龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

12 / 44
第九話

 

 

――ルキアサイド――

 

出されたお茶を一口飲んで、私は喉を潤した。少し温かい位の温度が身体に染み渡る感じがして心地よかった。

 

「ふぅ」

 

溜め息にも似た吐息を吐き、奴を。吉波龍一郎を見る。

 

つい十五分ほど前。屋上で夜一殿が浦原を蹴り飛ばした後、夜一殿の提案で私達は落ち着いて話せれる場所。浦原商店に足を運んだ。

 

そして店に着くなり浦原とエルフリーデと名乗った少女は、持ち帰った虫もどきの解析をする為に店の奥に引っ込んでしまい。

 

ジン太と雨は店番をすると言って逃げる様にさっさと行ってしまった。

 

残った夜一殿と握菱は二人揃って「「龍一郎(殿)が説明した方が一度で済む」」と言ったので、私は奴に事情の説明を要求。

 

奴はそれを受諾して全てを語りだした。

 

自分は神によって殺され、とある使命を受けてこの世界に送り込まれた人間であること。

 

その使命とは世界の歪みによって生まれた、本来存在する筈のない存在。イレギュラーズを倒すことであるという事。

 

先程私達が戦った虫もどきやムガインと名乗る者は全てそのイレギュラーズだということ。

 

ムガインや虫もどきを倒すのに使っていた力。斬魄刀や翼のような大剣。写輪眼などは全て神からイレギュラーズを倒す為に与えられた力である事などを話し終え、今現在に至っている。

 

「正直『成る程分かりました』とすぐに納得できる類の話じゃねぇな」

 

奴の話が終わって開口一番でそう言ったのは恋次だった。

 

実際に声に出して同意こそしていないが、私も恋次と同じ心情であり、顔色を見る限り石田も同じらしく疑わしげに吉波の奴を見ていた。

 

一護と井上。そしてチャドは猜疑心よりも今は戸惑いのほうが強いらしく、それが顔色として如実に表れている。

 

「確かに疑う気持ちはよく分かる。実際に神と名乗る者から事情を聞いた儂でも初めのうちは俄かには信じられなんだしのぅ」

 

夜一殿が恋次の言葉に肯定の意を見せるが、吉波をチラリと流し目で見て「しかし」と一言言って間を置いて続ける。

 

「現に龍一郎や虫もどき、ムガインといった存在をこの目で見た以上、否定も出来まい。お主等もそれは同じであろう?」

 

確認をするかのような夜一殿の問い掛けに恋次は「ぐっ…」と短く呻いて俯き、石田はふぅっと息を吐いて押し黙ってしまった。

 

確かに先程私達が虫もどきやムガインと戦ったのは紛れもない事実。

 

実際にその存在をこの目で見て、この身で戦った事を否定など出来よう筈もない。

 

「なぁ。1つ聞いていいか?」

 

声を上げたのはさっきまで戸惑いを露わにして黙っていた一護だった。

 

「何ですか?」

 

「お前は何で自分を殺した奴の頼みを聞いたんだ?」

 

一護の問いに吉波はピースサインを出して「理由は2つあります」と答えた。

 

「1つは俺自身がどうしようもないほどのお人好しだって事です」

 

その答えに私を含めた全員が口をあんぐりと開けて唖然とする。

 

「もう1つは……後悔したくなかったからですね」

 

「後悔だと?」

 

鸚鵡返しに私が聞くと、奴は小さく頷いた。

 

「もし俺が怒りに任せて断ってイレギュラーズによって世界が滅んだら、きっと後に後悔してその時の自分を許せなくなります。そう思ったから俺は神の頼みを引き受けたんです」

 

どこか決意を込めて言った奴の目に私は覚えがあった。

 

それは海燕殿が恋人の敵の虚と戦う時に、浮竹隊長に自分一人で行かせて欲しいと言った時の目。

 

そして一護がグランドフィッシャーと戦っていた時に手を出すなと言った時に見せた目。

 

己の誇りを護る為の戦いに赴く者の目だった。

 

(こやつにも決して曲げられぬ『何か』があるのやもしれぬな)

 

