魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 うん、空白期も進めないと意味が通じない噺が出てくるな……


第5話:会合 秘書官はブラックな仕事ではありません

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「直接会うのは久しいな」

 

「そうだね」

 

 通信で済ませる話しは通信で済ませたからか、直に会う機会は余り無かった為に変な挨拶。

 

 通信さえすれば互いに顔を見ながら話せるので起きる弊害、技術の向上も矢張り善し悪しというべきなのであろう。

 

「お久し振りです、ゲイズ少将」

 

「ああ、そうだなゲイズ秘書官」

 

 何だろう? アニメでも似たシチュエーションを観た気がするのだが、アレとは違って滅茶苦茶シュールな光景に見えてしまった。

 

 まだ愛嬌を魅せながらやるクロノ・ハラオウン提督とフェイト・T・ハラオウン執務官の挨拶は良かったが、この父娘がやると本当に真面目腐った遣り取りになっているから。

 

 別におかしな事をしている訳では無いのだから諫める理由も有りはしないが、矢張り幾ら何でも堅過ぎるから空気が重たくなってしまう。

 

「別組織の幹部同士でおかしな事じゃないけど、もう少し柔らかめでも良くないか?」

 

「何を言うか、公私のケジメは確りと付けねばなるまいよ」

 

「理解はするけど……少将の場合は家でもそんなに変わらないんじゃないかな?」

 

「何を言うか。儂は普通に名前で呼んでおるし、ゲイズ秘書官とて家では普通に父と呼ぶぞ」

 

「そうですよ」

 

 レジアスの言葉にオーリスが頷く。

 

 今でも充分なくらいに若いが、筆頭秘書官に成る前から時空管理局地上本部でレジアスの秘書官をしていた若きオーリス、原典に於けるストーリーが始まる頃にはそれなりの厚化粧をしていた様であるが、今のオーリスは薄い軽めの化粧すらもしていないにも拘わらず見目麗しい。

 

 だというのに、余りにも堅いキャリアウーマンといった(てい)だからか潜在的にはモテるのだけど、表立ってオーリスがモテる様には見えなかった。

 

 しかも父親であるレジアス・ゲイズ少将の下で秘書官、表立って告白などしようものなら速攻で彼にバレてしまうのである。

 

 オーリス以上に厳格なレジアスにバレてしまう……告白者はどんなドMなのかという話だ。

 

 尚、オーリスが化粧を余りしていないのはする必要性が無いからである、

 

 ハルケギニア時代からユートが造る化粧水は、シエスタやモンモランシーといった原典に於いて多少なりニキビが有った彼女らを、ラノベ版からアニメ版的な綺麗な顔にしてしまうくらいに性能が良くて、母親も義母達も挙って欲しがるくらいの代物だったのが錬金術士になってからは性能をより高める事に成功していた。

 

 そんな特別製な化粧水を使っていると肌が衰え難くなり、端から視れば軽く化粧をしているかの如く綺麗に映るから態々、肌にダメージを与えながら綺麗に見せるだけの高級(笑)化粧品はユートの周りの女性に不要品でしかないのだ。

 

 当然ながら若いとはいえ女の子な幼馴染みという枠組みたる高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングス、八神はやてといった原典組は疎か、ティータ――パルティータ・セルシウスや転生者な相生璃亜まで綺麗でいたいのは誰しも同じく、ユートに強請ってそれを手中に収めている。

 

 特にイタリアのセルシウス家に転生をしているパルティータは、商品価値が余りにも高い化粧水を是非とも実家で商いたいと目を輝かせていた。

 

 ペガサスのテンマの母親だったり、パンドラの侍女だったり、更には杳馬の妻だったり、アテナの側近だったりした時には決して見られない行動であったと云う。

 

 オーリスの肌は何を付けずとも白く、唇だって紅を引かなくても輝く程にぷっくり艶々だ。

 

 その所為かオーリスを識らない外部の人間からは割かしナンパされている。

 

「それじゃ、仕事の話をしよう」

 

 四方山話はそれまでとして話を始めた。

 

「それで、其方の警備部門とやらからどの程度の人員を出せる?」

 

「欲しいだけとは言いたいが、当然ながら給金を支払わないといけない関係から人数が出ればデルだけギャランティも必要となる。其方の予算次第で人数が決まると思って欲しいね」

 

「つまり予算が無制限なら無制限に出せると? 仮に一億人を出して欲しいと言ってもか?」

 

