魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】   作:月乃杜

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 ユートがジュエルシードを横取りした形となって、なのははユーノと原典の通り公園で互いに自己紹介をしたがやはり元気がない。

 ファーストミッションに失敗したなのはが家に帰ってみると、母親の高町桃子しか居なかった。

 どうやら父親の高町士郎達は会合に出たらしい。

 まあ、母親だけでも迎えてくれたのだから寂しいとは感じないし、鍵っ子の如く誰も家に居ないなんてよりは遥かにマシだ。

「ただいま、お母さん」

「お帰り、なのは」

 何だろう? 今はそれが少しだけ胸に沁みる。


第7話:組織 プロジェクト・サンクチュアリ

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 そんななのはは置いておいて、自分の動物病院が壊れてショックを受ける愛を立ち直らせるべく、ユートは肩に手を置いて言う。

 

「ああ、この程度ならすぐにでも直せるから」

 

「ほ、本当に!?」

 

「本当。ちょっと離れておいてね」

 

 愛が下がったのを確認すると、砕けた壁などを素材として元の姿をイメージ、パン! と柏手(かしわで)を打つと、エネルギー……小宇宙を輪転させて体内で円環(ウロボロス)を描き、その力を増幅させて、更に放出には螺旋(カドケウス)を迸らせ、ハルケギニア式の魔法と成して放つ。

 

 使うのが魔力ではなく、小宇宙なのがミソだ。

 

「【錬成】!」

 

 破壊された壁や塀などが時計を逆回ししたかの如く元に戻って、そればかりか穴だらけになって砕けていたアスファルトの道路も、綺麗に補修された。

 

 スレイヤーズでも獣神官ゼロスがリナに見せ付けた妙技、破壊された温室に於いて割れたガラスを元の姿に戻したのと似た現象。

 

 そんな余りの光景に呆然となる槙原 愛。

 

「これで良いかな」

 

「あ、うん……その、ありがとう」

 

「いやいや、愛さんに顔を繋げばさざなみ寮の面々に悪印象を持たれないって、そんな俗物的な打算があっただけだよ」

 

「ふふふ、それでもありがとう」

 

 少し照れてしまったし、愛にはツンデレっぽく見られたのかも知れない。

 

 旦那さんの居る身とはいえど、まだ大学を出たばかりの愛は若くて綺麗な為、若奥様な魅力に溢れて輝いていた。

 

 照れたのは愛の魅力故、それを勘違いされてしまったらしい。

 

 まあ、他人のモノに手を出そうとは思わないから、勘違いされた侭でも構わないのだが……

 

「さて、僕は月村邸に戻らせて貰うよ」

 

「車で送りましょうか?」

 

「ん、大丈夫。走って帰れば車より速いから」

 

「そう?」

 

 平然と宣うユートに少し引き攣りながら苦笑した。

 

 ユートは愛と別れると、月村邸へと戻る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 戻ってきたら、何故だかすずかに懐かれた。

 

 抱き枕になると言ったのは少し拙かったろうか? なんて思ったのは、忍が傍でニヤニヤしていたからである。ファリンも、笑顔を浮かべて『すずかちゃん、頑張って下さいね!』などと宣っていたし……

 

「ええと、すずか?」

 

「なに?」

 

「忍さんと話したい事があるから放してくれない?」

 

「っ!? お姉ちゃんの方が良いの?」

 

「何故、そうなるんだ?」

 

 愕然とした表情のすずかの言葉に、ユートは思わずツッコんでしまう。

 

「大丈夫だよ、私はよく似てるって言われてるもの、きっとお姉ちゃんみたいになれると思うから! 寧ろ若い分、お得……って、痛い痛いよお姉ちゃん!」

 

 口を滑らせたすずかに、良い笑顔を浮かべて蟀谷にグリグリと拳を入れる。

 

「年寄りで悪かったわね、すずか!」

 

「ごめ、ごめんなさいお姉ちゃん! あぶぶぶっ!」

 

 暫し姉妹のスキンシップを堪能したが、いい加減で忍の方も気が済んだのか、ウメボシを止めた。

 

「まったく……」

 

「はうう、痛かったよ」

 

 十歳差というのを案外、忍も気にしているらしい。

 

「まあ、良いわ。それじゃ食堂に向かいましょう」

 

「普通に食堂がある個人宅って……」

 

 元の世界の委員長、雪広あやかの家もそうだった。

 

 やはり経済界に名を列ねるだけあり、これが当たり前の世界という訳だ。

 

