魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 StSの第3話です。





第3話:覇王っ娘 憧憬の中のお兄ちゃん

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 話は既に付いているから絶賛気絶中な幼女を抱え、ユートは変身を解除しつつ歩き出す。

 

 変身の解除にはファイズフォンを外し、ボタン一発のワンタッチである。

 

 仮面や鎧が粒子に還り、フォトンブラッドも消えて元の姿に、アインハルトをお姫様抱っこしていた。

 

 端から視ると幼女誘拐犯みたいで、ユートとしてはちょっと落ち着かない。

 

 一九〇センチでフツメン男が、小柄な幼女を抱いて歩いているのだから下手したら通報案件。

 

 身長くらいはいつも通り偽装しとけば良かったと、今更ながら思っても後の祭りでしかない。

 

 因みに、いつもは一七六くらい、成人男性としては無難な身長である。

 

 ユートはそもそも小学生くらいの年齢と言おうか、謂わば子供先生を兄とやっていた頃、中学生で小柄なタイプの本屋ちゃんと凡そ一センチ高いくらい。

 

 まあ、年齢は五歳差だけど身長的に釣り合っていたとも云える。

 

「待て!」

 

「管理局本局組……か」

 

「その娘を連れて行かせる訳にはいかん!」

 

「寧ろ貴様もだ!」

 

 時空管理局には幾つかの派閥が存在していた。

 

 とはいえ、ユートが勝手に決めた派閥だから連中にそんな気は無かろう。

 

 親最高評議会派。

 

 評議会寄りで何も知らされていない派。

 

 中立派。

 

 三提督派。

 

 こんな感じである。

 

「退け」

 

「我らは時空管理局だ!」

 

「この子に関しては、既に地上本部のレジアス中将に許可を得ている」

 

「我々は本局の者だ!」

 

「本局だろうが何だろうが同じ組織、ならばお前らより上の立場のレジアス中将が認めたからには、問題も無い筈だが?」

 

「黙れ! 地上の決定なぞ本局とは関係無い!」

 

 可成りの暴論。

 

 しかもこの物言いから、駄目な方の管理局員。

 

「くっ、くっくっくっ!」

 

「な、何がおかしい!?」

 

「【まつろわぬイングヴァルト】が居なくなって強気だが、見ていたなら判るだろうに……僕はあいつよりも強いぞ?」

 

「くっ! だが、訳の解らない化物とは違ってお前は今を生きる人間! 管理局に逆らって暮らしていけると思うなよ!」

 

 普通ならばそうだろう、時空管理局は第一世界ミッドチルダを下敷きとして、幾つもの主要世界や管理世界や保護世界などを“管理”する組織。

 

 その中で暮らすならば、当然だが管理局に逆らっては生き難いだろう。

 

 犯罪者とて余程のコネが無ければすぐ捕まる。

 

「ほむほむ」

 

「だから、ほむらです!」

 

「アインハルトを頼む」

 

「判りました」

 

 憮然としながらもユートからアインハルトを受け取ると、お姫様抱っこしながら後ろへと下がった。

 

「王の力を魅せてやるよ」

 

 黒いバックルのベルトが腰に巻き付く。

 

《ZIKU DRIVER!》

 

 相変わらず自己主張の激しいドライバーであるが、ユートが王として立つ際に本来なら使う予定であった物であり、【仮面ライダージオウ】という作品に何故か幾つも存在する物だ。

 

 正確には白いバックルが黒になっている。

 

《SHIN-O》

 

 取り出したのはシンオウ・ライドウォッチ、回してスイッチを押すと電子音声が鳴り響く。

 

 それをバックルの右側のD'9スロットへ装填をし、チックタックチックタックと待機音が響き始め……

 

「変身っ!」

 

 バックル上部に有るライドオンリューザーを押してロックを解除しつつ、叫びながらジクウサーキュラーを反回転させる。

 

《RIDER TIME》

 

 ボーン! というアラームが鳴って変身開始。

 

 ジクウドライバーに組み込まれた理論具現化装置、ジクウマトリックスによりライドウォッチのデータが実体化され、それを鎧として変換されたモノを装着。

 

《KAMEN RIDER SHIN-O!》

 

 変身完了する。

 

 姿形そのものはジオウの色違い、模倣は得意だけど独創性が高いとは云い難いから、狼摩白夜から聞いた仮面ライダージオウの色を変えただけにした。

 

 その名は【仮面ライダーシンオウ】である。

 