「莫大な予算が必須になるけどな。『アシュリアーナ真皇国』の人間は基本的に『聖域』と呼ばれる組織に入り、領国を護る仕事に従事する事を誉れとしているから人員は多い。百は存在している各領国にだいたい五〇億の人間が住んでいるが、その内の三割が『聖域』に所属をしてるからね」

 

「五〇億の三割だとっ!? 実に一五億もの人間が所属しているというのか!?」

 

 飽く迄も概算に過ぎないだろう、然し領国の数からしても百五十億人とかいう訳の判らない人数が所属する大組織、時空管理局なんて目ではないくらいに大きかった。

 

 地球みたいに一つの世界に幾つもの国というのでは不可能だが、アシュリアーナ真皇国では領国も含めて一つの皇国だから一つの組織に纏まる。

 

 領国の数が時空管理局の管理世界より多いのも数百年間で先んじて無人世界を開拓した為だし、地球みたいに七〇億人にまで到達してしまったら一つの世界では養い切れなくなる。

 

 故に世界を増やす。

 

 アシュリアーナ真王国だった頃は五〇万人にも達していない小規模流浪の民に過ぎなかったが、無人世界の開拓や衛星型母艦の設置などで養ってきた彼らは数百年で可成りの人数に増えていた。

 

「それで? 欲しいのはどれだけ?」

 

「借りれるなら幾らでもと言いたい処なのだがな、取り敢えず首都クラナガンの守りを任せたいからそうだな……千人程を借り受けたい」

 

「了解した。守りが得意なのを中心に選出をして地上本部に送ろう」

 

 あっさりと決定をしたユート、真皇という謂わば国の頂点なだけに独裁者ではないにしても強い決定権が在った。

 

 とはいえ、トップではないレジアスでは千人ですら頑張った方なのであろう、ミッドチルダの広さを鑑みれば千人なんて少ない筈なのだから。

 

「簡単に済んだな」

 

「そりゃ、既に草案自体は出来ていた案件なんだから。後は此方と其方で合意を得れば終わりだ」

 

「それもそうか」

 

 時間はそこまで掛からず契約書にサインをして終わりだった。

 

「取り敢えず余った時間は茶でも飲むか」

 

「そうだね、茶菓子でも出そう」

 

 ユートがストレージ内から和菓子を出して皿へと盛り付けると、オーリスも勝手知ったるレジアスの執務室だからかお茶を淹れる。

 

 堅い男の人間にありがちな甘味がちょっと苦手な処があるレジアスだが、和菓子の甘味に関しては割と食べられるらしく少ないながら口にした。

 

「そういえばレリックを知っているか?」

 

「ガジェットドローンが集めて回っているっていうロストロギアだろう? それが?」

 

「うむ、一応だが我が方でも見付け出されているレリックを研究はしているのだがな、その用途などがいまいち見えてこんというのが研究者共からの報告なのだ」

 

 この時点ではジェイル・スカリエッティが集めているという情報は無く、誰かしらが造った機械――仮称ガジェットドローンがロストロギアであると認定された『レリック』を集めているなんて認識しかされていない。

 

 機械でしかないガジェットドローンに先立ってレリックを管理局が手にする場合もあったから、地上本部に於いても手に入れたレリックを研究する事は出来たが、エネルギーを秘めた結晶体という事以外では判明している事は無かった。

 

 エネルギーを秘めているとはいってもそれとてジュエルシード程では無く、アレみたいに簡易的な願望器の機能が付いている訳でも無い。

 

 半端が過ぎて用途不明というのがレリックに対する研究者達の解答である。

 

「レリックの正式名称は『聖王核』だ」

 

「聖王核……だと?」

 

「嘗て聖王家では『ゆりかご』に生まれた子供に聖王核を埋め込んだ。効果は単純な強化が成されるって事と、当時でも既にロストロギア扱いされていた『聖王のゆりかご』の玉座に適合をし易くする為だね」

 

「『聖王のゆりかご』!?」

 

「聖王家の人間は例外くらいは有ったにしても、基本的には聖王核を肉体に融合させていたんだ。聖王連合の中枢たるゼーゲブレヒト家の生まれなオリヴィエ・ゼーゲブレヒト――『最後のゆりかごの聖王』の場合は母親の聖王核と適合してしまったらしくてね、母親の聖王核を受け継ぐ形で産まれてきてしまった様だ。滅多にない事故なんだろうけどな」

 

「どういう意味だ?」

 

「オリヴィエの誕生に際して母親が死亡した時、彼女の聖王核はオリヴィエの体内に吸収された。『母子の命が失われる処を母の愛が子を救った』とされる一方、『母の命と魂を奪い取って産まれた鬼子』とも蔑まれたらしい」

 

