か」

 

エルフィの説明に納得顔の夜一さんが後の解説を全てしてくれた。

 

しかしその解説に朽木ルキアさんが待ったをかけた。

 

「待て。先程恋次も言ったが、ソウルソサエティは魂の世界だ。その符を使って移動したら生身の者がいきなり魂の世界に入り込むことになり、肉体が崩壊するぞ」

 

肉体の崩壊はイコール死となる。

 

しかしエルフィは慌てず騒がず冷静に応対する。

 

「心配は要らないといっただろう。龍一郎の持つオケアヌスの輪には持ち主の周囲にある種の結界を常時展開する力が備わっている」

 

「結界……だと?」

 

不信げにルキアさんに恋次さん。そして何故か一護さんも俺の側に寄って肩をポンポンと軽く叩いたり、チョンチョンと体を突っ突いたりする。

 

というかやめて欲しい。地味にくすぐったい。

 

「本当にあるのか?ちゃんと触れるぜ?」

 

恋次さんが俺を指差して疑いの眼をエルフィに向ける。

 

「結界は龍の『生命』を守るものだ。しかもその対象は攻撃ではなく環境となっている。これがある限り、龍は水中だろうと南極だろうと宇宙空間だろうと『生きる』ことが可能となる」

 

成る程。金色のガッシュベルのコルルが使えたシン・ライフォジオみたいなものか。

 

神に頼んだ『ナイトウィザードの月衣の効果を持った持ち運びしやすいマジックアイテム』の注文そのままだな。

 

「なら、これを身につけてさえいれば、直接ソウルソサエティに転移しても問題ないって訳か?」

 

「そういう事だ」

 

一護さんの確認に首肯するエルフィを見て、恋次さんが「うっし!それなら決まりだな!」と立ち上がった。

 

ルキアさんも「まぁ、特に問題がないのであれば、私も異論は無い」と言って立ち、俺に携帯電話(たぶん伝令神機)を渡す。

 

「ソウルソサエティに着いて符を貼り付けたら連絡する」

 

俺は差し出された携帯電話を受け取って「はい」と答え、オケアヌスの輪から道標符を取り出し、ルキアさんに手渡す。

 

『道標符』と書かれた神社などでよく見る標準サイズのお札をまじまじと見るルキアさんの背後で、突如強い光が差し込んだ。

 

その強烈な光に俺がたまらず目を細めると、その光の中から四角い扉が現れ、その扉が真ん中から左右に音も無く開いていく。

 

「行くぜルキア」

 

扉の脇に立つ恋次さんが、闇を思わせる漆黒の羽根を羽ばたかせて飛ぶ地獄蝶を差し出してルキアさんを呼ぶ。

 

ルキアさんは「あぁ」と一言のみで答えて地獄蝶を受け取り、扉の中に入っていった。

 

恋次さんも「また後でな」と残してルキアさんの後を追って中に入ると、四角い扉が開いていった時と同じように音もなく閉まり、光と共に消え失せていった。

 

 

 

 

「さて。後はルキア達の連絡を待つだけって訳か」

 

扉が消え去ったのを見届けて元々の座っていた場所に腰を下ろした一護さんに、俺は自らの手にある携帯電話を見て「そうですね」と相槌を打って、お茶を一口飲もうと湯飲みを持ち上げるが、重さで湯飲みの中にあまりお茶が入っていないことに気付き、口を付けずに湯飲みを卓袱台の上に戻した。

 

それを見た鉄裁さんが「少々お待ちを」と言って腰を上げ、部屋から廊下に出て行こうと障子を開けると、そこには廊下から障子を開けようと手を伸ばした状態の浦原さんがいた。

 

「店長。これは失礼」

 

「いえいえ。こちらこそすいませんっス」

 

お互いに詫びて双方共に半身になってすれ違い、浦原さんは部屋の中に入り、鉄裁さんは廊下に出て障子を閉めた。

 

「おや?朽木さんと阿散井さんはどちらに?」

 

「喜助。お主さっきからタイミングが悪いぞ」

 

キョロキョロと左右を見る浦原さんを夜一さんが半眼で睨む。

 

「あいつ等ならついさっきソウルソサエティに行ったぜ」

 