「待って!」

 

「どうした? 抱き枕にはちゃんとなるから待っててくれないか?」

 

「ち、違うから! いや、なって欲しいんだけど……そうじゃなくて、私も参加させて欲しいの!」

 

 抱き枕にはなって欲しいらしく、赤くなりながらもしどろもどろに言いつつ、自身の思いを伝えてくる。

 

「すずかを? これから先の話は裏に属する。関わらない方が無難だよ」

 

「役には立てないかもだけれど、それでも……っ!」

 

 強い瞳、何処か強迫観念に衝き動かされている感はあるが、少なくとも嘗ての兄よりはマシであろう。

 

「忍さん?」

 

「ふぅ、すずかには裏に関わって欲しくなかったのだけど、すずかが月村である以上はどの道、早いか遅いかの違いしかないか」

 

「あ……」

 

 忍が『やれやれ』といった感じで言うと、すずかの表情がパーっと輝く。

 

「但し、中途半端に投げ出したら許さないわよ?」

 

「うん!」

 

 ユートとしては普通に暮らせるならそうした方が、すずかの一生の為には良いと思う。

 

然しながら、ユート自身のスタンスは自らが考えて、自らが決定するというものであるが故に、すずかさえそう決めて忍が良いと言うのなら構わない。

 

 如何に危険であっても、巻き込まれたのではなくて本人が飛び込むなら、その決定に異を唱えたりする気は無かった。

 

 そう、嘗て近衛木乃香に魔法を教えて選択をさせた様に、選択肢だけは提示するのがユートのやり方だ。

 

 忍はノエルにお茶を3人分用意させ、食堂の方へと向かった。

 

 小さな丸テーブルに席を用意して座り、ユートが話を始める。

 

「時空管理局について先程は話したけど、彼らに僕は余り良いイメージを持ってはいない」

 

「まあ、そんな感じだったわね。私達に悪印象でも持たせたいのかって話し方だったもの」

 

「勿論、末端や一部の官僚は本気で次元世界の平和を目指して頑張っているよ。だけど、組織は大きくなればなる程、上も下も徐々に腐れていく」

 

「……そうね」

 

 忍の言葉には実感が篭っており、まるで経験者の様であったという。

 

 実際、裏に関われば人間や組織の醜い部分だって見えてくるし、綺麗事で済まないのが政経界であると、実感している。

 

 況してや、叔父や氷村といった【夜の一族】の醜聞そのものを鑑みれば、組織の腐敗も理解出来た。

 

「特に時空管理局のトップは酷い有り様だ」

 

 トップ──最高評議会の評議長、副評議長、書記の三名から構成された存在。

 

 時空管理局の黎明期からずっと組織を支えてきたと標榜し、自分達を絶対正義と嘯く連中である。

 

「さっきの話し合いの席でも言っていたけど、そんなに酷いの?」

 

「時空管理局最高評議会、それがトップの通称でね。管理局で禁止している事を自ら行うくらいだ。正義の名の下に……ね」

 

「禁止って?」

 

「人造魔導師や戦闘機人の〝製作〟だよ」

 

「? 人造魔導師に戦闘機人……ね。確かに余り良い印象にならないわね」

 

「人造魔導師はヒト・クローンを造り上げ、人工的に魔導師を製作する技術で、戦闘機人は機械で戦闘力を上げる技術かな? 謂わばサイボーグってヤツだよ。中には……」

 

 チラリとノエル達を見て口を開く。

 

「アンドロイドやガイノイドも視野に入る」

 

 視線の意味に気が付き、表情を固くする一同。

 

 どちらの試みにしても、旧暦の時代より研究されてきたが、いずれにせよ失敗している技術だ。

 

「最高評議会はとある世界の技術を一部とはいえど、その手中に収めて人造生命を造り出した。コードネーム【無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)】……個体名・ジェイル・スカリエッティ。広域次元犯罪者として手配すると同時に、彼に研究所と資金を与えて生命操作技術を研究させ、それを時空管理局の戦力としようとしているんだ」

 

「なんて事を……」

 

「まあ、それ自体は別に構わない」

 

「「構わないの?」」

 

 ユートの物言いに驚愕してしまう忍とすずか。

 

「【夜の一族】だって生命操作技術じゃないにせよ、造ってるだろ? エーアリヒカイトもそうだろうし、イレインも……」

 

「なっ! どうして?」

 

「言ったよね? 僕はその手の情報を持ってるって。だから時空管理局についても知っているんだ」

 

「……そうだったわね」

 

