魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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第8話:同衾 今夜は貴方と一緒だよ

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 詳細を詰めるべく話をするに当たり、忍が最初に訊いて来たのは……

 

「それで、アテナの聖闘士っていうのは何なの?」

 

 ……であった。

 

「アテナの聖闘士、それは僕の生まれた世界にでは、邪悪が蔓延る時、必ずや現れるという希望の闘士……聖闘士。そんな風に云われているよ」

 

「邪悪って?」

 

「地上支配を目論む神々。冥王ハーデスや海皇ポセイドン、軍神アレスといったギリシャ神話体系だけでも色々と居るし、邪悪な怪物が復活すれば聖闘士が斃しに向かう」

 

 エピソードGでも、復活したエウリュアレーを斃すべく三角座のノイシスが闘っており、逆に殺られても山猫星座のレツが師匠であるノイシスの仇討ちの為、闘っている。

 

「この世界にも怪物なんて存在しているのかしら? 〝私達〟以外に……」

 

「お、お姉ちゃん」

 

 吸血種たる自分達の事を〝怪物〟だと、自嘲気味に揶揄する忍。

 

「少なくとも、ジュエルシードが暴れると怪物化する訳だし、その後にもとある古代遺失物(ロストロギア)が動く筈だよ」

 

 ユートは否定も肯定もしないで、ただ淡々と話の続きを行う。

 

「それに伝説上の怪物は、基本的に封印されている。それが復活しないよう見守るのも、万が一に復活した場合には斃すのも聖闘士の役目だからね。因みに人間同士の戦争には通常、参加はしない」

 

「そうなの?」

 

「聖闘士が付いた方が勝つなんて事になって、聖闘士を戦争の道具にされてしまうと困るからね」

 

 恐らく、ユートであれば付いた勢力を勝たせる事も不可能ではない。

 

「人間同士の争いに参加するのは、凶悪な犯罪者なんかを捕まえたりするくらいだろうか」

 

 そういう意味で云えば、元の世界はそんな存在には困らなかった。

 

 火星の幻想世界ならば、普通に賞金稼ぎなんて職業が横行していた訳だし……

 

 それに、忍達には言わなかった事ではあるが、別の──聖書の神と魔王が滅んだ──世界に本来なら居ない筈の神の闘士が現れた事もあったのだ。

 

 這い寄る混沌が喚び込んでくれた所為で。

 

 這い寄る混沌が介入でもしてくれば、どんな存在が現れても不思議ではない。

 

「とはいえ、聖闘士が現段階で僕1人というのは格好が付かないな」

 

「それは……」

 

 確かに格好付かないと、忍は苦笑いになる。

 

「聖闘士ってどんな存在かもっと教えて欲しいわね」

 

「う〜ん、夜空の88星座を象った聖衣と呼ばれている防具を纏い、厳しい修業で小宇宙という生体エネルギーを使える者達。階級が有って、青銅聖闘士48、白銀聖闘士24、黄金聖闘士12、どれにも属さないのが4。合計で88とされているけど、実際には青銅と白銀の階級に今では使われない星座、地獄の番犬座(ケルベロス)なんかも存在するし、精霊などを象った精霊聖衣も在るからね」

 

 厳密には88人という訳でないと云う事なのだが、基本的には最大限に揃ってもフルメンバーなんて有り得ないのが現実だ。

 

 しかも今代のハーデスとの聖戦では、下手をしたら一番人数が少なかったのかも知れない。

 

 ユートを含めて20人足らずだったのだから。

 

 因みに、前聖戦の時には最大人数で79名が参戦していたらしい。

 

「メンバーの当てはあるのかしら?」

 

「二ヶ月後なら何人か喚べるけど、現段階では1人しか喚べないな」

 

「それは誰?」

 

「黄金聖闘士・牡羊座(アリエス)のシエスタ」

 

「女の子?」

 

「まあね」

 

 忍は思う、『すずかの想いは難しそうだ』と。

 

 だが、逆説的にはすずか〝も〟受け容れられるとも取れる。

 