 別の自分が天魔王を討ち滅ぼし、その力を奪って成った存在――【天魔真王】に倣い自らを古代ベルカの時代に【真王】と名乗ったが故の名前。

 

 まぁ尤も、【真王】という名前自体は民からいつの間にか云われていた為に、名乗るのに支障が無かったのも大きい。

 

「さっきと違う姿だと?」

 

「お前は何者だ!」

 

 驚愕を禁じ得ない管理局の局員が口々に叫ぶ。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ! とか、以前に名乗ったりもしたんだけどな」

 

 遥か昔、ハルケギニアの時代に行われた最終決戦、ニャル子を何とか封じる事に成功したが、次元の孔に落ちたユートが最初に出た先は“この世界の”地球。

 

 イチと名乗る美少女に拾われたユートは、その後に現れた敵――妖怪や鬼人の芳賀、鬼の血を飲まされてその力を得た木島 卓が抑えられ、天神かんな・うづき姉妹は妖怪に敗れ犯されてしまい、イチもピンチに陥った状況下で力を喪失していたユート。

 

 そんなユートも切っ掛けさえあれば使える力が一つだけ、自分の中に存在している事を自覚していた。

 

 それはニャル子に言われたし、ユーキにも最終決戦の際に指摘された事。

 

 それが故に発現が可能であった力。

 

 這い寄る混沌ナイアルラトホテップの力である。

 

 ユートの権能――【刻の支配者】はニャル子から得たモノだが、これはユートの中に初めから存在していた力であり、ナイアルラトホテップの力だから拒絶をしたい力でもあった。

 

 それをユートはナツ様、水杜神社の祭神がキスを通じて渡してくれた神氣を以て顕現、ナイアルラトホテップの力はユートの腰へと収束され、マゼンダカラーのバックルを持ったベルトへと変換されたのだ。

 

 左腰のカードホルダー兼武器を開き、中から一枚のカードを取り出しバックルを開くとカード装填。

 

『変身っ!』

 

 と叫びながらバックルを閉じた。

 

 既に解る通りで、その姿はマゼンダカラーが基調の通りすがりの仮面ライダー【ディケイド】だった。

 

 何故に? とはユートも思ったものの、ディケイドは識っている仮面ライダーだったから戦うのには何ら支障も無い。

 

 残念ながら他のライダーのライドカードは無くて、使えたのは【スラッシュ】と【イリュージョン】と【ブラスト】と【インビジブル】と【ファイナルアタックライド】くらいだけど、当面の戦闘に必要な戦闘力は充分に有していた。

 

 後に二千年の時空放浪を終え、義妹のユーキに話をしてみたら【這いよれ! ニャル子さん】という作品の最終巻、全ての這い寄る混沌をニャル子が喚び出した際に、シルエットながらも様々な這い寄る混沌が顕れたのだけど、その中にはナイアや仮面ライダーディケイドらしきシルエットも在ったらしい。

 

 つまり、ユートは識らなかったが何故かディケイドは這い寄る混沌にカテゴライズされていた。

 

 少なくともその作品の中に於てはだが……

 

 だからユートが一番使い易い姿と能力として顕現、実際にもその力を揮う事が出来たのだろう。

 

 まぁ、よく判らない姿になるよりはマシである。

 

 そんなユートだったが、今現在は仮面ライダーディケイドでは無く、仮面ライダージオウを模した存在、仮面ライダーシンオウだ。

 

 ならば言うべきは……

 

「祝え!」

 

 であったと云う。

 

 実際に言ったのはユートではなくほむら。

 

「古代ベルカより数多の王の力を受け継ぎ、時空を越え過去から現在を経て未来へと航る王の中の王者……その名も『仮面ライダーシンオウ』! 今こそ降臨の刻です!」

 

「え゛? ほむほむが所謂ウォズの役?」

 

「はい、だからビヨンドライバーを下さいね?」

 

 すると、同じ立場に居たシュテルはゲイツか?

 

 ならツクヨミの立場になるのは誰だろう?

 

 居ない気がする……が、古代ベルカならヴィルフリッド辺りが適任?

