龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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第七話

 

 

――夜一サイド――

 

「おやおや、この程度ですか。お嬢さん」

 

「くぅ…」

 

先程の挑発の仕返しなのか、嫌味たらしく言うムガインに儂は悔しげに呻いた。

 

なんとか立ち上がろうと足に力を入れるが、奴に殴られた腹部に鈍い痛みがまだ残っており、思うように立ち上がることが出来なかった。

 

(迂闊じゃった……こいつが自信を込めて喜助を殺すと言っていたのを、もっと深く考えるべきじゃった)

 

自らの不覚に奥歯を噛み締めて悔やむ。

 

その際強く噛み締めてしまったからなのか、それとも奴に殴られたからなのか、口の中に血の味を感じた。

 

「さて、覚悟してもらいましょうか。なぁに寂しがる事はありません。他の方達もすぐに貴女と同じ所に連れて行ってあげますからねぇ」

 

奴が刃の付いた右腕を振り上げると、その存在を誇示するかのように刃が鈍い輝きを放った。

 

「私に無礼な口を聞いたことを……後悔しなさいっ!!」

 

刃が振り下ろされる。

 

……………が

 

ガキィィッ!!

 

「大丈夫か?夜一さん」

 

「遅い……わ…馬鹿……者」

 

奴の厚い刃を斬月で受け止めた一護に、儂は声を掠れさせながらも敢えて笑みを見せて軽口を叩いた。

 

「はぁっ!」

 

気合の一声と共に刃を弾いて奴を退かせ、斬月を正眼に構えて儂を守るように立ちはだかった。

 

「「夜一さん!」」

 

龍一郎と井上が心配そうに儂の傍に寄り、その二人を護衛するかのように左に銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)を構えた石田が。右にファイティングポーズをとったチャドが立つ。

 

前を見ると一護の左に恋次が。右にルキアが瞬歩で現れ、ムガインの奴を見据える。

 

どうやら虫共は全て倒したようじゃな。

 

「井上、夜一さんを頼む」

 

「うん!任せて!」

 

井上は力強く頷いて、少しでも戦場から離そうと儂に肩を貸して移動させる。

 

だが儂はどうしても一護達に伝えなければならない事があった。

 

儂が奴と戦りあって得た情報。それを伝えなければ、恐らく一護達も儂の二の舞となる。

 

だが奴から受けたダメージで声を出そうにも掠れてしまい、伝えることが出来ない。

 

(せめて……せめて一言だけでも)

 

せめて一言だけでも声を出せるようにと、身体中から微量ながら力を掻き集める。

 

儂が遠ざかったのを見届けて一護達はムガインと二言三言交わした後、一護が先陣を切って奴に向かって跳躍し、斬月を振り下ろす。

 

(まずい!!)

 

「いかん一護!!迂闊に奴に切りかかるな!!」

 

身体に残った力を全てを使った儂の叫びが響いたのは、一護が奴に斬月を振り下ろすのとほぼ同時だった。

 

 

――龍一郎サイド――

 

夜一さんの叫びが上がる少し前。俺は先程まで夜一さんが膝をつけていた場所で飛燕を構えていた。

 

「やれやれ、中甲虫達は全滅してしまったようですねぇ」

 

ムガインが失望したとばかりにゆっくりと頭(かぶり)を振る。

 

「当たり前だ!俺達があんな虫に負ける訳がねぇ!」

 

「ほぅ。最初は攻撃してもいいか分からずにいた人の言葉とは思えませんね」

 

吠える恋次さんに、見え透いた挑発をするムガイン。

 

その挑発に恋次さんの眉がピクリと動いたが、しかしそこは流石に副隊長。挑発に乗って正面から突撃するような愚行はしなかった。

 

「まぁいいでしょう。真実を知ってしまった以上、あなた方も殺す対象となったのですから。払う埃が増えただけで問題はありません」

 

まるで『ちょっと買い物に行ってくる』とでも言うような軽い口調に、俺の…否。俺達全員が戦闘体勢になる。

 

「殺せるもんなら殺してみやがれ!!」

 

最初に動いたのは一護さんだった。

 

ムガインに向かって一気に跳躍し、斬月を逆袈裟に振り下ろす。

 

「いかん一護!!迂闊に奴に切りかかるな!!」

 

夜一さんの叫びが辺りに響き渡った。

 

何事かと視線を夜一さんに向けたその時。

 

ギィィィン!!