「総隊長にイレギュラーズや龍一郎の事を報告する為にのぅ」

 

「俺も後で神から貰った道具を使ってソウルソサエティに行きますけど、今は朽木さん達の連絡待ちです」

 

一護さん、夜一さん、俺の順に説明する。

 

「そうですか。入れ違いになっちゃいましたね」

 

先程と今。連続で間を外した自分に苦笑し、浦原さんはさっきまで鉄裁さんが座っていた場所に腰を下ろして「はぁ」と小さく溜息を吐く。

 

俺の気のせいなのかもしれないが、座り込んだ浦原さんの体から黒くどんよりとしたオーラが放たれているように見えた。

 

「そういえば浦原さん。解析の方はどうでした?」

 

とりあえず話題を変えようと、俺は少し気になっていた事を尋ねた。

 

「あ、はい。解析の結果、あの中甲虫という虫もどきからは霊力、霊圧等の霊的な力は一切ありませんでした。その結果、世界のバランスとも無関係だということも判明しました。

そしてエルフィさんの協力で身体の一部を取ってその成分を分析した所、あの生物は元は大地の組成物だった物に、何らかの力を加えたことによって生み出された存在だということが分かりました」

 

ふむ。やっぱりそうか。

 

「霊的ではない何らかの力?……一体それは何なんだ?」

 

内心で納得した俺の向かいにいる茶渡さんが浦原さんに聞く。

 

「私もそれが何なのか調べても分かりませんでしたので、もしかしたら吉波さんやエルフィさんなら、何か知っているかもしれないと思って此処に来んスよ」

 

そう言って浦原さんが俺とエルフィの方に顔を向けると、それにつられるかの様に全員の視線がこっちに集中する。

 

まぁ話してもいいかと思い、俺は口を開いた。

 

「その力はおそらく冥力(めいりょく)ですね」

 

「「「……メイリョク?」」」

 

一護さんと井上さん。そして茶渡さんの声がハモり、頭上に?マークが浮かぶ。

 

「先程一護さん達には言いましたが、大地から沸き起こる邪悪なエネルギーの事ですよ。それを総称して冥力と呼ぶんです」

 

「という事は、あのムガインの見えない障壁を張る際に使っていた力と、虫もどきを生み出した力は全く同じものという事かのぅ?」

 

流石は夜一さん。理解が早い。

 

「その通りです。冥力の利用法も様々なものがありますからね。中甲虫のようなモンスターを生み出したり、冥力を増幅させて死神の鬼道のように術として使用することも出来ます」

 

「そういえばムガインっていう人も、自分の腕を剣みたいにしていたけど、それも冥力の力なの?」

 

着眼点の良い井上さんの疑問に俺が「そうです」と頷くと、浦原さんが「あの~すいません」と手を挙げた。

 

「はい浦原さん」

 

「え~っと、空気を読めない発言であることは重々承知しているんですけど………先程から皆さんの言っているムガインって一体何なんですか?」

 

その瞬間。沈黙が空間を完全に支配した。

 

………そういえば浦原さんはムガインの姿を全く見ていなかったっけ。

 

え~っと………どうしよう。言葉にして説明してもちょっと分かり難いだろうし……実際に見せるのが一番手っ取り早いんだが、倒しちゃったし「画像データならあるぞ」……ってエルフィさん!?

 

あっさりと言ったエルフィが手を翳(かざ)すと辺りが急に暗くなり、壁に先程のムガインとの戦いが映画のように映された。

 

突然の事に俺と一護さんと石田さんは言葉を失い呆気に取られ、茶渡さんは「ム」の一言を発したのみ。井上さんは「うわぁ」と何故か嬉しそうな声を出し、夜一さんは「ほぅ」と感心した様子。浦原さんは映された映像を見て「ふむ」と顎に手を当てた。

 

「成る程…これがムガインですか。中甲虫と比べると、概要からして全く違っているようですね。吉波さん」

 

「はぁ…」

 

未だに呆気に取られている為、俺の口から出たのは間の抜けたその一言のみだった。

 