 

 熟々と考えるユート。

 

(いずれにせよ、ジオウは兎も角として他の仮面ライダーは確か、全員が通り名をライダー名にしてたな)

 

 【クォーツァー】とやらは違うが、ユートが白夜から聞いた通りなら……

 

 常盤ソウゴ――仮面ライダージオウ。

 

 明光院ゲイツ――仮面ライダーゲイツ。

 

 ツクヨミ――仮面ライダーツクヨミ。

 

 ウォズ――仮面ライダーウォズ。

 

 そうなっていた筈だ。

 

(ま、今は良いか)

 

 ユートはジカンギレードを構える。

 

《JYUU!》

 

「質量兵器か、やはり!」

 

 やはりとか言ってる辺りからして、“やはり”連中は仮面ライダーファイズを質量兵器の類いと考えて、ユートから奪おうとしていたらしい。

 

 GAN! GAN! GAN! GAN! GAN! GAN!

 

「ぐあっ!?」

 

「うわぁぁぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

「ぎゃぁぁっ!」

 

「がはっ!」

 

「あじゃぱぁぁぁっ!」

 

 六連発してやったら六人が吹き飛んだ。

 

「非殺傷設定だ。死にはしないさ」

 

「ひ、非殺傷設定だと?」

 

「つまりこいつは魔導兵器なんだよ、莫迦め!」

 

 元々、ユートは聖魔獣の仮面ライダーに非殺傷設定を入れていた。

 

 殺害という行為を忌避したのでは勿論無く、なのはの世界に来る可能性を考えていたのと、場合によっては便利に使えるからだ。

 

 非殺傷設定にした場合、自動的に魔力をエネルギーとして使えるし、AMFを相手には霊力なり念力なり氣力なり、好きに変える事も可能な造りにしている。

 

 時空管理局みたいな魔力一辺倒では、それが無力化された時には詰むのが原典でも示唆をされているし、他の作品でも力を阻害されるのはよくある事。

 

 代替エネルギーを確保するのは当然の流れだ。

 

 尚、仮面ライダーシンオウは聖魔獣ではない。

 

 白夜の知識から再現したレプリカである。

 

《KEN!》

 

 

 けんモードに変形させ、シンオウライドウォッチをベルトから外し、ジカンギレードの柄へと嵌め込む。

 

《FINISH TIME!》

 

《SHIN-O》

 

 電子音声がジカンギレードから発せられた。

 

《GIRIGIRI SLASH!》

 

 ジカンギレードに魔力のエネルギーが収束、ユートは一気に振り回して残りの管理局員へぶつけてやる。

 

『『『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』』』

 

 哀れ、全管理局員は気絶させられてしまった。

 

「行くよ、ほむほむ」

 

「だからほむほむじゃありませんってば!」

 

 御約束な遣り取りをしながらも、ユートとほむらはその場を去っていく。

 

 最早、止める人間は居なかったのだから。

 

 尚、管理局本局がユートを指名手配しようとしたのだが、とあるミッドチルダ処か主要世界や管理世界の物流や経済を占める財団、【OGATA】が寄付を止めるという打診を受けて、慌てて三提督がユートへと謝罪をしに行き、指名手配を撤回したと云う。

 

 伝説の三提督は彼の財団が時空管理局成立は疎か、ミッドチルダ現政府が成立をするより前から存在し、そもそも時空管理局の運営に必要な費用の可成りを、この財団の寄付から捻出している為、下手な手出しを出来ないと知っていた。

 

 ユートが【OGATA】のトップなのも、当然ながら管理局成立以来から付き合いがあり、三提督は知っていたから慌てたのだ。

 

 若し、【OGATA】からの寄付を止められてしまった場合、時空管理局では局員の給料すら支払えなくなりかねない。

 

 勿論、屋台骨は確りしているのだけど、これだけの巨大な組織が何かを売るでもなく存続させるのには、国家運営にも手を出し税金で賄わねばならず、そして例えば日本という一国ですら消費税をどんどん上げていかないと賄えない国費、幾つもの世界を股に掛ける時空管理局の組織運営は、可成り大変なものとなる。

 

 故に時空管理局の運営に必要な費用の実に四割を賄う【OGATA】が寄付を止めたら、下手すると暴動が起きてしまうレベルでの資金不足に陥るだろう。

 

 【魔法少女リリカルなのは】に関わり始めた頃は、時空管理局など無視をする方向性であったが、過去へ――古代ベルカへ跳ばされたユートは真王として動く事になり、激化する戦争に民を連れてバックレるのを決め、無人世界を開拓して【真皇国】を建国して後、様々な地球寄りの無人世界を開拓していき、覇王国、竜王国、雷帝国、天王国といった他国の流民をも纏めて領国に住まわせる内に、時空管理局の設立に関わる方向性で動いた。

 

 冥王というかガレア国の炎王イクスヴェリアの民、それは既に亡びていたが故に存在すらしない。

 