 

金属音が辺り一帯の空気を震わせた。

 

皆がその音に反応して視線を一護さんの方に戻すと、そこにはムガインの皮膚の手前数ミリで斬月を止めている一護さんがいた。

 

「なっ!?」

 

一護さんの顔が驚愕に染まっているが、俺には何が起こっているのか全く理解が出来なかった。

 

「それですよ。その驚愕に満ちた顔!やはりいつ見てもいいものです……ねぇっ!!」

 

歪んだ喜悦に満ちた顔のままで、ムガインは驚愕によって固まってしまっている一護さんの腹部に、泥の塊を思わせる巨大な左の拳でボディアッパーを打ち込んだ。

 

「ぐはぁっ!」

 

肺から全ての空気を無理矢理出したような苦しげな呻きと共に一護さんが吹っ飛ばされ、受身も取れないままコンクリートの床に打ちつけられた。

 

「「「一護(さん)(黒崎)!!」」」

 

茶渡さんと俺。石田さんの声が重なり。

 

「戯け者!何をやっておるのだ貴様は!」

 

「あいつは倒しても世界の均衡に関係は無いって分かってんだろう!なに寸止めなんかしてんだよ!!」

 

朽木さんと恋次さんが一護さんの行動を指摘する。

 

「違う」

 

だが若干ふらつきながらも立ち上がった一護さんは、きっぱりと否定の言葉を口にした。

 

「俺は寸止めなんかしていねぇ。躊躇いもなく切り付けた……けど奴に剣が当たるときに、まるで見えない何かに阻まれたみたいに剣が止められたんだ」

 

成る程。さっきの金属音はその見えない何かと斬月がぶつかり合った音だったのか。

 

一護さんの言葉に朽木さんが「なにっ!」と言ってムガインを凝視するが、奴の周りには何も無く、何かしらの防壁を張っているようには見えなかった。

 

「どうやら、不可視の防御壁が張ってあるようだね」

 

(防壁か…なら)

 

石田さんの冷静な分析を聞いて、俺は写輪眼を発動。奴の防壁の正体を探る。

 

「へっ!防御壁だかなんだか知らねぇが、まとめてぶった斬っちまえば問題ねぇだろ!!」

 

鼻で笑った恋次さんが一気に飛び出した。

 

「咆えろ!蛇尾丸!!」

 

七枚の刃節に分かれた刀身が蛇のようにうねりながら伸び、ムガインに迫る。

 

ガギィン!

 

しかしその一撃は一護さんの一閃と同じく、見えない防壁によって弾かれる。

 

「まだまだぁっ!!」

 

しかし恋次さんは刃を弾かれても動じることなく、蛇尾丸の刃節を戻さずに身体を回転させ、遠心力をつけた二撃目を放つ。

 

横薙ぎに叩きつけられた蛇尾丸がギャリギャリと耳障りな音を立てて火花を散らし、不可視の防壁を削る。

 

だが副隊長の連続攻撃を受けても、防壁はびくともしなかった。

 

「五月蝿(うるさ)いです……ねっ!」

 

ムガインはまるで周りを飛び回る蚊を払うかのような動作で蛇尾丸を弾き、伸びたままの刃節を繋いでいる間接部に狙いを定めて右手と一体となった厚い刃を振り下ろす。

 

「させるかぁっ!」

 

奴の意図に気付いた恋次さんが素早く蛇尾丸の刃節を戻し、ムガインの一閃を間一髪で躱わす。

 

ドドドドッ!!

 

そして刃を振った隙を突いて石田さんが無数の矢を射るが、その攻撃も不可視の防壁によって全て弾かれてしまった。

 

「フッフッフ。そんな攻撃など無駄ですよ」

 

不適な含み笑いをするムガインに、石田さんは冷静に「君は1つ勘違いをしている」と言って眼鏡を直し、話を続ける。

 

「今僕がやったのは攻撃ではない。確認だ」

 

「確認…ですと?」

 

「そうだ。どうやら君の防壁は死神の力も滅却師の力も関係なく防ぎきる代物のようだ」

 

「成る程。私の防壁があなたの力にも通用するかどうかを確認したという訳ですか……となると今のこのお喋りは、さしずめ貴方が次の策を練る為の時間稼ぎといった所ですかな?」

 

ムガインの読みを再び眼鏡を直した石田さんが「それは違うよ」と否定する。

 

「このお喋りは……君の気を引く為だ」

 

石田さんのこの言葉を合図にムガインの左に茶渡さんが。右に始解したままで虚化した一護さんが肉薄する。

 

「月牙…」

 

「巨人の(エル)…」

 

一護さんは斬月に力を込めて振りかぶり、茶渡さんは右腕に付いた鎧の肩口かの部分からボウッと青白い炎のようなものが立ち上り、二人の霊圧が上がっていく。

 

「死神や滅却師の力は完全に防げるようだけど、虚の力ならどうかな」

 

石田さんの言葉と、

 

「天衝!!」

 

「一撃(ディレクト)!!」

 

ゴゴォォォン!!!!