そんな俺を横目にエルフィが「もう画像を消しても構わないか?」と浦原さんに聞き、浦原さんが「あぁ。有り難う御座います。もう大丈夫です」と返す。

 

そしてエルフィが翳していた手を下に下ろすと、壁に映されていた映像は消え、暗かった部屋に光が戻った。

 

「さて吉波さん。ムガインとやらの事も分かりましたし、どうぞ話を続けて下さいっス」

 

その浦原さんの声に俺はやっと我に返ったが、話さなければならない事は話した筈なので、俺は「もう特に話す事はありませんので、何か質問はありますか?」と皆を見て聞いた。

 

「1ついいかい?」

 

発言して小さく手を挙げた石田さんに、俺は「どうぞ」と促した。

 

「冥力という力についてのあらましは分かったが、その冥力の力を使って張られた障壁を一刀両断にしたあの翼のような大剣は何なんだ?」

 

あ、そっか。まだそのことを話していなかったな。

 

「あれは才牙(さいが)というものです。才牙とは冥力と相対する力である天力を物質化させたものなので、才牙による攻撃は圧縮した天力そのものを叩きつける事となる訳です。

相対する力だからこそ、冥力で形作られたムガインの障壁を切り裂くことが出来たんです」

 

「その才牙ってのはあの剣だけなのか?」

 

石田さんと入れ替わりに聞いてきた一護さんに俺は首を左右に振った。

 

「いいえ。あれの他に槍、盾、銃、大斧があります」

 

「へぇ~。結構種類があるんだね」

 

目を見開いて感心する井上さんに「まだ俺も完全に全ての才牙を使いこなせる訳ではありませんが」と付け加える。

 

「では、その才牙とやらを儂等が扱う事は出来るのか?」

 

「う~ん。それは「それは出来ないな。一時的な譲渡は出来るが、それは武器として振るえるだけだ。才牙として扱えるのは龍一郎1人のみだ」」

 

夜一さんの問いに答えようとした瞬間にエルフィに割って入られ、俺は金魚のように口をパクパクと開閉してしまう。

 

「私からも1つよろしいですか?吉波さん」

 

そんな状態の俺に声をかけた浦原さんに、俺は若干戸惑いながら「あぁ…どうぞ」と返した。

 

「先程も聞きましたが、あのムガインとやらは中甲虫と比べると、概要からして全く違うように見えたのですが、この2体は同じ種なんですか?」

 

あぁ。そういえばウ゛ァンデルとモンスターの違いもまだ言っていなかったな。

 

「同じ種ではありません。正確に言えば似て非なるもの・・・といった所です」

 

「というと?」

 

重ねて問う浦原さんに、俺は右手の人差し指を立てて解説を始めた。

 

「まずムガインは中甲虫と同じ『モンスター』という種ではなく『ウ゛ァンデル』と呼ばれ括られている種です」

 

「ウ゛ァンデル?」

 

「漢字で書くと、魔王の魔に人と書いてウ゛ァンデルと読みます。ちなみにモンスターは魔物と書きます」

 

首を傾げる茶渡さんに、一応漢字で読み表すことも教える。

 

「ウ゛ァンデルとモンスターの関係は親分と子分といった所です。

 

モンスターはさっきも言ったように大地の組成物に冥力を加えて生み出された存在です。

 

そしてウ゛ァンデルはどう出現しているのかは俺にも分かりません。

 

分かっているのは強大な力である冥力を自在に操れる唯一の存在である事と、常人の数十倍に相当する肉体的パワーを持っている事位ですね」

 

「確かに力はあったが、スピードは儂から見ればかなり遅かったのぅ」

 

いや夜一さん。『瞬神』と呼ばれるあなた視点で言われても此方が困るんですが…。

 

心の内で突っ込みを入れて冷や汗を流す俺。

 

周りを見ると他の人達も同じ考えなのか、乾いた笑いを浮かべていたり、苦笑していたりしていた。

 

ピリリッ!ピリリッ!ピリリッ!