 まぁ、何処かに子孫が残っていて今も領国に住んでいる可能性はあるが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【OGATA】のミッドチルダ支部。

 

「じゃあ、頼んだよ」

 

〔了解しました。最大手のスポンサー様に手配など、致しませんよ〕

 

 見た目は好好爺然とした老婆だが、年齢に応じての老獪さも身に付けたら女性とモニター越しに話す。

 

「なら、またな。ミゼット・クローベル本局統幕議長殿?」

 

〔ええ、また〕

 

 役職名で言われて苦笑をするミゼット提督、通信をオフにして……『相変わらずな事』と笑っていた。

 

「さてと、アインハルトはまだ起きないか」

 

「ええ、まだですね」

 

 伊達眼鏡を掛けて見滝原中学校の制服を敢えて着ている暁美ほむら、髪型に関しては普通に三つ編みでWのお下げにしている。

 

 先程から気を失っているアインハルトの世話をし、その瞳は何処か優しいものを宿していた。

 

 【黄昏の魔女】と呼ばれていた頃から、クラウス・G・S・イングヴァルトはユートを通じた友人だし、やはり子孫であり記憶持ちで資質も受け継ぐ彼女に、ほむらも思う処があるのかも知れない。

 

 碧銀の髪に左目が青色で右目が紫色の身体的特徴、魔力光の波長や肉体的強さの潜在値、記憶だけでなく性別以外は殆んどを受け継いでいるのだ。

 

 【幽☆遊☆白書】に有る大隔世遺伝が近いだろう、アインハルトが覇王の確かな血筋の証でもある。

 

「【暁天の魔王】と【黄昏の魔女】が侍る【真王】、貴女の御先祖様は今の世になっても戦いに来たわよ。貴女はどうしたいのかしら……アインハルト」

 

 優しげな瞳で見下ろし、頭を撫でながら言う。

 

「優斗さんは何を造っているの?」

 

「ライドウォッチ」

 

「ライドウォッチ、それって誰のを? クラウス?」

 

「ほむほむライドウォッチを……ね」

 

「まさか、HOMUHOMUとか鳴るんですか?」

 

「ちゃんとした名前だよ。基本的には本人の通り名がライドウォッチの名前になるらしいし」

 

「どういう……?」

 

「最終回直前から最終回までにでた仮面ライダーツクヨミ、通り名はツクヨミだったけど本名はアルピナ。なのに仮面ライダーとしての名前はツクヨミらしい」

 

「成程……」

 

 確かに納得である。

 

「まぁ、ミライドウォッチになるんだけどな」

 

「ミライドウォッチ?」

 

「ああ、ビヨンドライバーを欲したのはほむほむなんだからな?」

 

「うっ! そうでしたね。ほむほむじゃないけど」

 

 仮面ライダーウォズが使うのは、ビヨンドライバーというジクウドライバーとは違ったドライバーだ。

 

 元々は未来の仮面ライダーである【シノビ】や【クイズ】や【キカイ】の力を使う為の平行世界に於ける変身ベルト。

 

 彼の【オーマの日】に、オーマジオウを斃したという救世主の【仮面ライダーゲイツリバイブ】、それにより分岐した平行世界から来た白ウォズ。

 

 そもそも彼が持っていたビヨンドライバーだけど、奸計にて黒ウォズが奪取をした訳である。

 

 仮面ライダーギンガの力で強化形態にも至った。

 

「うん? という事は……仮面ライダーホムラになっちゃうんじゃ?」

 

「そうなるな」

 

「ビヨンドライバーも造るのよね?」

 

「勿論だ。だけどライドウォッチを先に造らないと、急速に君の力を吸い上げては元の力が消えてしまう。持った状態で少しずつでもエネルギーとデータ構築、それで何かイケる気がするんだよね」

 

「はぁ……」

 

 取り敢えず、ユートならそこら辺の勘は鋭い訳で、ある意味では『考えるのを止めた』状態になるけど、それはユートを信じていると変換しておく。

 

「【ホムラミライドウォッチ】が完成したなら、常に携帯しエネルギーとデータを蓄積させよう。そう遠くない日に完成する筈だよ」

 

「ん、判ったわ」

 

 そう言いながら立ち上がったほむらは、ユートに近付いて唇を重ねた。

 

 何だかんだと真王国では王妃の一人を演じており、肌も重ねてきた仲であるから普通にヤっている。

 

 ガタッ!