 

二人の放った強烈な一撃が轟音となって周囲を揺るがしたのはほぼ同時だった。

 

その凄まじい威力に衝撃波が波紋の様に辺りに広がり、土埃が舞い上がる。

 

「やったか!?」

 

土埃がなるべく目に入らないように目を細めてルキアさんが言う。

 

「わからねぇ。けど避けられてはいないと思うぜ」

 

「…確かに手応えはあった」

 

間合いをとる為にルキアさんの近くまで下がった一護さんが斬月を肩に乗せ、茶渡さんが手応えを確かめるように殴った右手を見る。

 

しかしメタ発言が許されるのなら俺は言いたい。「それはやっていないフラグだ」と。

 

「フッフッ……今のは少々効きましたよ」

 

「「「「「!!」」」」」

 

土煙の中から奴のしゃがれた声が漏れる。

 

そして土煙が風によって吹き散らされた後には、見た目は完全に無傷のムガインが立っていた。

 

「なにっ!」

 

「無傷…だと」

 

「嘘…だろ」

 

「…!」

 

「くっ!」

 

上から驚愕する一護さん。目の前の現実に声が掠れてしまうルキアさんと恋次さん。

 

無言で驚く茶渡さん。

 

『これでも駄目なのか』とでも言いたげに悔しげな石田さんとそれぞれの反応を見せる。

 

「いやはや。今のは少し痛かったですよ。先程のお嬢さんが使った『瞬閧(しゅんこう)』という技に勝るとも劣りません」

 

そのムガインの言葉で、今度は全員が驚愕の声すらも出なくなった。

 

今ムガインの言った瞬閧は夜一さんの使える最強の技だ。

 

その威力はここにいる全員が知っている。

 

それを勝るとも劣らないと表現したということは、奴の防壁は夜一さんの瞬閧クラスの破壊力でも耐える代物ということだ。

 

その強固さに言葉を失うのも当然といえる。

 

そして俺は一護さん達とは別の理由で驚愕の表情を浮かべていた。

 

否。写輪眼を発動して奴を見たその時から、俺は目の前の現象にただ呆然としていた。

 

写輪眼を通して見た光景。それは周りの地面から黒く禍々しい靄のようなものがムガインに集まり、その靄が形を変えて奴を守るように黒い膜となっている異質な姿だった。

 

そしてこの光景を見て、俺は奴の身を守っている力の正体に気付いた。

 

冥力(めいりょく)

 

大地に眠っている邪悪なエネルギーを自らの身体に立ち昇らせ、戦闘的なパワーに変える。ムガイン達魔人(ウ゛ァンデル)が使う力だ。

 

おそらく今ムガインがやっているのは原作で主人公の最大の宿敵であるベルトーゼが使っていたのとよく似た戦法だろう。

 

自分自身を冥力で包み込んで攻撃と防御を一体にして戦っていた方法を独自に変え、一護さんと茶渡さんの攻撃にも耐える防御力と肉眼では決して見えない隠密性の二点を重点に置いた冥力膜を纏って戦う戦法。

 

流石は2つ名に『策士』をもつウ゛ァンデル。中々に考えてある。

 

しかし、タネが分かればなんとかなる。

 

相手が冥力を使ってくるのなら、こっちはそれに相対する力、天力を。つまり才牙をぶつけてやればいいことだ。

 

だがここで2つ問題がある。

 

1つ目は才牙を出して攻撃するということは飛燕を手放さなければならないということだ。

 

今の俺のスピードは飛燕によって向上された速度である為、飛燕を手放せば必然的にスピードは低下する。

 

鈍くなったスピードで奴に攻撃を当てられるか不安があるし、飛燕を持ちながら攻撃したら片手での攻撃になり、今度は攻撃力が下がる。流石に攻撃力が下がるの避けたい。

 

銃の才牙・サイクロンガンナーならやれるのかもしれないが、片手で銃を撃つのは至難の技だし、当てられなければ何の意味も無い。

 

2つ目の問題は才牙で奴の冥力膜を破った後の事だ。

 

うまく冥力膜を破ったとしても、おそらく俺は膜を破る事1つに集中している為、追撃に移るのにどうしてもワンテンポの遅れが出る可能性が非常に高い。

 

うまく膜を破っても、奴自身に逃げられたらそれこそ元の木阿弥だ。

 