「ぬぅ……」

 

 余りにも両極端、前者は近しい者達が言っているけど後者は心無い者共の言葉。

 

「お前が過去に跳ばされた事は聞いておったが、古代ベルカの聖王や覇王との接触や真王としての即位、全く以て俄かには信じ難い話ではあるのだが……な」

 

 勿論だが今も尚、レジアスがユートの証言を信じていない訳では無いのだが……

 

 抑々、事実としてオーリスがアシュリアーナ真皇国の首都というか中枢というか、一大拠点とされている星帝ユニクロンに行ってユートが真皇であるというのをまざまざと見せ付けられていた。

 

 衛星型超弩級万能母艦のオリジナルで一〇倍にも及ぶ巨大なる機械仕掛けの惑星、神にも等しい惑星喰らいのトランスフォーマーである。

 

 事実、【トランスフォーマーギャラクシーフォース】に於いて宇宙の創造主としてセイバートロン星がトランスフォームしプライマスと成った。

 

 光と秩序の神プライマスと闇と混沌の神ユニクロン、ユートが手にしたユニクロンはプライマスが相手だったのか他のトランスフォーマーだったのかは窺い知れないが、ユニクロンとしての魂が喪われた謂わば遺体のみが遺された状態、それが【スパロボα】世界の木星に存在した『Oath Over Omega』の残滓たるザ・パワーに導かれたのか、裏木星とでも云うべき異相が違う空間に漂っていたのである。

 

 そんなとんでもない代物を見せられたら最早、戯れ言だと捨て置く事など出来はしない。

 

 故にこそレジアスはユートのタメ口を許しているのだし、何よりも対等な立場での取り引き自体が彼からしたら僥倖なのだ。

 

 ライオットギアのレジアスが持つ権限での買い付け、そして【OGATA】の警備部門から人員を借りる事が叶うから。

 

 ユートはレジアス達、地上本部が保有をしている聖王核――レリックを一つ譲渡される。

 

 研究者は少しゴネたが、まだ知らない情報――聖王核を融合すると能力が大幅に上がるという事を教えると、サイッコーにハイってやつだ的な感じで『ヒャッハー!』とか叫びながら急ぎ研究室に戻って行った。

 

「レジアス、人体実験は犯罪者でヤる様にキツく言っておいてくれ」

 

「ヤるなとは言わんのだな」

 

「魔法も科学も犠牲は付き物だよ。なら犠牲には最小で犯罪者を使うべきだ」

 

「了解した。呉々も人攫いなどさせぬよ」

 

 流石に身内に犯罪者が出たとか聞こえが悪過ぎてしまいフォローが出来ない。

 

 まぁ、現在進行形で身内である時空管理局には最高評議会という犯罪者連中が居て、広域次元犯罪者のジェイル・スカリエッティを使って犯罪を犯している真っ最中なのだけど。

 

 連中のキャッチフレーズは『我らがやらねば誰がやる!』だが、ぶっちゃけ『我らが犯らねば誰が犯る!』でしかない。

 

 いつか二番が殺る前に片付けたいと思っているくらい潰す気満々だった。

 

 ユートも充分にマッドだし、【StrikerS】時点で五四歳なレジアスはオーリスが曰わく管理局に勤めて四〇年というから、少なくとも原典開始でのクロノくらいの年齢で入局した歴戦の猛者。

 

 例令、戦闘能力に欠けようとも文で駆け上がっただけはあって清濁併せ呑めるが、原典では流石に手段を選ばなさ過ぎたと云えよう。

 

「昼からは確か聖王教会に行くのだったな」

 

「ああ。普通なら向こうも覇王の末裔やら雷帝の末裔やらに何かしたりはしないんだろうけどな、如何せん覇王イングヴァルドが暴れてくれたから聖王教会としても色々と……な」

 

「放置は出来んという訳か」

 

「だから引き取り手となった僕が説明に向かう。まぁ、敵対するってんなら潰すだけだがな」

 

「やれるだろうから洒落にならんな」

 

 呆れた表情のレジアス、オーリスもやれやれといったリアクションをしていた。

 

「取り敢えず、私は此方に残って仕事をしなければなりませんが……ユートさん、秘書官はどうなされるのですか?」

 

「オーリスの代わり? パンドラが聖王教会に先んじて向かっているから問題は無いよ」

 

「ああ、パンドラさんですか」

 

 どうやら納得したらしい。

 

「何者だ?」

 

「パンドラさんはユートさんの秘書官としては、謂わば筆頭秘書官とも云えます」

 

「筆頭?」

 