 

「っ!?」

 

 突然の物音に吃驚して、振り返るほむらが見たのは真っ赤になり、ベッドから転げ落ちたアインハルト。

 

「あ、ご……ご免なさい! 目を瞑ってますから続きをどうぞ!」

 

 なんて言いながら両目を手で塞ぐが、指先から青と紫が普通に覗いていた。

 

 興味津々なのか?

 

「幼い癖におませだな? ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト姫殿下?」

 

「ひ、姫殿下って何です? 私はお姫様じゃあ……」

 

「クラウスの資質や記憶を受け継ぐからには、姫殿下でもおかしくないだろう」

 

「っ! どうしてそれを? 貴方は……え? そんな……貴方は……真王?」

 

「当たりだ」

 

「嘘、だって……貴方は、古代ベルカ時代に? 違う……クラウスの記憶にあります。貴方は元々は此方の時代の人だった」

 

「完全ではないのかな? それでも色々と“覚えている”もんなんだな」

 

 苦笑いしながら言う。

 

「今は何歳だ?」

 

「さ、三歳……です」

 

「マジに幼いな。こんな頃からクラウスの記憶の所為で此処まで人格形成されているのか」

 

 三歳の時に前世の記憶に覚醒したユートに云えた事ではないが、望んでそうなったユートとは違うのだ。

 

「自分がどうして此処に居るか判るか?」

 

「いえ。真王が私を誘拐……な訳は無いですね」

 

「当たり前だ」

 

「では、いったい?」

 

「アインハルト、君は記憶に目覚めた事で【まつろわぬ神】となった英雄神……イングヴァルトの依代にされていたんだ」

 

「神の依代? いえ、それよりイングヴァルトって……それはつまり?」

 

「クラウスだよ」

 

「クラウス? そんな!」

 

「クラウスは覇王となって生き続けたが、戦の中で死ぬ可能性を見据えていた。だから古代ベルカでは普通に使われてた、記憶や身体資質を子孫に受け継がせる技術を使い、更に保険として邪神と契約をした上で、自らが【まつろわぬ神】として子孫を依代に降臨する儀式までしていたらしい」

 

 アインハルトは固唾を呑んで耳を傾ける。

 

「そんな風に【まつろわぬイングヴァルト】となり、ミッドチルダで暴れていた君を斃し、保護をしたのが僕らって訳だよ」

 

「そうだったんですね……って、僕ら?」

 

「私です」

 

「【黄昏の魔女】!」

 

「一応は自分でも自覚して名乗りますが、出来たならほむらって呼んで下さい」

 

「あ、はい。それじゃ……ほむらさんと」

 

「ええ」

 

 それで構わないと微笑みを浮かべた。

 

「さて、これからどうするアインハルト?」

 

「……どうするですか?」

 

「家に帰るのか?」

 

「それは、私もまだ独立をするには早いですから……せめて学校の中等部に上がるまでは」

 

(成程、漫画の描写で親と暮らしている様には見えなかったが、中等部から一人暮らしをしていたんだな。だから中等部に上がった年にストリートファイトなんてしてたのか)

 

 一二歳では若しも両親が死んだなら孤児院行きだろうし、そうならなかったのは両親が健在で、単純に一人暮らしをしていたから。

 

 ストリートファイトを夜にやるなら、親と同居中では確かに難しいだろうし、アインハルトの両親に会ったら、やはりイングヴァルトの記憶を覚醒した娘には戸惑いを感じていた。

 

 中等部から一人暮らしをしていたのも、そんな空気を感じていたからなのかも知れない。

 

「両親の許可は取ってる。だから僕らと暮らすか? アインハルト」

 

「……え?」

 

 吃驚した表情、未来では可成り先まで無表情がデフォルトだったとは思えないくらい、感情がハッキリと出ている。

 

「君は強くなりたいんだろ?」

 

「……はい。『覇を以て和を成す王となる』……そんなクラウスの悲願を達成したいですから」

 

「真王の傍に居れば色々と便利だよ?」

 

「……御願いしますユート……兄様」

 

「うん? にい……さま……?」

 

「その……私はクラウスの記憶を持ちます、ですけどクラウスではありません。記憶の中の真王……貴方に憧憬を懐き、若しクラウスでなく私が貴方の傍らに居たらと想像をしていて、心の中ではその……『兄様』……と」

 

「そうか。まぁ、アインハルトがそう呼びたいのなら別に構わないよ」

 

「はい!」

 

 原典ではヴィヴィオに中々見せなかった笑顔、それが眩しいくらいに浮かんでいたのだと云う。

 

 

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