少女の家の前に着くと、そこには、日本の原風景と言えるような田舎の平屋の家があった。
「おお。」
思わず、ハヤテは声を上げてしまった。
「おばあー。おばあー。」
少女が声を掛けると、家からおばあさんらしき人が出てきた。
「なんだい、三奈ちゃん。」
おばあさんはそう言った。
「さっき、そこの駅前の田んぼで遊んでいたら、この少年が立ってたの。」
「そうかい。おまえさんは、迷い人ということだな。」
おばあさんにそうハヤテは言われ、うなづくしかなかった。
ハヤテは心の中で、こう思った。
『練馬では見かけない、いや、東京では見かけない、なんか暖かそうな人だな。』
「まあ、こんなところで立ち話してんのもなんだから、家の中にはいんなさい。」
そう言って、おばあさんは、二人を家の中に入れた。
「お邪魔します。」
ハヤテはそう言った。
家の中も、畳が敷いてある、昔の日本家屋だった。
「さあさあ、こたつに入って、暖まりなしゃい。今、マンマ持ってくるから。」
おばあさんはそう言って、台所のほうに向かった。
ハヤテは、なんだか、いい気分になっていた。
今まで、ハヤテは生まれて、親の愛情というものも、そして人の温かい情というものも感じてこなかった。
いや、最近になって感じるようになってきたのかもしれない。
しかし、このような情は、苦しい世の中を生きてきたハヤテには心地良かった。
「さあ、今日は、猪鍋(
ししなべ)だ。」
おばあさんの声に、三奈も服を着替えて、囲炉裏のあるこの部屋にやってきた。
「あれっ。普通の服だ。」
ハヤテがふと言うと、三奈は笑った。
「ああ、あの服装、ここらへんの伝統服なのよ。」
その言葉にハヤテはびっくりした。
「ああ、そういえば、あんな服装、今は見ないもんね。渋谷のギャルでもないし…。」
三奈は笑ってそう言った。
そして、夕食が始まった。
その頃、三千院家では、ナギやマリアがハヤテの帰りが遅いのを心配していた。
「なぜ、ハヤテは帰ってこないのだ!」
ナギはそうマリアに言った。
「ええ、携帯に電話しても圏外だとしか…。」
「なに!!」
ナギは驚いた。
「一体、どこに消えてしまったんだ、ハヤテは…。」
ナギは落ち込んだ。
「まさか、XYZでおなじみのスナイパーと怖い外国人との闘争に巻き込まれているんじゃ…。」
「一体、いつの話をしてるんですか、ナギは…。」
マリアは呆れたように言った。
「それとも、私を見捨てて、二丁目で…。」
その言葉にさらに不安が増していった。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
「そうかいそうかい。そりゃ、わししゃにとってもうれしいわ。」
ハヤテの言葉におばあさんはそう言った。
「ハヤテ君、もうちょっと、ハヤテ君のことを聞きたいよ。」
三奈はそうハヤテに言った。
「はい。ちょうど、出版社へ原稿を高速で渡すアルバイトをやっていたところまで話していましたね…。」
そして、ハヤテは、三奈に話を続けた。
その頃、近くの森では怪しい影がうごめいていた。
「ウォー。」
近くで羽を休めていた鳥たちは一目散に散っていった。
そして、その物体は小高くなっていた山を降りていった。
その動きを察知したのか、しないのか分からないが、鷺ノ宮家の伊澄(いすみ)はなにかハヤテの身に危険が及ぶことを察知して、執事にこう言った。
「なにか、ハヤテさまの身に危機が襲っている…。すぐにそこに行く準備を…。」
そして、早急に支度を始めたのだった。