 

そんな時、ルキアさんから受け取った携帯電話から呼び出し音が鳴り響いた。

 

早いな。もうソウルソサエティに着いたんだ。

 

俺は携帯電話の通話ボタンを押し、耳に当てる。

 

「はい。もしもし」

 

『吉波……ザザッ…来てくれ………ザッ………かしたら………』

 

何故かマイクから聞こえてくる酷いノイズが邪魔をして、相手が何を話しているのか全く分からず、声で話し相手が恋次さんだという事は辛うじて分かるだけだった。

 

「もしもし?もしもし?」

 

「どうしたんスか?吉波さん」

 

電話に呼び掛ける俺を見て不審に思ったのか浦原さんが声をかけた。

 

「ノイズが酷くて声が聞こえないんですよ」

 

「ノイズですか……ちょっと通信機を見せて貰ってもいいっスか?」

 

機械系なら浦原さんの方がきっと詳しいなと判断した俺は、さして間を置かずに携帯電話を渡した。

 

受け取った携帯電話をまじまじと見たり、通話口に耳を当てたりした後、浦原さんは無造作にボタンをピッピッと押しだした。

 

そして最後に側面に付いているスイッチを動かして携帯電話を此方に向けると、音声を外部スピーカーに切り替えたらしく先程はノイズによって遮られていた恋次さんの声が部屋中に響き渡った。

 

『おい吉波!聞こえるか!!すぐにソウルソサエティに来てくれ!

 

正体不明の旅禍の一団が瀞霊廷を襲撃している!護廷十三隊も出て対処してはいるが、数も種類も多い旅禍の正体が分からない事で全体的に混乱している!!

 

もしかしたらお前の言っていたイレギュラーズとかいう奴かも知れねぇ!!』

 

「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」

 

恋次さんのその言葉に俺を含めた全員の顔に緊張が走った。

 

『だから……ザザッ……ザッ………抑え………ザザッ…ザァーーー』

 

音声の中に再びノイズが混ざりだし、最後には耳障りなノイズのみしか聞こえなくなってしまう。

 

だが俺はその事に一切構う事無く立ち上がり、相棒に呼び掛ける。

 

「エルフィ!今すぐソウルソサエティに行く!転移符の使い方を教えてくれ!」

 

「分かっ「待ってくれ!!」」

 

エルフィの了承の言葉を遮り、一護さんが待ったをかけた。

 

「頼む!俺も連れて行ってくれ!」

 

「お願い!私も一緒に連れて行って!」

 

「俺もだ…頼む」

 

一護さんを皮切りに井上さんと茶渡さんが懇願するが、エルフィは首を左右に振って拒否した。

 

「駄目だ。オケアヌスの輪を持つ龍一郎や死神である黒崎一護なら、いきなりソウルソサエティに転移しても問題ないが、人間である汝等2人は生身のままでソウルソサエティに転移すれば死ぬ事になる」

 

「そんな…」

 

「ム…」

 

有無を言わせぬ強い口調で言い聞かせるエルフィに、2人は歯痒い想いを噛み締めて一護さんを見つめた。

 

そんな2人に一護さんは何も言わず、ただ力強く頷いた。

 

「一護さん。これを」

 

俺はオケアヌスの輪から取り出した転移符を一護さんに渡す。

 

「すまねぇな。貴重な物なんだろ」

 

「構いませんよ」

 

ふっと笑う俺にエルフィが「準備はいいか」と声をかけ、俺と一護さんは頷いて了承の意を表す。

 

「よし、まずは道標符のある場所。つまりソウルソサエティをイメージしろ」

 

相棒に言われた通りに俺は目を閉じてソウルソサエティの町並みをイメージする。

 

すると手に持っている転移符がウ゛ウ゛ンと虫の羽音を彷彿とさせる低い音を発し始めた。

 

耳を澄ませると、手元だけではなくもう1つ同じ音が聞こえてくる。

 

どうやら一護さんもソウルソサエティをイメージしているようだ。

 

「そのイメージを保ったまま『転移』と言え」

 

エルフィの説明から一拍間を置き――

 

「「転移」」

 

俺と一護さんの声が重なると同時に、スッとその場で跳躍したかのような感覚に襲われた。

 

その感覚は一瞬で無くなり、恐る恐る目を開けると其処には彼方此方(あちこち)から火の手や煙が上がり、白く美しい町並みである筈の瀞霊廷が無惨な姿となっている光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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