「まあ、本当の聖闘士ならそれこそ、死に直結する様な修業をして資格と聖衣を手に入れるんだけど、僕の組織する聖域でそこまでは必要無い。共に闘う仲間に聖衣を与えるから。聖衣も本物じゃなく、精巧に造ったレプリカだから。魔法を掛けて、身体能力を上げる事が出来たり、必殺技を使えたりする初心者専用みたいな感じの聖衣だよ」

 

 飽く迄も、魔法で必殺技を再現しただけの代物で、細工──魔力というより、咸卦の氣だから既に別物──をしてあるからAMFでも消せない。

 

 魔力結合の阻害? なにそれ、美味しいの? といった感じだ。

 

「という事は、すずかでも聖闘士をやれるの?」

 

「へ? お姉ちゃん?」

 

 忍の言葉に吃驚したのか目を白黒させる。

 

「闘う覚悟が有るのなら。シエスタだって元は何の力も無い一般人だったのに、今では聖闘士の最高峰たる黄金聖闘士だからね」

 

 アテナのというよりは、ユートの聖闘士だが……

 

 因みに、本物の牡羊座はムウの弟子だった貴鬼が受け継いでいる。

 

「だとしたなら、貴方のお眼鏡に叶えば聖闘士に成れると考えても良いのね?」

 

「一応は」

 

「判ったわ。心当たりがあるから捜してみる。聖域を創る場所の事は任せて貰っても構わないわ」

 

「うん、お願いするよ」

 

「ああ、後……貴方は何の聖闘士なの?」

 

 やはり気になったのか、席を立って食堂を出ようとしたがユートに振り返り、訊ねてきた。

 

「黄金聖闘士の双子座(ジェミニ)だよ」

 

「成程……ね。あ、寝室はすずかと一緒だから案内はすずかがなさいな」

 

 そう言って、ノエルと共に出ていく。

 

 すずかは真っ赤になり、潤んだ瞳でユートを見つめていて、何処か期待の眼差しであった。

 

「ハァー、ファリン」

 

「はい?」

 

「風呂に入れるかな?」

 

「直ぐにでも用意は出来ますよ♪」

 

「女の子と添い寝するなら汚れた侭は良くないから、用意をして貰える?」

 

「はーい」

 

 何だか愉しそうに返事をするファリンは、言われた通りに風呂の用意をする為に食堂から出る。

 

「じゃあ、部屋で待っていてくれないかな? 案内はファリンに頼むから」

 

「私も一緒に入る!」

 

「は?」

 

「優斗君の背中、流して上げるね」

 

 確か引っ込み思案な性格だったと思ったが、いやに積極的なすずかに面喰らってしまう。

 

 結局、説得の材料も特に無かったし、今夜は一緒に入る事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ゴシゴシゴシ……

 

 何かを擦る音が響く。

 

 ユートの背中をタオルで擦っているすずかは、顔を真っ赤に染めながら腕を上下に動かしている。

 

 直接、触れてみて判った事だったが、ユートの肉体は細身で筋肉なんて付いていない様にも見えて、実は絞り込まれた筋肉が充分に付いていた。

 

 それでいて柔軟な身体、どれだけ鍛えたらそうなるのか、すずかは全く想像も出来ない。

 

 それに傍に居ると判るのだが、吸血種──【夜の一族】としての嗅覚がユートの血液を〝美味しそう〟だと感じている。

 

 ゴクリ……

 

 我知らず、喉を鳴らしてしまうすずかではあるが、直ぐに我に返ってブルブルと頭を振り衝動を抑えた。

 

 まだ子供のすずかに吸血衝動など無い筈だったが、ユートの血液は余程の味に思えたのだろう。

 

 吸血種の本能を刺激してしまうくらいに。

 

 無理もあるまい、実際にユートの使徒の中には2人の吸血鬼が居て、どちらも血液の味に病み付きだ。

 

 セブンセンシズの小宇宙を含有する血液は、吸血種にとって豊潤で深い味わいの極上ワインにも等しいらしく、下手に噛ませてしまうと吸い尽くす勢いで飲みかねない為、手首を切って其処から溢れた血を飲ませている。

 

 何しろ、小宇宙そのものが正しく【生命の雫】とも云うべきエネルギー。

 