そう感じた私の顔に僅かだが笑みが浮かぶ。

 

「ちょっと待てよ。世界が滅ぶって…幾らなんでも大袈裟じゃないか?」

 

一方一護は言葉の中に入っていた物騒な単語に眉を顰(ひそ)めていた。

 

「いや、強(あなが)ち間違いでもない」

 

ガラリと障子を開けて入ってきた青い髪の少女。エルフリーデ・クライストが一護の問いに答えた。

 

「あれ?エルフィ。もう解析は終わったのか?」

 

「あぁ。じきに浦原喜助もここに来る筈だ」

 

「ご苦労様」

 

「…大したことではない」

 

吉波の労いに照れたのか僅かに頬を染めて素っ気無い返事を返し、彼女は吉波の隣にちょこんと腰を下ろした。

 

「なぁ。強ち間違いじゃ無いってどういう事なんだ?」

 

彼女が座ったのを確認した一護が聞くと、彼女は近くにあった湯飲みを手に取って茶を一口啜り、一拍間を置いた後に口を開いた。

 

「龍からイレギュラーズについて大まかな事は聞いたのか?」

 

確認を含んだ問い掛けに私を含め全員が首を縦に振る。

 

それを見届けた彼女は更に問いを重ねた。

 

「では聞くが、そもそもイレギュラーズを生み出した原因とは何だ?」

 

「神達が馬鹿をやって全世界のバランスが崩れ始めたからだろ?」

 

即答する吉波に彼女は無言で頷いた。

 

「では続けて聞くが、世界のバランスが修復されぬままで崩れ続けたら、最後はどうなると思う?」

 

「どうって………あ」

 

何かに気付いた吉波が苦い顔をして言葉に詰まる。

 

そして私も。周りにいる皆も。彼女の問いを受けてある考えに至ったらしく、吉波と同じような表情をして黙り込んでしまった。

 

しかしこのまま黙り込んでいても進展はしないと思い、私が発言する。

 

「世界そのものの崩壊……か?」

 

「その通りだ」

 

返ってきたのは無表情での肯定。

 

本当は外れて欲しかったのだが…。

 

「それもただ1つの世界だけではなく、全ての世界を崩壊させる程だ。その際に働く力は計り知れない。

一応神達によって崩壊の修復と共にその力も抑え込まれたが、その力が発生にした影響によって生み出されたのが歪みであり、イレギュラーズだ」

 

彼女は一旦言葉を切るが、皆が黙って耳を傾けているのを見て話を続けた。

 

「歪みとイレギュラーズは同じ力の影響で生まれたが、その成り立ちや実体の有無。干渉する事柄も異なっている。

 

歪みは崩壊の力を神達が抑え込んだ事により、その反動で生まれた物だ。実体は無く、世界のあらゆる事象に干渉する。

 

そしてイレギュラーズは姿形はあるものの、その正体は全世界を崩壊させようとした力を抑えていた神の力が歪(ゆが)みによって事象に干渉され歪(ひず)みが生じ、力の一端がこもれ出して具現化し実体を持った者だ。干渉の仕方も直接的なものとなる。

 

そして崩壊の力が元となっているイレギュラーズの行動目的はたった一つのみとなる。それが世界を滅亡させる事だ」

 

「待て。世界を滅ぼせば自分達の命も潰(つい)えるぞ。それを承知の上で行動しているのか?」

 

説明終了と示す様に茶を啜りだした彼女に私が待ったをかける。

 

「無論承知の上の行動だ。奴等の最終的な目的は世界を滅ぼし自らも共に滅ぶ事。それが存在の理由であり存在の意義。その為ならば死をも厭(いと)わないだろう」

 

「そんな…」

 

「狂ってやがる!」

 

井上が悲しげに瞳を揺らし、恋次が苛立ちをぶつける様に畳の床を叩いて吐き捨てる。

 

「しかし世界を滅ぼそうという大層な目的を抱いているわりには、技術開発局を襲ったり喜助を狙って解析を遅らせようとしたりと、随分理知的な行動をしているようじゃのぅ」

 