(となると…)

 

逡巡は一瞬だった。

 

「皆さん。奴の防壁のからくりが分かりました」

 

「「「「「!!」」」」」

 

俺のその一言に皆の視線が一斉に向けられる。

 

「なっ!?本……むぐっ」

 

大声を上げようとしたルキアさんの口を俺が塞いで止める。

 

「静かに。奴に感づかれます」

 

俺の声を潜めての警告にルキアさんを含めた全員が小さく頷いて、それぞれが刀を。弓を。拳を構えて奴を見据える。おそらくこれからの会話をなるべく奴に聞かれないようにする為のカムフラージュだろう。

 

「しかし本当に奴の防壁のからくりを…って、その目は!?」

 

疑わしげに聞いてくる石田さんが俺の写輪眼を見て戸惑いを露にする。

 

「この目は写輪眼といいます。能力はあらゆる術の看破と模倣です」

 

「成る程な。その目の力で奴のからくりを見抜いたのか」

 

納得したといった様子の一護さんに、俺は笑って「まだ完全に使いこなせてはいませんがね」と付け足す。

 

「それにしても、てめぇはいったい何者なんだ?」

 

「それは……後で必ず話します」

 

俺の返答に恋次さんが納得がいかないといった顔をするが、今の状況で問い詰めるべきではないと思ったのか「必ず後で話せよ」と言うだけで終えると、ルキアさんが「それで、奴の防壁のからくりとは一体何なのだ?」と話を進めるように促した。

 

「奴の防壁は、大地から沸き起こる邪悪なエネルギーを使って作り上げた物です」

 

「「「「「…は?」」」」」

 

冥力について一般的な概要を説明するが、皆が皆訳が分からないといった顔をして俺を見ている。

 

(…まぁいきなり言っても混乱するだけか)

 

そう考えて俺は細々とした説明はすっ飛ばすことにした。

 

「まぁ詳しい説明は後で話します。今は今までの力とは全く違う特殊な力と解釈してください」

 

未だに混乱が抜けていないのか、全員「あぁ…」と生返事をするのみだが、取り敢えず話を進める。

 

「それでこれからが重要なんですが、俺は奴の防壁を破れる力を持っています」

 

その一言に全員の顔色が変わる。

 

「ですが!」

 

皆が口を開くよりも早くに語気を強めて強引に黙らせる。

 

乱暴だとは思うが、一々説明している余裕は無いのだ。

 

「俺一人では防壁を破ることは出来ても追撃を入れることは出来ませんし、確実に防壁に力をぶつけられるかも分かりません。

だからお願いします。俺に力を貸してください。

援護と追撃を一護さん達にやって欲しいんです!」

 

そう言って俺は深々と頭を下げた。一方的な物言いだとは充分承知している。だが奴を確実に倒すにはこれしか方法が思いつかなかったのだ。

 

「「「「「………」」」」」

 

返事は無く、ただ無言でいる一護さん達。

 

(…やっぱり駄目か)

 

当然といえば当然だ。得体の知れない奴にいきなり協力しろと言われて『はい。分かりました』と言ってくれる訳が無い。…やっぱり確率は低くても俺一人でやるしかないか。

 

「追撃は俺がやるぜ。あいつには腹に一発入れられた借りがあるからな」

 

(…え?)

 

俺が唖然として顔を上げると、そこには親指で自らを指す一護さんの姿があった。

 

そしてそれを皮切りに他の人達も口を開く。

 

「なら援護は僕がやろう」

 

「俺は接近して、奴を撹乱する」

 

「ならば私は石田と共に鬼道で援護しよう」

 

「俺は一護の前に一撃入れて、あいつの動きを押さえるぜ」

 

石田さん、茶渡さん、ルキアさん、恋次さんと役割を分担していく。

 

(協力してくれるのか……この人達が………本当に)

 

俺の目頭が熱くなる。

 

「有り難う……御座います」

 

涙を堪えて俺は再び頭を下げた。

 

「礼ならあいつを倒した後にしろよな」

 

一護さんがそう言って顔を上げた俺の肩をポンと軽く叩き、「外すなよ」と声をかけてくれた。

 

「僕が援護するんだ。外すなんてしないでくれよ」

 

照れているのか石田さんがそっぽを向いて眼鏡を直す。

 

「ム…」

 

茶渡さんがビシッと親指を立てて激励してくれる。

 

そしてルキアさんと恋次さんは軽く俺を見て「行くぞ!!」と号令をかけた。

 

それと同時に俺達は一気に駆け出した。

 

 

 

 

 


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