 ちょっと魔力が含有されただけの血液など、これに比べれば泥水にも等しい。

 

 因みに、使徒化を望んでいるハーフヴァンパイアが居るが、術で女性化は可能なものの実際は男であるのがネックで、現在は保留となっていた。

 

 一方のユートも、すずかの未来──15歳と19歳──の姿を識るが故にか、白い肌や少女特有の甘い匂いに、分身が自己主張をしてしまっている。

 

 数えで9歳だとはいえ、流石は【夜の一族】というべきか、異性を誘惑する為この一族は純血になる程、美しく生まれると聞く。

 

 宗家筋──月村、綺堂、氷村──から遠縁になるにつれ、その傾向も薄くなるらしく、月村を名乗っていたとはいえ安次郎は心根と同じくらい醜くかったが。

 

 19歳のすずかを識るからこその反応とはいえど、ユートはそれをぶつけたい訳でもない。

 

 流石にリアル9歳に手を出す程、外道ではないからずっと我慢の子である。

 

 洗い終わってお湯を掛けたすずか、当然だが前の方は自分で洗った。

 

 すずかは湯船に浸かりながらユートに話し掛ける。

 

「ねえ、優斗君……」

 

「なに?」

 

「私も本当に聖闘士をやれるのかな?」

 

「さっきも言った通りで、闘う覚悟があるなら試験をした上で、聖衣を与えるのは吝かじゃないよ」

 

「試験……それに合格したらって事?」

 

「そう」

 

 子供を闘わせる云々に関しても、ユートにとってはどうでも良い……というか自由意思に任せていた。

 

 当然ながら保護者からの同意は必須だし、闘う身となれば護られるだけの存在としては扱わない。

 

 実際、麻帆良でヘルマンが襲撃してきた際、自らが裏に関わった者は後回しにして、本来なら関わっていない人物のみを、優先的に助け出している。

 

 無論、助けないという訳ではないのだが……

 

「私、頑張るよ!」

 

「……平和に暮らせるんだから、わざわざ死と隣り合わせの闘いを選ばなくても良いだろうに」

 

 取り敢えずやる気満々なすずかに、苦笑いをしながら嘗ての生徒達を思い出していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートが艦船内の自室に持つキングサイズのベッドには流石に及ぶべくもないものの、それなりの広さを持つベッドは子供2人が寝るには充分で、ある程度なら離れて眠るスペースとて有るというのに、すずかはピッタリとユートに寄り添う様、横になっている。

 

 というか、文字通り抱き枕となっていた。

 

「えへへ、今夜は優斗君と一緒だよ♪」

 

 スリスリと自分の匂いを擦り付けるかの如く、顔をユートの胸板に擦る。

 

 軈て、眠りの淵に落ちてゆくすずかは、ユートが出てくる愉しい夢を視た。

 

 翌日……ユートの今日の予定を訊いた処、朝から昼に掛けてギリシアとの土地売買に関する事を、月村とバニングスに依託。

 

 その日の内に聖域の外観だけでも体裁を整える。

 

 夕方からは残り十二個のジュエルシードを探索。

 

 兎にも角にも、聖域という警護組織の創設を早目に行いたいのだという。

 

 また、今後の予定として一段落したら聖祥大付属小学校に編入する事になる。

 

 実年齢は兎も角、一応は見た目が9歳かそこらな訳だから、小学校には通わなければならないらしい。

 

 これにはすずかも喜ぶ。

 

「それと忍さん」

 

「何かしら?」

 

 ユートはトランクを開いて忍に見せた。

 

「この携帯電話は?」

 

「レスキュー用のパワードスーツを装着する為の携帯ツール。これを日本政府に売れないかな?」

 

 某・特別救急捜査隊などを設立も可能なツールで、マインド・トリガーとキー操作により、粒子状になったパワードスーツを復元、装着が出来る。

 

「交渉はしてみるわ」

 

 何だかキラキラと子供の様に目を輝かせていたが、大丈夫だろうかとユートは少し不安になった。

 

 

 

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 これを移転した時点で、無印篇は全25話が完成していたり……



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