「秘書官は私も含めて交代要員として数人居るのですが、パンドラさんは最古参で最も優秀な方ですから数が増えた秘書官の中で筆頭となります。因みに私は一番の新参者ですから末端と言っても過言ではありません」

 

 それはそうだろう、それまでの新参秘書官といえばパルティータ・セルシウスだったのだから。

 

「因みに言うと、パンドラは職場内での通称であって本名じゃない」

 

「と言うと?」

 

「本名は月嶋夜姫、彼女は僕の……と言うよりも冥王ハーデスが不在の際の謂わば冥闘士の纏め役が本来の使命だね」

 

 歴代のパンドラと同じく長い艶やかな黒髪を持つ美少女、月嶋真宵という弟が居てパンドラとなる前は普通の才有る女子高生。

 

「ほう?」

 

 冥王ハーデスとか冥闘士の意味は判りかねるにしても、どうやら可成りの上役となるのはレジアスにも理解が出来た。

 

 嘗てはートが暮らしていた再誕世界、彼処には【聖闘士星矢】の世界が交ざるが故にパンドラの資質持ちも生まれ易い。

 

 彼の最終聖戦から二百数十年が経ってしまい、新たに聖域の教皇も選び出して新生アテナも盤石と成りつつあったある日、月嶋夜姫という少女の切なる願いを願望器たる型月の聖杯を二つも宿すユートの元に届いた。

 

『弟を……真宵を……誰か助けて!』

 

 行ってみて何に驚いたかって、月嶋夜姫が明らかにパンドラとしての資質を持っていたのはまだ兎も角、弟である月嶋真宵はハーデスの器として瞬の後継とも云える存在だったのだ。

 

 勿論、ハーデスはもう居ない。

 

 ユートも冥王の名を継げるだけの力は有るが、ハーデスみたいに仮の器に宿る気も無かった。

 

 だから月嶋真宵を救う代わりにと月嶋夜姫には自分のモノに成って、冥王に仕えるパンドラとしての役割を担う様に言ったのである。

 

 唸る程に資産は有れど弟は救えない月嶋夜姫に拒絶する事は出来ず、エリシオンにてパンドラとして改めてユートに傅くのだった。

 

 それ以外でも何人か彼女の通う学園で冥闘士を見繕ったが、これはユートが学園の理事長だったから出来た裏技であろう。

 

「じゃあ、オーリスの帰りは一週間後だったな。此方は気にしなくて良いから」

 

「有り難う御座います。パンドラさんにも宜しくお伝え下さい」

 

「ああ」

 

 綺麗な敬礼は管理局地上本部勤めだったが故であろう、そんなオーリスに対してアインハルトもこれまた丁寧に御辞儀をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 再びファリンの運転する車に乗って北部であるベルカ自治区の聖王教会へと向かう一行。

 

「厳しい人でした。ですが、善き人なのだとも感じられました……」

 

「オーリスの父親だからな」

 

「納得です」

 

 自他共に厳しいオーリスを見知っているからかあっさりと納得する。

 

「それじゃ、安全最速で向かいますよ~」

 

 ファリンもニコニコしながら運転に集中をしており、昔のドジ属性は余り見なくなったのは喜ぶべきなのだろう。

 

 暫く経って聖王教会が見えてきた。

 

 玄関先とも云える教会の入口に三人の人影が見えていて、それは最近になって正騎士として仕事に励むカリム・グラシア、今はカリムの従騎士の域を出ていないシャッハ・ヌエラ、そしてユートの筆頭秘書官パンドラこと月嶋夜姫である。

 

 正確にはカリムは出会った時点で正騎士と同じ扱いだったが、仕事を任されていた訳では無かったら騎士見習いみたいなものだったらしい。

 

 研修期間というやつだろう。

 

 古代ベルカの魔法を継承する貴重な一人故に、本来はベルカ自治区は疎か教会から出るのさえも許可制であり、双子座の黄金聖衣の事が無ければ決して地球には来れなかった。

 

「御久し振りですね真皇陛下」

 

「久振り、騎士カリム」

 

 柔和な微笑みを浮かべながら御辞儀をしてくるカリムに対し、ユートも小さな笑みを浮かべつつも手を挙げて挨拶を交わす。

 

「シャッハも久し振り」

 

「はい、御久し振りです陛下」

 

 ユートが真皇なのは理解しているカリム達だからこそ『陛下』呼び、覇王家や雷帝家など現在も血脈を残す古代ベルカの王族とは違いユートは謂わば現役の真皇、聖王教会も頂くべき聖王が現存しないからには真皇に強くは出られない。

 