「続けるよ。僕は造り出したモノに責任を持つなら、別に問題は無いと思うよ。でも、連中はそれを禁止していながら、やっている。要するに他人がやっていれば犯罪者として取り締まる癖に、自分達は平然と隠れてやってるのさ。何しろ、司法組織が犯罪に興じているんだ。きっと証拠なんかも見付からないし、下手に踏み込めば……」

 

 右手の親指で首を掻き切る動作をする。

 

「消される訳ね……」

 

 別に倫理問題だとかの、口憚ったい事を言う心算などありはしない。

 

 戦闘機人だろうと介護ロボットだろうとセクサ・ドールだろうと、造りたければ造れば良い。

 

 ユートだって戦力として保持している。

 

 犯罪をして他人に迷惑を掛けなければ、倫理問題や何やは有識者が適当にしてくれるだろう。

 

 そこら辺は、ユートの知った事ではないのだから。

 

 管理局の問題は、自身が禁じておきながら司法組織を隠れ蓑に、それを行っているという一点だ。

 

 戦力不足? 先ずは足下から固めろと言いたい。

 

 才能頼りの魔法技術にのみ頼り切り、他の技術──特に科学技術を用いながら質量兵器を禁じる傲慢。

 

 そのくせ、十数年後には平然と質量兵器紛いの代物を使うのだから呆れる。

 

 ラプターなんて、どう考えても魔法技術というより質量兵器レベルだし……

 

 ユートにとってはそれもどうでも良い事柄、だけど時空管理局のやる事を肯定も出来ない。

 

 今は未だしも、百年間のスパンで考えればいずれ、地球が時空管理局に支配される事も有り得るというのが問題なのだ。

 

 異次元──平行世界の話だから勝手にすれば良いという訳にもいかないのは、この地球には平行世界を渡るゲートが存在するから。

 

 管理局が手にしたなら、平行世界にまで触手を伸ばして来るだろう。

 

 因みに、ゲートの破壊は不可能。何故ならゲートの破壊は即ち、自らが産み出した神獣達を殺すのと同義だからだ。

 

 その為、この世界の時空管理局が地球で好き勝手を出来ない様に、処置をせねばならない。

 

「ジュエルシードを取りに行く前にも言ったけれど、忍さん達に頼みたい事というのは、僕のこの世界での経済基盤を支える事」

 

「経済基盤を……ねぇ」

 

「彼方側で稼いだお金だと問題があるからね」

 

「そうね」

 

 同じ地球だから紙幣貨幣は同じだが、平行世界でのそれは本物であれ、此方側では偽物と同じ。

 

 貨幣は兎も角、紙幣だと当然ながら同じナンバーがあるのだから。

 

 普通に使用は可能でも、万が一にも同じナンバーが見付かれば、精巧な偽物として大騒ぎになる。

 

「後で使った分、金塊なんかを用意するから月村家とバニングス家にギリシアのこの地を買って貰いたい」

 

 ユートが地図を広げて指した位置は、何も存在しない廃墟と言っても過言ではない場所だった。

 

「さっきも言ってたけど、此処、何も無いわよ?」

 

「土地さえ手に入ったら、建物に関しては自分でどうにか出来るよ」

 

「いったい何をしたいの? こんなギリシア政府すら持て余す土地、手に入れても意味が無いでしょう?」

 

「僕にはあるよ。僕の生まれた地球では、この土地に結界が張られて一般人が入れない様になってるんだ。其処にはギリシア神話体系の女神──アテナを奉じている聖域(サンクチュアリ)という組織がある」

 

「世界が違えばって訳?」

 

 ユートは首肯する。

 

 この地は交通の便も悪いのも手伝って、荒れ地でもある為に活用は出来ない、売り地にもならない、治世も行き届かないと三重苦な土地で、望めばお金次第で買えるとデビット・バニングスは言っていた。

 

 問題はお金を即金で払えないという点。

 

「で、目的は?」

 

 

「此処に僕の世界と同様、聖域を創設して地球を裏側から守護する組織にする。アテナの聖闘士として」

 

 組織に個人で挑むのではなく、同じ組織という体裁を整えて、時空管理局の好きにさせないのが目的だ。

 

「判ったわ。時間も無いのでしょう? なら、詳細を直ぐにでも詰めましょう」

 

 こうして、プロジェクト・サンクチュアリが静かに発動するのであった。

 

 

 

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 パソコンとかじゃないから文字数が足りなかった。

 その分を前書きに入れてしまいました。

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