「イレギュラーズにも様々なタイプがいる。力任せに滅ぼそうとする奴もいれば、今回のようなのもいるという事だ」

 

熱くなっている恋次とは対称的に冷静に問う夜一殿に淀み無くエルフリーデの言葉に、石田が「厄介だな…」と目を細めた。

 

「どっちにしても、俺のやる事に変わりはありません。イレギュラーズを倒す。それだけです」

 

「なら、俺はお前に力を貸すぜ」

 

「「「「「「え?(ふふっ)(ム…)((…はぁ))(なっ!)」」」」」」

 

目を丸くした吉波。やっぱりといった様子で笑みを浮かべる井上とチャド。溜め息を吐く私と石田。そして驚愕の表情をした恋次が、力を貸すと宣言した人物。一護に皆の視線が向けられる。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい一護さん!さっき言いましたけど、イレギュラーズを倒すように神から頼まれたのは俺で「この世界そのものが危険なんだろ?だったらこの世界で生きている俺も無関係じゃねぇ。お前一人に任せきりにしておくなんて俺には出来ねぇ」ぐ…」

 

あっさりと封殺され、呻きを上げる吉波に一護が「それに」と続ける。

 

「あの中甲虫とかいう虫みたいな奴等に追い詰められていたお前に『全部任せろ』と言われても、ちょっと信憑性が無いぜ」

 

図星を指されたのか吉波は完全に黙り込んでしまった。そこに――

 

「私も力を貸すよ」

 

「俺もだ…」

 

井上とチャドも声を上げる。

 

そんな二人に一護は微笑んで礼を言って、石田に目を向けて「石田。お前はどうするんだ?」と聞くと、石田は先程よりも深い溜め息を吐いて口を開いた。

 

「もしイレギュラーズが今彼女の言った通りの存在だとしたら、確かに放って置くことは出来ない……だが」

 

石田は一拍間を置いて吉波とエルフリーデを一瞥し、はっきりと言い放つ。

 

「僕はまだ、その話を完全に信じた訳じゃない。更に言えば、僕達を罠に嵌める為の方便という可能性もある」

 

「石田!「だから」」

 

憤慨して立ち上がる一護を、石田は静かに。しかし力を込めた一言で制した。

 

「だから僕は君達に協力はしない。しかし君達を『監視』する為に『同行』はさせて貰う」

 

その言葉に一護は一瞬虚を突かれた顔をし、その後すぐに笑みを見せて頷いた。そして今度は視線を私と恋次に向けた。

 

「ルキア、恋次。お前等はどうだ?」

 

(はぁ。全くこやつは…分かっておるだろうに)

 

私は内心溜め息を吐いて口を開いた。

 

「私的には力を貸すのに異論は無いが、まずは総隊長殿に事情を説明して認可を貰う必要がある。私も恋次も責任ある立場ゆえ、自分勝手に動くことは出来ぬのだ」

 

「ま、そういう事だ。俺もルキアも副隊長だからな」

 

私が説明した後で最後に恋次が纏める。

 

「そうか。なら一旦ソウルソサエティに戻るのか?」

 

「あぁ。イレギュラーズや吉波の事を至急報告せねばならぬからな。通信機が先程からうまく繋がらない以上、直接ソウルソサエティに帰還するほかにないからな」

 

「なら、俺も付いて行った方がいいんでしょうか?」

 

吉波が手を挙げて聞いてきたが、私は首を左右に振った。

 

「確かに貴様も共に来れば話は早く済むかもしれぬが、地獄蝶を持たぬ貴様が穿界門を通っても自動的に断界に送られてしまい、離れ離れになってしまうからな」

 

「それにソウルソサエティは魂の世界だ。生身のお前じゃ行く事は出来ないぜ」

 

「浦原の作った穿界門を通れば身体を霊子に変換してソウルソサエティに行く事は出来るが、断界へと送られる事になるしのぅ」

 

恋次が私に追随して否定要素を言い、夜一殿は何か打開策はないものかと難しい顔をして「う~む」と唸る。

 

「それなら心配は無用だ」

 

そんな中でしれっとその言葉を吐いた者。エルフリーデに皆の注目が集まった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。