 その理由の一つが六〇〇年前に途絶えて久しい真正古代ベルカの流れを汲む魔法を保存しているという点、二つ目には『闇の書』を『夜天の魔導書』へと復活させた魔導の手腕があった。

 

 三つ目はベルカ式に割と当たり前に存在しているカートリッジシステムの安全化、時空管理局でも一応はカートリッジシステムの技術を保有していたけれど、安全面に関しては未だ未熟な技術であったのにユートは安全性を高めたカートリッジシステムを構築している。

 

 原典のなのはが『CVKー792ーA』をレイジングハートに、フェイトが『CVK-792ーR』をバルディッシュに本機の提案で搭載していたが、破損の恐れや術師への大きな負担もあってマリエル・アテンザは搭載を渋っていた。

 

 勿論、無理矢理な魔力ブーストをするのだから負担そのものは避けられないにしても、それを極力軽くする為のシステム構築は近代ベルカ式のみならずミッド式にも大きな影響を与えている。

 

「真皇様、お待ちしておりました」

 

 最後に無表情ながら頬を赤らめて黒いロングなスカートを両手で摘まみ、膝を折り片足を後ろに引きつつ頭を低く御辞儀するカーテシーで挨拶をしてきたのが筆頭秘書官のパンドラだった。

 

 パンドラとはいえ仕えるのは冥王ハーデスではない、それを理解しているからこそ彼女も普通に『真皇様』と呼ぶ訳だ。

 

 尚、【閃姫】であるが故に老いる事も無く生きている夜姫の弟の月嶋真宵は、ユートの再誕世界で寿命の限りハーデスとして君臨していた。

 

 小さな冥界のプチエリシオンでハーデスと成っており、自らが選んだ妻をパンドラとして人より少しだけ長い刻を生きて暮らしたのである。

 

「仕事は?」

 

 ユートが訊ねると……

 

「だいたいは完了しております」

 

 瞑目しながら答えた。

 

「だいたいは……ね」

 

「はい、だいたいはです」

 

 つまりユートが居ない事には終わらない仕事はどうしても残ってしまい、パンドラ――月嶋夜姫はユートを待つしか出来る事が無かった。

 

「要はお偉いさんとの会合か?」

 

「そうなります。真皇たるユート様と覇王家に連なるアインハルトさんとの会合を望まれており、騎士カリムもその中に含まれています」

 

 ユートがチラッと見遣ればカリムがサッと視線を逸らしてくれる。

 

「成程、了解。まぁ、聖王を奉る聖王教会なだけに真皇や覇王が気になるか。僕は現役な訳だし、アインハルトは【まつろわぬイングヴァルド】に憑依されたからな」

 

 しかも通常に於ける【まつろわぬ神】というのは飽く迄も神話から実体化した存在、だから一度滅された彼らが再び顕れたとしても神話に変化があったら、変化をした神話に合わせた存在として改めて顕現する事に。

 

 過去の偉人が【まつろわぬ神】として顕現をしたとしても、その偉人その人が復活をしている訳では決して無いのだ。

 

 だが、今回のアインハルトの一件は過去に死んだクラウス・G・S・イングヴァルド自身の魂がアインハルトに憑依――否、憑神をした状態。

 

 一種の神懸かり。

 

 それ故に、聖王教会としても黙っている訳にはいかなくなったのである。

 

 

.




 パンドラ――月嶋夜姫。

 元々、ハーデスの権能を持つユートに秘書官としてパンドラは登場予定でしたが、本来の設定では時代は沙織がアテナだった頃でパンドラも適当なオリキャラか、若しくは別作品からパンドラとなる誰かをでっち上げる心算でした。

 ……が、二年くらい放置していた間にチャンピオンREDで【聖闘士星矢 冥王異伝 ダークウィング 】が連載されまして、折角だから此方から設定や人物を拝借してしまいました。

 基本設定はダークウィング準拠ですが、整合性を取る為に変更点も幾らかあります。

 実際にあの物語が最終的にどう落ち着くのかは勿論ながら判りませんが、取り敢えず現段階に於けるだいたいの設定を取り込みました。

 なので、二百数十年後のアテナとしてダークウィングの水鏡カトレアが就き、射手座と山羊座以外の黄金聖闘士も一応はダークウィングから。

 双子座は時任惣二郎ですが双子の兄の時任翔一郎はワイバーンではありません、ユートの天猛星ワイバーンの枠って既に埋まっていますからね。

 まぁ、多分ですが直接にはパンドラの夜姫以外には出ませんけど。

 ダークウィングの今後次第では二百数十年後に起きた闘いっぽく書くかもですが……



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